弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各訴えのうち近畿運輸局長がした別紙1記載の各一般
旅客自動車運送事業許可並びに各一般乗用旅客自動車運送事
業の運賃及び料金の認可の取消しを求める部分をいずれも却
下する。
2原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1近畿運輸局長がした別紙1記載の各一般旅客自動車運送事業許可並びに各一
般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可をいずれも取り消す。
2被告は,原告らに対し,各金50万円及びこれに対する平成17年11月1
1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,一般乗用旅客自動車運送事業者の従業員としてタクシー運転業務に
従事する原告らが,近畿運輸局長がした別紙1「第1許可関係」記載の各一
般旅客自動車運送事業許可(以下「本件各事業許可」という。)及び別紙1
「第2認可関係」記載の各一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認
可(以下「本件各運賃認可」といい,本件各事業許可と併せて「本件各処分」
という。)につき,本件各事業許可は道路運送法(平成18年法律第19号に
よる改正前のもの,以下「法」という。)6条1号の許可基準に適合せず,本
件各運賃認可は法9条の3第2項3号の認可基準に適合せず,いずれも違法で
あると主張して,本件各処分の取消しを求めるとともに,本件各処分を含む平
成14年2月以降の別紙2記載の各処分により過当競争が生じ賃金減少等の被
害を被っているとして,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対しその賠償を
求めている事案である。
2法令の定め
(1)法1条は,法は,貨物自動車運送事業法と相まって,道路運送事業の運営
を適正かつ合理的なものとすることにより,道路運送の利用者の利益を保護
するととともに,道路運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進
することを目的とする旨規定する。
(2)法2条3項は,「旅客自動車運送事業」とは,他人の需要に応じ,有償で,
自動車を使用して旅客を運送する事業をいう旨規定し,法3条は,旅客自動
車運送事業の種類は,①一般旅客自動車運送事業(特定旅客自動車運送事
業以外の旅客自動車運送事業)(1号),②特定旅客自動車運送事業(特
定の者の需要に応じ,一定の範囲の旅客を運送する旅客自動車運送事業)
(2号)とし,一般旅客自動車運送事業(上記①)の種類は,イ一般乗合
旅客自動車運送事業(路線を定めて定期に運行する自動車により乗合旅客を
運送する一般旅客自動車運送事業),ロ一般貸切旅客自動車運送事業(イ
及びハの旅客自動車運送事業以外の一般旅客自動車運送事業),ハ一般乗
用旅客自動車運送事業(1個の契約により乗車定員10人以下の自動車を貸
し切って旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)とする旨規定する。
なお,タクシー業務適正化特別措置法は,一般乗用旅客自動車運送事業を
経営する者がその事業の用に供する自動車のうち,当該自動車による運送の
引受けが営業所のみにおいて行われるものを「ハイヤー」,それ以外の自動
車を「タクシー」と定義し,タクシーを使用して行なう一般乗用旅客自動車
運送事業を「タクシー事業」,タクシー事業を経営する者を「タクシー事業
者」とそれぞれ定義している(同法2条)(以下,用語については上記定義
に従う。)。
(3)法4条は,一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,国土交通大
臣の許可を受けなければならない旨規定し,法6条は,国土交通大臣は,一
般旅客自動車運送事業の許可をしようとするときは,①当該事業の計画が
輸送の安全を確保するため適切なものであること(1号),②前号に掲げ
るもののほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること(2
号),③当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであるこ
と(3号),という基準に適合するかどうかを審査して上記の許可をしなけ
ればならない旨規定する。
(4)法9条の3第1項は,一般乗用旅客自動車運送事業者(一般乗用旅客自動
車運送事業を経営する者をいう。法8条4項)は,旅客の運賃及び料金(旅
客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金
を除く。)を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならず,これを変更
しようとするときも同様とする旨規定する。
法9条の3第2項は,国土交通大臣は,上記の認可をしようとするときは,
①能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超え
ないものであること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いを
するものでないこと(2号),③他の一般旅客自動車運送事業者との間に
不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号),
④運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定
の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(4号),と
いう基準によって,上記の認可をしなければならない旨規定する。
3前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認め
られる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含むものとする。)
(1)当事者等
ア原告らは,一般乗用旅客自動車運送事業者の従業員としてタクシーの運
転業務に従事する者である。
原告A及び原告Bは,いずれもC株式会社に勤務するタクシー運転者で
ある。また,原告D及び原告Eは,いずれもF株式会社に勤務するタクシ
ー運転者である。(甲79ないし82)
一般旅客自動車運送事業は営業区域を定めて許可されるが,大阪府下に
おいては,大阪市域交通圏,北摂交通圏,河北交通圏,河南交通圏,河南
B交通圏,泉州交通圏に区分されており,原告らの営業区域は大阪市域交
通圏である。(弁論の全趣旨)
イ本件各処分に係る国土交通大臣の権限は,法88条2項,道路運送法施
行令1条2項により,地方運輸局長に委任されている。(弁論の全趣旨)
(2)法の改正
道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平
成12年法律第86号。以下「平成12年改正法」という。)は,第147
回国会衆議院運輸委員会(第10号ないし第12号)及び同参議院交通・情
報通信委員会(第16号ないし第18号)における審議(以下,それぞれ
「会議録10号」などと表記する。)を経て(甲48,49,57,65な
いし68,乙1,3,),平成12年5月26日,同国会で可決成立し,平
成12年政令第532号により平成14年2月1日施行された(以下,平成
12年改正法による道路運送法の改正を「本件改正」といい,同改正前の道
路運送法を「旧法」という。)。
(3)近畿運輸局長における法9条の3第2項の審査基準(乙30)
近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,法9条の3第2項に基づ
く審査基準として,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申
請の審査基準について」(平成14年近運旅二公示第11号。以下「審査基
準公示」という。)を公示した。審査基準公示の内容は別紙3のとおりであ
る。
審査基準公示4項は,近畿運輸局長は,同公示3項(2)で算出した運賃
額を上限とし,この上限運賃の初乗運賃額から同公示別紙3により算出され
る初乗運賃額を下限とする範囲内の初乗運賃額及び当該初乗運賃額に対応し
た加算距離及び加算運賃額について,同公示別紙3により設定される運賃を
自動認可運賃として設定し,事前に公示するとともに,自動認可運賃の設定
については,速やかに認可を行うものとする旨,及び自動認可運賃に該当し
ない運賃の認可申請で運賃改定申請以外のもの(以下,このような運賃を
「低額運賃」といい,低額運賃の設定又は変更に係る申請を「低額運賃申
請」ということがある。)の認可に当たっては,認可要件に沿って,不当な
競争を引き起こすおそれがないかどうかや不当に差別的なものでないかを個
別に審査する旨規定する。
(4)平成12年改正法施行後の近畿運輸局長による一般旅客自動車運送事業許
可及び一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可
ア近畿運輸局長は,平成17年4月28日から同年8月19日までの間に,
有限会社Gほか9社に対し,本件各事業許可を行った。その内容は別紙1
「第1許可関係」記載のとおりである。
平成12年改正法施行後の新規参入事業者による一般旅客自動車運送事
業の許可申請及びその結果の状況は,別紙2「1,許可関係」記載のとお
りである。(乙5ないし14,弁論の全趣旨)
イ近畿運輸局長は,平成17年5月12日から同年10月24日までの間
に,有限会社Hほか10社に対し,本件各運賃認可を行った。その内容は
別紙1「第2認可関係」記載のとおりである。
平成12年改正法施行後の自動認可運賃を下回る運賃(低額運賃)の認
可申請及びその結果の状況は,別紙2「2,認可関係」記載のとおりであ
る。(乙15ないし25,弁論の全趣旨)
(5)大阪(以下,特に断らない限り大阪府内をいう。)におけるタクシー事業
の概要(平成17年3月31日現在)
ア大阪における事業者数,車両数
法人タクシー189社17,478両
個人タクシー4,655者4,655両
合計4,844社・者22,133両
福祉タクシー−612両
総計−22,745両
(法人タクシーにはハイヤー車両,寝台車を除く)
イ大阪における運転者数
法人タクシー29,606人
個人タクシー4,655人
合計34,261人
ウ大阪における1日1車当たりの輸送実績(平成15年度)
運送収入29,483円
走行距離208.1㎞
実車距離87.1㎞
エ大阪における本件改正後の新規参入及び増減車等の状況
法人タクシー個人タクシー福祉タクシー
新規参入34社344両258者258両331社361両
事業廃止5社50両487者487両12社12両
増車543社2712両−34社77両
減車179社704両−34社56両
(法人タクシーは福祉タクシーを除く)
オ大阪における本件改正後の車両,運転者の増加状況
平成14年1月31日現在平成17年3月31日現在
車両20,302両22,745両
運転者28,989人29,606人
カ本件改正後の運賃等の状況
(ア)遠距離割引の認可状況
5,000円超5割引2,818社(者)16,629両(75.1%)
5,000円超4割引1者1両
5,000円超3割引8者8両
6,000円超4割引5社(者)114両(0.5%)
6,000円超5割引1者1両
5千円∼6千円3割引2社822両(3.7%)
→6千円∼7千円4割
引,7千円超5割引の
段階的割引
9,000円超2割引1者1両
合計2,836社(者)17,578両(79.4%)
(括弧内は一般タクシー車両数〔福祉タクシーを除く〕に対する割合)
(イ)低額運賃の認可状況
初乗500円352社(者)704両(3.2%)
初乗520円13者13両(0.1%)
初乗540円49社(者)814両(3.7%)
初乗550円4社(者)48両(0.2%)
合計418社(者)1,579両(7.1%)
キハイヤー・タクシーの輸送実績
(ア)近畿運輸局管内の状況(近畿運輸局調べ)(甲10)
年度事業者数車両数実働率走行キロ輸送人員営業収入
1110,00243,72080%2,278315339,735
129,97243,69379%2,251311333,230
139,86244,83279%2,237313330,195
149,92345,41777%2,245313320,491
1510,19145,83977%2,280312316,947
(走行キロは百万㎞,輸送人員は百万人,営業収入は百万円の単位)
年度1事業者当り収入1車両当り収入1走行キロ当り収入
1133,9677,771149.1
1233,4177,627148.0
1333,4827,365147.6
1432,2987,057142.7
1531,1016,914139.0
(1事業者当り収入及び1車両当り収入は千円,1走行キロ当り収入は円)
(イ)大阪における状況(財団法人大阪タクシーセンター調べ)(甲11)
年度配置総走行実車輸送営業キロ当実働車1日1車当り
車両数キロ率人員収入り収入
(%)走行実車人員営業
キロキロ収入
1113,40190143.2113141,235156.72217942734,054
1213,30187643.1111136,862156.16217932733,878
1313,19683942.7107129,685154.57213912732,948
1413,56483942.2107125,115149.13211892731,439
1513,68283441.8104120,617144.65210882630,388
(総走行キロは百万㎞,輸送人員は百万人,営業収入は百万円の単位)
(実働車1日1車当りはいずれも1㎞,1人,1円単位)
ク大阪におけるタクシー乗務員と他産業労働者の賃金(年収)比較(甲8
5,93)
年度他産業(男子労働他産業タクシー乗務員タクシー乗B/A
者)平均年収(A)平均年齢平均年収(B)務員平均年齢(%)
116,093,30041.23,385,00054.055.55
125,843,40041.53,168,10054.754.21
136,106,40041.03,567,00054.858.41
146,078,70041.73,282,50053.654.00
155,824,80041.43,130,00054.153.74
(6)訴訟の提起
原告らは,平成17年10月17日,当裁判所に対し,本件各訴えを提起
した。(顕著な事実)
第3主たる争点
本件の主たる争点は,①原告らの本件各処分の取消しを求める原告適格の
有無,②本件各処分の適法性,③国家賠償請求の成否であり,争点に関す
る当事者の主張の概要は,次のとおりである。
1原告らの本件各処分の取消しを求める原告適格の有無(争点①)
(原告らの主張)
原告らは,本件各処分の名あて人以外の近畿運輸局管内の一般乗用旅客自動
車運送事業者(以下「競合既存事業者」という。)に勤務するタクシー運転者
であり,本件各処分の「相手方以外の者」であるが,本件各処分による新規参
入事業者の急増や運賃値下げによる過当競争により現実に賃金の低下など労働
条件の悪化の被害を被っており,本件各処分の取消しを求めるにつき「法律上
の利益を有する者」であるから,本件各処分の取消しを求める原告適格を有す
る。
(1)「法律上の利益を有する者」の意義について
憲法32条が国民に裁判を受ける権利を保障している以上,国民は自己の
権利・利益が行政機関によって侵害されたと考えた場合には,当然,行政主
体に対して訴訟を提起できると考えなければならない。その場合の唯一の要
件は裁判所が司法権(憲法76条)を行使するための要件である「紛争の具
体性と成熟性」の要件であり,取消訴訟の場合は現実に「事実上の損害」が
存在するという要件だけである。したがって,行政事件訴訟法9条1項の
「法律上の利益」とは「事実上の利益」,換言すれば「法的保護に値する利
益」を指すものと解釈すべきである。
(2)本件各事業許可(一般旅客自動車運送事業の許可に係る個別規定の趣旨及
び目的)について
ア法6条1号は「当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なもの
であること」を一般旅客自動車運送事業の許可基準として規定している。
この規定は,一般旅客自動車運送事業者に利用者の輸送の安全の確保を求
めているとともに,その不可欠の前提として,実際に運送業務に従事する
タクシー運転者の運転・運行の安全,過労運転の防止をも確保するとの趣
旨,目的を有するものである。また,タクシー事業は,他の公共交通機関
とは異なり,ドア・ツー・ドアの機動的,個別的公共交通機関であり,そ
の安全性の確保は専らタクシー運転者の労働に依存していることからすれ
ば,安全の確保の実現にはタクシー運転者の労働の保護を定める労働基準
法や労働安全衛生法の趣旨及び目的を参酌しなければならない。したがっ
て,本件各事業許可において考慮されるべき利益とは,タクシー運転者の
労働条件の悪化の防止,すなわち賃金の低下,長時間労働の防止であり,
法6条1号はこのようなタクシー運転者の労働条件の確保に係る利益を保
護している。
イ道路運送法施行規則(平成18年7月14日国土交通省令第78号によ
る改正前のもの。以下「施行規則」という。)6条1項3号は,事業許可
申請書の添付書類として「事業用自動車の乗務員の休憩,仮眠又は睡眠の
ための施設の概要を記載した書面」を求めており,これにはタクシー運転
者の安全運行を確保するためにタクシー運転者を過労運転や睡眠不足運転
から保護するという趣旨が含まれている。
(3)本件各運賃認可(一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可に係
る個別規定の趣旨及び目的)について
ア法9条の3第2項3号は「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当
な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を運賃及び
料金の認可基準として規定しているところ,これは,文言上は事業者間の
過当な運賃値下げ競争を避ける趣旨及び目的に出たものであるが,それに
とどまらず,事業者間の過当な運賃値下げ競争が直接的かつ現実にタクシ
ー運転者の賃金や労働条件の低下を招くことから,このような事態の発生
を防止すべく,過当な運賃値下げ競争に起因するタクシー運転者の労働条
件の悪化の防止を図ることをもその趣旨,目的としている。すなわち,タ
クシー事業は,比較的安価な自動車という装置を取得するだけで事業を開
始することが可能であり,事業経費に占める人件費の割合が約8割と非常
に高い比率を占めている。また,機動的,個別的公共機関であるがゆえに
業務の具体的遂行は個々の運転者に依存しており,それゆえ賃金体系も個
々の運転者の営業収入に応ずる歩合給となっている。その結果,運賃を下
げたタクシー事業者の運転者は賃金の減少を食い止めるため,より多くの
顧客を乗せ,より長い距離を実車で走行させなければならない。他方,競
合する別のタクシー事業者の運転者は,顧客の乗車志向が弱まるため,不
可避的に営業収入が減少せざるを得ない。これを回復しようとするとやは
り長時間労働,ひいては過労運転を余儀なくされる。このように,不当な
値下げ競争(ダンピング競争)はタクシー運転者の過労運転を引き起こし,
輸送の安全を脅かすことから,法9条の3第2項3号は「不当な競争」を
引き起こすおそれがある運賃は認可しないとしたものであり,過当な運賃
値下げ競争による賃金の低下,過労運転から個々のタクシー運転者を保護
する趣旨を含んでいるというべきである。
イ被告は,法89条1項の「利害関係人」とは,施行規則56条に該当す
る者であるとし,同条3号の「特に重大な利害関係を有すると認める者」
とは,「当該行政庁の処分により直接自己の法律上保護された利益が侵害
され,又は必然的に侵害される関係にある者に限られる」として,タクシ
ー運転者はこれに該当しないとするが,タクシー運転者は,運賃のダンピ
ング競争という不当な競争から不可避的に生ずる長時間労働,過労運転か
ら保護されており,申請されている「運賃」がダンピング競争を引き起こ
すおそれがあるかどうかについて重大な利害関係を有するから,タクシー
運転者も運賃の認可について利害関係を有するというべきである。
被告は,タクシー運転者から意見を聴取している事実はないと主張する
が,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針につい
て」(国自旅第101号。甲43)によれば,一定の場合には当該事業者
に雇用されている運転者の意思を反映させ,あるいは運転者に対する過労
防止義務違反の有無が審査の要素とされており,現に,Iが540円とい
う低額運賃申請をした際,労働組合が近畿運輸局に同意書を提出したこと
がある。また,例えば,平成16年2月19日,近畿運輸局(担当部自動
車交通部旅客第二課)はタクシー運賃多様化等についてのヒアリングを実
施し,原告らが所属している全国自動車交通労働組合大阪地方連合会(全
自交大阪地連)の組合役員がこれに出席し意見を述べている。
(4)法の趣旨及び目的について
ア法の目的規定(法1条)について
被告は,法の目的規定(法1条)の文言をとらえて,タクシー運転者の
労働条件の利益を保護することを目的とするものではないと主張する。
しかし,タクシー事業が労働集約型産業の最たる事業であるという点を
看過してはならない。同事業に雇用される労働者はほとんどすべてがタク
シー運転者であり,当然のことながら事業場外労働である。そのタクシー
運転者を使用者が具体的に管理監督することは極めて困難であり,現在で
は圧倒的多数のタクシー会社では歩合制の賃金形態がとられている。そう
すると,その営業収入の単価すなわち運賃が低廉になれば,タクシー運転
者は一人でも多くの乗客を求めざるを得ないのであり,タクシー運転者が
自らの収入を向上させようとすれば,自らの労働密度を高くし,労働時間
を増やさざるを得ない。「過労運転」は過当競争の必然の結果となるので
ある。一方,タクシー利用者は,タクシー利用における自らの安全のすべ
てをタクシー運転者にゆだねる。要するに,事業者間の過度な競争が激化
することは,必然的にタクシー運転者の労働条件の悪化に繋がり,それは
直ちにタクシー利用者の安全に直結するのである。
このようなタクシー事業の特殊性を前提とすれば,タクシー事業の適正
化とタクシー運転者の労働条件の確保は正に表裏一体であり,法の趣旨及
び目的にタクシー運転者の労働条件の権利利益が無関係であるなどという
ことはない。
イ過労の防止義務について
(ア)旅客自動車運送事業運輸規則(平成18年7月14日国土交通省令
第78号による改正前のもの。以下「運輸規則」という。)1条は,
「この省令は,旅客自動車運送事業の適正な運営を確保することにより,
輸送の安全及び旅客の利便を図ることを目的とする。」とする。そして,
運輸規則21条は,旅客自動車運送事業者に対して,「輸送の安全」を
図るため運転者の過労を防止する義務を定めており,その文言上,保護
の対象は明らかに労働者たるタクシー運転者をも含んでいる。そして,
この運輸規則21条の有効性の根拠は,法28条にあり,さらには法の
目的規定である1条の「道路運送事業の運営の適正」及び「公共の福
祉」によって初めて与えられているのであって,これは法自体が運転者
の利益を個別的利益として保護していることの証左である。
(イ)運輸規則21条1項は,旅客自動車運送事業者は過労の防止を十分
考慮して「国土交通大臣が告示で定める基準」に従って事業用自動車の
運転者の勤務時間及び乗務時間を定めなければならないとし,平成13
年国土交通省告示第1675号(以下「国土交通省告示」という。)は,
旅客自動車運送事業者が運転者の勤務時間及び乗務時間を定める場合の
基準は,運転者の労働時間等の改善が過労運転の防止にも資することに
かんがみ,「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元
年労働省告示第7号,以下「改善基準告示」という。)とする旨定めて
いる。改善基準告示は,長時間労働の実態が見られる自動車運転者につ
いて,労働時間等に関する改善のための基準を定めることにより,自動
車運転者の労働時間等の労働条件の向上を図る目的で定めているもので
あって,その内容は,いずれも自動車運転者を直接保護の対象としてい
る。しかも,改善基準告示違反に対しては,労働基準監督署に申告する
ことができる仕組みになっており,労働基準法と正に同じ目的で自動車
運転者を直接の保護の対象としているのであるから,これを援用する運
輸規則21条も同様の目的を有している。したがって,その上位規範で
ある法も自動車運転者の過労防止義務等の利益を直接の保護の対象とし
ている。
(ウ)タクシー運転者の過労防止については,運輸規則21条のほかにも,
同規則22条,23条,24条1項2号,25条1項5号,28条の2,
48条3号の2,同条4号,50条1項3号,「一般乗用旅客自動車運
送事業(1人1車制個人タクシーを除く。)の許可及び認可等の申請に
関する審査基準について」(甲17),「一般乗用旅客自動車運送事業
の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(甲20),改善基準
告示など,詳細な規定がある。そして,対象となる事業者がこれらに違
反した場合には,自動車等の使用の停止若しくは事業の停止又は許可の
取消し(法40条1項),許可取消後の新たな許可申請に対する不許可
(法7条2号)という措置があり得る。これは,法及びその関係法令が
事業許可及び運賃認可に当たって運転者に過労運転があったか,あるい
は過労運転のおそれがあるかという点を重要な審査要素としていること
を示している。
国土交通省が厚生労働省と「タクシー運転者の適切な労働環境の確保
に関する連絡調整会議」を設置し(甲23),また,労働基準監督機関
と連携して監査を強化することとした(甲58,59)のも,運転者の
賃金低下及び過労運転が「輸送の安全」を脅かすばかりでなく,「利用
者の利便」の低下にもつながるとの認識に立っているからであり,法の
個別規定においても,賃金低下及び過労運転から運転者を保護する趣旨,
目的を含んでいることを示すものというべきである。
ウ緊急調整措置(法8条)について
被告は,法8条の「緊急調整措置」の規定にいう「輸送の安全」が,利
用者の安全確保を意味し,利用者の利益を保護する趣旨であることは明ら
かであると主張する。しかし,法8条が,タクシー運転者の労働条件に関
してなんら触れていないがために,タクシー事業者の供給輸送力が輸送需
要量に対し著しく過剰となった場合に生じ得るタクシー運転者についての
不利益を,個別的に保護しようとするものではない,との主張は誤った法
解釈である。
すなわち,①緊急調整措置の発動要件を定める通達(甲39)及び実
際の運用は,「実車率」及び「日車営収」を指標基準の一つとしていると
ころ,これらの指標の低下をもって運転者の労働条件の悪化と見てこれを
抑制する趣旨であると解され,この趣旨は平成18年に行われた上記通達
の一部改正(甲40)によってさらに明らかになっていること,②緊急
調整措置の発動要件の指標となっている「一定の安全関係の法令違反」が
運輸規則21条ないし23条の違反とされていること,③緊急調整措置
の発動には「著しい供給過剰となっている場合」と「輸送の安全及び旅客
の利便を確保することが困難となるおそれ」の両要件が必要であり,著し
い過剰状態であること自体が利用者の安全及び利便に還元できない独自の
意味を有していること,④トラック運送事業における緊急調整措置を定
めた貨物自動車運送事業法7条1項が「事業の継続が困難となると認める
とき」か否かをその発動要件の1つとして規定しているのに対し,一般乗
用旅客自動車運送事業者に対する緊急調整措置を定める法8条においては,
「輸送の安全」という判断要素が設定されていることなどからすれば,緊
急調整措置を定める法8条は,利用者の安全なり利便を保護しているとと
もに,個々の運転者の労働条件を保護することを目的としていることは明
らかである。
エ処分の根拠となる法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的の参
酌について
労働基準法は法と目的を共通にする関係法令であるから,法の趣旨及び
目的を考慮するに当たっては,労働基準法の趣旨及び目的を参酌しなけれ
ばならない。
すなわち,法1条に定める目的である「利用者の利益を保護」するため
には,何よりもまず,輸送の安全を図ることが最も重要であり,この輸送
の安全のためには,ひとえに運転者を過労運転や睡眠不足運転に陥らせな
い労働条件の確保が不可欠である。したがって,法の目的である「利用者
の利益の保護」を達成するためには,必然的に労働基準法の目的である,
労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たす労働条件の設定を
達成する必要があるという関係にあることから,法と労働基準法の目的の
共通性は明らかである。
そのため,法の実施に当たっては,労働基準法の遵守を図るように配慮
されてきている。例えば,平成12年改正法案の国会審議において,運賃
について,「その基準には,人件費等の費用について適正な水準を反映さ
せること」との附帯決議(甲48,49)がされている。その趣旨に沿っ
て,近畿運輸局は,平成16年2月19日のヒヤリングにおいて,全自交
大阪地連の役員を招き意見聴取を行った。また,国土交通省は,規制緩和
に伴って,タクシー運転者の長時間労働や低賃金など労働基準法の趣旨に
反するような劣悪な労働環境を是正するために抜き打ち監査を行っている
(甲42,50の1ないし3)。
(5)本件各処分において考慮されるべき利益の内容及び性質,当該処分がその
根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び
性質並びにこれが害される態様及び程度について
ア本件各処分が違法にされたことにより,タクシー運転者の労働条件の低
下及び収入の激減という直接的かつ重大な被害がもたらされている。
イ被告は,本件各処分が法に違反してされたからといって,必然的に原告
らが主張する過当競争を招来するという関係にないと主張するが,平成1
8年2月28日の衆議院予算委員会議事録(甲51)によると,J委員が,
本件改正後,車両が増加する一方で利用客の減少を指摘し,国土交通省の
抜き打ち監査を報道した新聞各紙においても(甲50の1ないし3),規
制緩和による競争激化を報道している。このように,本件各処分により過
当競争が引き起こされているのが現実である。
ウ被告は,タクシー運転者の労働条件の悪化は,事業者との労使関係が前
提にあるから,本件各処分により直接的に生じるものとはいえないと主張
するが,上記衆議院予算委員会議事録によると,K国土交通大臣が,タク
シー運転者の賃金は一般的に歩合制であり,運転者の売上げが賃金に直結
しているとの認識を示し,最低賃金を下回る実態をも把握していると答弁
している。すなわち,タクシーの運賃が値下げになると,その分,運転者
の賃金が減少するから,今まで以上に勤務時間が長時間化し,これに利用
客の減少が拍車をかけ,さらに長時間働くか,違法を覚悟で客引きを行う
などが常態化している。このように,本件各処分によって引き起こされた
過当競争が,直接,タクシー運転者の労働条件を悪化させているのである。
エ被告は,タクシー運転者の賃金が一般的に歩合制である点につき,法に
規定がないから,基本的に雇用契約に委ねられているものだと主張する。
しかし,原告らは,タクシー運転者の賃金は,歩合制であるという現実を
前提としているのであり,また歩合制という社会的現実を前提にK国土交
通大臣らも国会で何度も答弁しているところである。
(被告の主張)
原告らは,競合既存事業者のタクシー運転者であるところ,行政事件訴訟法
9条2項の考慮事項を考慮しても,本件各処分の取消しを求めるにつき「法律
上の利益を有する者」であるとはいえず,本件各処分の取消しを求める原告適
格を有しない。
(1)「法律上の利益を有する者」の意義について
行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する者」とは,当該処分に
より自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵
害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不
特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,
それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣
旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上の利益に
当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのあ
る者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきであ
る。
(2)本件各事業許可(一般旅客自動車運送事業の許可に係る個別規定の趣旨及
び目的)について
ア一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,国土交通大臣又は権
限の委任を受けた地方運輸局長(以下「国土交通大臣等」という。)の許
可を受けなければならず(法4条1項),国土交通大臣等は,上記の許可
をしようとするときは,法6条各号に定める基準に適合するかどうかを審
査し,これをしなければならない。
上記の趣旨は,会議録10号のL運輸大臣の趣旨説明によれば,一定の
基準に適合している場合にのみ同事業への参入を認める許可制を採用する
ことにより,輸送の安全,事業の適切性を確保するというものである。さ
らに,利用者の利便に重点を置いている法の趣旨及び目的に照らせば,法
6条1号の「輸送の安全」の確保とは,同事業の利用者の安全を確保し,
利用者の利益を保護する趣旨である。そして,この「安全」の問題に関し
ては,会議録17号におけるL運輸大臣の答弁によれば,国民の生命を守
ることについての格別の配慮を必要とするという公益的側面が強調されて
いる(乙1)。
一方,法6条には,タクシー運転者の労働条件が保護されていることを
審査すべき基準は全く設けられていない。
イ上記許可の申請書に添付すべき書類に,事業用自動車の運行管理の体制
を記載した書面や,事業用自動車の乗務員の休憩,仮眠又は睡眠のための
施設の概要を記載した書面が含まれているが(施行規則6条),それらも
同事業の利用者の安全を確保し,利用者の利益を保護するための考慮事項
として規定されているものである。
ウ以上からすれば,一般旅客自動車運送事業の許可に係る個別規定である
法4条1項及び6条の趣旨及び目的は,一般乗用旅客自動車運送事業の利
用者の安全あるいは利便を保護するものであり,それらの規定の趣旨及び
目的から,一般乗用旅客自動車運送事業者に雇用されるタクシー運転者の
利益を個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含
むものと解することはできない。
(3)本件各運賃認可(一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可に係
る個別規定の趣旨及び目的)について
ア一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及び料金を定め,又は変
更するときは,国土交通大臣等の認可を受けなければならず(法9条の3
第1項),国土交通大臣等は,同認可をしようとするときは,法9条の3
第2項各号に定める基準が充足されているかどうかを判断しなければなら
ない(同条2項)。
同条は,上記の運賃及び料金が,一般乗用旅客自動車運送事業の高度の
公共性から一般公衆に与える影響も重大であることから,これを自由に放
任することができないため,運賃及び料金について認可制を採用したもの
であり(乙2),同事業の利用者の安全を確保し,利用者の利益を保護す
る趣旨といえる。
一方,法9条の3には,タクシー運転者の労働条件が保護されているこ
とを審査すべき基準は,全く設けられていない。
イこの一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可について,国土
交通大臣は利害関係人等の意見を聴取できるところ(法89条1項2号),
この「利害関係人」とは,①一般乗用旅客自動車運送事業における運賃
及び料金に関する認可の申請者,②当該申請者と競争の関係にある者,
③利用者その他の者のうち地方運輸局長が当該事業に関し特に重大な利
害関係を有すると認める者と規定されている(施行規則56条)。上記②
の「当該申請者と競争の関係にある者」とは,当該認可申請者と競争の関
係にある「他の一般乗用旅客自動車運送事業者」を意味し,上記③の「当
該事業に関し特に重大な利害関係を有すると認める者」とは,当該行政庁
の処分により直接自己の法律上保護された利益が侵害され,又は必然的に
侵害される関係にある者に限られると解されるから,タクシー運転者はい
ずれにも該当しない。実際にもタクシー運転者から意見を聴取している事
実はない。
ウ原告らは,法9条の3第2項3号が「他の一般旅客自動車運送事業者と
の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」
と規定する趣旨には,過当な運賃値下げ競争に起因する過労運転等から個
々のタクシー運転者を保護することも含まれる旨主張する。
しかし,タクシー運転者の過労運転を常態化させるような「不当な競
争」は,利用者の安全確保を害するおそれがあることから,一般乗用旅客
自動車運送事業の運賃及び料金の変更等につき不当な競争を防止するため
の規制が加えられているのである。また,一般乗用旅客自動車運送事業に
おいて運賃値下げ競争が行われた場合,タクシー運転者の歩合による賃金
収入が減少することになるが,運輸規則は,事業者及び運転者双方に過労
運転等の防止を義務付けながら(運輸規則21条,50条1項3号),タ
クシー運転者の賃金を定める雇用関係を規制する規定を設けていない。こ
のような労使関係を規律する規定は,労働基準法等の他の法律にゆだねら
れているのであって,法及び運輸規則の対象ではないのである。このこと
からも,過労運転を常態化させるような「不当な競争」を防止する見地か
らタクシー運賃等の変更に規制が加えられているのは,過労運転等を防止
することにより利用者の安全を確保することを目的とするものであり,個
々のタクシー運転者の労働条件の利益を保護すること自体を目的としてい
るとみることはできない。
エ以上の法9条の3の規定の趣旨や認可の審査基準に照らせば,同条の趣
旨及び目的から,タクシー運転者の利益を個々人の個別的利益としてもこ
れを保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできないという
べきである。
(4)法の趣旨及び目的
ア総則的規定からうかがわれる法の趣旨及び目的
(ア)法1条は「道路運送事業の運営を適切かつ合理的なものとすること
により,道路運送の利用者の利益を保護するとともに,道路運送の総合
的な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とする。」と
している。この趣旨は,事業者間の競争を促進することにより,事業者
の創意工夫を活かした多様なサービスが提供され,利用者利便の向上を
図ることを目的とし,利用者保護に重点を置くことにある。また,同条
の「公共の福祉を増進する」とは,道路運送に関し広く一般公衆が受け
るべき利益を確保するのみならず積極的に増進することであり,それが
法の究極の目的である(乙2)。他方,法1条には,タクシー運転者の
労働条件を保護することを目的としていることをうかがわせる文言は一
切ない。
(イ)なお,法1条には,平成18年法律第19号(以下「平成18年改
正法」という。)により「輸送の安全を確保し」という文言が追加され
ているところ,平成20年2月から国土交通省交通政策審議会陸上交通
分科会自動車交通部会に設置された「タクシー事業を巡る諸問題に関す
る検討ワーキンググループ」の臨時委員を務めるM証人が述べるとおり,
平成18年改正法による改正以前から,法の趣旨及び目的には「輸送の
安全」の確保が含まれていたものと解される。そして,この「輸送の安
全」の確保とは,利用者保護ないし一般公衆が受けるべき利益という観
点から,「輸送の安全」を確保することにあり,タクシー運転者の労働
条件の保護を直接の目的とするものではない。すなわち,法の趣旨及び
目的である「輸送の安全」の確保とは,一般乗用旅客自動車運送事業者
が良質なタクシー運転者による役務を提供することによって,タクシー
利用者に対し,輸送の安全を確保することを意味していると解され,M
証人もこのような意味で「輸送の安全」をとらえている。
(ウ)以上に照らせば,法は,タクシー運転者の労働条件の利益を保護す
ることを目的とするものではない。
イ過労の防止義務について
(ア)原告らは,運輸規則21条等が,旅客自動車運送事業者に対し,運
転者の過労の防止を義務付けていることなどをもって,法は,過労運転
等から運転者を保護する趣旨を含む旨主張する。
しかしながら,運輸規則2条4項,50条1項3号は,旅客自動車運
送事業者の従業員に対して,輸送の安全及び旅客の利便を確保するため
に過労運転等の回避を義務付けているところ,これはタクシー等の一般
旅客自動車が公共交通機関として一般国民に利用されるため,利用者の
安全を確保するために,運転者に一般旅客自動車の安全運行を義務付け
たものであることが明らかであり,このことに照らしてみても,運輸規
則21条等がタクシー運転者の労働条件の保護を図ったものとは解され
ない。
(イ)原告らは,運輸規則21条1項が定める運転者の勤務時間等の基準
(国土交通大臣の告示)は,労働省告示「自動車運転者の労働時間等の
改善のための基準」(改善基準告示)とされていることや,同基準の違
反に対しては労働基準監督署に申告できる仕組みとなっていることを根
拠として,法が個々のタクシー運転者の労働条件を保護することを目的
としている旨主張する。
しかしながら,運輸規則21条1項を受けた国土交通省告示により改
善基準告示が運転者の勤務時間等の基準とされている趣旨は,運転者の
過労運転を防止することにあり,それによって輸送の安全を確保するこ
とを目的としたものとみるのが合理的である。また,上記労働省告示の
違反が認められた場合においても,地方運輸局長自らが当該告示違反を
直接の処分対象として措置を講じることは予定されておらず,労働局長
に通報する運用がされ,この運用を定めた書面には,上記通報に当たっ
て,地方運輸局長が労使間の紛争に対して介入することがないよう明記
されている(甲59)。これらの点に照らせば,運輸規則21条1項も,
法が個々の運転者の労働条件を保護していることの根拠とはなり得ない。
ウ緊急調整措置(法8条)について
原告らが問題とする供給過剰については,法は,特定の地域において供
給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となり,当該地域における輸送の
安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれが認められる場合
には,緊急調整措置を発動し,輸送の安全及び旅客の利便を確保すること
を企図することとしている(8条)。しかし,緊急調整措置の発動要件で
ある「当該地域における輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難
となるおそれ」については,事故件数,法令違反件数,利用者からの苦情
件数などが指標となり,タクシーの特性にかんがみ,具体的に利用者に安
全なり利便という観点から問題が生じたときを意味するものであり,法8
条にいう「輸送の安全」が,利用者の安全を確保し,利用者の利益を保護
する趣旨であることは明らかである。
さらに,緊急調整措置の規定をみても,タクシーの台数を制限ないし減
少させるような規定をあえて設けておらず,あくまでタクシー事業者の経
営判断にゆだねている。
以上に加え,法8条も,タクシー運転者の労働条件に関してなんら触れ
ていないことに照らせば,法は,タクシー事業の供給輸送力が輸送需要量
に対し著しく過剰となった場合に生じ得るタクシー運転者についての不利
益を,個別的に保護しようとするものではない。
エ処分の根拠となる法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的の参

原告らは,法の目的である「利用者の利益を保護」するためには,タク
シー運転者の労働条件の確保が不可欠であり,労働基準法の目的は,労働
条件の確保であることから,法と労働基準法は目的を共通にする旨主張す
る。
しかしながら,そもそも,労働基準法は,「労働者が人たるに値する生
活を営むための必要を充たすべき」労働条件の基準を,「最低のもの」と
して「法律で定める」ことを目的としているのに対し(同法1条),法は,
一般旅客自動車運送における輸送の安全を含む利用者の利益を保護すると
ともに,同運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進すること
を目的としているのであって,両者が目的を共通にするとはいえない。
また,「利用者の利益を保護」するために,タクシー運転者による過労
運転等を防止することが必要であったとしても,タクシー運転者による過
労運転等の防止,すなわちタクシー運転者の労働条件の確保という手段自
体が法の目的となるわけでない。
(5)本件各処分において考慮されるべき利益の内容及び性質,当該処分がその
根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び
性質並びにこれが害される態様及び程度について
本件各処分が法に違反してされたからといって,必然的に原告らが主張す
る過当競争を招来するという関係にはないし,運転・運行の安全が確保でき
なくなるというものではない。
タクシー運転者の労働条件は,事業者の経営判断と労使関係を前提とする
雇用関係にゆだねられており,事業者との雇用関係,事業者の企業努力等に
より決せられるものであり,本件各処分によりタクシー運転者の労働条件の
悪化が必然的にもたらされるものではない。タクシー運転者の賃金制度につ
き歩合制が採られていることについても,基本的に雇用関係で定められるも
のであるため,法は,歩合制に関する規定を一切設けていない。
また,仮に,本件各処分が違法にされ,タクシー事業者及びタクシーの台
数が増加することにより,労働集約的性格を有するタクシー事業において,
タクシー運転者の賃金低下等その労働条件の低下を伴う事業者間の運賃値下
げ等の過当競争が生じる事態が想定され得るとしても,それらは,事業者と
タクシー運転者との間の労使関係において考慮されるべき問題であり,本件
各処分によって直接的に生じるものとはいえない。
したがって,原告らが主張するような過当競争によるタクシー運転者の賃
金・労働条件の低下は,本件各処分が違法にされることにより直接的かつ重
大な被害としてもたらされるものではない。
よって,本件各処分がその根拠となる法に違反してされた場合に害される
こととなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案
し,本件各処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮しても,
法が,タクシー運転者の賃金や労働条件の利益をその個別的利益として保護
すべきものとする趣旨を含むとは解されない。
2本件各処分の適法性(争点②)
(原告らの主張)
(1)本件各事業許可について
法6条1号は一般旅客自動車運送事業の許可基準として「当該事業の計画
が輸送の安全を確保するため適切なものであること」と規定するところ,輸
送の安全を確保するためには個々のタクシー運転者の労働条件の適正を確保
することが不可欠であるから,上記の基準はタクシー運転者の安全運転を確
保するのに必要な労働条件を備えているべき事業計画であることを要求する
ものであり,一般旅客自動車運送事業の許可に当たっては,タクシー運転者
に過重な労働を課すことにならない措置を執ることが必要である。
しかるところ,平成12年改正法が施行された平成14年以前の段階で,
既にタクシーは過剰供給状態にあったのであるから,安易に新規事業の許可
を与えることは必然的にタクシー運転者のさらなる労働条件の悪化を招くも
のであり,本件各事業許可はいずれも法6条1号に反し,違法である。
(2)本件各運賃認可について
法9条の3第2項3号は一般旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可基
準として「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こす
こととなるおそれがないものであること」を規定するところ,競合既存事業
者との競争のため,各事業者が遠距離割引や低額の初乗運賃を設定すること
により,かえって業界全体の事業収入を低下させ,歩合給の下運転者が受け
取る賃金が顕著に減少し,公租公課や各種保険料の支払にも支障を来すよう
な事態を引き起こすおそれがあれば,「不当な競争を引き起こすこととなる
おそれ」があるものというべきである。すなわち,利用者に対する安全輸送
の提供という法の目的からすれば,「不当な競争を引き起こすこととなるお
それ」がある運賃とは,採算を度外視した運賃に限られず,タクシー運転者
の労働条件の悪化によりその危険な運転等を招来するような運賃をいうもの
と解すべきである。
しかるところ,前記のとおり平成12年改正法が施行された時点で既にタ
クシーが過剰供給状態であったことに加え,タクシー運転者の賃金が他の男
子労働者の半分程度にまで落ち込んでいた状況であったことからすれば,低
額運賃を安易に認可することは,タクシー運転者の労働条件をさらに悪化さ
せ,過労運転や危険な運転等を招来するものであり,本件各運賃認可はいず
れも法9条の3第2項3号に反し,違法である。
(3)新規参入事業者の低額運賃申請に対する認可について
新規参入事業者による自動認可運賃を下回る運賃設定の申請(低額運賃申
請)に対する認可は,次に記載するとおり,審査基準公示の定めがないにも
かかわらず認可されたものか,恣意的でずさんな判断により行われたもので
あり,違法である。
ア提出を求める添付書類について
審査基準公示の別紙4「自動認可運賃等の申請に対する処理手続等」第
3項1は,「実績年度の原価及び収入をもとに,別紙2第2項から第8項
(第6項中適正利潤は運賃原価から除外する。)により算定した(これに
よらない場合は,合理的な理由を付した上でこれに準じた形で算定した)
書類」を作成し,提出するものとしている。上記の「これによらない場
合」とは,「別紙2第2項から第8項によらない場合」を意味するという
べきであり,「実績年度の原価及び収入をもとに」することが必要である。
しかし,有限会社H,N株式会社,O株式会社,P有限会社の4社は,事
業許可の申請とともに自動認可運賃に該当しない運賃設定の認可申請をし
ているが,これら4社が提出した原価計算書は,「実績年度の原価及び収
入」をもとに作成されたものではなく,審査基準公示別紙4が要求する原
価計算書には該当しないから,上記4社に対する低額運賃の認可は審査基
準公示に反するものであって違法である。
また,仮に,審査基準公示別紙4の原価計算書が「実績年度の原価及び
収入」をもとに作成されたものでなくてもよいとしても,「(これによら
ない場合は,合理的な理由を付した上でこれに準じた形で算定した)書
類」とは,別紙2第2項から第8項によらないことの合理的な理由を付し
た書類を要するというべきである。しかし,新規参入事業者による申請に
このような書類は添付されておらず,これらの認可は添付すべき書類が添
付されていない申請に対してされたものであって,違法である。
イ審査の方法(収入)について
近畿運輸局長は,新規参入事業者による低額運賃申請に対する審査基準
として,「同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社」の実績平
均値及び系列事業者の実績値という審査基準公示にない特別の基準を作り
出し,さらに,この特別の基準も看過し難い重大な問題を有している。す
なわち,近畿運輸局長は「同一営業区域で申請運賃を実施している事業者
数社」に期間限定付認可を受けている事業者の実績値をも算定対象に組み
入れているところ,この期間限定付認可は,収支を償うかどうか不確定で
あるために暫定的な認可しか認められていないものと解されるのであり,
このような認可を受けた事業者の実績値を査定に用いることは極めて不適
切である。また,近畿運輸局長は,「同一営業区域で申請運賃を実施して
いる事業者数社」が1社しかないときはその1社を対象とし,さらに,こ
れがない場合でも,申請運賃と最も近似した低額の運賃を設定している事
業者の実績と原価計算対象事業者のうち申請事業者と同形態の営業を行っ
ている事業者の実績を参考にして査定するというのであり,このような事
業者はどのような場合にも存在し得るから,いかに低額な運賃の申請であ
ったとしても,実績平均値及び系列事業者の実績値が存在することになる。
このような基準たり得ない基準を定立して判断することは,低額運賃の申
請については個別にかつ申請者の実績値をもとに審査するという審査基準
公示の趣旨に明らかに反し,違法である。
ウ審査の方法(支出)について
近畿運輸局長は,「支出」項目の査定につき,申請者の申請額が他の事
業者が要している費用等の数値をもとに妥当な額か否かを判断するとする
が,被告の主観的な査定上の経験則に基づく判断によって妥当であるか否
かを査定するというのであり,慎重な審査が求められる実績年度を持たな
い新規参入事業者の低額運賃申請に対する査定として,あまりにずさんで
ある。人件費についても,理由が判然としない査定がされており,標準人
件費の90パーセントを上回っている申請人件費を減額して査定し,認可
ありきの前提で,収支の帳尻を合わせるためにされたものとしか評価する
ことができない。
エ運賃査定額の通知について
近畿運輸局長は,低額運賃を認可する際,査定数値を申請者に通知して
いないが,申請者は自己の申請額が見込み違いであっても運賃認可を得て
しまうことになり,その見込み違いは人件費の抑制を招き,ひいてはタク
シー運転者の労働条件を過酷なものとするのであり,この点を看過した本
件各運賃認可は法9条の3第2項3号に反し違法である。
(被告の主張)
(1)本件各事業許可について
一般旅客自動車運送事業の許可基準を定めた法6条各号に適合するか否か
の判断については,専門技術的な知識経験を有する国土交通大臣等に裁量権
が認められ,その判断が違法となるのは,その裁量権を逸脱・濫用したと認
められる場合に限られる。
本件改正により,需給調整規制を前提とする免許制から資格要件をチェッ
クする許可制へ移行することとされ,著しい供給過剰が生じた場合について
は,非常手段として,新規参入や増車を停止する緊急調整措置(法8条)に
よることとされたことからすると,法6条が供給輸送力が輸送需要量に対し
不均衡とならないことを許可基準としていると解釈する余地はない。原告ら
は,本件改正自体,すなわち立法行為の違法を主張しているものに等しい。
したがって,申請者以外の事業者に勤務するタクシー運転者の賃金等の労
働条件を低下させるものであるか否か,すなわち,供給輸送力が輸送需要量
に対し過剰であり不均衡であるか否かは,法6条各号の許可基準とされてい
ないのであるから,供給輸送力が輸送需要量に対し過剰であり,当該申請外
の事業者のタクシー運転者の賃金等の労働条件を低下させるおそれがあった
としても,そのことを理由として,本件各事業許可が違法とされることはな
い。
(2)本件各運賃認可について
運賃の認可基準を定めた法9条の3第2項各号に適合するか否かの判断に
ついては,専門技術的な知識経験を有する国土交通大臣等に裁量権が認めら
れ,その判断が違法となるのは,その裁量権を逸脱・濫用したと認められる
場合に限られるというべきである。
同条2項3号の「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,事業
者の経営努力の範囲を超えて原価を著しく下回るような採算割れの運賃を継
続することにより,競争他社を排除し,あるいは,輸送の安全の確保が困難
となるような事態を引き起こすおそれと解釈すべきであり,事業者の経営努
力の範囲内において運賃を設定することによって生じる事業者間の競争を
「不当な競争」として規制の対象とする合理性はない。
近畿運輸局長は,法9条の3第2項3号の適合性を具体的に判断するに当
たっては,その内容が法の正当な解釈に基づいた適正かつ合理的なものと認
められる審査基準公示によって査定,審査を行っているところ,本件各運賃
認可についても,審査基準公示に基づき審査を行い,いずれの認可も法9条
の3第2項3号の要件に適合すると認められたものであり,適法である。
(3)新規参入事業者の低額運賃申請に対する認可について
本件各運賃認可のうち新規参入事業者の低額運賃申請に対するものについ
ては,いずれも審査基準公示に基づき審査を行い,法9条の3第2項3号の
要件に適合すると認められたものであり,適法である。
ア提出を求める添付書類について
原告らは,審査基準公示別紙4の第3項1の括弧書きの記載について独
自の解釈を加えて,実績を有しない新規参入事業者は低額運賃申請ができ
ない旨主張する。しかし,法9条の3第2項は,文言上,既存事業者と新
規参入事業者とを区別しておらず,新規参入事業者による低額運賃申請を
排除するものとは解されない。そして,法9条の3第2項を受けた施行規
則10条の3の申請書添付書類の内容をより具体的にしたものが同公示別
紙4第3項1の書類なのであるから,審査基準公示により新規参入事業者
の低額運賃申請を審査することは,法の予定するところである。これに反
する原告らの主張は,法9条の3第2項に定めのない基準を審査基準公示
の解釈により導き出そうとするもので不当である。
原告らの主張は,審査基準公示の文言解釈としても無理である。同公示
別紙4第3項1の「これによらない場合」とは,「実績年度の原価及び収
入をもとに,別紙2第2項から第8項による算定ができない場合」を指し
ているのであり,新規参入事業者については,「実績年度の原価及び収入
をもとに算定した書類」に代わり,「合理的な理由を付した上でこれに準
じた形で算定した書類」の添付を求めることとしたものと解され,よって,
新規参入事業者については,申請書に添付された原価計算書の収支見積書
の算出方法欄に算出根拠を記入することにより,当該見込み数値の合理性
を示すと解するのが順当である。
イ審査の方法(収入)について
原告らは,期間限定付認可につき,収支が償うかどうかが不確定である
ため,暫定的な認可しか認められていないものとするが,申請書類に基づ
いて査定を行い,収支が償う結果が出たことから認可を行っている。近畿
運輸局長が期限を付しているのは,不当な競争を引き起こすような状況に
ないかどうか等,今後の事業の状況について検証する必要があるためであ
り,行政裁量の範囲内である。したがって,期間限定付認可を受けた事業
者の実績値を低額運賃申請に対する審査基準公示に基づく認可の査定に用
いることに何らの問題もない。また,原告らは,新規参入事業者による低
額運賃申請の査定につき「同一営業区域で申請運賃を実施している事業者
数社」の実績平均値及び系列事業者の実績値を用いることについて縷々主
張するが,審査基準公示に基づき査定を行うに当たり,どのような数値を
用いることが適当かは極めて高度な専門的判断を要する事項であり,原則
として行政裁量の範囲内の事項である。しかも,既存事業者であっても,
申請しようとする運賃額での実績はないことから,審査基準公示別紙2第
5の輸送力の算定に基づき,「同一営業区域で申請運賃を実施している事
業者数社の実績平均値」を用いて査定を行っており,この点は既存事業者
も新規参入事業者と同じである。
ウ審査の方法(支出)について
原告らは,被告の主観的な査定上の経験則に基づく判断で新規参入事業
者の低額運賃申請を査定することはずさんであるとか,人件費についても
理由が判然としないなどと縷々主張するが,前記のとおり,どのような数
値を用いて査定を行うのが妥当かは高度に専門的判断を要する事項といえ,
原則として行政裁量に関する事項である。そして,近畿運輸局長は,新規
参入事業者の自動認可運賃に該当しない運賃申請に対する査定を行うに当
たり,例えば,燃料油脂費,車両修繕費,車両償却費,保険料等の査定に
ついては,他の事業者の実績等から他の事業者が費やしている経費を単価
計算した数値や,燃料油脂費などは市況による変動も考慮し,現在の市場
価格も勘案した上で,新規参入事業者の申請値が著しく乖離した数値にな
っていないかどうかの審査を行い,申請値が他の事業者が要している費用
の数値等を基に妥当な額であると判断できる場合は新規参入事業者の申請
値を用い,妥当な額と認められないときは他の事業者が要している費用の
数値等を用いて審査を行っているのであって,このような査定方法は合理
的なものである。
エ運賃査定額の通知について
申請額で認可する場合に通知しない理由は,申請額が査定額以上である
場合は申請額で認可することととなっているため,査定の結果収支率が1
00%を超える場合には,運賃査定額を申請者に通知する必要がないため
である。
3国家賠償請求の成否(争点③)
(原告らの主張)
(1)国家賠償法上の違法性
国家賠償法1条1項の「違法」とは,不文法を含めた法令に違反すること
であり,取消訴訟における違法性と同一概念であると解すべきであるところ,
本件各処分を含む別紙2記載の各処分は,前記のとおり,法6条1号及び法
9条の3第2項3号の各基準を満たさないから,国家賠償法上も違法である。
仮に行政処分の違法性の問題と国家賠償法上の違法性の問題を別に検討す
るとしても,上記各処分は法6条1号及び法9条の3第2項3号に明白に違
反するものである上,本件において原告らが主張する見解は,過去の訴訟に
おいて近畿運輸局長がしていた主張と全く同様のものであって,同局長は,
上記各処分が法の趣旨に反することを十分に認識した上で,あえてこれらの
処分をしているのである。したがって,上記各処分は国家賠償法上も優に違
法との評価を受けるものである。
(2)原告らの損害及び因果関係
原告らの損害は,①賃金が減少したこと,②客の奪い合いで他のタク
シーと競争せざるを得なくなり,そのために運転中危険を感ずることが多く
なったことによりストレスが増加したこと,③賃金減少や労働条件が過酷
になったことにより将来的な生活設計が困難になってきたことである。これ
らの損害を一括して金銭に換算した場合,各原告の損害は50万円を下回ら
ない。
また,原告らの上記損害は,平成14年2月以降,近畿運輸局長がした一
般旅客運送事業の許可並びに同事業の運賃及び料金の認可が,法6条の許可
基準及び法9条の3の認可基準に反して行われたため,輸送の安全が確保さ
れなくなり,また,事業者間の不当な競争が激化して事業者全体の収入が低
下し原告らの賃金が低下したことによって生じたものであり,別紙2記載の
各処分と原告らの損害の間には明らかな因果関係が認められる。
(被告の主張)
(1)違法性の判断基準について
国家賠償法1条1項にいう「違法」と評価されるためには,当該公務員が
損害賠償を求めている国民との関係で個別具体的な職務上の法的義務を負担
し,かつ,当該行為がその職務上の法的義務に違反してされた場合でなけれ
ばならないのであり,国家賠償法1条1項の「違法」の有無の問題と,公務
員による処分が結果として法律に違反するか否かの問題とは,区別して取り
扱わなければならない。
また,国家賠償法1条1項の「違法」が認められるためには,公務員が法
律上保護された権利利益を侵害したことが必要である。別紙2記載の各処分
は,利用者の利便向上及び輸送の安全の確保という見地からなされるもので
あり,その判断に際しても,処分の名あて人以外の事業者のタクシー運転者
の利益が考慮される余地はない。したがって,事業許可の申請ないしは運賃
等認可の申請が不許可等とされることにより反射的に当該申請者以外の事業
者のタクシー運転者に事実上なんらかの利益がもたらされることがあったと
しても,それは法律上保護された利益ではないから,上記各処分が違法であ
ることを理由として国家賠償法に基づく損害賠償を請求を求める原告らの主
張は,その主張自体失当というべきである。
(2)原告らの損害及び因果関係について
上記各処分により,原告らが主張するようなタクシー事業者間の過当競争
が招来されるとは認められないし,タクシー運転者の賃金・労働条件は,雇
用者である事業者の経営判断と労使関係を前提とする雇用契約にゆだねられ
るものであるから,タクシー事業者の過当競争により,タクシー運転者の賃
金,労働条件の低下が必然的にもたらされる関係にもない。よって,上記各
処分と上記各損害との間に相当因果関係が認められる余地はない。
第4当裁判所の判断
1原告らの本件各処分の取消しを求める原告適格の有無(争点①)について
(1)行政事件訴訟法9条1項は,取消訴訟の原告適格について,処分の取消し
の訴えは,当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,
提起することができる旨規定するところ,同項にいう当該処分の取消しを求
めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若
しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれの
ある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体
的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する
個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解さ
れる場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,
当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,
当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮される
べき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び
目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令がある
ときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに
当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘
案すべきものである(同条2項,最高裁平成16年(行ヒ)第114号同1
7年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。
上記の見地に立って,競合既存事業者に勤務するタクシー運転者である原
告らが,その労働条件を保護される利益を有する者として,本件各処分の取
消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
(2)平成12年改正法の概要
ア旧法の規定
平成12年改正法による改正前の道路運送法(旧法)1条は,同法は,
貨物自動車運送事業法と相まって,道路運送事業の適正な運営及び公正な
競争を確保するとともに,道路運送に関する秩序を確立することにより,
道路運送の総合的な発展を図り,もって公共の福祉を増進することを目的
とする旨規定する。
旧法4条1項は,一般乗用旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,
運輸大臣(平成11年法律第160号(平成13年1月6日施行)による
改正後は国土交通大臣。以下同じ。)の免許を受けなければならない旨規
定し,旧法6条1項は,運輸大臣は,一般乗用旅客自動車運送事業の免許
をしようとするときは,①当該事業の開始が輸送需要に対し適切なもの
であること,②当該事業の開始によって当該事業区域に係る供給輸送力
が輸送需要量に対し不均衡とならないものであること,③当該事業の遂
行上適切な計画を有するものであること,④当該事業を自ら適確に遂行
するに足る能力を有するものであること,⑤その他当該事業の開始が公
益上必要であり,かつ,適切なものであること,の基準に適合するかどう
かを審査して,これをしなければならない旨規定する。
旧法9条1項は,一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(一般乗用
旅客自動車運送事業者)は,旅客の運賃その他運輸に関する料金を定め,
又はこれを変更しようとするときは,運輸大臣の認可を受けなければなら
ない旨規定し,同条2項は,運輸大臣は,上記の認可をしようとするとき
は,①能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤
を含むものであること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱
いをするものでないこと(2号),③旅客の運賃及び料金を負担する能
力にかんがみ,旅客が当該事業を利用することを困難にするおそれがない
ものであること(3号),④他の一般旅客自動車運送事業者との間に不
当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(4号),
⑤運賃及び料金が対距離制による場合であって,運輸大臣がその算定の
基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(5号),と
いう基準によって,これをしなければならない旨規定する。
イ平成12年改正法案の趣旨説明の提案理由(会議録10,16号)のう
ち,一般乗用旅客自動車運送事業に関する部分は,要旨,一般乗用旅客自
動車運送事業は,ドア・ツー・ドアの機動的,個別的公共交通機関として
重要な役割を果たしてきているが,一方において,経済構造の転換や国民
生活の向上を背景とした輸送ニーズの高度化,多様化に適切に対応してい
く必要性が高まっているところである,このような状況を踏まえ,需給調
整規制を廃止し,事業者間の競争を促進することにより,事業者の創意工
夫を生かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図ることが
求められているところである,一方,輸送の安全及び利用者利便の確保は,
需給調整規制廃止後においても旅客自動車運送事業にとって重要な課題で
あり,これらについて十分な措置を講じていく必要がある,というもので
ある。
ウ平成12年改正法案の趣旨説明の概要説明(会議録10,16号)のう
ち,一般乗用旅客自動車運送事業に関する部分は,要旨,①事業に係る
参入について,免許制を許可制とし,輸送の安全,事業の適切性等を確保
する観点から定めた一定の基準に適合している場合に参入を認めることと
し,その事業の開始によって,事業の供給輸送力が輸送需要量に対し不均
衡とならないか否かなどについての審査(需給調整規制)を廃止すること
とする,②特定の地域において供給輸送力が輸送需要量に対して著しく
過剰となり,当該地域における輸送の安全及び旅客の利便を確保すること
が困難となるおそれがあると認められるときは,期間を定めて新規参入及
び増車を認めないこととする緊急調整措置を講じることができることとす
る,③運賃及び料金の設定及び変更について,利用者の利便等を確保す
るため,引き続き認可制とし,上限価格その他の認可基準を設けることと
する,④輸送の安全を確保するため,運行管理者の資格試験制度を導入
することとする,というものである。
エ以上によれば,平成12年改正法のうち一般乗用旅客自動車運送事業に
関する部分の要点は,①「道路運送の総合的な発達を図り,もって公共
の福祉を増進すること」という道路運送法の究極の目的は維持しつつ,同
法の直接の目的を,「道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保す
るとともに,道路運送に関する秩序を確立する」ことから,「道路運送事
業の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,道路運送の利用者の
利益を保護する」ことに変更し,②事業参入を免許制から許可制として,
輸送の安全,事業の適切性等を確保する観点から定めた一定の基準に適合
している場合に参入を認めることとし,その事業の開始によって事業の供
給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないものであるか否か等につい
ての審査(いわゆる需給調整規定)を廃止し,③特定の地域において供
給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となり,当該地域における輸送の
安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認められ
るときは,期間を定めて新規参入及び増車を認めないこととする緊急調整
措置を講ずることができることとし,④旅客の運賃及び料金の設定及び
変更について,能率的な経営の下における適正な原価を償うか否かという
認可基準,並びに,旅客の運賃及び料金を負担する能力にかんがみ旅客が
当該事業を利用することを困難にするおそれがないものであるか否かとい
う認可基準をそれぞれ廃止し,⑤運行管理者の資格試験制度を導入する,
ということができる。
以上のような平成12年改正法による改正内容,殊に目的規定及び需給
調整規制に関する規定の改正内容等にかんがみると,本件改正は,タクシ
ーが個別の利用者の需要に対応したきめ細かな運送サービスを提供するこ
とができる機動的でかつ個別的な公共輸送機関であるとの認識の下に,需
給調整規制によって過当競争を防止し需要に見合った供給力を設定するこ
とにより,秩序ある安定的なサービスの提供を確保し,もって一般乗用旅
客自動車運送事業の発展を図るという,旧道路運送法の立法政策から,需
給調整規制を廃止して,事業者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活
かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多
様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向上を図るという,
利用者保護に重点を置いた立法政策に転換するとともに,タクシー事業に
おいては,増車に伴う固定費が小さいことや,歩合制賃金の下で増車を行
えば事業者の収入も増加するということから,事業者の増車意欲が極めて
強く,供給過剰になりやすい特性を有しているところ,著しい供給過剰と
なった場合には,過労運転による事故が起きやすくなったり,運賃の不正
収受,利用者とのトラブルといった問題が広範に生じる可能性があるなど,
輸送の安全,旅客の利便を損なうことになるおそれがあることから,その
ような具体的なおそれがある場合に,輸送の安全及び利用者の利便を確保
する観点から,新規参入及び増車を停止し,事態の更なる悪化を防止する
ための緊急調整措置を設けることとしたものであるということができる。
(3)本件各事業許可(一般旅客自動車運送事業の許可)について
ア法4条1項は,一般旅客自動車運送事業を経営しようとする者は,国土
交通大臣の許可を受けなければならない旨規定し,法6条は,国土交通大
臣は,一般旅客自動車運送事業の許可をしようとするときは,①当該事
業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであること(1号),②
前号に掲げるもののほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するもので
あること(2号),③当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有す
るものであること(3号),という基準に適合するかどうかを審査して上
記の許可をしなければならないと規定し,法7条は,国土交通大臣は,許
可を受けようとする者又はその役員につき一定の欠格事由がある場合には,
一般乗用旅客自動車運送事業の許可をしてはならない旨規定する。
法5条1項は,一般旅客自動車運送事業の許可を受けようとする者は,
①氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては,その代表者の氏名(1
号),②経営しようとする一般旅客自動車運送事業の種別(2号),③
営業区域,営業所の名称及び位置,営業所ごとに配置する事業用自動車
の数その他の国土交通省令で定める事項に関する事業計画(3号),を記
載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない旨,同条2項は,
許可申請書には,事業用自動車の運行管理の体制その他の国土交通省令で
定める事項を記載した書類を添付しなければならない旨,同条3項は,国
土交通大臣は,申請者に対し,上記申請書及び添付書類のほか,当該申請
者の登記事項証明書その他必要な書類の提出を求めることができる旨規定
する。
施行規則4条4項は,法5条1項3号の事業計画のうち一般乗用旅客自
動車運送事業に係るものには,営業区域,主たる事務所及び営業所の名称
及び位置,営業所ごとに配置する事業用自動車の数並びにその種別ごとの
数並びに地方運輸局長が指定する地域にあってはタクシー及びハイヤーの
別ごとの数,自動車車庫の位置及び収容能力を記載するものとする旨規定
する。
施行規則5条は,法5条1項3号の営業区域は,輸送の安全,旅客の利
便等を勘案して,地方運輸局長が定める区域を単位とするものとする旨規
定する。
施行規則6条1項は,許可申請書に添付する法5条2項の書類として,
①事業用自動車の運行管理の体制を記載した書面(1号),②事業の
開始に要する資金及びその調達方法を記載した書面(2号),③事業用
自動車の乗務員の休憩,仮眠又は睡眠のための施設の概要を記載した書面
(3号)等を規定する。
法8条1項は,国土交通大臣は,特定の地域において一般乗用旅客自動
車運送事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合
であって,当該供給輸送力が更に増加することにより,輸送の安全及び旅
客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは,当該
特定の地域を,期間を定めて緊急調整地域として指定することができる旨
規定し,同条3項は,国土交通大臣は,上記の緊急調整地域の指定をした
場合には,一般旅客自動車運送事業の許可の申請が一般乗用旅客自動車運
送事業に係るもので,かつ,当該申請に係る営業区域が当該緊急調整区域
の全部又は一部を含むものであるときは,当該許可をしてはならない旨,
同条4項は,一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者(一般乗用旅客自
動車運送事業者)は,上記の緊急調整地域の指定がされた場合には,当該
緊急調整地域における供給輸送力を増加させるものとして国土交通省令で
定める事業計画の変更をすることができない旨規定する。
イ一般旅客自動車運送事業の許可に係る根拠規定である法4条1項及び法
6条は,平成12年改正法により改正されているところ,その趣旨は,経
済構造の転換や国民生活の向上を背景とした輸送ニーズの高度化,多様化
に適切に対応していく必要性が高まっている状況を踏まえ,事業者間の競
争を促進することにより,事業者の創意工夫を活かした多様なサービスの
提供や事業の効率化,活性化を図るという観点から,事業の供給輸送力が
輸送需要量に対し不均衡とならないか否かなどについての審査(需給調整
規制)を廃止し,事業に係る参入について免許制を許可制とするとともに,
他方で,輸送の安全及び利用者利便の確保は需給調整規制廃止後において
も旅客自動車運送事業にとって重要な課題であることから,輸送の安全,
事業の適切性等を確保する観点から定めた一定の基準に適合している場合
に参入を認めることとしたものであるということができる。
そして,需給調整規制の廃止に加えて,旧法6条1項3号の「当該事業
の遂行上適切な計画を有するものであること」を,「当該事業の計画が輸
送の安全を確保するため適切なものであること」(法6条1号)及び「前
号に掲げるもののほか,当該事業の遂行上適切な計画を有するものである
こと」(同条2号)に分けて規定したという改正の内容からすれば,同号
の趣旨は,需給調整規制の廃止により新規参入が容易になり,車両数が増
加して事業者間の競争が激化するおそれがあることにかんがみ,申請に係
る事業計画の適切性の審査において,特に輸送の安全の確保に重点を置く
ことを明らかにしたものというべきである。
他方で,前記のとおり,平成12年改正法は,特定の地域において一般
乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰とな
っている場合であって,当該供給輸送力が更に増加することにより,輸送
の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあるときは,
緊急調整措置として新規参入や増車を制限することができる旨の制度を設
けており,その趣旨については,タクシー事業における運転者の賃金形態
が基本的に歩合制であるという事業の特性から,供給過剰になると事故や
利用者からの苦情が増加する傾向にあることにかんがみ,著しい供給過剰
となって輸送の安全や利用者の利便の確保が困難となるおそれが生ずる場
合には,新規参入と増車を停止する緊急調整措置を講ずることができるこ
とにしたものであると説明されている。
ウ原告らは,法6条1号は一般旅客自動車運送事業者に利用者の輸送の安
全の確保を求めているとともに,その不可欠の前提として,実際に運送業
務に従事するタクシー運転者の運転・運行の安全,過労運転の防止をも確
保するとの趣旨,目的を有するものであるとか,安全の確保はタクシー運
転手の労働に依存しているから,安全の確保の実現のためにタクシー運転
手の労働条件の利益(賃金の低下,長時間労働の防止)を保護しているな
どとして,原告らは本件各事業認可の取消しを求める原告適格を有する旨
主張する。
(ア)確かに,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)は,原告ら
の主張するとおり,事業の性質上,輸送の安全の確保が運転者の適切な
業務遂行に依存するところが大きいことに加えて,人件費が経費の主要
部分を構成し,しかも,運転者の賃金形態が基本的に歩合制になじみや
すく,他方で,事業者にとって,人件費の削減と増車による事業拡大と
が収益拡大のための容易な手段であるという特性を有するものというこ
とができるのであって,道路運送法における一般乗用旅客自動車運送事
業に対する規制においても,そのような事業の特性が当然の前提とされ
ているものということができる。そうであるところ,事業への参入にお
ける需給調整規制を廃止すれば,事業への新規参入が容易になることに
よって,車両数が増加して事業者間の競争が激化し,事業者における収
益の確保と運転者における賃金収入の確保の観点から,運転者の労働条
件の低下(賃金の低下,労働時間の長期化等)を来し,過労運転の常態
化等により輸送の安全及び利用者の利便が損なわれる事態が生じ得るこ
とは,合理的に推測されるのであって,平成12年改正法は,このこと
を当然の前提として,法6条1号の許可基準を規定するとともに,法8
条の緊急調整措置の制度を設けたものであることは,その立法経過に照
らしても明らかというべきである(このことは,施行規則6条1項3号
が許可申請書の添付書類として事業用自動車の乗務員の休憩,仮眠又は
睡眠のための施設の概要を記載した書面を規定しているところからもう
かがわれる。)。そして,これらの労働条件の確保に係る運転者の利益
は,必ずしも純然たる経済的利益に尽きるものではないということがで
きる。
しかしながら,一般乗用旅客自動車運送事業において輸送の安全及び
利用者の利便を確保するためには事業用自動車の運転者の労働条件が確
保されなければならないとして,運転者の労働条件を確保するための規
制が設けられたとしても,そのことから直ちに当該規制の根拠法令が当
該運転者の労働条件の確保に係る利益を個々人の個別的利益としても保
護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできない。
(イ)これを法4条1項に基づく一般旅客自動車運送事業の許可について
みると,法は,許可基準として,「当該事業の計画が輸送の安全を確保
するため適切なものであること」を規定しているところ(6条1号),
その趣旨については,前記のとおり,需給調整規制の廃止により新規参
入が容易になり,車両数が増加して事業者間の競争が激化するおそれが
あることにかんがみ,申請に係る事業計画の適切性の審査において,特
に輸送の安全に重点を置くことを明らかにしたものであると解されるの
であって,法の上記許可規制は,少なくとも一般乗用旅客自動車運送事
業に限っていえば,事業者間の競争の激化によりその運転者の労働条件
が低下(賃金の減少,労働時間の増大等)することによって過労運転が
常態化し輸送の安全が損なわれる事態を防止することを目的とした規制
であるということができる。
しかし,法6条1号の文理及び施行規則6条1項3号の内容に照らし
ても,法6条1号の基準は,当該申請に係る事業の計画が当該申請者の
一般乗用旅客自動車運送事業に係る輸送の安全を確保するため適切なも
のであることを規定したものと解するのが素直であって,当該申請に係
る事業の計画が当該申請者と競争の関係にある一般乗用旅客自動車運送
事業者の事業に係る輸送の安全を確保するため適切なものであることま
でをも含むものと解するのは困難というべきである。
また,上記のような一般乗用旅客自動車運送事業に係る本件改正の趣
旨からしても,法6条1号の基準にいう輸送の安全の確保は,専ら当該
許可の申請者の事業に係る輸送の安全の確保をいうものと解するのがそ
の趣旨に沿うというべきであって,原告らの主張するように,上記基準
にいう輸送の安全の確保に当該許可の申請者と競争の関係にある事業者
の事業に係る輸送の安全確保の趣旨を読み込むことは,一般乗用旅客自
動車運送事業の参入について需給調整規制を廃止し,供給輸送力の著し
い過剰が生じた場合には緊急調整措置によって対応するものとした本件
改正の趣旨と相いれないものというべきである。
(ウ)もっとも,そうであるとしても,上記のとおり,法6条1号の基準
に係る規制の趣旨は,究極的には,需給調整規制の廃止により事業への
参入が容易となって競争が激化することから輸送の安全を確保すること
にあることからすれば,当該許可申請者のみならずこれと競争の関係に
ある事業者の輸送の安全確保も当該規制の目的とされていると解する余
地もありえないではない。
しかしながら,そもそも,一般乗用旅客自動車の公共交通機関として
の性格にもかんがみると,法にいう輸送の安全確保に係る利益のうち少
なくとも利用者(旅客)の利益については,その内容,性質に照らし,
旅客個々人の有する個別的利益としてではなく,一般的公益として位置
付けられ,保護の対象とされていると解するのが素直というべきである。
このことに加えて,前記のとおり,法6条1号の基準が専ら当該許可の
申請者の事業の計画についての輸送の安全の確保を規定していることを
も併せ考えると,当該規制の根拠法令は,旅客の輸送の安全に係る利益
を一般的公益として保護するとともに,当該許可の申請者の事業用自動
車の運転者の安全確保に係る利益を当該運転者個々人の個別的利益とし
て保護すべきものとする趣旨を含むものと解する余地はなくはないもの
の,それに加えて,当該許可の申請者と競争の関係にある他の事業者の
運転者の労働条件の確保に係る利益をも当該運転者個々人の個別的利益
として保護すべきものとする趣旨をも含むものと解することは困難であ
って,当該根拠法令が申請者と競争の関係にある他の一般乗用旅客自動
車運送事業者の運転者の労働条件の確保に係る利益をも運転者個々人の
個別的利益として保護すべきものとする趣旨をも含むものと解し得るに
は,相応の根拠を要するというべきである。
エ(ア)そこで,まず,そもそも,法が一般乗用旅客自動車運送事業その
他の道路運送事業に従事する運転者の労働条件の確保を目的とする趣旨
を含むか否かについて検討すると,本件改正後の法1条は,「この法律
は,貨物自動車運送事業法(平成元年法律第83号)と相まって,道路
運送事業の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,道路運送の
利用者の利益を保護するとともに,道路運送の総合的な発達を図り,も
って公共の福祉を増進することを目的とする。」と規定しているところ,
その文言からは,法が道路運送事業に従事する運転者の労働条件の確保
をも目的とする趣旨を読み取るのは困難である。なお,平成18年改正
法による改正前の法1条においては,上記のとおり,「輸送の安全を確
保し」という文言が規定されていなかったところ,上記改正の趣旨は,
運輸分野における事故等の発生状況にかんがみ,運輸の安全性の向上を
図るため,特に注意的に輸送の安全確保を目的規定に加えたものと解さ
れるのであって,上記改正前においても,輸送の安全確保は,性質上,
道路運送事業に係る公共の福祉の最も重要な内容として,法の目的に含
まれていたものと解されるが,そうであるとしても,当該輸送の安全に
事業者間の競争による道路運送事業に従事する運転者の労働条件の低下
から運転者を保護する趣旨まで読み込むのは困難というほかない。
また,前記のとおり,平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運
送事業に係る改正の趣旨は,事業者間の競争を促進することにより,事
業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性
化を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の
確保,向上を図ることにあると解され,他方で,一般乗用旅客自動車運
送事業者間の競争の激化により輸送の安全確保等が損なわれることへの
対応として,法は,一般旅客自動車運送事業の許可基準として,事業計
画が輸送の安全を確保するため適切なものであることを規定している
(法6条1号)ほか,特定の地域において一般乗用旅客自動車運送事業
の供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合における
緊急調整措置(法8条)を規定し,また,運賃及び料金の認可基準とし
て「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこ
ととなるおそれがないものであること」を規定し(法9条の3第2項3
号),さらに,事業用自動車の運転者等の指導監督を事業者が遵守すべ
き事項として規定している(法28条)ところ,平成12年改正法案の
国会における審議経過からは,本件改正後の法の下においては,運転者
の賃金その他の労働条件については基本的に労使間の交渉にゆだねるこ
ととして,運転者の労働条件の著しい悪化の防止については緊急調整措
置と運賃及び料金の認可制によるダンピング運賃の設定の防止によって
対応することが予定されていたことがうかがわれるところである。この
ような法の規定内容並びに本件改正の趣旨及び経緯に照らしても,法が
申請者と競争関係にある一般乗用旅客自動車運送事業者の運転者の労働
条件の確保をも目的として一般旅客自動車運送事業の許可基準を規定し
ていると解するのは困難である。
(イ)次に,旅客自動車運送事業に従事する運転者の安全確保に関する法
令の規定をみると,前記のとおり,法6条1号が,一般旅客自動車運送
事業の許可基準として,事業計画が輸送の安全を確保するため適切なも
のであることを規定し,施行規則6条1項3号が,許可申請書の添付書
類として,事業用自動車の乗務員の休憩,仮眠又は睡眠のための施設の
概要を記載した書面を規定しているほか,法28条1項は,法に規定す
るもののほか,事業用自動車の運転者等の選任,事業用自動車の運転者
等の指導監督,事業用自動車の運行の管理その他輸送の安全及び旅客の
利便の確保のために一般旅客自動車運送事業者が遵守すべき事項は,国
土交通省令で定める旨規定し,同条2項は,国土交通大臣は,一般旅客
自動車運送事業者が同条1項の国土交通省令で定める事項を遵守してい
ないため輸送の安全又は旅客の利便が確保されていないと認めるときは,
当該一般旅客自動車運送事業者に対し,施設又は運転者等の指導監督若
しくは運行の管理の方法の改善その他その是正のために必要な措置を講
ずべきことを命ずることができる旨規定し,同条3項は,一般旅客自動
車運送事業者の事業用自動車の運転者及び運転の補助に従事する従業員
が運行の安全の確保のために遵守すべき事項は,国土交通省令で定める
旨規定している。そして,これを受けて,運輸規則は,1条において,
この省令は,旅客自動車運送事業の適正な運営を確保することにより,
輸送の安全及び旅客の利便を図ることを目的とする旨規定し,2条3項
において,旅客自動車運送事業者は,従業員に対し,輸送の安全及び旅
客の利便を確保するため誠実に職務を遂行するように指導しなければな
らない旨規定し,法28条1項に基づく事業者の遵守事項として,21
条1項において,旅客自動車運送事業者は,過労の防止を十分考慮して,
国土交通大臣が告示で定める基準に従って,事業用自動車の運転者の勤
務時間及び乗務時間を定めなければならない旨規定し,同条2項におい
て,旅客自動車運送事業者は,乗務員が有効に利用することができるよ
うに,休憩の施設を整備し,及び乗務員に睡眠を与える必要がある場合
又は乗務員が勤務時間中に仮眠する機会がある場合は,睡眠又は仮眠に
必要な施設を整備し,並びにこれらの施設を適切に管理し,及び保守し
なければならない旨規定し,同条3項において,旅客自動車運送事業者
は,乗務員の健康状態の把握に努め,疾病,疲労,飲酒その他の理由に
より安全な運転をし,又はその補助をすることができないおそれがある
乗務員を事業用自動車に乗務させてはならない旨規定し,22条1項に
おいて,交通の状況を考慮して地方運輸局長が指定する地域内に営業所
を有する一般乗用旅客自動車運送事業者は,地方運輸局長が定める乗務
距離の最高限度を超えて当該営業所に属する運転者を事業用自動車に乗
務させてはならない旨規定し,23条において,22条1項の一般乗用
旅客自動車運送事業者は,指定地域内にある営業所に属する運転者に,
その収受する運賃及び料金の総額が一定の基準に達し,又はこれを超え
るように乗務を強制してはならない旨規定するなどしているほか,運輸
規則21条1項の規定を受けて定められた事業用自動車の運転者の勤務
時間及び乗務時間に係る基準(国土交通省告示)は,「旅客自動車運送
事業者が運転者の勤務時間及び乗務時間を定める場合の基準は,運転者
の労働時間等の改善が過労運転の防止にも資することに鑑み,「自動車
運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第7
号)」とする。」旨規定し,他方で,法28条3項に基づく運転者等の
遵守事項として,運輸規則は,2条4項において,旅客自動車運送事業
者の従業員は,その職務に従事する場合は,輸送の安全及び旅客の利便
を確保することに努めなければならない旨規定し,50条1項3号にお
いて,旅客自動車運送事業者の事業用自動車の運転者は,疾病,疲労,
飲酒その他の理由により安全な運転をすることができないおそれがある
ときは,その旨を当該旅客自動車運送事業者に申し出なければならない
旨規定し,同条8項において,22条1項の一般乗用旅客自動車運送事
業者の事業用自動車の運転者であって,指定地域内にある営業所に属す
る者は,同項の乗務距離の最高限度を超えて乗務してはならない旨規定
するなどしている。
以上のような一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車の運転者の
安全確保に関する法令の規定の内容及び態様,とりわけ,運輸規則にお
いて,一般乗用旅客自動車運送事業者について,過労の防止を考慮した
勤務時間及び乗務時間の設定,休憩施設等の整備等の義務,乗務距離の
最高限度を超えて乗務させてはならない義務並びに運賃等収入のノルマ
の禁止等の,事業用自動車の運転者の過労防止のための義務等を規定す
るとともに,事業用自動車の運転者についても,乗務距離の最高限度を
超えた乗務の禁止を規定するなど,事業用自動車の運転者の過労防止を
事業者のみならず運転者自身の義務としても規定していることにかんが
みると,旅客自動車運送事業に従事する運転者の安全確保に関するこれ
ら法令の規定に事業者間の競争による運転者の労働条件の低下から運転
者を保護する趣旨を読み込むのは困難というべきである。
(ウ)さらに,法の定める一般旅客自動車運送事業の許可基準に適合しな
い許可がされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこ
れが害される態様及び程度をみても,確かに,申請者と競争関係にある
一般乗用旅客自動車運送事業者の運転者が事業者間の競争の激化による
労働条件の低下によって被る不利益は,経済上のものにとどまらないと
いうことができるが,その害される態様は,当該事業への違法な参入に
よって競争が激化し運転者の労働条件が低下するといった間接的なもの
にすぎないのであって,この点からしても,法が申請者と競争関係にあ
る事業者の運転者の労働条件の確保そのものをも目的として許可基準を
規定していると解するのは困難である。
オ以上検討したところによれば,一般旅客自動車運送事業の許可の根拠と
なる法4条1項,6条1号等の規定は当該許可の申請者と競争関係にある
一般乗用旅客自動車運送事業者の事業用自動車の運転者の労働条件の確保
に係る利益を当該運転者個々人の個別的利益として保護すべきものとする
趣旨をも含むものと解することはできないというべきである。
(4)本件各運賃認可(一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可)に
ついて
ア法9条の3第1項は,一般乗用旅客自動車運送事業者は,旅客の運賃及
び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令
で定める料金を除く。)を定め,又はこれを変更しようとするときは,国
土交通大臣の認可を受けなければならない旨規定し,同条2項は,国土交
通大臣は,上記の認可をしようとするときは,①能率的な経営の下にお
ける適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること(1
号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと
(2号),③他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き
起こすこととなるおそれがないものであること(3号),④運賃及び料
金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定の基礎となる
距離を定めたときは,これによるものであること(4号),という基準に
よって,これをしなければならない旨規定する。
施行規則10条の3第1項は,法9条の3第1項の規定により,一般乗
用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定又は変更の認可を申請しよう
とする者は,①氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては,その代表
者の氏名,②設定又は変更しようとする運賃及び料金を適用する営業区
域,③設定又は変更しようとする運賃及び料金の種類,額及び適用方法
(変更の認可申請の場合は,新旧の運賃及び料金(変更に係る部分に限
る。)を明示すること。),④変更の認可申請の場合は,変更を必要と
する理由,以上の事項を記載した運賃及び料金設定(変更)認可申請書を
提出するものとする旨規定し,同条2項は,前項の申請書には,原価計算
書その他運賃及び料金の額の算出の基礎を記載した書面を添付するものと
する旨規定し,同条3項は,申請する運賃及び料金が地方運輸局長が前項
の書類の添付の必要がないと認める場合として公示したものに該当すると
きは,同項の書類の一部又は全部の添付を省略することができる旨規定す
る。
法88条の2は,国土交通大臣は,一般乗用旅客自動車運送事業の運賃
及び料金の認可(同条4号)をしようとするときは,運輸審議会に諮らな
ければならない旨規定し,法89条は,地方運輸局長は,その権限に属す
る一般乗用旅客自動車運送事業における運賃及び料金に関する認可につい
て,必要があると認めるときは,利害関係人又は参考人の出頭を求めて意
見を聴取することができる旨規定し(同条1項),この事項について利害
関係人の申請があったときは,利害関係人又は参考人の出頭を求めて意見
を聴取しなければならない(同条2項)旨規定する。
施行規則56条は,法89条に規定する利害関係人とは,①一般乗合
旅客自動車運送事業における運賃等の上限に関する認可又は一般乗用旅客
自動車運送事業における運賃及び料金に関する認可の申請者,②前号の
申請者と競争の関係にある者,③利用者その他の者のうち地方運輸局長
が当該事案に関し特に重大な利害関係を有すると認める者,以上のいずれ
かに該当する者をいう旨規定する。
イ一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可に係る根拠規定であ
る法9条の3は,平成12年改正法により認可基準が改正されているとこ
ろ,その趣旨は,需給調整規制を廃止して,事業者間の競争を促進し,事
業者の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化
を図り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,
向上を図るという立法政策の下において,価格の設定が事業経営上の最も
基本的な事項であって,できる限り経営者の自主性や創意工夫が尊重され
るべきであることから,利用者の需要に対応して創意工夫を活かしたサー
ビスを提供するための機動的,弾力的な運賃等の設定を可能にするととも
に,他方で,利用者に対する分かりやすさの確保に加えて,タクシー事業
においては人件費が経費の主要部分を構成し,また,運転者の賃金が基本
的に歩合制であることから,運賃等について不当な値下げ競争(ダンピン
グ競争)が起こった場合には,過労運転の常態化,輸送の安全の確保の困
難に結びつくおそれがあり,利用者の利便を損なうことになることにかん
がみ,引き続き一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の設定及び変
更についての認可制を維持し,運賃等の上限についての基準を設けるとと
もに,不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等の設定の防
止を図ったものであるということができる。
ウ原告らは,法9条の3第2項3号は,タクシー事業が運転者の運転,労
働に依存するきわめて労働集約的な事業であり,タクシー運転者の賃金が
営業収入に対する歩合制の賃金体系であることから,事業者間の過当な運
賃値下げ競争が生じると,直接的かつ現実に,運転者の賃金の低下を招き,
これを補うための長時間労働,過労運転の常態化を引き起こし,ひいては
輸送の安全を阻害するおそれがあるため,このような事態の発生を防止す
べく,過当な値下げ競争に起因するタクシー運転者の労働条件の悪化の防
止を図ることをその趣旨,目的としているのであり,原告らは本件各運賃
認可の取消しを求めるにつき原告適格を有する旨主張する。
確かに,法9条の3第2項3号は,前記イのとおり,一般乗用旅客自動
車運送事業(タクシー事業)においては人件費が経費の主要部分を構成し,
また,運転者の賃金が基本的に歩合制であることから,運賃等について不
当な値下げ競争(ダンピング競争)が起こった場合には,過労運転が常態
化し,輸送の安全の確保の困難に結びつくおそれがあるとの認識を前提に,
不当な競争を意図する値引き運賃等(ダンピング運賃)の設定を防止する
ことにより,輸送の安全及び利用者の利便の確保を図る趣旨のものと解さ
れるところ,その規定の文言及び趣旨からしても,同号の基準による規制
は,当該運賃等の認可の申請者の事業に係る輸送の安全の確保のみならず,
当該申請者と競争関係にある一般乗用旅客自動車運送事業者の事業に係る
輸送の安全の確保をもその目的とするものと解することができる上,上記
のような一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)の特性にかんがみ
ると,前記参入規制に係る許可基準に適合しない許可がされた場合と比べ
ても,上記のようないわゆるダンピング運賃が設定された場合の競争の激
化による競争関係にある事業者の運転者の労働条件の悪化は,より直接的
かつ重大ということができるのであって,しかも,これによる当該運転者
の不利益は,経済上のものにとどまらないということができる。
しかしながら,一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可にお
ける法9条の3第2項3号の基準による規制が当該申請者の事業に係る輸
送の安全の確保にとどまらず当該申請者と競争の関係にある事業者の事業
に係る輸送の安全の確保をも目的とするものであると解されるとしても,
そのことから直ちに,法が当該申請者と競争の関係にある事業者の運転者
の労働条件の確保に係る利益を当該運転者個々人の個別的利益として保護
すべきものとする趣旨をも含むものと解することはできない。すなわち,
不当な競争によって運転者の労働条件が悪化し,それによって輸送の安全
が損なわれる関係が一般的に肯定されるとしても,法令が専ら輸送の安全
確保を目的として不当な競争を規制するか,それとも,それと併せて不当
な競争による労働条件の悪化からの運転者の保護をも目的とした規制を行
うかは,立法政策にゆだねられているのであって,一般乗用旅客自動車運
送事業の運賃等の認可の根拠となる法令の規定(法9条の3)が当該認可
申請に係る申請者と競争関係にある一般乗用旅客自動車運送事業者の事業
用自動車の運転者の労働条件の確保に係る利益を当該運転者個々人の個別
的利益として保護すべきものとする趣旨をも含むものと解されるか否かは,
法が上記いずれの立法政策を採用したかを探求して決すべきものである。
そして,前記のとおり,一般乗用旅客自動車の公共交通機関としての性格
にもかんがみると,上記運賃等の認可に係る規制の目的である輸送の安全
確保に係る利益は,利用者の利便の確保に係る利益とともに,その内容,
性質に照らし,旅客個々人の有する個別的利益としてではなく,一般的公
益として位置付けられ,保護の対象とされていると解するのが素直という
べきであるから,このような一般的公益の保護に加えて,当該規制の根拠
となる法令が申請者と競争の関係にある他の一般乗用旅客自動車運送事業
者の運転者の労働条件の確保に係る利益を運転者個々人の個別的利益とし
て保護すべきものとする趣旨をも含むものと解し得るためには,相応の根
拠を要するというべきである。
エそこで検討するに,前記のとおり,法の目的規定からは,法が事業者間
の競争による道路運送事業に従事する運転者の労働条件の低下から運転者
を保護することをも目的としていると解するのは困難である。
また,前記のとおり,平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運送
事業に係る改正の趣旨は,事業者間の競争を促進することにより,事業者
の創意工夫を活かした多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図
り,もって,多様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向
上を図ることにあると解されるのであって,平成12年改正法案の国会に
おける審議経過からは,運転者の賃金その他の労働条件については基本的
に労使間の交渉にゆだねることを前提に,競争の激化による運転者の労働
条件の著しい悪化の防止については緊急調整措置と運賃及び料金の認可制
によるダンピング運賃の設定の防止によって対応するものとする趣旨がう
かがわれるところであり,このような平成12年改正法の趣旨からも,事
業者間の競争による運転者の労働条件の低下から運転者を保護する趣旨を
読み取るのは困難である。
また,前記のとおり,一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車の運
転者の安全確保に関する法令の規定をみても,その内容及び態様,とりわ
け,事業用自動車の運転者の過労防止を事業者のみならず運転者自身の義
務としても規定していることにかんがみると,これらの法令の規定に事業
者間の競争による運転者の労働条件の低下から運転者を保護する趣旨が含
まれていると解するのは困難である。
さらに,前記のとおり,法89条は,地方運輸局長は,その権限に属す
る一般乗用旅客自動車運送事業における運賃及び料金に関する認可につい
て,必要があると認めるときは,利害関係人又は参考人の出頭を求めて意
見を聴取することができ,利害関係人の申請があったときは,利害関係人
又は参考人の出頭を求めて意見を聴取しなければならない旨規定している
ところ,上記規定にいう利害関係人の範囲について,施行規則56条は,
運賃及び料金に関する認可の申請者(1号),当該申請者と競争の関係に
ある者(2号)及び利用者その他の者のうち地方運輸局長が当該事案に関
し特に重大な利害関係を有すると認める者(3号)のみを規定し,当該申
請者と競争の関係にある事業者の運転者を明文でもって規定しておらず,
このことも,法が一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可にお
いて当該認可の申請者と競争関係にある事業者の運転者の労働条件に係る
利益の保護そのものを目的としていない趣旨を裏付けるものということが
できる(原告らは,一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する
認可の申請者と競争の関係にある者の運転者は施行規則56条3号に該当
する旨主張するが,規定の文理に照らしても原告らの主張のように解する
のは無理があり,そのような実務運用が行われていることを認めるに足り
る証拠もない。)。
以上検討したところに加えて,そもそも,我が国においては,私的自治
の原則の下に,賃金や労働時間等の労働条件の確保に係る労働者の利益に
ついては,労働基準法,労働組合法,最低賃金法等のいわゆる労働法によ
ってその保護が図られていることをも併せ考えると,一般旅客自動車運送
事業の運賃及び料金の認可の根拠となる法9条の3第2項3号の規定等は,
当該認可の申請者と競争の関係にある一般乗用旅客自動車運送事業者の事
業に係る輸送の安全確保を含めて,旅客の輸送の安全及び利便の確保に係
る利益を一般的公益として保護するにとどまっているものと解するのが素
直というべきであって,法9条の3第2項3号の基準に適合しない認可が
された場合に害されることとなる運転者の労働条件の確保に係る利益の前
記のような内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案しても
なお,法9条の3第2項3号の規定等が以上に加えて当該認可の申請者と
競争関係にある事業者の事業用自動車の運転者の労働条件の確保に係る利
益を当該運転者個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨をも
含むものと解することはできないというべきである。
(5)原告らの主張について
ア原告らは,運輸規則21条に基づいて告示で定められた運転者の勤務時
間等の基準が運転者を直接保護の対象とする改善基準告示の基準とされて
いることや,同基準の違反に対しては労働基準監督署に申告することがで
きる仕組みとなっていることなどを根拠として,法が個々のタクシー運転
者の労働条件を直接保護することを目的としている旨主張する。
しかし,前記のとおり,運輸規則21条1項の規定を受けて定められた
事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準(国土交通省告
示)は,「旅客自動車運送事業者が運転者の勤務時間及び乗務時間を定め
る場合の基準は,運転者の労働時間等の改善が過労運転の防止にも資する
ことに鑑み,「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年
労働省告示第7号)」とする。」旨規定しているところからすれば,国土
交通省告示は,輸送の安全確保の観点から,過労防止のための基準として
上記労働省告示(改善基準告示)の基準を援用する趣旨が明らかである上,
改善基準告示の違反が認められた場合であっても,地方運輸局長自ら当該
告示違反を直接の処分対象として措置を講ずることは予定されておらず,
労働局長に通報する運用がされていること(甲59)からしても,運輸規
則21条1項及び国土交通省告示の規定に事業者間の競争による運転者の
労働条件の低下から運転者を保護する趣旨が含まれていると解するのは困
難である。
また,原告らは,事業者が上記一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自
動車の運転者の安全確保に関する法令の規定に違反した場合には,自動車
等の使用の停止又は許可の取消し(法40条1項),さらには許可取消し
後の新たな許可申請に対する不許可(法7条2号)という措置があり得る
ことをもって,タクシー運転者に過労運転やそのおそれがあるかどうかが
事業許可や運賃認可の重要な審査要素となっている旨主張するが,上記の
行政上の措置は,過労運転を防止して輸送の安全を確保するという目的を
実現するため,事業者に課している各種義務につき,違反行為に対する行
政上の制裁を用意することによってその遵守をより確実なものとする趣旨
で設けられているにすぎないから,これらの行政上の措置の存在を根拠に
上記運転者の安全確保に関する法令の規定が運転者の労働条件の確保に係
る利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない。
また,原告らは,国土交通省が厚生労働省と「タクシー運転者の適切な
労働環境の確保に関する連絡調整会議」を設置したこと(甲23)や,労
働基準監督機関と連携して監査を強化することとしたこと(甲58,5
9)を指摘するが,法の運用において国土交通省と厚生労働省との間に上
記のような連携が図られているからといって,その前提として上記運転者
の安全確保に関する法令の規定に運転者の労働条件の確保に係る利益を保
護する趣旨が含まれていると直ちに解することはできない。
イ原告らは,法8条はタクシー事業の供給輸送力が輸送需要量に対し著し
く過剰になった場合に生じ得るタクシー運転者の不利益を防止するもので
あり,タクシー運転者の利益を個別的に保護する趣旨であると主張する。
すなわち,原告らは,①緊急調整措置の発動要件を定める通達(甲3
9)及び実際の運用は,「実車率」及び「日車営収」を指標基準の一つと
しているところ,これらの指標の低下をもって運転者の労働条件の悪化と
見てこれを抑制する趣旨であると解され,この趣旨は平成18年に行われ
た上記通達の一部改正(甲40)によってさらに明らかになっていること,
②緊急調整措置の発動要件の指標となっている「一定の安全関係の法令
違反」が運輸規則21条ないし23条の違反とされていること,③緊急
調整措置の発動には「著しい供給過剰となっている場合」と「輸送の安全
及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれ」の両要件が必要であ
り,著しい過剰状態であること自体が利用者の安全及び利便に還元できな
い独自の意味を有していること,④トラック運送事業における緊急調整
措置を定めた貨物自動車運送事業法7条1項が「事業の継続が困難となる
と認めるとき」か否かをその発動要件の1つとして規定しているのに対し,
一般乗用旅客自動車運送事業者に対する緊急調整措置を定める法8条にお
いては,「輸送の安全」という判断要素が設定されていることなどからす
れば,緊急調整措置を定める法8条は,利用者の安全なり利便を保護して
いるとともに,個々の運転者の労働条件を保護することを目的としている
ことは明らかであると主張する。
しかし,前記のとおり,法8条の規定の趣旨は,タクシー事業における
運転者の賃金形態が基本的に歩合制であるという事業の特性から,供給過
剰になると事故や利用者からの苦情が増加する傾向にあることにかんがみ,
著しい供給過剰となって輸送の安全や利用者の利便の確保が困難となるお
それが生ずる場合には,新規参入と増車を停止する緊急調整措置を講ずる
ことができることにしたものであると解されるところ,以上説示したとこ
ろからすれば,上記規定が,利用者(旅客)の輸送の安全及び利便の確保
を一般的公益として保護することに加えて,一般乗用旅客自動車運送事業
の許可申請者ないし一般乗用旅客自動車運送事業の運賃等の認可申請者と
競争関係にある事業者の事業用自動車の運転者の労働条件の確保に係る利
益を当該運転者個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨をも
含むものと解するのは困難であるといわざるを得ない。かえって,原告ら
が指摘する貨物自動車運送事業法7条の規定文言との対比からすれば,一
般乗用旅客自動車運送事業の緊急調整措置の発動要件である「輸送の安
全」は,専ら利用者(旅客)の安全を念頭に置いていると解されるのであ
って,この点からも,「輸送の安全」に上記競争関係にある事業者の運転
者の労働条件の確保に係る利益の保護の趣旨を読み込むのは困難というべ
きである。
ウ原告らは,労働基準法は法と目的を共通にする関係法令であり,法の趣
旨及び目的を考慮するに当たっては,労働基準法の趣旨及び目的を参酌す
べきであると主張する。
そこで検討するに,労働基準法1条1項は,労働条件は,労働者が人た
るに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない旨
規定し,同条2項は,この法律で定める労働条件の基準は最低のものであ
るから,労働関係の当事者は,この基準を理由として労働条件を低下させ
てはならないことはもとより,その向上を図るように努めなければならな
い旨規定する。このように,労働基準法は,労働者の労働条件が人たるに
値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならないとして
その最低限度を保障することを主たる目的とするものである。
これに対し,法は,平成18年改正法による改正前においても,輸送の
安全の確保をその目的に含むものと解されるものの,そうであるとしても,
輸送の安全及び利用者の利便の確保を目的として,これに必要な限度で自
動車運送事業の事業用自動車の運転者の労働条件にかかわる規制をしてい
るのであって,一般労働者の労働条件の最低限度を保障することを目的と
する労働基準法とはその趣旨及び目的を異にすることが明らかであるから,
法の趣旨及び目的を考慮する上で,労働基準法の趣旨及び目的を参酌する
ことはできない。敷衍するに,前記のとおり,平成12年改正法案の国会
における審議経過からも,本件改正後の法の下においては,運転者の賃金
その他の労働条件については基本的に労使間の交渉にゆだねることとして,
運転者の労働条件の著しい悪化の防止については緊急調整措置と運賃及び
料金の認可制によるダンピング運賃の設定の防止によって対応することが
予定されていたことがうかがわれるところである。
なお,原告らは,労働基準法が法と目的を共通にすることの根拠として,
平成12年改正法案の際の衆議院運輸委員会及び参議院交通・情報通信委
員会の各附帯決議の内容を指摘するが(会議録12,18号),各議院の
委員会が行う附帯決議は,審議した法律の運用や将来の立法によるその法
律の改善についての希望等を表明するものにすぎず,法律的な拘束力がな
いことはもとより,法の目的が附帯決議の内容によって左右されるもので
はない。また,原告らはその他にも近畿運輸局のヒアリングや抜き打ち監
査等を主張するが,いずれも労働基準法が法と目的を共通にすることの根
拠となるものではない。
エ原告らは,以上の他にも,「タクシー事業を巡る諸問題に関する検討ワ
ーキンググループ」の設置など近時の規制緩和の見直しに関する新たな行
政上の措置や対応の変化を挙げるなどして規制緩和により一般乗用旅客自
動車運送事業者の運転者の労働条件が低下しないことについての利益が法
により保護されるべきである旨主張するが,これらの点をすべて考慮して
も,法が一般旅客自動車運送事業の許可申請者ないし一般乗用旅客自動車
運送事業の運賃及び料金の認可申請者と競争の関係にある一般乗用旅客自
動車運送事業者の運転者の労働条件の確保に係る利益を運転者個々人の個
別的利益として保護すべきものとする趣旨をも含むものと解することはで
きない。
(6)結論
以上検討したところによれば,本件各事業許可及び本件各運賃認可の根拠
となる法令の規定が,これらの許可ないし認可の申請者と競争の関係にある
一般乗用旅客自動車運送事業者の運転者の労働条件の確保に係る利益を,個
々人の個別具体的利益としても保護すべきものとする趣旨をも含むものと解
することはできない。
したがって,原告らは,いずれも,その余の点について検討するまでもな
く,本件各処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきであるから,
本件各処分の取消しを求める訴えは,いずれも,その余の点について判断す
るまでもなく,不適法である。
2国家賠償請求の成否(争点③)について
(1)国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が
個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加え
たときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するもの
であり(最高裁平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日
第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照),公務員が行った行政処
分が国家賠償法上違法と評価されるには,当該行政処分が処分要件を欠き違
法であるのみならず,公務員が当該行政処分により損害を被ったと主張する
者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である。
原告らは,本件各処分を含む別紙2記載の各処分を国家賠償法上の違法行
為であると主張し,その違法事由は本件各処分の違法事由と同一であると主
張するので,以下,本件各処分の違法事由に関する主張の当否につき検討す
る。
(2)本件各事業許可について
原告らは,本件各事業許可が違法であることの理由として,法6条1号の
基準は,タクシー運転者の安全運転を確保するのに必要な労働条件を備えた
事業計画であることを要求するものであるところ,平成12年改正法が施行
された平成14年の段階で,既にタクシー業界は過剰供給の状態にあったか
ら,安易に新規事業の許可を与えることは必然的にタクシー運転者の労働条
件の悪化を招くものであり,同号に反し違法であると主張する。
しかしながら,前記のとおり,法6条1号の基準は,専ら当該申請に係る
事業の計画が当該申請者の一般乗用旅客自動車運送事業に係る輸送の安全を
確保するため適切なものであることを規定したものであり,当該申請に係る
事業の計画が当該申請者と競争の関係にある一般乗用旅客自動車運送事業者
の事業に係る輸送の安全を確保するため適切なものであることまでをも含む
ものではないと解されるのであって,原告らの主張するように,上記基準に
いう輸送の安全の確保に当該許可の申請者と競争の関係にある事業者の事業
に係る輸送の安全確保の趣旨を読み込んだ上,供給輸送力が輸送需要量に対
し過剰の状態にあって,当該申請を許可することが当該申請者と競争の関係
にある事業者の運転者の労働条件の悪化を招くことをもって,当該申請に係
る事業の計画が輸送の安全の確保に係る同号の基準に適合しないものと解す
ることは,一般乗用旅客自動車運送事業の参入について需給調整規制を廃止
し,供給輸送力の著しい過剰が生じた場合には緊急調整措置によって対応す
るものとした本件改正の趣旨と相いれないものというべきである。
そうであるところ,本件各事業許可に係る事業の計画が当該各申請者の事
業に係る輸送の安全を確保するために適切なものとはいえないことについて
の主張,立証はないから,本件各事業許可が違法であることを理由とする原
告らの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は,その前提を欠くものと
して,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(3)本件各運賃認可について
ア原告らは,要旨,法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こ
すこととなるおそれ」がある運賃とは,採算を度外視した運賃に限られず,
タクシー運転者の労働条件の悪化によりタクシー運転者の危険な運転等を
招来するような運賃をいうものと解すべきであるとした上,平成12年改
正法が施行された時点で既にタクシー業界が過剰供給の状態であり,タク
シー運転者の賃金が他の男子労働者の半分程度にまで落ち込んでいた状況
であったことからすれば,低額運賃を安易に認可することは,タクシー運
転者の労働条件をさらに悪化させ,過労運転や危険な運転等を招来するも
のであるとして,本件各運賃認可はいずれも法9条の3第2項3号に反し
違法であると主張するので,以下検討する。
イ「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義
(ア)前記のとおり,平成12年改正法による一般乗用旅客自動車運送事
業の運賃及び料金に関する規定の改正は,需給調整規制を廃止して,事
業者間の競争を促進し,事業者の創意工夫を活かした多様なサービスの
提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多様化した利用者の需要
に適合し,利用者の利便の確保,向上を図るという立法政策の下におい
て,利用者の需要に対応して創意工夫を活かしたサービスを提供するた
めの機動的,弾力的な運賃等の設定を可能にするとともに,他方で,利
用者に対する分かりやすさの確保に加えて,運賃等について不当な値下
げ競争(ダンピング競争)が起こった場合には,過労運転の常態化,輸
送の安全の確保の困難に結びつくおそれがあり,利用者の利便を損なう
ことになることにかんがみ,引き続き運賃及び料金の設定及び変更につ
いての認可制を維持し,運賃等の上限についての基準を設けるとともに,
不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等の設定の防止を
図ったものであるということができる。このような改正の趣旨等からす
れば,法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者と
の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客
自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全
を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引
き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのよう
なおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率
的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動
車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な
経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否
かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等
を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきである。
(イ)原告らは,前記のとおり,上記「不当な競争を引き起こすこととな
るおそれ」がある運賃とは,採算を度外視した運賃に限られず,タクシ
ー事業者の労働条件の悪化によりその危険な運転等を招来するような運
賃をいう旨主張する。
しかしながら,旧法の一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の
認可制度は,運賃及び料金の下限を規制することにより需給調整規制と
相まって事業者による秩序ある安定的なサービスの提供を確保するとと
もに,一定の競争制限を行うことによって特に割高な運賃や適切でない
運賃が収受されることのないようにその上限を規制し,併せて,事業者
間に運賃等に関して不当な値下げ競争(ダンピング競争)が起こるとい
った事態を防止する趣旨のものであったのに対し,本件改正後の法の一
般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可制度は,利用者保護の
観点から運賃及び料金の上限に関する規制の基準のみを定め,旧法が運
賃及び料金の下限に関する規制の基準として規定していた「能率的な経
営の下における適正な原価を償い」の基準を認可基準から削除すること
により,一般乗用旅客自動車運送事業者に利用者の需要に対応して創意
工夫を活かしたサービスを提供するための機動的,弾力的な運賃等を設
定することを可能にし,もって,利用者の利便の確保,向上を図るとと
もに,不当な値下げ競争(ダンピング競争)が起こった場合には,過労
運転の常態化,輸送の安全の確保の困難に結びつくおそれがあり,利用
者の利便を損なうことになることにかんがみ,利用者保護の観点から,
引き続き旧法9条2項4号の基準を法9条の3第2項3号として存置す
ることにより,不当な競争を意図する値引き運賃(ダンピング運賃)等
の設定の防止を図る趣旨のものであると解される。そして,このような
改正の趣旨からすれば,法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自
動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」と
は,他の一般乗用旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態
化等により輸送の安全を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ
競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解される上,旧法9条2
項1号にいう「能率的な経営の下における適正な原価」(個々の一般乗
用旅客自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮し
て合理的な経営をしている場合において必要とされる原価)を償わない
運賃及び料金がそれのみで直ちに他の一般乗用旅客自動車運送事業者と
の間において過労運転の常態化等により輸送の安全を損なうことになる
ような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあると
経験則上推認することはできず,また,「能率的な経営の下における適
正な原価」を償う運賃及び料金であれば他の一般乗用旅客自動車運送事
業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全を損なうこと
になるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれは
ないと経験則上推認することもできないというべきである。
以上のとおりであるから,原告らの上記主張が,「能率的な経営の下
における適正な原価」を償う運賃及び料金であっても法9条の3第2項
3号の基準に該当する場合があるという趣旨のものであれば,その限り
において理由があるということができるものの,低額運賃が認可される
ことにより他の一般乗用旅客自動車運送事業者の運転者の労働条件が悪
化し危険運転等を招来するおそれがあれば,過労運転の常態化等により
輸送の安全を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き
起こす具体的なおそれの有無のいかんにかかわらず,同号の基準に該当
するという趣旨のものであれば,これを採用することはできない。
ウ近畿運輸局長の裁量権
法9条の3第2項3号の「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」
という基準は,上記イにおいて説示したとおり解することができるとして
もなお抽象的,概括的であり,しかも,この基準に適合するか否かは,行
政庁の専門的,技術的な知識経験及び公益上の判断を必要とするものであ
るから,同号の基準に適合するか否かの判断については,国土交通大臣等
にある程度の裁量権が認められるものと解される(最高裁平成7年(オ)
第947号同11年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事193号57
1頁参照)。
したがって,本件においては,近畿運輸局長が本件各運賃認可をするに
当たり,各認可申請が同号の基準に適合するものとした判断が,その裁量
権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるか否かを検討すべきこ
ととなる。
ところで,本件各運賃認可は,いずれも,低額運賃の設定又は変更に係
るものであるところ,弁論の全趣旨によれば,近畿運輸局長は,法9条の
3第2項に基づく審査基準として,別紙3のとおり審査基準公示を定め,
これに従って一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の設
定及び変更の認可を行う運用をしているものと認められる。そこで,まず,
審査基準公示のうち低額運賃申請に関する部分が,法9条の3第2項3号
の基準に適合するか否かを判断するための基準として合理的なものである
か否かについて検討することとする。
エ審査基準公示の概要
審査基準公示に基づく近畿運輸局長における一般乗用旅客自動車運送事
業に係る旅客の運賃及び料金の設定及び変更の認可申請の処理手続は,概
要,以下のとおりである。
(ア)自動認可運賃の設定
近畿運輸局長は,後記(イ)の要領で自動認可運賃を設定し,これを事
前に公示する(審査基準公示4項,同別紙4第1項)。
(イ)自動認可運賃の設定方法
a原価計算対象事業者の選定
近畿運輸局長は,運賃適用地域(需要構造,原価水準等を勘案して
運賃改定手続をまとめて取り扱うことが合理的であると認められる地
域として近畿運輸局長が定める一定の地域)内において,改定申請事
業者の中から標準的経営を行っている事業者を標準能率事業者として
選定するが,その選定に当たっては,①原価標準基準(1人1車制
個人タクシー事業者及び小規模個人経営者(5両以下),3年以上存
続していない事業者,料金について標準的なものと大幅に異なるもの
を設定している事業者等),②サービス標準基準(事業用自動車の
平均車齢が,当該運賃適用地域の全事業者の平均値に比較して,特に
高いと認められる事業者,タクシーサービスの著しく不良な事業者
等),又は③効率性基準(運賃適用地域の事業者のうち年間平均実
働率又は生産性(従業員1人当たりの営業収入)の水準が,当該地域
内の全事業者の上位からおおむね80%の順位にある水準以下の事業
者等),に該当する者を除いた者とする(審査基準公示別紙1第1)。
近畿運輸局長は,標準能率事業者の中から,①車両規模別にそれ
ぞれ50%を抽出する,②その抽出に当たっては,各運賃額別,車
両数規模別に申請事業者全体に対する車両数比率を算出し,その比率
をもって事業者を抽出する,③抽出事業者数の最低は10社とし,
30社を超える場合は30社を限度とすることができるものとする,
④抽出事業者の実績加重平均収支率が標準能率事業者の実績加重平
均収支率を下回らないように抽出するものとする,との基準により,
原価計算対象事業者を抽出する(審査基準公示別紙2第1項)。
b所要増収率の算定
近畿運輸局長は,原価計算対象事業者の実績年度(最近の実績年度
1年間)における実績値及びそれに基づいて算定した翌年度(実績年
度の翌年度)の算定値等を基に,平年度(実績年度の翌々年度)の一
般乗用旅客自動車運送事業の営業費(人件費,燃料油脂費,車両修繕
費,車両償却費,その他運送費及び一般管理費),営業外費用及び適
正利潤を合計した額,すなわち運賃原価を算定し,また,「実績年度
の車キロ当たり収入×査定実車走行キロ」の式により同事業者の運送
収入を算定する(審査基準公示別紙2第2ないし第7)。そして,
「{運賃原価−(実績年度運送雑収+実績年度営業外収益)}/運送
収入−1」の式により,所要増収率を算定する(同別紙2第7,第
8)。なお,人件費は給与,退職金,厚生費の合計額とし,「平均給
与月額×支給延人員×(1+退職金支給率+厚生費支給率)」の式に
より算定する。また,平均給与月額は,基準賃金,基準外賃金及び賞
与(一時金を含む。)の年間総額の12分の1の額とする(同別紙2
第6の2(1))。
c自動認可運賃の算定
近畿運輸局長は,改定前の上限初乗運賃額に所要増収率を乗じた額
(端数は10円単位に四捨五入した額)を上限初乗運賃額とし,この
額と,この額から所定の式(例えば,距離制運賃の下限運賃の初乗運
賃額は,上限初乗運賃額に小型・免税事業者の下限初乗運賃額を中型
・課税事業者の上限初乗運賃額で除したものを乗じた額(端数は10
円単位に切上げする。)とされ,時間制運賃の下限運賃の初乗運賃額
は,時間制上限運賃の初乗運賃額に距離制下限初乗運賃額を距離制上
限初乗運賃額で除したものを乗じた額とされる。)により算出される
下限初乗運賃額(端数は10円単位に切上げした額)の範囲内におい
て,10円単位で初乗運賃額を設定し,さらに,当該初乗運賃額に対
応した加算距離及び加算運賃額を所定の式により算定して,それらを
自動認可運賃として設定する(審査基準公示3項(2),4項,同別
紙2別添2,同別紙3,同別紙4第1項)。
(ウ)自動認可運賃に該当する運賃の認可申請の処理手続
近畿運輸局長は,自動認可運賃の認可申請については,速やかに認可
を行うものとする(審査基準公示4項,同別紙4第2項)。
(エ)自動認可運賃に該当しない運賃の認可申請の処理手続
近畿運輸局長は,申請に係る運賃が当該運賃適用地域の自動認可運賃
に該当せず,かつ,運賃改定(運賃適用地域において普通車の最も高額
の運賃よりも高い運賃を設定すること)を伴わない運賃に係る申請(低
額運賃申請)については,認可要件に沿って,不当な競争を引き起こす
おそれがないかどうかや不当に差別的なものでないか等を個別に審査,
判断するものとし,次のとおり処理する(審査基準公示4項,同別紙4
第3項)。
a原価及び収入の算定
近畿運輸局長は,申請者において実績年度の原価及び収入を基に,審
査基準公示別紙2第2項から第8項(同第6項中適正利潤は運賃原価か
ら除外する。)により算定した(これによらない場合は,合理的な理由
を付した上でこれに準じた形で算定した)書類を作成の上申請書に添付
して提出することを求めることとする。近畿運輸局長においては,この
添付書類を基に,平年度における申請者の原価及び収入を査定すること
とする。ただし,人件費については,申請者の運転者1人当たり平均給
与月額(福利厚生費を含む。以下同じ。)が原価計算対象事業者の運転
者1人当たり平均給与月額の平均の額(標準人件費)の10%を超えて
下回っているときは,(1)労使間で当該申請について了解がある場合,
又は(2)過去2年間に労働基準法違反及び自動車運転者の労働時間等
の改善のための基準(改善基準告示)違反が認定されていない場合は,
申請者の実績値を用い,その他の場合には標準人件費を10%下回る額
で人件費を査定することとする。
b運賃査定額の算定
近畿運輸局長は,上記aによる査定を行った上で,平年度における収
支率が100%となる変更後の運賃額(運賃査定額)を算定することと
する。ただし,運賃査定額が自動認可運賃となる場合にあっては申請額
に最も近い自動認可運賃額をもって運賃査定額とすることとする。
c申請に対する処分
近畿運輸局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額以上である場合は
申請額で認可することとする。
また,同局長は,申請に係る運賃の額が運賃査定額に満たない場合は
運賃査定額を申請者に通知し,通知後2週間以内に申請額を運賃査定額
に変更することができることとする。同局長は,変更申請がない場合は,
当該申請による運賃を設定することによる労働条件への影響等について
も審査の上,その適否を判断することとする。
オ審査基準公示(低額運賃申請に関する部分)の裁量基準としての合理性
以上によれば,自動認可運賃に該当せず,かつ,運賃の値上げである運
賃改定を伴わない運賃及び料金に係る申請(低額運賃申請)がされた場合
には,実績年度の申請者の原価及び収入(又はこれに準じたもの)を基に
平年度における申請者の原価及び収入を査定し,それを基に平年度におけ
る収支率が100%となる変更後の運賃額(運賃査定額)を算定して,当
該申請に係る運賃等の額が運賃査定額以上である場合は,それ以上の個別
の審査をすることなく,その額で運賃等の設定又は変更の認可をするもの
とされており,上記の運賃査定額の算定における原価の算定に当たっては,
申請者の実績年度の原価(又はこれに準じたもの)を基に,審査基準公示
別紙2第6の適正利潤を除外して算定するものとし,人件費については,
申請者の運転者1人当たり平均給与月額が原価計算対象事業者のそれの平
均額(標準人件費)の10%を超えて下回っているときは,労使間で当該
申請について了解がある場合,又は過去2年間に労働基準法違反及び改善
基準告示違反が認定されていない場合を除き,標準人件費を10%下回る
額で査定することとされている。
このように,運賃査定額の算定において,当該申請における人件費が標
準人件費に照らして適正な範囲内にあるかどうかを申請ごとに確認し,当
該申請における人件費(運転者1人当たり平均給与月額)が標準人件費の
10%を超えて下回っているときは審査の要件を加重することとして,タ
クシー運転者の賃金へのしわ寄せないし過労運転の常態化への配慮がされ
ており,さらに,前記認定の原価計算対象事業者の抽出方法等も併せ考え
れば,申請に係る運賃等の額が運賃査定額以上である場合には,当該地域
内において当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者
との間において過労運転の常態化等により輸送の安全を損なうことになる
ような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こすような事態が生ずる可能性
は低いと考えられる。
そうであるとすれば,当該申請に係る運賃等が運賃査定額を下回らない
限り,それ以上の個別審査を要することなく,法9条の3第2項3号にい
う「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこと
となるおそれがないものであること」を始め同項各号の基準に適合するも
のとして取り扱うことは,特段の事情がない限り,国土交通大臣等の裁量
権の行使の在り方としてその合理性を肯定することができる(ただし,当
該申請に係る運賃等が運賃査定額を上回る場合であっても,当該申請者の
市場の中での位置付け,当該運賃を設定した意図等に照らして,当該地域
内において当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者
との間において過労運転の常態化等により輸送の安全を損なうことになる
ような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれが認められ
る特段の事情がある場合は,同項3号の基準に適合しないものとして,当
該申請を認可することは許されないものというべきである。)。
カ証拠(乙15ないし25,55ないし65)及び弁論の全趣旨によれば,
本件各運賃認可は,申請者が審査基準公示に従って作成した原価計算書を
添付してこれを申請し,近畿運輸局長は,これらの原価計算書を基に,審
査基準公示に従った査定を行った上,申請に係る運賃等の額が運賃査定額
以上である(収支率が100%を上回る)としてされたものと認められる。
そして,これらの申請のうち,実績年度を有しないいわゆる新規参入事業
者(N株式会社,O株式会社及びP有限会社の3社がこれに当たると認め
られる。以下「本件新規参入事業者」という。)に係るものを除いて,そ
の原価計算書は実績年度の原価及び収入を基に審査基準公示に従って作成
されたものと認められ,近畿運輸局長の査定も審査基準公示に従って適正
に行われた(原価計算書における人件費の額(申請者の労働者1人当たり
平均給与額)が標準人件費の額の10%を超えて下回っているものについ
ては労働組合の当該申請についての合意書の提出を受けるなど当該申請者
の労使間に当該申請についての了解があることを確認の上行われた)もの
と認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
そうであるとすれば,本件各運賃認可のうち本件新規参入事業者以外の
申請に係るものについては,審査基準公示に従って適正に行われたものと
いうことができるから,特段の事情がない限り,近畿運輸局長がこれらの
認可をするに当たり法9条の3第2項3号の基準に適合するとした判断が,
その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるということは
できない。
キ新規参入事業者の低額運賃申請に対する認可について
(ア)原告らは,本件各運賃認可のうち,新規参入事業者による低額運賃
申請に対する認可は,審査基準公示の定めがないにもかかわらず認可さ
れたものか,恣意的でずさんな判断により行われたものであり,違法で
あると主張するので,以下,検討する。
(イ)前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,近畿運輸局長は,新規参入
事業者の自動認可運賃に該当しない運賃等設定の認可申請については,
審査基準公示別紙4第3の1の「(これによらない場合は,合理的な理
由を付した上でこれに準じた形で算定した)書類」として,事業遂行の
ための向こう1年間の見込み数値及びその算出根拠を記載した書面の提
出を求めた上,審査基準公示別紙2に基づき,下記のとおり審査を行っ
ていること,本件新規参入事業者の運賃等設定認可申請についても,事
業遂行のための向こう1年間の見込み数値及びその算出根拠を記載して
作成された原価計算書(算出根拠については原価計算書中の収支見積書
の算出方法欄に記載)を基に下記の方法で査定を行った上,申請に係る
運賃等の額が運賃査定額以上である(収支率が100パーセントを上回
る)としてこれを認可したこと,以上のとおり認められ,この認定を左
右するに足りる証拠はない。

a収入
同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社の実績平均値を用
い,他に系列事業者がある場合は当該系列事業者の実績値をも用いて査
定を行う。同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社の実績平
均値を用いるに当たっては,申請運賃と同額の運賃でおおよそ1年以上
の実績があり,1年の期限を付して認可している事業者で実績の報告が
義務付けられている事業者をもすべて選定し,これに該当する事業者が
1社しかない場合にはその1社を対象とする。該当する事業者が存しな
いときは,最も近似した額の運賃を設定している事業者の実績と原価計
算対象事業者のうち申請事業者と同形態の営業を行っている事業者の実
績を参考に査定する。
b支出
申請事業者が提出した一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人
タクシーを除く。)経営許可申請書に記載された原価の金額と運賃認可
申請書に記載された原価の金額とに整合性があるかどうかを確認した上,
次のとおり査定する。
(a)人件費
申請額が審査基準公示に基づき申請者の属する営業区域の事業者の原
価計算対象事業者の運転者1人当たり平均給与月額の平均額(標準人件
費)を10%下回った金額を下限として修正した人件費で査定を行う
(すなわち,申請に係る人件費が標準人件費を10%下回る額よりも低
い金額である場合には標準人件費を10%下回る額により査定し,標準
人件費を10%下回る額を超える金額である場合には申請に係る額によ
り査定する。)。
(b)その他
燃料油脂費,車両修繕費,車両償却費,その他諸経費(保険料等),
一般管理費等については,他の事業者の実績等から他の事業者が費やし
ている経費を単価換算した数値や,燃料油脂費などは市況による変動も
考慮し,現在の市場価格も勘案した上で,新規参入事業者の申請値が著
しくかい離した数値になっていないかどうかの審査を行い,申請値が他
の事業者が要している費用の数値等を基に妥当な額であると判断するこ
とができる場合は新規参入事業者の申請値を用い,妥当な額と認められ
ないときは他の事業者が要している費用の数値等を用いて審査を行う。
妥当か否かの判断に当たっては,同一営業区域で申請運賃を実施してい
る他の事業者の実績と比較するとともに,系列事業者が存する場合には
系列事業者の実績との比較をも行う。例えば,燃料油脂費については,
同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社の実績平均値を用い
て審査を行い,車両修繕費,車両償却費,その他諸経費,一般管理費に
ついても,同様に,同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社
の実績平均値等を用いて審査を行う。
(ウ)上記認定事実によれば,新規参入事業者に対する査定においては,
運賃査定額の算定において人件費は常に標準人件費を10%下回る額以
上の額で査定するものとされていて,タクシー運転者の賃金へのしわ寄
せないし過労運転の常態化への配慮がされているほか,その他の支出項
目や収入についても,同一営業区域で申請運賃を実施している事業者の
実績(当該事業者が存しない場合は最も近似した額の運賃を設定してい
る事業者の実績ないし原価計算対象事業者のうち申請事業者と同形態の
営業を行っている事業者の実績)や当該申請者の系列事業者の実績を基
に,審査基準公示別紙2の第2から第8までに定める運賃原価収入算定
基準に従って査定を行うものとされているのであって,新規参入事業者
以外のいわゆる既存事業者の運賃変更認可申請について審査基準公示が
定める基準に準じた内容となっているのであるから,新規参入事業者の
申請に係る運賃等が上記の方法で算定された運賃査定額以上である場合
には,当該地域内において当該申請を認可することにより他の一般旅客
自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全
を損なうことになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こすよう
な事態が生ずる可能性は低いと考えられる。そうであるとすれば,新規
参入事業者の運賃設定認可申請についても,既存事業者の運賃変更認可
申請の場合と同様に,当該申請に係る運賃等が上記の方法によって算定
された運賃査定額を下回らない限り,それ以上の個別審査を要すること
なく,法9条の3第2項3号の基準に適合するものとして取り扱うこと
は,特段の事情がない限り,国土交通大臣等の裁量権の行使の在り方と
してその合理性を肯定することができる。
そして,前記認定のとおり,本件新規参入事業者の運賃設定認可申請
についても,近畿運輸局長において審査基準公示に基づき上記の方法に
従って査定を行った上,申請に係る運賃等の額が運賃査定額以上である
(収支率が100パーセントを上回る)としてこれを認可したものであ
るというのであるから,特段の事情がない限り,近畿運輸局長がこれら
の認可をするに当たり法9条の3第2項3号の基準に適合するとした判
断が,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるとい
うことはできない。
(エ)原告らは,審査基準公示別紙4第3の1の「(これによらない場
合は,合理的な理由を付した上でこれに準じた形で算定した)書類につ
き,「これによらない場合」とは,「別紙2第2項から第8項によらな
い場合」を意味するというべきであり,自動認可運賃に該当しない運賃
認可申請については常に「実績年度の原価及び収入をもとに」上記添付
書類を作成することが必要であると主張して,実績年度を持たない新規
参入事業者に対する低額運賃の認可は審査基準公示に反するものであり,
違法であると主張する。
しかし,審査基準公示別紙4第3が自動認可運賃に該当しない運賃申
請の処理要領として規定する内容に照らしても,「これによらない場
合」とは,実績年度の原価及び収入をもとに,別紙2第2項から第8項
により算定することができない場合をいうものと解するのが合理的であ
る。原告らの解釈によれば,審査基準公示の下では,新規参入事業者は,
およそ低額運賃申請を行うことができないこととなるが,新規参入事業
者の低額運賃申請を認可することにより直ちに他の一般旅客自動車運送
事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全を損なうこ
とになるような運賃等の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれ
があると経験則上推認することもできないことからすれば,審査基準公
示がそのような事態をおよそ想定していないことは明らかというべきで
ある。
また,原告らは,仮に審査基準公示別紙4の原価計算書が「実績年度
の原価及び収入」をもとに作成されたものでなくてもよいとしても,
「(これによらない場合は,合理的な理由を付した上でこれに準じた形
で算定した)書類」とは,別紙2第2項から第8項によらないことの合
理的な理由を付した書類を要すると主張して,これを添付していない本
件新規参入事業者の申請は違法であると主張する。しかし,同じく一般
乗用旅客自動車運送事業者である新規参入事業者の低額運賃申請につい
てのみ,審査基準公示別紙2の第2項から第8項までに定める運賃原価
収入の算定方法によらないものとする合理的理由は何ら見いだせないか
ら,原告らの上記主張も採用することができない。
(オ)原告らは,新規参入事業者の低額運賃申請に対する審査の方法に
ついて,①同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社の実績
平均値や当該系列事業者の実績値という基準は審査基準公示にはない,
②「同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社」には期間限
定付き認可を受けている事業者の実績値も含まれているところ,これは
収支を償うかどうか不確定であるから暫定的な認可とされているものと
解されるから,このような事業者の実績値を用いることは不適切である,
③「同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社」が1社しか
ないときはその1社を対象とし,これがない場合でも最も近似した額の
運賃を設定している事業者の実績を参考にするということになると,い
かなる申請においても実績平均値が存在することになる,などと主張す
る。
しかし,①については,実績年度を有しない新規参入事業者の低額運
賃申請において,既存事業者の低額運賃申請について審査基準公示が定
める基準に準じ,同一営業区域で申請運賃を実施している事業者数社の
実績平均値や他に系列事業者がある場合は当該系列事業者の実績値も用
いて審査基準公示の定める運賃原価収入算定基準に従って査定を行うこ
とは,十分に合理的であるということができる。また,②については,
認可に期限を付すことは法により認められており(法86条1項),こ
れらの認可も法9条の3第2項各号の基準に適合するものとしてされて
いる以上,その事業者の実績値を査定の根拠として用いることが特段不
合理であるということもできない。さらに,③についても,以上説示し
たところからすれば,特段不合理であるとはいえない。
また,原告らは,①申請者の申請額が他の事業者が要している費用
等の数値を基に妥当な額か否かを判断するというのは,主観的な査定上
の経験則に基づく判断によって査定することにほかならないから,実績
年度を持たない新規参入事業者の低額運賃申請に対する査定として,あ
まりにずさんである,②人件費についても,理由が判然としない査定
がされており,標準人件費の90パーセントを上回っている申請人件費
を減額して査定し,認可ありきの前提で,収支の帳尻を合わせるために
されたものとしか評価することができない,などと主張する。
しかし,新規参入事業者の低額運賃申請についての前記審査の方法が
新規参入事業者以外のいわゆる既存事業者の運賃変更認可申請について
審査基準公示が定める基準に準じた内容となっておりそれ自体特段不合
理ということができないことは前記のとおりである上,人件費について
は,常に標準人件費を10%下回る額以上の額で査定するものとされて
いて,タクシー運転者の賃金へのしわ寄せないし過労運転の常態化への
配慮がされていることも,前記のとおりであるから,近畿運輸局長が当
該審査の方法に従ってした本件新規参入事業者に対する認可が,直ちに
その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるということ
はできない。
以上のとおりであるから,原告らの主張はいずれも採用することがで
きない。
(カ)原告らは,近畿運輸局長は,低額運賃を認可する際,査定数値を
申請事業者に通知していないが,申請者は自己の申請額が見込み違いで
あっても運賃認可を得てしまうことになり,その見込み違いは人件費の
抑制を招き,タクシー運転者の労働条件を過酷なものとするのであり,
この点を看過した本件各運賃認可は,法9条の3第2項3号に反し違法
であると主張する。
しかし,審査基準公示によれば,申請に係る運賃の額が運賃査定額に
満たない場合は,申請者に申請額を運賃査定額に変更する機会を与える
ために,運賃査定額を申請者に通知する必要があるが,申請に係る運賃
の額が運賃査定額以上である場合(すなわち,収支率が100パーセン
ト以上となる場合)は,申請額で認可することとなるから,運賃査定額
を申請事業者に通知する必要がないのであって,そのことのゆえに近畿
運輸局長が低額運賃申請を認可する場合に運賃査定額を申請事業者に通
知しない運用をしているものと認められるところ,申請運賃の査定が審
査基準公示に従って適正に行われている限り,申請事業者に対する運賃
査定額の通知の有無いかんにかかわらず,当該運賃の認可は,特段の事
情がない限り,法9条の3第2項3号の基準に適合するものと解される
ことは,前記のとおりであるから,原告らの上記主張は採用することが
できない。
ク原告らは,平成12年改正法の施行時点でタクシー業界は既に過剰供給
状態にあり,タクシー運転者の賃金水準も他の労働者と比較して相当低い
ものであったから,安易な低額運賃の認可は「不当な競争を引き起こすこ
ととなるおそれ」があり法9条の3第2項3号に違反すると主張する。
(ア)前記前提となる事実等に加えて証拠(甲11,12,47,67,
84,85,88,93,95,96)及び弁論の全趣旨によれば,平
成11年の地域需給動向判断によれば,大阪市域交通圏では基準車両数
8030台に対し恒久車両数が1万3140両となっていたこと,平成
17年3月31日当時の大阪地域(大阪府内)における本件改正後の新
規参入及び増減車等の状況並びに車両及び運転者の増加状況は,前記前
提となる事実等(5)エ及びオのとおりであって,本件改正前の平成14年
1月31日当時と比べて,平成17年3月31日時点においては,車両
数は約12.0%,運転者は約2.1%増加し,平成17年度以降も増
加を続けていること,大阪地域(大阪府内)における本件改正後の運賃
等の状況は,前記前提となる事実等(5)カのとおりであって,平成17年
3月31日当時,遠距離割引運賃の認可を受けた者が車両数にして79.
4%,そのうち最も割引率の高い5000円超5割引の遠距離割引運賃
の認可を受けた者が車両数にして75.1%に及び,低額運賃認可につ
いては,初乗り運賃550円以下の低額運賃の認可を受けた者が車両数
にして7.1%,そのうち最も低額の初乗り500円の運賃の認可を受
けた者が車両数にして3.2%存在していたこと,大阪地域(大阪府
内)における平成11年度から平成15年度までの実車率,輸送人員,
営業収入,キロ当たり収入,実働車1日1車当たりの走行キロ,輸送人
員,実車キロ,営業収入等は,前記前提となる事実等(5)キ(イ)のとおり,
いずれも年々減少し,平成16年4月から同年10月までの半期の実車
率は41.6%,実働車1日1車当たりの走行キロは209㎞,実車キ
ロは87㎞,営業収入は2万9837円まで下がっていたこと,大阪地
域(大阪府内)におけるタクシーを第一当事者とする交通事故発生状況
は,平成15年が2441件であったのに対し平成16年が2627件
と前年度に比べて約7.6%増加していること,本件改正前後の大阪府
内におけるタクシー乗務員と他産業労働者の賃金(年収)比較及びその
推移は前記前提となる事実等(5)クのとおりであるほか,平成16年度に
ついては,タクシー乗務員平均年収は307万9800円で他産業(男
子労働者)平均年収(581万5900円)の52.95%,平成17
年度については,タクシー乗務員平均年収は321万5500円で他産
業(男子労働者)平均年収(599万2000円)の53.66%,平
成18年度については,タクシー乗務員平均年収は327万8100円
で他産業(男子労働者)平均年収(593万2000円)の55.26
%となっていること,近畿運輸局管内における本件改正前後のタクシー
及びハイヤーの輸送実績の推移は,前記前提となる事実等(5)キ(ア)の
とおりであって,営業収入,1事業者当たりの収入,1車両当たりの収
入及び1走行キロ当たりの収入はいずれも年々減少していること,国土
交通省では,緊急調整地域の指定に至る事態を未然に防止するための運
用上の措置として,供給過剰の兆候のある地域を「特別監視地域」に指
定し,重点的な監査や行政処分の厳格化等の措置を講じ,さらに,特別
監視地域のうち供給拡大により運転者の労働条件の悪化等を招く懸念が
ある地域を「特定特別監視地域」に指定し,これらの地域等において,
運転者の労働条件の悪化や不適切な事業運営の下で行われる供給の拡大
について事業者の慎重な判断を促すための試行的措置を講じているとこ
ろ,平成20年7月11日当時,大阪府内の大阪市域交通圏,北摂交通
圏,河北交通圏,河南B交通圏及び泉州交通圏が特定特別監視地域に指
定されていること,近畿運輸局管内における平成15年度の一般乗用旅
客自動車運送事業者中法令違反に対する行政処分等を受けた事業者は2
34者であること,自動車運転者を使用する事業場のうちハイヤー・タ
クシー業に係る労働基準関係法令違反事業場数(監督実施事業場数に占
める割合)は,平成16年が408件(84.1%),平成17年が7
45件(81.8%),平成18年が784件(84.1%),自動車
運転者を使用する事業場のうちハイヤー・タクシー業に係る改善基準告
示違反事業場数(監督実施事業場数に占める割合)は,平成16年が2
43件(50.1%),平成17年が419件(46.0%),平成1
8年が493件(52.9%)となっており,平成18年におけるその
違反内容をみると,労働基準関係法令違反では労働時間の違反が529
件(56.8%),改善基準告示違反では総拘束時間の違反が344件
(36.9%),最大拘束時間違反が369件(39.6%)となって
いること,以上の事実が認められる。
(イ)上記の事実関係によれば,大阪府域のタクシー市場は,本件改正の
時点で既に供給過剰の状態にあった様子がうかがわれ,タクシー乗務員
(運転者)の賃金は他産業男子労働者の賃金の約2分の1強の低い水準
で推移していたところ,本件改正後,車両数及び運転者数が年々増加す
るとともに,他方で,運賃の設定が多様化し,平成17年3月31日当
時,遠距離割引運賃の認可を受けた者が車両数にして79.4%,その
うち最も割引率の高い5000円超5割引の遠距離割引運賃の認可を受
けた者が車両数にして75.1%に及び,低額運賃認可については,初
乗り運賃550円以下の低額運賃の認可を受けた者が車両数にして7.
1%,そのうち最も低額の初乗り500円の運賃の認可を受けた者が車
両数にして3.2%存在するに至るなど,運賃の低額化が進み,その結
果,実働車1日1車当たりの営業収入も年々減少し,運転者の長時間労
働を招来するなどし,また,それに伴って事故率も増加している様子が
うかがわれる。
しかしながら,上記認定事実からは,本件改正後,大阪府域において,
車両数が増加するとともに運賃の低額化が進んだことにより本件改正前
に比べて事業者間の競争が激しくなり,それに伴って事業者に雇用され
る運転者の労働時間を始めとする労働条件が一般的に悪化した様子はう
かがわれるものの,いまだタクシー市場が著しい供給過剰の状態にまで
至っているとは認められない上,本件改正前に比べて運転者の賃金水準
が著しく低下したとも認められないのであって,本件改正により運転者
の労働条件が一般的に過労運転の常態化等により輸送の安全を損なう具
体的なおそれがあるほどまでに悪化したとは直ちに認め難い。そして,
前記のとおり,本件改正は,一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事
業)が,事業の性質上,輸送の安全の確保が運転者の適切な業務遂行に
依存するところが大きいことに加えて,人件費が経費の主要部分を構成
し,しかも,運転者の賃金形態が基本的に歩合制になじみやすく,他方
で,事業者にとって,人件費の削減と増車による事業拡大が収益拡大の
ための容易な手段であるという特性を有するものであることを踏まえた
上で,事業者間の競争を促進することにより,事業者の創意工夫を活か
した多様なサービスの提供や事業の効率化,活性化を図り,もって,多
様化した利用者の需要に適合し,利用者の利便の確保,向上を図る趣旨
から,事業への参入に係る需給調整規制を廃止するとともに,運賃及び
料金の下限に関する規制の基準(「能率的な経営の下における適正な原
価を償い」の基準)を認可基準から削除することにより,機動的,弾力
的な運賃等の設定を可能にし,競争の激化による運転者の労働条件の著
しい悪化の防止については緊急調整措置と運賃及び料金の認可制による
ダンピング運賃の設定の防止によって対応することとしたものであり,
このような本件改正の趣旨及び内容からすれば,上記認定程度の大阪府
域のタクシー事業に係る市場状況は平成12年改正法が想定内の事態と
して織り込み済みであるということができるのであって,このような一
般的状況をもって直ちに法8条にいう「一般乗用旅客自動車運送事業の
供給輸送力が輸送需要量に対し著しく過剰となっている場合」に該当す
るとも法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者と
の間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」があるとすることも
できないことは明らかというべきである。
(ウ)そうであるところ,前記前提となる事実等によれば,本件各運賃認
可に係る低額運賃は,いずれも,遠距離割引運賃5000円超5割引,
初乗り運賃500円を下回るものではないから,これらの低額運賃が認
可されたことから直ちに,事業者間に上記認定の大阪府域における一般
的な状況を超えた激しい競争が生じ,事業に従事する運転者の過労運転
の常態化等による輸送の安全が損なわれる具体的なおそれが生じたとは
認め難く,他に当該申請者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定
した意図等に照らして,当該地域内において当該申請を認可することに
より他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等
により輸送の安全を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当
な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれが生じたことについての主張,
立証もない。
したがって,近畿運輸局長が審査基準公示に基づいて認可することに
より当該地域内において他の一般旅客自動車運送事業者との間において
過労運転の常態化等により輸送の安全を損なうことになるような旅客の
運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあると
認めるに足りる特段の事情(申請に係る運賃が運賃査定額以上であって
も認可をすべきでない特段の事情)を見いだすことはできないから,原
告らの前記主張は採用することができない。
(4)本件各処分を含む別紙2記載の各処分の違法性について
原告らは,国家賠償法上の違法行為として,本件各処分を含む別紙2記載
の各処分を挙げるが,その主張する違法事由はいずれも本件各処分の違法事
由と同じであって,他の違法事由についての主張,立証はないところ,上記
(2)及び(3)において認定説示したところによれば,本件各処分を含む別紙2
記載の各処分につき違法があるとは認められない。
したがって,本件各処分を含む別紙2記載の各処分はいずれも法6条1号
又は法9条の3第2項3号に反し違法であるとは認められないから,その余
の点を判断するまでもなく,原告らの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償
請求はいずれも理由がない。
3結論
以上によれば,本件各訴えのうち本件各処分の取消しを求める部分はいずれ
も不適法であるからこれを却下し,原告らのその余の請求はいずれも理由がな
いからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西川知一郎
裁判官徳地淳
裁判官釜村健太
(別紙1)
第1許可関係
支局申請日事業者名交通圏車両数許可日
38平成17年1月27日有限会社G大阪市域10平成17年5月12日付許可大阪
39平成17年3月2日N株式会社大阪市域15平成17年5月31日付許可
・河北
40平成17年3月9日大阪市域10平成17年6月6日付許可
41平成17年3月30日O株式会社大阪市域10平成17年8月19日付許可
44平成17年6月7日P有限会社大阪市域10平成17年8月19日付許可
10平成17年2月9日神戸市域10平成17年4月28日付許可兵庫
11平成17年2月25日神戸市域10平成17年5月30日付許可
12平成17年3月31日神戸市域10平成17年6月30日付許可
13平成17年4月1日神戸市域10平成17年6月30日付許可
14平成17年4月8日神戸市域10平成17年7月7日許可
第2認可関係
申請日事業者名申請内容認可日
平成17年2月有限会社H基本運賃初乗り2㎞中型500円,加算運賃50円/225m,平成17年
22日時間距離併用運賃「1分25秒50円」5月12日
平成17年3月N株式会社基本運賃初乗り2㎞大中小型500円平成17年
2日5月31日
(大阪市域の加算運賃大型50円/200m,中型50円/225m,小型50円/2
み)44m
(河北は下限運時間距離併用大型50円(1分15秒),中型50円(1分25
賃)秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,迎車回送料金なし,時間制運賃下限設

平成17年4月O株式会社基本運賃初乗り2㎞大中小型500円平成17年
1日8月19日
(大阪市域)加算運賃大型50円/200m,中型50円/225m,小型50円/2
44m
時間距離併用大型50円(1分15秒),中型50円(1分25
秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,迎車回送料金なし,時間制運賃下限設

平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大630円,加算運賃80円/240平成17年
4日m,大型610円,加算運賃80円/264m6月17日
(河北交通圏)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運賃5
0円/235m,
時間距離併用特大80円(1分30秒),大型80円(1分35
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/212平成17年
4日m,大型680円,加算運賃80円/235m6月17日
(大阪市域,中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運賃5
河北)0円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分15秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/212平成17年
20日m,大型680円,加算運賃80円/235m7月11日
(大阪市域)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運賃5
0円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引,迎車料金廃止
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/212平成17年
20日m,大型680円,加算運賃80円/235m7月11日
(大阪市域)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運賃5
0円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引,迎車料金廃止
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/212平成17年
20日m,大型680円,加算運賃80円/235m7月11日
(大阪市域)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運賃5
0円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引,迎車料金廃止
平成17年6月P有限会社基本運賃初乗り2㎞特大550円,大中小型500円,平成17年
7日8月19日
(大阪市域)加算運賃特大50円/171m,大型50円/200m,中型50円/2
25m,小型50円/244m
時間距離併用特大50円(1分5秒),大型50円(1分15
秒),中型50円(1分25秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,時間制運賃下限設定
平成17年6月基本運賃中型初乗り540円,加算運賃70円/292m,時平成17年
29日間距離併用70円(1分50秒)8月24日
(北摂地域)迎車回送早朝予約料金廃止
時間制運賃中型2000円/30分
平成17年8月基本運賃初乗り2㎞大中小型500円,平成17年
19日10月24日
(継続申請)加算運賃大型50円/200m,中型50円/225m,小型50円/2
44m
時間距離併用大型50円(1分15秒),中型50円(1分25
秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,時間制運賃下限設定
(別紙2)
1,許可関係(平成14年2月以降のタクシー事業許認可申請状況)
支局申請日事業者名交通圏車両数許可日
大阪1平成14年2月14日大阪市域10平成14年7月4日許可
2平成14年3月11日大阪市域20平成14年8月29日許可
3平成14年5月27日大阪市域10平成14年11月19日許可
4平成14年8月9日河北6平成14年12月3日許可
5平成14年10月3日大阪市域10平成15年4月14日許可
6平成14年11月1日大阪市域10平成15年2月18日許可
7平成14年11月28日大阪市域10平成15年4月14日許可
8平成15年3月3日大阪市域20平成15年7月7日許可
9平成15年3月10日大阪市域10平成15年7月7日許可
10平成15年6月18日大阪市域10平成15年12月11日許可
11平成15年6月26日大阪市域10平成15年10月31日許可
12平成15年7月16日大阪市域10平成15年10月31日許可
13平成15年7月25日大阪市域10平成16年4月26日許可
14平成15年8月18日大阪市域10平成16年1月30日許可
15平成15年9月1日大阪市域10平成16年2月27日許可
16平成15年9月30日大阪市域10平成16年3月22日許可
17平成15年10月10日大阪市域10平成16年1月30日許可
18平成15年10月16日大阪市域10平成16年1月30日許可
19平成15年11月20日大阪市域10平成16年4月30日許可
20平成16年1月9日大阪市域10平成16年4月30日許可
21平成16年2月2日大阪市域10平成16年5月21日許可
22平成16年2月18日大阪市域10平成16年4月30日許可
23平成16年3月8日大阪市域10平成16年6月30日許可
24平成16年3月19日大阪市域10平成16年6月30日許可
25平成16年3月26日北摂5平成16年8月27日許可
26平成16年4月28日河北5平成16年7月29日許可
27平成16年6月25日大阪市域10平成16年9月30日許可
28平成16年8月3日大阪市域10平成16年8月11日取下げ
29平成16年8月6日河北5平成16年10月29日許可
30平成16年8月16日大阪市域10平成16年12月22日許可
31平成16年8月18日大阪市域1016年10月19日取下げ
32平成16年9月30日大阪市域10平成16年12月10日許可
33平成16年11月24日大阪市域10平成17年2月21日許可
34平成16年12月22日大阪市域10平成16年12月27日取下

35平成16年12月24日大阪市域10平成17年3月11日許可
36平成16年12月27日大阪市域13平成17年3月29日許可
37平成17年1月14日大阪市域10平成17年3月29日許可
38平成17年1月27日有限会社G大阪市域10平成17年5月12日付許可
39平成17年3月2日N株式会社大阪市域15平成17年5月31日付許可
・河北
40平成17年3月9日大阪市域10平成17年6月6日付許可
41平成17年3月30日O株式会社大阪市域10平成17年8月19日付許可
42平成17年4月20日大阪市域10平成17年6月6日取下げP有限会社
44平成17年6月7日P有限会社大阪市域10平成17年8月19日付許可
京都1平成14年7月15日京都市域10平成14年10月31日許可
2平成15年12月3日京都市域10平成16年4月30日許可
3平成16年3月18日京都市域12平成16年8月12日許可
4平成16年7月22日京都市域10平成16年12月10日許可
兵庫1平成14年3月1日神戸市域10平成14年7月12日許可
2平成14年7月19日東播磨5平成14年12月3日許可
3平成14年9月24日但馬5平成15年2月28日許可
4平成15年2月7日神戸市域10平成15年8月15日許可
5平成15年2月24日神戸市域10平成15年7月31日許可
6平成15年10月23日神戸市域10平成16年7月7日許可
7平成16年2月27日神戸市域10平成16年6月7日許可
8平成16年5月31日東播磨5平成16年8月31日許可
10平成17年2月9日神戸市域10平成17年4月28日付許可
11平成17年2月25日神戸市域10平成17年5月30日付許可
12平成17年3月31日神戸市域10平成17年6月30日付許可
13平成17年4月1日神戸市域10平成17年6月30日付許可
14平成17年4月8日神戸市域10平成17年7月7日許可
奈良1平成14年10月22日西大和6平成15年2月18日許可
2平成15年7月24日奈良市域5平成15年12月25日許可
3平成15年9月9日西大和7平成16年2月27日許可
4平成16年1月13日奈良市域5平成16年5月10日取下げ
5平成16年10月29日西大和5平成17年1月31日許可
滋賀1平成14年3月25日湖東5平成14年12月24日許可
2平成14年11月20日大津市5平成15年3月20日許可
3平成15年2月12日甲賀郡3平成15年7月31日許可
4平成15年8月26日甲賀郡2平成16年1月30日許可
5平成15年12月5日甲賀郡2平成16年5月31日許可
6平成16年4月20日甲賀郡2平成16年9月24日許可
7平成16年7月30日湖北A5平成16年10月29日許可
8平成16年12月15日大津市7平成17年3月11日許可
和歌山1平成15年4月1日紀南5平成15年8月14日取下げ
2,認可関係(自動認可枠を下回る運賃申請)
申請日事業者名申請内容認可日
平成14年2月タクシー運賃設定日初乗り距離1.7㎞500円全車平成14年
1日種,加算運賃特定大型163m,大型181m,中型2403月27日
m取下げ
小型272m50円
平成14年2月(追加申請)現行日遠距離割引90km超1割引変更日遠距離割引
12日9000円超1割引
平成14年2月初乗り距離1.7km中型470円,小型450円,加算運平成14年
4日賃300メートルごと中型70円,小型60円7月4日
身障・知的障害,遠距離割引,迎車回送料金廃止
平成14年4月(追加申請)初乗り運賃2.0km,加算距離変更,身障・知的割引,
11日無線割増追加
平成14年6月(追加申請)無線割増廃止,中型初乗り2.0km540円・209mごと50
13日円,小型初乗り2.0km520円・235mごと50円
平成14年2月初乗り距離2.0km中型500円,小型480円,加算運平成14年
13日賃224mごと中型50円,251mごと小型50円7月4日
平成14年6月(追加申請)加算距離変更225mごと50円,小型運賃廃止中型の
17日み
中型初乗り2.0km500円m,加算運賃225mごと50円
平成14年2月I株式会社初乗り運賃2.0km特大630円,大型610円,中型570平成14年
28日円,小型520円7月31日
加算運賃特大240mごとに80円,大型264mごとに80
円,中型292mごとに70円,小型345mごとに80円
遠距離割引特大・大型及び小型9000円超1割引,中
型6000円超4割引
定額運賃前払割引,高齢者初乗りクーポン割引,初
乗りクーポン割引は廃止
平成14年4月三菱同等運賃の設定(営業区域拡大に伴う)平成14年
4日7月23日
平成14年7月(追加申請)中型車以外の運賃削除
16日
平成14年4月タクシー運賃設定初乗り距離1.7km500円平成14年
18日7月31日
加算距離特定大型163m,大型181m,中型240m,小
型272m各50円
平成14年5月(追加申請)距離制大中小とも初乗り距離2.0㎞(特定大型下限
14日ののまま)
加算運賃大型200m,中型225m,小型244mごと各50
円時間制も変更あり
平成14年7月(追加申請)距離制中小型初乗り距離2.0㎞500円,加算運賃
12日中型225m,小型244mごと各50円
その他はすべて下限運賃へ変更
平成15年6月新規許可10両東大阪市長田西平成15年
18日12月11日
平成15年10(追加申請)基本運賃中型500円設定,加算運賃225mまで50
月27日円,5000円超5割引
平成15年9月新規許可10両大阪市城東区中央
2日
基本運賃初乗り,大中小型500円,加算50円平成16年
6000円超4割引3月18日
平成15年9月基本運賃初乗り大中小型500円,加算50円,平成16年
5日5000円超5割引3月18日
平成15年9(追加申請)
月29日
平成15年11新規許可10両東大阪市長田西
月19日
基本運賃中型のみ500円設定,5000円超5割引平成16年
5月10日
平成16年3月基本運賃中型初乗り540円,迎車回送早朝予約料金平成16年
25日廃止8月20日
特大・大型9000円超1割引,中小型5000円超5割引
平成16年6月基本運賃中型2km550円,加算運賃80円/328m平成16年
15日9月17日
特定大型・大型・小型は上限運賃のまま5000円
超5割引
平成16年7月大型運賃新設初乗り2㎞500円,加算運賃50円/200m平成16年
21日12月8日
時間制30分2460円,5000円超5割引
平成16年10基本運賃初乗り2㎞特大640円,加算運賃50円/17平成16年
月26日5m,大型520円,加算運賃50円/195m12月22日
平成16年10(追加申請)中型500円,加算運賃50円/225m,小型480円,加算運
月29日賃50円/250m,5000円超5割引
平成16年10基本運賃中型初乗り2km500円,加算運賃50円/225m平成17年
月27日1月24日
時間距離併用50円(1分25秒)遠距離割引5000円超
5割引
平成16年11基本運賃初乗り2㎞,大中小型500円,加算運賃大平成17年
月12日型50円/200m,中型50円/225m,小型50円/244m4月4日
(継続)時間距離併用大型50円(1分15秒),中型50円(1分25
秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引
平成17年1月基本運賃初乗り2㎞大型・中型540円,加算運賃平成17年
27日大型60円/222m,中型50円/209m,3月11日
時間距離併用大型60円(1分20秒),中型50円(同),
5000円超5割引
平成17年2月有限会社H基本運賃初乗り2㎞中型500円,加算運賃50円/225平成17年
22日m,時間距離併用運賃「1分25秒50円」5月12日
平成17年3月N株式会社基本運賃初乗り2㎞大中小型500円平成17年
2日5月31日
(大阪市域のみ)加算運賃大型50円/220m,中型50円/225m,小型50
円/244m
(河北は下限運時間距離併用大型50円(1分15秒),中型50円(1分25
賃)秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,迎車回送料金なし,時間制運賃下限
設定
平成17年4月O株式会社基本運賃初乗り2㎞大中小型500円平成17年
1日8月19日
(大阪市域)加算運賃大型50円/200m,中型50円/225m,小型50
円/244m
時間距離併用大型50円(1分15秒),中型50円(1分25
秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,迎車回送料金なし,時間制運賃下限
設定
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大630円,加算運賃80円/24平成17年
4日0m,大型610円,加算運賃80円/264m6月17日
(河北交通圏)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運
賃50円/235m,
時間距離併用特大80円(1分30秒),大型80円(1分35
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/21平成17年
4日2m,大型680円,加算運賃80円/235m6月17日
(大阪市域,河中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運
北)賃50円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分15秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/21平成17年
20日2m,大型680円,加算運賃80円/235m7月11日
(大阪市域)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運
賃50円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引,迎車料金廃止
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/21平成17年
20日2m,大型680円,加算運賃80円/235m7月11日
(大阪市域)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運
賃50円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引,迎車料金廃止
平成17年4月基本運賃初乗り2㎞特大710円,加算運賃80円/21平成17年
20日2m,大型680円,加算運賃80円/235m7月11日
(大阪市域)中型540円,加算運賃50円/209m,小型520円,加算運
賃50円/235m,
時間距離併用特大80円(1分20秒),大型80円(1分25
秒),中型50円(1分20秒),小型50円(1分25秒)
遠距離割引5000円超5割引,迎車料金廃止
平成17年6月P有限会社基本運賃初乗り2㎞特大550円,大中小型500円,平成17年
7日8月19日
(大阪市域)加算運賃特大50円/171m,大型50円/200m,中型50
円/225m,小型50円/244m
時間距離併用特大50円(1分5秒),大型50円(1分15
秒),中型50円(1分25秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,時間制運賃下限設定
平成17年6月基本運賃中型初乗り540円,加算運賃70円/292平成17年
29日m,時間距離併用70円(1分50秒)8月24日
(北摂地域)迎車回送早朝予約料金廃止
時間制運賃中型2000円/30分
平成17年8月基本運賃初乗り2㎞大中小型500円,平成17年
19日10月24日
(継続申請)加算運賃大型50円/200m,中型50円/225m,小型50
円/244m
時間距離併用大型50円(1分15秒),中型50円(1分25
秒),小型50円(1分30秒)
5000円超5割引,時間制運賃下限設定

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