弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人高見之忠、同古屋東の上告趣意第一点について。
 しかし本件取調の当初において仮に所論のごとき憲法三四条の違反があつたとし
ても、それがため当然爾後一切の手続が違法であるとはいえないのみならず(昭和
二二年三三四号、同二三年六月九日大法廷判決、判例集二巻七号六五八頁)、元来
逮捕の違法そのものは原判決に影響を及ぼさないことが明白であるからこれを上告
の理由とすることはできないのである(昭和二三年(れ)七七四号、同年一二月一
日大法廷判決、判例集二巻一三号一六七九頁)。又被告人の検事に対する第一回及
び第二回の供述調書が仮に所論のとおり違法勾留中に作成されたものであるとして
も、その一事をもつて直ちに無効と解すべきではないのである(昭和二五年(れ)
一〇八五号、同年九月二一日第一小法廷判決、判例集四巻九号一七五一頁。昭和二
三年(れ)五七二号、同二七年四月一七日第一小法廷判決)。
 なお論旨の二の(二)については、被告人の検事に対する昭和二四年七月二八日
附第二回供述調書(三〇五丁)が収賄事件について述べたものであることは所論の
ごとくであるが、右が背任罪等の被疑事案によつて勾留された間になされたもので
あつても、その事をもつて直ちにこれを無効と解すべきでないことは前掲の昭和二
五年九月二一日第一小法廷判決及び昭和二七年四月一七日第一小法廷判決の趣旨に
徴して明かというべきであろう(記録によれば、被告人は昭和二四年七月一〇日背
任及び臨時物資需給調整法違反の嫌疑のもとに逮捕され、さらに同月一三日には勾
留されたが、同月二九日釈放されたこと、所論の、被告人の検事に対する第二回供
述調書は、前記の被疑事実の取調を終えた後、釈放の前日たる同月二八日被告人が
収賄事件について述べたものであること、同月二九日収賄罪として起訴され、同日
勾留されたことが認められるのである)。論旨はすべて理由がない。
 同第二、三点について。論旨はいずれも刑訴四〇五条の適法の上告理由に当らな
い。(原審も説示するごとく、第一審判決の挙示する証拠によれば、当時富山県道
路課長であつた被告人は大日橋改良事務所の業務全般及びB木材株式会社の作業に
つきいずれも指導監督をなしていたことが肯認できるのであるが、右は所論のごと
く道路課長が独立した指導監督の権限を有するのではなく、上司たる富山県知事乃
至県土木部長の指揮のもとにその命をうけてその事務を取り扱うものであつたとし
ても、また刑法一九七条にいう「職務」たるを失わないのである。蓋し、この「職
務」とは公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務を指称するも
のであるから、そのいずれを問わず原審の判断について何等違法はないのである)。
 同第四点について。
 論旨は原判決の事実誤認乃至法令違反を主張するものであつて、刑訴四〇五条の
適法の上告理由に当らない。なお同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 同第五点について。
 しかし、所論の富山県庁達第五二号昭和二一年六月二〇日附「土木工事直営施行
規程」 (論旨及原判決に「土地工事直営施行規程」とあるは誤記とみとめる)は
いわゆる法令であるから、原審の維持する第一審判決がこれを挙示したのはいわゆ
る証拠として引用したものではなく、単に判示職務干係の法令上の根拠を明かにす
るために証拠説明中に雑えて便宜挙示したにすぎないものと解すべきである。凡そ
法令については証拠調の手続をなすことを要しないのであるから、第一審判決が法
令たる所論「規程」につき証拠調手続をせずに証拠説明に雑えてこれを挙示したの
は正当というべく、又右規程の写等を記録に編綴しなくても訴訟法上何等違法では
ないのである。
 従つて原判決が違法であることを前提として憲法三七条違反を主張する論旨は立
論の根拠を欠くことになるので採用できない。
 同第六点について。
 論旨は法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の適法の上告理由に該当しない。
(刑法の一部を改正する法律《昭和二二年法律第一二四号》附則四項にいう「この
法律施行前の行為については、刑法五五条……の改正規定にかかわらず、なお従前
の例による。」という規定は、いわゆる連続犯を定めた刑法五五条を廃止した右法
律施行前の行為と施行後の行為との間には、犯意継続の有無を問わず連続犯を認め
ない趣旨であることは昭和二五年(れ)三七七号、同二六年一月三一日大法廷判決、
判例集五巻一号一四三頁の示すところである。)
 同第七点について。
 しかし共犯者たる共同被告人の供述であるからといつて全く証拠能力を欠くもの
ではないことは当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかである。(昭和二三年(れ)
七七号、同二四年五月一八日大法廷判決、判例集三巻六号七三四頁以下、昭和二六
年(れ)一三三号、同年六月二九日第二小法廷判決、判例集五巻七号一三四四頁以
下参照)。被告人及び弁護人は刑訴三一一条三項により共同被告人に対し任意の供
述を求めうる機会が与えられているのであつて、所論は未だ共同被告人の公判廷に
おける供述の証拠能力を当然に否定すべき事由となるものではない(昭和二六年(
あ)一九一五号、同二八年七月一〇日第二小法廷判決参照)。
 被告人Cの弁護人金光邦三の上告趣意第一点について。
 しかし本件記録に徴するも、所論のごとく警察官による自白の強制が被告人C、
同Dの検察官に対する供述にまで及び、右が強制、拷問若しくは脅迫によりなされ
たものであつて、任意性を欠いたものとは未だ認め難いのである。論旨は理由がな
い。
 同第二点について。
 被告人の自白のほかに共同被告人の供述を補強証拠として事実を認定した場合に
右が憲法三八条三項及び刑訴三一九条二項に違反しないことはすでに当裁判所屡次
の判例の示すところである。(昭和二三年(れ)一一二号、同年七月一四日大法廷
判決、判例集二巻八号八七六頁、昭和二三年(れ)一六七号、同年七月一九日大法
廷判決、判例集二巻八号九五二頁、昭和二三年(れ)七七号、同二四年五月一八日
大法廷判決、判例集三巻六号七三四頁、昭和二五年(あ)四九七号、同年七月七日
第二小法廷判決、判例集四巻七号一二三三頁。)論旨は採用し難い。
 同第三点について。
 論旨は事実誤認乃至法令違反を主張するものであつて、刑訴四〇五条の適法の上
告理由に当らない。また同四一一条を適用すべきものとは考えられない。
 被告人Dの弁護人清瀬一郎、同内山弘の上告趣意第一点について。
 前に弁護人金光邦三の上告趣意第一点について述べたごとく、被告人Dの検察官
に対する供述は記録上任意性を欠いたものとは認め難いのであるから、論旨は憲法
違反の前提を欠くものというべく理由がない。
 同第二点について。
 論旨は原判決は大審院の判例と相反する判断をしたと主張するけれども、その実
質は原審のなした法令の解釈乃至事実の認定を非難するものであつて、適法の上告
理由に当らない。なお刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和二八年一〇月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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