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平成25年9月30日判決言渡
平成25年(ネ)第10059号貸金請求控訴事件
(原審・東京地裁平成24年(ワ)第26836号事件)
口頭弁論終結日平成25年9月11日
判決
控訴人有限会社オフィス・エー
訴訟代理人弁護士三﨑恒夫
被控訴人株式会社プリズム
訴訟代理人弁護士木曽真吾
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
3訴訟費用は第1審,第2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1原審で用いられた略語は,当審でもそのまま用いる。原判決を引用する部分
の「原告」を「被控訴人」に,「被告」を「控訴人」に読み替える。
2被控訴人(原告)は,控訴人(被告)に対して,金銭消費貸借に基づき21
0万0210円及び弁済期の翌日以降である平成23年12月13日から支払済み
まで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。これに対し,控
訴人は,原告からの借入れの事実を認めつつ,被控訴人が控訴人の販売するパスケ
ースの類似品を無断で製造販売することにより不正競争防止法2条1項1号又は3
号所定の不正競争行為をしたとして同法4条に基づく280万円の損害賠償請求権
及び営業妨害を理由とする民法709条の不法行為に基づく300万円の損害賠償
請求権を自働債権とする相殺の抗弁を主張した。
原判決は,被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号又は3号の不正競争行
為にも,民法709条の不法行為にも該当しないとして,控訴人の相殺の抗弁を排
斥し,被控訴人の請求を全額認容した。これに対して,控訴人が本件控訴を提起し
た。
控訴人は,当審において,従前の主張に加えて,被控訴人の行為は,不正競争防
止法2条1項7号にも該当する旨の主張をした。
本件の争点は,①被控訴人による不正競争行為の成否,②被控訴人による不法行
為の成否である。
3前提事実及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加訂正する他は,
原判決の「第2事案の概要」「1前提事実」(原判決2頁6行目から3頁21行
目)及び同「2争点及び争点に関する当事者の主張」(3頁22行目から5頁24
行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決4頁14行目から16行目を,次のとおり改め,17行目冒頭の「エ」
を「オ」に改める。
「ウ控訴人パスケースが市場に出る以前に同種のパスケースが市場に出たことは
ないから,控訴人の「フラッシュパスケース」に関するノウハウは営業秘密である。
控訴人は,これを営業秘密として管理していた。被控訴人は,控訴人からその営業
秘密を示され,利益を得る目的で使用した。
エしたがって,被控訴人の行為は,不正競争防止法2条1項1号,3号及び7
号所定の不正競争に該当し,被控訴人は,控訴人に対し,同法4条に基づく損害賠
償責任を負う。」
(2)原判決4頁19行目の「原告の損害」を「控訴人の損害」と改める。
(3)原判決5頁12行目末尾に,改行の上,次のとおり挿入する。
「エ控訴人の発光パスケースに関するノウハウは,不正競争防止法の定義する営
業秘密に該当しない。仮に,営業秘密に該当するとしても,被控訴人が当該営業秘
密を示されたことはないから,いずれにしても,不正競争防止法2条1項7号の不
正競争に該当することはない。」
第3当裁判所の判断
当裁判所も,原判決と同じく,控訴人による相殺の抗弁は成り立たず,控訴人の
本件控訴は棄却されるべきものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正する
他は,原判決の「第3当裁判所の判断」(5頁25行目から9頁2行目)に記載の
とおりであるから,これを引用する。
1原判決7頁13行目から8頁4行目までを次のとおり改める。
「(2)不正競争防止法2条1項3号の該当性
不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣する」とは,他人の商品の形態に依拠
して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう(同条5項)。
この点,控訴人パスケースは,約11センチメートルと約7.5センチメートル
の長方形で,ピンク色,黄色,黒又は黄色に着色されており,一面には,カードの
出し入れの便宜のため中央部に長円形の穴の開いた透明部分が設けられ,他面には,
外周に沿っておおよそ四角形に10個の発光ダイオードが配置されている。控訴人
パスケースの外周の長辺には,略半円形の小さな金具が取り付けられている。(甲1
2,19)
他方,被控訴人パスケースは,約11センチメートルと約7.5センチメートル
の長方形で,銀色に着色されており,一面の中央部に,上部に王冠を模した図形,
下部に樹木の葉を模した図形を伴う縁囲いの中に,盾状の図形を配置し,その周囲
に「★SEIKOMATSUDACONCERTTOUR★VERYVE
RY」との文字を円形に記した模様が記載されている。そして,この模様を囲うよ
うに円形に12個の発光ダイオードが配置されている。被控訴人パスケースの外周
の短辺には,外部に突出するやや大きな円形の金具が取り付けられ,金具には鎖が
連結されている。被控訴人パスケースの他面の形状は明らかでない。(甲14)
このように,控訴人パスケースと被控訴人パスケースは,発光ダイオードの数・
配置,全体の色彩,模様の有無,金具の大きさ・位置・形状,鎖の有無において,
大きな違いがあり,両者は一見して明らかに異なる形態の商品であって,実質的に
同一であるとは到底認められない。
そうすると,被控訴人が被控訴人パスケースを製造販売することにより控訴人パ
スケースを模倣したとはいえず,被控訴人の行為は,不正競争防止法2条1項3号
所定の不正競争行為には該当しない。」
2原判決8頁5行目から8行目を,次のとおり改める。
「(3)不正競争防止法2条1項7号の該当性
控訴人は,被控訴人の行為が不正競争防止法2条1項7号に該当する旨主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,以下のとおり採用の限りでない。
まず,控訴人は,控訴人の保有する営業秘密に関して,「『フラッシュパスケース』
に関するノウハウ」とするのみで,営業秘密の内容について何ら特定しないので,
その主張自体失当である。
また,同条6項では,「『営業秘密』とは,秘密として管理されている生産方法,
販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって,公然と知
られていないものをいう」と規定するが,控訴人主張に係る「『フラッシュパスケー
ス』に関するノウハウ」が,同項所定の「営業秘密」に該当すると認めるに足りる
証拠はない。
(4)以上によれば,被控訴人の行為は不正競争防止法2条1項1号,3号又は7
号所定の不正競争に該当しないから,その余の点について判断するまでもなく,不
正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権は成立しない。」
3控訴人の本件控訴は理由がない。よって,本件控訴を棄却することとして,
主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
小田真治
(参考判決)
平成25年5月29日判決言渡
平成24年(ワ)第26836号貸金請求事件
口頭弁論終結日平成25年5月15日
判決
原告株式会社プリズム
同訴訟代理人弁護士木曽真吾
被告有限会社オフィス・エー
同訴訟代理人弁護士三﨑恒夫
主文
1被告は,原告に対し,210万0210円及びこれに対する平成23年12
月13日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文第1項同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,金銭消費貸借契約に基づき210万0210
円及び弁済期の翌日以降である平成23年12月13日から支払済みまで商事
法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。これに対
し,被告は,原告からの借入れの事実を認めつつ,原告が被告の販売するパス
ケースの類似品を無断で製造販売することにより不正競争防止法2条1項1号
又は3号所定の不正競争をしたとして同法4条に基づく280万円の損害賠償
請求権及び営業妨害を理由する不法行為に基づく300万円の損害賠償請求権
を自働債権とする相殺の抗弁を主張しているから,本件の争点は,①原告によ
る不正競争の成否及び②原告による営業妨害を理由とする不法行為の成否であ
る。
1前提事実(証拠等を括弧内に摘示した事実以外は争いがない。)
当事者
ア原告は,企業の販売促進活動に関する企画,玩具,キャンプ用品の仕入
れ並びに販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,宝石・貴金属の卸・販売,一般日用雑貨の卸・販売等を目的と
する有限会社である。
原告の被告に対する貸付け
原告は,平成23年9月頃,被告から,運転資金の融資を要請され,同月
15日,被告に対し,弁済期を遅くとも平成23年12月12日と約し,2
10万0210円を貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。
発光パスケースの製造販売等
ア被告は,平成21年頃から,電車の改札口等のICカード読取機に接触
させることにより発光するパスケース(以下,このような特徴を有するパ
スケースを「発光パスケース」と総称する。)を「フラッシュパスケース」
との名称を付けて販売している(以下,被告が「フラッシュパスケース」
の名称を付して販売しているパスケースを「被告パスケース」という。甲
12,弁論の全趣旨)。
イ原告は,被告から製造委託を受けて被告パスケースを製造したことがあ
るところ,平成24年5月頃,松田聖子のデザイングッズを販売している
会社(以下「納品先」という。)から,松田聖子デザインの発光パスケース
の製造を委託された(弁論の全趣旨)。そこで,原告は,同月9日頃,被告
に対し,松田聖子デザインの発光パスケースを製造委託されていることを
説明し,納品先に見せるためのサンプルとして,被告パスケースを借り受
けた。原告は,同月25日,自ら製造した松田聖子デザインの発光パスケ
ースのサンプル2個を被告に交付した。原告は,同年6月7日頃,その実
演説明をするため,被告から,ICカード読取機と同じ電波を発する機械
を代金3万240円で借り受けた。原告は,その後,松田聖子デザインの
発光パスケース(以下「原告パスケース」という。)に「フラッシュパスケ
ース」との商品名を付して製造販売している。
ウ被告は,原告に対し,本件貸付けの返済を同年8月末までに行うと述べ
ていたが,同月30日,返済ができないと述べ,同月31日,原告に対し,
1万円を振り込んだ。そこで,原告代表者の父Aが,同年9月3日頃,本
件貸付けに対する返済を求めるため,被告代表者に電話したところ,被告
代表者と口論になり,被告代表者は,借金は松田聖子の発光パスケースを
製造販売したことにより帳消しである旨述べた(弁論の全趣旨)。
相殺の意思表示
ア被告は,平成24年12月26日の口頭弁論期日において,不正競争防
止法4条に基づく280万円の損害賠償請求権(後記2)をもって,本
訴請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
イ被告は,平成25年5月15日の口頭弁論期日において,営業妨害を理
由とする不法行為に基づく300万円の損害賠償請求権(後記2)をも
って,本訴請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。
2争点及び争点に関する当事者の主張
不正競争の成否
(被告)
ア被告は,平成21年頃,発光パスケースを考案し,同年6月,提携会社
に製造させた発光パスケースを「フラッシュパスケース」として販売する
ようになった。この被告パスケースは,平成22年5月頃,テレビで取り
上げられたのを機に売上げが急増し,模倣品が出回るようになった。この
ように被告パスケースの商品名である「フラッシュパスケース」は全国的
に周知されているが,都内で販売されているから,少なくとも東京都内で
周知性がある。
イ原告は,平成24年5月頃,タレント松田聖子の事務所からの依頼を受
け,被告に対し,松田聖子の氏名が記された発光パスケースを製造するこ
とを打診した。そこで,被告は,原告に対し,機密保持契約書に署名押印
すればその製造を承諾する旨答えて契約書を渡したが,原告は,この契約
書に署名押印することなく,被告に無断で「フラッシュパスケース」の商
品名を付して原告パスケースを製造販売した。原告パスケースは,IC読
取機に接触させて発光することに独自の商品価値があるのであり,被告パ
スケースを模倣していることは明らかである。
ウしたがって,原告の行為は,不正競争防止法2条1項1号及び3号所定
の不正競争に該当し,原告は,被告に対し,同法4条に基づく損害賠償責
任を負う。
エ原告は,原告パスケースを1個当たり2800円で販売し,少なくとも
2000個販売している。その利益率は5割であるから,不正競争防止法
5条によれば,原告の損害は280万円である。
(原告)
ア原告は,被告の承諾を得て原告パスケースに「フラッシュパスケース」
との名称を付したのであるから,不正競争防止法4条に基づく損害賠償責
任はない。
イ「フラッシュパスケース」との商品表示が需要者に広く認識されている
といえないこと,原告は,「フラッシュパスケース」との名称を原告パスケ
ースの出所表示機能又は自他商品識別機能を有する態様で使用していない
こと(原告パスケースには,その台紙の裏に小さく「フラッシュパスケー
ス」と書かれているに過ぎず,原告パスケースが販売されているウェブサ
イトでは発光パスケースの普通名称として「フラッシュパスケース」と表
示しているに過ぎない。),「フラッシュパスケース」は光ることを示す「フ
ラッシュ」と「パスケース」とを組み合わせたものであって独創性が低く,
需要者が原告パスケースを被告パスケースであると混同することはないこ
とから,原告の行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たらな
い。
ウ原告パスケースは,ICカード読取機に近づけると発光するという点で
は被告パスケースと似ているが,発光ダイオードの位置,色彩及びデザイ
ンが全く異なっており,模倣したものとはいえないから,不正競争防止法
2条1項3号の不正競争に当たらない。
不法行為の成否
(被告)
原告は,発光パスケース(フラッシュパスケース)が被告によって初めて
商品化されたものであり,被告の収入源がこれのみであることなどを知りな
がら,「フラッシュパスケース」との商品名を無断で使って,被告パスケース
と類似する原告パスケースを製造販売し,被告の営業を妨害した。したがっ
て,原告には故意又は重過失による不法行為が成立する。この不法行為によ
る損害については,不正競争防止法5条1項を類推適用することができるし,
仮にそうでないとしても,原告の行為は被告を危機に陥れるものとして慰謝
料300万円が発生する。
(原告)
否認し,争う。
第3当裁判所の判断
1争点(不正競争の成否)について
不正競争防止法2条1項1号の該当性
被告パスケースの商品名である「フラッシュパスケース」が,「需要者の間
に広く認識されている」こと(周知性)を認めるに足りる証拠はない。すな
わち,本件全証拠及び弁論の全趣旨をもっても,被告が「フラッシュパスケ
ース」の周知性を確保するための広告宣伝活動をしているとは認められない。
被告は平成22年5月に「フラッシュパスケース」がテレビで取り上げられ
た旨主張するが,その立証もないし,この主張を前提としても,発光パスケ
ースの需要者に「フラッシュパスケース」との商品名が認識されたか不明で
ある上,原告パスケースが販売されるに至った平成24年8月頃(約2年後)
まで「フラッシュパスケース」に関するテレビ放映の効果が継続していたか
どうか疑わしい。被告は,都内の商店(東急ハンズなど)で被告パスケース
が販売されているとも主張するが,販売店舗数及び販売量も定かでなく,単
に販売されているだけでは「フラッシュパスケース」が広く認識されている
ことにはならない。
また,「混同を生じさせる行為」とは,自己と他人とを同一の商品主体又は
営業主体と誤信させる行為のみならず,自己と他人との間に同一の商品化事
業を営むグループに属する関係が存するものと誤信させる行為を包含する
(最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参
照)。これを本件についてみると,原告パスケースは,「フラッシュパスケー
ス」との名称が付されているものの,松田聖子のデザイングッズの一種とし
て販売されている(甲13,14)のであって,松田聖子のファン向けの商
品と認められる。他方,被告パスケースは,特定の者が購入することが想定
されておらず,広く定期券等のICカードを利用する者を対象として販売さ
れている(甲12)。そして,上記のとおり,「フラッシュパスケース」との
名称は,周知されているとは認められず,「フラッシュ」(瞬間的な人工的光)
と「パスケース」という一般に使われる言葉を組み合わせたものであること,
原告パスケースと被告パスケースは,発光部の配置,色彩,松田聖子の氏名
入り模様の有無,チェーンの有無等の点で相違していること(甲12,14,
15)などを踏まえると,原告パスケースを購入しようとする者は,松田聖
子のデザイングッズとしての発光パスケースを購入する目的で原告パスケー
スを購入するものと推認することができ,被告パスケースを購入するつもり
で原告パスケースを購入し,又は被告パスケースと同一のグループに属する
営業主体が製造販売する発光パスケースを購入するつもりで原告パスケース
を購入するとは考えにくい。したがって,原告の行為を,混同を生じさせる
行為と認めることはできない。
そうすると,原告が原告パスケースを「フラッシュパスケース」との名称
を付して販売しても,これは不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に
当たらない。
不正競争防止法2条1項3号の該当性
不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣する」とは,他人の商品の形態
に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう(同条
5項)。
これを本件についてみると,原告パスケースと被告パスケースは,発光部
の形状,松田聖子の氏名入り模様の有無,全体の色彩,付属のチェーンの有
無等の点で相違している(甲12,14,15)。確かに,原告は,原告パス
ケースを製造販売する前に被告パスケースの製造を委託されたことがあり,
原告パスケースと被告パスケースとは,ICカード読取機に接触させること
により発光するという特徴を有する点において共通している(甲12,15)。
しかし,被告以外にもこのような特徴を有する発光パスケースを別の商品名
を付して製造販売している業者が複数あり(甲7ないし9),かかる特徴は被
告パスケースに特有の商品の形態とはいえない。なお,被告は,他の発光パ
スケースは被告パスケースの模倣品である旨主張するが,これを認めるに足
る証拠はない。
そうすると,原告が原告パスケースを製造販売することにより被告パスケ
ースを「模倣した」とはいえず,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競
争は認められない。
以上によれば,原告の行為は不正競争法防止法2条1項1号又は3号所定
の不正競争に該当しないから,原告が「フラッシュパスケース」との名称を
使うことについて被告の承諾を受けたかどうかについて判断するまでもなく,
不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権は成立しない。
2争点(不法行為の成否)について
前記1のとおり,「フラッシュパスケース」の名称が広く認識されているこ
とを認めるに足る証拠はなく,商標権が成立したことを認めるに足る証拠もな
いのであって,本件全証拠によっても,その名称が法的保護に値することを認
めるに足らない。
また,前記1のとおり,原告パスケースは,被告パスケースと外見が異な
り,松田聖子のデザイングッズの一種として販売されていることから,これら
が類似するとは認められない。なお,原告パスケースは被告パスケースとIC
カード読取機に接触させることにより発光するという特徴を有する点において
共通しているけれども,被告以外にもこのような特徴を有する発光パスケース
を別の商品名を付して製造販売している業者が複数あり,かかる特徴が被告パ
スケースに特有のものでないこと,被告パスケースについて特許権,実用新案
権又は意匠権が成立したことを認めるに足る証拠もないことなどに照らし,か
かる特徴が法的保護に値すると認めることは困難である。
さらに,原告が原告パスケースを製造販売することにより,被告パスケース
の販売数が減少するなどの被告に具体的損害が発生したことを認めるに足る客
観的証拠はない。
したがって,原告が「フラッシュパスケース」との名称を付して原告パスケ
ースを販売したことが被告に対する違法な営業妨害に当たるとはいえず,不法
行為は成立しない。
3結論
よって,被告の相殺の抗弁は成立せず,原告の請求は全部理由があるから,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第4部
裁判官小川嘉基

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