弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成16年(ワ)第20335号 特許権に基づく差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年2月16日
判決
原告           株式会社丸一シラサカ
同訴訟代理人弁護士    小笠原耕司
同            山田司
被告           バクマ工業株式会社
同訴訟代理人弁護士    渡辺隆夫
同     弁理士    近藤彰
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をして
はならない。
2 被告は,その占有する前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1000万円及び平成16年11月28日から支払済
みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が被告に対し,別紙物件目録記載のU型フード付換気口ベアー
キャップ(以下「被告製品A」という。)及び同目録記載のアルミフレキ取付けス
リーブ(以下「被告製品B」という。)を製造し,販売する被告の行為が,原告が
専用実施権を有するとする換気装置の管接続構造についての特許権を侵害するとし
て,①被告製品A及び被告製品B(以下「被告各製品」という。)の製造等の差止
め,②被告各製品の廃棄,③損害賠償の一部として,1000万円及び本訴状送達
の日の翌日である平成16年11月28日から支払済みに至るまで商事法定利率で
ある年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。
1 争いのない事実等
(1) 有限会社白坂設備工業(以下「白坂設備工業」という。)は,以下の特許
権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有してい
る。
① 発明の名称  換気装置の管接続構造
② 特許番号   第3135208号
③出願日    平成7年12月15日
④ 登録日    平成12年12月1日
⑤ 特許請求の範囲
 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプを設け,この
通気パイプの室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌合させる一方,前記通気パイ
プの屋外側開口部に屋外フードのガイド管を嵌合接続させる換気装置の管接続構造
において,前記屋外フードは,建物の外壁面に密着する背面板と,この背板板から
内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えてなり,当該ガイド管の内径を,
通気パイプの外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し,屋外フードのガイ
ド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにしたことを特徴
とする換気装置の管接続構造。
(2) 本件発明の構成要件
 本件発明は,以下の構成要件に分説することができる。
a-1 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプを設け,
a-2 この通気パイプの室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌合させる
一方,
a-3 前記通気パイプの屋外側開口部に屋外フードのガイド管を嵌合接続
させる
a-4 換気装置の管接続構造において,
b-1 前記屋外フードは,建物の外壁面に密着する背面板と,この背面板
から内側に向かって所定量突出させたガイド管を備えてなり,
b-2.1 当該ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメー
トル単位で大きく設定し,
b-2.2 屋外フードのガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で
嵌合接続できるようにした
c   ことを特徴とする換気装置の管接続構造。
(3) 被告各製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりである。
(4) 被告は,業として被告各製品を製造し,販売している。
2 争点
(1) 原告の専用実施権の有無(争点1)
(2) 被告各製品は,本件発明の構成要件を充足するか。(争点2)
(3) 原告の損害(争点3)
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(原告の専用実施権設定の有無)について
(原告)
 白坂設備工業は,遅くとも平成9年5月31日までに,原告に対し,本件
特許権の全範囲について専用実施権を設定した。なお,原告と白坂設備工業とは,
代表者を共通にし,役員も重複する関連企業である。
(被告)
 専用実施権は,設定登録がされなければその効力を生じないところ,本件
特許権について原告に専用実施権を設定した旨の登録はされていない。
(2) 争点2(本件発明の構成要件充足性)について
(原告)
ア 被告各製品の構成
(ア) 被告製品Aを単独で使用した場合の構成は,以下のとおりである。
A-1 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプ1(数
字は,別紙被告製品説明書記載の図面中の符号,以下同じ。)を設け,
A-2 この通気パイプ1の室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌合
させる一方,
A-3 前記通気パイプ1の屋外側開口部に,屋外フードのパイプ受け
部44及び押圧部46を嵌合接続させる
A-4 換気装置の管接続構造において,
B-1 被告製品Aは,建物の外壁面に密着する取付板部材4を有し,
この取付板部材4は内側に向かって所定量突出したパイプ受け部44及び押圧部4
6を備え,
B-2.1 当該パイプ受け部44及び押圧部46がミリメートル単位
で通気パイプ1の外側に位置するように,パイプ用孔43の内径を,通気パイプ1
の外径より所定のミリメートル単位で大きく設定し,
B-2.2 パイプ受け部44及び押圧部46が通気パイプ1の開口外
周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした
C   ことを特徴とする換気装置の管接続構造
(イ) 被告各製品を組み合わせて使用した場合
A’-1 外壁を貫通して室内側と屋外側とを連絡する通気パイプ1を
設け,
A’-2 この通気パイプ1の室内側開口部にレジスタのガイド管を嵌
合させる一方,
A’-3 前記通気パイプ1の屋外側開口部に,被告製品Aと組み合わ
せて使用される被告製品Bを嵌合接続させる
A’-4 換気装置の管接続構造において,
B’-1 被告製品Aと被告製品Bの組合せは,建物の外壁面に密着す
る取付板部材4と,この取付板部材4から内側に向かって所定量突出した被告製品
Bを備えてなり,
B’-2.1 使用状態において,被告製品Bの小径部の内径が,通気
パイプ1の外径より,所定のミリメートル単位で大きくなるよう設定し,
B’-2.2 被告製品Aと組み合わされた被告製品Bの小径部が,通
気パイプ1の開口外周を包んだ状態で嵌合接続できるようにした
C’  ことを特徴とする換気装置の管接続構造
(ウ) 被告製品Aの構成A-1ないしCは,本件発明の構成要件a-1な
いしcをそれぞれ充足する。
 被告各製品の組合せによる構成A’-1ないしC’は,本件発明の構
成要件a-1ないしcをそれぞれ充足する。
イ 構成要件a-2,a-4及びcの充足性
 本件発明は,自然換気,強制換気のいずれにも該当するものであり,本
件発明の特許請求の範囲には,強制換気を除外するような文言は存在しない。被告
各製品が強制換気による換気装置に使用する部品であるとしても,それによって,
構成要件a-2,a-4及びcの充足性が否定されるものではない。
ウ 構成要件a-3(屋外フードのガイド管)の充足性
(ア) 文言侵害
a 「屋外フードのガイド管」の意味
 本件発明は,フードとガイド管が一体化している場合と分離独立し
ている場合のいずれをも含んでいる。
 被告は,本件発明に係る特許公報に記載された明細書(以下「本件
明細書」という。)に,フードとガイド管が一体となっている構造のものが実施例
として示されていること,公知技術も同様の構造を示していることを理由に,屋外
フードのガイド管について,ガイド管を一体に備えた屋外フードにおけるガイド管
ととらえるべきである旨主張するが,本件発明の特許請求の範囲においては,「一
体」という文言は存在しないし,その旨の限定もない。
b 対比
 被告各製品は,分離可能な独立の部材であるが,壁面への取付完了
時には,フード部材3と取付板部材4が組み合わされてビスで固定され,結合され
ているから,構成要件a-3を充足する。
(イ) 均等
 仮に,構成要件a-3の「屋外フードのガイド管」について,被告が
主張するとおり,「ガイド管を一体に備えた屋外フードにおけるガイド管」である
と解したとしても,被告各製品は,構成要件a-3の「屋外フードのガイド管」と
均等である。
 すなわち,①一体型であるか分離独立型であるかは,本件発明の本質
的部分ではなく,②一体型を分離独立型に置き換えても,外壁の汚れ防止という本
件発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏するものであり,③置換
えは,当業者が容易に想到することができたものであり,④被告各製品が,本件発
明の出願時における公知技術と同一又は容易に推考できたとの事実もなく,かつ,
⑤被告各製品が,特許出願手続において意識的に除外されたというような特段の事
情もない。
エ 構成要件a-3(ガイド管)の充足性
(ア) ガイド管の意味
 ガイド管の「管」は,断面が円形で全周面を備えたパイプ状の物に限
定されるわけではない。例えば,半円形管,半管,円管,角管,多角形管,断面U
字状管,断面C字状管などの用語も当業者においては普通に用いられている。
(イ) 対比
 被告製品Aにおいては,取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部
46が,ガイド管に相当する。
 被告各製品を組み合わせて使用した場合は,被告製品Bの小径部52
がガイド管に相当する。被告製品Bの小径部52には,16か所に切れ込みが入っ
ており,断面は完全な円ではないが,これもまた管の概念に含まれる。
オ 構成要件b-1の充足性
(ア) 「所定量突出させた」の意味
 構成要件b-1の「背面板から内側に向かって所定量突出させたガイ
ド管を備えてなり」の「所定量」とは,特許請求の範囲の文言から解釈されるべき
であり,具体的数値を意味しないのであるから,被告の主張するような「ガイド管
が通気パイプの開口端よりフード内側に突出させることができる量」との限定を付
して解すべきではなく,「背面板から内側に向かって突出した量」と読むべきであ
る。
(イ) 対比
 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46は,取
付板部材4より内側に突出している。被告各製品を組み合わせて使用する場合にお
いても,被告製品Bが前記取付板部材から内側に向かって突出しているから,構成
要件b-1を充足する。
カ 構成要件b-2.1の充足性
(ア) 「ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメートル単
位で大きく設定し」の意味
 構成要件b-2.1の「ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所
定のミリメートル単位で大きく設定し」とは,通気パイプとガイド管内径のすきま
が大きくなりすぎて,結露の発生と水漏れが生じるのを回避することに主眼がある
のであって,「所定のミリメートル単位」とはセンチメートル単位を排除する意味
を持つにすぎない。被告の主張するように,通気パイプを傾斜させることができる
程度の余裕を持たせることを要するとまで,限定して解すべき根拠はない。
(イ) 対比
 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46並びに
被告製品Bは,所定のミリメートル単位で通気パイプの外側に位置しているから,
構成要件b-2.1を充足する。
キ 構成要件b-2.2の充足性
(ア) 「ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できる
ようにした」の意味
 構成要件b-2.2の「ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状
態で嵌合接続できるようにした」の「外周を包んだ状態」を,被告の主張するよう
に「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」と限定して解すべき
根拠はないから,単に,「外周を包んだ」と解すべきである。
 また,仮に,「外周を包んだ状態」を「ガイド管が通気パイプの開口
端部分を含んで包んだ状態」であると解するとしても,その状態で「嵌合接続でき
るようにした」と記載されていることからすれば,前記のような状態での接続が可
能であることしか要求されておらず,そのような嵌合接続を「しようと思えばでき
る」ということしか要求されていないというべきである。
(イ) 対比
 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46並びに
被告製品Bは,いずれも,通気パイプの開口外周を包んでおり,構成要件b-2.
2を具備する。
 また,「外周を包んだ状態」を「ガイド管が通気パイプの開口端部分
を含んで包んだ状態」であると解する場合でも,被告各製品を組み合わせて使用す
る場合,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態が作出されるかどうかは,施
工の問題に過ぎず,当該状態での施工を「しようと思えばできる」のであるから,
構成要件b-2.2を具備する。
(被告)
ア 被告各製品の使用状態
(ア) 被告製品Aの単独使用
 被告製品Aは,別紙被告製品説明書記載のとおり,壁面から突出して
いる通気パイプ1をパイプ用孔43に通して,取付板部材4を壁面に固定し,さら
に,フード部材3を取付板部材4にビス止めする。特に通気パイプ1は,押圧部4
6の弾性で,パイプ受け部44に強く押圧され保持されている。パイプ受け部44
の先端は,通気パイプ1の開口端より後方(屋内方向)位置に存在する。
(イ) 被告各製品の組合せ使用
 被告製品Bは,別紙被告製品説明書記載のとおり,壁面から突出して
いるアルミフレキシブルパイプの通気パイプ2に接着する。先端抱持部54は,そ
の弾性で通気パイプ2をしっかりと保持しており,大径部51の縁部は壁面と当接
する。そして,被告製品Bの小径部を被告製品Aの取付板部材4のパイプ用孔43
に通して,被告製品Aを装着し,取付板部材4を壁面に固定し,さらに,フード部
材3を取付板部材4にビス止めする。特に被告製品Bは,取付板部材4の押圧部4
6の弾性で,パイプ受け部44に強く押圧され保持されている。
イ 構成要件a-2,a-4及びcの充足性
 本件発明は,公知技術である「強制換気装置の管接続構造」を意識的に
除外し,「自然換気装置の管接続構造」に限定したものであるところ,被告各製品
は,強制換気による換気装置のみに使用され,管路(通気パイプ)の外側に装着す
るフード部品であり,構成要件a-2,a-4及びcを充足しない。
ウ 構成要件a-3(屋外フードのガイド管)の充足性
(ア) 文言侵害の主張について
a 「屋外フードのガイド管」の意味
 本件発明は,従前の,ガイド管が通気パイプ内側に差し入れられる
ことからくる問題点を解消するために,通気パイプの外側に差し入れるガイド管を
備えた屋外フードを採用した管接続構造として提案されたものであり,本件明細書
における実施例も,一体のもののみが示されている。
 さらに,本件発明の拒絶査定に対する不服審判の申立時においてさ
れた補正では,フード部分と壁面取付板とを別に構成した公知技術を前提にして,
フード器具がフード部分に背面板及びガイド管を一体に備えていることが明確にさ
れた。
 以上から,構成要件a-3の「屋外フードのガイド管」は,「ガイ
ド管を一体に備えた屋外フードにおけるガイド管」であると解される。
b 対比
 被告製品Aの,フード部材3と取付板部材4とは独立しており,取
付板部材4を壁面に装着した後でなければフード部材3を取り付けることができ
ず,前記公知技術の構造と同一である。被告各製品の組合せ使用においても同様で
ある。
 したがって,被告各製品は,ガイド管を一体に備えた屋外フードに
おけるガイド管を有しておらず,構成要件a-3を充足しない。
(イ) 均等の主張について
 被告各製品が,本件明細書に記載された「結露が外壁面に漏れ出るこ
とはない」との作用効果を奏することは認める。しかし,同効果は,本件発明にお
ける「接続段差部分において,ほぼ完全にすべての水分を屋外フードに送り込むこ
とが可能である」との作用によるものではなく,通気パイプの開口部分が,壁面よ
り突出しているという一般的な構成によるものである。したがって,置換可能性が
ない。また外壁の汚れ防止という作用効果は,公知技術によっても達成できるもの
である。
 したがって,原告の均等の主張は理由がない。
エ 構成要件a-3(ガイド管)の充足性
(ア) ガイド管の意味
 本件特許権の特許権者は,出願過程において,本件発明のガイド管が
通気パイプとの管継手構造であることを強調し,壁面から突出した通気パイプに対
して,外周全部を包まず,定点で指示する取付板は,本件発明のガイド管とは異な
る構造であると明確に指摘している。したがって,本件発明のガイド管は,管継手
となる筒状構造を意味する。
(イ) 対比
 被告製品Aのパイプ装着構造は,取付板部材4のパイプ受け部44と
押圧部46で通気パイプを挟圧する構造であるから,管継手となる筒状構造のガイ
ド管を備えていない。
 被告製品Bは,筒状構造のパイプであるが,そもそも被告製品Bは管
径調整用であり,管継手の技術的意義を備えていない。
 したがって,被告各製品は,ガイド管を備えておらず,構成要件a-
3を充足しない。
オ 構成要件b-1の充足性
(ア) 「所定量突出させた」の意味
 構成要件b-1の「背面板から内側に向かって所定量突出させたガイ
ド管を備えてなり」の「所定量」とは,「本件発明の構成に必要とする量」である
から,「ガイド管を通気パイプに嵌合装着した際に,少なくともガイド管が通気パ
イプの開口端の外周部分を含んだ状態で包まれる突出量」を意味する。結局,「所
定量」とは,「ガイド管が通気パイプの開口端よりフード内側に突出させることが
できる量」であると解される。
(イ) 対比
 被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び被告製品Bは,通
気パイプの開口端より突出して装着されるものではないので,いずれも,背面板か
ら内側に向かって所定量突出させたガイド管とはいえない。
 したがって,被告各製品は,構成要件b-1を充足しない。
カ 構成要件b-2.1の充足性
(ア) 「ガイド管の内径を,通気パイプの外径より所定のミリメートル単
位で大きく設定し」の意味
 本件明細書の詳細な説明【0020】には,「ガイド管14の内径
は,通気パイプ11の外径より若干の余裕をもたせて設定するから,この余裕寸法
に応じてガイド管14を屋外に向けて僅かに下降傾斜させ・・・防止することがで
きる」と記載されており,構成要件b-2.1の「ミリメートル単位で大きく設定
する」とは,「1~9ミリメートル程度大きくして,ガイド管を通気パイプに嵌合
接続した状態で,通気パイプを僅かに傾斜させることができる程度の余裕を持たせ
ている」との意味である。
(イ) 対比
 被告各製品は,通気パイプに押圧状態で密着して装着されるものであ
り,通気パイプより多少余裕を持って大きく設定されるという概念には包含されな
い。
 被告製品Aの通気パイプと取付板部材4との連結構造は,通気パイプ
をパイプ用孔43に挿通すると,通気パイプは押圧部46の弾性でパイプ受け部4
4に強く押されて保持されるものである。また,被告製品Bは先端抱持部でアルミ
フレキシブルパイプの全周を緩みなく抱持する。
 したがって,被告各製品は,構成要件b-2.1を充足しない。
キ 構成要件b-2.2の充足性
(ア) 「ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合接続できる
ようにした」の意味
 「開口外周」とは,開口箇所である「開口端」の外側縁と解されるか
ら,「開口外周を包んだ状態」とは,「開口端の外周部分を含んで包んだ状態」と
解すべきである。
(イ) 対比
 被告製品Aのパイプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bは,
通気パイプの開口外周を包んだ状態で嵌合されていないから,構成要件b-2.2
を充足しない。
(3) 争点3(原告の損害)について
(原告)
 平成15年1月1日から平成16年7月31日までに被告が製造し,販売
した被告製品Aの台数は,15万台を下回らない。被告製品Aと市場において競合
する原告製品の1台当たりの利益は,1000円を下回らない。
 したがって,原告が,平成16年7月31日までに被った損害は,被告製
品Aの販売台数に1台当たりの原告利益を乗じた1億5000万円を下回ることは
ない。
(被告)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点2,オ(構成要件b-1の充足性)について
 原告の専用実施権の有無について争いがあるが,まず,争点2から検討す
る。
(1) 「所定量」の意味
 構成要件b-1「背面板から内側に向かって所定量突出させたガイド管を
備えてなり」の「所定量」とは,「ガイド管が通気パイプの開口端よりフード内側
に突出することができる量」であると解される。
 以下,その理由を述べる。
ア 本件発明の特許請求の範囲では,ガイド管の,背面板から内側に向かっ
て突出する量について,「所定量」と記載されているのみであり,具体的数値等は
示されていないのであるから,その内容が一義的に明確であるということはできな
い。
イ そこで,被告各製品のガイド管(被告製品Aにおける取付板部材4のパ
イプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bの小径部52)の内側に向かって
突出する量が,本件発明の「所定量」の範囲に属するか否かが争われている本件訴
訟においては,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その「所定量」
の技術的意義を確定することが必要となる。
(ア) 本件明細書には,本件発明が解決しようとする課題として,以下の
記載がある(甲2,3欄9~31行目)。
「このような従来の換気構造にあっては,室内側から送気される温かい
空気に含まれている湿気(水分)が外に向かうにつれて外気温によって水滴化し,
この水滴がフードまわりの屋外壁面に滲みつくという問題があった。この問題は単
に水滴が壁面を汚すという美観上の問題にとどまらず,北海道や東北などの寒冷地
では,厳冬期になると滴った水滴が凍結し,外壁を剥離損傷させる等の問題を惹起
する。
 このため近時に至って屋外に配するフードに,水だれ防止のガイドを
一体成形する等の工夫が提案されるようになった。フードの先端部にガイドを形成
することによって,外壁1から最も遠い位置において水を外に向けて排出するため
である。フードに形成した水抜きガイドは,排気中水分を壁面に付着させないとい
う点では一応の有効性が確認されている。しかしながら水抜きガイドによってもな
お,外壁面に水滴が付着するという問題が相当の割合で発生する。水抜きガイドは
各種提案されているが,未だ完全な効果を実現できる構造がないというのが実情で
ある。
 そこで本発明の目的は,換気口のフードまわりにおける水滴の壁面付
着を完全に防止する点にある。」
(イ) 本件明細書には,本件発明の作用として,以下の記載がある(甲
2,4欄3~27行目)。
「本発明に係る管継手構造は,従来の継手構造とは逆に,外壁内を貫通
する通気パイプの開口端部を屋外フードのガイド管に嵌入させる。屋外フードのガ
イド管は,既設新設を問わず常に通気パイプの端部を外側から包んで嵌合接続状態
を保つ。
 かかる構造によれば,管の接続部分にある段差隙間は室内側に向かっ
て延びるので,室内側から屋外に向かって流れてきた空気水分が水滴化したとして
も,当該水分は外壁面に漏れ出ることがない。接続段差部分においてほぼ完全にす
べての水分を屋外フードに送り込むことが可能となり,壁面汚損や厳冬期における
壁面剥離等の問題を確実に防止することが可能となる。
 既設の換気フードがすでに設置されている場合は,壁面内に納められ
ている通気パイプの開口端部を外側から包み込むようにフードのガイド管を嵌め込
むことは難しい。通気パイプは外壁面の内側までしか延びていないので,ガイド管
を接続させようとすると,通気パイプの内側にガイド管を嵌入する(差し込む)し
かないからである。
 しかし屋外フードのガイド管を背面板より所定寸法後方に突出させて
おくと,通気パイプの開口端部まわりの外壁面を若干寸法だけ旋削することにより
ガイド管を外側から嵌め込むことが可能となって既設の換気装置(屋外フード)で
あっても水漏れを確実に防止することが可能となる。」
(ウ) 本件明細書における実施例として,以下の記載がある(甲2,5欄
17~21行目)。
「このような継手構造によれば,図1に矢印Aで示すように,室内Rか
ら屋外Tに流れ出る排気水分は,パイプの接続段差部分で淀み溜まることがなく,
そのまま自然にガイド管14側に落下し,フード12を介して屋外に排出され
る。」
 上記実施例を図示した図1には,通気パイプ11にフード12が取り
付けられた換気装置構造の側面断面図が示されており,ここでは,ガイド管14
が,通気パイプ11の開口端よりもフード内側に突出し,通気パイプとの段差が形
成されている図が示され,通気パイプ内から段差部分を通って排気水分が屋外に排
出されることを示す矢印Aが記載されている。
ウ 以上の各記載によれば,次の事実が認められる。
  すなわち,従来の換気構造では,室内側から送気される温かい空気に含
まれる湿気(水分)が外に向かうにつれて水滴化し,この水滴がフードの周りの屋
外壁面に滲みつくという問題があったところ,屋外に配するフードに水だれ防止の
ガイドを一体成形し,フードの先端部にガイドを形成することによって,外壁から
最も遠い位置において水を外に向けて排出する等の工夫がなされていたが,それで
もなお外壁面に水滴が付着するという問題が発生することが,本件発明の技術課題
とされていた。そして,本件発明では,この技術課題を解決するため,特許請求の
範囲に記載の構成を採用し,通気パイプの屋外側開口部にガイド管を嵌合接続さ
せ,ガイド管を背面板からフード内側に向かって所定量突出させたものである。そ
の嵌合接続の態様は,ガイド管の内径を通気パイプの外径よりミリメートル単位で
大きく設定し,ガイド管が通気パイプの開口外周を包んだ状態とされ,従来の継手
構造とは逆に,外壁内を貫通する通気パイプの開口端部を屋外フードのガイド管に
嵌入させ,常に通気パイプの端部を外側から包んで嵌合接続状態を保つものであ
る。本件発明の実施例でも,ガイド管が通気パイプの開口端よりもフード内側に突
出して通気パイプとの段差が形成され,通気パイプ内から段差部分を通って排気水
分が屋外に排出されることが示されている。この結果,本件発明では,管の接続部
分にある段差隙間が室内側に向かって延びるので,室内側から屋外に向かって流れ
てきた空気水分が水滴化したとしても,外壁面に漏れ出ないという効果を達成した
ものである。
  このように,従来技術において,フードの先端部に形成されたガイド管
が,外壁から最も遠い位置において水を外に向けて排出するように構成されていた
ことを前提としつつ,さらに,本件発明は,外壁面に水滴が付着することを防止し
ようとするのであるから,背面板から内側に向かって突出し水を排出する本件発明
のガイド管は,当然,通気パイプの開口端よりも,更に屋外フード内側に突出した
構成を採用したものと解さなければならない。そして,嵌合接続により形成された
通気パイプとガイド管との段差により,通気パイプを通って排出される水分を確実
に屋外フードに送り込むことを達成したものと認められる。
  そうすると,構成要件b-1の「所定量」とは,外壁面に水滴が付着す
ることを確実に防止し,通気パイプとガイド管との段差を可能にするために,「ガ
イド管が通気パイプの開口端よりフード内側に突出することができる量」を意味す
るものと認めるのが相当である。
エ この点について原告は,構成要件b-1の「所定量」とは,具体的数値
を意味しないのであるから,被告の主張するような「ガイド管が通気パイプの開口
端よりフード内側に突出させることができる量」との限定を付して解すべきではな
く,「背面板から内側に向かって突出した量」と読むべきであると主張する。
  しかしながら,原告主張のように,本件発明のガイド管が,通気パイプ
の開口端よりフード内側に突出することを要件とせず,単に背面板から内側に向か
って突出していればよい(すなわち,通気パイプの開口端の方がガイド管よりフー
ド内側に突出している場合を含む。)ものと解すると,前示のとおり,従来技術に
おけるガイド管が,外壁から最も遠い位置において水を外に向けて排出するように
構成されていたことを前提としつつ,さらに,外壁面に水滴が付着することを防止
するという本件発明が目的とした技術課題の解決が達成できないことは明らかであ
り,原告の上記主張は,到底,採用することができない。
(2) 被告各製品との対比
 被告各製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,同説明書
の図6によれば,被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44は,通気パイプの
開口端よりもフード内側に突出されるように構成されていない。同説明書の図13
によれば,被告各製品を組み合わせて使用した場合にも,被告製品Aの取付板部材
4のパイプ受け部44及び被告製品Bは,いずれも,アルミフレキシブルパイプの
開口端よりもフード内側に突出されるように構成されていない。
 したがって,被告各製品は,通気パイプの開口端よりもフード内部に突出
させたガイド管により段差を設け,排気水分を確実に屋外フードに送り込むことを
可能にする構成を採用しておらず,「背面板から内側に向かって所定量突出させた
ガイド管を備えて」いないこととなり,構成要件b-1を充足しない。
2 争点2,キ(構成要件b-2.2の充足性)について
(1) 「開口外周を包んだ状態」の意味
 構成要件b-2.2「屋外フードのガイド管が通気パイプの開口外周を包
んだ状態で嵌合接続できるようにした」の「開口外周を包んだ状態」とは,「開口
端部分を含んで包んだ状態」であると解される。
 以下,その理由を述べる。
ア 「開口外周」とは,通常,通気パイプの開口部の外周りを意味するもの
と考えられ,一定の幅を持つことが予定されているが,開口端部分が除かれるもの
ではないと解される。
イ 本件明細書の前記各記載によっても,上記アで示した通常の意味とは異
なるものとして定義されていると解することはできない。すなわち,本件発明のガ
イド管は,「常に通気パイプの端部を外側から包んで嵌合接続状態を保つ」(甲
2,4欄6~7行目)ものとされ,通気パイプが外壁面の内側までにしか延びてい
ないような態様であっても,屋外フードのガイド管を背面板より所定寸法後方に突
出させておき,通気パイプの開口端部まわりの外壁面を若干寸法だけ旋削すること
により,ガイド管を外側から嵌め込むことを可能とするものであるから,通気パイ
プの開口端部分を包み込んで嵌合接続するものであることが明らかである。
ウ 以上によれば,構成要件b-2.2の「開口外周」とは,開口部の外回
りであり,開口端部分を除くものではないと解される。そして,「開口外周を包ん
た状態」とは,「開口端部分を含んで包んだ状態」を意味すると解するのが相当で
ある。
エ 原告は,「外周を包んだ状態」が,「ガイド管が通気パイプの開口端部
分を含んで包んだ状態」と限定して解すべき根拠はないから,単に,「外周を包ん
だ」と解すべきであると主張する。
  しかしながら,本件発明のガイド管は,前示のとおり,常に通気パイプ
の端部を外側から包みこむ嵌合接続構造によって,管の接続部分にある段差隙間が
室内側に向かって延び,室内側から屋外に向かって流れてきた空気水分が水滴化し
たとしても,外壁面に漏れ出ることなく,接続段差部分においてほぼ完全に水分を
屋外フードに送り込むことを可能とする作用効果を達成するものであるから,「ガ
イド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」を必須の構成とするもので
あり,原告の上記主張を採用する余地はない。
  また,上記説示に照らして,本件発明においては,仮に,「外周を包ん
だ状態」を「ガイド管が通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態」であると解
するとしても,そのような嵌合接続を「しようと思えばできる」ということしか要
求されていない旨の原告の上記主張が採用できないことも明らかである。
(2) 被告各製品との対比
ア 被告各製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,同説明
書の図3,4及び6によれば,被告製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び
押圧部46は,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態となっていない。同説
明書の図13~15によれば,被告各製品を組み合わせて使用した場合にも,被告
製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44及び押圧部46並びに被告製品Bは,い
ずれも,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態となっていない。
  したがって,被告各製品は,構成要件b-2.2を充足しない。
イ 原告は,被告各製品を組み合わせて使用する場合,通気パイプの開口端
部分を含んで包んだ状態が作出されるかどうかは,施工の問題にすぎず,当該状態
での施工を「しようと思えばできる」のであるから,構成要件b-2.2を具備す
る旨主張する。
  しかしながら,被告各製品を組み合わせて使用する場合でも,①通気パ
イプは,被告製品Aの取付板部材4の押圧部46の弾性で被告製品Bを介して被告
製品Aの取付板部材4のパイプ受け部44に押されて保持される構成がとられてい
ること(別紙被告製品説明書),②被告各製品の取付方法として,通気パイプを一
定の長さで外壁面から突出させるように指示されているところ(甲3の1,4枚
目),その突出量は,被告各製品を組み合わせて使用した場合の,壁面から被告製
品Bの抱持部54の先端までの長さよりも大きいこと(乙3の2,3の3)からす
れば,被告各製品は,通気パイプの開口端部分を含んで包んだ状態が形成されるこ
とがないように設計されているのであり,単なる施工の問題であるとはいえず,構
成要件b-2.2を具備する可能性があるということはできない。
  したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
第4 結論
 以上によれば,その余の点について論ずるまでもなく,原告の請求は,いず
れも理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第29部
          裁判長裁判官     清  水     節
  
裁判官     山  田  真  紀
裁判官     髙  田  公  輝
(別紙)
物 件 目 録
被告製品A
 U型フード付換気口ベアーキャップ VC-100
 同                VC-150
 同                VC-100-B
 同                VC-150-B
被告製品B
 アルミフレキ取付けスリーブ    VCS-100
 同                VCS-150
   以  上
被告製品説明書

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛