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裁判例


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平成13年(行ケ)第117号 特許取消決定取消請求事件
平成14年9月12日口頭弁論終結
判         決
原      告     南海プライウッド株式会社
訴訟代理人弁理士     畑   中   芳   実
被      告     特許庁長官 太 田 信一郎
指定代理人      小   林       武
同            桐   本       勲
同            大   野   克   人
同            大   橋   良   三
主         文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成11年異議第73436号事件について平成13年1月31日
にした特許取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「化粧木材の製造方法及び化粧木材」とする特許第2
869263号の特許(平成4年9月1日に発明の名称を「化粧木材およびその製
造方法」として特許出願,平成10年12月25日に名称を「化粧木材の製造方法
及び化粧木材」として特許権設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本
件発明」という。)の特許権者である。
本件特許の請求項1,2について,特許異議の申立てがなされ,その申立て
は,平成11年異議第73436号事件として審理された。原告は,この審理の過
程で,平成12年1月31日に,本件出願の願書に添付された明細書の訂正を請求
した(以下「本件訂正請求」という。)。特許庁は,平成13年1月31日に,
「特許第2869263号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定
をし,同年2月19日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲
(1) 本件訂正請求前のもの
「【請求項1】木理が顕著に表れていない板材の表面に木理模様を形成する化
粧木材の製造方法であり,表面に,突出高さが0.1~0.2mm,幅が0.3m
m~1.8mm,長さが1.3mm~8.0mm大の細長いエンボス用突起が突設
されると共に,多数のエンボス用突起が木理模様を構成するように,密集して配列
形成された型を用意し,前記板材を研磨した後,前記板材の繊維方向に対して,約
5度の角度範囲において前記エンボス用突起の長手方向が向くように,前記型と前
記板材との方向を調整した後,前記型を前記板材に押圧して前記板材の表面に木理
模様を形成し,この木理模様を形成した板材の表面を染色し,染色後に樹脂塗装に
より表面を平滑に仕上げることを特徴とする化粧木材の製造方法。」(以下「本件
発明1」という。)
「【請求項2】研磨された表面を有し,その表面に木理が顕著に表れていない
板材に,個々の深さが0.1~0.2mm,幅が0.3mm~1.8mm,長さが
1.3mm~8.0mm大の細長いエンボスが,前記板材の繊維方向に対して約5
度の角度範囲において並列的に配列され,更に,配列された前記エンボスの全体が
木理模様を形成し,前記エンボス及び前記板材の表面は染色されると共に樹脂塗装
により平滑面とされていることを特徴とする化粧木材。」(以下「本件発明2」と
いう。)
(2) 本件訂正請求に係るもの(下線部が訂正個所である。)
「【請求項1】木理が顕著に表れていない板材の表面に木理模様を形成する化
粧木材の製造方法であり,表面に,突出高さが0.1~0.2mm,幅が0.3m
m~1.8mm,長さが1.3mm~8.0mm大の細長いエンボス用突起が突設
されると共に,多数のエンボス用突起が木理模様を構成するように,密集して配列
形成された型を用意し,前記板材を研磨した後,前記板材の繊維方向に対して,約
5度の角度範囲において前記エンボス用突起の長手方向が向くように,前記型と前
記板材との方向を調整した後,前記型を前記板材に押圧して前記板材の表面に木理
模様を形成し,この木理模様を形成した板材の表面を染料又は顔料により染色し,
染色後に透明塗料による樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることを特徴とする化
粧木材の製造方法。」(以下「訂正発明1」という。)
「【請求項2】研磨された表面を有し,その表面に木理が顕著に表れていない
板材に,個々の深さが0.1~0.2mm,幅が0.3mm~1.8mm,長さが
1.3mm~8.0mm大の細長いエンボスが,前記板材の繊維方向に対して約5
度の角度範囲において並列的に配列され,更に,配列された前記エンボスの全体が
木理模様を形成し,前記エンボスおよび前記板材の表面は染料又は顔料により染色
されると共に透明塗料による樹脂塗装により平滑面とされていることを特徴とする
化粧木材。」(以下「訂正発明2」という。)
3 決定の理由の要点
別紙決定書の写し記載のとおり,①訂正発明1,2は,特開昭48-581
11号公報(甲第2号証。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物
1発明」という。),特公昭47-29962号公報(甲第3号証。以下「刊行物
2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。),森北出版株式会社
1974年7月10日発行「実用木材加工全集 第9巻 特殊合板」(柳下正著)
216頁ないし221頁(甲第4号証。以下「刊行物3」という。)記載の事項及
び周知慣用の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであっ
て,特許法29条2項の規定に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることが
できないものであるから,本件訂正請求は認められない,②本件発明1,2は,訂
正発明1,2に係る上記①と実質的に同じ理由により,当業者が容易に発明をする
ことができたものというべきであるから,本件発明1,2に係る特許は,特許法2
9条2項の規定に違反してされたものである,と認定判断した。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,「【1】 手続きの経緯」,「【2】 訂正の適否[1]」
(決定書1頁下から16行~2頁18行)は認める。「[2]」(同2頁19行~
3頁14行)のうち,刊行物1発明の認定(同2頁22行~30行)は争い,その
余は認める。「[3]」(同3頁15行~5頁下から8行)のうち,4頁下から6
行の「さらにまた,」から5頁7行の「できたものである。」まで,5頁27行の
「そして,」から同頁32行の「できたものである。」までは否認し,その余は認
める。「[4]」(同5頁下から7行~下から4行)は否認する。「【3】 特許
異議の申立てについて」(同5頁下から3行~6頁下から2行)のうち,6頁下か
ら14行の「したがって,」から同頁下から12行の「る。」まで,同頁下から6
行の「したがって,」から同頁下から4行の「る。」までは,否認し,「[3]」
(同6頁下から3行~2行)は争い,その余は認める。「【4】 むすび」(同6
頁末行~7頁3行)は,争う。
決定は,訂正発明1,2と刊行物1との間の相違点の一つ(相違点4)につ
いての判断を誤り(取消事由1),刊行物1発明の認定を誤った結果,訂正発明1
及び訂正発明2と刊行物1発明との相違点を看過した(取消事由2)ものであり,
これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消さ
れるべきものである。
1 取消事由1(相違点4についての判断の誤り)
決定は,「透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げるにあたり,訂正発
明1においては,平滑に仕上げるとしているのに対して,刊行物1に記載された発
明においては,この点について記載がない点。」(決定書3頁32行~34行)
を,訂正発明1と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点4)として認定した上,
この相違点について,「樹脂塗装により表面を仕上げるにあたり,平滑に仕上げる
ことは,本件特許に係る出願の出願前において周知慣用の技術である。しかも,こ
のようなものを化粧木材の透明塗料による表面の仕上げに適用したところで,当然
の効果を奏するにすぎないから,この相違点において掲げた訂正発明1の構成のご
とくすることは,当業者が容易に想到することができたものである。」(決定書4
頁35行~5頁1行)と認定判断し,訂正発明2と刊行物1発明との関係において
も,同様の認定判断をした。
しかし,表面にわざわざエンボスを形成して凹凸を設けた後,更に樹脂塗装
により表面を平滑に仕上げることが,本件出願前において周知慣用の技術であった
とは考えられない。
決定は,周知慣用でないものを周知慣用であると誤って認定し,その結果,
上記相違点についての判断を誤っている。
2 取消事由2(刊行物1発明の認定の誤りによる相違点の看過)
(1) 決定は,刊行物1に,「ラワン合板の表面に木理模様を形成する化粧木材
の製造方法であり,表面に,導管溝凹部より大きい多数のエンボス用突起が導管溝
状の模様を構成するように密集して配列形成された型を用意し,前記合板の導管溝
の走行方向,すなわち,繊維方向に前記エンボス用突起の長手方向が向くように,
前記型と前記合板との方向を調整した後,前記型を前記合板に押圧して前記合板の
表面に模様を形成し,この模様を形成した合板の表面を木下地色塗料を塗布し,塗
布後に透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げること(判決注・原文のまま)
化粧木材の製造方法及びこの製造方法により製造された化粧木材。」(決定書2頁
23行~30行)が記載されていると認定した。
しかし,刊行物1発明では,エンボスを形成した板材表面に木下地色塗料
を塗布して乾燥させた後,この板材表面に木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布す
るとともに,平滑部分の着色塗料をかき取っており,この結果,エンボスの内面に
は木下地色塗料による塗膜及び着色塗料による塗膜(着色塗膜)が存在することに
なるにもかかわらず,決定は,この点を刊行物1発明として認定しなかった。
訂正発明1及び訂正発明2では,エンボスを形成した板材の表面を染料又
は顔料により染色した後,この板材の表面に透明塗料を塗布しており,着色塗料を
塗布する工程及びその後に平滑部分の着色塗料をかき取る工程がなく,エンボスの
内面及び平滑部の表面に染料または顔料を含む塗膜及び透明塗料による塗膜が存在
するだけで,エンボスの内面には着色塗膜が存在しない点において,刊行物1発明
と相違する。
このように,決定は,刊行物1発明の認定を誤った結果,訂正発明1及び
訂正発明2と刊行物1発明との相違点を看過したものであり,これが請求項1,2
のいずれについても,決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2) 被告は,訂正発明1は,染色をする工程と樹脂塗装をする工程との間に別
の工程,例えば,染色した塗料より暗色の着色塗料を塗布するとともに平滑部分を
かき取る工程が介在することを排除する発明ではない,訂正発明2は,この訂正発
明1によって製造された化粧木材に係る発明であるから,訂正発明1と同様であ
る,と主張する。
しかし,訂正発明1が前記の「染色した塗料より暗色の着色塗料を塗布す
るとともに平滑部分をかき取る工程」を有さず,訂正発明2が上記工程による着色
塗膜を有さないことは明らかである。なぜなら,上記のような工程およびそれによ
る着色塗膜を設けた場合には,訂正発明1および訂正発明2の特有の効果である次
の(イ)~(ハ)の効果は得られないからである。
(イ)訂正発明1及び訂正発明2によれば,木理が顕著に表れない板材であ
っても,細長いエンボスが繊維方向に沿って表れる。さらに,個々のエンボスは,
深さが0.1~0.2mm,幅が0.3mm~1.8mm,長さが1.3mm~
8.0mm大の一定の細長さを有しているため,導管の切断面と同様に細長く細か
いものとなる。しかも,このエンボスが,繊維方向に密集して並列しているので,
木理が顕著に表れていない板材であっても,木理模様を天然木そっくりに表現する
ことができる。
(ロ)訂正発明1及び訂正発明2によれば,木理模様のエンボス群と研磨さ
れた表面は染料または顔料により染色され,さらに染色後に透明塗料による樹脂塗
装により表面が平滑に仕上げられる。このとき,エンボス部分が一定の深さを有し
ているので,研磨部分より顕著に目視され,木理模様が一層鮮やかに表現される。
(ハ)訂正発明1及び訂正発明2によれば,エンボス部分及び研磨部分の両
者が段差なく滑らかに塗装されているので,天然木にニスを塗装したように化粧す
ることができる。また,エンボス内に埃などが入り込まず,掃除が容易に行える。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点4についての判断の誤り)について
樹脂塗装により表面を仕上げるに当たり,平滑に仕上げることが,本件出願
の前において周知慣用の技術となっていたことは,特開昭60-64886号公報
(乙第1号証),特開平3-218801号公報(乙第2号証)及び特公昭52-
27208号公報(乙第3号証)から明らかである。
上記各刊行物には,上記周知慣用の技術だけでなく,表面にわざわざ凹凸を
設けた後のものについても,樹脂塗装により表面を仕上げるに当たり,平滑に仕上
げることまでが記載されている。
2 取消事由2(刊行物1発明の認定の誤りによる相違点の看過)について
訂正発明1の特許請求の範囲には,「この木理模様を形成した板材の表面を
染料又は顔料により染色し,染色後に透明塗料による樹脂塗装により表面を平滑に
仕上げる」と記載されている。
この記載からすると,訂正発明1は,染色をする工程と樹脂塗装をする工程
との間に別の工程,例えば,染色に用いた塗料より暗色の着色塗料を塗布するとと
もに平滑部分の着色塗料をかき取る工程が介在することを排除する発明ではない。
訂正発明2は,訂正発明1によって製造された化粧木材に係る発明であるか
ら,訂正発明1と同様である。
したがって,決定に原告主張の相違点の看過はない。
また,乙第2号証刊行物に記載されているように,染色をする工程と樹脂塗
装をする工程との間に別の工程を介在させない化粧木材の製造方法は,本件特許に
係る出願の出願前において周知慣用の技術である。
第5 当裁判所の判断
1 訂正発明1,2の概要
甲第6号証によれば,本件訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」とい
う。)には,次の記載があることが認められる。
ア「【産業上の利用分野】この発明は,住宅の床材,壁材,天井材,造作材
などの内装材に用いられる化粧木材およびその製造方法に関するものである。
【従来の技術】従来から,上記のような化粧木材として,表面に木理が表
われている木部を化粧面側に設けたものがある。その代表的なものとしては,原木
から裁断した一枚形状のいわゆる無垢材が知られている。
ところで,この種の化粧木材は,一般にその表面に塗装などの化粧仕上が
施されているが,さらに化粧面には,意匠的な外観として,木部が本来もっている
いわゆる柾目や板目などと呼ばれる木理が表されていることが多い。
この木理は,原木を構成する細胞の配列によって自然に表われるもので,
樹種によってその色調の強弱や意匠的な美観の程度が異なる。
また,同じ原木から無垢材を裁断する場合でも,裁断の際の板取りのし方
によって,木理の色調の強弱や意匠的な美観の程度が異なってくる。
このため,木理の色調が淡かったり,模様として意匠的に美観に欠けるよ
うな化粧木材が得られる場合もある。なお,この発明で木理とは,木材の断面(表
面)に年輪,繊維,導管,師管などの細胞の配列が種々の模様をなして表われてい
るものと定義する。
」(段落【0001】~【0006】)
イ「【発明が解決しようとする課題】ところで,この木理は,化粧木材の商
品価値を決める要素の一つになっており,色調が淡かったり,模様として意匠的に
美観に欠けるようなものは,商品価値が低いものとして扱われてしまう場合があ
る。
この発明は,上記の問題点を背景としてなされたもので,木理の意匠的
な美観が少ない化粧木材であっても,化粧木材の木部がもつ木の質感を損なうこと
なく,商品価値を高めたものを提供することを目的としている。」(段落【000
7】~【0008】)
ウ上記課題を解決するため,訂正発明1,2は,上記第2の2(2)記載のと
おりの構成を備えることを特徴とする(段落【0009】参照)。
エ「【発明の効果】本発明の化粧材の製造方法及び化粧木材によれば,木理
が顕著に表れない板材であっても,細長いエンボスが繊維方向に沿って表れる。更
に,個々のエンボスは,深さが0.1~0.2㎜,幅が0.3㎜~1.8㎜,長さ
が1.3㎜~8.0㎜大の一定の細長さを有しているため,導管の切断面と同様に
細長く細かいものとなる。しかも,このエンボスが,繊維方向に密集して並列して
いるので,木理が顕著に表れていない板材であっても,模様を天然木そっくりに表
現することができる。更に加えて,木理模様のエンボス群と研磨された表面とは,
染色により着色されるが,エンボス部分が一定の深さを有しているので,研磨部分
より顕著に目視され,木理模様が一層鮮やかに表現される。さらに,エンボス部分
及び研磨部分の両者が段差なく滑らかに塗装されているので,天然木にニスを塗装
したように化粧することができる。このように,木理模様が顕著に表れない板材で
あっても,導管による木理模様をそっくり且つ美麗に表現できるので,化粧木材の
外観品質が向上する。さらに,このエンボスの配列を様々に変えた型を用いること
により,木理模様を様々に変化させることができる。」(段落【0035】)
上記認定の記載によれば,訂正発明1,2は,木理の意匠的な美観が少ない
化粧木材であっても,化粧木材の木部がもつ木の質感を損なうことなく,商品価値
を高めるため,化粧木材として用いる板材の表面に,型によって,一定の深さを有
する模様(エンボス)を形成した後,染色によって着色し,染色後に樹脂塗装によ
り表面を平滑に仕上げることを特徴とするものである,ということができる。
2 取消事由1(相違点4についての判断の誤り)について
原告は,訂正発明1と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点4)である
「透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げるにあたり,訂正発明1において
は,平滑に仕上げるとしているのに対して,刊行物1に記載された発明において
は,この点について記載がない点」(決定書3頁32行~34行)について,決定
が,樹脂塗装により表面を仕上げるに当たり,平滑に仕上げることは,本件出願前
における周知慣用の技術である,と認定判断し,訂正発明2についても同様の認定
判断をしたことについて,表面にわざわざエンボスを形成して凹凸を設けた後,さ
らに樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることは,本件出願前において,周知慣用
の技術であったとはいえない,と主張する。
しかしながら,本件出願前(本件出願日は平成4年9月1日)に公開された
各刊行物中には,次のとおりの記載がある。
(1) 特開昭60-64886号公報(乙第1号証)
ア「この発明は,着色によって明確なコントラストの木目模様をあらわし高
級な板材外観を呈するようにした木質化粧板に関する。」(乙第1号証1頁左下欄
末行~右上欄2行)
イ「この化粧原板(5)の表面を,夏材部(1)が凸部(2)に,春材部
(3)が凹部(4)になるように加工するには,上記表面をロール状の金属ブラシ
或いはナイロンブラシ等でブラッシング研削することにより最も簡易に行いうる
が,これに限られるものではなく,例えば研削材を吹き付けるブラスト加工,或い
は弾性体を介して木材を圧縮し,柔かい春材部を陥没させるプレス加工等に依って
表面凹凸状に形成せしめるものとしても良い。凹部(4)の深さは,これを0.1
~0.5㎜程度に形成することによって良好に所期する効果を期待することができ
る。次に,第3,4図に示すように,上記化粧原板(5)の凹凸状表面の全体に,
春材部色に着色した透明または半透明の春材部色塗料による春材部色塗層(6)を
施す。・・・次に,この化粧原板原板(判決注・「化粧原板」の誤記と認める。)
(5)の凸部(2)の両側の傾斜部(7)から頂部(8)にかけて透明または半透
明の夏材部色塗料による夏材部色塗層(9)を,頂部(8)へ行く程濃くなるよう
複数の単位塗層(9a)(9b)(9c)に分けてに(判決注・「分けて」の誤記
と認める。)塗着形成する。」(同2頁左下欄下から3行~右下欄14行,3頁左
上欄9行~14行))
ウ「これらの着色塗層(6)(9)の上にさらにカラークリア塗装施し(判
決注・「塗装を施し」の誤記と認める。),全体の調色をはかるようにすることが
好ましく,またこのカラークリアを全体の表面保護膜(15)を形成するためのシ
ーラーとしておいてもよい。全体の保護塗膜(15)をどのようなものにするか
は,化粧板の用途によって適宜に選択されるものであり,例えば床材であれば,あ
る程度の平滑性,耐摩耗性,耐候性が要求されることに鑑み,ポリエステル樹脂等
で凹部をある程度充填して表面平滑ないしはそれに近い状態に仕上げたり,あるい
はジアリルフタレート等の透明化しうる樹脂含浸シートを熱圧成形して表面平滑に
仕上げるものとする。」(同4頁左下欄1行~14行)
(2) 特開平3-218801号公報(乙第2号証)
ア「(3)基板の表面に導管孔などの木肌模様をエンボス加工により凹部と
して形成し,その基板の表面に木肌模様の凹部にも浸透するように着色下地塗料を
塗布して乾燥し,次いで透明なサンデングシーラーを塗付して乾燥した後,その表
面を平滑とし,木目模様を印刷したことを特徴とする化粧板の製造方法」(乙第2
号証1頁特許請求の範囲(3)」
イ「本発明は,建築用,家具製造用に供する化粧板,特に導管孔などの木肌
模様を凹部として有する化粧板とその製造方法に関する。」(同1頁右欄7行~9
行)
(3) 特公昭52-27208号公報(乙第3号証)
ア「ドライオフセット印刷を併用したエンボス化粧合板の製造方法」(発明
の名称)
イ「本実施例は,セン,タモなど比較的軟らかな感じの導管孔模様を表現す
る場合である。・・・エンボスロールによつて木目模様部に導管溝凹部を形成す
る。・・・タモの木目模様に合ったボケ柄模様の印刷をグラビヤオフセツト印刷機
で行う。・・・リバースローラーコーターによつて半透明着色の水性アクリル塗料
を全面に塗布し,リバースロールによつて凹部に半透明塗料を圧入充填しつつ,平
面部をかきとり,凹部の着色をするとともに上塗表面を平滑にかつ艶消しを行い,
乾燥固化せしめる。」(乙第3号証2頁4欄28行~3頁5欄3行)
上記認定の各刊行物の記載によれば,化粧板の製造において,化粧板の表面
に凹凸を設けた後に,樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることは,本件出願当時
において,既に周知慣用の技術となっていたということができる。
上記相違点についての決定の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(刊行物1発明の認定の誤りによる相違点の看過)について
原告は,刊行物1発明では,エンボスを形成した板材表面に木下地塗料を乾
燥させた後,この板材の表面に木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布するととも
に,平滑部分の着色塗料をかき取っており,この結果,エンボスの内面には木下地
塗料による塗膜及び着色塗料による塗装(着色塗膜)が存在するのに対し,訂正発
明1,2では,着色塗料を塗布した後に平滑部分の着色塗料をかき取る工程がな
く,エンボスの内面に染料又は顔料を含む塗装及び透明塗料による塗膜が存在する
だけで,着色塗膜が存在しない点において相違するのに,決定は,この相違点を看
過した,と主張する。
刊行物1の特許請求の範囲は,「ラワン合板の導管溝凹部を目止してしまう
ことなく,木目状に分布させてラワン合板表面の導管溝凹部よりも大きな導管溝状
の凹部を,該ラワン合板の導管溝の走行方向(繊維方向)と同方向になるように多
数かつ密にエンボス加工により形成し,この表面に木下地色塗料を塗布し,これを
乾燥させた後さらに木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布すると共に直ちに塗布さ
れた平滑部分の塗料を逆回転するロールによってかき取り,ラワン合板の導管溝凹
部とエンボス加工凹部との内面に着色塗膜を形成させると共に,このエンボス加工
凹部の縁から平滑部にかけてしだいに一方向に淡くなって消える着色塗膜を形成さ
せ,その他の平滑部に前記木下地塗膜を露出させ,しかるのちこの塗料を乾燥させ
ることを特徴とする広葉樹化粧合板の製造方法。」というものである(甲第2号
証)。
上記刊行物1の特許請求の範囲の記載によれば,刊行物1発明においては,
原告の主張のとおり,エンボスを形成した板材表面に木下地塗料を乾燥させた後,
この板材表面に木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布するとともに,平滑部分の着
色塗料をかき取る工程を有しており,その結果,エンボスの内面に木下地塗料によ
る塗膜及び着色塗料による塗装(着色塗膜)が存在する,ということができる。
原告は,訂正発明1,2は,エンボス内面及び平滑面を染料又は顔料により
染色するのみであり,この染色の後に暗色の着色塗料により染色し,平滑部分の着
色塗料を直ちにかき取ることにより,エンボスの内面に着色塗膜が存在するとい
う,上記刊行物1発明の構成を有しない,と主張する。
しかしながら,訂正発明1,2の特許請求の範囲中には,染色ないし着色に
ついて,「染料又は顔料により染色」(訂正発明1),「エンボスおよび前記表層
材の表面は染色される」(訂正発明2)との各記載があるだけである。前記1記載
のとおり,訂正発明1,2は,木理の意匠的な美観が少ない化粧木材であっても,
化粧木材の木部がもつ木の質感を損なうことなく,商品価値を高めるため,化粧木
材として用いる板材の表面に,型によって,一定の深さを有する模様(エンボス)
を形成した後,染色によって着色し,染色後に樹脂塗装により表面を平滑に仕上げ
ることを特徴とする発明であり,訂正明細書を検討しても,訂正発明1,2におい
て,染色の具体的な方法,態様に意味があることをうかがわせるような記載を見い
だすことはできない(原告は,刊行物1発明の構成を前提としたのでは,訂正発明
1,2の作用効果とされているものは得られない,と主張する。しかし,原告が訂
正発明1,2の作用効果と主張するものが,刊行物1発明の上記構成を前提とする
と得られないことは,本件全証拠によっても認めることができない。)。
そうすると,訂正発明1,2においては,染色の具体的な方法,態様は何ら
限定されていないと解するのが相当であるから,訂正発明1,2は,刊行物1発明
のエンボスを形成した板材表面に木下地塗料を乾燥させた後,この板材表面に木下
地色よりも暗色の着色塗料を塗布するとともに,平滑部分の着色塗料をかき取る方
法により染色する構成をも含むものであるというべきである。
したがって,訂正発明1,2と刊行物1発明との間に,原告主張の相違点が
あると認めることはできず,決定に相違点の看過はない。
決定は,刊行物1発明を,「ラワン合板の表面に木理模様を形成する化粧木
材の製造方法であり,表面に,導管溝凹部より大きい多数のエンボス用突起が導管
溝状の模様を構成するように密集して配列形成された型を用意し,前記合板の導管
溝の走行方向,すなわち,繊維方向に前記エンボス用突起の長手方向が向くよう
に,前記型と前記合板との方向を調整した後,前記型と前記合板に押圧して前記合
板の表面に模様を形成し,この模様を形成した合板の表面を木下地塗料を塗布し,
塗布後に透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げること(判決注・原文のま
ま)化粧木材の製造方法及びこの製造方法により製造された化粧木材。」(決定書
2頁23行~30行)と認定し,木下地色塗よりも暗色の着色塗料を塗布し,直ち
に平滑部分の着色塗料をかき取ることについては,認定しなかった。しかしなが
ら,このことを,訂正発明1,2と刊行物1発明との相違点と認めることはできな
いことは前記のとおりである。仮に,上記の点を認定しなかったことを決定の誤り
というとしても,この誤りが結論に影響を及ぼさないことは,明らかである。
原告の主張は,採用することができない。
取消事由2も,理由がない。
第6 結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,
その他,決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官     山   下   和   明
裁判官     阿   部   正   幸
裁判官     高   瀬   順   久

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