弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人仁藤峻一、同竹中喜一共同名義の控訴趣意書記載のと
おりであるから、これを引用する。これに対し、当裁判所は、つぎのとおり判断す
る。
 一、 論旨第一点事実誤認の主張について
 所論は原判示第一の事実につき、原判決は、被告人が酒気を帯びアルコールの影
響により正常な運転ができないおそれのある状態で自動車を運転した事実を認定し
たが、原判決の掲げる証拠によつては右事実の認定はできないのであるから、事実
を黙認したものであると主張する。しかし記録を精査すれば、原判決の挙示する証
拠により原判示事実を認定するに十分であり、被告人の原審公判廷における供述、
および原審証人Aの供述中右認定に反する部分は、たやすく措信し難く、他にこれ
を覆すに足りる証拠はない。
 所論は原判決の掲げる各証拠につき
 (一) 被告人の逮捕者Bの原審証言の内容を分析批判して逮捕時の被告人が酒
酔い状態にあつたことを認めるに足りる証拠ではないからこれを採証した原判決は
誤りであるという。しかし、原判決が同証言のみに基いて被告人の酒酔い状態を認
定しているのでないことは、原判決自体から見て明らかであり、同証言中、同証人
の判断部分にそのまま首肯し難い点があつたとしても、同証言に現れた逮捕時にお
ける被告人の外観上認め得る状況を他の証拠と総合して酒酔い状態を認定する資料
とすることに何ら誤りはない。
 (二) 被告人の司法警察員、警察官に対する各供述調書の内容は、被告人が取
調べられることが面倒臭いために安易に取調官に迎合してした供述で、真実を述へ
たものではないから、信用性を欠くのに、原判決がこれを採証したことは誤りであ
るという。しかし被告人の右各供述調書は原審公判において被告人、弁護人いずれ
も異議を留めず取調に同意し、その信用性を肯定しているのであり、その供述記載
には、不合理、不自然と認むべきものはないから、その内容は、大筋において信用
できる。本件運転に先立つキヤバレー「C」における飲酒の際に所論指摘のAが同
席したことを述べていない事実があるけれども、そのために各供述調書の内容を全
て信用性がないとする理由にはならず、原判決の採証を誤りとすることは当らな
い。
 (三) 原審証人Dの行つた、尿中アルコールの含有量鑑定の結果は、鑑定の資
料とされた尿が真実被告人の尿であるか明らかでないから、本件の証拠とすること
はできないのに、原判決がこれを採証したことは誤りであるという。しかし、本件
事故の翌早朝、被告人が東村山警察署の留置場においてバケツに放尿したことは原
審公判において被告人の自認するところであり、昭和四六年一〇月六日東村山警察
署長名で被告人(当時被疑者)の尿として警視庁科学検査所に送付されたものを資
料として鑑定を行つたことは前示D証言により明らかである。被告人の尿を他のも
のとすり替えたり、取り違えたりしたことを疑うべき事情のない本件においては、
前示のバケツに放尿された尿と鑑定の対象となつた尿とは、同一の物であると認め
るのが相当である。
 (四) 仮りに、右鑑定に供された尿が被告人の尿であつたとしても、尿意を催
す被告人を便所に行かせることなく、その尿を採取し、尿中のアルコール含有量を
検査する目的をもつて、被告人に対し右目的を秘し、房内にバケツを差し入れ、こ
れに放尿させて、その尿を採取し、鑑定の資に供したのであるから、右採取は違法
であり、違法に収集された資料を対象としてした鑑定の結果を証拠とすることは許
されない旨主張する。よつて、原審記録を精査して考察すると被告人は、原判示第
一、第二の犯行後間もなく、警視庁東村山警察署警察官により原判示第二の事故現
場付近で、原判示各事実につき、現行犯人として逮捕されたこと、被告人を逮捕し
た警察官らは、被告人の陳述挙動等からみて、被告人に酒酔い運転の疑いがあると
認め、右逮捕後間もなく、付近に駐車していたパトロール・カー内で、被告人の呼
気中のアルコール含有量を検知しようとE被告人を説得したが、被告人は、正当の
理由もないのに、これに協力することを拒否したこと、次いで東村山署に連行され
た後も、同様拒否したこと、被告人は、現行犯人として身柄を拘束され、前同署留
置場に一夜を明かし、翌一〇月六日午前六時頃右留置場内で尿意を訴え、係警察官
に対し便所へ行かせてくれと求めたところ、係官は、房内にバケツを差し入れ、こ
れに用を足すよう指示したので、被告人は同バケツ内に放尿したこと、および本件
鑑定の資料となった尿は、右放尿した物を採取した物にほかならないことがそれぞ
れ認められ、記録を検討しても、東村山署警察官が被告人を逮捕してから右のバケ
ツ差し入れまでの間、被告人から尿意を訴えられたのにかかわらず、これを抑圧制
限したりしたなんらの事跡がみられない。以上の事実関係に徴すると、東村山署警
察官の本件採尿行為は、前示呼気検知に応じない被告人が尿意を訴えたので、その
尿を採取し、これをも<要旨>つてアルコール含有量を測定する意図のもとに行つた
ものと認めるのが相当である。そして、このような措置の適否について考察
すると、被告人の放尿行為は、その意に反して強制的に行われたものでないこと、
当時被告人が身体の拘束を受けていたことは、いずれも前認定のとおりである。し
かも、酒酔い運転の罪を現に行つていると認められる者に対する、その者が身体に
保有しているアルコールの程度を、その者の呼気を風船に吹き込ませることにより
これを採取して行うことは、警察官に与えられた権限であつて、正当の理由がなく
これを拒否するときは、法の定める制裁を受けるものであることは道路交通法規に
照らし疑いのないところである。
 (道路交通法六七条二、三項、一一七条の二、一号、一二〇条一項一一号、道路
交通法施行令二六条の二)これらのことと、捜査官が犯罪捜査の必要により、身体
の拘束を受けている被疑者の指紋、足型を採取したりするには令状によることを要
しないことは刑訴法二一八条二項の規定するところであることとを考え合わせる
と、本件のように、酒酔い運転等の罪により身体の拘束を受けている被疑者が法に
違反し、正当の事由がないのに呼気検査に協力を拒否しているときその者が尿意を
訴えたのを知り、その尿を前示目的のもとに前示のような方法で採取することは、
被疑者の身体をいささかも障害するものではないことにも徴し適法であると判断せ
ざるを得ない。この点についても原判決の採証に誤りはない。
 原判示第一の事実認定に誤認はなく、所論は理由がない。
 二、 論旨第二点事実誤認の主張について
 所論は原判示第二の事案につき、先づ、原判決が酒の酔いも加つて前方注視不十
分のまま漫然と進行したとして、被告人の過失を認めたことは、被告人が酒に酔つ
ていたことを前提とするもので誤認であると主張するが、被告人が酒酔い状態で運
転した事実を認め得ることは前示のとおりであり、原判決に所論の誤認はない。
 所論は次いで、原判決は、被告人は先行のF運転の車両がその前車に続いて減速
したのを約一〇メートルに接近して漸く気付き、急制動も及ばずF車に追突したと
認定しているが、F車の前方を進行していた車両はなく、F車が減速した地点から
前方交差点の信号までの距離は約一〇〇メートルもあるから、F車がその信号の表
示に備えて減速すべき理由はないのに、しかも急制動によると思われる減速を敢え
てしたことは乱暴運転であつて、このような乱暴運転がなければ、たとえ被告人の
前方注視が不十分であつても、追突は避け得たのであるから、追突事故の原因はF
車の乱暴運転にあり、被告人はむしろこれに巻き込まれた被害者であつて、原判決
の右認定は誤認であると主張する。しかし、原審のF証言により、同人の車両の前
方に三、四台の先行車のあつたことを認め得るし、司法警察員作成の捜査報告書に
よれば、被告人車がF車に追突した地点より前方交差点の対面信号機までの距離は
所論のとおり一〇五メートルと測定されているが、同信号機は交差点を越えた向う
側に設置されており、同交差点手前の停止線までの距離は七九メートルであること
が認められる。時速約七〇ないし六〇キロメートル(秒速に換算すれば一九・四四
ないし一六・六六メートル)で進行して来たF車が前方の交差点を意識して停止線
の手前七九メートルにおいて減速したことに何ら非はなく、まして先行車が三、四
台あつたことが認められるのであるから、むしろ当然の措置と考えられ、同人が所
論指摘のように急制動をしたと認むべき事情は全くない。F車の減速したことを乱
暴運転と非難する所論は失当であり、本件追突事故の原因を被告人のとつた車間距
離の不適切、前方不注視にあると認定した原判決に誤認はない。
 所論は更に、原判決は、被告人車の追突によりF車を道路右側部分に暴走させて
対面進行して来たG運転の車両に正面衝突させたと認定しているが、直線の道路上
で直後に追突されたF車がそのために対向車線に飛び出すことは力学的にあり得
ず、F車の暴走は運転技術未熟な同人が慌ててブレーキ操作を誤つたためであつ
て、被告人車の追突と、F、G両車の衝突との間に因果関係はなく、G車の同乗者
Hの受傷に対し被告人に責任はない、原判決は誤認であると主張する。しかし、F
証言中の直後に追突されたという供述から直ちに、現実の道路面の状態、両車の形
状、重量、速度、位置等具体的事情を全く捨象して、力学上の法則どおり、追突さ
れたF車は一直線に前方へ押出される筈で、右斜に走ることはないとする所論は具
体的事情を無視するもので首肯し難い。追突の衝撃によりハンドルをとられて斜に
暴走することは多分にあり得ることであり、よつて生じた対向車との衝突に対し被
告人車の追突は因果関係がないといい得ることではない。Fが慌ててブレーキ操作
を誤つたとの所論もこれを裏付ける証拠はなく、同人が本件当時は運転免許取得後
約五か月であつたとの同証言に基く憶測を出ない。原判決にこの点の誤認もない。
 三、論旨第三点量刑不当の主張について
 所論は原判決の量刑を重きに過ぎて不当と主張するが、本件は被告人が酒酔い状
態で深夜、乗用自動車を運転し時速七〇キロメートルの高速で前車に追従しなが
ら、車間距離を僅か約一五メートルしか保持せず、しかも前方注視を尽さなかつた
ために、減速した前車に追突し、その衝撃により前車を対向車線内に暴走させて、
対向者と正面衝突するに至らせ、前車の運転者及び対向者の同乗者に各重傷を負わ
せた事犯であり、酒酔い運転の不法性、危険性はいうまでもなく、事故を招いた被
告人の過失も、生じた結果も共に重大である。所論のように、被告人が酒気を帯び
ていたが、酒酔い状態にはなかつたのであれば、むしろ進んで呼気の採取を求め
て、アルコールの体内保有濃度を数字的に立証する機会にして然るべきであるの
に、警察官から求められながら、理由なくこれを拒否していることは検知の結果を
おそれたためと解する外なく、酒酔いを自覚していたことを窺わせ、追突事故につ
いての前示明白な自己の過失を否定する態度とも併せ、本件による罪責に対する真
摯な反省を欠くことを示すものである。被告人には従前、酒酔い運転によるものを
含め、道路交通法違反罪による前科のみでも九犯を数えることを考慮すれば、被告
人の刑責を軽易に評価することはできない。各被害者との調停の結果、示談関係等
所論の事情、家庭の情況その他記録上認め得る諸情状を考量しても原判決の量刑は
軽きに過ぎるという余地はあつても、重きに過ぎると論難すべきものはない。所論
は採用に値しない。
 右のとおり本件控訴はその理由がないので、刑訴法三九六条によりこれを棄却す
べく、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 平野太郎 判事 寺内冬樹 判事 和田啓一)

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