弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人林久二の上告理由第一点および第二点について。
 原判決挙示の証拠によれば、甲五号証はDが上告人(被控訴人)に強制されて作
成したものでその記載内容のような事実のないことが明らかであるとした原審の判
断は首肯するに足る。原審は、同号証によつては上告人の主張事実を認定しがたく、
所論E証言、本人供述等のうち上告人の主張事実に副うような(原判示の趣旨に帰
する)部分は信用しがたい旨を判示しただけで、これらを措信採用しない理由を判
示していないことは判文上明らかであるが、判決に証拠信否の理由を一々判示する
を必要としないこと当裁判所の度々の判例の示すところであるから、原判決には所
論の違法なく、所論は必竟証拠の取捨、事実認定の非難に帰し、採用することがで
きない。
 同第三点について。
 所論は、本件の場合被上告人(控訴人)は上告人の夫権を侵害したDの共同不法
行為者であるから、本件事実(仮りに原審認定に従つて情交又は情交未遂の事実が
なかつたにしても)の発生により上告人の地位、名誉、婚姻関係は破壊されたもの
といわねばならないのに、原判決が貞操侵犯またはそれと同程度の行為があつた場
合にのみ夫権侵害と解したのは失当であると主張するけれども、元来、上告人が本
訴請求原因として主張する事実は要するに、被上告人は上告人の妻Dに対し情交を
迫り、これを遂げ又は遂げんとして未遂に終り、よつて上告人の夫権を侵害し精神
的損害を与え社会的信用、名誉、農業収益等を失わせたというにあるところ、これ
に対し、原審は、甲五号証によつては上告人の主張事実を認定しがたく、被上告人
が上告人の妻Dの貞操を犯したか、または少くともそれと同程度の行為をして上告
人の妻Dに対し貞節を要求し得る権利を侵害したという趣旨に帰する証拠は信用し
がたく、その他上告人の全立証によつても未だ上告人の右主張事実を認めるに足り
ない旨判示しているのであつて、原判示の全趣旨は上告人が請求原因として主張す
る具体的不法行為の存在は証拠上全く認められないというにあるのであつて、夫権
の解釈について別段判示しているのではないこと明らかである。されば、論旨が「
本件の場合」、もしくは「本件事実」という点は請求原因として主張しない事実関
係又は原審の認定しなかつた事実を主張しもしくはこれを前提として主張するもの
に過ぎず、原判決には所論の点につき何ら法令違反はない。論旨は採用することが
できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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