弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 被告が原告に対し,平成10年11月26日付けでした被相続人Aに係る相続人
B,同C及び同Dらの滞納した各相続税の連帯納付責任額の督促処分を取り消す。
第2 事案の概要
1 前提事実(争いがない事実及び証拠等により容易に認定できる事実)
(1) 原告の養父Aは,平成3年3月6日に死亡し,原告及びB,C,D,E,
F,Gの7名がその相続人となった(以下,この相続を「本件相続」といい,これ
に係る相続税を「本件相続税」という。)。
(2) 原告は、本件相続税の法定納期限である平成3年9月6日,次のとおり記
載した相続税申告書を被告に提出した。
① 課税価格      3億7250万2000円
② 納付すべき相続税額 2億2765万0500円
(3) 原告は、相続税申告書の提出と同時に,上記相続税額を全額納付したが,
他の共同相続人の課税価格に増額があったため,平成4年12月24日,他の共同
相続人と共に修正申告書を次のとおり提出して,その増差税額等を全額納付した。
① 修正増差税額  454万8700円
② 過少申告加算税  45万4000円
③ 延滞税      33万2300円
(4) 原告は,上記修正申告書を提出した後,更に他の共同相続人の課税価格に
増額があったため,平成6年10月18日,他の共同相続人と共に修正申告書を次
のとおり提出して,その増差税額を全額納付した。
 修正増差税額 100万9900円
(5) 被告は,他の共同相続人であるB,C及びD(以下「Bら」という。)の
本件相続税が滞納になっため,平成10年11月26日付けをもって原告に対し,
「相続税法第34条第1項の規定により,他の相続人の相続税について,あなたが
相続によって受けた利益の価額を限度として下記金額を納付する責任がありま
す。」と記載して,1億3929万3436円の納付を督促する督促状を送付した
(以下,この督促状を「本件督促状」といい,本件督促状による督促処分を「本件
処分」という。)。
 連帯納付責任額は,相続又は遺贈により取得した財産の価額(非課税財産の価額
を含む)から,債務控除の額,固有の相続税納税義務額,登録免許税額を控除して
算出されるところ,本件処分は,原告の取得財産の価額が3億7250万2536
円(非課税財産はなし)
であり,債務控除の額は0,原告の固有の相続税納税義務額は2億3320万円,
登録免許税額は0として,連帯納付責任額を算出したものであった。
(6) 原告は,平成11年1月23日,本件処分を不服として被告に対して異議
を申し立てたが,被告は,同年3月18日,これを棄却したので,原告は,同年4
月19日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,同所長は,同年12
月17日,これを棄却する旨の裁決をした。
(7) Bらに係る申告・納付・差押え等の経過は別紙1記載のとおりであり,B
らの滞納額の明細は別紙2記載のとおりである。
2 争点及び当事者の主張
(1) 本件督促状の理由記載に不備があるか否か(争点1)
(原告の主張)
 本件督促状には,「相続税法第34条第1項の規定により,他の相続人の相続税
について,あなたが相続によって受けた利益の価額を限度として下記金額を納付す
る責任があります。」と付記されているにすぎず,本税1億3929万3436円
と記載された算定根拠は何ら明示されていない。したがって,原告において他の共
同相続人の誰が固有の納税義務の履行を怠っているのか,何故被告が他の共同相続
人に対して法定納付期限である平成3年9月6日から7年2か月以上もの長期間を
経過した時点においてなお滞納者に対する徴収手続をしていないのか等,その具体
的理由が理解できないのであるから,被告の原告に対する連帯納付義務の徴収手続
は明白かつ重大な瑕疵がある。
 自己固有の相続税を完納した相続人としては,他の相続人がそれぞれ負担した相
続税を滞納したか否かについて,また,他の相続人がその負担した相続税を滞納し
た場合には自己も連帯納付義務を負担するものとして督促処分を受けることについ
ての認識があるのは,極めて稀なことである。すなわち,納税保証人及び第二次納
税義務者と違って,滞納が生じた場合の納税義務の履行責任を予め認識してはいな
いから,単に相続税の申告書を提出し,申告書において自己のみならず,他の相続
人の相続財産の価額やその納付税額について知悉していたからといって,上記の具
体的理由を記載せずに督促処分を行っても連帯納付義務者に対する不意打ちになら
ないとはいえない。殊に,本件のように法定納期限から7年2か月以上を経過した
ところからみても,被告が何故に本来の納税義務者が履行不能の状況に陥ったかの
事情の詳細に触れることなく,本
件督促状による記載の如き通告をもってした本件処分には,手続上,重大な瑕疵が
ある。
(被告の主張)
 国税通則法37条に定める督促をすべき納税者には,連帯納付義務者も含まれ
(同法2条5号),督促状の書式は国税通則法施行規則5条1項の別紙第3号書式
で定められている。本件において,被告は,原告に対し,当該書式に従って本件督
促状を作成したものであり,原告が主張するような連帯納付責任額の算定根拠の明
示は督促要件ではないから,原告の主張するような瑕疵はない。
 保証人及び第二次納税義務者の納付義務は,本来の納税義務者の徴収不足等確定
要件を充足したときに限って納税義務を負うもので,要件充足の判定は税務署長等
に委ねられており,その判定によって新たな第二次納税義務等を負わされるもので
あることにより,告知の必要性があるのである。これに対し,連帯納付義務は,各
相続人等の固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して法律上当然に生じ
るものであるから,連帯納付義務につき格別の確定手続を要するものではないと解
されており(最三小判昭和55年7月1日・民集34巻4号535頁),連帯納付
義務は保証人及び第二次納税義務者の納付義務とはその性格を異にしていることか
ら,これらと同様には解されない。実質的にも,原告は,他の相続人らと共同して
相続税の申告書を提出していることから(甲5),その申告書上で自己の相続財産
の価額及び納付税額のみならず,Bらの相続財産の価額及び納付税額についても熟
知しており,連帯納付義務者として自己の納付すべき金額を把握できていたのであ
るから,いわゆる不意打ちにも当たらず,何ら問題はない。
(2) 原告の連帯納付義務が時効消滅しているか否か(争点2)
(原告の主張)
 被告が本件処分をしたのは,前記のとおり,本件相続税の法定納期限から7年2
か月以上を経過した時であったから,原告の連帯納付の義務も法定納期限から5年
の経過により時効により消滅した(国税通則法72条)。
 原告は,Bら他の共同相続人が固有の納税額を完納したのか,あるいは,相続税
の延納許可申請等をしたのかなど,Bらの納税の事情については全くこれを知る立
場にないものであったから,原告においてこれに対応すべき法律上の救済手段はな
く,徴収手続の段階で突如として他の共同相続人が負担した未納税額について滞納
処分の執行を受けることは極めて過酷である。
したがって,他の共同相続人について生じた時効中断の効力は原告には及ばないと
解すべきである。
(被告の主張)
 相続税法34条1項の連帯納付義務は,同法が相続税徴収の確保を図るために,
相互に各相続人等に課した特別の責任であるが(前掲最判昭和55年7月1日),
連帯保証類似の性質を有し,付従性を有するということができるから,民法457
条1項の規定の趣旨に準じて,本来の納税義務者に対する時効中断事由は連帯納付
義務者に対しても当然に効力を生じると解すべきである(前掲最判の原審である大
阪高判昭和53年4月12日・行裁集29巻4号514頁参照)。
 本件においては,別紙1に記載した申告,一部納付,相続税延納条件変更申請な
どの承認(国税通則法72条3項で準用する民法147条3号,国税通則法基本通
達73条関係三,四),差押え(国税通則法72条3項で準用する民法147条2
号)などの中断事由により,本来の納税義務者である共同相続人Bらの固有の納税
義務についての時効が中断している。
(3) 原告が相続した預金債権が本件相続開始後に銀行のした相殺により減少し
たことにより,原告の連帯納付義務の限度が影響を受けるか(争点3)
(原告の主張)
 原告の連帯納付責任は,原告が相続によって受けた利益の価額を限度とする。原
告が遺産分割協議により取得した株式会社三和銀行梅田新道支店の定期預金債権
(以下「本件定期預金」という。)6000万円は,被相続人が生前,同人の経営
するダイレックスエンタープライズ株式会社(旧商号太源興業株式会社,以下「ダ
イレックス」という。)の三和銀行に対する借入金債務のために担保として質権設
定をしていたところ,ダイレックスが平成5年7月19日破産したことにより,内
金1885万1190円が相殺され,定期預金債権額が、4114万8810円に
減額された。
 原告が本件相続によって取得した本件定期預金は4114万8810円であるか
ら,原告の課税価格は被告の算定した3億7250万2000円ではなく,3億5
365万0810円であり,原告の納付すべき相続税額の変更を行うべきであっ
た。
 原告が固有の相続税納税額について上記相殺によって消滅した本件定期預金につ
き,たまたま相続税の更正の請求をしていなかったことから,相続税法34条1項
の「当該相続に因り受けた利益の価額に相当する金額を限度とする」という規定の
解釈に差異
があるものとはいえない。
(被告の主張)
 相続税法34条1項に規定する「相続又は遺贈に因り受けた利益の総額」とは,
相続又は遺贈により取得した財産の価額(同法12条1項各号及び21条の3第1
項各号に掲げる課税価格計算の基礎に算入されない財産の価額を含む)から,同法
13条の規定による債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相
続税額及び登録免許税額を控除した金額をいうものとする(相続税法基本通達34
条関係一)とされている。
 そうすると,原告の主張は,原告の主張する相殺額が,同法13条1項に規定す
る債務と認められることが前提となる。この点につき,同法14条1項は,「前条
の規定によりその金額を控除すべき債務は,確実と認められるものに限る」と規定
しているところ,この「確実と認められる債務」とは,相続開始時の現況により,
債務の存在のみならず履行が確実と認められる債務をいうと解される(相続税法基
本通達14条関係一参照)。しかるに,保証債務は,保証人において将来現実にそ
の債務を履行するか否か不確実であるばかりか,仮に将来その債務を履行した場合
でもその履行による損失は,法律上主たる債務者に対する求償権の行使によって補
填され,原則として「確実と認められる」債務に当たらない。したがって,保証債
務をもって債務控除を受けるためには,主たる債務者が弁済不能の状態にあるため
保証人がその債務を履行しなければならない場合であって,かつ,主たる債務者に
求償しても返還を受ける見込みがない場合という限定的な場合に限られるものと解
されるところ,原告はこの点につき何ら主張しておらず,原告の相続税額を減額す
べきとの主張は理由がなく,本件処分に係る連帯納付責任額に誤りはない。
 仮に,更正の請求なしにその後の相殺によって納付すべき相続税額が変更される
とする原告の主張を認めるならば,逆に,担保債務を履行した損害が求償権の行使
によって補填されないことが確実と認められる債務になる時期が不明であり,控除
すべき金額が被告に分からない結果,督促ができないという事態が生じてしまう。
(4) 延滞税についても督促しているのは適法か(争点4)
(原告の主張)
 本件処分は,本件相続税の本税のみならず,法定納期限である平成3年9月6日
の翌日から完済までの期間の延滞税についても原告から徴収する旨の内容となって
いるが,相続税法34条1
項にいう相続税は,本税のみを意味し,これに対する延滞税を含まないから,原告
から延滞税を徴収することはできない。
(被告の主張)
 延滞税は,納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確
定する国税であり(国税通則法15条3項6号),その額の基礎となる税額の属す
る税目の国税とされている(同法60条4項)。したがって各税法中「・・税」と
規定されている場合には,特別の定めがない限りその税の延滞税を含むものであ
り,相続税法34条1項に定める連帯納付義務に係る相続税については,本税のみ
を指すとか延滞税を除くとかの特別の定めはないから,同項の相続税には延滞税が
含まれる。
(5) 本件処分が信義則に違反し,又は国税徴収権の濫用となるか(争点5)
(原告の主張)
 Bらがなお負担する未納税額は,徴収すべき相続税の当初分の滞納額が多額を占
めており,被告が当初分の相続税の延納条件変更申請を再三にわたり許可したこと
自体,今日に至って本件相続における課税した各人の相続税の徴収不能を生じた原
因というべきであり,連帯納付責任の規定をもって,徴収不能の事態を招いた責任
を原告に転嫁することは信義則に反し,許されない。
 相続税法39条6項は,税務署長は,延納の許可を受けた者のその後の資力の状
況の変化等により当該許可に係る条件により延納を認めることが適当でないと認め
る場合においては,その者の弁明を聴いた上,その許可を取り消し,又は延納期間
の短縮その他延納の条件の変更をすることができると規定しているほか,同法40
条2項は,税務署長は,延納の許可を受けた者が延納税額の滞納その他延納条件に
違反した場合には,その延納の許可を取り消すことができる旨を規定している。こ
れらの延納許可の取消規定からみても,被告がBら3名に対して再三にわたって延
納条件変更を許可したことは,当初の相続税延納申請の許可処分をした平成4年1
0月30日以降次第に全国の商業地及び住宅地の地価下落傾向が続き,延納申請に
係る担保の評価にも大きな変動があって担保力の不足を生じていた状況にかんがみ
ると,相続税の確実な徴収の確保という見地に照らし,裁量権の行使に著しい注意
義務違反があった。これにより,被告は,Bらから本来適切に徴収すべき時期を失
し,この間に同人らの資力は急速に低下した。にもかかわらず,Bらの滞納税額を
原告から徴収するのは信義則に反す
るし,原告が固有の相続税の全額を完納していることからすると,公平の原則にも
反する。
(被告の主張)
 連帯納付義務の確定は,相続人らの固有の相続税の納税義務の確定という事実に
照応して,法律上当然に生じるものであり(前掲最判昭和55年7月1日),本来
の納税義務者に対する延納条件変更許可は,何ら同条項を適用する上での要件では
ない。
 また,相続税法は,第4章で「申告及び納付」と題し,原則として金銭による一
括納付(同法33条)を規定したのに続いて,連帯納付の義務(同法34条)を規
定し,延納制度については,別途,第6章で「延納及び物納」と題し,例外的な納
付手段の一つとして規定(同法38~40条)していることからみても,連帯納付
の義務の発生・確定に延納制度が全く関係ないことは明らかである。
 更に,相続税法34条1項は,連帯納付義務は当該相続又は遺贈により受けた利
益の価額に相当する金額を限度としており,この点において,国税通則法8条の特
則をなすものであるが,相続税法34条1項は,各相続人らに対し,その納付義務
の重なり合う範囲内においては,互いに連帯して当該相続税を納付すべき義務を課
しているものであって,この納付義務の履行については,民法上の連帯債務ないし
連帯保証債務と同様に,国税債権者である国との関係では補充性はないものと解さ
れる結果,第二次納税義務や納税保証債務のように,本来の納税義務者に対する滞
納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められる場合に限って納税義務を
負担するものではない。
 こうした連帯納付義務の性格に照らせば,信義則違反又は国税徴収権の濫用と評
価すべき場面は極めて限定される。本来の納税義務者が現に十分な財産を有し,同
人から滞納に係る相続税を徴収することが極めて容易であるにもかかわらず,同人
又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に相続税の徴収を行わなかったという
ような状況が認められるなら格別,本件においてはそのような状況も認められず,
信義則違反又は国税徴収権の濫用には当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
 前記のとおり,本件督促状には,本件処分の理由として「相続税法第34条第1
項の規定により,他の相続人の相続税について,あなたが相続によって受けた利益
の価額を限度として下記金額を納付する責任があります。」とのみ記載されていた
事実が認められ,原告は,本件
督促状の理由記載に不備があると主張する。
 しかしながら,本件処分は国税通則法37条に基づくものであるところ,同法に
は,本件処分につき理由を付すべき旨の明文の定めがないばかりか,同法施行規則
5条1項別紙第3号書式(同法125条,同法施行令43条により,同法の委任を
受けている。)は,督促状の書式につき理由を付記すべき欄を設けていない。ま
た,相続税法34条1項の連帯納付義務は,相続人又は受遺者の固有の相続税の納
税義務の確定という事実に照応して法律上当然に確定するもので(最高裁昭和53
年(行ツ)第86号同55年7月1日第三小法廷判決・民集34巻4号535
頁),国税通則法36条は連帯納付義務につき納税の告知を要するものとしていな
い。更に,本件処分につき,行政手続法第3章(不利益処分)の規定の適用は除外
されているから(国税通則法74条の2第1項),不利益処分について理由を示さ
なければならないとした行政手続法14条の適用はない。
 以上によれば,本件処分については法令上理由付記は要求されていないものと解
すべきであるから,上記の理由記載に違法は認められない。
2 争点2について
 相続税法34条1項は,相続人が二人以上ある場合に,各相続人に対し,自らが
負担すべき固有の相続税の納付義務のほかに,他の相続人等の固有の相続税の納付
義務について,相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として
互いに連帯納付義務を負わせている。この連帯納付義務は,相続税法が相続税徴収
の確保を図るために,相互に各相続人等に課した特別の責任であり(前掲最判昭和
55年7月1日参照),本来の納税義務者以外の者に納付義務を負わせるものであ
る点において,納税保証債務(国税通則法50条6号)や第二次納税義務(国税徴
収法32条)に類似するが,補充性を有しない点においてこれらと性質を異にす
る。本来の納税義務者が負う納付義務とこれについて他の相続人が負う連帯納付義
務との関係は,主たる債務と連帯保証債務との関係に類似し,連帯納付義務は,本
来の納税義務者の納付義務に対して付従性を有すると解される。したがって,本来
の納税義務者について生じた時効中断の事由は,連帯納付義務者についても効力を
生じると解するのが相当である。
 前記のとおり,本件においては,別紙1に記載した申告,一部納付,相続税延納
条件変更申請などの承認(国税通則法72
条3項で準用する民法147条3号,国税通則法基本通達73条関係三,四),差
押え(国税通則法72条3項で準用する民法147条2号)などの中断事由が生じ
ているものと認められる。
 すなわち,Bについては,同人固有の相続税について,平成7年8月28日に相
続税延納条件変更申請書(乙1,2)を提出したことにより,連帯納付責任額の法
定納期限である平成3年9月6日から5年を経過していない時点で時効は中断し,
その後,この中断時から5年を経過していない平成10年10月20日付けの担保
物処分のための滞納処分による参加差押え(乙3の1,2)により時効は中断して
いる。
 次に,Cについては,同人固有の相続税について,平成6年8月25日に相続税
特例物納申請書及び相続税延納条件変更申請書(乙4,5)を提出したことによ
り,連帯納付責任額の法定納期限である平成3年9月6日から5年を経過していな
い時点で時効は中断し,その後,この中断時から5年を経過していない平成10年
10月20日付けの担保物処分のための滞納処分による参加差押え(乙6)により
時効は中断している。
 更に,Dについては,同人固有の相続税について,平成7年4月13日に相続税
延納条件変更申請書(乙7)を提出したことにより,連帯納付責任額の法定納期限
である平成3年9月6日から5年を経過していない時点で時効は中断し,その後,
この中断時から5年を経過していない平成10年10月20日付けの担保物処分の
ための滞納処分による差押え及び参加差押え(乙8の1,2)により時効は中断し
ている。
 したがって,原告の連帯納付義務について消滅時効は完成していない。
3 争点3について
 証拠(甲2,3)及び弁論の全趣旨によると,(1) 被相続人は,三和銀行に
対し,債務者をダイレックス(当時の商号は太源興業株式会社)とする6000万
円の債務について,担保提供者を被相続人とする平成2年7月27日付け定期預金
担保差入証(以下「本件担保差入証」という。)を差し入れたこと,(2) 本件
担保差入証には,「担保提供者は,上記債務について,この預金の元利金を限度と
して債務者と連帯して保証債務を負担します。」と記載されていること,(3) 
原告は,平成3年9月4日に成立した本件相続に係る遺産分割協議により,本件定
期預金(6000万円)を取得し,名義を被相続人から原告に変更したこと,
(4) 原告は
,平成5年4月12日及び同年5月7日に本件定期預金からそれぞれ2000万円
を解約し,同年5月7日付けで,三和銀行に対し,債務者をダイレックスとする2
000万円の債務について,担保提供者を原告とし,「担保提供者は,上記債務に
ついて,この預金の元利金を限度として債務者と連帯して保証債務を負担しま
す。」と記載された担保差入証を差し入れたこと,(5) ダイレックスは,平成
5年7月19日,破産宣告を受けたこと,(6) 三和銀行は,同年8月25日,
原告に対し,担保権を実行し,1885万1190円を同銀行のダイレックスに対
する債権に充当する(以下「本件充当」という。)旨の通知をしたことがそれぞれ
認められる。
 ところで,相続税法34条1項の定める連帯納付義務は,「相続又は遺贈に因り
受けた利益の価額」に相当する金額を限度とする旨規定されている。これは,連帯
納付義務に基づく負担額が相続又は遺贈により受けた利益の額を超えないこと,す
なわち,自己の固有財産を持ち出してまでこの義務を負担する必要はないことを意
味するものと解される。そして,相続又は遺贈により受けた利益の額は相続開始時
を基準として確定されるべきものであるから,相続税法基本通達34条関係一が,
ここにいう「相続又は遺贈に因り受けた利益の価額」につき,相続又は遺贈により
取得した財産の価額(同法12条1項各号及び21条の3第1項各号に掲げる課税
価格計算の基礎に算入されない財産の価額を含む。)から,同法13条の規定によ
る債務控除の額並びに相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税額及び登録免
許税額を控除した金額をいうものとする旨定め,同法13条の規定による債務控除
の額につき,同法14条1項が「前条の規定によりその金額を控除すべき債務は,
確実と認められるものに限る」と規定しているのを受けて,相続税法基本通達14
条関係一が,ここにいう「確実と認められる債務」とは,相続開始時の現況によ
り,債務の存在のみならず履行が確実と認められる債務をいう旨定めているのは,
いずれも相当であると解される。
 原告らは,本件充当により,原告の相続した本件定期預金が減少したから,本件
処分は本件充当の額を減じてされるべきであった旨主張するが,上記認定事実によ
れば,本件充当は,被相続人の保証債務を原告が承継したことに基づき行われたも
のであると認められるところ,本件相続開始
時点において,上記保証債務を履行せざるを得なくなることや,求償権の行使によ
り出捐額の回収を図ることができないことが確実であったとは認められない。そう
すると,上記保証債務を相続又は遺贈により受けた利益の価額から控除することは
できないというべきである。
4 争点4について
 被告の主張するとおり,延滞税は,納税義務の成立と同時に特別の手続を要しな
いで納付すべき税額が確定する国税であり(国税通則法15条3項6号),その額
の基礎となる税額の属する税目の国税とされている(同法60条4項)から,特別
の定めがない相続税法34条1項に定める連帯納付義務に係る相続税については,
延滞税が含まれることは明らかである。
5 争点5について
 相続税法34条1項の連帯納付義務は,本来の納税義務者の納付義務と連帯して
負う義務であり,租税債権者である国は,本来の納付義務者と連帯納付義務者のい
ずれから徴収することもできるものであるから,本来の納税義務者からの徴収手続
を怠ったからといって,直ちに連帯納付義務の存否や範囲に影響が生じるものでは
ない。もっとも,連帯納付義務は,前記のとおり,相続税徴収の確保を図るために
課された特別の責任なのであるから,本来の納税義務者が現に十分な財産を有し,
同人から固有の相続税の徴収を図ることが極めて容易であるにもかかわらず,租税
債権者である国が同人又は第三者の利益を図り,あるいは連帯納付義務者に損害を
与える目的をもって,恣意的に,本来の納税義務者からの徴収を行わず,連帯納付
義務者に対してその義務の履行を求めたという事情の存する場合は,国税徴収権の
濫用といい得る。
 しかしながら,乙1,2,5及び弁論の全趣旨によると,本件において,Bらが
別紙1のように延納申請等を繰り返したのは,いわゆるバブル経済の崩壊に伴い不
動産価格が下落し,かつ,将来の不動産価格の動向が予測し難かったために不動産
の売却が予定どおり進まず,納税資金の捻出が困難であることを理由とするもので
あったことが窺われ,被告がこれら延納申請等を許可するに当たり,Bら又は第三
者の利益を図り,あるいは連帯納付義務者である原告に損害を与える目的をもっ
て,恣意的に,Bらからの徴収を行わず,原告に対してその義務の履行を求めたと
いう事情は認められない。
 したがって,この点に関する原告の主張も理由がない。
第4 結語
 以上によれば,原告の本訴
請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 山下郁夫
裁判官 青木亮
裁判官 畑佳秀

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛