弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役壱年に処する。
     但し本裁判確定の日より四年間右刑の執行を猶予する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人松本梅太郎の控訴趣意は別紙記載の通りである。
 控訴趣意第一点について。
 論旨は本件において差戻後の第一審裁判所が差戻前の第一審判決より重い刑を言
渡したのは所謂不利益変更<要旨>禁止の規定に違反し違法であると謂うのである。
仍て考察するに刑事訴訟法第四百二条は「被告人が控訴をし又は被告人のた
め控訴をした事件については原判決の刑より重い刑を言渡すことはできない」と規
定(刑事訴訟法第四百十四条により上告審に準用)しているところ、右は上訴審に
おける特別規定であること明かであり、事件の差戻を受けた第一審裁判所が新に第
一審として審判する場合には右規定の適用又は準用はないものと謂わなければなら
ない。従つて被告人のみの控訴により事件が差戻された場合であつても差戻後の第
一審裁判所が差戻前の第一審判決より重い刑を言渡すことは何等妨げないものと解
すべきであり、本件の場合原審が差戻前の第一審判決(懲役八月)より重い懲役一
年を科したことを以て違法であるとはいえない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は原判決の量刑は不当であり被告人に対しては刑の執行猶予が相当であると
謂うのである。仍て本件記録を精査して考察するに本件業務上横領の額は相当多額
(合計二十三万六干七百余円)に上り犯情必ずしも軽くないけれども、被告人は是
前科がない上に本件は被告人が満二十一、二歳当時の犯行であること及び本件につ
いては被害者であるA組合連合会との間に示談成立し被告人は毎月少額ながら月賦
弁償を続けその誠意が窺われることその他論旨主張の諸点を斟酌すれば、被告人に
対しては実刑をいて臨むよりも寧ろ相当期間刑の執行を猶予して充分反省と更生の
機会を与えることが妥当な措置と考えられる。従て論旨は理由がある。
 仍て刑事訴訟法第三百八十一条第三百九十七条により原判決はこれを破棄し、同
法第四百条但書の規定に従い当裁判所において自判することとする。
 罪となるべき事実及びこれを認める証拠は原判決と同一である。(但し原判決挙
示の証拠中差戻前の第一審第一回公判調書を除く。)
 (法令の適用)
 刑法第二百五十三条第四十五条前段第四十七条本文第十条(原判決犯罪一覧表中
二一の罪の刑に併合罪加重)刑法第二十五条刑事訴訟法第百八十一条
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 浮田茂男 判事 呉屋愛永)

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