弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件各控訴の趣意は,被告人aの弁護人桃原健二及び被告人bの弁護人松井仁が
それぞれ提出した各控訴趣意書に記載のとおりであり,これらに対する答弁は,検
察官大久保信英提出の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
各論旨は,いずれも量刑不当の主張であり,要するに,被告人両名を死刑に処し
た原判決の量刑はいずれも不当に重過ぎ,被告人両名に対しては,それぞれ無期懲
役刑に処すべきである,というのである。
そこで,記録及び証拠物を調査し,当審における事実取調べの結果並びに被告人
両名の当審弁護人らの各弁論をも併せて検討するが,本件は,①被告人bが,実兄
cと共謀の上,d方に在宅していたdの次男e(当時15歳)を殺害してd所有の
指輪等61点在中の金庫1個(時価合計約398万円相当)を強取した強盗殺人
(原判示第1),②被告人b及びcが,両親であるf及び被告人aと共謀して(以
下,この4名をまとめて「被告人ら4名」ともいう。),d(当時58歳)を殺害
してdが携帯していたバッグ内からd所有の現金約26万円を強取した強盗殺人
(同第2),③被告人ら4名共謀の上,dの長男g(当時18歳)とその友人h
(当時17歳)を,dに対する強盗殺人の発覚を免れようとして口封じのために,
自動装てん式けん銃を用いるなどして殺害するとともに,その際,いずれも法定の
除外事由がないのに,不特定若しくは多数の者の用に供される場所において,けん
銃を発射した殺人及び銃砲刀剣類所持等取締法違反(同第3,科刑上一罪),④被
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告人ら4名共謀の上,上記けん銃1丁を適合実包6発と共に携帯して所持した銃砲
刀剣類所持等取締法違反(同第4),⑤被告人ら4名共謀の上,d,g及びhの各
死体を軽四輪乗用自動車(以下「ワゴンR」ともいう。)に載せて福岡県大牟田市
内のu川に沈めて遺棄した死体遺棄(同第5)からなる事案である。
1本件各犯行の事実関係
本件各犯行の経緯・動機,態様,結果及び犯行後の被告人らの行動等の詳細に
ついては,おおむね原判決が【当裁判所が認定した事実】で認定・判示するとお
りであるが,改めてその要点を示せば,次のとおりである。
(1)本件各犯行の経緯等
被告人aは,平成9年ころからdと親しくなり,dが行っていた高利貸しの
取立てを手伝ったりしたが,平成12年ころにdから合計300万円を借り入
れた後,dから見下されたり,貸金の取立てなどに使い回されるようになり,
同女のそのような態度に憤まんを募らせ,平成16年7月ころから,fやcに
対し,dについて,「もう,がまんならん。うち殺さなでけん。」などと口癖
のように言うようになり,これを聞いたfやcも,自然dに対する敵意を強め
ていった。また,被告人aは,父親から引き継いで営んでいた建設業等により
家計を切り盛りするとともに,夫fが組長を務める指定暴力団i組の姐御的立
場で同組の会計もやり繰りしていたが,平成15年ころからその両方で資金繰
りが苦しくなるとともに,次第に日々の生活にも困窮し,平成16年9月ころ
には同被告人とfの借金の合計が6000万円以上にまで膨れ上がった。そこ
で,同被告人は,同月9日,fに対し,借金の現状やi組の資金繰りの実情等
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を打ち明けたところ,fから,以前から多額の金を持っていると高言していた
dを殺して,同女から金を奪うことを提案された。同被告人は,そうすれば生
活難や資金難から脱し,dからの借金も免れることができるとともに,dに対
して抱いていた憤まんを一気に解消することもできると考え,fの提案に賛同
した。そして,両名の間で,以前dに持ち掛けていたd方隣地の購入話を利用
し,同女をだまして現金を用意させた上で,被告人aが同女を殺害し,その死
体を同女が使用しているワゴンRに積み込んで,車ごとu川に遺棄する計画を
練った。
その後,被告人aは,dから,上記土地代金等として同月15日ころまでに
合計2680万円を用意できると聞き,fとの間で,いよいよ同月16日にd
を殺害する旨謀議を固めるとともに,ある程度i組やj家の財政事情及び被告
人aとdの確執を承知し,自らも将来の夢を実現するためまとまった金が欲し
いと思っていたcにもその旨告げて了解を得,同人ともdを殺して,同女所有
の現金を奪うことについて意思を相通じた上,同月15日,dから現金の用意
ができたと聞くや,その旨fにも報告した。
そして,被告人aは,計画どおり,翌16日,凶器としてカッターナイフを
携帯し,ワゴンRを運転して来たdと待ち合わせ,同女を自分が運転していた
自動車の助手席に乗り移らせて殺害の機会をうかがったものの,夜遅くなって
もd殺害に踏みきれず,途中,fからアイスピックを示されたり,cから万能
包丁を示されたりしてせかされたが,なかなか殺害に踏み切れなかった。
(2)原判示第1の犯行(eに対する強盗殺人)について
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cは,このような煮え切らない被告人aの態度を見て,f及び被告人aを出
し抜いてdの現金を手に入れることを企て,猪突猛進型の性格で実行力のある
実弟の被告人bを犯行に引き込むことにし,上記fらには内緒で,同日(9月
16日)夜,被告人bに対し,d方に一人でいるeを殺して同女方にあると思
われる2000万円以上の現金を奪うことを持ち掛けた。被告人bは,即答し
なかったが,同日午後10時30分ころ,c所有の普通乗用自動車(以下「プ
レジデント」ともいう。)に同乗してd方の様子を見に行き,eが一人でいた
ため,cにその旨報告したところ,同人から,「さっさと殺してこんか。」な
どと指示され,その場でe殺害を決意し,同日午後10時40分ころ,d方2
階居間の机でノートパソコンに向かっていたeに対し,殺意をもって,持って
いたタオルをいきなりその頸部に掛け,いわゆる一本背負いをするように背中
合わせに同人の体を持ち上げてその頸部を絞め,失神して動かなくなったeを
床の上に寝かせて,更にその頸部をタオルで絞め,同人が動かなくなったとこ
ろで,cとともにd方1階寝室内から原判示の指輪等在中の金庫を捜し出して
強取し,d方近くに駐車していたプレジデントの後部座席に積み込むととも
に,仮死状態のeを同車のトランク内に押し込んだ。
その後,cが,助手席に被告人bを乗せてプレジデントを運転中,トランク
内のeが意識を取り戻して悲鳴を上げて暴れ出したため,両名はeを確実に殺
害してu川に捨てることにし,コンクリートブロック3個及びロープ1本を用
意し,同日午後11時45分ころ,u川にかかる橋の上で同車を停めてトラン
クを開け,被告人bがeの顔面を1回殴打するとともに,cが仰向けに倒れた
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eの頸部に素早くロープを掛け,2人がかりでそのロープを強く絞め,eが動
かなくなるや,その頸部及び両足にロープでコンクリートブロックを1個ずつ
結びつけ,同月17日午前零時ころ,橋の上から,eをu川に投げ込み,同人
を頸部圧迫による窒息若しくは溺死又は両者の競合により死亡させて殺害し
た。
(3)原判示第2の犯行(dに対する強盗殺人)について
被告人bらが上記原判示第1の犯行に及んでいたころ,被告人aは,自分が
運転する車内でdと二人だけになって,なおも殺害の機会をうかがっていたも
のの,依然としてためらって実行できず,結局,同日(9月17日)午前4時
ころになって,fから,いったん殺害計画を中止するが,dを帰宅させずに被
告人らのt町の自宅に連れ帰れと指示された。ところが,同日午前6時ころ,
dが,息子のeを起こそうと同人の携帯電話に電話したところ,gが応答して
eがいなくなっていることが判明し,dは,てっきりeが家出をしたと思い込
み,被告人aに対し,gにeを捜させるために自分が乗ってきたワゴンRを自
宅に持ち帰ってgに渡したいと言い出した。これに対し,被告人aは,上記の
とおり,fらとの間で,dを殺害した後,その死体をワゴンRに載せて車ごと
u川に遺棄する計画を立てていたことから,dがgに同車を渡すのは困ると
思ったが,それをdに言い出せず,仕方なくdとそれぞれの使用車を運転して
d方へ行ったところ,dは,gに,eを捜すように言ってワゴンRを渡すと,
被告人a運転の車に戻ってきた。そこで,被告人aは,そのまま自分の車を運
転してdを自宅に連れ帰ったところ,そこにいたfから,dをkアパートのi
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組事務所に連れて行き,同女をできるだけ外出させるなと指示され,指示に
従って,dを同事務所へ連れて行った。そして,被告人aは,dの金は欲しい
が,やはり自分の手では殺せないと思い悩むうち,ついに同日午後2時ころ,
cに対し,「もうどげんもしきらんばい。」「ター坊,お願い,お母さんば助
けて。」などと電話して,d殺害の手助けを求めるに至った。その際,被告人
aは,cに対し,このことは被告人bには内緒にするよう言った。
そのころ,cは,被告人bとともにd方から奪った金庫をこじ開け,金庫の
中にあった貴金属を換金するために質屋を回っていたところであったが,被告
人aからの上記電話に対し,「分かったけん,心配いらん。」などと答え,そ
の電話の後,被告人aの意に反して,実行力のある被告人bにも手伝わせるべ
く,同人に事情を話した。すると,被告人bもこれを了解し,その上で,cと
被告人bは,dを殺害するには,まず睡眠薬で眠らせるのがよいと相談し,c
が,被告人aに電話し,睡眠薬入りの食べ物をdに食べさせることを提案する
と,被告人aは,それに賛成し,cに対し,dの弁当とお茶を購入して持参す
るように依頼した。cと被告人bは,弁当にかけられているタルタルソースに
睡眠薬を入れることにし,被告人bが,購入した弁当のタルタルソースに睡眠
薬をすりつぶして混入させた。そして,cは,同日午後4時ころ,i組事務所
を訪れ,被告人aに対し,弁当等を手渡し,「タルタル。」と小さい声で耳打
ちした。これに対し,被告人aは,弁当のタルタルソースに睡眠薬が混ぜられ
ていることを察し,その弁当をdに渡し,果たしてdがこれを食べ終わって間
もなく眠り始めたので,同日午後5時ころ,電話でfを呼び寄せ,同人と,d
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殺害やその死体の処理の方法を話し合ったが,fは,dだけではなく,同女と
被告人aが一緒にいることを知っているgも口封じのために殺す必要があり,
両名の死体をワゴンRに載せてu川に沈めて遺棄しなければならないと主張し
た。これに対し,被告人aは,dは体格が良いので,その場で殺害するにし
ろ,場所を移して殺害するにしろ,被告人aとfの2人だけで同女の死体ある
いは眠った同女を同事務所から運び出すことは無理であると考え,fに対し,
cと被告人bを協力させたいと提案したところ,fもこれに賛成したので,同
日午後8時30分ころ,cに電話し,被告人bを連れてi組事務所に来るよう
指示した。
こうして,同日午後9時前ころ,被告人ら4名がi組事務所に集まり,被告
人bも,dを殺害して金品を強取する計画に加わることを了承し(遅くともこ
の時点で,その旨の被告人ら4名の共謀が成立したものと認められる。),引
き続き,同女の殺害方法や口封じのためにgも殺害して同女の死体と一緒にワ
ゴンRに載せてu川に沈めること等について話し合った末,翌18日午前零時
ころ,ついに同女を殺害するために同事務所から連れ出すことにし,被告人a
が,dを目覚めさせたが,その際,被告人bは,事務所内で,オートバイ等を
停めるときなどに使うワイヤー錠を見つけ,それを使って同女の首を絞めて殺
すことを決意した。そして,被告人bは,睡眠薬の影響によりまだ意識がもう
ろうとして足取りのおぼつかない同女を,fが運転する普通乗用自動車(以下
「MPV」ともいう。)に乗せた上,自分も被告人aとともにその車に乗り込
んだ。fが運転して同車を発進させ,cもプレジデントを運転してMPVに続
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いたが,fは走行中の車内で,被告人bに対し,自分が咳払いをして合図した
ら,d殺害を実行するよう指示し,その後,2台の車は原判示の福岡県大牟田
市l町m番地n北側岸壁に到着した。
そして,被告人bは,同日午前零時30分ころ,fがMPV車内で咳払いの
合図をするや,依然として睡眠薬の影響により意識がもうろうとしているdに
対し,「おばちゃん,肩を揉んでやるたい。」などと言いながら,背後からそ
の頸部に上記ワイヤー錠のワイヤー部分を引っ掛け,ワイヤー錠を施錠して輪
にした上,両手あるいは片手でワイヤー錠を持ち,同女が座る2列目シートの
背部分に足を当てて踏ん張り,更に自分が座る3列目シートの背もたれを後ろ
に倒して上体を後ろに倒すなどしてワイヤー錠を力いっぱい引っ張ってdの頸
部を絞め始めた。そして,このようにdの頸部を絞め続ける被告人bに対し,
その様子を車の外から見ていたcは,同被告人の求めに応じてタバコを車内に
差し入れたり,車の窓ガラスに「ひとごろし」と指で書くなどして同被告人を
からかったりし,fは,車内が熱いと言い出した同被告人のために車のエアコ
ンを作動させたり,同被告人の口元にペットボトルの口をあてがってお茶を飲
ませてやったりした。被告人aも,始めは助手席から被告人bがdの頸部を絞
める様子を見ていたが,dが両足をばたつかせてもがいているのを正視できず
に車外に出たところ,cから,「人間は首を絞めてもしっかり絞めないと息を
吹き返す。」などと言われるや,被告人bのところへ行って,同被告人に対
し,「dが息を吹き返さないようにしっかり首を絞めろ。」などと指示した。
こうして,被告人bは,dの頸部を絞め続け,そのころ,dを頸部圧迫により
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窒息死させて殺害した。そして,被告人aは,原判示第2のとおり,同第3な
いし第5の各犯行後の同日午前4時30分ころ,福岡県大牟田市内を走行中の
MPV車内で,dの手提げバッグ内から同女所有の現金約26万円を強取し
た。
(4)原判示第3,第4の各犯行(g及びhに対する殺人等)について
被告人bは,上記のとおりdを殺害した後,車外から死体が見えないように
同女の死体をシート上に倒し,同女の頸部に掛かったワイヤー錠をシートの肘
掛けに掛け,その頸部が絞まり続けるようにした。fは,被告人aが助手席に
戻るやMPVを発進させ,cもプレジデントを運転してこれに続き,gが運転
していると思われるワゴンRを捜したが,なかなか見つけることができず,c
と一時はぐれたりしたが再び合流し,その後はcもプレジデントからMPVに
乗り替えてgが運転するワゴンRを捜し続けたが,やはり見つけることができ
なかった。しかし,被告人ら4名は,同日(9月18日)午前1時35分こ
ろ,gがワゴンRで帰宅しているかもしれないと思ってd方付近にMPVを停
めたところ,ちょうど,eが家出をしたと思って同人を捜しているgとそれに
協力していたhが乗ったワゴンRがd方に帰ってきた。被告人b,f及びc
は,車から降りてワゴンRに近付いて行ったが,同人らはhとは初対面であっ
た。被告人bは,ワゴンRの運転席にいたgに対し,自分たちもeを捜してい
るかのように嘘をついて話しかけたところ,g以外にもう一人乗車していたこ
とから,cやfと,その同乗者をどうするか相談したところ,2人から,gだ
けでなく同乗者も殺せと指示され,さらに,fから,原判示の自動装てん式け
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ん銃(以下「本件けん銃」ともいう。)を手渡され,けん銃には既に弾が6発
装てんされており,安全装置を外せばすぐに発射できる状態にあると教えられ
るとともに,gらの心臓を撃つように指示された。被告人bは,これを了承
し,cに本件けん銃を渡そうとしたが,同人が受け取ろうとしないため,自ら
実行することを決意した(遅くともこの時点で,同被告人とf及びcとの間
で,g及びhの両名を殺害する旨の共謀が成立したものと認められる。)。
そして,被告人b及びcは,gらに対し,一緒にワゴンRに乗ってeを捜し
に行こうなどと言葉巧みに申し向け,その旨だまされているgとhを同車後部
座席に移動させ,後部座席ドアのチャイルドロックをかけてドアを閉め,gら
を逃がさないようにした上で,cが運転席に,被告人bが助手席に乗り込み,
同日午前2時ころ,cがワゴンRを発進させた。また,被告人bは,走行中の
車内で,gとhの2人が外部に助けを求めないように,虚言を弄して2人から
携帯電話機を取り上げ,これらを壊したりもした。
被告人aは,f運転のMPVでワゴンRを追いかけたが,その車内で,fか
ら,ワゴンRにはgだけでなく,もう1人友だちが乗っているが,2人ともけ
ん銃で殺害することにし,被告人bにけん銃を渡したと告げられて動揺し,g
の友だちまで殺すことに若干異を唱えたものの,fから,顔を見られた以上,
2人とも殺さなければならないと説得されて了承した(遅くともこの時点で,
被告人ら4名の間で,gら2人を本件けん銃で殺害する旨の順次共謀が成立し
たものと認められる。)。その後,fと被告人aは,途中でワゴンRを見失
い,cらと一時はぐれたが,その間も同人らと連絡を取り合う中,gらの殺害
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について,c及び被告人bに対し,fの指示を受けた被告人aが,「お父さん
がさっさとせろち言いよらすよ。」などと犯行をせかしたり,fが直接に,
「なんばしょっとか。うろうろせんで早く発射せんか。」などと怒鳴りつけた
りした。
cは,原判示の福岡県大牟田市o町p番地q西側岸壁にワゴンRを停車させ
ると,被告人bに対し,自分が車から降りたらgらの殺害を実行しろと言うや
車外に出た。そこで,被告人bは,その場でgらを本件けん銃で射殺すること
を決意し,同日午前2時15分ころ,まずhに対し,本件けん銃をモデルガン
のように装って安心させ,その頭を前に出させるやその左耳上辺りに本件けん
銃を向けて弾丸を1発発射して命中させ,次に,目の前でhが撃たれたことに
驚いてあ然としているgに対し,「eもdも俺が殺して死んどる。お前ん方,
2000万あろうが。金,どけあっとか。」などと問いかけ,gが,金の在り
かなど知らないと答えるや,h同様にその左耳上辺りに本件けん銃を向けて弾
丸を1発発射して命中させると,いったん車外に出て,cに対し,頭を撃った
が2名ともまだ生きていると報告し,cがこれを被告人aに電話で伝え,更に
被告人aがfに伝えると,fは被告人aから携帯電話機を取り上げ,cに対
し,「何で頭ば撃ったとか。胸ば撃てち言うとったろうが。」と怒鳴りつけ,
引き続き,fから携帯電話機を受け取った被告人aも,fにならって,cに対
し,「お父さんが胸ば撃てち言いよらす。3発ずつ6発全部撃てげなばい。」
と指示し,cはこれを被告人bに伝えた。被告人bは,またもcに本件けん銃
を渡そうとしたがcがそれを拒んだため,再びワゴンRの助手席に乗り込む
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と,h,g両名に対し,いずれもその胸部に本件けん銃を向けて弾丸を2発ず
つ発射して全弾を命中させ,その場でgを頭部射創及び胸部射創に基づく失血
により死亡させて殺害した。
その後,fの指示で,被告人ら4名はそれぞれ移動して合流することにし,
fと被告人aは,その途中でcらと連絡を取り合ううち,gは死んだが,hが
まだ生きていることを知った。そこで,被告人ら4名は,合流後,fの指示の
下,アイスピックでhにとどめを刺すことにし,被告人aが,被告人bに,M
PV車内にあった2本のアイスピックのうち長い方を手渡した。そして,被告
人ら4名は,fと被告人bがワゴンRに,被告人aとcがMPVに分乗し,f
と被告人aがそれぞれ運転して出発し,同日午前2時25分ころ,被告人b
が,原判示のとおり走行中のワゴンR車内で,hの左胸部を上記アイスピック
で1回突き刺して,その場で,同人を頭部射創,胸部射創及び胸部刺創に基づ
く失血により死亡させて殺害した。
(5)原判示第5の犯行(死体遺棄)について
g及びhを殺害後,被告人ら4名は,かねてから計画したとおり,dら3人
の死体をワゴンRに積み込んで車ごと遺棄するため,d殺害現場付近の岸壁へ
行き,被告人bが,dの死体をMPVから引きずり降ろしたが,死体が重くて
1人で持ち上げられなかったため,cと2人がかりで死体を持ち上げてワゴン
Rに積み込み,fが同車を運転するなどしてu川付近へ行き,dらの死体を遺
棄しようとしたが,通行車両があったことから,犯行をいったん中止して,f
らの自宅に戻り,ワゴンRのナンバープレートを外すための電動ドライバー等
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を用意した上で,同日(9月18日)午前3時15分ころ,再びu川に戻り,
原判示のu川左岸堤防道路にワゴンRを停め,暗がりの中で,被告人aがMP
Vに乗り込んで前照灯で照射し,その明かりを利用して被告人bがワゴンRの
ナンバープレートを取り外し,同被告人とfが,ワゴンRを沈みやすくするた
め同車の3つの窓をそれぞれ少し開けた上,同日午前3時30分ころ,fが,
車外からアクセルを踏み,ワゴンRをu川土手の斜面から同川中央付近に向け
て走行させて水没させ,dら3名の死体を遺棄した。
(6)各犯行後の被告人らの行動等
その後,被告人ら4名はMPVに同乗して同日(9月18日)午前4時こ
ろ,d方近くに至り,そこで同車を停止させて被告人aは車内に待機し,被告
人b,f及びcが,d方に入って家捜しをしたが,現金を見つけることはでき
ず,その後,被告人aが,前記のとおりdのバッグ内から強取した現金約26
万円中,10万円をcに渡し,cは被告人bにうち5万円を渡した。fと被告
人aは,こうして得た現金を電話料金やi組の上部団体への上納金,飲食費等
に費消した。なお,被告人bは,同月17日,d方から強取した金庫内に在中
していた指輪のうち6個を入質し,得た現金合計10万8000円をcに渡
し,cから分け前として約4万円をもらった。また,cは,同月19日にも,
同様に指輪4個を入質して現金合計2万1000円を得た。
2被告人aの刑事責任について
以上のとおり,被告人aは,f,c及び被告人bと共謀の上,わずか数時間の
うちに,dに対する強盗殺人と,g及びhに対する殺人を次々に実行し,それら
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3名の死体を車ごとu川に沈めて遺棄したほか,殺人の犯行に際し,けん銃を適
合実包とともに所持したものである。
(1)本件各犯行の経緯や動機についてみるに,dに対する強盗殺人は,被告人
aが,多額の負債による生活苦等を打開し,dに対する憤まんを一気に解消し
ようとしたものであり,g及びhに対する殺人は,gの口封じを狙ったとこ
ろ,偶然hも一緒にいたからといって,両名とも殺害したものであり,死体遺
棄については,これら犯行の隠ぺいを目的とするものであり,金銭欲に始まり
人命軽視も甚だしく,自己中心的で身勝手極まりない動機というほかなく,被
告人aらが生活苦に陥った経緯等に特段同情できる事情が見出せないことにも
照らすと,いずれも酌むべきところはない。所論は,dが長年にわたり被告人
aをいいように利用し,j家を見下す態度をとり続けたほか,多額の現金を用
意したなどと虚勢を張ったことが,一連の犯行を誘発したなどと主張するが,
関係証拠上,dの言動に本件のような凶悪な被害に遭うような非があるとは到
底認められない上,仮にdに被告人らの反感を買うような言動が多少あったと
しても,それを殊更同被害者の落ち度とみることはできない。
(2)各犯行の態様をみるに,上記強盗殺人については,dが被告人aらを全く
疑っていないことに乗じて睡眠薬入りの弁当を食べさせ,睡眠薬の影響から意
識もうろうとなって抵抗できない状態に陥らせた上で,背後からその頸部をワ
イヤー錠で力いっぱい絞めて殺害し,同女のバッグから現金約26万円を奪っ
たものであり,また,殺人についても,言葉巧みに被害者両名をだますなどし
て,その頭部及び胸部に至近距離から3発ずつ発砲してgを殺害し,更にうめ
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き苦しむhの胸部をアイスピックで思い切り突き刺してとどめを刺したもので
あり,いずれも強固な確定的殺意に基づく,非情かつ残酷なもので,誠に凶悪
な犯行態様である。さらに,死体遺棄の態様も,現場に他の自動車が進入しな
いように道路の交通を妨害したり,犯行を発覚しにくくするために被害者らの
死体を積んだ車からナンバープレートを取り外したり,車を沈みやすくするた
めに車の窓を少し開けるなど,計画的なものであって,悪質である。
(3)そして,これらの凶行の結果,3人もの尊い命が奪われたもので,各被害
者らがそれぞれ絶命するまでの間に感じたであろう,想像を絶する肉体的苦痛
や無念さ等をも考慮すると,本件各犯行の結果が極めて重大であることは明ら
かであり,社会に与えた衝撃や不安の大きさにも著しいものがある。dは,女
手一つで苦労して2人の息子を育て,その成長を楽しみにしていたはずである
のに,それまで親しく付き合っていた被告人aらによって,だまし討ちのよう
にして殺されたもので,何とも痛ましく無惨というほかなく,哀れである。ま
た,当時18歳で大学1年生であったgと当時17歳で高校2年生であったh
の両名も,その前途有望な未来を何の落ち度もないのに理不尽にも突然奪われ
たもので,これまた誠に不運で哀れというほかない。当然ながら,これら3名
の被害者の遺族らは,家族を失った深い悲しみをいやされるはずもなく,一様
に峻烈な被害感情を表し,被告人aに対し極刑を強く求めている。なお,所論
は,強盗殺人の犯行において,被告人aが強取した約26万円を自分のために
費消していないと主張するが,同金員が被告人aを含めた被告人ら4名で分配
されたり,それぞれの利益のために費消されたことは明らかであり,そのよう
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な点が被告人aに特別有利な事情とはいえない。本件各犯行においては,一貫
して被告人ら4名の物欲と人命軽視が認められるというべきである。
(4)ところで,被告人aに関して特筆すべきは,同被告人は,日ごろからfら
にdに対する強い憤まんを漏らすなど,同被告人の言動が本件一連の犯行の契
機となっているほか,強盗殺人の犯行においては,犯行当日まで自分がdを殺
すと言い張り,結局怖ろしくなって犯行に踏みきれないと諦めるや,母親とし
ての立場を忘れ,あろうことか長男(c)に協力を求め,更には次男(被告人
b)までも犯行に引き入れたほか,dに睡眠薬入りの弁当を食べさせたり,d
の首をワイヤー錠で絞めている被告人bに対し,dが息を吹き返さないように
しっかり絞めなさいと叱咤するなどしている。また,殺人の犯行においても,
fとともに,被告人bらに対し,強く実行をせかしたり,被害者らの頭部でな
く胸部をもけん銃で撃つよう指示したり,hにとどめを刺すために長いアイス
ピックを選んで被告人bに手渡している。さらに,死体遺棄の犯行において
も,被告人bがワゴンRのナンバープレートを取り外すのに協力し,目撃者等
が現われないように自動車を停めて道路の交通を妨害するなどしている。この
ように,被告人aは,殺害行為こそ担当しなかったものの,各犯罪の遂行に向
けて重要な役割を積極的に果たしている。所論は,本件各犯行の計画を主導的
に企画立案したのはfであり,それに準ずる首謀者的役割を果たしたのはcで
あり,各犯行を実行したのは被告人bであって,被告人aは,d殺害の計画が
暴走しないようブレーキをかけようとしたが,fやcに従わざるを得なかった
とか,g殺害には当初から反対したが,f,c及び被告人bからの圧力のか
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かった状況の中,反対できなかったのが実情であり,h殺害に至っては,完全
にfの決断によるものであり,追認せざるを得なかったとか,犯行に使用され
たけん銃の管理についても犯行前後を通じて一切関与しておらず,いずれの犯
行にも,従属的かつ消極的に関与したにすぎず,決して首謀者などではないな
どと主張する。しかし,被告人aが,d殺害を自ら実行しなかったのは,上記
のとおり怖じ気付いたからにすぎず,共犯者として犯行の遂行に何らの防止策
も採らず,かえって十分納得した上でd,g及びh全員の殺害に参加し,上記
のように各犯行で重要な役割を果たしている。なお,被告人aは,h殺害につ
いては,最後まで,同人とは認識していなかったようであるが,gが運転する
ワゴンRに同乗者がいると聞いた上で,その同乗者の殺害に同意したもので
あって,決して殺害後に了承したものではない。したがって,被告人aについ
て,同被告人が関係した前記各犯行について,同被告人を首謀者と評価するか
どうかはともかく,その関与が従属的かつ消極的なものにとどまるなどと評価
することはできず,同被告人の本件犯情はすこぶる悪いというほかなく,その
刑事責任が極めて重大であることも明らかである。
そうすると,同被告人が,本件各犯行の実行犯ではなく,上記のとおり,d殺
害をためらって実行せず,g殺害に若干異を唱えた場面もあるなど,当初から各
被害者を殺害することを主導したものではないこと,捜査段階から素直に各罪を
認め,本件各犯行の事実関係等について詳細に供述し,原・当審公判において
も,極刑を覚悟していると供述し,一連の犯行が全て自分の単独犯行であると主
張するfと,本件各犯行への関与を全面的に否認するcに対し,事実を正直に認
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め,一緒に刑に服そうと手紙で呼び掛けるなど深く反省していることがうかが
え,更生可能性が皆無であるとまではいえないこと,hの母から差し入れられた
現金を自らした写経とともに供養のために寺に送るなど,決して十分ではないが
被害者及び遺族らに対する謝罪の意思を明らかにしていること,その他所論指摘
の点を含め同被告人のために酌むべき諸事情を最大限考慮し,さらに,死刑が人
間の生命を奪う極刑であり,窮極の刑罰であることにかんがみ,その適用は慎重
に行われなければならず,「犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執
拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社
会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,
その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極
刑がやむをえないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなけ
ればならない」(最高裁昭和56年(あ)第1505号同58年7月8日第二小
法廷判決・刑集37巻6号609頁)との最高裁判決の趣旨を踏まえても,被告
人aに対し死刑を宣告した原判決は,やむを得ないものというほかなく,これが
重過ぎて不当であるとはいえない。
3被告人bの刑事責任について
被告人bについても,被告人a同様,fらと共謀の上,わずか数時間のうち
に,dに対する強盗殺人と,g及びhに対する殺人を次々に実行し,それら3名
の死体を車ごとu川に沈めて遺棄したほか,殺人の犯行に際し,けん銃を適合実
包とともに所持したものであるが,さらに,被告人aらがdに対する強盗殺人の
実行をためらっている間に,cと共謀の上,eに対する強盗殺人をも実行したも
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のである。
(1)本件各犯行に至った経緯・動機については,上記2(1)において被告人aに
ついて述べたところが被告人bについてもそのまま当てはまる上,eに対する
強盗殺人においては,同被告人は,cから,d方の金庫には2000万円以上
の現金があり,e一人しかいないので同人を殺害して現金を強取しようと持ち
掛けられ,いったんは,eが親しい友だちであるgの弟であったことから,e
を殺す必要はないと消極的態度を示したものの,cから,「(被告人bの)弟
を使う。」,「お前がやめるなら,お前もr(被告人bの交際相手)も殺
す。」などと言われ,cの言をそのまま真に受けたとは思われないが,cに対
する怒りを覚えながら,結局は500万円の分け前も提案されて犯行に荷担す
ることに同意したもので,これまた利欲的で人命軽視も甚だしく,自己中心的
で身勝手極まりない発想というほかなく,そのような犯行に至る経緯や動機に
酌量の余地がないことは明らかである。
所論は,①dの言動が,犯意形成に寄与したことは否定できず,原判決が,
d殺害の動機について,人の尊厳を無視する短絡的かつ極めて自己中心的なも
のであって,酌量の余地は全くないと判示しているのは,いささか断定的すぎ
る,②被告人bは,特に金銭に困っておらず,利得目的がほとんどなく,dに
対する恨みもなかったが,i組ないしj家において絶対的立場にあったfや被
告人a,あるいは日ごろから腕力においても,弟としての立場からも逆らえな
い立場にあったcの命令に従ったまでであって,fや被告人aに対する忠誠心
や愛情も相まって本件各犯行に及んだものであるから,その動機を自己中心的
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なものとみるのは相当ではない,③被告人bは,g及びhの殺害について,
いったん逡巡もしたものであって,同被告人に,dに対する強盗殺人の発覚を
防ぐために上記2名の生命を奪うという身勝手極まりない動機があったともい
えない,などと主張する。しかし,①上記2(1)において被告人aの所論につ
いて判示したとおり,dの言動を落ち度とみるのは相当ではない。②また,関
係証拠から認められる被告人bとf,被告人a及びcとのやり取りをみる限
り,被告人bが,決してfや被告人a,cらに支配されて逆らえない状況に
あったものとは認められず,被告人bは,あくまでも自ら犯行を決意したもの
であり,また,eに対する強盗殺人についても同様である。③さらに,被告人
bがg及びhを殺害することに当初若干逡巡したことは所論指摘のとおりであ
るが,上記1(4)に判示したとおりの残酷で容赦のない殺害態様には,同被告
人の極端な粗暴性が顕著に現れているというべきである。
(2)次に,各犯行の態様についても,上記2(2)において被告人aについて判示
したとおりであるが,加えて,eに対する強盗殺人の犯行についてみると,上
記1(2)のとおり,被告人bは,eが自分を全く疑っていないことに乗じて,
背後からいきなり首を絞め,その後もeが息を吹き返すたびにその頸部を平然
と繰り返し絞め,更にはコンクリートブロック3個をeの首と両足にロープで
縛り付けて同人を橋の上からu川に投げ落とすなどして殺害したもので,誠に
執ようで冷酷な殺害の態様であり,金庫を強取し,その後奪った貴金属類を換
金した点も大胆で悪質である。所論は,被告人bは,e殺害については犯行の
30分前,dほか3名の殺害については犯行当日に初めて知らされ,そのまま
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勢いで各犯行に突っ走ってしまったものであり,本件は場当たり的で計画性の
ない犯行というべきであって,計画的犯行の特徴である犯罪遂行に対する強固
で継続的な意思はなく,犯行を中止する機会もなかった,などと主張する。し
かし,関係証拠によれば,同被告人らは,e殺害に際してロープやコンクリー
トブロックを用意し,車のトランク内で悲鳴を上げるeの殺害方法を打ち合わ
せ,dらを殺害した後に死体を車に積んでu川に沈める旨謀議を遂げるなど,
いずれの犯行についても,綿密とまではいえないまでも,それなりに計画性が
認められる上,前記1で認定・判示したとおりの各犯行態様をみる限り,同被
告人が強固な殺意を有していたことは明らかであり,殺意を放棄し,犯行を中
止する機会などいくらでもあったというべきである。なお,所論は,原判決
は,被告人bがe,g及びhの各殺害行為をすべて実行したと認定している
が,同被告人は,cに意地を張って真実を述べていない可能性があり,cも殺
害行為を更に実行した合理的疑いがあると主張するが,関係各証拠を精査して
も,そのような合理的疑いをうかがわせるものは見当たらない。また,被告人
aが,cが原判示以上に実行した疑いがあると述べていることは所論指摘のと
おりであるが,これも現場にいなかった者の推測にすぎず,客観的根拠に基づ
くものではない。
(3)e,d,g及びhの4人もの尊い命が奪われた,その結果自体が極めて重
大であるところ,上記2(3)において被告人aについて述べたところは,その
まま被告人bにも当てはまるが,更にeについても,当時,弱冠15歳の高校
1年生で,勉学に励むとともにボクシングを習うなど充実した毎日を送ってい
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たところ,何の落ち度もないのに,突然襲われ,必死に抵抗したがむなしく殺
されたものであり,絶命するまでの間に感じたであろう,想像を絶する肉体的
苦痛や無念さ等に照らすと,誠に痛ましい限りである。所論は,hの母親s
が,現在においては被告人らに対する死刑を望んではいないと考えられると主
張するが,当審における同女の意見陳述等からも,同女が被告人らに極刑を望
んでいることは明らかである。
(4)そして,被告人bは,本件各犯行,殊にe,d,g及びhの4人をわずか
2日間のうちに殺害した実行犯であり,その刑事責任が特に重いことは明らか
であって,ためらいなく次々と冷酷に殺人を重ねる様子からは,顕著な人命軽
視及び極端な暴力肯定の態度が明白に認められる。しかも,同被告人は,平成
15年4月に暴力行為等処罰に関する法律違反,覚せい剤取締法違反,大麻取
締法違反及び器物損壊罪により中等少年院送致の保護処分を受け,平成16年
5月に少年院を仮退院したが,すぐにi組に加入し,短期間のうちに本件各犯
行に及んでおり,上記保護処分当時から,同被告人には,深刻な反社会性や無
軌道な粗暴性や暴力団に対するあこがれといった問題点があると指摘されてい
ることにも照らすと,同被告人の犯罪性向は極めて深刻であって,同被告人が
犯行当時20歳で,現在23歳といまだ若年であることから,そうした人格傾
向の矯正が全く不可能であるとまで断定することはできないが,その可能性は
著しく困難であるといわざるを得ない。いずれにしても,同被告人の本件犯情
は極めて悪く,その刑事責任は被告人a同様,あるいはそれ以上に重大である
といわねばならない。
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そうすると,被告人bが上記のとおり若年であること,捜査段階から素直に各
罪を認め,本件各犯行の事実関係等について詳細に供述し,原・当審公判におい
て,それなりに反省の態度を示していること,前科がないこと,その他所論指摘
の点を含め同被告人のために酌むべき諸事情を最大限考慮し,さらに,上記最高
裁判決の趣旨を踏まえても,被告人bに対し死刑を宣告した原判決は,相当にし
てやむを得ないものというべきであり,これが重過ぎて不当であるとはいえな
い。
以上によれば,被告人両名に関する弁護人らの各論旨はいずれも理由がない。
よって,刑訴法396条により本件各控訴を棄却し,当審における訴訟費用を被
告人両名に負担させないことにつき同法181条1項ただし書を適用して,主文の
とおり判決する。
(裁判長裁判官正木勝彦裁判官松下潔裁判官平島正道)

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