弁護士法人ITJ法律事務所

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(注)原審の判決(平成19年11月30日・名古屋地方裁判所平成16年(ワ)
第3089号)は,当ホームページの裁判例情報のページで検索のうえ閲覧
できます。ただし,当事者名等で用いている符号は,符合していません。
主文
1控訴人A及び控訴人Bの控訴を棄却する。
ただし,原判決後の訴訟承継により,原判決主文第1項中,被控訴人C株式
会社に関する部分を別紙のとおり変更する。
2被控訴人D株式会社の控訴に基づき,原判決主文第1項中,被控訴人D株式
会社に関する部分を次のとおり変更する。
(1)被控訴人D株式会社は,控訴人Aに対し,1223万5645円及びうち
1046万9068円に対する平成20年10月1日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人D株式会社は,控訴人Bに対し,1223万5645円及びうち
1046万9068円に対する平成20年10月1日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人A及び控訴人Bのその余の請求をいずれも棄却する。
3被控訴人D株式会社の控訴に基づき,原判決主文第2項中,被控訴人D株式
会社に対し,5201万1014円及びうち4139万3979円に対する平
成20年10月1日から支払済みまでの年5分の割合による金員を超えて金員
の支払を命じた部分を取り消し,当該取消しに係る控訴人Aの請求を棄却する。
4被控訴人D株式会社のその余の控訴を棄却する。
5訴訟費用は,控訴人A及び控訴人Bと被控訴人C株式会社との間に生じた控
訴費用を控訴人A及び控訴人Bの負担とし,控訴人Aと被控訴人D株式会社と
の間では,第1審及び当審において控訴人Aと被控訴人D株式会社との間に生
じた費用を5分し,その3を被控訴人D株式会社の負担とし,その余を控訴人
Aの負担とし,控訴人Bと被控訴人D株式会社との間では,第1審及び当審に
おいて控訴人Bと被控訴人D株式会社との間に生じた費用を2分し,その1を
被控訴人D株式会社の負担とし,その余を控訴人Bの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1控訴人ら
(1)原判決の控訴人ら敗訴部分のうち後記(2),(3)の請求に係る部分を取り消
す。
(2)被控訴人らは,各控訴人に対し,連帯して,906万5097円及びこれ
に対する平成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
(3)被控訴人らは,控訴人Aに対し,連帯して,1451万9411円及びこ
れに対する平成14年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
(4)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
(5)上記(2)ないし(4)につき仮執行宣言
2被控訴人D株式会社
(1)原判決中,被控訴人D株式会社の敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消しに係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審とも控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1本件は,(1)亡E(平成20年3月26日死亡)が被控訴人らに対し,製造物
責任法3条(被控訴人C株式会社(以下「被控訴人C」という。)については,
製造物責任法3条又は民法709条)に基づき,損害賠償金4013万019
4円及びこれに対する損害発生後である平成14年7月5日から支払済みまで
の民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めたが,当審におい
て,控訴人らが,亡Eを訴訟承継したことから(相続分各2分の1),それぞ
れ,被控訴人らに対し,損害賠償金2006万5097円及びこれに対する上
記と同じ遅延損害金の連帯支払を求め,また,(2)控訴人Aが被控訴人らに対し,
上記(1)と同じ責任原因に基づき,損害賠償金6873万2194円及びこれに
対する損害発生後である平成14年3月3日から支払済みまでの民法所定年5
分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
原審は,製造物責任法3条に基づき,上記(1)の亡Eの請求を一部(2200
万円と遅延損害金)認容し,上記(2)の控訴人Aの請求を一部(5421万27
83円と遅延損害金)認容した。
そこで,控訴人A及び亡E,被控訴人D株式会社(以下「被控訴人D」とい
う。)が敗訴部分につき控訴をした。
2争いのない事実等,争点に関する当事者の主張
次のとおり原判決を補正し,当事者が当審において追加又は敷衍した主張を
付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要等」の「2」
ないし「5」記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決書4頁11行目の冒頭から同頁15行目の末尾までを削る。
(2)同6頁22行目の末尾の次に,行を改めて,次のとおり加える。
「(7)平成20年8月29日,控訴人らと株式会社F(分離前相被控訴人・
1審被告)及びG(分離前相被控訴人兼控訴人・1審被告)との間で裁
判上の和解が成立した。同年9月30日,控訴人らは,株式会社F及び
Gから上記和解金600万円の支払を受け,本件損害賠償金の一部とし
て,うち300万円を控訴人Aが取得し,残りの300万円を控訴人ら
(亡E訴訟承継人)が法定相続分(各2分の1)に従って150万円ず
つ取得した(弁論の全趣旨)。」
(3)同13頁24行目の冒頭から同16頁6行目の末尾までを削る。
(4)同17頁の7行目から8行目にかけての「専業主婦として家事に従事して
いた」の次に,「(亡Eは,生前,平成7年に夫を失って以降,二男である
Bと同居し,Bの分を含めた炊事,洗濯,掃除等の家事を行い,外出にも特
に問題はなく,デパート等にも買物に出かけていた。したがって,原判決が
亡Eの後遺障害逸失利益を否定した点は,相当でない。)」を加える。
(5)同18頁の23行目から24行目にかけての「専業主婦として家事に従事
していた」の次に,「(控訴人Aは,夫,長男,二男と同居し,家族の炊事,
洗濯,掃除は,すべて控訴人Aが行っていたし,外出にも特に問題はなく,
その日常生活は,一般の主婦と何ら変わるところはなかった。したがって,
原判決が何ら理由を述べることなく控訴人Aの後遺障害逸失利益の算定基礎
となる収入を賃金センサスの女子労働者(当該年齢)全学歴平均賃金の7割
とした点は,相当でない。)」を加える。
(6)同19頁9行目の冒頭から同頁20行目の末尾までを削る。
(当事者が当審において追加又は敷衍した主張)
(1)被控訴人Dの主張
アあまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性がないこと
(ア)あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が発症したといえるた
めには,その原因物質を含め,科学的に因果関係が解明される必要があ
るというべきである。しかし,閉塞性細気管支炎の大半は,その原因が
不明であり,免疫性疾患との関連が指摘されているに過ぎない。
(イ)台湾において,野菜あまめしばを摂取した者で閉塞性肺疾患に罹患
しているとされる症例が多数報告され,かつ,そのうち,閉塞性細気管
支炎の既知の原因を発見できなかった患者の共通点が野菜あまめしばを
摂取したことだけであったからといって,沖縄で栽培された本件あまめ
しばを摂取したことにより閉塞性細気管支炎が発症するとは限らない。
すなわち,台湾と日本(沖縄)とでは土壌が異なるから,台湾で栽培
されたあまめしばに毒性があるからといって,日本(沖縄)で栽培され
たあまめしばにも同様の毒性物質が蓄積されているとは限らない。また,
台湾では,あまめしばをジュースにして生で摂取していたのに対し,本
件あまめしばは,乾燥粉末にして摂取されるものであり,この点の違い
が閉塞性細気管支炎の発症を招くか否かに大きく影響するものと考えら
れる。
むしろ,次の各点からすれば,あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎
の発症との間に高度の関連性があるとすることはできないというべきで
ある。
①厚生労働省が実施した動物実験の結果によっても,あまめしばの毒
性を客観的に裏付けることはできなかった。
②あまめしばの摂取量が多くなるほど閉塞性細気管支炎が発症する確
率が高くなるという関係にあることが統計的に裏付けられていない。
③台湾,日本のいずれにおいても,あまめしばが販売禁止になった後
に,閉塞性細気管支炎の発症率が大幅に減少したという統計資料等は
ない。
④閉塞性細気管支炎の患者のうち,あまめしばを摂取した群に特有の
臨床症状や所見,肺の病理学的所見等があるわけではない。
(ウ)あまめしばを摂取した者のうち,閉塞性細気管支炎を発症するのは,
その一部に過ぎない。しかも,日本においてあまめしばの摂取により閉
塞性細気管支炎に罹患したとされる数少ない症例のうち,4例が親子で
ある。そうすると,閉塞性細気管支炎の発症には遺伝的な疾患ないし要
因が大きく関与しているものと推認できる。
なお,遺伝的要因がどの時点で疾病として具体化するかは,時の経過
とは無関係であり,親が先に発症するとは限らないから,親子の発症の
時期が近いからといって,遺伝的要因の関与を否定することはできない。
イ控訴人A及び亡Eのあまめしばの摂取と同人らの疾病との間の因果関係
がないこと
(ア)控訴人A及び亡Eに対する本人尋問が実施されておらず,その作成
に係る陳述書の記載のみにより,本件あまめしばの摂取の量,時期,方
法を正しく認定することはできない。また,同人らが平成14年にH大
学で受診する前の健康状態も不明である。
(イ)控訴人A及び亡Eの両名には,閉塞性細気管支炎につながる基礎疾
患(シェーグレン症候群)が存在する。
すなわち,閉塞性細気管支炎は,膠原病に伴う肺疾患として発症する
場合があるところ(乙イ9),亡Eは,膠原病の一種であるシェーグレ
ン症候群に罹患しており,また,一旦は,同人の閉塞性細気管支炎の原
因は,シェーグレン症候群であると診断されていた。しかも,亡Eは,
ステロイド治療により症状の改善(肺のモザイクパターンの消失,気管
支の拡張等)が見られており,「ステロイド治療に反応しない」という
あまめしば摂取により発症した閉塞性細気管支炎の特徴とは合致してい
ない。
控訴人Aも,シェーグレン症候群の疑いありとの診断をされており,
同人の閉塞性細気管支炎の原因がシェーグレン症候群である可能性は十
分にある。
さらに,シェーグレン症候群の患者で閉塞性細気管支炎を発症した者
の症状等につき,控訴人A及び亡Eと近似ないし酷似する点(例えば,
中高年の女性である,家族に慢性関節リュウマチ疾患の者がいる,呼吸
器の異常を訴えて亜急性期の患者として入院した,重篤な呼吸器障害を
訴えて閉塞性細気管支炎と診断された,ステロイド投与により若干症状
が改善しているが,必ずしも著効はなく,予後が極めて不良である,リ
ウマチ因子が陰性である等)を指摘できる。
そうすると,控訴人A及び亡Eについては,本件あまめしばの摂取に
より閉塞性細気管支炎が発症したものではないとされる余地が十分にあ
り,更に同人らに対し,精密検査や,臨床経験のある台湾の医師による
診察を実施しなければ,本件あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎
が発症したと認めることはできないはずである。これらを実施すること
なく,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎が本件あまめしばの摂取に
より発症したものであるとしたI医師の診断は,台湾の症例から安易に
発症原因を肯定したものであり,信用できない(なお,I医師が判断の
根拠とした他の大学教授の論文や,報告については,共著の元助教授の
不正行為の発覚により,ねつ造の疑いがある。)。
むしろ,前述したところからすれば,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気
管支炎は,あまめしばの摂取によるものではなく,シェーグレン症候群
によって発症したものであると見る方がはるかに合理的である。
ウ開発危険の抗弁
被控訴人Dは,粉末あまめしばを袋詰めするなどした平成12年10月
23日から平成13年3月12日までの時点では,あまめしばの学術名が
「サウロプス・アンドロジーニアス」であることを知らなかったが,呼吸
器疾患の権威である医学博士でさえ,両者が同一のものであることを知ら
なかったという事実がある。しかも,当時,台湾のあまめしば摂取による
症例を記載した国内外の医学文献には,上記学術名のみが記載されており,
被控訴人Dがこれを読んでも,その記述があまめしばに関するものである
ことを知ることはできなかった。したがって,被控訴人Dが,上記の時点
において,本件あまめしばには閉塞性細気管支炎を発症させる危険性があ
ることを認識することは不可能であった。
エ被控訴人Dの責任割合
被控訴人Dが本件あまめしばの包装表示で「製造者」とされているのは,
食品衛生法,JAS法の規定と行政指導の誤りによるものであり,実際に
は,被控訴人Dは,本件あまめしばの袋詰めの作業を行ったに過ぎない。
このような実情からすれば,製造物責任法により被控訴人Dが責任を負う
のは,全損害の15パーセントに過ぎないというべきである。
オ素因減額
亡Eには,原判決別紙一覧表記載のとおり,閉塞性細気管支炎以外にも
シェーグレン症候群その他多数の疾病があり,これらが複合的,重畳的に
影響し合って亡Eの後遺障害を発症させたというべきである。殊に,シェ
ーグレン症候群は,閉塞性細気管支炎を発症させる可能性のある疾患であ
るから,本件あまめしばの摂取のみによって亡Eの症状が発症したものと
することはできず,亡Eの上記疾患が同人の症状の発生に寄与したことは
否定できない。したがって,亡Eに生じた損害のすべてを被控訴人Dに賠
償させるのは,公平に反するから,相当の減額をすべきである。
控訴人Aについては,気管支喘息,アレルギー及びシェーグレン症候群
等の疑いありと診断されており,同人に対する精密診断が実施されていれ
ば(なお,同人は,その受検を拒否したものである。),亡Eと同様,シ
ェーグレン症候群等の診断がされた可能性がある。したがって,控訴人A
に生じた損害のすべてを被控訴人Dに賠償させるのは,公平に反するから,
相当の減額をすべきである。
カ控訴人Aの損害拡大防止義務違反(検査等の拒否)
控訴人Aは,精密検査の受検や,有効な治療(ステロイド治療)を拒否
しており,これらの事情が同人の損害の拡大に寄与したものといえる。し
たがって,控訴人Aに生じた損害のすべてを被控訴人Dに賠償させるのは,
公平に反するから,相当の減額をすべきである。
(2)上記(1)の被控訴人Dの主張に対する控訴人らの反論
アあまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎発症との間の因果関係について
(ア)I医師の診断について
控訴人A及び亡Eを診察したI医師は,当初,上記両名が本件あまめ
しばを摂取した事実を知らなかったので,同人らが閉塞性細気管支炎を
発症する可能性のある原因としては,シェーグレン症候群くらいしか思
い浮かばなかった。しかし,その後,控訴人A及び亡Eが本件あまめし
ばを摂取した事実や,本件あまめしばが,閉塞性細気管支炎の原因とい
われる学術名「サウロプス・アンドロジーニアス」と同じトウダイグサ
科の植物であることを知り,そこで,控訴人A及び亡Eの抗体を検査し
たり,病歴調査をしたほか,台湾でのあまめしば摂取による閉塞性細気
管支炎の発症事例と本件との症状経過,所見等の比較検討等をした結果,
最終的に,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎は,本件あまめしばに
よるものであると判断したのであって,その判断は,正当である。
(なお,被控訴人Dが指摘する元助教授の不正行為の内容ないし範囲等
(乙イ23の1)からすれば,この点は,I医師が参考にした論文や報
告の信用性に何ら影響するものではない。)
(イ)あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性
閉塞性細気管支炎は,極めて症例の少ない疾患であり,かつ,あまめ
しばを摂取した者は,全国的には少数であるはずなのに,控訴人A及び
亡Eが閉塞性細気管支炎に罹患したのとほぼ同時期に発症した少数の閉
塞性細気管支炎の患者の中に,あまめしばを摂取した者が多数含まれて
いることからすれば,あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との間には
高度の関連性があるといえる。
(ウ)動物実験結果や原因物質の点について
実験の対象となった動物(ラット等)と人間とでは肺の構造が異なる
こと等(甲36,証人I)からすれば,動物実験で毒性物質が確認され
なかったことは,あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間の
因果関係を認定することの妨げとなるものではない。
また,上記因果関係を認定する上で,閉塞性細気管支炎発症の原因物
質を特定することその他の自然科学的な証明までは必要でない。
(エ)あまめしばの原産地の違いや加工の有無等による影響の点について
台湾及び日本で栽培されたあまめしばは,いずれも学術名「サウロプ
ス・アンドロジーニアス」というトウダイグサ科の植物であることに変
わりなく,農薬の残留などの報告もされていない。また,あまめしば摂
取により閉塞性細気管支炎が発症した者の症状,所見及び経過は,酷似
しており,原産地の違いや加工の有無等による影響はないといえる。
(オ)遺伝的要因の点について
もし,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の発症原因が遺伝的要因
であるならば,親である亡Eが先に発症し,その後に控訴人Aが発症す
るのが自然であるのに,控訴人A及び亡Eは,ほぼ同時期に発症してい
ることからすれば,これが遺伝的要因によるものであるとは考えられな
い(証人I)。
むしろ,親子が同時期に本件あまめしばを摂取し,ほぼ同時期に閉塞
性細気管支炎を発症したことは,その摂取と発症との間の因果関係を強
く推認させる事情であるといえる。
(カ)シェーグレン症候群の点について
控訴人Aは,亡Eと異なり,シェーグレン症候群ではない(なお,同
人のカルテに「シェーグレン症候群の疑い」との記載があるのは,検査
の際に保険の関係で付けられた病名に過ぎないし,同人がシェーグレン
症候群と診断された事実もない。)のに,亡Eとほぼ同時期にあまめし
ばを摂取した後,同じ頃に閉塞性細気管支炎を発症している。したがっ
て,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の原因がシェーグレン症候群
であるとすることはできないというべきである。
なお,ステロイドは,炎症を抑える薬であり,その投与によって,感
染箇所の症状が改善することはあっても,閉塞性細気管支炎自体が軽減
することはなく,亡Eについても,ステロイド治療の効果は,感染によ
る症状改善の域を出るものではなかった。
(キ)控訴人Aの陳述書(甲35)の信用性等について
控訴人Aは,亡Eから,同人が平成13年9月号の雑誌「J」の記事
を読んで,本件あまめしばを購入し,その摂取を始めた旨を告げられる
とともに,上記記事を示されたことを契機に,自らも本件あまめしばを
購入し,その摂取を始めたものである。この点についての控訴人Aの陳
述書(甲35)の記載は,控訴人Aが購入した本件あまめしばのパッケ
ージ(甲1)の記載(消費期限を平成14年11月1日とする印字)と
も符合している。また,その摂取方法についての上記陳述書の記載内容
は,上記パッケージに記載された消費方法に沿うものであるし,控訴人
Aが初めて本件あまめしばの摂取の事実をI医師に申告した際の内容と
も符合している。これらの点からすれば,控訴人Aの陳述書の信用性は
高いといえる。
なお,控訴人A及び生前の亡Eの病状は,本人尋問に耐えられる状態
ではなく,無理に尋問をすれば,重大な結果を招きかねないものであっ
た。
イ開発危険の抗弁の点について
製薬会社としては,自らの製造する物質の危険性の有無等をその学術名
にまで遡って調査するのは当然のことであり,被控訴人Dの主張は,理由
がない。
ウ素因減額の点について
控訴人A及び亡Eのいかなる疾患又は身体的特徴が閉塞性細気管支炎の
発症に寄与したのかが全く明らかではないし,閉塞性細気管支炎の発症に
シェーグレン症候群や遺伝的要因が寄与したことを裏付ける基礎資料もな
いから,素因減額をすることは公平に反し相当でない。
エ控訴人Aの損害拡大防止義務違反(検査等の拒否)の点について
ステロイド治療により閉塞性細気管支炎自体が軽減されるものではない
ことは,前述のとおりであるから,これを受けなかったからといって,損
害が拡大したとすることはできない。
また,控訴人Aの閉塞性細気管支炎が重篤なものであることや,胸腔鏡
検査は,非常に侵襲性の高いものであること,胸腔鏡検査によって確実に
患部の細胞を採取できるとは限らないこと,他の精密検査によっても閉塞
性細気管支炎の診断は可能であること等からすれば,控訴人Aが胸腔鏡検
査の受診を拒否したからといって,これが同人の損害を減額すべき事由に
当たるとすることは相当でない。
オ被控訴人Dの責任割合の点について
被控訴人Dの主張を争う。
なお,被控訴人Dは,単に本件あまめしばを包装しただけではなく,そ
の滅菌処理もしているのであって,被控訴人Dの主張は,その前提自体に
誤りがある。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,(1)亡Eの訴訟承継人である控訴人らの本件請求は,それぞれ,損
害賠償金1223万5645円(元金1046万9068円と平成20年9月3
0日の一部弁済後の確定遅延損害金176万6577円の合計)及びうち元金1
046万9068円に対する平成20年10月1日から支払済みまでの民法所定
年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は
理由がなく(ただし,被控訴人Cに対する関係では,不利益変更禁止の原則によ
り,原判決主文第1項記載のとおりであり,これを控訴人らが2分の1ずつ承継
した。),(2)控訴人Aの本件請求は,損害賠償金5201万1014円(元金4
139万3979円と平成20年9月30日の一部弁済後の確定遅延損害金10
61万7035円の合計)及びうち元金4139万3979円に対する平成20
年10月1日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯
支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない(ただし,被控訴人Cに対
する関係では,不利益変更禁止の原則により,原判決主文第2項記載のとおりで
ある。)と判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正し,被控訴人Dが当
審において追加又は敷衍した主張に対する判断を付け加えるほか,原判決「事実
及び理由」中の「第3当裁判所の判断」の「1」ないし「5」及び「8」記載
のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
1原判決書38頁25行目の「当初」から同39頁1行目の「疑ったが」まで
を「I医師は,亡Eには口が渇くなどの症状があったことや,同人の抗体の検
査結果から,同人をシェーグレン症候群と診断し,また,一旦は,亡Eの閉塞
性細気管支炎の原因は,シェーグレン症候群によるものではないかとも考えた
が」と改める。
2同42頁5行目の「①台湾において」を「前示1のとおり,①台湾におい
て」と,同頁8行目の「③台湾では」から同頁10行目の「報告があること」
までを「③台湾では,各種報道により野菜あまめしばの販売,入手が事実上不
可能になった後には,上記①のように多数の閉塞性細気管支炎の患者(野菜あ
まめしばを摂取した共通点がある者)が生ずる現象が見られなくなった旨の報
告があること」と,それぞれ改め,同頁同行目の「④日本国内においても」の
次に,「,控訴人A及び亡E以外にも,」を加える。
3同44頁13行目の「10倍に」を「何倍にも(これを10倍とする報告も
ある。)」と改め,同頁17行目の冒頭から同頁18行目の末尾までを次のと
おり改める。
「また,台湾で栽培された野菜あまめしばにつき,土壌や農薬による汚染が
あったとする報告はないし,マレーシアで栽培された野菜あまめしばを摂取
しても閉塞性細気管支炎の発症例がない理由は,前示の摂取量の大きな違い
によるものと考えられることからすれば,沖縄産のあまめしば(本件あまめ
しばを含む。)と台湾産のあまめしばとの間には,これを摂取したことによ
る閉塞性細気管支炎の発症の有無を左右するような格別の違いがあるとは考
えにくいし,そのような違いのあることをうかがわせる具体的な事情も特に
見出せない。」
4同45頁1行目の「野菜あまめしば」から同頁3行目の「かかわらず,」ま
でを削り,同頁9行目の冒頭から末尾までを「そして,他に,上記(1)の判断を
覆すに足りる事情も認められない。」と改める。
5同頁15行目の冒頭から同頁23行目の末尾までを次のとおり改める。
「(2)前示のとおり,加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間
には,高度の関連性があると認められる。そして,この点に,控訴人A及
び亡Eは,加工あまめしばである本件あまめしばをほぼ同時期に摂取し,
その後,ほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症したことや,控訴人A及び
亡Eの本件あまめしばの摂取の量,時期の点につき,他の患者に係る報告
例とは異なる点(発症までの摂取量が少ない,摂取から発症までの時期が
遅い)があるものの,この点は,患者の個体差によるものと見ることもで
きること(証人I)等を併せ考えると,控訴人A及び亡Eにつき,本件あ
まめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との間に因果関係があるものと
推認するのが相当である。」
6同46頁5行目の「上記(1)」から同頁7行目の末尾までを次のとおり改める。
「上記(1),(2)の説示に係る事情(殊に,控訴人A及び亡Eが,本件あまめし
ばをほぼ同時期に摂取し,その後,ほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症し
たこと)からすれば,亡Eにシェーグレン症候群その他の疾患があったこと
や,シェーグレン症候群に合併した閉塞性細気管支炎の症例の内容(乙イ2
5の1ないし11)を踏まえて検討しても,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気
管支炎が,本件あまめしばの摂取とは無関係に,専らシェーグレン症候群に
よって発症したものであるとまで認めることはできない(なお,被控訴人D
が当審の口頭弁論終結後に提出した資料には,あまめしばの摂取により閉塞
性細気管支炎を発症した患者を多数診察した台湾の医師は,あまめしばの摂
取以外に閉塞性細気管支炎の発症原因(シェーグレン症候群を含む。)があ
ると考えられる患者については,あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎
に罹患したものとは診断しなかった旨の記載があるが,この記載によっても,
上記判断は,左右されるものではない。)。」
7同頁18行目の冒頭から同頁23行目の末尾までを次のとおり改める。
「そこで,検討するに,後述のとおり,本件あまめしばの摂取による控訴人
A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の発症には,同人らの何らかの(閉塞性細気
管支炎を発症しやすい)体質ないし素因が相当程度関与しているものという
べきではあるが,前示のとおり,控訴人A及び亡Eが,本件あまめしばをほ
ぼ同時期に摂取し,その後,ほぼ同時期に閉塞性細気管支炎を発症したこと
等からすれば,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎が,本件あまめしばの
摂取とは無関係に,遺伝的要因等によって発症したものであるとまで認める
ことはできないというべきである。」
8同49頁21行目の「したがって」を次のとおり改める。
「これに対し,被控訴人Dは,「あまめしば」(本件あまめしば)が(台湾に
おいて閉塞性細気管支炎と関連ありと報告された)学術名「サウロプス・ア
ンドロジーニアス」(トウダイグサ科の植物)と同一のものであることを知
らず,また,呼吸器疾患の権威である医学博士でさえ,両者が同一のもので
あることを知らなかったというのであるから,平成13年8月の時点で,被
控訴人Dが野菜あまめしばにより閉塞性細気管支炎を来した症例があること
を知るのは不可能であった旨主張する。
しかし,被控訴人Dとしては,自らが滅菌処理等をする商品に危険性があ
るか否かを医学文献その他によって調査する前提として,その学術名等を特
定することは不可欠な作業であり,また,その特定自体に格別の困難を伴う
ともいえない(なお,I医師が,かつて,学術名が「サウロプス・アンドロ
ジーニアス」であるトウダイグサ科の植物を用いた商品が「あまめしば」の
名称で販売されていることを知らなかった(証人I)からといって,直ちに
上記特定が困難であるとすることはできない。)。
したがって」
9同54頁6行目の冒頭から同56頁10行目の末尾までを次のとおり改める。
「6亡Eの損害
本件あまめしばの欠陥との間に相当因果関係がある亡Eの損害は,次の
とおりである(合計3173万0227円)。
(1)治療費
証拠(甲2,16,35,36,52,証人I)及び弁論の全趣旨に
よれば,亡Eが本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の治療に
要した費用は,48万0120円であることが認められる。
(2)介護保険一部負担金
前示の亡Eの症状経過等に,証拠(甲53(書証は,枝番号を含む。
以下同じ))及び弁論の全趣旨を総合すると,亡Eは,本件あまめしば
の摂取による閉塞性細気管支炎に罹患したことにより介護を要する状態
に陥ったこと,介護保険の利用のため,介護保険一部負担金6万965
2円を支出したことが認められる。
(3)装具代
証拠(甲54,55)及び弁論の全趣旨によれば,亡Eは,本件あま
めしばの摂取による閉塞性細気管支炎の症状を軽減するため,加湿器,
空気清浄機を購入し,その代金が計5万8750円であることが認めら
れる。そして,前示の亡Eの症状等からすれば,上記装具の必要性,相
当性も首肯できる。
(4)後遺障害逸失利益
前示のとおりの亡Eの症状の内容やその治療経過等からすれば,亡E
の本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎は,平成14年11月
25日には症状固定に至り,これにより,亡Eは,その労働能力を10
0パーセント喪失したものと認められる。
亡Eは,上記症状固定当時,72歳の女性であり,上記疾患の発症前
には,二男(昭和30年生)と同居し,専業主婦として家事に従事して
いたところ(甲69,弁論の全趣旨),亡Eの年齢や,同居の家族の人
数,年齢等から推認できる亡Eの生前の家事労働の内容,程度等からす
れば,亡Eは,本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎に罹患し
なければ,その後6年間にわたり,平成14年賃金センサスの女性労働
者65歳以上全学歴平均年収額313万0300円の7割に当たる収入
を得ることができたものと認めるのが相当である。
そうすると,亡Eの後遺障害逸失利益の額は,次の算式(5.075
6は,6年のライプニッツ係数)により,1112万1705円となる
(1円未満切捨て。以下同じ)。
(算式)3,130,300×0.7×5.0756=11,121,705
(5)後遺障害慰謝料
前示の亡Eの後遺障害の内容,程度その他本件審理に現れた一切の事
情を総合すると,亡Eの後遺障害慰謝料の額を2000万円とするのが
相当である。
7控訴人Aの損害
本件あまめしばの欠陥との間に相当因果関係がある控訴人Aの損害は,
次のとおりである(合計6265万6633円)。
(1)治療費
証拠(甲4,17,35,36,56ないし58,証人I)及び弁論
の全趣旨によれば,控訴人Aが本件あまめしばの摂取後に生じた症状の
治療に要した費用は,計43万8140円であることが認められる。
(2)装具代
証拠(甲59ないし64,69)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人
Aは,本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎のため,車いすの
使用を余儀なくされ,その賃借及び購入をしたほか,上記疾患の症状を
軽減するため,空気清浄機を購入し,また,ほとんど寝たきりの状態と
なり,洗濯,掃除に支障が生じたり,自室から台所への移動も困難にな
ったため,洗濯機(洗濯・乾燥一体式),掃除機(コードレス等)や,
自室用の冷蔵庫,電子レンジを購入したこと,これらに要した費用の総
額が37万1660円であることが認められる。そして,前示の控訴人
Aの症状等からすれば,上記装具等の必要性,相当性も首肯できる。
(3)後遺障害逸失利益
前示のとおりの控訴人Aの症状の内容やその治療経過等からすれば,
同人の本件あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎は,平成14年7
月8日には症状固定に至り,これにより,控訴人Aは,その労働能力を
100パーセント喪失したものと認められる。
控訴人Aは,上記症状固定当時,50歳の女性であり,上記疾患の発
症前には,夫と子らと同居し,専業主婦として家事に従事していたこと
からすれば(甲69,弁論の全趣旨),本件あまめしばの摂取による閉
塞性細気管支炎に罹患しなければ,その後17年間にわたり,平成14
年賃金センサスの女性労働者50歳の全学歴平均年収額371万180
0円の収入を得ることができたものと認めるのが相当である。
そうすると,控訴人Aの後遺障害逸失利益の額は,次の算式(11.
2740は,17年のライプニッツ係数)により,4184万6833
円となる。
(算式)3,711,800×11.2740=41,846,833
(4)後遺障害慰謝料
前示の控訴人Aの後遺障害の内容,程度その他本件審理に現れた一切
の事情を総合すると,同人の後遺障害慰謝料の額を2000万円とする
のが相当である。
8素因減額について
台湾及び日本であまめしばを摂取した者のすべてが閉塞性細気管支炎に
罹患し,発症したわけではなく,台湾の調査では,そのうちの半数程度し
か発症していないし,日本での発症者も,極めてわずかである(証人I,
弁論の全趣旨)。そして,その理由につき,証人Iは,遺伝的な背景の違
いによって,あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎の発症に至る者と
そうでない者とがいるものと考えられる旨供述する。また,甲65(K医
師の別件訴訟の証人調書)には,あまめしばの摂取による閉塞性細気管支
炎の発症には,遺伝的ないし宿主要因が関与していることは否定できない
旨の記載がある。
これらの点に,親子である控訴人A及び亡Eがいずれも本件あまめしば
を摂取したことにより閉塞性細気管支炎を発症したことや,日本において
加工あまめしばの摂取により閉塞性細気管支炎に罹患したとされた8症例
のうち,4症例(2家系)が親子での発症の事例であったとする報告があ
ること(甲41)等を併せ考えると,控訴人A及び亡Eが本件あまめしば
の摂取により閉塞性細気管支炎を発症したことにつき,同人らの何らかの
(閉塞性細気管支炎を発症しやすい)体質ないし素因が相当程度関与して
いるものと推認できる。また,前示の諸事情からすれば,控訴人A及び亡
Eの体質ないし素因は,個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる
ものであるというべきである。そして,本件審理に現れた一切の事情を総
合すると,上記6,7の控訴人A及び亡Eの各損害額からそれぞれ4割を
減額するのが相当である(民法722条2項の趣旨の類推適用)。
これに対し,控訴人らは,控訴人A及び亡Eのいかなる素因が本件あま
めしばの摂取による閉塞性細気管支炎の発症にどのように寄与したのか等
が医学的に明らかでない以上,素因減額をするのは公平に反する旨主張す
る。
しかし,あまめしばの摂取による閉塞性細気管支炎の発症の機序(原因
物質その他)が医学的に解明されていない現状の下では,その因果関係の
判断のみならず,被害者側の素因の寄与の有無,程度等の判断もまた,疫
学的な見地に基づくものにならざるを得ず,損害の公平な分担の見地から
すれば,むしろ,上記のとおり減額をするのが相当であるといえる。
なお,証人Iは,親子(控訴人A,亡E)のうち,娘である控訴人Aの
発症時期の方が早いことから,控訴人A及び亡Eの閉塞性細気管支炎の発
症につき遺伝的要素の影響を否定できる旨供述する。しかし,摂取された
本件あまめしばが控訴人A及び亡Eの体質ないし素因に作用して閉塞性細
気管支炎を発症する場合を想定すると,むしろ,発症の順序が生年の前後
に従うとは限らないのではないかとの疑問が残り,上記供述によって,直
ちに上記判断を覆すには足りないというべきである。
以上の次第で,被控訴人Dが賠償すべき損害額は,上記のとおりの4割
の減額の結果,亡Eにつき1903万8136円,控訴人Aにつき375
9万3979円となる。
9控訴人A及び亡Eは,本件訴訟の提起,遂行を本件訴訟代理人弁護士ら
に委任し,その報酬として相当の額を支払ったものと認められる(弁論の
全趣旨)。そして,本件訴訟の内容,性質や,前示の認容額,審理経過そ
の他一切の事情によれば,本件あまめしばの欠陥と相当因果関係のある弁
護士費用は,亡Eにつき190万円,控訴人Aにつき380万円とするの
が相当である。これらを上記8の減額後の損害額にそれぞれ加算すると,
亡Eにつき2093万8136円,控訴人Aにつき4139万3979円
となるが,亡Eの死亡により,控訴人らは,亡Eの上記損害額を2分の1
ずつ相続により承継し(弁論の全趣旨),その額は,各1046万906
8円となる。
ところで,前示の争いのない事実等によれば,平成20年9月30日,
控訴人らは,本件損害賠償金の一部として,株式会社F及びGから計60
0万円の支払を受け,うち300万円を亡E分として控訴人ら(亡E訴訟
承継人)が法定相続分(各2分の1)に従って150万円ずつ取得し,残
りの300万円を控訴人Aが同人の固有分として取得したことが認められ
る。これによれば,上記の各150万円は,控訴人ら(亡Eの承継分)の
損害額各1046万9068円に対する平成14年7月5日から平成20
年9月30日まで(6年と88日)の遅延損害金各326万6577円
(算式①)の一部に法定充当され,また,上記300万円は,控訴人A
(固有分)の損害額4139万3979円に対する平成14年3月3日か
ら平成20年9月30日まで(6年と212日)の遅延損害金1361万
7035円(算式②)の一部に法定充当されたことになる。
(算式①)10,469,068×5%×6+10,469,068×5%×88÷366=3,266,577
(算式②)41,393,979×5%×6+41,393,979×5%×212÷366=13,617,035
したがって,上記充当後の控訴人らの損害額(亡Eの承継分)は,それ
ぞれ元金1046万9068円とこれに対する平成20年10月1日以降
の遅延損害金及び確定遅延損害金176万6577円となり,控訴人Aの
損害額(同人の固有分)は,元金4139万3979円とこれに対する平
成20年10月1日以降の遅延損害金及び確定遅延損害金1061万70
35円となる。」
(被控訴人Dが当審において追加又は敷衍した主張に対する判断)
1被控訴人Dは,加工あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が発症した
といえるためには,その原因物質を含め,科学的に因果関係が解明される必要
があると主張する。
しかし,製造物責任の成立要件としての事実的因果関係は,自然科学上の因
果関係そのものではなく,上記の法的責任を発生させる要件としての法的因果
関係であり,その立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,
経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果の発生を招い
た関係を是認できる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人
が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを要し,
かつ,それで足りるというべきである。したがって,閉塞性細気管支炎発症の
原因物質の特定や,あまめしばの摂取によって閉塞性細気管支炎が発症したこ
とについての自然科学的な因果関係の解明を要するものではない。
2被控訴人Dは,「次の①ないし④の各点からすれば,あまめしばの摂取によ
って閉塞性細気管支炎が発症したとすることはできない。」と主張する。
①厚生労働省が実施した動物実験の結果によっても,日本で栽培されたあま
めしばの毒性を客観的に裏付けることはできなかった。
②あまめしばの摂取量が多くなるほど閉塞性細気管支炎が発症する確率が高
くなるという関係にあることが統計的に裏付けられていない。
③台湾,日本のいずれにおいても,あまめしばが販売禁止になった後に,閉
塞性細気管支炎の発症率が大幅に減少したという統計資料等はない。
④閉塞性細気管支炎の患者のうち,あまめしばを摂取した群に特有の臨床症
状や所見,肺の病理学的所見等があるわけではない。
しかし,上記①については,前示(原判決書記載)のとおり,従前考えられ
ていた成分以外のものが原因物質である可能性を否定できない。
上記②については,台湾の症例に係る報告によれば,ある程度までは,総摂
取量が多いほど,発症率が高くなる関係が見られるし(もっとも,摂取量が一
定程度を超えると,発症率に変わりはない傾向もある。),少ない摂取量でも
発症する者や,多く摂取しても発症しない者がいることは,個人差によるもの
と考える余地があること(甲8,証人I)を指摘できる。
上記③については,前示(原判決書記載)のとおり,台湾では,各種報道に
より野菜あまめしばの販売,入手が事実上不可能になった後には,多数の閉塞
性細気管支炎の患者(野菜あまめしばを摂取した共通点がある者)が生ずる現
象が見られなくなった旨の報告があることを指摘できる。
これらの点に,前示(原判決書記載)のとおり,加工あまめしばの摂取と閉
塞性細気管支炎の発症との間の関連性を推認させる諸事情があることを併せ考
えると,上記①ないし④の事情をもって,直ちに上記の関連性を肯定した判断
を覆すには足りないというべきである。
3控訴人Aの陳述書の信用性について
控訴人Aの陳述書(甲35)には,「控訴人Aは,実母である亡Eから,同
人が平成13年9月号の雑誌「J」(甲7)の記事を読んで,本件あまめしば
を購入し,その摂取を始めている旨を告げられた。その際,上記記事を読むと,
本件あまめしばには,抗酸化作用があるほか,生活習慣病や,便秘にも効果が
あるなどの記載があり,控訴人A自身も食が細く疲労感を持っていたことなど
から,本件あまめしばを購入することにした。そして,平成13年9月ころか
らその摂取を始めたが,本件あまめしばのパッケージ(甲1)の裏面の記載
(用量)を参考にして,スプーン小さじ一杯を1日2ないし3回,主に豆乳に
混ぜて飲んでいた。飲んだ量は,正確には分からないが,400グラム程度で
はないかと思う。ところが,平成13年12月ころから,口内炎がひどくなり,
本件あまめしばを飲めなくなり,L内科を受診し,同内科の紹介で,平成14
年4月にH大学医学部附属病院で診察を受けた。」等の記載がある。
上記陳述書の記載は,上記雑誌(甲7)の記事の内容や,控訴人Aが購入し
た本件あまめしばのパッケージ(甲1)の消費期限(平成14年11月1日と
する印字)及び用量等(180CCに対しスプーン1杯が目安)の記載とも符
合している。また,I医師は,控訴人Aから,同人及び亡Eが本件あまめしば
を摂取していた旨を聞いている(証人I)。さらに,厚生労働科学研究費補助
金難治性疾患克服研究事業びまん性肺疾患調査研究班による平成16年度研究
報告書(甲41)記載の摂取量(亡Eにつき300グラム,控訴人Aにつき3
60グラム)や,摂取後の発症時期も,上記陳述書の記載と概ね沿うものであ
る。なお,上記報告書(甲41)記載の控訴人A及び亡Eの本件あまめしばの
摂取量は,他の患者の摂取量の数分の1程度に過ぎず,また,その発症時期も,
他の患者よりも遅いが,あえてそのような虚偽の申告をすべき動機も見出せな
いこと等を併せ考えると,その信用性を首肯できる。
これらの点からすれば,控訴人Aの陳述書(甲35)の上記記載は,信用で
きる。そして,控訴人A及び亡Eの本件あまめしまの摂取の量,時期及び方法
に関する前示(原判決書記載)の認定事実を覆すに足りる具体的な事情は見出
せない。
なお,前示(原判決書記載)の控訴人A及び亡Eの症状経過等からすれば,
上記両名(亡Eについてはその生前での)の本人尋問(臨床尋問)の実施は,
困難であり,不定期間の障害(民事訴訟法181条2項)があったものという
べきである。
4控訴人Aの損害拡大防止義務違反(検査等の拒否)の点について
前示(原判決書記載)のとおり,ステロイド治療により閉塞性細気管支炎自
体の症状の改善に効果があるかどうか必ずしも明らかではないから,控訴人A
がステロイド治療を受けなかったからといって,直ちに損害拡大の抑止義務に
反するとまで認めることはできない。
また,前示(原判決書記載)の控訴人Aの閉塞性細気管支炎の症状経過等か
らすれば,同人の病状は,重篤であると認められる。そして,胸腔鏡検査は,
非常に侵襲性の高いものである上,胸腔鏡検査によって確実に患部の細胞を採
取できるとは限らないし,他の精密検査によっても閉塞性細気管支炎の診断は
可能であること(証人I)等からすれば,控訴人Aが胸腔鏡検査の受診を拒否
したからといって,同人の損害を減額すべき事由があるとすることはできない。
5責任割合に関する被控訴人Dの主張について
前示(原判決書記載)のとおり,被控訴人Dは,本件あまめしばの滅菌処理
等をしているのであって,単に本件あまめしばを包装したに過ぎないとする被
控訴人Dの主張は,その前提を欠き,理由がない。
6被控訴人Dのその余の主張は,前示(補正後の原判決書記載)のとおり,い
ずれも理由がない。
第4結論
よって,控訴人らの控訴は理由がないからこれを棄却し,被控訴人Dの控訴は
一部理由があるから,原判決中,同被控訴人に関する部分を変更することとし,
訴訟費用の負担につき,控訴人らと被控訴人Cとの間では,民事訴訟法67条1
項本文,61条,65条1項本文を,控訴人らと被控訴人Dとの間では,同法6
7条2項,64条,61条を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官岡久幸治
裁判官加島滋人
裁判官鳥居俊一
(別紙)
1被控訴人C株式会社は,控訴人Aに対し,1100万円及びこれに対する平
成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被控訴人C株式会社は,控訴人Bに対し,1100万円及びこれに対する平
成14年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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