弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人芦田礼一、同井木ひろし、同伊藤知之の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係及び記録によって認められる本件訴訟の経過
等は、次のとおりである。
 1(一) 商人であるGは、昭和五六年四月二七日、H銀行から次の約定で二五
〇万円を借り入れた。
 (1) 利  息  年九・八パーセント
 (2) 返済期限  昭和五六年七月から昭和六一年三月まで毎月二三日限り四
万四〇〇〇円(最終回三万六〇〇〇円)の分割払
 (3) 特約条項  分割金の支払を一回でも怠ったときはH銀行からの請求に
より期限の利益を失う。
 (二) 上告人は、昭和五六年四月二七日、Gの委託により、次の内容の信用保
証委託契約を締結した。
 (1) GがH銀行から金員を借り入れるにつき、上告人は、貸付金二五〇万円
の限度で信用保証協会法に基づく保証を行う。
 (2) 上告人がGのためにH銀行に弁済したときは、Gは、上告人に対し、直
ちに右弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から支払済みまで年一四・六パーセ
ントの割合による損害金を支払う。
 (三) 被上告人は、前記信用保証委託契約締結に際し、上告人との間で、Gが
右信用保証委託契約に基づき上告人に対して負担する一切の債務について連帯して
保証する旨約した。
 (四) Gは昭和五九年九月二八日に期限の利益を失い、上告人は、同年一〇月
一九日、前記信用保証委託契約に基づき、H銀行に対し、残元金一七九万六〇〇〇
円及び未払利息三三万四三六三円の合計二一三万〇三六三円を弁済した。
 (五) その後、上告人は、原判決別紙「一部弁済ならびに損害金計算表1」記
載のとおり、一部弁済を受けた。
 2(一) Gは、昭和五七年六月二二日、I信用金庫から次の約定で六〇〇万円
を借り入れた。
 (1) 利  息  年八・二パーセント
 (2) 返済期限  昭和五七年一〇月から昭和六四年六月まで毎月一五日限り
七万四〇〇〇円(最終回八万円)の分割払
 (3)特約条項  分割金の支払を一回でも怠ったときはI信用金庫からの請求
により期限の利益を失う。
 (二) 上告人は、昭和五七年六月二二日、Gの委託により、次の内容の信用保
証委託契約を締結した。
 (1) GがI信用金庫から金員を借り入れるにつき、上告人は貸付金六〇〇万
円の限度で信用保証協会法に基づく保証を行う。
 (2) 上告人がGのためにI信用金庫に弁済したときは、Gは、上告人に対し、
直ちに右弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から支払済みまで年一四・六パー
セントの割合による損害金を支払う。
 (三) 被上告人は、前記信用保証委託契約締結に際し、上告人との間で、Gが
右信用保証委託契約に基づき上告人に対して負担する一切の債務について連帯して
保証する旨約した。
 (四) Gは昭和五九年九月一二日に期限の利益を失い、上告人は、同年一〇月
一九日、前記信用保証委託契約に基づき、I信用金庫に対し、残元金五四八万二〇
〇〇円及び未払利息六四万四〇九五円の合計六一二万六〇九五円を弁済した。
 (五) その後、上告人は、原判決別紙「一部弁済ならびに損害金計算表2」記
載のとおり、一部弁済を受けた。
 3 Gは、昭和六〇年九月一三日、破産の宣告と同時に破産廃止の決定を受け、
昭和六一年八月一九日、免責決定を受け、右決定はそのころ確定した。
 4 上告人は、被上告人に対し、前記1(三)及び2(三)記載の各連帯保証契
約に基づく保証債務の履行として、一二三五万二二一八円及びうち八〇三万六四五
八円に対する昭和六三年五月三一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合
による金員の支払を求める訴訟を提起して、平成二年一月一六日に上告人の右請求
を全部認容する旨の判決の言渡しを受け、右判決は平成三年三月九日に確定した。
 5 上告人は、商事債権であるGに対する前記1(二)及び2(二)記載の各信
用保証委託契約に基づく各求償債権(以下「本件債権」という。)につき商事消滅
時効の完成が間近に迫っており、これを中断する必要があるとして、平成八年一月
一七日、被上告人に対し、前記4記載の連帯保証債務の履行を求めて、本件訴訟を
提起した。
 二 免責決定の効力を受ける債権は、債権者において訴えをもって履行を請求し
その強制的実現を図ることができなくなり、右債権については、もはや民法一六六
条一項に定める「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」を起算点とする消滅時効の進行を
観念することができないというべきであるから、【要旨】破産者が免責決定を受け
た場合には、右免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時
効を援用することはできないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、免責決定の確定によりGは
本件債権につきその責任を免れており、Gの連帯保証人である被上告人は、もはや
本件債権についての消滅時効を援用することはできないところ、上告人は、被上告
人に対して前記一4記載の連帯保証債務の履行を求める別件訴訟を提起して勝訴判
決を得ており、右判決が平成三年三月九日に確定しているのであるから、上告人に
おいてこれと同一の債権につき更に給付を求める本件訴えは、訴えの利益を欠くと
いうべきである。
 三 したがって、これと同旨の見解に立って上告人の本件訴えを却下すべきもの
とした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はな
く、論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷
利廣)

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