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平成22年8月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ウ)第92号異議申立棄却決定取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年6月7日
判決
東京都杉並区〈以下略〉
原告A
訴訟代理人弁護士田嶋春一
補佐人弁理士尾崎光三
東京都千代田区〈以下略〉
被告国
指定代理人川勝庸史
同千葉智子
同市川勉
同天道正和
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
意願2008−023307に関し,特許庁長官が平成21年2月20日付
けでした手続却下の処分に対して原告がした異議申立てについて,特許庁長官
が平成21年8月28日付けでした異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,意匠登録出願(意願2008−023307。以下「本件
出願」という。)に関し,意匠法4条3項に規定する新規性の喪失の例外の適
用を受けることができる意匠であることを証明する書面(以下「新規性喪失の
例外証明書」ないし「例外証明書」という。)を,同条項に規定する「意匠登
録出願の日から30日以内」の翌日に提出したところ,特許庁長官から,同証
明書が提出期間の経過後に提出されたものであることを理由として,平成21
年2月20日付けで手続却下の処分(以下「本件却下処分」という。)を受け
たため,これにつき異議申立てをしたが,平成21年8月28日付けで異議申
立てを棄却する決定(以下「本件棄却決定」という。)を受けたため,新規性
の喪失の例外の適用を受けられるのは,新規性喪失の日から6か月以内であり
(意匠法4条2項),その6か月が経過する日から30日以内であれば,意匠
登録出願の日から30日を経過していたとしても,同証明書の提出の追完が認
められるべきであると主張して,被告に対し,本件棄却決定の取消しを求める
事案である。
1争いのない事実等(証拠により認定した事実は,証拠を末尾に記載する。)
()原告の意匠登録出願1
原告は,本件出願前である平成20年2月28日から同年3月5日にかけ
て,東京都新宿区で開催された社団法人婦人発明家協会主催の「第41回な
るほど展」において,本件出願に係る意匠に係る物品を出品した(乙2)。
原告は,特許庁長官に対し,平成20年2月28日(本件出願に係る意匠
が公知となった日)から6か月以内である同年8月25日,意匠法4条2項
による新規性の喪失の例外の適用を受けるため,その旨を記載した意匠登録
出願の願書を提出して,本件出願をした(乙1)。
原告は,特許庁長官に対し,新規性喪失の例外証明書を意匠法4条3項に
規定する提出期限である平成20年9月24日まで(本件出願の日である同
年8月25日から30日以内)に提出せず,翌25日に提出した(以下,原
告が提出した新規性喪失の例外証明書を「本件証明書」という。)。
()却下理由通知書の送付2
特許庁長官は,原告に対し,平成20年10月29日付けで,本件証明書
の提出に係る手続について,手続をすることができる期限経過後の提出であ
ることを理由として,却下すべきものと認められる旨記載した却下理由通知
書を発送した。
原告は,特許庁長官に対し,平成20年12月18日付けで,弁明書を提
出した。
()本件却下処分3
特許庁長官は,原告に対し,平成21年2月20日付けで,本件証明書の
提出に係る手続について,平成20年10月29日付け却下理由通知書に記
載した理由により却下するとの手続却下の処分(本件却下処分)をし(乙
5),平成21年3月13日に,その旨の処分書の謄本を原告に対して発送
した。
原告は,特許庁長官に対し,平成21年5月12日付けで,本件却下処分
の取り消しを求めて,行政不服審査法による異議申立てをした。
()本件棄却決定4
特許庁長官は,原告に対し,平成21年8月28日付けで,本件証明書が
提出期限を徒過して提出されたものであり,手続をすることができる期間経
過後に提出されたものであることを理由としてされた本件却下処分が適法で
あるとして,前記異議申立てを棄却する旨の決定(本件棄却決定)を行い,
同月29日に,その旨の決定書が原告に送達された(乙7の1及び2)。
()本件訴訟の提起5
原告は,平成22年3月1日,本件訴訟を提起した(なお,本件訴訟の出
訴期間の末日は,行政事件訴訟法14条1項,7条,民事訴訟法95条1項,
民法138条,140条,141条,143条の規定により,同年2月28
日であるが,同日は,日曜日であるため,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法
95条3項の規定により,本件訴訟の出訴期間は,同年3月1日に満了する
ことになる。)。
2争点及び争点に対する当事者の主張
本件棄却決定に違法事由があり,取り消されるべきものか否か。
(原告の主張)
()本件証明書が意匠法4条3項に定める期限を徒過して提出されたことに1
関して,追完が認められるべきであること
ア原告は,本件出願に関し,本件証明書を意匠法4条3項に規定する提出
期限(意匠登録出願の日から30日以内)を徒過し,提出期限の翌日であ
る平成20年9月25日に提出した。
イしかし,以下の理由により,追完が認められるべきである。
(ア)民事訴訟法97条は,当事者の責めに帰することができない事由を
要件として,不変期間内にすべき訴訟行為の追完を認めているが,同条
に定める事由がなくても,手続懈怠の結果の重大性を斟酌することによ
り,同条の類推適用が認められるべきである。
例外証明書の提出は,新たな意匠権の発生の成否を決定的に支配する
ものであるから,意匠制度の利用者全体にとって重大な関心事であり,
情報的な価値(需要)の高い手続経過である。そこで,意匠法は,最長
想定証明書提出期限(以下,意匠法4条2項に定める6か月の期間の最
終日を「最長想定出願期限」といい,最長想定出願期限から30日目
(意匠法4条3項に定める30日の期間の最終日)を「最長想定証明書
提出期限」という。)までの期間内で,最長想定出願期限の最終日より
前に出願を行った者に対しても,原則として,最長想定証明書提出期限
の最終日より前の日である意匠登録出願の日から30日以内という法定
期間の遵守を促すことにより,例外証明書に係る情報が最長想定証明書
提出期限の最終日より前に開示されることが施策的に推進されるように
しており,意匠法4条3項は,それが文理上の表現されたものである。
しかし,前記法定期間内の例外証明書の提出手続に懈怠が生じた場合
には,同法定期間の定めに関する趣旨(①手続の迅速性,円滑性を確保
すること,②新規性の喪失の例外の適用を受ける出願人とその利益を甘
受することになる第三者との衡平を確保すること)を全うできる限度,
すなわち,最長想定証明書提出期限までの限度で,非常の救済手続とし
て,例外的に民事訴訟法上の追完の規定が類推適用されるべきである。
(イ)前記解釈に当たって斟酌されるべき最高裁昭和45年判決の内容
最高裁判所昭和43年(行ツ)第99号同45年10月30日第二小
法廷判決(以下「最高裁昭和45年判決」という。)は,旧特許法施行
規則(大正10年農商務省令33号。以下「旧規則」という。)により,
例外証明書の提出時期に関して,最長想定出願期限以前の出願人が任意
に選択した出願日(出願と同時)という法定期間が定められている法制
下において,同法定期間内の任意の出願日の出願に例外証明書の添付
(提出手続)を懈怠した結果,旧特許法(昭和34年法律第122号に
よる廃止前の特許法(大正10年法律第96号))6条の規定による新
規性の喪失の例外の適用を受けるための法律上有効な手続を欠いた出願
が特許庁に係属することになるが,最長想定出願期限以前であれば,例
外証明書の提出手続の追完が容認されるとしたものである。
これにより,手続違背の故に法律的に有効でない例外証明書の提出手
続が,同証明書の添付なき実際の出願日(時点)まで遡及して,法律的
に有効な例外証明書の提出手続となる。被告は,旧規則41条について,
例外証明書の提出時期に関する定めがないことを前提として,旧特許法
6条と現行意匠法との相違を主張するが,旧規則は,例外証明書の提出
時期に関して,「願書ニ添付スヘシ」という表現により,出願時点であ
ることを定めており,被告の主張は,前提に誤りがある。
(ウ)最高裁昭和45年判決を踏まえた意匠法4条3項のあるべき解釈
a新規性の喪失の例外の適用に関して,旧規則を含む旧特許法制と現
行意匠法との実質的な唯一の相違点は,例外証明書の提出時期に関し
て,旧特許法制においては,最長想定出願期限の最終日以前の任意の
出願日(時点)として定められていたのに対し,現行意匠法において
は,最長想定出願期限の最終日以前の任意の出願日に対し,法定期間
の30日を固定的に併合してなる日数群(帯)として定められている
ことである。この相違により,旧特許法における出願日(時点)に対
し,現行意匠法では,出願日から30日の期間という継続的な時間が
設けられて提出期間が拡張された分だけ,例外証明書の提出手続が容
易となるので,出願人の保護が強化されているのであり,現行意匠法
の解釈においては,出願人の保護の強化の観点が重要である。その観
点からしても,旧規則41条に規定される例外証明書の提出手続の追
完が,最高裁昭和45年判決において容認されているにもかかわらず,
意匠法4条3項に規定される例外証明書の提出手続の追完が容認され
ないのであれば,前記の出願人の保護の強化の本旨に反する。
bしたがって,現行意匠法4条3項は,同条2項の規定する法定期間
である6か月以内の任意の出願日の出願に対し,同出願日から同条3
項の規定する30日以内という法定期間内における例外証明書の提出
手続に懈怠があった場合でも,同条2項の規定する法定期間である6
か月に付加される同条3項の規定する法定期間である30日以内,す
なわち,任意の出願日として同法定期間の6か月の最終日が選択され
たと仮定した場合の最長想定証明書提出期限以前であれば,例外証明
書の提出手続の追完が容認されると解することで,例外証明書の提出
手続に関して,最高裁昭和45年判決の判断との平仄が維持され,旧
特許法6条,旧規則41条と現行意匠法4条2項,3項との整合性が
確保されるものである。
ここで両者の共通点の核心は,両法の適用において,共に,文理上
の法定期間が徒過することにより,法律効果を伴わない例外証明書の
提出手続がいったん行われることになるが,その後,両法の法定期間
を定めた趣旨(①手続の迅速性,円滑性を確保すること,②新規性の
喪失の例外の適用を受ける出願人とその利益を甘受することになる第
三者との衡平を確保すること)を全うできる限度で行われる,最長想
定出願期限以前ないし最長想定証明書提出期限以前の提出手続の例外
証明書の追完を非常の救済手続として容認している点である。
この点,被告は,旧特許法6条,旧規則41条の規定と,現行意匠
法4条2項,3項の規定とが異質のものであるかのような主張をする
が,妥当でない。
()被告の主張に対する反論2
ア特許法184条の2が裁決主義を表明していること
被告は,特許法184条の2に関し,裁決主義を採用していないという
前提で主張するが,特許法184条の2は,裁決主義を表明しているので,
本件訴訟に行政事件訴訟法10条2項の適用はない。
したがって,本件訴訟では,原処分である本件却下処分の瑕疵を裁決で
ある本件棄却決定の違法事由として主張することができる。
イ商標法43条の4第2項ただし書の規定振りとの差異は追完を認めない
理由にならないこと
被告は,商標法43条の4第2項ただし書の規定振りと文言上の明確な
差異があると主張する。
しかしながら,同ただし書きは,登録異議申立書の補正のできる期間を
制限するものであり,同申立書の補正の可否により,申立対象の登録商標
(商標権)の存否が決定的に左右されるものではないから,商標制度の利
用者全体にとって,登録異議の申立ての成否はともかく,補正の成否は,
例外証明書の提出の可否と対比して,大きな関心事ではなく,情報的な価
値(需要)の高い手続経過であるとはいえない。そこで,最長想定証明書
提出期限に相当する最長想定補正書提出期限自体を法定期間として規定し
たものであるといえる。
したがって,同ただし書きの規定振りとの文言上の差異があることをも
って,意匠法4条3項の30日以内という法定期間内に例外証明書を提出
しなかったという懈怠が生じた場合に追完を認めないという被告の主張は,
短絡的であり妥当でない。
(被告の主張)
()本件棄却決定の取消事由に係る原告の主張が失当であること1
本件棄却決定の取消しを求める本件訴えは,行政事件訴訟法3条3項の
「裁決の取消の訴え」である。
特許庁長官の決定について,裁決主義は採用されていないため(意匠法6
0条の2が準用する特許法184条の2参照),行政事件訴訟法10条2項
により,本件訴えにおいては,本件却下処分の違法を理由として取消しを求
めることができない。
したがって,原告としては,本件棄却決定の取消しを求めるために,裁決
固有の瑕疵,すなわち,裁決の違法事由(瑕疵)から,原処分の違法事由を
除いたものを主張しなければならない。
しかるに,原告は,裁決固有の瑕疵を何ら主張していないから,本件棄却
決定の取消事由に係る原告の主張は,主張自体失当である。
()本件却下処分は適法であること2
ア新規性の喪失の例外の適用について
意匠登録出願に係る意匠が意匠法3条1項各号に該当する場合には,新
規性がない意匠として,意匠登録を受けることができないのが原則である
が,意匠法4条2項は,一定の場合には,例外的に,新規性が喪失してい
ないものとして取り扱うこととしている。
そして,意匠法4条3項は,同条2項に規定する新規性の喪失の例外の
適用を受けようとする者は,その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時
に特許庁長官に提出し(なお,意匠登録出願の願書にその旨を記載するこ
とによって,当該書面の提出を省略することができるところ(意匠法施行
規則19条3項が準用する特許法施行規則27条の4第1項),本件もこ
の方法によっている。),かつ,新規性喪失の例外証明書を当該出願の日
から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない旨定めている。
イ本件出願について
原告は,本件出願前である平成20年2月28日から同年3月5日にか
けて,東京都新宿区で開催された社団法人婦人発明家協会主催の「第41
回なるほど展」において,本件出願に係る物品を出品したものであるから
(乙2),本件出願に係る意匠は,意匠法3条1項1号に該当する。
原告は,平成20年2月28日(公知となった日)から6か月以内であ
る同年8月25日に意匠法4条2項の規定の適用を受けようとする旨が記
載された本件出願をしているから(乙1),同項の規定の適用を受けるた
めには,新規性喪失の例外証明書を本件出願の日である平成20年8月2
5日から30日以内,すなわち,同年9月24日までに特許庁長官に提出
しなければならなかった。しかるに,原告は,本件証明書を提出できる期
限の経過後である同月25日に提出した(乙2)。
前記の期間徒過という不備は,補正をすることができないものであるか
ら,特許庁長官は,意匠法68条2項が準用する特許法18条の2第1項
の規定に基づき,本件却下処分をしたものであり,何らの違法はない。
ウ原告の主張が失当であること
(ア)原告は,本件証明書の提出が「最長想定証明書提出期限」を徒過し
ていないなどとして,意匠法4条2項の新規性喪失の例外規定の適用を
受けることができる旨主張する。
しかしながら,意匠法4条の規定は,原則に対する例外規定であり,
その適用を受けるためには,同条に規定された手続が適式に履践されな
ければならないことはいうまでもないから,同条の定めに反して,「最
長想定証明書提出期限」なる期限までに同条3項所定の証明書が提出さ
れればよいなどという解釈が成り立つ余地はない。
このことは,商標法43条の4第2項ただし書の規定振りとの対比か
らも明らかである。すなわち,同規定が「43条の2に規定する期間の
経過後30日を経過するまでに」と規定するのと同様に,意匠法4条3
項が「4条2項に規定する期間の経過後30日を経過するまでに」と規
定しているのであれば,原告が「最長想定証明書提出期限」として主張
するような期間の定め方と解することになろうが,同条3項は,同条2
項の「出願の日から30日以内に」と規定し,あえて「出願の日」を起
算日として規定しているのであるから,原告の主張するような解釈が成
り立つ余地はない。
(イ)また,原告は,最高裁昭和45年判決を根拠に,本件証明書につい
ても追完が認められるべきであると主張するが,次のとおり,最高裁昭
和45年判決と本件とは,前提となる状況が異なるから,最高裁昭和4
5年判決をもって,本件証明書についても追完が認められるべきである
旨の原告の主張を正当化する根拠とすることはできない。
a最高裁昭和45年判決の内容
最高裁昭和45年判決は,旧特許法6条について判断を示したもの
である。すなわち,旧特許法6条1項は,特許を受ける権利を有する
者が同項所定の博覧会に出品したために発明が公知となった場合につ
いて,その者がその開会の日より6か月以内に特許を出願したときに
限り,当該発明に新規性があるものとみなす旨規定し,その手続につ
いて定めた旧規則41条は,法定の博覧会の開設,時期,出品の事実,
内容を明らかにするために必要書類を願書に添付すべきものと規定し
ていたものであるところ,最高裁昭和45年判決は,新規性の喪失の
例外の適用を受ける特許出願に際して,新規性喪失の例外証明書が添
付されていない場合であっても,博覧会開会の日より6か月以内であ
れば出願自体が許されることを理由に,当該開会の日より6か月以内
であれば,旧規則41条に規定する所定の手続の追完が許されると判
断したものである。
b最高裁昭和45年判決と本件とは,前提が異なること
最高裁昭和45年判決は,旧特許法が新規性の喪失の例外の適用を
受けるための出願期間を法定していたのに対し,新規性喪失の例外証
明書の提出については,旧規則が「願書に添付する」とのみ定めて,
その提出時期に関する定めがない状況において,法定期間である博覧
会開会の日より6か月以内であれば,当該出願に新規性喪失の例外証
明書が添付されていなかったとしても,これを追完することができる
としたものである。
これに対し,現行の意匠法は,旧意匠法(大正10年法律第98
号)25条において旧特許法6条を準用していたのと異なり,その4
条において,新規性の喪失の例外の適用を受ける出願のできる期間と
新規性喪失の例外証明書の提出の期間について,それぞれ明確な規定
を置いているのであるから,最高裁昭和45年判決と本件とは,新規
性喪失の例外証明書を提出すべき時期についての法令の定めがあるか
否かという点において,問題状況を異にしているものである。
このように,最高裁昭和45年判決と本件とは,前提となる状況が
異なるから,最高裁昭和45年判決をもって,本件証明書についても
追完が認められるべきである旨の原告の主張を正当化する根拠とする
ことはできない。
第3当裁判所の判断
1本件棄却決定の違法事由に係る原告の主張について
()行政事件訴訟法10条2項は,「処分の取消しの訴えとその処分につい1
ての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合
には,裁決の取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求
めることができない。」と規定する(なお,同法3条3項参照)。同規定は,
行政処分(原処分)とこれを維持した裁決とがある場合に,原処分と裁決の
いずれに対しても取消訴訟を提起することは可能であるが,原処分の違法事
由は処分取消しの訴えにおいてのみ主張することが許され,裁決取消しの訴
えにおいてこれを主張することはできないとする,いわゆる原処分主義を裁
決取消しの訴えにおける違法事由の主張制限の面から規定したものである。
そして,意匠法60条の2が準用する特許法184条の2は,いわゆる審
査請求前置主義を規定したものであり,原処分の取消しの訴えの提起を許さ
ず裁決取消しの訴えのみの提起を認めた,いわゆる裁決主義を採用するもの
ではない。
()この点,原告は,意匠法60条の2が準用する特許法184条の2は,2
裁決主義を表明したものであると主張する。
しかしながら,特許法184条の2は,「…処分…の取消しの訴えは,当
該処分についての異議申立て…に対する決定…を経た後でなければ,提起す
ることができない。」と規定し,原処分の取消しの訴えの提起自体を許さな
いとはしていない。また,特許法184条の2の規定振りは,いわゆる裁決
主義を採用した意匠法59条2項が準用する特許法178条6項が「審判を
請求することができる事項に関する訴えは,審決に対するものでなければ,
提起することができない。」と規定し,裁決である審決に対する訴えのみの
提起を認めているのと明らかに異なるものとなっている。
このように,意匠法60条の2が準用する特許法184条の2が裁決主義
を採用するものでないことは,明らかであって,同条が裁決主義を表明した
ものであるという原告の前記主張は,独自の見解にすぎず,採用することが
できない。
()本件は,原処分である特許庁長官がした手続却下の処分に対し原告が行3
政不服審査法6条に基づく異議申立てをし,特許庁長官が異議申立てを棄却
した事案であり,原処分である本件却下処分の取消しの訴えと裁決である本
件棄却決定の取消しの訴えのいずれも提起することができる場合に当たるか
ら,行政事件訴訟法10条2項の規定により,本件棄却決定の取消しを求め
る本件訴えにおいては,原処分である本件却下処分の違法を理由として,本
件棄却決定の取消しを求めることはできず,本件棄却決定の違法事由として
原告が主張し得るのは,本件棄却決定の固有の違法事由(瑕疵)に限られる
ことになる。
ところが,本件についてみるに,前記第2の2の(原告の主張)のとおり,
原告は,本件却下処分の違法を理由として,本件棄却決定の取消しを求めて
おり,本件棄却決定の固有の違法事由(瑕疵)を主張するものではないから,
前記第2の2の(原告の主張)は,主張自体失当である。
よって,本件棄却決定の取消しを求める原告の主張は,理由がない。
2本件却下処分の適法性について
以上によると,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がないことが明らかであるが,念のため,原告の主張する本件却下処分の違法
性について判断する。
()前記第2の1()のとおり,原告は,平成20年2月28日(本件出願に11
係る意匠が公知となった日)から6か月以内である同年8月25日に意匠法
4条2項の規定の適用を受けようとする旨を記載して本件出願をしているか
ら,同項の規定の適用を受けるためには,同条3項の規定により,新規性喪
失の例外証明書を本件出願の日である平成20年8月25日から30日以内,
すなわち,同年9月24日までに提出しなければならなかったものである。
ところが,原告は,本件証明書を同月25日に提出している。
この期限経過という不備は,補正をすることができないものであるから,
意匠法68条2項が準用する特許法18条の2第1項の規定に基づき,その
手続は却下されるべきものである。
したがって,特許庁長官がした本件却下処分は,適法である。
()原告の主張について2
ア原告は,「最長想定証明書提出期限」なるものを想定した上で,本件証
明書の提出が同期限の経過前にされているから,本件証明書の提出は,追
完が認められるべきであると主張する。
しかしながら,意匠法4条の規定は,同法3条の規定する原則に対する
例外規定であるところ,同法4条3項は,「意匠登録出願の日から30日
以内」と,例外証明書の提出期限の起算日を「出願の日」と明確に規定し
ており,例えば,商標法43条の4第2項ただし書が,登録異議申立書提
出後の申立書の補正を認める期間について,「申立書の提出の日から30
日以内」と規定せず,「43条の2に規定する期間」すなわち,商標掲載
公報の発行の日から2か月以内「の経過後30日を経過するまで」と規定
していることと対比してみても,意匠法4条3項について,原告の主張す
るように,「最長想定証明書提出期限」なるものを想定し,同期限が例外
証明書の提出期限となるとか,同期限が経過するまでは例外証明書の追完
が認められるべきであるといった解釈が成り立つ余地がないことは明らか
である。
この点,原告は,「最長想定出願期限」なるものや「最長想定証明書提
出期限」なるものを想定し,手続懈怠の結果の重大性を斟酌すれば,原告
に責めに帰することができない事由のない本件においても,民事訴訟法9
7条の規定を類推適用して,例外証明書の追完が認められるべきであると
主張するが,いずれも,意匠法4条2項,3項等の明文の規定に明らかに
反するだけでなく,根拠のない独自の見解を述べるものにすぎないから,
採用することができない。
イ原告は,「最長想定証明書提出期限」なるものを想定し,本件において
も,最高裁昭和45年判決を斟酌し,同期限内であれば,意匠登録出願の
日から30日以内でなくても,本件証明書の追完が認められるべきである
と主張する。
しかしながら,最高裁昭和45年判決(旧実用新案法(大正10年法律
第97号)により準用される旧特許法6条の解釈が問題となった事案)は,
旧特許法6条が新規性の喪失の例外の適用を受けるための出願期間(6か
月)を法定し,新規性喪失の例外証明書の提出に関して,旧特許法に規定
がなく,旧規則41条に「願書ニ添付スヘシ」との規定が置かれていると
いう旧特許法,旧規則の規定の下において,旧規則41条は,出願自体が
出願期間(6か月)内は許されるのであるから,仮に出願時に例外証明書
の添付がないとしても,旧特許法の規定する出願期間(6か月)内であれ
ば,例外証明書の追完を許容したものと解されるのであり,旧特許法6条
の要件を充足することの証明をすべき期間を出願期間(6か月)以下に制
限したものとはいえないから,旧規則41条の規定が旧特許法6条の趣旨
に反し,又はその内容を変更したものといえないと判示したものである。
これに対し,本件においては,意匠法4条に,新規性の喪失の例外の適
用を受けるための出願期間(6か月)が同条2項に法定されているほかに,
新規性喪失の例外証明書の提出に関して,その提出期間等が同条3項に明
文の規定をもって置かれているのである。
このように,新規性喪失の例外証明書の提出に関して,提出期間等が法
律に明文の規定が置かれていなかった旧特許法,旧規則の下における最高
裁昭和45年判決の事案と,それが意匠法4条3項という明文の規定をも
って置かれている本件の事案とでは,その前提を異にするというべきであ
るから,最高裁昭和45年判決は,本件に適切でない。
したがって,最高裁昭和45年判決を斟酌して,「最長想定証明書提出
期限」なるものを想定し,その範囲内であれば,意匠法4条3項の規定す
る「意匠登録出願の日から30日以内」でなくても,本件証明書の追完が
認められるべきであるという原告の前記主張は,意匠法4条に関して,誤
った独自の解釈論を展開するものにすぎず,根拠のないものであるから,
採用することができない。
3結論
以上によれば,本件棄却決定に取消しの理由となるべき違法事由があると認
められないから,本件棄却決定は,適法であり,本件却下処分も,また適法で
ある。
したがって,原告の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,訴訟
費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官菊池絵理
裁判官岩崎慎

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