弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人西田健提出の控訴趣意書ならびに弁護人安岡清夫同秋本
英男連名提出の控訴趣意書(補充書)に記載されたとおりであるからここにこれら
を引用する。
 弁護人西田健の控訴趣意一の(一)、および弁護人安岡清夫ほか一名の控訴趣意
第一点の一ないし八について。
 各所論は要するに原判示第一記載の不動産はその所有名義人である被告人の妻A
からBへ、BからCへと順次売却されたものであるが右売買契約はいずれも解除さ
れているので右不動産の所有権は被告人の妻Aに復帰していた。かりに右契約が解
除されていなかつたとしても昭和四四年七月二〇日ころ右AはCから本件不動産を
買い戻して所有権を取得したものである。かりに同人に所有権がなかつたとしても
被告人はCから右不動産の売却あつせん方を依頼されており、その処分権があつ
た。したがつて、被告人がDに右不動産を売却しても同人が所有権移転登記を取得
するについてなんら障害となるべき事情はなかつたのであり、被告人がDに対し、
前記売買の事実を告知すべき義務はなく、これを告知しなかつたことは同人を欺罔
したことにはならない。また、被告人はDに対し、中間金として四〇〇万円を受領
すると同時に、同人のため右不動産につき、所有権移転請求権保全の仮登記を設定
し、Dの支払うべき残代金の調達等についても努力していたのであるから、少くと
も被告人には詐欺の犯意はなかつたものである。以上いずれの点からしても、被告
人の原判示第一の所為は無罪であるに拘らず、これを有罪とした原判決には判決に
影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。
 よつて検討してみるのに、原判決挙示の各対応証拠を綜合すると以下の事実が認
められる。すなわち、被告人は昭和四四年四月一〇日、妻A所有名義の東京都世田
谷区ab丁目c番d号所在の宅地八四・三六坪および右宅地上の木造瓦葺平家建居
宅一棟二八・七五坪(その登記簿上の表示は同町e丁目f番地家屋番号E番―以下
の右土地建物を一括して本件不動産という―。)を、代金一、八〇〇万円、内金四
〇〇万円については現金で支払い、残額一、四〇〇万円については本件不動産に設
定されている債権者F信用金庫の二、五〇〇万円を極度額とする根抵当権のうち、
同金庫に対する当時の借越債務の残高一、四〇〇万円をBにおいて免責的に債務を
引き受けるという約定のもとにBに売り渡す旨の契約を締結し、Bは同月一〇日契
約と同時に二〇〇万円、同月二三日一〇〇万円、同年六月三日一〇〇万円、以上合
計四〇〇万円を被告人に支払つた。ところが、被告人の右金庫に対する債務につい
ては同金庫がBの債務引受を承諾せず、かえつて被告人に対し弁済期の到来した債
務の弁済を求めたため、被告人とBは改めて話し合い、右契約の一部を変更するこ
ととし、同年六月一〇日、Bにおいてさらに現金五〇〇万円を被告人に代り同金庫
に弁済することにより同金庫の右抵当権の実行を免れる一方、右弁済と引き換えに
被告人が右金庫に預けていた本件不動産の登記済権利証およびAの印鑑証明書、白
紙委任状など所有権移転登記に必要な書類を受け取つた。そして、その後の処理に
ついては、Bにおいて残額九〇〇万円を直ちに支払うことができないところから、
本件不動産を他に転売して残代金を捻出することになり、同年七月一〇日、Bは被
告人の仲介により被告人の知人Cに対し、本件不動産を代金一、九五〇万円、手付
金一〇〇万円は契約と同時に支払い、内金九五〇万円は同年八月一五日限り支払う
こと、残額九〇〇万円は同日限り被告人に代位して右金庫に対し支払うとの約定で
売却する旨の契約を締結した。Cは右契約と同時に被告人の出捐した一〇〇万円を
手付金としてBに支払つたのち、残代金の調達に奔走したが、期日までに残額一、
八五〇万円の調達の見込がたたなかつたので、同年七月下旬ころ、被告人を通じて
Bに対し、残金の支払を同年九月一五日まで猶予してくれるよう申し入れ、その承
諾を得た。ところが、被告人はこれとは別に同年七月二〇日ころ、たまたま自己の
居住用の住宅を探していたG信用組合の幹部職員であるDを訪れ、BにもCにも無
断で本件不動産の売却方を申し込み、同月三〇日ころ、Dとの間で右不動産につ
き、代金二、一〇〇万円、うち手付金二〇〇万円は契約と同時に支払い、内金四〇
〇万円は同年八月四日限り支払うこと、残額一、五〇〇万円は同年一〇月二七日ま
でに被告人が前記F信用金庫に対し負担する債務をDにおいて引き受けること、も
しこれが不可能なときはDが同金庫から同額を貸し付けを受けてこれにより代金を
支払うことという約定で売買契約を締結し、Dは右契約に従い、契約と同時に二〇
〇万円、同年八月四日四〇〇万円を各支払い、右四〇〇万円の支払と引換に本件不
動産につき所有権移転登記請求権保全の仮登記を取得(但し、同年八月二六日こ
ろ、被告人の申入により任意に抹消)した。
 被告人はDとの契約交渉の過程において本件不動産に関する前記の事情を全く知
らせなかつたので、Dも本件不動産につき特段の紛争はなく、代金完済と同時に直
ちに所有権移転登記を取得できるものと考えていた。
 ところが同年九月下旬ころに至り、DはBから本件不動産はB自身がさきに買い
受けた物件であることを知らされ、驚いて被告人にその真偽を確かめると共に被告
人を叱責したところ、被告人はBに売ったのは税務対策のためであるとか、責任を
もつてBとの間を解決するなどと弁解したものの、DとしてはBは自己の勤務先の
取引先でもあることから、同人との紛争を避けるため、同年一〇月末ころ、自発的
に前記売買契約を解除すると共に被告人に対し、すでに支払済の六〇〇万円の返還
を求めるに至つた。
 他方、被告人はBらとの間における本件不動産の売買の事実がDの知るところと
なつたことから、同年九月二二日ころに至り、Bに対し前記売買契約を解除する旨
の意思表示をなし、同月末ころにはCからAが本件不動産を買い戻したこととし
て、右Cとの間で契約年月日を同年七月一五日に遡らせ、あたかも被告人が本件不
動産をDに売却する以前に右不動産をCから買い戻していたかの如く作為した契約
書を作成した。
 以上の事実によつて考察すると、被告人がDとの間で本件不動産に関する売買契
約を結ぶ以前に、右不動産は被告人の妻からBへ、BからさらにCへと順次売却さ
れており、しかも各売買契約はそれまでに所論のように解除されたことはなく有効
に存続していたことはもちろん、Aにおいて買い戻したものでもないことは明らか
である。したがつて、たとえ所論のように、当時被告人がCから右不動産の売却あ
つせん方を依頼されていたとしても、本件において右不動産をCからではなく、A
からDへ売却する旨の契約をした以上、右はいわゆる不動産の二重売買にほかなら
ない。ところで不動産の所有者が第一の買主との間に不動産の売買契約を締結し、
権利証その他の登記申請に必要な書類を交付している場合において、右買主の登記
未了を奇貨として、これを他に売却し、第二の買主に所有権移転登記を経由させた
ときは、対抗力の取得を目的とする不動産取引の通例にかんがみ、第一の売買を告
知しなかつたことは第二の買主の買受行為との間に詐欺罪の予定する因果関係を欠
くのを通常とするのであるが、本件のように第二の買主において売買代金を交付
し、不動産につき所有権移転請求権保全の仮登記を取得したが、いまだ所有権移転
の本登記を取得しないうちに売買契約を解除するに至つたときは、右売買の経緯に
照らし、第一の売買の存在およびその内容等が第二の買主の所有権移転登記の取得
を断念させるに足りるもので、第二の買主が、もし事前にその事実を知つたならば
敢えて売買契約を結び、代金を交付することはなかつたであろうと認めうる特段の
事情がある限り、売主が第一の売買の存在を告知しなかつたことは詐欺罪の内容た
る欺罔行為として、第二の買主から交付させた代金につき詐欺罪の成立があるもの
と解するのが相当である。これを本件についてみるに、前記認定によれば、被告人
の妻とB、BとCの間における各売買契約はいずれも有効に存続しており、とくに
Bは不動産売買代金の半額にあたる九〇〇万円を被告人に支払い、所有権移転登記
申請に必要な書類の交付を受け、右契約の履行によるBないしCへの所有権移転登
記を保全している状況にあつたのであるから、被告人がこれを他に転売し、Bらの
対抗力の取得に困難を生ずれば、被告人との間に紛争を生じることは避け難く、し
たがつてこのような状況のもとでは被告人がDに所有権移転登記を得させるにつき
所論のようになんら障害がなかつたとはいえなかつたこと、他方Dとしても、本件
不動産の売買は単に利殖の目的に出たものではなく、もつぱ自己および家族の居住
の目的に出たものであるから、一般的にいつて対象不動産をめぐる紛争の余地のあ
る売買を嫌忌することは理由のないことではなく、とくに同人にとつてBはいわゆ
る華嬌仲間であると共に、自己の勤務先の得意先の関係でもあり、もし自己におい
てBにさきがけて本件不動産につき所有権移転登記を経由すれば、同人との間にお
いても右不動産をめぐる紛争を生ずる可能性もあり、ひいてはDの勤務先とBとの
営業上の信頼関係も損われる等Dの勤務先における地位にも影響しかねない事態も
予想されたこと、DがBら右不動産の買主の存在を知つたのちにおいて、被告人に
対しあくまで売買契約の履行を求めることはせず、自ら解除を申し出たのは前記B
との関係等を考慮したことにほかならないこと等の事実が明らかであるから、本件
における被告人とBとの前記売買の内容および経緯は、Dが代金の一部を支払つた
ことにより所有権移転請求権保全の仮登記を取得した時点においても、なおBらに
さきがけて本件不動産の所有権移転登記を取得することを断念させるに足りるもの
であり、もしDがこれら売買の経緯を事前に知つていればかかる不動産につき敢え
て売買契約を結ぶことはなく、したがつて代金を交付することもなかつたであろう
と認めるに足りる特段の事情があつたものというべきである。したがつて、被告人
がこれら売買の経緯をDに告知しなかつたことは、取引に関する重要事項につき同
人を欺罔したものといわなければならない。そして、被告人は本件不動産に関する
前記売買の経緯およびDとBとの前記関係を知悉しながら本件不動産を高く売却す
るためにDに事情を秘匿して売却したものであるから、たとえ被告人においてDと
の売買契約を履行するためDに金融機関から金融を得させようと努力していたとし
ても詐欺の犯意なしということはできない。
 以上の次第で被告人がDから不動産売買代金の内金として交付をうけた六〇〇万
円につき被告人に詐欺罪の成立することは明らかであり、これと同旨に出た原判示
第一事実にはなんら所論のような事実の誤認はない。
 論旨はいずれも理由がない。
 弁護人西田健の控訴趣意一の(二)、および弁護人安岡清夫ほか一名の控訴趣意
第一点の九、について。
 各所論は要するに、原判示第二記載の権利証は、被告人がBに対し、たんに好意
から交付したに過ぎないものであるうえ、Bの債務不履行により本件不動産の売買
契約は解除されていたのであるから、被告人は返還請求権に基き右権利証の返還を
受けたものであり、その際、原判示のような虚構の事実を申し向けたことはないか
ら詐欺罪にはあたらない。かりに被告人が原判示のような虚構の事実を申し向けた
としても、当時の情況からみて権利証の所有者としてその返還を受けるにつき他の
行為を期待しえなかつたものであり、詐欺罪をもつて処罰すべきほどの可能性はな
い。以上いずれの点からしても被告人は無罪であるに拘らずこれを有罪とした原判
決には判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認がある、というのである。
 よつて検討するのに、被告人が原判示権利証をBに交付した経緯は前認定のとお
りであり、これを要するにBは、被告人が自己の債務の担保としてF信用金庫に供
与していた本件不動産を買い受けたものの、被告人の右金庫に対する債務不履行の
ため、同金庫に右不動産を処分されそうになつたので、被告人と話し合い、当初の
契約を変更してみずから五〇〇万円を出捐して被告人の右金庫に対する債務の一部
を代位弁済し、これと引き換えに本件権利証の交付を受けたものである。そうする
と右権利証は、Bの被告人に対する本件不動産の所有権移転登記請求権(これはB
がのちにCに本件不動産を転売しても消滅しない)を確保するため、当事者間の契
約により授受されたものにほかならないから、所論のように被告人において返還請
求権があるということはできない。ところで、原判決挙示の対応証拠によると、被
告人は、昭和四四年九月二〇日ころの夜、Bに対し、Cに対する所有権移転登記手
続およびこれに伴うF信用金庫の根抵当権抹消の手続に使用するものであるかのよ
うに装つて原判示のとおり申し向け、Bをその旨信用させて権利証の交付を受けた
こと、しかるに被告人は、その直後右権利証を利用して右金庫からあらたに融資を
受け、同月二二日付をもつて、本件不動産につき、さきに昭和四三年七月一五日受
付第二五二二一号により登記されていた債権者F信用金庫に対する元本極度額一、
〇〇〇万円の根抵当権の元本極度額を二、〇〇〇万円に変更する旨の登記を経由し
てしまい、Cに対する所有権移転登記には使用しなかつたことが認められる。右に
よれば、被告人が真実の使用目的を秘し、原判示の如き虚構の事実を告げてBを欺
罔し、権利証の交付を受けたことは明白であり、当時の情況に照らしても被告人に
対し、他の適法な行為に出ることを期待しえないほどの特段の事情は認め難いか
ら、被告人が詐欺罪の責任を免れることはできない。
 なお、西田弁護人の所論のうちBの出捐した金額をもつて本件権利証の詐欺の被
害額と認定することは失当であるとする点は、原判決は本件詐欺の騙取額として所
論の額を認定しているものではないから、所論は前提を欠き採用できない。以上の
次第で原判示第二事実についてもなんら所論のような事実の誤認はなく、論旨は理
由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとして主文のとおり判決
する。
 (裁判長判事 田原義衛 判事 吉沢潤三 判事 小泉祐康)

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