弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
一 原判決主文第一項を次のとおり変更する。
  第一審判決を次のとおり変更する。
  1 平成九年(オ)第四三四号被上告人・同第四三五号上告人は、平成九年(
オ)第四三四号上告人・同第四三五号被上告人B1に対し一四一四万円、同B2及
び同B3に対し各六五七万七〇九九円並びにこれらに対する平成四年七月一六日か
ら各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  2 平成九年(オ)第四三四号上告人・同第四三五号被上告人らのその余の請
求を棄却する。
二 訴訟の総費用は、これを二分し、その一を平成九年(オ)第四三四号上告人・
同第四三五号被上告人らの、その余を平成九年(オ)第四三四号被上告人・同第四
三五号上告人の負担とする。  
         理    由
 一 平成九年(オ)第四三四号上告代理人D、同Eの上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び記録に現れた本
件訴訟の経過に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法は
ない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点
を含め、独自の見解に立って原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうか、
又は原審の裁量に属する慰謝料額の算定の不当をいうものであって、採用すること
ができない。ただし、職権をもって判断したところ、平成九年(オ)第四三四号上
告人・同第四三五号被上告人B1(以下「一審原告B1」のようにいう。)の損害
額の認定に関する原審の判断に違法があることは、後記四のとおりである。
 二 平成九年(オ)第四三五号上告代理人F、同G、同Hの上告理由第三及び第
四について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立っ
て原審の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうか、又は原審の裁量に属する
慰謝料額の算定の不当をいうものであって、採用することができない。
 三 同第一及び第二について
 1 本件は、国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害
厚生年金(以下、併せて「障害年金」という。)の受給権者であったI(以下「亡
I」という。)が医師の過失に基づく医療事故により死亡したため、その相続人で
ある一審原告らが、右医師の使用者である平成九年(オ)第四三四号被上告人・同
第四三五号上告人(以下「一審被告」という。)に対し、民法七一五条一項に基づ
き、亡Iの得べかりし障害年金相当額等の賠償を請求した事案である。
 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (一) 一審原告B1は亡Iの妻、同B2は長女、同B3は長男である。
 (二) 亡Iは、平成四年七月初旬ころから、一審被告が経営するJ病院に入院
していたが、同月一五日、同病院の担当医師が亡Iに胃瘻造設術を施すに当たり、
誤ってその腹部内の動脈に穿刺針を刺入したため、翌一六日、腹腔内出血による出
血性ショックにより死亡した(以下「本件事故」という。)。
 (三) 亡Iは、本件事故当時、第一級障害者として、国民年金法に基づく障害
基礎年金として年間一三二万四八〇〇円(うち二人の子の加給分各二〇万九一〇〇
円、合計四一万八二〇〇円)、厚生年金保険法に基づく障害厚生年金として年間一
二〇万〇九〇〇円(うち妻の加給分二〇万九一〇〇円)の合計年間二五二万五七〇
〇円の障害年金を受給していた。
 (四) 一審原告らの本件事故当時における生計は、右障害年金により維持され
ていた。しかし、亡Iは、本件事故により死亡したため、右障害年金の受給権を喪
失した。
 (五) 一審原告B1は、亡Iによって生計を維持していた妻として、平成四年
八月分以降、国民年金法に基づく遺族基礎年金として年間一一四万三五〇〇円、厚
生年金保険法に基づく遺族厚生年金として年間五九万五一〇〇円の合計年間一七三
万八六〇〇円を受給している(以下、併せて「遺族年金」という。なお、その後、
受給額は改定されている。)。支給を受けることが確定した遺族年金の額は、平成
四年八月分から原審口頭弁論終結の日の属する平成八年八月分までの合計七一四万
一七一三円である。
 2 原審は、次のとおり判断して、加給分を含めて亡Iの受給していた障害年金
の逸失利益性を肯定した。
 (一) 国民年金法に基づいて支給される障害基礎年金も厚生年金保険法に基づ
いて支給される障害厚生年金も、当該受給権者に対して損失補償ないし生活保障を
することを目的とするとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する
関係においても同一の機能を営むものと解されるから、不法行為により死亡した者
は、得べかりし障害年金を逸失利益として同額の損害賠償請求権を取得し、その相
続人は、加害者に対してその賠償を請求することができるものと解される。したが
って、亡Iの相続人である一審原告らは、亡Iの得べかりし障害年金相当額の損害
賠償請求権を相続により取得し、一審被告に対してその賠償を請求することができ
る。
 そして、亡Iは、本件事故当時、日常生活のほとんどの面で介助を必要とする状
態にあり、将来においてもその改善は困難であったが、その外の同人の身体的、精
神的状況を総合すると、亡Iが同年齢の健康な平均的男子より特に短命であるとは
認められず、亡Iは、本件事故により死亡しなければ、平均余命までのその後三一
年間、障害年金を受給することのできたがい然性が高いものと認められる。
 (二) さらに、障害基礎年金受給額のうち子の加給分については、その子が一
八歳に達した日以後の最初の三月三一日が終了するまで(国民年金法三三条の二第
三項六号本文)、また、障害厚生年金受給額のうち妻の加給分については、妻が六
五歳に達した月まで(厚生年金保険法五〇条の二第三項、四四条四項四号)、それ
ぞれ加算して支給されるから、これらも亡Iの得べかりし障害年金に含まれる。
 3 所論は、要するに、(1) 障害年金と従来判例において逸失利益性が肯定
されてきた老齢年金等とは、その趣旨・目的等を異にするものである上、障害年金
については、国民年金法及び厚生年金保険法上、受給権者の障害の程度の変更によ
り、その額が改定され、又は支給を停止するものとされているから、障害年金はそ
の存続が確実であるということはできず、その受給権の喪失を損害と認めることは
できない、(2) 少なくとも、子の加給分については、国民年金法上、子が一八
歳に達すること以外にも、死亡、婚姻、養子縁組等の事由があるときは加算されな
くなり、妻の加給分については、厚生年金保険法上、妻が六五歳に達すること以外
にも、死亡、離婚等の事由があるときは加算されなくなるから、子及び妻の加給分
は存続が不確実であって、その受給権の喪失を損害と認めることはできない、とい
うのである。
 4 そこで検討するに、原審の前記(一)の判断は是認することができるが、(
二)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (一) 国民年金法に基づく障害基礎年金も厚生年金保険法に基づく障害厚生年
金も、原則として、保険料を納付している被保険者が所定の障害等級に該当する障
害の状態になったときに支給されるものであって(国民年金法三〇条以下、八七条
以下、厚生年金保険法四七条以下、八一条以下参照)、程度の差はあるものの、い
ずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している。したがっ
て、【要旨第一】障害年金を受給していた者が不法行為により死亡した場合には、
その相続人は、加害者に対し、障害年金の受給権者が生存していれば受給すること
ができたと認められる障害年金の現在額を同人の損害として、その賠償を求めるこ
とができるものと解するのが相当である。そして、亡Iが本件事故により死亡しな
ければ平均余命まで障害年金を受給することのできたがい然性が高いものとして、
この間に亡Iが得べかりし障害年金相当額を逸失利益と認めた原審の認定判断は、
原判決挙示の証拠関係に照らして是認するに足りる。
 (二) もっとも、子及び妻の加給分については、これを亡Iの受給していた基
本となる障害年金と同列に論ずることはできない。すなわち、国民年金法三三条の
二に基づく子の加給分及び厚生年金保険法五〇条の二に基づく配偶者の加給分は、
いずれも受給権者によって生計を維持している者がある場合にその生活保障のため
に基本となる障害年金に加算されるものであって、受給権者と一定の関係がある者
の存否により支給の有無が決まるという意味において、拠出された保険料とのけん
連関係があるものとはいえず、社会保障的性格の強い給付である。加えて、右各加
給分については、国民年金法及び厚生年金保険法の規定上、子の婚姻、養子縁組、
配偶者の離婚など、本人の意思により決定し得る事由により加算の終了することが
予定されていて、基本となる障害年金自体と同じ程度にその存続が確実なものとい
うこともできない。これらの点にかんがみると、【要旨第二】右各加給分について
は、年金としての逸失利益性を認めるのは相当でないというべきである。この点に
関する原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。
 5 そして、本件事故当時における亡Iの逸失利益の現価は、本件事故がなけれ
ば亡Iに支給されたがい然性の認められる障害年金の年額一八九万八四〇〇円(亡
Iの前記障害年金受給額から子及び妻の加給分を控除した金額)から亡Iの生活費
及び介助費用相当額を控除した年額二三万三八八〇円に、新ホフマン係数一八・四
二一四を乗じた四三〇万八三九七円(円未満切捨て。以下同じ。)となる。
 6 一審原告B2及び同B3は、それぞれ亡Iの右逸失利益及び慰謝料一〇〇〇
万円についての損害賠償請求権を法定相続分各四分の一の割合に従って取得したも
のであり、これに原審の認定したその余の損害各三〇〇万円を加えると、一審原告
B2及び同B3の本件請求は、各六五七万七〇九九円及びこれに対する不法行為の
日である平成四年七月一六日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅
延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、その余は
失当として棄却すべきものである。したがって、前記加給分の逸失利益性に関する
原審の判断の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであり、論旨はこの
限度で理由がある。
 四 さらに、職権をもって一審原告B1の損害額について判断する。
 1 国民年金法及び厚生年金保険法に基づく障害年金の受給権者が不法行為によ
り死亡した場合において、その相続人のうちに、障害年金の受給権者の死亡を原因
として遺族年金の受給権を取得した者があるときは、遺族年金の支給を受けるべき
者につき、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に
対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものと解するのが相当である(
最高裁昭和六三年(オ)第一七四九号平成五年三月二四日大法廷判決・民集四七巻
四号三〇三九頁参照)。そして、【要旨第三】この場合において、右のように遺族
年金をもって損益相殺的な調整を図ることのできる損害は、財産的損害のうちの逸
失利益に限られるものであって、支給を受けることが確定した遺族年金の額がこれ
を上回る場合であっても、当該超過分を他の財産的損害や精神的損害との関係で控
除することはできないというべきである。
 2 これを本件について見ると、前記三1のとおり、一審原告B1は、亡Iが本
件事故により死亡したため、国民年金法に基づく遺族基礎年金及び厚生年金保険法
に基づく遺族厚生年金を受給しており、支給を受けることが確定した遺族年金の額
は、七一四万一七一三円である。他方、一審原告B1は、亡Iの前記逸失利益及び
慰謝料についての損害賠償請求権を法定相続分二分の一の割合に従って取得したも
のであり、これに原審の認定したその余の損害九一四万円を加えると、その損害額
は合計一六二九万四一九八円となる。これから右相続に係る逸失利益分二一五万四
一九八円の限度で右遺族年金を控除すると、一審原告B1の本件請求は、一四一四
万円及びこれに対する不法行為の日である平成四年七月一六日から支払済みまで民
法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれ
を認容し、その余は失当として棄却すべきものである。原審は、右遺族年金をもっ
て相続に係る逸失利益分以外の一審原告B1の損害からも控除しているところ、こ
の点に関する原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法もまた
原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
 五 以上に説示するところに従い、これと異なる第一審判決は右のとおり変更さ
れるべきであるから、原判決主文第一項を本判決主文第一項のとおり変更すること
とする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷 玄)

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