弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、第一審判決を取り消す。
     被上告人らの上告人に対する本訴請求を棄却する。
     被上告人ら上告人間の訴訟費用は第一、第二、第三審を通じて被上告人
らの負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士鍛治利一、同島内賀喜太名義の上告理由第一点、第二点、第一
二点について。
 原判決が論旨第一点摘示のごとく認定判示して上告人(控訴人、被告)を民法七
一五条二項にいわゆる使用者に代つて事業を監督する者に該当するものとし、本訴
請求を認容したことは所論のとおりである。そして、同条項にいわゆる「使用者ニ
代ハリテ事業ヲ監督スル者」とは、客観的に観察して、実際上現実に使用者に代つ
て事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきことも所論のとおりであ
る。しかるに、原判決の確定したところによれば、上告人は、昭和二六年一一月四
日控訴人D通運株式会社との間に判示のごとき内容の契約を締結し訴外Eを運転手
として雇い入れ、控訴会社の名義を使用して本件貨物自動車により運送営業を開始
したところ、開始後約一ヶ月にて相当の赤字が出たため事業を廃止する決意をして
判示のごとく本件自動車をEに売却して契約上の地位を事実上Eに承継させ、Eが
判示のごとく単独で事業主兼運転手として本件貨物自動車による運送事業を控訴会
社名義で経営し、Eは、昭和二七年一月九日控訴会社より運転手の辞令の交付を受
け控訴会社の指図による貨物運送をなすと共に自ら貨物運送の委託を受けて運送事
業をなし、日々の運送事務の内容は日報で控訴会社に報告し本件昭和二八年三月二
九日の事故まで事実上判示契約上の地位をEに承継させていたものであり、一方控
訴人Aは判示のごとく本件貨物自動車をEに売り渡し自ら運送事業より手を引くこ
とになつたので、控訴会社に対し控訴会社との間の判示契約における契約者の名義
を右Eに切替えて貰いたい旨申し出たのであるが控訴会社側は運転手であるEとの
間に前示契約を締結することは都合が悪いからとて右申出を拒絶し控訴人Aと控訴
会社との間の契約は本件事故発生当時まで存続しており、そして、本件事故は、当
時たまたまEが病気していたため同人が臨時にFを運転手に雇い入れ雇入後三日目
にFが惹起したものであるというのである。
 以上原判決の確定した事実関係によれば、客観的に見て上告人は、控訴会社又は
Eに代つて、E又はFを事実上監督すべき地位にいなかつたことは明白であるとい
わなければならない。果たして然らば、論旨は、その理由があつて、原判決は破棄、
第一審判決は取消を免れないし、また、被上告人らの上告人に対する本訴請求は、
既にこの点で排斥を免れない。
 よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、
九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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