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平成22年8月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(ワ)第9328号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成22年5月24日
判決
愛知県刈谷市〈以下略〉
原告小林クリエイト株式会社
同訴訟代理人弁護士石原達夫
同新保雄司
同高橋祥子
同訴訟代理人弁理士茅原裕二
同補佐人弁理士和田成則
香川県高松市〈以下略〉
被告サンエイ株式会社
同訴訟代理人弁護士竹田稔
同川田篤
同服部謙太朗
同訴訟代理人弁理士須藤阿佐子
同須藤晃伸
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載のラベル帳票を製造し,貸渡し,譲渡し又は譲渡
の申出をしてはならない。
2被告は,前項のラベル帳票を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,3120万4792円及びこれに対する平成21年4
月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「ラベル帳票」とする特許権を有する原告が,被告が
製造,販売する別紙物件目録記載のラベル帳票(以下「被告製品」という。)
が前記特許権に係る発明の技術的範囲に属し,前記特許権を侵害するとして,
被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製造等の差止め及び同条
2項に基づく被告製品の廃棄並びに民法709条,特許法102条2項に基づ
く被告製品の販売により被告が得た利益相当額の損害金3120万4792円
及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年4月2日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠を末尾に記載する。)
()当事者1
ア原告は,記録紙,コンピュータ用帳票類等各印刷物の製造,販売等を業とす
る株式会社である。
イ被告は,一般印刷,製本業等を業とする株式会社である。
()原告の特許権2
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許
を「本件特許」,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)を有し
ている。
特許番号第3960552号
発明の名称ラベル帳票
出願年月日平成15年10月29日
登録年月日平成19年5月25日
特許請求の範囲
請求項1(請求項1に係る発明を「本件発明」という。)
「台紙上に上紙が剥離可能に貼合された帳票であって,上紙は,本票と
分離票とが輪郭切り取り線で隣接された伝票片を備え,かつ分離票を
除いた裏面領域に粘着剤を塗工した粘着剤層が設けられてなるととも
に,台紙は,粘着剤層と対向する表面領域に剥離剤を塗工した剥離剤
層が設けられ,かつ台紙裏面から台紙表面まで到達する深さの切り込
みであって輪郭切り取り線を囲んで分離票よりも大きな輪郭を有する
輪郭ハーフカット線が形成され,輪郭ハーフカット線よりも内側の表
面領域に情報記載欄を備えてなり,伝票片裏面の台紙をめくって輪郭
ハーフカット線を切断し,輪郭ハーフカット線の内側部分を残した状
態で上紙から台紙を剥がし取ると伝票片を被着体に貼付でき,輪郭切
り取り線を切断して本票から分離票を切り離すと分離票に相当する部
位に台紙の情報記載欄が現れるようになっていることを特徴とするラ
ベル帳票。」
()構成要件の分説3
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりとなる(以下,分説した各
構成要件を,それぞれ「構成要件A」等という。)。
A台紙上に上紙が剥離可能に貼合された帳票であって,
B上紙は,本票と分離票とが輪郭切り取り線で隣接された伝票片を備え,
Cかつ分離票を除いた裏面領域に粘着剤を塗工した粘着剤層が設けられて
なるとともに,
D台紙は,粘着剤層と対向する表面領域に剥離剤を塗工した剥離剤層が設
けられ,
Eかつ台紙裏面から台紙表面まで到達する深さの切り込みであって輪郭切
り取り線を囲んで分離票よりも大きな輪郭を有する輪郭ハーフカット線が
形成され,
F輪郭ハーフカット線よりも内側の表面領域に情報記載欄を備えてなり,
G伝票片裏面の台紙をめくって輪郭ハーフカット線を切断し,輪郭ハーフ
カット線の内側部分を残した状態で上紙から台紙を剥がし取ると伝票片を
被着体に貼付でき,
H輪郭切り取り線を切断して本票から分離票を切り離すと分離票に相当す
る部位に台紙の情報記載欄が現れるようになっている
Iことを特徴とするラベル帳票。
()被告の行為4
被告は,業として,被告製品を製造,販売している。
()被告製品の構成5
被告製品の構成は,本件発明の構成要件に対応させると,次のとおりである
(乙1。以下,分説した被告製品の各構成を,それぞれ「構成a」等とい
う。)。
a台紙上に上紙が剥離可能に貼合された帳票であって,
b上紙は,ちょう付用票と配達証とがコの字のジッパーミシンで隣接され
た伝票片を備え,
cかつ配達証を除いた裏面領域にホットメルトを塗工した粘着剤層が設け
られてなるとともに,
d台紙は,粘着剤層と対向する表面領域(ただし,コの字のジッパーミシ
ンとコの字のハーフスリットとの間の粘着剤層と対向する箇所を除く。)
に剥離剤を塗工した剥離剤層が設けられ,
eかつ台紙裏面から台紙表面,剥離剤層及び粘着剤層を経て上紙まで切り
込まれた深さの切り込みであってコの字のジッパーミシンが形成された上
側,左側及び下側の箇所において配達証よりも大きなコの字を有するコの
字のハーフスリットが形成され,
fコの字のハーフスリットよりも内側の表面領域に情報記載欄を備えてな
り,
g伝票片裏面の台紙をめくってコの字のハーフスリットを切断し,コの字
のハーフスリットの内側部分を残した状態で上紙から台紙を剥がし取ると
伝票片を被着体に貼付でき,
hコの字のジッパーミシンを切断してちょう付用票から配達証を切り離す
と配達証に相当する部位に台紙の情報記載欄が現れるようになっている
iことを特徴とするラベル帳票。
()被告製品の本件発明の構成要件充足性6
被告製品の構成のうち,構成aは構成要件Aを,構成cは構成要件Cを充足
する。
なお,被告は,本件発明の「本票」及び「分離票」について,「本票」が,
伝票片のうち,商品を梱包したケースに伝票片を貼り付けた後,分離票を切
断した後も貼り付けられた状態で残される部分をいい,「分離票」が,伝票
片のうち,商品を梱包したケースに伝票片を貼り付けた後,切断されて分離
される部分をいうという程度の意義であれば,被告製品の「ちょう付用票」
及び「配達証」が,それぞれ本件発明の「本票」及び「分離票」に該当する
ことを争わないとしている。
2争点
()被告製品が本件発明の構成要件を充足するか。1
()本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか。2
ア無効理由1
本件発明が,米国特許第6410113号明細書(乙4の1。以下「乙
4の1公報」という。)に記載された発明(以下「乙4の1発明」とい
う。)に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすること
ができたものといえるか。
イ無効理由2
本件発明が,特開2002−14617号公報(乙4の2。以下「乙4
の2公報」という。)に記載された発明(以下「乙4の2発明」とい
う。)に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすること
ができたものといえるか。
()損害額3
第3争点に対する当事者の主張
1被告製品が本件発明の構成要件を充足するか。
(原告)
()構成要件Bについて1
被告製品の構成bの「コの字のジッパーミシン」は,本件発明の構成要件
Bの「輪郭切り取り線」に該当する。
ア「輪郭切り取り線」及び「コの字のジッパーミシン」の定義及び機能
本件明細書には,「輪郭切り取り線」との用語について,明確に定義さ
れていないものの,本件発明の構成要件Hには,「輪郭切り取り線を切断
して本票から分離票を切り離すと」とあり,「輪郭切り取り線」は,少な
くとも「本票から分離票を切り離すための切り取り線」であることは自明
である。そして,被告製品の「コの字のジッパーミシン」が「切り取り
線」であることは,被告も認めるところであり,被告製品の構成hには
「コの字のジッパーミシンを切断してちょう付用票から配達証を切り離
す」とある。
したがって,「コの字のジッパーミシン」は,少なくとも「(本票であ
る)ちょう付用票から(分離票である)配達証を切り離すための切り取り
線」であることは自明である。
このように,「コの字のジッパーミシン」は,「輪郭切り取り線」と同
様の機能を有する「切り取り線」である。
イ本件発明の「輪郭切り取り線」における「輪郭」の意義
「輪郭」の通常の意義は,「物の外形を形作っている線」であり,本件
発明の「輪郭切り取り線」によって外形を形作っているのは,「分離票」
である。
よって,本件発明の構成要件Bの「輪郭切り取り線」における「輪郭」
は,「分離票の外形を形作っている線」である。
被告は,「輪郭切り取り線」の「輪郭」とは,「ロの字」のものをいう
とし,その根拠の一つとして,「輪郭」の通常の意義が「輪」であること
を挙げている。
しかしながら,大辞林初版(第二刷)2553頁(甲11)では,「輪
郭」を,被告の引用する広辞苑と同様に「物の周囲をかたちづくっている
線」と定義し,その具体例として「なだらかな山の−」を挙げている。そ
して,「山の輪郭」という場合,これが山の上部のみの線を指し,山の右
端と左端を結んだ直線まで指すものでないことは明らかである。
被告は,「輪郭」という概念は,全体がつながっている外形を形作って
いる線を意味すると主張するが,「輪郭」という用語は,「輪」という漢
字を用いているものの,被告の主張する「輪」という意味に限定されるも
のではない。すなわち,被告は,「輪郭」という概念は,「輪(わ)」と
いう漢字の意義からも明らかなように,全体がつながって外形を形作って
いる線を意味し,これを文字の形状に当てはめた場合,「ロの字」とそれ
以外のもの(「コの字」,「Lの字」及び「一の字」)とを区別する概念
であると主張するが,本件発明は,「輪郭切り取り線」の形状を限定して
おらず,また,本件明細書においても「輪郭切り取り線」の形状を限定す
る記載はない。また,「輪郭」という用語は,「輪」という漢字を用いて
いるものの,被告の主張するように,「全体がつながって」外形を形づく
っている線に限定されるものでないことは,前記のとおりである。
以上のとおり,「輪郭」が始点と終点が同一である線でなければならな
いかのようにいう被告の主張は,誤りである。
ウ被告製品の「コの字のジッパーミシン」における「コの字」の意義
前記イのとおり,原告は,本件発明において,「輪郭」を「ロの字」に
限定していない。そもそも,「輪郭」は,本件発明の「輪郭切り取り線」
に用いられた用語で「切り取り線」を修飾するものである。一方,「コの
字」は,被告製品の構成bにおける「コの字のジッパーミシン」に用いら
れた用語で「ジッパーミシン」を修飾するものである。よって,通常の意
味における「輪郭」と,単なる「コ」という文字の形とを単に対比しても
全く意味がない。
ここで,前記のとおり,「コの字のジッパーミシン」は,「ちょう付用
票から配達証を切り離すための切り取り線」であり,被告製品の構成hに
は,「コの字のジッパーミシンを切断してちょう付用票から配達証を切り
離す」とある。すなわち,「コの字のジッパーミシン」がなければ,ちょ
う付用票から配達証を切り離せないのであり,配達証に相当する部位の台
紙の情報記載欄が現出しないことは明確である。
よって,「コの字のジッパーミシン」により配達証が上紙上に形作られ
ていることは明らかであり,「コの字のジッパーミシン」における「コの
字」の意義は,「配達証の外形を形作っている線」であることは明らかで
ある。
エ「コの字のジッパーミシン」は「輪郭切り取り線」に該当すること
以上のように,「コの字のジッパーミシン」における「コの字」は,
「分離票である配達証の外形を形作っている線」であり,「輪郭切り取り
線」における「輪郭」に該当する。そして,被告も認めるとおり,「ジッ
パーミシン」は,「切り取り線」である。したがって,「コの字のジッパ
ーミシン」は,「輪郭切り取り線」に該当する。
オ「輪郭切り取り線」の作用効果
被告は,本件発明の作用効果として本件明細書の【0047】を引用し
ているが,当該記載は,本件発明の一実施形態の作用効果であり,「輪郭
切り取り線」を「マイクロミシン線」に限定して解釈するものであって,
相当でない。
また,被告は,マイクロミシン線自体は,直接には【請求項2】の発明
に係る構成であるものの,外力により脱落するという課題は本件発明に共
通すると主張するが,何をもって「外力により脱落するという課題」が本
件発明に共通するのか,具体的な根拠を示していない。
さらに,被告は,被告製品において「コの字のジッパーミシン」を採用
したことによる作用効果について説明するが,前記のとおり,「コの字ジ
ッパーミシン」は,「輪郭切り取り線」に該当するから,被告の説明する
作用効果は,本件発明においても奏し得る作用効果の一つにすぎない。
カ本件明細書及び図面の記載
被告は,本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載を根拠の一つとして,
本件発明における「輪郭」との用語が,「ロの字」を想定していることが
理解できると主張する。
しかしながら,本件明細書の【0004】の記載は,配達票4−2を形
作っている切り取り線を「輪郭をかたどった」と表現しているにすぎない
のであって,当該記載から「輪郭」との用語が「ロの字」でなければなら
ないかのような特別な意義を導き出し得るものではなく,本件発明の「輪
郭切り取り線」の「輪郭」が「ロの字」を想定すると解するのは飛躍があ
る。
キ小括
以上より,被告製品の構成bは,本件発明の構成要件Bを充足する。
()構成要件Dについて2
本件発明の構成要件Dには,被告製品の構成d,すなわち,コの字のジッ
パーミシンとコの字のハーフスリットとの間の粘着剤層と対向する箇所に,
剥離剤層を設けず粘着剤層のみが存在するという構成も含まれるから,被告
製品の構成dは,本件発明の構成要件Dを充足する。
ア本件発明の構成要件Dは,「台紙は,粘着剤層と対向する表面領域に剥
離剤を塗工した剥離剤層が設けられ,」とされているだけで,剥離剤が塗
工される面積,範囲まで規定するものでない。すなわち,台紙は裏面と表
面の2つの面を有することから,そのうちの表面側(上紙と対向する側)
に剥離剤層が設けられていることを表現するために,「台紙は,粘着剤層
と対向する表面領域に剥離剤を塗工した剥離剤層」としたものである。そ
の一方で,台紙の表面側のいずれかの領域に剥離剤が塗工されてさえいれ
ばよいわけではなく,剥離剤を塗工する最低限の領域は,本件発明の構成
要件AないしIにより規定されることになるので,構成要件Dをもって,
本件発明が不明りょうとなることはない。
すなわち,そもそも剥離剤を台紙上に塗工するのは,台紙を剥がし取る
ためであることは当業者にとって自明であり,台紙のうち剥がし取る部分
は,台紙残票の外側部分(台紙残票以外の部分)であるから,この部分の
台紙の表面側には剥離剤が塗工されていなければならないことは,当業者
にとって自明である。
他方,台紙のその他の部分(台紙残票の部分)は,最終的に上紙の裏面
側に残るものであるから,この台紙残票の表面側には,剥離剤が塗工され
ていても塗工されていなくてもよい。なぜなら,少なくとも,台紙残票が
上紙の裏面側に貼着されてさえいればよいからである。仮に,被告が粘着
剤層のみが存在すると主張する部分に対応する箇所,すなわち,輪郭切り
取り線と輪郭ハーフカット線との間の粘着剤層と対向する箇所に,剥離剤
層が設けられていたとしても,上紙の裏面側の粘着剤層の粘着力により,
剥離剤層を介して台紙残票を上紙の裏面側に貼着しておくことは可能であ
り,そのことは,当業者であれば容易に想起できる。
したがって,本件発明の構成要件Dには,被告製品の採用する構成d,
すなわち,輪郭切り取り線と輪郭ハーフカット線との間の粘着剤層と対向
する箇所に,剥離剤層を設けず粘着剤層のみが存在するという構成も含ま
れるから,被告製品の構成dは,本件発明の構成要件Dを充足する。
イ被告は,本件明細書の【図5】(a)および段落【0036】の記載を
根拠に,本件発明の構成要件Dについて,粘着剤層のある箇所には剥離剤
層が必ず設けられていることを意味すると解し,被告製品は,「コの字の
ジッパーミシンとコの字のハーフスリットとの間の粘着剤層と対向する箇
所」には,剥離剤層がなく,粘着剤層のみであり,上紙と台紙とが直接に
貼着されており,このような構成を採用することにより特有の効果を奏し
得ることから,被告製品の構成dは,本件発明の構成要件Dを充足しない
と主張する。
しかしながら,本件明細書の【図5】(a)および段落【0036】は,
本件発明の一実施形態を示したものにすぎず,これらの記載をもって,本
件発明の構成要件Dを「粘着剤層のある箇所には,剥離剤層が(必ず)設
けられている」ことを意味すると解釈するのは不当である。また,被告が
特有の効果と主張するものは,本件発明も奏することのできる効果にすぎ
ない。
()構成要件Eについて3
本件発明の構成要件Eの「輪郭ハーフカット線」は,上紙にカットが一切
入っていないものに限定されるものでなく,被告製品の構成eの「台紙裏面
から台紙表面,剥離剤層及び粘着剤層を経て上紙まで切り込まれた深さの切
り込み」は,加工上形成されたものにすぎず,本件発明の構成要件Eの「台
紙裏面から台紙表面まで到達する深さの切り込み」に該当するから,被告製
品の構成eは,構成要件Eに該当する。
ア被告は,本件発明の構成要件Eは,「台紙裏面から台紙表面まで到達す
る深さの切り込み」であるのに対し,被告製品の構成eの「コの字のハー
フスリット」は,「台紙裏面から台紙表面,剥離剤層及び粘着剤層を経て
上紙まで切り込まれた深さの切り込み」であるから,「コの字のハーフカ
ットスリット」は「輪郭ハーフカット線」に該当しないと主張し,その根
拠として本件発明の出願経過と,被告製品において「コの字のハーフスリ
ット」を採用したことによる特有の効果を挙げている。
しかしながら,次のとおり,本件発明の「輪郭ハーフカット線」は,上
紙にカットが一切入っていないものに限定されるものでなく,被告が「ハ
ーフスリット」による特有の効果と主張するものは,単なる製造上の誤差
から生ずるものにすぎず,被告製品の構成eは,構成要件Eに該当する。
(ア)本件発明の出願経過
被告は,原告が平成19年2月9日付け意見書(乙3の2)において,
「本願発明における・・・『輪郭ハーフカット線』の要件である“台紙
表面まで到達する深さ”とは,ラベル表面から台紙表面まで(つまりラ
ベルのみ)をカットしたものでなく,台紙裏面から台紙表面まで(つま
り台紙のみ)をカットしたものである。・・・本願発明のように台紙裏
面から台紙表面まで到達する深さの輪郭ハーフカット線を形成すること
が出願前に周知であったとする技術的な根拠もない。」と説明し,本件
発明と周知技術とが相違する旨を強調したことにより特許査定を受けた
ものであるから,このような原告の意見は,本件発明の技術的範囲の解
釈に当たり当然参酌されるべきものであり,被告製品の構成eの「ハー
フスリット」は,「台紙」のみならず,剥離剤層及び粘着剤層を経て
「上紙」にまで切り込まれた深さの切り込みが入れられている構成であ
るから,ここでいう「台紙のみ」をカットした「ハーフカット線」には
該当しないと主張する。
このような原告の意見を本件発明の技術的範囲の解釈に当たり参酌す
べきとの被告の主張は,原告も否定するものではないが,原告の前記意
見書の記載から,被告製品の構成eの「ハーフスリット」は,「台紙」
のみでなく,剥離剤層及び粘着剤層を経て「上紙」にまで切り込まれた
深さの切り込みという構成であって,「台紙のみ」をカットした「ハー
フカット線」に該当しないという被告の主張は,次のとおり,理由がな
い。
原告が前記意見書において,「“台紙表面まで到達する深さ”とは,
ラベル表面から台紙表面まで(つまりラベルのみ)をカットしたもので
はなく,台紙裏面から台紙表面まで(つまり台紙のみ)をカットしたも
のである。」と記載したのは,次の理由からである。
すなわち,引用文献a[実願平05−034482号(実開平06−
087974号)のCD−ROM]の「切り取り線」(切離線4,5,
6)は,すべて「上紙」(荷札ラベル)にカットを入れたものであり,
本件発明のように台紙にカットを入れた「輪郭ハーフカット線」に相当
する構成は,記載も示唆もされていない。それにもかかわらず,審査官
は,これら「切り取り線」(切離線4,5,6)を,台紙をカットする
ための「輪郭ハーフカット線」と同一の構成と認定したことから,原告
は,前記意見書において,これら「切り取り線」(切離線4,5,6)
は「上紙」(荷札ラベル)側からカットを入れたものであり「台紙」
(剥離シート)側からカットを入れたものではなく,台紙を切断するた
めの切り込みではないことを明確にするために,あえて「…(つまりラ
ベルのみ)…(つまり台紙のみ)…」と記載したものである。
原告が前記意見書においてこのように記載したのは,本件発明の出願
時において,出願人が知る限りにおいて,台紙にカットを入れるという
ことは全く行われていなかったという技術的背景があったからである。
すなわち,それまで,台紙はすべて剥離して捨ててしまうものであり,
カットを入れてしまうと台紙が残ってしまうため,そのようなカットを
入れることは,当業者であっても全くの想定外であった。台紙にカット
を入れるという「輪郭ハーフカット線」は,全くの新規な技術的思想で
あり,このような状況において,引用文献aに記載された「切り取り
線」(切離線4,5,6)に代表される従来の「上紙」側からカットを
入れた構成と,本件発明の「輪郭ハーフカット線」との相違点を明確化
するために,従来の切り取り線は,「(つまりラベルのみ)」,輪郭ハ
ーフカット線は,「(つまり台紙のみ)」と対応表記させたものである。
前記意見書の記載は,本件発明の「輪郭ハーフカット線」を「上紙には
一切カットが入っていない」ものと限定する趣旨ではない。
(イ)構成eの「ハーフスリット」における作用効果
被告は,「“台紙”のみならず,“上紙”にまで切り込まれた切り込
みをいれたのは,台紙がハーフスリットの箇所において,確実に分離さ
れるようにするためである。」と説明するが,このような「“台紙”の
みならず,“上紙”にまで切り込まれた切り込み」は,意図的に形成し
なくても,加工上,形成され得るものであり,得られる効果も,当然に
得られる効果にすぎず,特別なものではない。
例えば,輪郭ハーフカット線は,上紙と台紙とを貼合した後,台紙側
から上紙方向に向けて入れられるものであり,このカットの際,上紙に
も切り込みが入ることがある。その一方,本件発明の構成要件Gには
「伝票片裏面の台紙をめくって輪郭ハーフカット線を切断し,輪郭ハー
フカット線の内側部分を残した状態で上紙から台紙を剥がし取ると伝票
片を被着体に貼付でき,」とあり,この「輪郭ハーフカット線」は,台
紙を切断するための「切り込み」であるとともに,この「輪郭ハーフカ
ット線」により上紙を完全に切断してしまわなければ,多少上紙にも切
り込みが入っていても構わないことは,当業者にとって自明である。
さらに,被告製品を見ると,被告製品における「切り取り線」の一つ
である「ジッパーミシン」は,台紙側にも切り込みが入っているが,こ
の切り込みは,意図的に入れたものとは到底思えない。
したがって,被告が主張する「ハーフスリット」による前記作用効果
は,従来からある切り込みにより十分得られる効果であり,単なる製造
上の誤差から生ずる効果にすぎないのであって,被告製品に特有の効果
ではない。
イなお,被告は,被告製品の構成eの「コの字のハーフスリット」が本件
発明の構成要件Eの「輪郭ハーフカット線」に該当しない理由として,
「輪郭」と「コの字」との相違も指摘するが,これが相違点といえないこ
とは,前記()と同様であって,被告製品の構成eの「コの字のハーフス1
リット」は,本件発明の構成要件E「輪郭ハーフカット線」に該当する。
ウ小括
以上のとおり,被告製品の構成eは,本件発明の構成要件Eを充足する。
()構成要件F,G及びHについて4
本件発明の構成要件Fと被告製品の構成f,本件発明の構成要件Gと被告
製品の構成g及び本件発明の構成要件Hと被告製品の構成hの各相違点とし
て被告が主張するのは,いずれも「コの字のハーフスリット」が「輪郭ハー
フカット線」に該当しないという点だけであるが,これが相違点といえない
ことは,前記(),()で述べたとおりである。13
したがって,被告製品の構成f,g及びhは,それぞれ本件発明の構成要
件F,G及びHを充足する。
()構成要件Iについて5
被告は,被告製品の構成a及びcが,それぞれ本件発明の構成要件A及び
Cを充足することを認めているところ,前記()ないし()のとおり,被告製14
品の構成b,d,e,f,g及びhは,それぞれ本件発明の構成要件B,D,
E,F,G及びHを充足するから,ラベル帳票である被告製品は,構成要件
Iを充足する。
(被告)
()構成要件Bについて1
本件発明の構成要件Bの「輪郭切り取り線」の「輪郭」とは「ロの字」の
ものをいうと解され,被告製品の「コの字のジッパーミシン」は,「切り取
り線」ではあるが,「輪郭」切り取り線ではないから,本件発明の「輪郭切
り取り線」には該当しない。
ア「輪郭」の通常の意義
本件明細書には,「輪郭切り取り線」との用語の定義はされていないと
ころ,「輪郭」の通常の意義につき,例えば,広辞苑には,「輪郭」とは
「物の外形を形づくっている線」とある(乙2)。
そうすると,「ロの字」であればともかく,「コの字」では,「物の外
形を形づくっている線」というには足りないことになる。
原告は,「ちょう付用票から配達証を切り離すための切り取り線」であ
れば,「コの字」のものでも「輪郭」切り取り線に該当すると主張する。
しかしながら,「コの字」に限らず,「Lの字」や「一の字」でも,
「ちょう付用票から配達証を切り離すための切り取り線」であることには
変わりはないところ,「コの字」や「Lの字」や「一の字」は,すべて物
の外形「の一部」を形作っている線にすぎず,「輪郭」とはいい難く,こ
のような原告の主張は,理由がない。
そもそも,「輪郭」という概念は,「輪(わ)」という漢字の意義から
も明らかなように,全体がつながって外形を形作っている線を意味し,こ
れを文字の形状に当てはめた場合,「ロの字」とそれ以外のもの(「コの
字」,「Lの字」及び「一の字」)とを区別する概念である。原告の主張
は,その線引きをずらして,「ロの字」及び「コの字」と,「Lの字」及
び「一の字」とを,区別するものとしており,恣意的といわざるを得ない。
イ本件明細書及び図面の記載
本件明細書の【発明の詳細な説明】をみると,【背景技術】として例示
されている【図9】について,【0004】には,「同図に示す配送伝票
4は,貼付票4−1の領域内に配達票4−2が設けられていて,配達票4
−2の輪郭をかたどった切り取り線4aが形成され,」と記載されている。
この【図9】をみると「切り取り線4a」は明らかに「ロの字」の形状で
ある。本件明細書は,この「切り取り線4a」を「輪郭をかたどった」と
形容している。本件明細書の実施例の記載のみならず,このような【背景
技術】の説明からも,本件発明における「輪郭」との用語は,「ロの字」
を想定していることが理解できる。
ウ「輪郭切り取り線」の作用効果
「輪郭切り取り線」の作用効果は,例えば,本件明細書の段落【004
7】には,「貼り付けられた伝票片P1において,分離票P12の輪郭切
り取り線13には切断しにくいマイクロミシン線13−2が含まれている
ので,配達時に輪郭切り取り線13に外力が加えられても分離票P12が
切り離されて脱落することはない。」との記載がある。この記載からすれ
ば,「輪郭切り取り線13」に切断しにくい「マイクロミシン線13−
2」が含まれているので,「分離票P12」が外力により切り離されて脱
落しにくくなることになる。
ところが,「ロの字」であればともかく,「コの字」であれば,一方は
既に切れた状態になっている。
それでは,わざわざ「輪郭切り取り線13」に「マイクロミシン線13
−2」を含ませて,外力により切断されにくくしたというような作用効果
は失われてしまう。なお,マイクロミシン線自体は,直接には【請求項
2】の発明に係る構成であるが,外力により脱落するという課題は,本件
発明にも共通する。
そのような問題点はありながらも,被告があえて「コの字」の構成とし
たのは,「3枚構造」のものと異なり,「2枚構造」のものであると,ど
うしても「情報記載欄」が狭くなることから,情報記載欄を確保してほし
いとのユーザーの要望があったためである。被告製品では,右端を粘着せ
ず,「コの字」の構成とすることにより,情報記載欄を右方に少し広くす
ることが可能になるとともに,配達証も少し広くすることが可能になり,
さらに,「ロの字」よりも切り取りやすいという利点がある。
エ「コの字のジッパーミシン」は「輪郭切り取り線」に該当しないこと
以上のとおり,本件発明の構成要件Bの「輪郭切り取り線」とは,「ロ
の字」状の切り取り線を意味すると解されるから,被告製品の構成bの
「コの字のジッパーミシン」は,本件発明の構成要件Bの「輪郭切り取り
線」には該当しない。
したがって,被告製品の構成bは,本件発明の構成要件Bを充足しない。
()構成要件Dについて2
本件発明の構成要件Dの「剥離剤層」は「粘着剤層」と対向する表面領域
に剥離剤層を塗工するものである。本件明細書の【図5】(a)においても,
粘着剤層のある箇所には,剥離剤層が設けられている。また,本件明細書の
【0036】には,「台紙11−2の表面側には,上紙11−1の粘着剤層
15と対向する部位,つまり分離票P12を除いた領域に剥離剤層25が塗
工されている。」と記載されており,「分離票P12」を除いた領域に剥離
剤層が設けられていることが認識できる。
他方,被告製品においては,「コの字のジッパーミシンとコの字のハーフ
スリットとの間の粘着剤層と対向する箇所」には,剥離剤層がなく,粘着剤
層のみであり,上紙と台紙とが直接に粘着されている。このように,被告製
品の構成dのような構成を採用したのは,上紙と台紙残票(ハーフスリット
より内側の部分)との粘着を強固にし,ハーフスリットがコの字状であるた
めに台紙残票の右端が外力によりめくれやすくなることを防止するとともに,
台紙残票の外側の部分(ハーフスリットより外側の部分)と台紙残票とを分
離しやすくするためであり,本件発明の構成要件Dとは異なる作用効果を奏
するものである。
したがって,被告製品の構成dは,本件発明の構成要件Dを充足しない。
()構成要件Eについて3
ア「輪郭ハーフカット線」の「深さ」について
「輪郭ハーフカット線」の「深さ」について,本件発明の構成要件Eは,
「台紙裏面から台紙表面まで到達する深さ」であるとしている。しかし,
被告製品の構成eの「コの字のハーフスリット」は,「台紙裏面から台紙
表面,剥離剤層及び粘着剤層を経て上紙まで切り込まれた深さ」であるか
ら,本件発明の構成要件Eの前記構成に該当しない。
この点,原告は,本件発明に係る出願の審査手続において,審査官から,
平成18年12月8日付け拒絶理由通知書(乙3の1)を受けた。これに
対し,原告は,平成19年2月9日付け意見書(乙3の2)を提出し,本
願発明における「『輪郭ハーフカット線』の要件である“台紙表面まで到
達する深さ”とは,ラベル表面から台紙表面まで(つまりラベルのみ)を
カットしたものでなく,台紙裏面から台紙表面まで(つまり台紙のみ)を
カットしたものである。」と説明している。そして,そのような深さの
「輪郭ハーフカット線を形成することが出願前に周知であったとする技術
的な根拠もない。」と説明し,本件発明と周知技術との相違点として強調
している。
原告は,前記意見書と共に手続補正書(乙3の5)を提出して,出願当
初の特許請求の範囲(乙3の3)及び明細書(乙3の4)について手続補
正をし,それにより特許査定を受けたものである。このような本件発明の
出願経過における原告の意見は,本件発明の技術的範囲の解釈に当たり,
当然参酌されるべきものである。
そうだとすれば,被告製品の構成eの「ハーフスリット」のように,
「台紙」のみならず,剥離剤層及び粘着剤層を経て「上紙」にまで切り込
まれた深さの切り込みが入れられている構成は,ここでいう「台紙のみ」
をカットした「ハーフカット線」には該当しないことになる。
なお,被告が「台紙」のみならず,「上紙」にまで切り込みを入れたの
は,台紙が,ハーフスリットの箇所において,確実に分離されるようにす
るためである。仮に,本件発明のように,台紙のみをカットしようとする
と,製造誤差などにより台紙が完全に分離されない状態になるおそれもあ
る。そこで,被告は,被告製品の設計上,上紙にまで多少切り込みが入る
ようにして,台紙が確実に分離されるようにしている。上紙まで切り込ま
れた深さの切り込みが入れられていても,被告製品は,粘着剤として粘着
力の強いホットメルトを用いているので,外力により容易に剥離されるこ
とはない。
イ「輪郭ハーフカット線」の「輪郭」について
「輪郭ハーフカット線」の「輪郭」が「ロの字」を意味することは,前
記()において,「輪郭切り取り線」について主張したのと同様である。1
「輪郭ハーフカット線」と「輪郭切り取り線」とは,本件発明において密
接に関連しており,かつ,明細書においては,特段の事情のない限り,同
一の用語は同一の意義に解されるのが原則であるから,「輪郭ハーフカッ
ト線」における「輪郭」は,「輪郭切り取り線」における「輪郭」と同義
に解される。
そうだとすると,被告製品の構成eの「コの字のハーフスリット」は,
「ロの字」である本件発明の構成要件Eの「輪郭ハーフカット線」には該
当しないことになる。
ウ「コの字のハーフスリット」は「輪郭ハーフカット線」に該当しないこ

以上のとおり,被告製品の構成eの「コの字のハーフスリット」は,そ
の「深さ」の点においても,その「形状」の点においても,本件発明の構
成要件Eの「輪郭ハーフカット線」には該当しないから,被告製品の構成
eは,本件発明の構成要件Eを充足しない。
()構成要件F,G及びHについて4
被告製品の構成f,g及びhの「コの字のハーフスリット」が,それぞれ
本件発明の構成要件F,G及びHの「輪郭ハーフカット線」に該当しないこ
とは,前記(),()で述べたとおりである。13
したがって,被告製品の構成f,g及びhは,それぞれ本件発明の構成F,
G及びHを充足しない。
()構成要件Iについて5
被告製品の構成は,本件発明の構成要件B及びDからHまでを充足しない
から,「構成要件AからHまでを満たすことを特徴とするラベル帳票」とい
う本件発明の構成要件Iを充足しない。
2本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか。
()本件発明が,乙4の1公報に記載された発明(乙4の1発明)に周知技1
術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものとい
えるか(無効理由1)。
(被告)
本件発明は,乙4の1公報に記載された発明(乙4の1発明)に,「分離
票」の部分に粘着剤層を設けないという周知技術(乙4の3ないし8)を適
用することにより,当業者において容易に発明をすることができたものであ
る。
ア乙4の1発明の内容
乙4の1発明は,次のとおりである(なお,本件発明の用語に相当する
乙4の1発明における用語を括弧内に付した。)。
1a台紙(=ライナー18及びライナー縁取り部分18b)上に上紙
(=ラベル14及びラベル縁取り部分14b)が剥離可能に貼合された
帳票(=出荷用積層体12)であって,
1b上紙は,本票(=ラベル縁取り部分14b)と分離票(=ラベル1
4)とが輪郭切り取り線(=周辺ダイカット34)で隣接された伝票片
(=出荷用積層体12)を備え,
1cかつ分離票の一部(=接着剤非形成部分26)を除いた裏面領域に
粘着剤を塗工した粘着剤層(=接着剤20)が設けられてなるとともに,
1d台紙は,粘着剤層と対向する表面領域に剥離剤を塗工した剥離剤層
(=剥離剤22)が設けられ,
1eかつ台紙裏面から台紙表面まで到達する深さの切り込みであって輪
郭切り取り線を囲んで分離票よりも大きな輪郭を有する輪郭ハーフカッ
ト線(=周辺ダイカット36)が形成され,
1f輪郭ハーフカット線よりも内側の表面領域に情報記載欄(=第2ア
ドレス30)を備えてなり,
1g伝票片裏面の台紙をめくって輪郭ハーフカット線を切断し,輪郭ハ
ーフカット線の内側部分を残した状態で上紙から台紙を剥がし取ると伝
票片を被着体に貼付でき,
1h輪郭切り取り線を切断して本票から分離票を切り離すと分離票に相
当する部位に台紙の情報記載欄が現れるようになっている
1iことを特徴とするラベル帳票。
イ乙4の1発明と本件発明との対比
乙4の1発明と本件発明とを対比すると,乙4の1発明の構成1a,1
b,1dから1hまでは,それぞれ,本件発明の構成要件A,B,Dから
Hまでに一致する。
また,乙4の1発明の構成1cは,「分離票の一部(=接着剤非形成部
分26)を除いた」部分に粘着剤層が設けられている点において,「分離
票を除いた」(言い換えれば,「分離票の全部を除いた」)部分に粘着剤
層が設けられている本件発明の構成要件Cとは相違するが,そのほかの点
において,乙4の1発明の構成1cは,本件発明の構成要件Cと一致する。
なお,本件発明の構成要件Iは,「(本件発明の構成要件AからHまで
を備えた)ことを特徴とするラベル帳票。」であるので,「(乙4の1発
明の1a,1b,1dから1hまでを備えた)ことを特徴とするラベル帳
票。」とは相違するが,他の相違点が一致すれば,自ずから一致する構成
なので,独立した相違点として指摘しない。
以上のとおり,乙4の1発明は,本件発明とは,乙4の1発明の構成1
cが,「分離票の一部を除いた」部分に粘着剤層を設けているのに対し,
本件発明の構成要件Cが「分離票の全部を除いた」部分に粘着剤層を設け
ている点において相違し,それ以外の点はすべて一致する。
ウ本件発明と乙4の1発明との相違点が周知の構成であること
本件発明と乙4の1発明の相違点に係る構成は,公報(乙4の3ないし
8)に開示された周知の構成である。そのような構成を帳票において採用
するかどうかは,乙4の1発明のように分離票の再貼付の必要があるかど
うかなど,分離票の使用目的などに従い定められる設計的な事項にすぎな
い。
例えば,登録実用新案第3094763号公報(乙4の3)の明細書に
は,「【0051】図2(b),図2(c)に示すように,接着剤15a
は,受領書7の裏面には塗布されていない。」とあり,この点は,同公報
の図2(b)にも明りょうに示されている。このように,分離票の裏面に
粘着剤層を設けないという構成は,登録実用新案第3063089号公報
(乙4の4),特開2001−305966号公報(乙4の5),特開2
003−276363号公報(乙4の6),特開2003−276364
号公報(乙4の7),実願平5−34482号(実開平6−87974
号)のCD−ROM(乙4の8)などにも開示されている。
エ乙4の1発明に前記の周知技術を適用することが容易であること
乙4の1発明に,前記の周知技術を適用して,本件発明との相違点に係
る「分離票の裏面に粘着剤層を設けない」という構成を設けることは,次
のとおり,当業者において容易になし得たことである。
(ア)技術分野の共通性
まず,乙4の1発明の技術分野と前記の周知技術を裏付ける公報(乙
4の3ないし8)に記載の技術分野は,いずれも,貼付可能な伝票に関
するものであり,乙4の1発明と前記の周知技術とは,このような狭い
技術分野においても共通している。
したがって,この点のみ見ても,貼付可能な伝票という本件発明の技
術分野における当業者には,乙4の1発明に,分離票の部分に粘着剤層
を設けないという周知の構成を適用する動機付けがあるといえる。
(イ)課題が周知であること
a本件発明の課題について
本件発明が,構成要件Cにおいて,分離票の部分に粘着剤層を設け
ないとの構成を備えることの技術的な意義について,本件明細書の
【0048】には,「ここで分離票P12には粘着剤層15が塗工さ
れておらず台紙11−2上に重なっているだけなので,台紙11−2
から簡単に切り離すことができる。」との記載がある。この記載から
は,粘着剤を分離票の裏面に塗工されていると,分離票を簡単に切り
離すことができないという課題を読み取ることができる。
b本件発明の課題が周知であること
本件発明と乙4の1発明との相違点に係る構成が周知であるばかり
ではなく,当該構成が解決しようとする課題,すなわち,粘着剤が分
離票の裏面に塗工されていると,分離票を簡単に切り離すことができ
ず,その扱いがしにくくなるという課題もまた周知である。
例えば,特開2001−305966号公報(乙4の5)の【00
13】には,「前記各配達票兼受領票11a,11b,11c,11
dの裏面には,粘着剤5が存在しないので,取り扱い易いとともに経
済的である。」との記載がある。この記載からは,「粘着剤5」が
「配達票11aから11dまで」の裏面に粘着剤5が存在していたの
では,取り扱いにくくなり,かつ経済的でもないという課題が認めら
れる。また,特開2003−276363号公報(乙4の6)の【0
033】には,「配達票B2の裏面が糊抜き部dとなっているので,
図3(B)に示すように,配達票B2を容易に分離することができ
る。」との記載がある。この記載からは,「糊」が「配達票B2」の
裏面にあると,容易に分離することができないという課題が認められ
る。さらに,実願平5−34482号(実開平6−87974号)の
CD−ROM(乙4の8)の【0006】には,「分離部の裏面には
接着剤層が存在しないため,分離部は配送物に貼着されない。したが
って,切離線に沿って切ると,分離部を荷札ラベルおよび配送物から
分離することができ,配送業者用の受領書として使用することができ
る。」との記載がある。この記載からは,分離部の裏面に接着剤層が
存在すると,分離することができず,受領書として使用することがで
きないとの課題が認められる。
このように,分離票の裏面に粘着剤層が存在したのでは,分離票を
分離することができないか,分離することができたとしても,容易で
はないし,その扱いもしにくくなるという課題は,周知の課題といえ
る。
c乙4の1発明においても当該周知の課題は生じ得ること
前記のような分離票の裏面に粘着剤層が存在したのでは,分離票を
分離することができないか,分離することができたとしても,容易で
はないし,その扱いもしにくくなるとの周知の課題は,乙4の1発明
においても,生じ得ることである。
例えば,「ラベル14(=分離票)」を,「返送アドレス24」の
上部上に強固に貼付するためであれば,乙4の1発明の構成のように,
「ラベル14(=分離票)」の裏面に「接着剤20(=粘着剤層)」
を残すことになろう。しかし,「ラベル14(=分離票)」を,例え
ば,受領書として用いる場合には,その裏面に「接着剤20(=粘着
剤層)」があることは,分離票として扱う際には,分離しにくくなる
し,分離した後も扱いにくくなるという周知の課題が生じ得ることは
明らかである。
したがって,乙4の1発明の「ラベル14(=分離票)」の使用目
的が変われば,前記の周知の課題が生じ得るといえる。
d小括
このように,乙4の1発明においても周知の課題が生じ得ることか
ら,乙4の1発明について,その課題を解決するために,分離票の裏
面に粘着剤層を設けないという周知の構成を適用する動機付けが認め
られる。
(ウ)乙4の1発明及び周知技術により本件発明を容易になし得たこと
このように,乙4の1発明と前記の周知技術は,技術分野の共通性が
高く,しかも周知技術の課題もまた周知のものである。したがって,乙
4の1発明に当該周知の課題に基づいて周知の構成を適用することは,
いわば設計変更程度のことであり,当業者において容易になし得たこと
である。
オ総括
以上のとおり,本件発明は,乙4の1発明に前記の周知技術を適用する
ことにより,貼付可能な伝票という本件発明の技術分野における当業者に
おいて容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件特許は,特許法29条2項に違反してされたものであ
り,特許法123条1項2号により無効とされるべきものである。
カ原告の主張について
(ア)乙4の1発明の構成1bの「ラベル縁取り部分14b」が,本件発
明の構成要件Bの「本票」に該当すること
乙4の1発明の構成1bの「ラベル縁取り部分14b」は,台紙を剥
離した後,「ラベル14」を分離することが可能な状態のまま,商品に
「貼付」されるものである。他方,本件発明の構成要件Bの「本票」も,
「台紙11−2」を「輪郭ハーフカット線23」の外側の部分において
剥離した後,「分離票P12」を分離することが可能な状態のまま,商
品に「貼付」されるものである。
そのような機能との関係において,乙4の1発明の構成1bの「ラベ
ル縁取り部分14b」は,本件発明の構成要件Bの「本票」と同様の構
成を有するものである。
(イ)「本票」が「伝票片」として情報を表示するものであり,乙4の1
発明の構成1bの「ラベル縁取り部分14b」と相違するとの原告の主
張に理由がないこと
a乙4の1発明の「ラベル縁取り部分14b」は情報の表示を排除し
ないこと
乙4の1発明において「ラベル縁取り部分14b」の直接の課題は,
「ラベル14」を分離することが可能な状態のまま,商品に「貼付」
することにある。そのために,乙4の1発明には「ラベル縁取り部分
14b」に文字を記載することについて言及がないにすぎない。
したがって,乙4の1発明において,「ラベル縁取り部分14b」
に文字を記載するなど情報を表示することは排除されていない。
実際,「ラベル縁取り部分14b」に相当する箇所に情報を記載す
ることは技術常識であり,そのような構成を開示した公知例も多数あ
る。例えば,乙4の2発明の「バーコード9」は,【図1】からも明
らかなように,「受領確認領域」を剥離した後も,表示ラベルの下部
の「縁」に当たる「情報領域A」に「バーコード9」の下半分が残る
ため,「荷情報」が「表示ラベル3」にもとどめられることになる。
また,特開平5−341716号公報(乙7の1)の明細書の【00
08】には,「送信宛先用ラベル片以外の余白部分に送付先,送信日,
送付担当者等の必要事項を印字して使用される。」との記載がある。
この「余白部分」は,乙4の1発明の「ラベル縁取り部分14b」に
相当すべきものであり,このような余白にも,情報が表示されること
がある。さらに,特開2002−72888号公報(乙7の2)の
【0011】には,「固着片11cは,識別情報11gを表示し」
(同公報3欄4行ないし5行)との記載がある。「固着片11c」は,
【図1】からも明らかなように左上のわずかな領域であり,乙4の1
発明の「ラベル縁取り部分14b」に相当すべきものである。このよ
うな箇所に「識別情報11g」が表示される。
以上のとおり,乙4の1発明において,「ラベル縁取り部分14
b」に情報を表示することを排除しておらず,また,「ラベル縁取り
部分14b」に相当する箇所に情報を表示する構成は,周知の技術で
もある。
b本件発明の「本票」は情報の表示をするものに限定されないこと
本件発明の構成要件Bの「伝票片」は,「本票」及び「分離票」か
らなる。「分離票」に情報が表示されていれば,「本票」には情報が
表示されていなくとも,「伝票片」になり得る。そうだとすると,乙
4の1発明の「ラベル縁取り部分14b」は,その箇所に情報を表示
しない場合においても,本件発明の構成要件Bにいう「本票」に相当
することになる。
また,本件発明においては,一方において,「台紙」に情報記載欄
が設けられることについてこそ,技術的思想の一内容として,特許請
求の範囲の記載により特定されている。ところが,他方において,本
件発明の特許請求の範囲には,「本票」において情報が表示されるも
のに限定する記載はなく,発明の詳細な説明にもそのような定義はな
い。実施例に記載された「本票」が情報を表示するからといって,発
明の技術的範囲であればともかく,特許の有効性に係る発明の要旨を
そのようなものに限定して解釈することは許されない。「本票」は,
あくまで「分離票」を分離することが可能な状態のまま,商品に「貼
付」される「伝票片」の一部として特定されているにすぎない。「本
票」に情報を表示することについての限定はない。
以上のとおり,本件発明の構成要件Bの「本票」は,情報を表示す
るものに限定されない。
c一致点に係る原告の主張は失当であること
このように,①乙4の1発明の構成1bの「ラベル縁取り部分14
b」は,情報を表示することを排除しておらず,②本件発明の「本
票」は,情報を表示するものに限定されないから,「本票」は,「伝
票片」として情報を表示するものであり,乙4の1発明の構成1bの
「ラベル縁取り部分14b」と相違するとの原告の主張は,理由がな
い。
(ウ)原告は,本件発明の構成要件Gについても,乙4の1発明の「ラベ
ル縁取り部分14b」が,「伝票片」の一部である「本票」に相当しな
いと主張するが,この主張に理由がないことは,前記(ア),(イ)と同様
である。
(エ)乙4の1発明に前記の周知技術を適用する動機付けがあること
まず,乙4の1発明では,本件発明の「輪郭切り取り線」及び「輪郭
ハーフカット線」という二重の輪郭線に相当すべき「周辺ダイカット3
4」及び「周辺ダイカット36」の構成が採用され,かつ「分離票」に
相当すべき「ラベル14」の剥離剤層の裏面に粘着剤層を設ける構成が
示されている。
「分離票」に相当すべき「ラベル14」の裏面に粘着剤層を設ける構
成の課題は,乙4の1公報にも,また乙4の2公報にもあるとおり,
「分離票」を再貼付することにあり,そのために,粘着剤層を設ける構
成が採用されている。ここで,乙4の1発明と組み合わせるべき前記の
周知技術を記載した公報(乙4の5,6)には,前記のとおり,「分離
票」の裏面に粘着剤層を設けない構成により解決すべき課題が明確に記
載されている。「分離票」の裏面に粘着剤層がなければ,容易に分離し
得ることや,取扱いがしやすくなることは,公知例の記載を待つまでも
なく自明ともいえるが,このように公知例にも明確に記載がある。
このような乙4の1発明の課題(分離票を再貼付すること)とは異な
る周知技術により解決すべき課題(分離しやすさ,扱いやすさ)が公知
例に明確に示唆されていることは,当業者において,乙4の1発明の
「ラベル14」の裏面に再貼付のために粘着剤層を設けるとの構成を,
周知技術にあるような「ラベル14」の裏面に粘着剤層を設けない構成
に置き換えるだけの動機付けになり得るというべきである。
したがって,乙4の1発明の構成の一部を周知技術の構成に置き換え
る動機付けがないとの原告の主張は理由がない。
(オ)乙4の1発明に周知技術を適用する阻害要因がないこと
原告が主張する阻害要因は,乙4の1発明に周知技術を適用すること
自体が技術的に阻害されるというものではないから,阻害要因の主張と
はなり得ない。技術的な阻害性がないことは,乙4の1発明の「ラベル
14」の裏面上の一部に「接着剤非形成部分26」が設けられているこ
とからも明らかである。貼付可能な伝票の技術分野において,分離票の
裏面に粘着剤層を設ける構成も,設けない構成もいずれも周知であるこ
とは,前記のとおりである。乙4の1発明において,分離票の裏面に粘
着剤層を設けない構成にすることを妨げる技術的な要因はない。
また,作用効果という観点においても,原告が主張する阻害要因は,
乙4の1発明に周知技術を適用することにより得られる本件発明の作用
効果自体が阻害されるというものではないから,阻害要因の主張とはな
り得ない。
原告の阻害要因の主張は,乙4の1発明に周知技術を適用することに
より,乙4の1発明の作用効果の一部である「再貼付」という作用効果
が失われると主張しているにすぎないが,それにより,本件発明の作用
効果が阻害されるものでないだけでなく,「再貼付」という作用効果が
残存したのでは,本件発明の作用効果がかえって阻害されることになる。
したがって,原告の阻害要因の主張は,乙4の1発明と周知技術の組
合せ自体を阻害するものでなく,また,乙4の1発明の使用目的が達成
されないことにより,本件発明の作用効果が阻害されるという関係にあ
るものでもないから,阻害要因の主張として失当であり,理由がない。
(原告)
ア本件発明と乙4の1発明との対比
本件発明と乙4の1発明とは,本件発明の構成要件B,C及びGにおい
て相違する。
(ア)構成要件Bについて
a本件発明の構成要件Bは,「上紙は,本票と分離票とが輪郭切り取
り線で隣接された伝票片を備え,」というものである。これに対して,
被告は,乙4の1公報のラベル縁部14bとラベル14が,それぞれ
本件発明の本票と分離票に相当すると主張する。
しかしながら,本件発明では,本票と分離票とによって伝票片を構
成しており,この伝票片に情報を記載するようになっている。
この点に着目すると,乙4の1発明のラベル縁部14bは,ラベル
14の周縁部を取り囲むように設けられたものであり,部材名を
labelborderlabelと称していることからも明らかなように,あくまで
(ラベル)の(縁),つまりラベルの一部分であって,単にラborder
ベル14を支持する支持枠として機能する部材にすぎない。
また,このラベル縁部14bは,何も記載されていない状態が図示
されていることから明らかなように(FIG1ないし3),そこに.
情報を記載するという技術思想は全くなく,本件発明の本票のような
情報を表示する伝票としての機能を備えたものではなく,伝票片を構
成するものとはいえない。
そもそも,乙4の1発明の出荷用積層体12は,顧客に商品を発送
するとき,顧客が主に商品を返品するときの両方に使えるラベルであ
り,特にラベル14に関しては,商品を受け取った顧客が返品を必要
とするときのみ剥がし取り,剥離剤非形成部分28に返品承認番号3
2を記入し,送り主に返送されるようにして使用されるものである。
これに対し,本件発明は,配送伝票として用いられるものであって,
本票と分離票のそれぞれに配送先,配送元,商品名等の情報が記入さ
れた状態でケースに貼付されるものであり,配送業者は受取人にケー
スを配達すると,本票から分離票を剥がし取り,分離票に受取人のサ
イン又は捺印をもらって,分離票を配達控えとして持ち帰るようにし
て使用されるものである。このように,乙4の1発明と本件発明とは
用途が全く相違するのであり,乙4の1発明には,ラベル14を剥が
し取り,配達控えとして持ち帰るという技術思想はない。このため,
乙4の1の出荷用積層体12は,ラベル14の部分が主な機能であっ
て,ラベル縁部14bとラベル14との間に本件発明のような本票
(主)と分離票(従)という関係性は見いだせない。
以上より,ラベル縁部14bを本票とし,ラベル14を分離票とす
る被告の主張は,誤っており,乙4の1発明のラベル縁部14bは,
本件発明の本票に相当しないから,構成要件Bは相違する。
b被告は,乙4の1発明の「ラベル縁取り部分14b」は,情報の表
示を排除しないと主張する。
しかしながら,乙4の1公報には,「ラベル縁取り部分14bに情
報を表示する」との記載が一切なく,「ラベル縁取り部分14bに情
報を表示することを排除している」と同視し得るものである。そして,
前記のとおり,乙4の1発明における出荷用積層体12は,顧客に商
品を発送する時,顧客が主に商品を返品する時の両方に使えるラベル
であり,特に,ラベル14に関しては商品を受け取った顧客が返品を
必要とするときのみ剥がし取り,剥離剤非形成部分28に返品承認番
号32を記入し,送り主に返送されるようにして使用されるものであ
る。このような乙4の1発明の用途に照らすと,そもそも「ラベル縁
取り部分14b」に情報を表示する必然性は全く見出せない。
そもそも「ラベル縁取り部分14b」は,単にラベル14を支持す
る支持枠として機能する部材にすぎず,乙4の1発明の前記用途に照
らすと,出荷用積層体12には,最初に出荷用コンテナ10に貼付す
る時点においては,受領者第1アドレス16と,この受領者第1アド
レス16に隠ぺいされた第2アドレス30の2つのアドレスを有して
おり,これ以上の情報を「ラベル縁取り部分14b」に記載する必要
性を見出せず,乙4の1発明においては,「ラベル縁取り部分14
b」に情報を表示するとの技術的思想はない。
また,被告は,「ラベル縁取り部分14b」に相当する箇所に情報
を記載することは技術常識であるとして,そのような構成を開示した
公知例を挙げるが,情報を記載するとの技術的思想がない「ラベル縁
取り部分14b」に,そもそも情報を記載する技術を適用することは
あり得ず,被告の指摘は,後知恵にすぎない。
cまた,被告は,本件発明の「本票」は,情報を表示するものに限定
されないと主張する。
しかし,本件明細書の【発明の詳細な説明】の【技術分野】には,
「本発明は,特に通信販売業界,百貨店業界,運輸業界等で使用され
ている配送伝票として好適なラベル帳票に関する。」と記載されてお
り,本件発明のラベル帳票は,配送伝票に使用されるものであること
は明らかである。また,本件明細書の【図1】の分離票P12には
「配達票」との文字が記載されており,【0048】の「分離票P1
2を本票P11から分離して配達控えとして持ち帰る。」との記載を
参酌すると,本件発明の分離票は,配達控えとして機能するものであ
ることは明らかである。一方,本件発明の本票は,少なくとも分離票
を分離することが可能な状態のまま,被着体に貼付されるものである
から,仮に,本票に全く情報が記載されていないのであれば,配達票
としての分離票を分離してしまった後は被着体側には全く配送元の情
報が分からなくなってしまう。さらに,本件明細書の【0041】に
は「本票P11と分離票P12にはそれぞれ配送先,配送元,商品名
の他に配達指定日や配達時間帯などの配送情報を記載する伝票記載欄
16が印刷される。」と記載されている。このように,情報表示は,
本票に必須である。
(イ)構成要件Cについて
本件発明の構成要件Cは,「(上紙は,)かつ分離票を除いた裏面領
域に粘着剤を塗工した粘着剤層が設けられてなるとともに,」というも
のである。本件発明では,上紙の「分離票を除いた裏面領域」に粘着剤
層が設けられており,分離票の裏面に粘着剤層が設けられていないこと
が要件になっている。
この点,被告も相違点と認めるとおり,乙4の1発明の出荷用積層体
12には,ラベル14の裏面に粘着剤20が塗工されている。このラベ
ル14の裏面に塗工された粘着剤20は,乙4の1発明の出荷用積層体
12においては必須の構成である。なぜなら,剥がしたラベル14が返
送用アドレス24の上に再貼付されるものだからである。
したがって,乙4の1発明のラベル14は,本件発明の分離票に相当
しないから,構成要件Cは相違する。
(ウ)構成要件Gについて
本件発明の構成要件Gは,「伝票片裏面の台紙をめくって輪郭ハーフ
カット線を切断し,輪郭ハーフカット線の内側部分を残した状態で上紙
から台紙を剥がし取ると伝票片を被着体に貼付でき,」というものであ
る。これに対して,乙4の1公報には,出荷用積層体12は,ライナー
ダイカット36の内側部分にあるライナー18を残した状態でライナー
縁部18bを剥がし,露出した粘着剤20により,ラベル14とラベル
縁部14bをコンテナに貼付するものであることが記載されている。
しかし,前記(イ)(構成要件B)で説明したように,乙4の1発明の
ラベル縁部14bは,そもそも伝票片を構成するものではなく,本件発
明の本票に相当しないから,乙4の1発明の出荷用積層体12は,構成
要件Gのうち,「伝票片を被着体に貼付でき」の要件を満たさないから,
構成要件Gは相違する。
(エ)一致点と相違点について
本件発明と乙4の1発明とでは,前記(ア)ないし(ウ)を除く,構成要
件A,D,E,F,H及びIにおいて一致するが,以下の点で相違する。
構成要件B,Gについて,本件発明では本票と分離票により伝票片を
構成しているのに対し,乙4の1発明では,ラベル縁部14bは,単に
ラベル14の一部にすぎず,伝票としての機能を備えておらず,伝票片
を構成するものではない点。
構成要件Cについて,本件発明では分離票の裏面に粘着剤層が設けら
れていないのに対し,乙4の1発明ではラベル14の裏面に粘着剤20
が設けられている点。
イ特許ないし実用新案公報(乙4の3ないし8)に記載されているように,
配送伝票において,受領票や配達票などの分離票の裏面に粘着剤を塗工し
ない構成が周知技術であることは認める。
ウ乙4の1発明と周知技術の存在が本件発明の進歩性を否定する根拠とな
らないこと
被告は,本件発明は,乙4の1発明に周知技術(乙4の3ないし8)を
適用すれば容易に発明することができると主張するが,この主張は,次の
とおり,技術的な根拠に基づくものとはいえない。
(ア)乙4の1発明の出荷用積層体12は,ラベル縁部14bが本票に相
当しないため,本票と分離票の区別がないラベル帳票である。このよう
な本票と分離票の区別がないラベル帳票に対して,分離票の裏面に粘着
剤を塗工しない周知技術を適用することには,技術的な動機付けがない。
被告は,乙4の1発明の課題(再貼付すること)と異なる周知技術の
課題(分離しやすさ,扱いやすさ)が公知例に明確に示唆されているこ
とは,当業者において,乙4の1発明の「ラベル14」の裏面に再貼付
のために粘着剤層を設けるとの構成を,周知技術にあるような「ラベル
14」の裏面に粘着剤層を設けない構成に置き換えるだけの動機付けに
なり得ると主張する。
しかしながら,被告も認めるとおり,乙4の1発明も乙4の2発明も
再貼付することが前提の発明であり,これらの発明において,「分離
票」に相当すべき構成を,再貼付しない構成とする技術的思想はない。
被告は,乙4の1発明の「ラベル14」の裏面に再貼付のために粘着
剤層を設けるとの構成を,周知技術にあるような「ラベル14」の裏面
に粘着剤層を設けない構成に置き換えるだけというが,被告がこのよう
に言えるのは,本件発明の構成を見ているからにすぎず,まさに後知恵
といわざるを得ない。
(イ)乙4の1発明の出荷用積層体12においては,ラベル14を剥がし
て別の箇所に再貼付するラベル機能は必須であり,このように必須のラ
ベル機能を備えたラベル14について,裏面に塗工されている粘着剤2
0を取り除くようなことは考えられない。なぜならば,ラベル14の裏
面から粘着剤20を取り除いてしまうと,もはやラベルとして機能せず,
この出荷用積層体12の使用目的である剥がしたラベル14を返送用ア
ドレス24の上に再貼付することができなくなるからである。
このように,乙4の1発明に分離票の裏面に粘着剤を塗工しない周知
技術(乙4の3ないし8)を適用することには,乙4の1発明の目的で
ある「再貼付するという目的」に反することになるから,乙4の1発明
の目的に反するという組合せの阻害要因がある。
原告が発明の目的に反することになるという組合せの阻害要因とは,
再貼付して使用することを目的とする乙4の1発明に,再貼付できなく
する構成の周知技術を適用すれば,乙4の1発明の「再貼付」という目
的が達成できなくなるということであり,そのような組合せをすること
は,あり得ないということである。
エ小括
以上のとおり,本件発明は,乙4の1発明に周知技術(乙4の3ないし
8)を適用して当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
()本件発明が,乙4の2公報に記載された発明(乙4の2発明)に周知技2
術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものと
いえるか(無効理由2)。
(被告)
本件発明は,乙4の2公報に記載された発明(乙4の2発明)に,①「分
離票」の部分に粘着剤層を設けないという周知技術(乙4の3ないし8),
②分離票を切り離すと台紙の情報記載欄が表れるという周知技術(乙4の1,
乙4の9ないし12)を適用することにより,当業者において容易に発明を
することができたものである。
ア乙4の2発明の内容
乙4の2発明は,次のとおりである(なお,本件発明の用語に相当する
乙4の2発明における用語を括弧内に付した。)。
2a台紙(=台紙2)上に上紙(=表示ラベル3)が剥離可能に貼合さ
れた帳票(=荷札1)であって,
2b上紙は,本票(=表示ラベル3のうち受領確認領域Bを除いた部
分)と分離票(=受領確認領域B)とが輪郭切り取り線(=切り込み
4)で隣接された伝票片(=荷札1)を備え,
2cかつ裏面領域に粘着剤を塗工した粘着剤層(=粘着剤Z)が設けら
れてなるとともに,
2d台紙は,粘着剤層と対向する表面領域に剥離剤を塗工した剥離剤層
(=図示されていないが,台紙2が「剥離可能」との記載がある。)が
設けられ,
2eかつ台紙裏面から台紙表面まで到達する深さの切り込みであって輪
郭切り取り線を囲んで分離票よりも大きな輪郭を有する輪郭ハーフカッ
ト線(=切り込み7)が形成され,
2f輪郭ハーフカット線よりも内側の表面領域を備えてなり,
2g伝票片裏面の台紙をめくって輪郭ハーフカット線を切断し,輪郭ハ
ーフカット線の内側部分を残した状態で上紙から台紙を剥がし取ると伝
票片を被着体に貼付でき,
2h輪郭切り取り線を切断して本票から分離票を切り離すと分離票に相
当する部位に台紙の表面領域が現れるようになっている
2iことを特徴とするラベル帳票(=荷札1)。
イ乙4の2発明と本件発明との対比
乙4の2発明と本件発明とを対比すると,乙4の2発明の構成2a,2
b,2d,2e及び2gは,それぞれ,本件発明の構成要件A,B,D,
E及びGに一致する。
また,乙4の2発明の構成2cは,「分離票を含めた表面領域」に粘着
剤層が設けられている点において,「分離票を除いた」部分に粘着剤層が
設けられている本件発明の構成要件Cと相違するが,そのほかの点におい
て,本件発明の構成要件Cと一致する。
さらに,乙4の2発明の構成2fは,輪郭ハーフカット線よりも内側の
表面領域に「情報記載欄」を備えていない点において,「情報記載欄」を
備えている本件発明の構成要件Fと相違するが,表面領域自体を備えてい
る点においては,本件発明の構成要件Fと一致する。
そして,乙4の2発明の構成2hは,台紙に「情報記載欄」を備えてい
ない点において,「情報記載欄」を備えている本件発明の構成要件Hとは
相違するが,そのほかの点においては,本件発明の構成要件Hと一致する。
なお,本件発明の要旨Iは,「(本件発明の構成要件AからHまでを備
えた)ことを特徴とするラベル帳票」であるので,「(乙4の2発明の2
a,2b,2d,2e及び2gを備えた)ことを特徴とするラベル帳票」
とは相違するが,他の相違点が一致すれば,自ずから一致する構成なので,
独立した相違点として指摘しない。
以上のとおり,乙4の2発明は,本件発明とは,①乙4の2発明の構成
1cが,「分離票を含めた表面領域」に接着剤層を設けているのに対し,
本件発明の構成要件Cが「分離票を除いた」部分に接着剤層を設けている
点(以下「相違点A」という。),②乙4の2発明の構成1f及び1hが,
本件発明の構成要件F及びHの「情報記載欄」を備えていない点(以下
「相違点B」という。)において相違し,それ以外の点はすべて一致する。
ウ相違点A及びBに係る構成が周知の構成であること
(ア)相違点Aに係る構成が周知の構成であること
相違点Aに係る構成は,公報(乙4の3ないし8)に開示された周知
の構成である。そのような構成を採用するかどうかは,分離票の使用目
的などに従い定められる設計的な事項にすぎない。そのことは,前記
()において,本件発明と乙4の1発明との相違点に係る構成について1
主張したとおりである。
(イ)相違点Bに係る構成が周知の構成であること
相違点Bに係る構成は,特許公報(乙4の1,乙4の9ないし12)
に開示された周知の構成である。そのような構成を帳票において採用す
るかどうかは,分離票を分離した後の台紙上に情報記載欄を印刷するか
どうかという設計的な事項にすぎない。
例えば,乙4の1公報の明細書には,「第1受領者はラベル14を下
層にあるライナーから除去し,第2アドレスと剥離剤非形成部分28が
見えるように露出させることができる」(同公報4欄14行ないし16
行)と記載されている。この点は,同公報の「FIG.2」にも明りょ
うに示されている。このように,分離票を分離した後の台紙上に情報記
載欄を設けるという構成は,乙4の1公報以外にも,特開平7−195
868号公報(乙4の9),特開平11−28875号公報(乙4の1
0),特開平7−134554号公報(乙4の11),特開2000−
211269号公報(乙4の12)にも開示されている。
エ乙4の2発明に前記の周知技術を適用することが容易であること
乙4の2発明に,①「分離票」の裏面に粘着剤層を設けないという周知
技術,②分離票を切り離すと台紙に「情報記載欄」が表れるという周知技
術を適用することは,当業者において容易になし得ることである。
(ア)技術分野の共通性
まず,乙4の2発明の技術分野と前記の各周知技術を裏付ける特許な
いし実用新案公報(乙4の3ないし12)に記載の技術分野は,いずれ
も,貼付可能な伝票に関するものであり,乙4の2発明と前記周知技術
とは,このような狭い技術分野においても共通している。
したがって,この点のみ見ても,乙4の2発明に前記の周知の構成を
適用する動機付けがあるといえる。
(イ)課題が周知であること
a本件発明の課題について
(a)相違点Aに関する課題
本件発明が,構成要件Cにおいて,分離票の部分に粘着剤層を設
けないとの構成(相違点A)を備えることにより解決しようとする
課題は,前記()において述べたとおり,粘着剤が分離票の裏面に1
塗工されていると,分離票を簡単に切り離すことができないという
ものである。
(b)相違点Bに関する課題
本件発明が,構成要件F及びHにおいて,分離票を分離した台紙
の部分に「情報記載欄」を設けるとの構成を備えることにより解決
しようとする課題は,本件明細書の【0049】において,「台紙
11−2の分離票P12に相当する部位には,分離票P12を切り
離すことによって情報記載欄18が現れるため,受取人に更なる情
報を伝達することも可能である。」と記載されていることから,受
取人に対し,より多様な情報を伝えることであると理解できる。
b本件発明の課題が周知であること
(a)相違点Aに関する課題が周知であること
相違点Aに関する課題が周知であることは,前記()において主1
張したとおりである。
(b)相違点Bに関する課題が周知であること
相違点Bに係る構成が周知であるばかりではなく,当該構成が解
決しようとする課題,すなわち,より多様な情報を伝達しようとい
う課題もまた周知のものである。
例えば,特開平7−195868号公報(乙4の9)の【000
7】には,「配送伝票1は,1枚化されたものであるから,記録す
ることができる情報には限りがあった。」との記載がある。すなわ
ち,従来の配送伝票では記録される情報に限りがあるという課題が
記載されている。また,特開平11−28875号公報(乙4の1
0)の【0024】には,「受領書11b,控え票11c,11d
が剥離された後,伝達情報が目視できるので(図1(B)),配送
伝票10が小さくても,多くの伝達情報が書き込める。」との記載
がある。この記載からは,配送伝票においてより多くの情報を書き
込みたいという課題が認められる。さらに,特開平7−13455
4号公報(乙4の11)の【0032】には,「台紙8の上面に,
『受注確認』と印字しておくと,『受注書』の剥離により『受注確
認』の文字が現れる」との記載がある。この記載からは,複数枚重
ねられた帳票において,上紙を剥離した後の台紙の部分にも,更な
る情報を記載しようという課題が認められる。そして,特開200
0−211269号公報(乙4の12)の【0019】には,「受
領票3aを剥離すると,例えば『毎度ありがとうございます』等の
メッセージ13が現れるように,これらのメッセージ13を支持シ
ート2の表面に印刷しておいてもよい。」との記載がある。この記
載からは,複数枚重ねられた帳票において,上紙を剥離した後の台
紙の部分にも,更なる情報を記載しようという課題が認められる。
このように,配送伝票などにおいて,面積が限られていることな
どもあり,何らかの方法により,より多様な情報を記載したいとい
う課題があることは,周知の課題といえる。
c乙4の2発明においても当該周知の課題は生じ得ること
(a)相違点Aに関する周知の課題
相違点Aに関する周知の課題,すなわち,分離票の裏面に粘着剤
層が存在したのでは,分離票を分離することができないか,分離票
を分離することができたとしても,容易ではないし,その扱いもし
にくくなるとの周知の課題は,乙4の2発明においても,生じ得る
ことである。
すなわち,「受領確認領域B(=分離票)」を,配達記録帳等に
貼付するためであれば,「受領確認領域B(=分離票)」の裏面に
「粘着剤Z(=粘着剤層)」を残すことになろう。
しかし,乙4の2発明において,「受領確認領域B(=分離
票)」を,貼付しない形式で回収する場合には,その裏面に「粘着
剤Z(=粘着剤層)」があることは,分離票として扱う際には,分
離しにくくなるし,分離した後も扱いにくくなるという周知の課題
が生じ得る。
(b)相違点Bに関する周知の課題
相違点Bに関する周知の課題,すなわち,より多様な情報を伝達
しようという周知の課題は,乙4の2発明においても,生じ得るこ
とである。
すなわち,乙4の2公報には,【発明が解決しようとする課題】
において,「ところで,このような従来の荷札にあっては,ほぼ同
一形状の荷札を2枚積層した構成であることから,荷札全体を構成
する用紙の量が多いといった不具合や,これらを剥離可能に仮着す
る粘着剤の量も多量なものとなるといった不具合がある。【000
6】本発明は,このような従来の問題点に鑑みてなされたもので,
荷札に要求される機能を確保しつつ,使用する材料を極力少なくす
ることの可能な荷札を提供することを目的とする。」と記載されて
いる。このような記載からは,荷札などの帳票においては,なるべ
く用紙の量を抑えつつも,従来の帳票の機能を確保したいという課
題があることがわかる。そして,「荷札に要求される機能を確保し
つつ,使用する材料を極力少なくする」ために,帳票の面積を狭く
すれば,「情報記載欄B」を剥離した後の「荷札1」にも,何らか
の情報を記載して帳票の機能を担わせたいという周知の課題が生じ
るものといえる。
d小括
このように,乙4の2発明においても周知の課題が生じ得ることか
ら,乙4の2発明について,その課題を解決するために,分離票の裏
面に粘着剤層が存在しないという周知の構成や,多様な情報を記載す
るために上紙を剥離した後の台紙の部分に情報を記載するという周知
の構成を適用する動機付けが認められる。
(ウ)乙4の2発明及び周知技術により本件発明を容易になし得たこと
このように,乙4の2発明と前記周知技術は,技術分野の共通性が高
く,しかも前記周知技術の課題もまた周知のものである。したがって,
乙4の2発明に当該周知の課題に基づいて周知の構成を適用して本件発
明の構成とすることは,いわば設計変更程度のことであり,当業者にお
いて容易になし得たことである。
オ総括
以上のとおり,乙4の2発明と本件発明との相違点A及びBに関する構
成は,周知技術に関するものであり,しかも乙4の2発明と前記周知技術
との間には,技術分野の共通性があるほか,前記周知技術の課題もまた周
知のものである。
したがって,本件発明は,乙4の2発明に前記周知技術を適用すること
により,当業者において容易に発明をすることができたものであるから,
本件特許は,特許法29条2項に違反してされたものであり,特許法12
3条1項2号により無効とされるべきものである。
カ原告の主張について
(ア)相違点Aについて周知技術を適用する阻害要因はないこと
原告は,乙4の2発明に分離票の裏面に粘着剤層が設けられていない
という構成を採用すると,「受領確認領域B」を配達記録帳などに貼付
できなくなるので,組合せに阻害要因があると主張する。
しかし,この主張に理由がないことは,前記()カ(オ)で主張したと1
おりである。
また,原告は,乙4の2発明は,既存のラベルを使用して簡単な加工
で荷札を製造することが前提であり,簡単な加工で足りるとの作用効果
を奏するためには,既存のラベルにもあると想定される「粘着剤Z」が
必須の構成であるかのように主張する。
しかし,乙4の2発明に分離票の裏面に粘着剤層を設けないという周
知の構成を組み合わせることにより得られる本件発明の作用効果と,既
存のラベルを使用して簡単な加工で荷札を製造するという作用効果とは,
何ら関係がない。仮に,「既存のラベル」を用いないため簡単な加工で
荷札を製造することができないとしても,乙4の2発明に前記の周知の
構成を組み合わせることの阻害要因となり得ない。
以上のとおり,相違点Aに周知技術を適用することに阻害要因がある
という原告の主張は,理由がない。
(イ)相違点Bについて周知技術を適用する阻害要因はないこと
原告は,乙4の2発明に,分離票を分離した台紙の部分に「情報記載
欄」を設けるとの構成を適用すると,①台紙の部分に情報が記載されて
いない既存のラベルを使用して簡単な加工で荷札を製造することができ
なくなること,②情報を印刷するという工程が増えるので既存のラベル
を使用して簡単な加工で荷札を製造するという作用効果が失われること
から,そのような組合せには阻害要因があると主張する。
しかしながら,次のとおり,原告の前記主張は,理由がない。
a本件発明の作用効果自体を阻害しないこと
原告が主張する点は,乙4の2発明に前記の構成を組み合わせるこ
と自体を技術的に阻害するものではない。また,前記の組合せにより
生じる本件発明の作用効果自体を阻害するものでもない。
したがって,原告の主張は,組合せを阻害する理由とはなり得ない。
b技術的な阻害要因もないこと
原告は,剥離剤の上に情報を印刷することが技術的に困難であると
も主張する。
しかしながら,そもそも,剥離剤層を設ける前に台紙の上に情報を
印刷すれば足りることであり,仮に,剥離剤の上に情報を印刷するこ
とが困難であるとしても,そのことは,乙4の2発明に,分離票を分
離した台紙の部分に「情報記載欄」を設けるとの構成を組み合わせる
ことの技術的な阻害要因とはならない。
なお,剥離剤層にインク受理性を持たせて,剥離剤層の上に印刷を
したり,筆記することを可能にすることも,本件出願当時の周知技術
である。
例えば,特開平3−7398号公報(乙8の1)の特許請求の範囲
の第2項には,「前記葉書本体1が,文字等が印字,筆記可能で剥離
性のあるインキ10が内面側に塗布されたアルミ蒸着フィルム9を紙
8の内面側に貼着して構成されてなる」との技術が開示されている。
また,特開平7−150092号公報(乙8の2)の発明の効果には,
「剥離性インキが着色剤を含有していることから,剥離面の筆記性が
すこぶる向上し,剥離紙を記入用紙として利用できる」(同公報2欄
38行ないし40行)との技術が開示されている。さらに,原告自身
の特許出願に係る特開平8−85280号公報(乙8の3)の「請求
項2」には,「情報記入欄に,筆記特性に優れた剥離剤層を形成した
ことを特徴とする隠蔽葉書」(同公報2頁左欄14行ないし16行)
との技術が開示されている。
このように,剥離剤層にも印刷したり,筆記したりすることができ
るようにインク受理性を付与する技術は,本件発明の出願前から周知
の技術であった。
c本件発明は剥離剤の上に情報を印刷する技術でもないこと
さらに,本件発明は,情報を印刷することが困難である点を克服し
た発明ではない。したがって,剥離剤の上に情報を印刷することが困
難かどうかは,本件発明の進歩性を基礎付ける意味での阻害要因とは
なり得ない。
d阻害要因に係る原告の主張は失当であること
以上のとおり,乙4の2発明に,分離票を分離した台紙の部分に
「情報記載欄」を設けるとの構成を組み合わせることに阻害要因があ
るという原告の主張は,①本件発明自体の作用効果を阻害しないこと,
②技術的な困難性も認められないこと,③本件発明の要旨とは無関係
であることなどから,阻害要因の主張として失当である。
e原告が乙4の2発明の目的と称するもの(既存のラベルを使用して
簡単な加工で荷札を製造する)に反することは「阻害要因」たり得な
いこと
原告が乙4の2発明の目的と称するものは,乙4の2特許公報の
【発明の効果】の欄に挙げられた効果の一つをいうものにすぎない。
それを乙4の2発明の目的のすべてであるかのようにいう原告の主張
は,誤りである。同公報の【発明の効果】の記載は,既存のラベルを
加工するだけで乙4の2発明の構成を得ることも可能であるというに
すぎない。乙4の2発明の構成を備えたものを製造するために既存の
ラベルを用いる必要はなく,原告が加工が面倒だと指摘する点も,既
存のラベルを用いることを前提とするものであり,出発点において誤
っている。
また,原告が,剥離剤層上に印刷すると乙4の2発明の受領確認領
域Bが剥がれにくいとか,粘着剤層にインクが転写するとか主張する
点も,分離票の裏面に粘着剤層があることを前提としている点におい
て,全くの誤りである。乙4の2発明に周知の構成を組み合わせて本
件発明の構成としたときは,分離票の裏面には粘着剤層は設けられな
いから,原告が指摘するこれらの問題点は,生じ得ない。
(原告)
ア本件発明と乙4の2発明との対比
本件発明と乙4の2発明とは,次のとおり,構成要件C,F及びHにお
いて相違する。
(ア)構成要件Cについて
本件発明の構成要件Cは,「(上紙は,)かつ分離票を除いた裏面領
域に粘着剤を塗工した粘着剤層が設けられてなるとともに」というもの
である。本件発明では,上紙の「分離票を除いた裏面領域」に粘着剤層
が設けられており,分離票の裏面に粘着剤層が設けられていないことが
要件になっている。これに対して,被告も相違点Aとして認めるとおり,
乙4の2発明の荷札1は,受領確認領域Bの裏面には粘着剤Zが塗工さ
れている(【0016】欄,図4)。この受領確認領域Bの裏面に塗工
された粘着剤Zは,乙4の2発明の荷札1において必須の構成である。
なぜなら,剥がした受領確認領域Bが配達記録帳等に貼付されるものだ
からである(【0016】欄)。
したがって,乙4の2発明の受領確認領域Bは,裏面に粘着剤Zが塗
工されている点で,本件発明の分離票に相当せず,構成要件Cと相違す
る。
(イ)構成要件Fについて
本件発明の構成要件Fは,「(台紙は,)輪郭ハーフカット線よりも
内側の表面領域に情報記載欄を備えてなり」というものである。これに
対して,被告も相違点Bとして認めるとおり,乙4の2発明の荷札1は,
台紙2の切り込み7よりも内側の表面領域に情報記載欄が設けられてい
ない。このことは,乙4の2公報において,台紙2の切り込み7よりも
内側の表面領域を情報記載欄として使用する例が記載されていないこと,
図5において,受領確認領域Bを剥がした後の台紙2の表面が白紙の状
態で図示されていることから明らかである。
したがって,乙4の2発明の台紙2は,情報記載欄を備えていない点
で,本件発明の台紙に相当せず,構成要件Fは相違する。
(ウ)構成要件Hについて
本件発明の構成要件Hは,「輪郭切り取り線を切断して本票から分離
票を切り離すと分離票に相当する部位に台紙の情報記載欄が現れるよう
になっている」というものである。これに対して,被告も相違点Bとし
て認めるとおり,乙4の2発明の荷札1は,台紙2の切り込み7よりも
内側の表面領域には情報記載欄が設けられていないため,受領確認領域
Bを情報領域Aから切り離しても受領確認領域Bに相当する部位に情報
記載欄が現れない。このことは,乙4の2公報の図5において,受領確
認領域Bを剥がした後の台紙2の表面が白紙の状態で図示されているこ
とから明らかである。
したがって,乙4の2発明の荷札1は,受領確認領域Bを切り離した
ときに受領確認領域Bに相当する部位に情報記載欄が現れない点で,本
件発明のラベル帳票に相当せず,構成要件Hは相違する。
(エ)一致点と相違点について
本件発明と乙4の2発明とでは,前記(ア)ないし(ウ)を除いて,構成
要件A,B,D,E,G及びIについて一致し,以下の点で相違する。
構成要件Cについて,本件発明では分離票の裏面に粘着剤層が設けら
れていないのに対し,乙4の2発明では受領確認領域Bの裏面に粘着剤
Zが設けられている点(被告の主張する相違点A)。
構成要件Fについて,本件発明では台紙の輪郭ハーフカット線よりも
内側の表面領域に情報記載欄を備えているのに対し,乙4の2発明では
台紙2の切り込み7よりも内側の表面領域に情報記載欄を備えていない
点,及び,構成要件Hについて,本件発明では本票から分離票を切り離
すと分離票に相当する部位に台紙の情報記載欄が現れるのに対し,乙4
の2発明では情報領域Aから受領確認領域Bを切り離しても受領確認領
域Bに相当する部位に台紙の情報記載欄が現れない点(以上の2点の相
違点は,被告の主張する相違点B)。
イ周知技術について
特許ないし実用新案公報(乙4の3ないし8)に記載されていることか
ら,配送伝票において,受領票や配達票などの分離票の裏面に粘着剤を塗
工しない構成が周知技術であることは認める。
特許公報(乙4の9ないし12)には,配送伝票において,受領票や配
達票などの分離票を剥離すると情報記載欄が現れることが記載されている
が,いずれの配送伝票も3枚構造からなる帳票である。この3枚構造から
なる配送伝票は,本件明細書の【0010】欄において問題点が指摘され
ている本件発明の従来技術に相当するものである。
ウ乙4の2発明と周知技術の存在が本件発明の進歩性を否定する根拠とな
らないこと
被告は,本件発明は,乙4の2発明に周知技術(乙4の1,乙4の3な
いし12)を適用すれば容易に発明することができると主張するが,この
主張は,次のとおり,技術的な根拠に基づくものとはいえない。
(ア)相違点Aについて
乙4の2発明の荷札1においては,受領確認領域Bを剥がして別の箇
所に再貼付するラベル機能は必須であり,このような必須のラベル機能
を備えた受領確認領域Bについて,裏面に塗工されている粘着剤Zを取
り除くようなことは考えられない。なぜなら,受領確認領域Bの裏面か
ら粘着剤Zを取り除いてしまうと,もはやラベルとして機能せず,この
荷札1の使用目的である剥がした受領確認領域Bを配達記録帳等に貼付
することができなくなるからである。
したがって,「分離票の裏面に粘着剤層が存在したのでは,分離票を
分離することができないか,分離票を分離することができたとしても,
容易ではないし,その扱いもしにくくなる」ことが乙4の2発明の課題
でないことは明らかであり,被告の主張は,理由がない。
また,乙4の2公報においては,同公報の【0020】欄に記載され
ているとおり,既存のラベルを使用して簡単な加工で荷札を製造するこ
とが前提となっている。このため,既存のラベルから粘着剤Zを取り除
くことは不可能である。
したがって,乙4の2発明に周知技術(乙4の3ないし8)を適用す
ることには,発明の目的に反することになるという組合せの阻害要因が
ある。
(イ)相違点Bについて
a乙4の2発明に周知技術(乙4の1,乙4の9ないし12)を適用
することも,現実にはあり得なかったことである。すなわち,乙4の
2発明においては,前記のとおり,既存のラベルを使用することが前
提であるため,あらかじめ貼合されている既存のラベルから製造した
荷札1について,受領確認領域Bに相当する台紙2の表面に情報記載
欄を設けること自体がそもそも不可能である。
また,表示ラベル3を剥がして台紙2に情報を印刷すれば情報記載
欄を設けることができるという考えもあり得るが,実際上,表示ラベ
ル3を剥がした台紙2の上に情報を印刷することは困難である。その
理由は,荷札1が既存のラベルを使用して製造されたものであり,台
紙2の表面には,あらかじめ剥離剤による剥離処理が施されているた
め,その剥離剤の上から情報を印刷すると,インキが定着せず,受領
確認領域Bを剥がした時にインキが剥がれ落ちてしまうからである。
さらに,台紙2と剥離剤の間に情報を印刷することも考えられるが,
そのためには,①表示ラベル3を台紙2から剥がす,②台紙2の表面
の剥離剤を除去する,③台紙2の表面に情報を印刷する,④台紙2の
表面に剥離剤を塗工する,⑤表示ラベル3を台紙2に貼り直す,とい
った一連の作業を行わなければならない。つまり,このような面倒な
作業を行うことは,乙4の2発明が前提とする,既存のラベルを使用
して簡単な加工で荷札を製造するという目的に完全に逆らう結果にな
るから,当然ながら採用するはずがない。
加えて,乙4の2公報には,被告の主張するような「情報記載欄
B」を剥離した後の「荷札1」にも,何らかの情報を記載して帳票の
機能を担わせたいとの課題が生じると認められる記載は無く,乙4の
2発明と周知技術との課題の共通性はなく,組合せの動機付けは認め
られない。
b被告は,前記aの原告の指摘する各点は,乙4の2発明と周知技術
との組合せ自体を阻害するものでなく,また,その組合せにより生ず
る本件発明の作用効果自体を阻害するものではないと主張する。
しかしながら,原告は,発明の目的に反することになるという組合
せの阻害要因があると主張しているところ,ここで言う「発明の目的
に反する」とは,乙4の2発明の目的に反する,すなわち,既存のラ
ベルを使用して簡単な加工で荷札を製造するという目的に反するとい
うことであり,「発明の目的に反することになるという組合せの阻害
要因」とは,既存のラベルを使用して簡単な加工で荷札を製造するこ
とを目的とする乙4の2発明に,分離票を切り離すと台紙の情報記載
欄が現れるという周知技術を適用すれば,「既存のラベルを使用して
簡単な加工で荷札を製造する」という乙4の2発明の目的を達成でき
なくなるということである。
これに対し,被告は,剥離剤層を設ける前に台紙の上に情報を印刷
すれば足りることであると主張するが,このような加工をするために
は,乙4の2発明の荷札1において,既存のラベルから台紙を剥離し,
台紙表面の情報を記載する部分に塗布された剥離剤を削り落とし,そ
の部分に情報を記載した後,剥離剤を塗布して再度台紙にラベルを貼
合させる必要があり,とても面倒である。
また,被告は,剥離剤層にインク受理性を持たせて,剥離剤層の上
に印刷をしたり,筆記をすることを可能にすることも,本件出願当時
の周知技術であると主張する。確かに,そのような技術が本件出願当
時にあったことは否定しないが,そのような技術を適用すると,乙4
の2発明において不都合が生ずることになるので,そのような技術を
適用することは到底考えられない。すなわち,乙4の2発明は,受領
確認領域Bを表示ラベル3から剥離し,受領証として使用するという
ものである。そして,受領証として剥離した受領確認領域Bを配達記
録帳等に貼付するように構成されていることから,剥離剤層の上に情
報を印刷すると,表示ラベル3裏面の粘着剤層の粘着力が強かった場
合には,受領確認領域Bが剥がれにくくなり,該粘着剤層上にインク
が転写してしまうことにもなり得る。一方,このような転写を防止す
べく表示ラベル3裏面の粘着剤等の粘着力を弱くした場合,受領確認
領域Bが,剥離する前に脱落したり,配達記録帳等に貼付した後に脱
落することもあり得るので,当業者が,このような技術を乙4の2発
明に適用することはあり得ない。
乙4の2発明における簡単な加工とは,既存のラベルに切り込みを
入れるといった程度のものであり,剥離剤を剥がしたり,剥離剤の上
にわざわざ印刷したりするなどの加工は,全くの想定外である。そも
そも,被告が主張する,剥離剤層を設ける前に台紙の上に情報を印刷
することや剥離剤層にインク受理性を持たせて剥離剤層の上に印刷す
ることといった加工は,乙4の2発明がラベルを一から製造するもの
であれば考えられないではないが,既存のラベルを使用した発明であ
る乙4の2発明に,このような周知技術を適用することは,かえって
加工が複雑になるので考えられない。
(ウ)したがって,乙4の2発明の荷札1に,特許ないし実用新案公報
(乙4の3ないし8)に記載された分離票の裏面に粘着剤を塗工しない
という周知技術を適用し,特許公報(乙4の1,乙4の9ないし12)
に記載された情報記載欄を設けるという周知技術を適用することで本件
発明を容易に発明できるという被告の主張は,技術的な根拠に裏付けさ
れたものではなく,阻害要因もあり,動機付けも認められないから,明
らかに誤りである。
エ小括
以上のとおり,本件発明は,乙4の2発明に周知技術(乙4の1,乙4
の3ないし12)を適用して,当業者が容易に発明をすることができたと
はいえない。
3損害額
(原告)
被告は,平成19年5月ころから,少なくとも,被告製品を545万300
0枚販売し,その販売総額は,6240万9584円を下らない。
前記販売総額のうち被告製品の製造,販売による利益の額は,同業他社の同
種製品の例にかんがみると,利益率は,50%を下回ることはないから,前記
販売総額に当該利益率を乗じた額である3120万4792円が被告製品の製
造,販売により被告の得た利益額となる。
よって,被告製品の製造,販売において被告が得た利益額である3120万
4792円が,原告の損害額と推定される(特許法102条2項)。
(被告)
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
本件事案の性質にかんがみ,まず,争点()イ(本件発明が,乙4の2発明2
に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたも
のといえるか(無効理由2))について判断する。
1乙4の2発明の内容
()乙4の2公報には,次の記載がある(乙4の2)。1
ア【特許請求の範囲】
「台紙と,この台紙上に粘着剤を介して剥離可能に仮着された表示ラベ
ルとからなり,この表示ラベルには,配送情報が記載される情報領域と,
この情報領域の近傍に切り離し可能に設けられた受領確認領域とが設けら
れ,前記台紙に,前記受領確認領域に対応する部位を他の台紙部分から切
り離し可能にする切り込みを形成してなることを特徴とする荷札。」
(【請求項1】)。
イ【発明の属する技術分野】
「本発明は,流通等において配送される荷物に貼付されて,配送先や配
送元の情報,ならびに,配送後の受領確認を得られるようにした荷札に関
するものである。」(【0001】)
ウ【発明が解決しようとする課題】
「・・・このような従来の荷札にあっては,ほぼ同一形状の荷札を2枚
積層した構成であることから,荷札全体を構成する用紙の量が多いといっ
た不具合や,これらを剥離可能に仮着する粘着剤の量も多量なものとなる
といった不具合がある。」(【0005】),「本発明は,このような
従来の問題点に鑑みてなされたもので,荷札に要求される機能を確保しつ
つ,使用する材料を極力少なくすることの可能な荷札を提供することを目
的とする。」(【0006】)
エ【発明の実施の形態】
「・・・図1および図2において符号1で示す荷札は,台紙2と,この
台紙2上に粘着剤Zを介して剥離可能に仮着された表示ラベル3とからな
り,この表示ラベル3には,配送情報が記載される情報領域Aと,この情
報領域Aの近傍に切り離し可能に設けられた受領確認領域Bとが設けられ,
前記台紙2に,前記受領確認領域Bに対応する部位を他の台紙部分から切
り離し可能にする切り込み4を形成した概略構成となっている。」(【0
008】),「前記情報領域Aには,配送先の郵便番号や電話番号,また,
住所や氏名等を記入する第1の情報領域5と,送り元の郵便番号や電話番
号,また,住所や氏名等を記入する第2の情報領域6とが形成されてい
る。」(【0009】),「また,前記受領確認領域Bは,略長方形状に
形成されており,その領域に沿った切り込み4によって,前記情報領域A
から切り離し可能となされている。」(【0010】),「さらに,前
記台紙2に形成された切り込み7は,図1に示すように,前記受領確認領
域Bを形成する切り込み4を取り囲むようにして形成されており,前記受
領確認領域Bには,受領印の押印部8が形成されている。」(【001
1】),「まず,第1の情報領域5および第2の情報領域6のそれぞれに
必要事項を記入した後に,台紙2を剥離する。このとき,前記台紙2には,
受領確認領域Bに対応した部位に切り込み7が形成されていることにより,
図3に示すように,この受領確認領域Bに対応した部位が,前記表示ラベ
ル3に貼り付いた状態で台紙2が剥離され,前記受領確認領域Bに対応し
た部位以外の部分において粘着剤Zが露出させられた状態となされる。」
(【0014】),「この状態において前記表示ラベル3を,配送すべき
荷物の所定位置に,前記粘着剤Zにより貼付する。これによって,荷物に,
その配送情報が表示され,配送手続きが可能となる。」(【0015】
),「そして,配送先においては,受取人による受領印押印部8への押
印が完了すると,図4ないし図6に示すように,受領確認領域Bを表示ラ
ベル3から剥離し,受領証として使用する。このようにして剥離された受
領確認領域Bは,その裏面に粘着剤Zが残っていることから,この受領確
認領域Bを,粘着剤Zを用いて配達記録帳等に貼付することが可能であ
る。」(【0016】)
オ【図2】,【図3】及び【図4】には,「台紙2」に形成された「切り
込み7」が,「台紙2」の裏面から表面まで到達する深さの切り込みであ
ることが示されている。
カ【図1】ないし【図4】には,「台紙2」に形成された「切り込み7」
が,「表示ラベル3」の「切り込み4」を取り囲むように形成されており,
「受領確認領域B」よりも大きな輪郭を有することが示されている。
キ【図1】には,「表示ラベル3」の「情報領域A」と「受領確認領域
B」とが,「切り込み4」を境に隣接された状態であることが示されてい
る。
ク【図2】,【図3】及び【図4】には,「粘着剤Z」が「表示ラベル
3」の裏面(台紙2と対向する面)に塗工された「粘着剤層」を構成する
ことが示されている。
ケ乙4の2公報には,「台紙2」を「表示ラベル3」から剥離するための
構成,方法について明記されていないが,前記エの【0014】には,
「台紙2」を「表示ラベル3」から剥離して,「表示ラベル3」の裏面
(台紙2と対向する面)に粘着剤Zが露出することが記載されているから,
「台紙2」の表面(粘着剤Zと対向する面)が,粘着剤層が塗工された
「表示ラベル3」を剥離可能とする構成を備えていることが理解できる。
()乙4の2公報に記載された乙4の2発明の内容2
前記()で認定したところによれば,乙4の2公報には,乙4の2発明と1
して,次の発明が記載されているものと認められる。
A「台紙2」上に「表示ラベル3」が剥離可能に貼合された「荷札1」で
あって,
B「表示ラベル3」は,「情報領域A」と「受領確認領域B」とが「切り
込み4」を境に隣接し,
Cかつ裏面領域に粘着剤層(粘着剤Z)が設けられてなるとともに,
D「台紙2」は,粘着剤層(粘着剤Z)と対向する表面が「表示ラベル
3」と剥離可能な構成を備え,
Eかつ「台紙2」の裏面から表面まで到達する深さの切り込みであって
「切り込み4」を囲んで「受領確認領域B」よりも大きな輪郭を有する
「切り込み7」が形成され,
G「表示ラベル3」の裏面の「台紙2」をめくって「切り込み7」を切断
し,「切り込み7」の内側部分を残した状態で「表示ラベル3」から「台
紙2」を剥がし取って「表示ラベル3」の裏面の粘着剤層(粘着剤Z)を
露出させて「表示ラベル3」を荷物に貼付でき,
H「切り込み4」を切断して「情報領域A」から「受領確認領域B」を切
り離すことができる
Iことを特徴とする荷札。
2本件発明と乙4の2発明との対比
本件発明の要旨は,前記第2の1争いのない事実等で判示したとおりであり,
これと乙4の2発明とを,以下,対比する。
()本件発明と乙4の2発明との対比1
乙4の2発明の「表示ラベル3」は本件発明の「上紙」に,「荷札1」は
「帳票」及び「ラベル帳票」に,「情報領域A」は「本票」に,「受領確認
領域B」は「分離票」に,それぞれ相当する。
そして,乙4の2発明の「表示ラベル3」は,配送先や送り元の住所や氏
名等の配送情報を記載した「情報領域A」と,受領押印のための「受領確認
領域B」とが設けられているので,本件発明の「伝票片」に相当する。
また,乙4の2発明の「切り込み4」は,「表示ラベル3」の「情報領域
A」と「受領確認領域B」を切り離すためのものであるから,本件発明の
「輪郭切り取り線」に相当する。
さらに,乙4の2発明の「切り込み7」は,「切り込み7」の内側部分を
残した状態で「表示ラベル3」から「台紙2」を剥がし取るために切断する
ものであるから,本件発明の「輪郭ハーフカット線」に相当する。
()本件発明と乙4の2発明との一致点及び相違点2
したがって,本件発明と乙4の2発明とは,
A台紙上に上紙が剥離可能に貼合された帳票であって,
B上紙は,本票と分離票とが輪郭切り取り線で隣接された伝票片を備え,
Cかつ裏面領域に粘着剤層が設けられてなるとともに,
D台紙は,粘着剤層と対向する表面が上紙と剥離可能な構成を備え,
Eかつ台紙裏面から台紙表面まで到達する深さの切り込みであって輪郭切
り取り線を囲んで分離票よりも大きな輪郭を有する輪郭ハーフカット線が
形成され,
G伝票片裏面の台紙をめくって輪郭ハーフカット線を切断し,輪郭ハーフ
カット線の内側部分を残した状態で上紙から台紙を剥がし取ると伝票片を
被着体に貼付でき,
H輪郭切り取り線を切断して本票から分離票を切り離すことができるよう
にした
Iことを特徴とするラベル帳票。
という点で一致し,以下の点で相違する。
①本件発明は,「分離票を除いた裏面領域に粘着剤を塗工した粘着剤層が
設けられてなる」のに対し,乙4の2発明は,「上紙の裏面領域に粘着剤
層が設けられてなる」ものである点(粘着剤層を設ける領域を上紙の裏面
領域のすべてとし,「受領確認領域B」を除いていない点)(相違点1)。
②本件発明は,「輪郭ハーフカット線よりも内側の表面領域に情報記載欄
を備えて」いるのに対し,乙4の2発明は,そのような構成を備えていな
い点(相違点2)。
③本件発明は,「輪郭切り取り線を切断して本票から分離票を切り離すと
分離票に相当する部位に台紙の情報記載欄が現れるようになっている」の
に対し,乙4の2発明は,そのような構成を備えていない点(相違点3)。
このほか,本件発明の構成要件Dと対比すると,乙4の2発明は,台紙と
上紙が剥離可能な構成とするのみで,台紙2の表面領域に剥離剤を塗工した
剥離剤層が設けられているか否かが文言上明らかでない。しかし,この点は,
当事者が相違点として取り上げていない点であり,剥離可能な構成とするこ
とは技術的に見れば,剥離剤を塗工することと同義と理解することができる
から,この点を相違点とはしない。
3相違点の検討
()相違点1について1
ア分離票の裏面に粘着剤を塗工しないという構成が周知であること
前記第3の2()(原告)イのとおり,原告は,本件発明の出願当時,2
配送伝票において,分離票の裏面に粘着剤を塗工しないという構成が周知
であったことを認めており,証拠(乙4の3ないし8)によっても,分離
票を切り取り線によって保持させるのみで,分離票を除いた裏面領域に粘
着剤を塗工し,分離票の裏面に粘着剤を塗工しないという構成を採用する
ことで,分離票を容易に剥がすことのできるようにした伝票は,本件発明
の出願前に周知であったことが認められる。
これを,具体的にみると次のとおりである。
(ア)実願平5−34482号(実開平6−87974号)のCD−RO
M(乙4の8。公開日・平成6年12月22日)には,次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】
この考案は,配送業務において使用され,配送物を配送元から配送先
に配送するべく配送物に貼付される荷札ラベルに関し,特に,受取人が
配送物を受け取ったことを証明するための受領書が切り離し可能に設け
られた荷札ラベルに関するものである。
(中略)
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は上記のような事情に鑑みて創案されたものであり,切り離し
可能な受領書を備え,受領書に人の手や物等が当たってもちぎれにくく,
しかも製造コストが低い荷札ラベルを提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を達成するために,本考案は,具体的には,配送物を発送
元から配送先に配送するべく配送物に貼付される荷札ラベルであって,
矩形のシート部材からなり,該シート部材における一つの縁に交差する
第1の切離線および第2の切離線と,前記第1および第2の切離線に交
差する第3の切離線とによって区画され,受領書として機能する分離部
を備え,該分離部を除く部分の裏面の少なくとも一部に接着剤層が設け
られ,該接着剤層に離型シートが貼り合わされたことを特徴とする受領
書を備えた荷札ラベルである。
(中略)
【0006】
【作用】
荷札ラベルの裏面の離型シートを剥がし,荷札ラベルを接着剤層によ
って配送物に貼着すると,分離部の裏面には接着剤層が存在しないため,
分離部は配送物に貼着されない。したがって,切離線に沿って切ると,
分離部を荷札ラベルおよび配送物から分離することができ,配送業者用
の受領書として使用することができる。」
(イ)登録実用新案第3063089号公報(乙4の4。公報発行日・平
成11年10月19日)には,次の記載がある。
「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は,顧客の注文商品の配送に際して使用される複合帳票に関し,
特に注文商品の梱包までの商品発送処理の作業負担を大幅に軽減できる
ようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
従来,たとえば通信販売部門等では,顧客の注文商品を発送する商品
発送業務において,商品明細書部,ピッキングリスト部,支払票部が同
一紙面上に表出するように形成されている商品発送用の複合帳票と,配
送伝票を利用している。
【0003】
上記のような2つの帳票(商品発送用の複合帳票と配送伝票)を用い
て顧客の注文商品を発送する場合には,まず,各帳票ごとに別々の御客
様名,注文品等の発送データを必要に応じてプリントし,次に,その2
つの帳票の付け合わせ(マッチング)を目視で行った後,注文商品のピ
ッキング,ピッキングした注文商品の包装,包装部材への配送伝票の添
付,発送という一連の業務を行っている。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
しかしながら,従来のように複合帳票と配送伝票という2つの帳票を
用いた商品発送業務においては,上記の如く,複合帳票と配送伝票との
マッチング作業が必要であり,しかも,このような細心の注意を要する
マッチング作業を発送担当者の目視で行うものとしていたことから,マ
ッチングミスの発生が懸念され,発送担当者の心労がきわめて大きい。
また,2つの帳票をそれぞれ個別に準備する必要があり,帳票在庫管理
や帳票発注管理等が面倒である。さらに,顧客への注文商品の発送前に,
各帳票には発送データをプリントするが,そのプリンタへの帳票の掛け
替え作業もまた各帳票ごとに個別に行われなければならない点でも面倒
であり,商品発送処理の作業負担が大きい。
【0005】
また,従来の商品発送業務では配送伝票を用いているが,この配送伝
票裏面の粘着剤層上には剥離紙が貼り付けられており,配送伝票を商品
包装箱等の包装部材に貼り付ける際には,配送伝票の裏面から剥離紙を
剥がす必要があり,その剥がされた剥離紙がゴミとなることから,この
剥離紙のゴミを回収処理(始末)しなければならず,この点でも商品発
送処理の作業負担が大きい。
【0006】
本考案は上述の事情に鑑みてなされたもので,その目的とするところ
は,主として注文商品の梱包までの商品発送処理の作業負担を大幅に軽
減できる複合帳票を提供することにある。
(中略)
【0016】
図2に示すように,上記帳票用紙1中の配送伝票部5の裏面には部分
的に粘着剤14が塗布されている。・・・そして,上記配送伝票部5裏
面の粘着剤14は,上記のようなお客様名等の記載票17の裏側とのり
しろ部19の裏側のみに塗布され,判取票18の裏面には塗布されてい
ない。判取票18の裏面に粘着剤14を塗布しないのは,判取票18は,
配送業者が商品を顧客に届けた後,顧客から受領印をもらって持ち帰ら
なければならないためである。」
(ウ)特開2001−305966号公報(乙4の5。公開日・平成13
年11月2日)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,プリント用シートの一部にラベル部を有するラベル付きプ
リント用シートに関し,特に,ノンインパクトプリンタでプリントする
のに適したラベル付きプリント用シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のラベル付きプリント用シートは,第1に,基材の一部に剥離処
理を施してラベル部を島状に剥離可能に貼着したり,第2に,剥離基材
と同一大のラベル基材を剥離可能に貼り合わせたうえ,ラベル基材の一
部に粘着剤を不活性化して非ラベル部を区画形成して構成している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これらの従来例によると,第1の構成では,ラベル部が島状に突出し
ているので,ラベル部のプリント面と非ラベル部のプリント面とが同一
平面にはなく,ノンインパクトプリンタでプリントする際の移送適性及
びプリント適性に難がある。また,第2の構成では,ノンインパクトプ
リンタでのプリント適性には優れるが,非ラベル部に対応する粘着剤を
不活性化するという余分な作業工程が必要なので煩雑であるほか,不活
性化される粘着剤や不活性化剤など本来不要な物質を使用するので,資
源が無駄になるとともに不経済であるという問題がある。本発明は,こ
のような問題点を解消したラベル付きプリント用シートを提供すること
を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本願の請求項1に記載したラベル付きプリ
ント用シートは,一方面に剥離処理を施した剥離基材と,一方面の所定
部に粘着剤を塗布し,他方面をプリント面とした前記剥離基材とほぼ同
一大のラベル基材を,前記剥離基材の剥離処理面に前記ラベル基材の粘
着剤塗布面を対接して,剥離可能に貼り合わせてなるシートであって,
前記ラベル基材には,粘着剤塗布部分に対応するラベル部と,粘着剤非
塗布部分に対応する非ラベル部を,分離可能に区画形成したものである。
(中略)
【0009】
そして,前記各貼付票10a,10b,10c,10dは粘着剤5塗
布部分に対応するラベル部であり,前記各配達票兼受領票11a,11
b,11c,11dは粘着剤5非塗布部分に対応する非ラベル部であっ
て,粘着剤5は前記各配達票兼受領票11a,11b,11c,11d
の裏面に対応する部分を除いて塗布している。・・・」
(エ)登録実用新案第3094763号公報(乙4の3。公報発行日・平
成15年7月4日)には,次の記載がある。
「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は,商品の配達に際して発行される商品配送用帳票に関し,特
に当該商品を梱包した箱等に貼付可能な商品配達伝票に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から使用されている商品配達伝票は,複数枚の荷送り人側伝票と
荷受人側伝票を重ねて切り取り可能に綴じ合わせ上位の伝票に記入する
と下位の伝票に複写記入されるように複写構造に構成したものであった。
【0003】
また,コンピュータに接続されたプリンタによる商品配達伝票の印字
には,台紙10に商品配達伝票を剥離可能に貼り付け,伝票と伝票との
間に切り離し可能なミシン目を設けた連続伝票が使用されている。
【0004】
さらに,商品配送に関する他の伝票の印字は,商品配達伝票の印字と
は別処理で行うが,そのときは,印字する目的の伝票に合わせた用紙を
プリンタにセットして印字を行う。または,他のプリンタで印字を行う。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
しかし,複数枚重ねた商品配達伝票の記入において,人手により記入
する場合は問題ないが,プリンタを使用してプリントする場合には,複
写印字を可能にするため一定以上の圧力をかける必要があるので,ノン
インパクトプリンタを使用できないという不都合がある。
【0006】
一方,近年においては,顧客管理をコンピュータで行うことが多く,
コンピュータで管理している受注情報に基づいて配送処理が行われる。
そして,近年のコンピュータで使用されるプリンタは,ノンインパクト
プリンタであることが多く,複数枚重ねた商品配達伝票の印字には適し
ていない。
【0007】
そこで,連続した伝票用紙にノンインパクトプリンタで印字する商品
配達伝票作成においては,台紙に商品配達伝票を剥離可能に貼り付け,
伝票と伝票との間に切り離し可能なミシン目を設けた連続伝票で作成す
ることが行われている。
【0008】
この場合においては,伝票が台紙から剥がれることを防止するために,
所定のある程度高い接着強度を持たせる必要がある。その結果,台紙に
貼り付けられた受領書を剥がす場合,剥がすことが困難であり,剥がし
た受領書がカールしてしまう。そのため,剥がした受領書上に記入する
等の作業を行なう時にカールしているために記入が困難となる。さらに,
保管が困難である。
(中略)
【0012】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するため,本考案は,台紙と,前記台紙に印字され
た,購入した商品名,数量等の商品購入情報を印字する明細書欄と,購
入商品の代金振込みに使用する振込み伝票欄と,配送する前記購入商品
を印字したピッキングリスト欄と,前記商品を配送するための送り状と
受領書とが分離可能に隣接してなる商品配達送伝票欄が前記台紙に剥離
可能に接着されて構成されたことを特徴とする商品配送用帳票を提供す
るものである。
(中略)
【0014】
前記台紙の前記商品配達伝票欄に対抗する領域には,シリコン層が形
成されている。そして,前記商品配達伝票は,その裏面の前記受領書の
裏面を除く所定の部分に形成された接着層により前記シリコン層に剥離
可能に接着されている。
【0015】
これにより,商品配達伝票から切り取る時,受領書に余分な力が加わ
らず変形しないので,受領書はカールすることが無い。
(中略)
【0051】
図2(b),図2(c)に示すように,接着剤15aは,受領書7の
裏面には塗布されていない。商品配達伝票5において,受領書7は商品
配達伝票5の外辺端よりも所定の長さだけ内側に小さく形成され,受領
書7の周辺は接着剤が設けられた接着面を有するように形成されている。
受領書7裏面以外の商品配達伝票5の裏面には接着剤15aが塗布され
ているので,商品配達伝票5は台紙10から剥がれることは無い。」
(オ)特開2003−276363号公報(乙4の6。公開日・平成15
年9月30日)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,複数個の荷物を同一依頼人から同一届け先に送るための複
数個用配送伝票とその使用方法に関するものである。
(中略)
【0017】
本発明の課題は,親伝と子伝のように伝票を分割させず,一体化させ
てわかりやすい形態とすると共に,配送業者で実施しているバーコード
ラベルの発行を不要とし,配送コストの引下げに寄与することができる
複数個用配送伝票とその使用方法を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために,請求項1の発明は,最表部票に記載した
事項が最下部票まで選択的に複写可能な複写構造を備え,複数個の荷物
を同一依頼人から同一届け先に送るための複数個用配送伝票において,
少なくとも前記荷物の個数と同数丁合されたタック基材,粘着剤層及び
剥離シートからなるタックシートを備え,前記タックシートは,荷物に
貼付されて荷札の役割を果たす貼付票部と,配達時に届け先の配達確認
を行う配達票部とが設けられていることを特徴とする複数個用配送伝票
である。
(中略)
【0033】
(第3実施形態)図3は,本発明の第3実施形態による複数個用配送伝
票のタック紙B−3を示す図である。第3実施形態のタック紙B−3で
は,図3(A)に示すように,配達票B2の裏面に形成された粘着剤層
B12を設けない糊抜き部dと,タック基材B11側から糊抜き部dの
位置の両端部近傍に形成され,配達票B2を分離可能なミシン目a,a
が形成されている。第3実施形態によれば,配達時に受領印欄cに受領
印をもらったのちに,ミシン目a,aから剥がして切り取るときに,配
達票B2の裏面が糊抜き部dとなっているので,図3(B)に示すよう
に,配達票B2を容易に分離することができる。」
(カ)特開2003−276364号公報(乙4の7。平成15年9月3
0日公開)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,特に非接触IC(RadioFrequencyId
entification;以下,RFIDと称する)を備える配送伝
票および配送伝票の使用方法に関する。
(中略)
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記RFID付き配送伝票のRFID本体は,バーコードに比べ大量
の情報を書込み記憶可能であり,かつRFID本体を覆う伝票の表面の
バーコードが汚れてもRFID本体から情報が得られると共に,RFI
Dリーダライタによって,記憶されている情報を消去できるという長所
を有する反面,RFID本体は高価であり,使い捨てとするとコストア
ップとなるためRFID伝票を回収してRFID本体を取り出し,記憶
情報を消去してリサイクルし,新たなRFID伝票として使用すること
が望まれている。
(中略)
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明に係る配送伝票は,少なくとも切離し可能に形成
された切離し票を有する伝票紙と,前記切離し票を囲む四辺に塗布され
た粘着剤と,該粘着剤に囲まれ中空状に形成された袋部と,から成り,
前記切離し票への切り込みにより形成された蓋部を有することを特徴と
する。また,前記袋部内にアンテナおよびICを有する非接触IC本体
を備えたことを特徴とする。また,前記袋部の端部側に非接触IC本体
を保持するスリットを設けたことを特徴とする。・・・
(中略)
【0012】
図3は,図1における配送伝票1のⅠⅠ■−Ⅰ■Ⅰ線に沿う断面図で
あり,同図により配送伝票1の積層構造について説明する。配達票3と
受領票4からなる伝票紙2は,最上層に位置し,受領票4を除く伝票紙
2裏面領域に粘着剤10を有し,この粘着剤10を介して台紙5に仮着
されている。受領票4は,粘着剤10を有しておらず,すなわち受領票
4の四方を囲むように粘着剤10を塗布しているので受領票4と台紙5
とに中空部分ができ,袋部11として形成される。言うまでもないが袋
部11は,配送伝票1の台紙5から伝票紙2を剥離し,後述する配達物
15に貼り付けたときに,受領票4と配達物15との間にも形成される。
この袋部11には,後述するRFID本体12を挿入可能としている。
(中略)
【0019】
受領票4の捺印欄7に受取人よりサインもしくは捺印を受取人よりも
らい,受領票4を回収する。・・・」
イ容易想到であることについて
前記アのとおり,本件特許の出願前において,分離票の裏面に粘着剤を
塗工しないという構成は周知であり,しかも,配達伝票におけるさまざま
な課題を解決するための発明において,汎用性のある技術として採用され
ている。
このように,分離票の裏面に粘着剤を塗工すると,分離票を容易に分離
することができないか,分離することができるとしても,分離して持ち帰
るべき受領証,配達票として取り扱いにくくなるため,分離票の裏面に粘
着剤を塗工しない構成とすることは,本件特許出願当時,当業者にとって
容易に想到することができるものである。
したがって,相違点1に係る本件発明の構成は,当業者が容易に想到し
得たものである。
ウ原告の主張について
(ア)乙4の2発明において受領確認領域Bを別の箇所に再貼付する機能
が必須のものであるという点について
原告は,乙4の2発明において,受領確認領域Bを別の箇所に再貼付
する機能は必須であり,このような機能を備えた受領確認領域Bの裏面
から粘着剤Zを取り除いてしまうと,もはやラベルとして機能しなくな
るから,乙4の2発明から本件発明に至ることは容易でないと主張する。
しかしながら,乙4の2発明において,配送先から受領した分離票
(受領確認領域B)を配達記録帳等の別の箇所に再貼付する方法は,分
離票の裏面にあらかじめ粘着剤層を設けるという方法に限られるもので
なく,配達記録帳等に粘着剤層を設けて分離票をその粘着剤層に貼付す
ることにより再貼付することも可能であるし,また,受領確認領域Bの
裏面から粘着剤Zを取り除いたとしても,受領証として使用される受領
確認領域Bについて,受領証としての機能自体が失われるものでもない。
原告の主張するように,乙4の2発明の「受領確認領域B」に別の箇
所に再貼付することができるという機能があるとしても,そのことは,
乙4の2発明を基礎として,当業者が分離票の裏面に粘着剤を塗工しな
い構成とすることを妨げるものではないというべきである。
したがって,乙4の2発明において受領確認領域Bを別の箇所に再貼
付する機能が必須であり,受領確認領域Bの裏面から粘着剤Zを取り除
くことにより,受領確認領域Bがラベルとして機能しなくなることを理
由として,乙4の2発明から本件発明に至ることが容易でないとする原
告の前記主張は,採用することができない。
(イ)既存のラベルを使用できないから組合せの阻害要因があるという点
について
原告は,乙4の2公報においては,既存のラベルを使用して簡単な加
工で荷札を製造することが前提となっており,既存のラベルから粘着剤
Zを取り除くことは不可能であるから,乙4の2発明に前記の周知の構
成を適用することに阻害要因があると主張する。
しかしながら,乙4の2公報の【発明の効果】には,「…さらに,既
存のラベルに切り込みを入れるといった簡単な加工によって本発明の荷
札が得られ,既存のラベルを有効利用することも可能である。」(【0
020】)と記載され,既存のラベルを利用することにより,簡単な加
工で乙4の2発明の荷札が得られることが示されているものの,当該記
載からも明らかなとおり,既存のラベルを利用することは,乙4の2発
明の荷札の製造方法の一つではあるが,乙4の2発明の荷札の製造方法
が既存のラベルを利用したものに限られないことは,当業者であれば,
容易に理解し得ることである。
そして,既存のラベルを利用して乙4の2発明の荷札を製造する場合
には,乙4の2発明の「受領確認領域B」の裏面に粘着剤Zが設けられ
ているため,これを別の箇所に再貼付することができるという作用効果
が生ずることになるが,当業者において,そのような作用効果を欲せず,
乙4の2発明において,「受領確認領域B」の裏面に粘着剤があること
による問題点を解決するために,前記の周知の技術を適用して,分離票
である「受領確認領域B」を簡単に切り離すことができ,取扱いをしや
すくなるという作用効果を得るために,既存のラベルを利用せず,前記
の周知の技術を適用して,分離票の裏面に粘着剤を塗工しないという構
成を採用することに,阻害要因はない。
したがって,既存のラベルを有効利用して簡単な加工により乙4の2
発明の荷札を得られることは,乙4の2発明に前記の周知の構成を適用
することの阻害要因とはなり得ないから,原告の前記主張は,採用する
ことができない。
()相違点2及び相違点3について2
ア相違点2及び3に係る構成が周知であること
証拠(乙4の3,4,9,10及び12)によれば,本件特許の出願当
時,貼付可能な帳票,伝票において,限られた表面積を有効利用するため
に,受領証や配達票となる分離票を剥離した際に,その下層の表面領域に,
商品広告や受取人に対するメッセージ等を記載するための情報記載欄を設
けるという構成を採用することは,周知であったことが認められる。
これを具体的にみると,次のとおりである。
(ア)特開平7−195868号公報(乙4の9。平成7年8月1日公
開)には,次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,差出人や受取人等の個別情報を記録
し,商品等の配送物に貼付する配送伝票に関するものである。
(中略)
【0009】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するため,本発明によ
る配送伝票(20)の第1の解決手段は,第1の帳票片(21a)およ
び第2の帳票片(21b)を裁断可能に連接した基材(21)と,前記
基材の表面の所定領域に設けられ,共通情報を表示した共通情報表示部
(22a),および個別情報が記録される個別情報記録部(22b)を
有する第1の印刷層(22)と,前記基材の裏面に設けられた第1の接
着層(26)と,前記基材の裏面に前記第1の接着層を介して密着する
中間層(23)と,前記中間層の前記基材と密着する面であって,前記
第2の帳票片と対応する領域に含まれる領域に設けられ,共通情報また
は配送物に関する属性情報を形成した第2の印刷層(29)と,前記中
間層の前記基材と密着する面の反対の面に,全面または部分的に設けら
れた,第2の接着層(30)と,前記第2の接着層と剥離可能に接着す
る剥離紙(28)を設けたことを特徴とする。
(中略)
【0032】
図3(c)は,帳票片21bが分離された後の配送伝票20を示す斜
視図である。配送伝票20から帳票片21bが分離されると,その下側
に配置されている中間層23(または中間層25)が露出する。この中
間層23(または中間層25)には,図1(b)(または図1(c))
に示したように第2の印刷層29が形成されているので,帳票片21b
の領域の部分には,第2の印刷層29による情報が表示される。この第
2の印刷層29により,配送物104の受取人は,前述した共通情報や
属性情報を知ることができる。」
(イ)特開平11−28875号公報(乙4の10。公開日・平成11年
2月2日)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,百貨店の商品や運送会社の宅配荷物に貼付する配送伝票に
関し,特に荷物の受注から顧客の受取までを1枚のシートで管理するこ
とが可能な配送伝票に関するものである。
(中略)
【0003】
そうした市場からの要請を受けて,高速印字が可能なノンインパクト
プリンターを使用できる配送伝票が開示されている(特開平7−134
554公報)。この配送伝票によれば,ノンインパクトプリンターを使
用でき,配送伝票の発行が短時間で行える。また,発送者,配送者,受
取人等は,この配送伝票に疑似接着されている受領証部等を剥がして,
各工程の作業終了の確認を行うとともに,剥がされた受領証部の下層に
印字されている「作業終了確認」等の文字を見て,前工程の進行状況を
容易に把握できていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,前述した配送伝票では,配送伝票を貼付した荷物の模様によ
っては,受領証部の下層に印字されている文字が見づらかった。この文
字が「受注確認」などのように文字数が少ないときは,文字を大きく書
いたり,着色したりすることで確認できていたが,受取人への伝達情報
など細かい文字で書かれているときや,或いは,荷物の包装紙が,多く
の文字の書かれているデザインであるときなどには,包装紙の文字と伝
達情報の文字が重なってしまい,伝達情報が非常に見づらかった。
【0005】
本発明の課題は,ノンインパクトプリンターによる高速印字を可能と
し,かつ,受領証部の分離が容易に行え,受領証部の分離後,伝達情報
が見やすい,配送伝票を提供することである。
(中略)
【0018】
伝達情報表示層12aは,受領証11b,控え票11c,11dが剥
離された後,目視可能となる伝達情報を表示する層であり,目止め層1
2の下面に鏡像で印刷されている。印刷方法としては,オフセット印刷,
フレキソ印刷,グラビア印刷等が用いられる。また,インキもUV硬化
型インキ,酸化重合乾燥型インキ等が使用できる。
(中略)
【0024】
このように本実施形態によれば,ノンインパクトプリンターを使用し
て,表示基材に高速印字ができる。また,受領証11b,控え票11c,
11dが剥離された後,伝達情報が目視できるので(図1(B)),配
送伝票10が小さくても,多くの伝達情報が書き込める。さらに,粘着
剤層13は,着色されているので,伝達情報表示層12aの伝達情報を
見やすい。」
(ウ)前記乙4の4公報(平成11年10月19日発行)には,次の記載
がある。
「【0024】
次に,上記の如く構成された複合帳票Pの使用例について図1,図3
および図4を用いて説明する。
(中略)
【0029】
なお,帳票用紙1は注文商品と一緒に顧客に発送され,このとき,シ
リコーン剤塗布紙20も帳票用紙1に組み込み接合されたまま帳票用紙
1と一体に発送されるが,図3に示したように,帳票用紙1中において
配送伝票部5が剥された後の面には,シリコーン剤塗布紙20の粘着剤
貼り合わせ面20aに印刷されている広告や挨拶文20b等が表出して
いる。したがって,顧客側においては,シリコーン剤塗布紙20を広告
の一種とみることができ,それが配送伝票部5の剥離後の残骸であると
いう認識をもつこともない。」
(エ)特開2000−211269号公報(乙4の12。平成12年8月
2日公開)には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,宅配荷物等の配送品に貼付して使用する配送伝票に関する
ものである。特に,配送伝票本体を剥離紙等から剥離する際に,誤って
伝票を粘着層から剥離することを防止する配送伝票に関する。
(中略)
【0009】
従来の配送伝票では,粘着層から配送受領票や店舗控票等の伝票を剥
離するための剥離のきっかけを配送伝票の周辺部に設けているため,剥
離紙から配送伝票本体を剥離して粘着層で配送品に貼付する際に,誤っ
て剥離のきっかけから伝票を粘着層から剥離してしまうことがあり,そ
うなると,再度,プリンター出力処理からやり直さなければならないこ
とがある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は,この種の配送伝票の使用に際して,伝票用紙の裏面から剥
離紙を剥離する際に,誤って粘着層から伝票を剥離してしまうことを防
止する配送伝票を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために,本発明の配送伝票は,少なくとも表面
側に配送情報記入部を有する伝票と他の紙片とに分離可能に区画された
伝票用紙と,伝票用紙の裏面側に形成された粘着層と,前記粘着層の裏
面側を被覆する剥離紙とを有し,前記伝票と前記粘着層とが剥離可能な
配送伝票において,前記伝票の前記他の紙片と隣接する部分に,前記伝
票の剥離のきっかけとなる剥離端部を設けたことを特徴とするものであ
る。
(中略)
【0019】
・・・図2には,支持シート2から受領票3aを剥離した状態を示し
ているが,受領票3aの受領印欄9にお届け先の受領印を押印してもら
った後,支持シート2から受領票3aを剥離すると,例えば『毎度あり
がとうございます』等のメッセージ13が現れるように,これらのメッ
セージ13を支持シート2の表面に印刷しておいてもよい。」
(オ)前記乙4の3公報(平成15年7月4日発行)には,次の記載があ
る。
「【0086】
次に,本考案における第3の実施の形態について説明する。
【0087】
図6は,第3の実施の形態における商品配達伝票5cの正面図を示す。
(中略)
【0098】
また,商品配達伝票5cを剥がした後の台紙10の表面には,予め,
配達案内,広告,商品情報等の案内情報を印字しておくことが可能であ
る。
【0099】
ここで,本考案における商品配達伝票5cの構成について説明する。
(中略)
【0107】
梱包された箱等に貼り付けられた貼付票30cに基づき商品を配達し
た時,商品配達伝票5cから配達票40cの切取部18からミシン目9
bに沿って配達票40cを切り取る。切り取った配達票40cの受領印
欄に商品を受領した事を確認する顧客の受領印が押され配達票40cを
持ち帰ることで配達が終了する。」
イ容易想到であることについて
前記アによれば,帳票,伝票などにおいては,その表面領域が限られ,
表面領域に記録して伝達することができる情報にも限りがあるため,その
限られた表面領域を有効利用して,より多様な情報を記録して伝達するた
め,配送伝票に関する様々な技術を開示した多くの特許,実用新案公報文
献に,分離票等の下層に情報記載欄を設けることが示されており,本件特
許の出願当時,かかる技術は,汎用的な技術として当業者に採用されてい
たことが認められる。
したがって,乙4の2発明に,前記の周知の構成を適用して,「台紙
2」の「切り込み7」よりも内側の表面領域に情報記載欄を備えるという
構成とすることは,当業者において容易になし得たことであると認められ
る。
そして,そのような構成を採用した場合には,その結果として,本件発
明の「輪郭切り取り線を切断して本票から分離票を切り離すと分離票に相
当する部位に台紙の情報記載欄が現れるようになっている」(相違点4)
との構成を備えることになる。
したがって,乙4の2発明に,前記の周知技術を適用して,相違点2及
び相違点3に係る構成を採用して本件発明の構成とすることは,当業者に
おいて容易に想到し得たものである。
ウ原告の主張について
(ア)周知技術とされる証拠(乙4の9ないし12)がいずれも3枚構造
からなる配送伝票であるとする点について
原告は,特許公報(乙4の9ないし12)において情報記載欄が現れ
ることが記載されている配送伝票は,いずれも3枚構造からなる配送伝
票であり,本件明細書で問題点が指摘されている本件発明の従来技術に
相当するものであると主張する。
その主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,2枚構造からなる乙4
の2発明にこれらの技術を適用することが容易ではないとの主張の趣旨
を含むものとも解されるので,この点について検討する。
前記のとおり,原告は,乙4の9ないし12について主張するが,前
記アで検討した周知技術を示す例としては,乙4の3,4の公報があり,
これらはいずれも2枚構造のものである。したがって,周知技術を示す
資料が全て3枚構造のものであるとはいえない。
また,前記アで検討した乙4の12については,情報表示欄について
示した実施例1の記載は3層構造であるものの,明細書の【0032】
には,「尚,本発明は,前述の実施例に限定されるものではなく,種々
に変形することができる。例えば,実施例1,2,3,4,5において,
支持シート2を省略することができる。」として,2枚構造のものが実
施できることが示されている。
このように,2枚構造のものを含めた周知技術に関する資料がある中
では,3枚構造を示す乙4の9,10の技術を含めて,これらを周知技
術として乙4の2発明に適用することは,当業者にとって容易であると
いえ,原告の主張には理由がない。
(イ)乙4の2発明に周知技術を適用することは不可能であり,その組合
せの動機付けもないという点について
原告は,乙4の2発明は,既存のラベルを利用することが前提である
ため,あらかじめ貼合されている既存のラベルから製造した荷札1につ
いて,受領確認領域Bの裏面に相当する台紙2の表面に情報記載欄を設
けることは不可能であり,乙4の2発明に周知技術を組み合わせること
はできないと主張する。
しかしながら,前記()ウ(イ)で述べたとおり,乙4の2発明の荷札1
の製造方法は,既存のラベルを利用したものに限られるものでなく,そ
のことは,当業者において,容易に理解し得ることであるから,原告の
前記主張は,その前提において誤っているから,これを採用することが
できない。
(ウ)乙4の2発明に前記の周知の技術を適用することは,既存ラベルを
利用することができないから,その組合せに阻害要因があるという点に
ついて
原告は,乙4の2発明に前記の周知の技術を適用することは,既存の
ラベルを利用して簡単な加工で荷札を製造するという乙4の2発明の目
的を阻害することになるから,組合せの阻害要因があると主張する。
しかしながら,既に述べたとおり,乙4の2発明の荷札の製造方法が,
既存のラベルを利用するものに限られないことは,当業者において,容
易に理解し得ることである。
そして,当業者において,受領者に対してより多様な情報を伝えるた
めに,既存のラベルを利用せずに,前記の周知の技術を適用して,受領
確認領域Bの裏面に相当する台紙2の表面に情報記載欄を設けるという
構成を採用することに,阻害要因はない。
したがって,既存のラベルを利用することができないことは,乙4の
2発明に前記の周知の構成を適用することの阻害要因とはなり得ないか
ら,既存のラベルを利用することを前提とする原告の前記主張は,その
前提において誤りがあり,採用することができない。
4小括
以上によれば,本件発明は,乙4の2発明と周知技術に基づいて,当業者が
容易に発明をすることができたものであって,特許無効審判により無効にされ
るべきものと認められるから,特許法104条の3第1項により,原告は,被
告に対し,本件特許権を行使することができない。
第5結論
以上の次第で,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,い
ずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官坂本三郎
裁判官岩崎慎
物件目録
品名ゆうパック伝票シート
品名コードユ00781

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