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平成11年(行ケ)第444号審決取消請求事件
平成13年3月1日口頭弁論終結
判決
   原      告  ケイコン株式会社
  代表者代表取締役  【A】
  訴訟代理人弁護士  木下洋平
  被      告   株式会社サンユウクリエイト
  代表者代表取締役  【B】
訴訟代理人弁護士  中村稔
同  富岡英次
同弁理士     小堀益
同  堤隆人
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成10年審判第35293号事件について平成11年11月5日
にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、考案の名称を「連設用ブロック」とする実用新案登録第18492
24号の登録実用新案(昭和61年3月7日登録出願、平成3年2月12日設定登
録。以下、「本件登録実用新案」といい、その考案そのものを「本件考案」と、そ
の登録を「本件実用新案登録」という。)の実用新案権者である。
 原告は、平成10年6月29日、本件実用新案登録を無効にすることについ
て審判を請求し、特許庁は、これを平成10年審判第35293号事件として審理
した結果、平成11年11月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決
をし、同年12月1日にその謄本を原告に送達した。
2 本件考案の実用新案登録請求の範囲
「ブロック本体の一方の端面の上部及び他方の端面の上部に、それぞれ互いに
相補形状の上向きテーパ面と下向きテーパ面とを有する嵌合凸部及び嵌合凹部を設
け、各嵌合凸部及び嵌合凹部の両テーパ面とブロック本体の両端の下部に、それぞ
れ両端テーパ状連結ピンを挿入するためのテーパ孔を形成したことを特徴とする連
設用ブロック。」(別紙図面(1)参照)
3 審決の理由
 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。
 要するに、審決は、本件考案と特開昭60-237288号公報(被告が特
許出願したもの。以下「引用刊行物1」という。)に記載された技術(以下「引用
考案1」という。別紙図面(2)参照)とを対比して、本件考案と引用考案1とは、
「ブロック本体の一方の端面の上部及び他方の端面の上部に、それぞれ互い
に相補形状の上向きテーパ面と下向きテーパ面とを有し、テーパ面とブロック本体
の両端の下部に、それぞれ両端テーパ状連結ピンを挿入するためのテーパ孔を形成
したことを特徴とする連設用ブロック」
である点で一致し、他方、本件考案において、
「ブロック本体の一方の端面の上部及び他方の端面の上部に、嵌合凸部及び
嵌合凹部を設け、嵌合凸部及び嵌合凹部のそれぞれには互いに相補形状の上向きテ
ーパ面と下向きテーパ面とを有し、各嵌合凸部及び嵌合凹部の両テーパ面に、連結
ピンを挿入するためのテーパ孔を形成している」
のに対して、引用考案1においては、
「ブロック本体の一方の端面の上部及び他方の端面の上部に、単に上向きテ
ーパ面と下向きテーパ面を形成し、該両テーパ面にテーパ孔を形成している」
点で相違しているとし、上記相違点について、引用考案1にも実願昭54-1
20323号(実開昭56-41779号)のマイクロフィルム(以下「引用刊行
物2」という。別紙図面(3)参照)に記載された技術(以下「引用考案2」とい
う。)にも、上記相違点に係る本件考案の構成によって達成されるべき課題や動機
付けとなるものはないとし、また、上記構成を採用することにより、
「施工に際しては嵌合凸部の上部のテーパ孔を連結ピンを挿入するか、或い
は嵌合凹部の下部のテーパ孔に連結ピンを挿入するかを選択して、隣接するブロッ
クのいずれの方向にも連設施工ができる。また、且つ暗渠等ブロックを対称的に配
列する施工においても所定の方向へ施工を容易に且つ能率的に行うことができる」
という格別な効果を奏するとし、その結果、本件考案に進歩性を認め、本件考
案は、引用考案1及び同2に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができ
たものである、とする原告の無効審判請求は成り立たない、としたものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決の理由中、1(手続の経緯・本件考案の要旨)、2(審判請求人の主張
及び提示した証拠方法)、3(被請求人の主張)、4(甲第2号証及び甲第3号証
記載の考案)は、いずれも認める。同5(当審の判断)については、一致点・相違
点の認定を認め、相違点についての認定判断を争う(一部認めるところがあ
る。)。同6(むすび)は争う。
 審決は、本件考案は引用考案1及び同2に基づいてきわめて容易に想到し得
たものではない、との誤った判断をし(取消事由1)、また、本件考案に顕著な効
果が認められるとの誤った判断をし(取消事由2)、その結果、本件考案の進歩性
を認めたものであり、上記認定判断の誤りがその結論に影響を及ぼすことは明らか
であるから、取消しを免れない。
1 取消事由1(想到困難性の誤認)
 審決は、引用考案1にも同2にも、上記相違点に係る本件考案の構成によっ
て達成されるべき課題も動機付けとなるものもない、と判断したが、この判断は誤
っている。
 引用考案1及び同2は、いずれも、連接するブロックの位置ずれを防止する
という課題の解決に係るものであるから、課題において共通しており、しかも、機
能・作用においても共通している。ある課題を解決するために、関連する技術分野
の技術手段の適用を試みるということは、当業者が通常の創作能力を発揮すること
によってきわめて容易になし得ることである。そうであるならば、引用考案1の上
向きテーパ面と下向きテーパ面のみの組合せに代えて、引用考案2の突出部と切欠
部との組合せを採用することには十分な動機付けがあるというべきである。その場
合、引用考案1では、テーパ面は水平方向に延びて、横ずれの防止を連結ピンで行
うようにしているから、引用考案1に同2を適用しようとする際に、引用考案2の
底板に対して平行に突出部と切欠部を設けた構成を当然に採用することになるので
ある。
 考案の登録要件として考案の「進歩性」が要求されるゆえんは、通常の技術
者が自然に考え付く程度の考案に独占権を付与することは、かえって産業の発達を
阻害することになるということにほかならない。凸部と凹部を嵌合させることによ
って2つの部材の位置づれを防ぐというような技術は、最も古くから慣用されてい
る技術の最たるものであることは証明を必要としないことである。引用考案2は、
連設用ブロックにおいて、このような嵌合技術を開示している具体例である。
2 取消事由2(格別の効果の誤認)
 本件考案のようなブロックの連設作業においては、引用刊行物1の第1図
(別紙図面(2)参照)に示されるように、連結ピンは、上向きテーパ面のテーパ孔に
差し入れておくのが技術常識といえるから、凸部側の上向きテーパ面のテーパ孔
と、凹部側の上向きテーパ孔とについて連結ピンを差し入れる場合を使い分けれ
ば、左右両方向からブロックの連設作業を行うことができることは明らかである。
したがって、審決が本件考案について「施工に際しては嵌合凸部の上部のテーパ孔
を連結ピンを挿入するか、或いは嵌合凹部の下部のテーパ孔に連結ピンを挿入する
かを選択して、隣接するブロックのいずれの方向にも連設施工ができる。また、且
つ暗渠等ブロックを対称的に配列する施工においても所定の方向へ施工を容易に且
つ能率的に行うことができる。」と認定した効果は、引用考案1に同2を適用した
とき当然に達成し得る事柄にすぎない。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断はいずれも正当であって、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(想到困難性の誤認)について
 引用考案1に同2を適用しようとしても、本件考案に示されている課題を解
決しようという動機や目的があってはじめて、連結部分に現れる凹部の上向きテー
パ面と、それに対応する凸部の下向きテーパ面にそれぞれテーパ孔を設け、その間
に連結ピンを用いるという発想が生まれ、そこに進歩性も存在するのであって、引
用考案1にいかなる問題が存在するかという認識なくして、こうした構成に思い至
ることはあり得ない。上記のような動機付けがあるとする原告の主張は、後知恵に
すぎない。
 本件考案は、引用発明1における被告自身の発明の欠点を克服することを意
図し、これを技術的課題とし目的としたものであって、右方向施工用と左方向施工
用の2種類のブロックを製作、ストックしなければならないとの不利となる問題を
解決するために、同一の形状で左右両方向に施工ができるブロックを提供するもの
である。原告は、引用考案1が連接するブロックの位置ずれを防止するという課題
を解決するためになされたものであると主張するが、このような課題は、本件考案
の進歩性の判断には何らの関係もないことである。
 原告は、凸部と凹部を嵌合させることによって2つの部材の位置ずれを防ぐ
というような技術は、最も古くから慣用されている技術の最たるものであるとい
う。しかし、そういいながら、なぜ、引用考案1に同2を適用すれば本件考案の構
成が得られるのかについて、その理由は全く述べていないのである。
2 取消事由2(格別の効果の誤認)について
 引用考案1及び同2は、いずれも、本件考案の課題、目的を有しないから、
両者を組み合わせても、それぞれが有する課題に応じた組合せ以上のものは得られ
ない。得られるのは、せいぜい、相互を部分的に置換した程度の構成にすぎない。
したがって、引用考案1と同2を組み合わせれば本件考案が得られる、というわけ
ではない。のみならず、そもそも、具体的に本件考案の課題を見いださなければ、
これらを組み合わせるべき理由も出てこないのである。そうである以上、引用考案
1及び同2から本件考案の顕著な効果を予測することは不可能である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(想到困難性の誤認)について
(1) 弁論の全趣旨によれば、本件考案は、引用考案1と対比したときに、本件
考案が、「ブロック本体の一方の端面の上部及び他方の端面の上部に、嵌合凸部及
び嵌合凹部を設け、嵌合凸部及び嵌合凹部のそれぞれには互いに相補形状の上向き
テーパ面と下向きテーパ面とを有し、各嵌合凸部及び嵌合凹部の両テーパ面に、連
結ピンを挿入するためのテーパ孔を形成するという構成を有している」のに対し、
引用考案1では、「ブロック本体の一方の端面の上部及び他方の端面の上部に、単
に上向きテーパ面と下向きテーパ面を形成し、該両テーパ面にテーパ孔を形成して
いる」点でのみ相違していることが認められる。
 甲第2号証によれば、本件登録実用新案に係る願書に添付された明細書
(以下「本願明細書」という。)の考案の詳細な説明の欄には、〔産業上の利用分
野〕の項に「本考案は、道路の両側に側溝ブロックを並行して施工する場合や、水路
の両側を擁壁する場合等に適した連設用ブロックに関する。」(1欄11行~13
行)との記載があり、続いて、従来技術として引用考案1が掲げられ、〔考案が解
決しようとする問題点〕の項に「このような施工を行うとき、ブロック本体31の
上向きテーパ面32より突出している連結ピン38に対して次のブロックの下向き
テーパ面33が接するように工事が行われるため、第12図のブロックの状態では
施工は必ず右方向に工事を進めて行かなければならない。左方向に工事を行う場
合、ブロックの向きを反対にすればよいことになるが、道路側溝ブロック等のよう
に天頂部にテーパをつける場合や水路の両壁用のL字形ブロックのような方向性を
有する場合には、同じブロックを右方向施工と左方向施工に切替えて使用すること
はできない。したがって、右方向施工用と左方向施工用の2種類のブロックを製
作、ストックしておく必要があり、ブロック製造上やストックの面で不利となる問
題があった。本考案は、このような従来のブロックの問題点に鑑みて案出されたも
のであり、同一の形状のブロックを用いるにも拘わらず、左右両方向に施工ができ
る構造のブロックを提供することを目的とする。」(3欄2行~22行)との記載
があることが認められる。
 甲第3号証によれば、引用刊行物1には、特許請求の範囲の欄に、「1.
ブロック本体の一方の端面の上部と他方の端面の上部に、それぞれ互いに相対形状
の上向きテーパ面と下向きテーパ面を形成し、同両テーパ面と両端面下部に、両端
テーパ状連結ピン挿入用テーパ孔を形成したことを特徴とするブロック。」(1頁
左欄4行~8行)、発明の詳細な説明の欄の〔産業上の利用分野〕の項に、「本発
明は、特に重量の大きい暗渠ブロック、側溝ブロック、ボックスカルバート等を施
工するに適したブロック・・・に関するものである。」(1頁右欄6行~9行)、
〔従来の技術〕の項に、「従来のこの種のブロックは、ブロック相互間の緊締のた
めに、例えばボックスカルバートの場合、第8図に示すようにブロック本体(11)
の長手方向に貫通するボルト孔(12)を設け、これを施工する場合には第9図に示
すように各ブロックの施工後に複数個単位でボルト(13)で締め付けて一体化する
か、又は油圧ジャッキ等でワイヤー締め付けを行なっていた。また側溝などは、第
10図に示すようにブロック本体(21)の端部に鍔部(22)を形成し、その鍔部に
設けたボルト孔(23)にボルト、ナットを用いて各ブロックを一体化していた。」
(1頁右欄11行~2頁左上欄2行)、〔発明が解決しようとする問題点〕の項
に、「このような方法では、ボルト締め付け作業の手間が掛り、締め付け時にブロ
ック間に土砂を噛み込んだり、また締結に金物を使用するため長期的には酸化によ
る腐食をきたして緊締強度が低下するという問題点があった。また、ブロックどう
しの端部の位置合わせや密着の作業に手間が掛り、工期が長くなるという問題もあ
った。本発明は、このような従来の問題点を解消し、各ブロックの緊締作業が不要
でありながら、確実に緊締を行なうことのできるブロック及びその施工方法を提供
することを目的とするものである。」(2頁左上欄4行~15行)、〔問題を解決
するための手段〕の項に、「本発明は、ブロックの端面に形成したテーパ面に連結
ピンを装着し、この連結ピンを、隣接するブロックの設置の際にガイドとして用い
ることによりブロックの位置決め及び端面の密着性を確実にかつ容易に行うように
したものである。」(2頁左上欄17行~右上欄1行)、「地盤の性質に応じて所
要の基礎を敷設した後、ブロック本体(1)を設置し、隣接するブロックを設置する
場合には、そのブロック本体(1)をクレーン等で吊り下げながら、第6図に詳細に
示すように既に設置されたブロックの上向きテーパ面(2)のテーパ孔(4)に装着さ
れている連結ピン(8)の先端に、設置しようとしているブロック本体(1)の下向き
テーパ面(3)のテーパ孔(5)が入るように操作し、テーパ孔(5)が連結ピン(8)に
入った状態で、そのままクレーンを下ろせば、テーパ孔(5)は連結ピン(8)内に奥
まで嵌入するとともに、ブロック本体(1)全体は連結ピン結合部を支点として水平
状態に回動し、ブロック下面の連結ピン(8)とテーパ孔(6)も嵌合して両ブロック
の端面はブロックの自重で完全に密着する。またこのとき、ブロックの端面の溝
(7)に装着したシール材(9)が相対面に密着するので、シールも完全に行なわれ
る。」(2頁右上欄19行~左下欄15行)との記載があり、第1、5、6図に
は、上記記載に対応する実施例が示されていることが認められる。
 本願明細書及び引用刊行物1の上記認定の各記載によれば、本件考案と引
用考案1との上記相違点は、より具体的にいえば、本件考案において、ブロック本
体の一方の端面の上部に「嵌合凸部」を、他方の端面の上部に「嵌合凹部」をそれ
ぞれ設け、この「嵌合凸部」及び「嵌合凹部」のそれぞれに上向きテーパ面と下向
きテーパ面を設け、両テーパ面にテーパ孔を形成していることであり(テーパ面に
テーパ孔を形成すること自体は、引用考案1と同様である。)、本件考案は、この
ような構成を採用することによって、同一の形状のブロックを用いるにもかかわら
ず、左右両方向にブロックを連設することができるようにしたというものであるこ
とが明らかである。
(2) 甲第4号証によれば、引用刊行物2には、明細書の実用新案登録請求の範
囲の欄に、「長手方向に連続して配設した複数個のU字型排水フリュームの接合構
造であって、対設する一対のU字型排水フリュームにおける一方のU字型排水フリ
ューム両側板の長手方向端面に端面に沿って互いに反対方向に傾斜する切欠部を形
成し、他方のU字型排水フリューム両側板の長手方向端面に前記切欠部に隙間なく
嵌合する突出部を形成してあることを特徴とするU字型排水フリュームの接合構
造。」(明細書1頁5行~13行)、考案の詳細な説明中の実施例による説明の部
分に、「切欠部4、5は側板3、3の長手方向端面に沿って互いに反対方向に所定
角度傾斜して形成してある。また、切欠部4、5は深くなるにつれて次第に幅小に
形成してある。実施例においては側板3、3の長手方向部を略八の字型に切り欠い
て切欠部4、5が形成してある。突出部6、7は切欠部4、5にそれぞれ隙間なく
嵌合可能な略截頭四角錐体に形成してある。実施例においては側板3、3の長手方
向端面に略八の字型に突出して形成してある。このような構成において、対接した
一対のU字型排水フリューム1は切欠部4と突出部6、切欠部5と突出部7とをそ
れぞれ嵌合させて接合する。」(明細書3頁8行~4頁1行及び第1~第3図)と
の記載があることが認められる。
 そうすると、引用刊行物2には、本件考案の構成に即していえば、U字型
排水フリューム(本件考案では「ブロック本体」)の一方の端面及び他方の端面
に、突出部(本件考案では「嵌合凸部」)及び切欠部(本件考案では「嵌合凹
部」)を設け、突出部と切欠部とをそれぞれ嵌合させて接合するという技術(引用
考案2)が記載されていることが認められる。
(3) 原告は、引用考案2は、連設用ブロックにおいて、凸部と凹部を嵌合させ
ることによって2つの部材の位置ずれを防ぐという最も古くから慣用されている技
術を開示しているものであるとしたうえ、引用両考案は、課題においても機能・作
用においても共通しているから、引用考案1に同2を適用することについては動機
付けがあり、引用考案1では、テーパ面は水平方向に延びており、そのことにより
生ずる横ずれの防止を連結ピンで行うようにしているから、引用考案1に同2を適
用しようとする際には、引用考案2の底板に対して平行に突出部と切欠部を設けた
構成を当然に採用することになる旨主張し、他方、被告は、引用考案1に同2を適
用しようとしても、本件考案における、連結部分に現れる上側の上向きテーパ面
と、それに対応する下向きテーパ面にそれぞれテーパ孔を設け、その間に連結ピン
を用いるという発想が生まれるための動機付けがない旨主張する。
(イ) 引用刊行物1及び同2の前認定の記載によれば、引用考案1と同2と
は、いずれも土木工事における側溝等に用いられるもの(ブロックあるいはU字型
排水フリューム)の接合に関する技術であって、技術分野を共通にし、また、上記
接合を適切に行おうとする技術であるという限度では、課題、目的をも共通にする
ものであることが、明らかである。
 しかしながら、そうであるからといって、それだけで、当然に、引用考
案1に同2を適用することについて動機付けがあることになるわけではない。例え
ば、技術分野が同じで、高い抽象度でみれば同じ課題、目的を有する技術同士であ
っても、具体的な技術同士として比較すれば、低い抽象度でみた場合の課題、目的
は異なり、むしろ、両者が互いに排斥し合う要素があることもあるのであり、この
ようなとき、一方に他方を適用する動機付けを見いだすことは、動機付けとなるべ
き具体的な事情が見いだせない限り、困難という以外にないからである。
(ロ) そこで、引用考案1と同2とをより具体的に対比してみる。
 前記認定の引用刊行物1の記載によれば、引用考案1は、「ブロック本
体の一方の端面の上部と他方の端面の上部に、それぞれ互いに相対形状の上向きテ
ーパ面と下向きテーパ面を形成し、両テーパ面とブロック本体の両端面の下部に、
両端テーパ状連結ピン挿入用のテーパ孔を形成したことを特徴とするブロック」
(審決書6頁9行~14行参照)というものであり、同考案は、上記のような構成
を有することによって、連結ピンによって隣接するブロックの位置決め及び端面の
密着性を確実にかつ容易に行うという作用効果を奏するという特徴を有しているこ
とが明らかである。
 一方、引用考案2が、U字型排水フリューム(本件考案の「ブロック本
体」に相当する。)の一方の端面及び他方の端面に、突出部(本件考案の「嵌合凸
部」に相当する。)及び切欠部(本件考案の「嵌合凹部」に相当する。)を設け、
突出部と切欠部とをそれぞれ嵌合させて接合するという技術であることは、前記(2)
認定のとおりである。
 前述のとおり、引用考案1と同2とは、いずれも土木工事における側溝
等に用いられるもの(ブロックあるいはU字型排水フリューム)の接合に関する技
術であり、技術分野を共通にしており、また、上記接合を適切に行おうとする限度
では、課題、目的をも共通にするものであるとはいえ、これをより具体的にみれ
ば、上記のとおり、引用考案2は、単に、U字型排水フリュームの突出部と切欠部
とを嵌合させて接合するという技術であるのに対して、引用考案1では、互いに相
対形状の上向きテーパ面と下向きテーパ面とで接合した二つのブロック本体を上部
(テーパ面の部分)と下部の連結ピンによって相互に離れないように結合するとい
う技術であるから、両考案は、ブロック(U字型排水フリューム)の端面の密着性
を確保するという具体的な点において、技術課題、機能・作用に大きく異なるとこ
ろがあるということができる。このように両考案の具体的技術課題、機能・作用に
大きな差異がある以上、両者の構成を当然に相互に転用可能なものとすることはで
きない。したがって、引用考案1と同2が技術分野を共通にし、高い抽象度でみれ
ば、同じ技術課題、機能・作用を有するものであるとしても、これらを結び付ける
具体的要因(動機付け)が見いだせない限り、両者の組合せがきわめて容易である
との結論を導き出すことはできないものというべきである。
(ハ) ところが、引用考案1と同2を組み合わせて本件考案とすべき上記具
体的要因(動機付け)は、本件全証拠によっても認めることができない。
 本件考案は、前に(1)で述べたとおり、引用考案1を従来技術として、そ
こに示された技術を生かしつつ、同一の形状のブロックを用いる限り、施工の方向
が一つに限られるという同考案の性質をその欠点としてとらえ、これを改善して、
同一の形状のブロックを用いても左右両方向への施工が可能なものにすることを、
その課題とするものである。そして、甲第3、第4号証によれば、引用刊行物1に
も同2にも、このような施工の双方向性を同一形状のブロックによって実現すると
いう技術的課題自体も、これを示唆する事項も全く記載されておらず、まして、引
用考案1あるいは同2が上記課題の解決にとって有利なものを持っていることは何
ら記載されていない。このような状態で、引用考案1に同2を組み合わせて上記課
題を解決しようと考えることは、反対の結論に導く特別の事情が認められない限
り、きわめて容易なこととはなし得ないものというべきである。二種類のブロック
が必要であることの不都合は、現実の工事の体験等から認識されるであろうが、そ
のことが直ちに引用考案1あるいは同2の改良によってこの不都合を除去するとの
着想をきわめて容易なものとするわけではないことはいうまでもない。
その他、上記特別の事情に該当すべき事実は、本件全証拠によっても認めることが
できない。したがって、施工の双方向性の実現という課題の観点からみる限り、引
用考案1に同2を組み合わせて本件考案に至る動機付けは認められないという以外
にない。施工の双方向性の実現という課題の観点以外の観点について検討しても、
両考案を結び付ける動機付けを見いだすことはできない。
(4) 引用考案2を離れ、引用考案1自体から本件考案を推考することがきわめ
て容易であったかについてみても、前記(3)(ハ)に述べる状況の下では、引用考案1
を改良して同一形状のブロックを用いて常に一方向に施工することを可能にする本
件考案の技術思想に想到するためには、何らかの発想の転換を必要とするというべ
きであり、引用考案1に基いて当業者がきわめて容易に本件考案のもののような技
術思想に想到し得たものとすることはできない。
(5) 仮に引用刊行物1ないし同2から本件考案の技術思想に想到し得たとして
も、次のとおり、当業者が、きわめて容易に本件考案の構成に想到し得たものであ
るということはできない。
 すなわち、引用考案1は、ブロック本体の端面の上部を利用し、互いに相対形状
の上向きテーパ面と下向きテーパ面とで接合した二つのブロック本体を連結ピンに
よって相互に離れないように結合するという技術である。引用考案1に開示された
技術を生かし、施工の双方向性を同一形状のブロックによって実現しようとする場
合、それぞれのブロック本体に上向きテーパ面と下向きテーパ面とを形成しなけれ
ばならなくなるわけである。ところが、この際、引用考案1に示されている、一方
向への施工を可能とする技術を、他方向への施工を可能とする技術に、方向を変え
るだけでそのまま転用できるわけのものではないことは、明らかである。一方向へ
の施工を可能とするために、ブロックの「上部」は既に使われてしまっているか
ら、他方向への施工を可能とするためには、上記「上部」以外の部分を求めるほか
はないからである。そして、これを具体的にどのように形成し、実際に利用可能な
ものとするかについては、引用刊行物1や同2には何らの記載も示唆もないのであ
るから、本件考案のような構成とすることは、反対の結論に導く特別の事情でも認
められない限り、きわめて容易なこととはいえないものというべきである。そし
て、本件全証拠によっても、上記特別の事情に該当すべき事実を見いだすことはで
きない。
 原告は、引用考案2は、連設用ブロックにおいて、凸部と凹部を嵌合させること
によって2つの部材の位置づれを防ぐという最も古くから慣用されている技術を開
示しているものであること、引用両考案は、課題においても機能・作用においても
共通していることを挙げ、これらが、両考案を結び付けることを容易にする要素と
なる旨主張する。
 しかしながら、原告が主張する上記二つの事項は、両考案を結び付けるこ
とを容易にする要素というより、むしろ、それを困難にする要素というべきであ
る。前述したとおり、両考案は、高い抽象度でみれば、課題においても機能・作用
においても共通しているとはいえ、より具体的にみれば、課題においても機能・作
用においても異なっているのであり、引用考案1は、慣用技術である引用考案2の
ものと同じ課題(高い抽象度でみた場合の課題)を、それのものとは異なった技術
思想に基づく技術によって解決しようとした点にこそ、その特徴があるということ
もできるのであり、両者は、その限度では互いに相容れないものであるということ
が許されるからである。
(6) 以上のとおりであるから、引用考案1及び同2から本件考案に想到するこ
とがきわめて容易であったとすることはできない。きわめて容易であったとする原
告の主張は採用できない。
2 取消事由2(格別の効果の誤認)について
 本件考案の効果とされているものは、同考案の構成を採用することから生ず
る自明の効果にすぎないから、上記構成の進歩性を離れて、それ自体で実用新案登
録性の根拠となり得るものではない。しかし、本件考案の構成自体に進歩性が認め
られる限り、その効果が格別なものであるか否かは、同考案に実用新案登録性を認
めるべきか否かには無関係となる。したがって、いずれにせよ、本件において効果
の問題が結論に影響を及ぼすということはあり得ない。その意味において、効果の
誤認を理由とする原告の主張は、主張自体失当という以外にない。
 原告の主張は、採用できない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その
他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見いだせない。よって、本訴請求を棄却する
ことし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用し
て、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第6民事部
  裁判長裁判官山  下  和  明
 裁判官山  田  知  司
 裁判官宍  戸     充
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