弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二、五〇七、一八五
円およびこれに対する本件訴状の送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の
割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との
判決および仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、証拠として、控訴人において、
証人Aおよび同Bの各証言を援用したほか、原判決の事実摘示のとおりであるの
で、これを引用する。
         理    由
 一、 本件保険契約の内容、本件自動車の保有関係、本件交通事故の経緯および
負傷の程度については、原判決の判示のとおりであるので、原判決の九丁表二行目
から同裏一〇行目までの記載を、ここに引用する。
 二、 交通事故の被害者が保険会社に対し自賠法一六条一項に基づき損害賠償額
の支払いを直接請求できるためには、その前提として、同法三条により保有者に損
害賠償の責任が発生していることが必要であり、そして、保有者が同法三条により
損害賠償の責任を負うのは、その自動車の運行によつて「他人」の生命または身体
を害したときであり、この「他人」とは、運行供用者および当該自動車の運転者・
運転補助者を除くそれ以外の者をいうと解される(最高裁二小廷昭和三七年一二月
一四日判決・民集一六巻一二号二四〇七頁、同昭和四二年九月二九日判決・裁判集
八八号六二九頁、同三小廷昭和四七年五月三〇日判決・民集二六巻四号八九八
頁)。けだし、交通事故の被害者は原則として運行供用者に対して事故による損害
の賠償を請求できるが、他面、被害者が事故の原因となつた具体的運行に直接に関
与している場合(その具体的運行に関与し社会通念上、本来の運行供用者と別に共
同運行供用者とみられるような場合、つまり、被害者がむしろ加害者の側に立つも
のとみられる場合を含む)には、公平の観点から損害賠償の責任の発生を認めない
のが相当であり、自賠責保険もかかる者に対する救済を予定していないと解すべき
である。そこで、控訴人が右「他人」に当るかどうかについて検討する。
 本件自動車はCが所有していたもので、右Cの夫Aが代表者をしている有限会社
Dクリーニング店の業務のため主として集配用に使用されていたことについては、
当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない乙第一号証の一ないし六、甲第一
四号証、控訴人本人尋問の結果により真正に成立したも<要旨>のと認められる甲第
一一号証ならびに証人Bの証言および右控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人 要旨>は、Dクリーニング店の従業員として同店の営業上本件自動車の運転にあたつ
ていたが、閉店後や休日には本件自動車およひその鍵を自分の居住する近くのアパ
ートに保管することもあつて、その場合には本件自動車をいつでも自由に出入れで
きる状態にあり、控訴人自らの意思で営業のほか自己の個人的レジヤーにも使つて
いたこと、また、事故当日、控訴人は業者の旅行に参加し、帰宅後遊びに来た友人
のBと右アパートで飲酒し、二人ともかなり酩酊していたにもかかわらず、Bに誘
われて本件自動車で食事に出かける話となり、Bが控訴人の保管している鍵を持ち
出し運転しようとするのを控訴人が承諾し、控訴人とBが連れ立つて午後一一時頃
同アパートの前に置いであつた本件自動車に乗り込み、控訴人は助手席に乗りBが
本件自動車を運転したところ、本件事故にあつたことが認められ、右認定に抵触す
る証人Aの証言は叙上の証拠と対比して採用することができない。
 これらの認定事実を総合すると、Dクリーニング店の共同経営者でない控訴人
は、本件自動車の営業にかかる運行に関しては運行供用者にあたらないが、営業時
間外のレジヤー用その他の控訴人の個人的目的のためにする運行に関してはー本来
の運行供用者があると否とに拘らずー控訴人も運行供用者であると解すべく、従つ
て、他に特段の事情がない限りかかる立場の控訴人は「他人」に該当しないと解す
るのが相当である(証人Aは、控訴人が個人的目的のため本件自動車を運行するこ
とを禁じていた旨証言しているが、たとえ、そうであつても、控訴人がこれに違反
して勝手に本件自動車を自分の個人的目的のため運行する以上、その立場では運行
供用者たる責任を負うべきであつて、特段の事情がない限り他人にあたらないと解
すべきことは原判決説示のとおりである。)。しかるところ、本件の交通事故は、
前叙のとおり営業時間外に控訴人が遊興のために本件自動車を持ち出し自ら助手席
に乗車中に発生したものであるので、他に特段の事情が認められない本件において
は、右具体的運行につき、控訴人は「他人」には当らないものというべきである。
 したがつて、控訴人は、本件事故によつて、損害を蒙つたとしても、本件自動車
の保有者たるCに対しその損害賠償請求権を有しないから、被控訴人に対し自賠法
一六条一項に基づき損害賠償金の支払いを請求しえないものというべきである。
 三、 よつて、控訴人の本訴請求はその余の主張について判断するまでもなく失
当であり、これを棄却した原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することと
し、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 伊藤利夫 裁判官 小山俊彦 裁判官 山田二郎)

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