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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     原判決主文第一ないし第四項を左のとおり変更する。
     一 被控訴人Aと控訴人Eとの間において、同被控訴人が東京都中央区
a町b丁目c番地d宅地六十一坪九合三勺(同地番北西角より八米道路沿い間口七
間五分奥行左辺六間八分四厘右辺九間八分八厘間口の対辺奥行左辺寄四間一分奥行
右辺寄三間四分)について、賃貸人同控訴人賃借人同被控訴人賃料一ケ月金三十二
円二十二銭毎月二十八日払期間昭和十九年九月一日より満二十年(但し、昭和二十
年七月十二日より昭和二十一年九月十四日迄は算入しない)なる借地権を有するこ
とを確認する。
     二 被控訴人Aに対し、控訴人三興産業株式会社は前同所所在木造トタ
ン葺二階建一棟建坪六十六坪五合二階八坪(家屋台帳上、家屋番号同町三十番の
二、四、木造トタン葺平家建建坪五十八坪五合)のうち、前記土地六十一坪九合三
勺の上にある五十五坪三合、二階八坪を収去して、右土地を明渡せ。
     三 訴訟引受人箱崎木工株式会社は被控訴人Aに対し、右建物の右部分
より退去して右土地六十一坪九合三勺を明渡せ。
     四 被控訴人Bと控訴人中央運輸倉庫株式会社破産管財人との間におい
て、被控訴人が東京都中央区a町b丁目e番地のf、宅地十八坪一合四勺(同地番
北西角より八米道路沿い四間一分五厘の地点から間口三間六分八厘奥行四間九分三
厘)について、賃貸人同破産会社賃借人同被控訴人賃料一ケ月金九円七十二銭毎月
二十八日払期間昭和十九年九月一日より満二十年(但し昭和二十年七月十二日より
昭和二十一年九月十四日迄は算入しない)なる借地権を有することを確認する。
     五 控訴人中央運輸倉庫株式会社破産管財人は被控訴人Bに対し、前記
土地十八坪一合四勺の上にある塀及びさしかけ五坪を収去して右土地を明渡せ。
     控訴費用は控訴人等及び訴訟引受人の負担とする。
     この判決は確認の部分を除き仮りに執行することができる。
         事    実
 控訴人等及び訴訟引受人は「原判決中被控訴人A敗訴の部分を除き、その余を取
り消す。被控訴人等の本訴請求(当審において請求趣旨を訂正したとおりの)を棄
却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、
被控訴人等代理人は主文同旨の判決を求めた。 当事者双方の事実上の供述は、被
控訴人等代理人において「(一)従前主張した本件係争宅地建物の所在地番及び建
物の表示を主文記載のとおりに訂正する。(二)訴訟引受人箱崎木工株式会社(昭
和二十七年七月二十九日設立)は引受前控訴人日本生活文化株式会社が昭和二十七
年九月十日解散した跡を襲つて、主文二掲記の建物のうち同掲記の部分を使用し
て、その敷地六十一坪九合三勺を不法に占有するに至つた。(三)受継前控訴人中
央運輸株式会社は、昭和二十六年六月十九日その商号を中央運輸倉庫株式会社と変
更し、昭和二十九年五月十七日破産の宣告を受けた。(四)同会社は主文四の地上
に塀を廻らし、さしかけ五坪を設置して土地を不法に占有している。そこで当審に
おいては塀の外に右さしかけの撤去を求め、敷地明渡を訴求する。(五)今次戦争
による罹災前、被控訴人Aはその借地上に同被控訴人及び妻C共同名義の建物三棟
を所有し、また被控訴人B借地上には、家屋台帳上、同居の兄D名義に登載された
建物一棟が存したが、これは名義だけのことで、実際には、同被控訴人の所有に属
したものである。しかして以上各建物については被控訴人等はいずれも登記手続を
経ていない。」と述べ、控訴人E、同三興産業株式会社及び訴訟引受人箱崎木工株
式会社において「(一)控訴人Eが所有し、控訴人三興産業株式会社及び訴訟引受
人の占有する係争土地の地番が分筆登記の結果被控訴人A主張のとおりに変更さ
れ、また同控訴会社の所有し、訴訟引受人の占有にかかる建物の表示及び本件宅地
上に存立する部分の坪数が同被控訴人主張のとおりであることは認める。(二)同
被控訴人主張(二)の事実も占有が不法であることを除き、争わない。(三)仮り
に被控訴人が本件土地につき罹災前より有する借地権を以て控訴人Eに対抗しうる
としても、借地権は元来債権であつて、物権的効力を有せず、しかも本件の如く現
実の占有を伴わない場合には、これに基き直接第三者に対し、妨害排除の請求をな
しうるものではない。」と述べ、控訴人中央運輸倉庫株式会社破産管財人において
「(一)同会社の商号変更並に破産に関する被控訴人主張事実は認める。(二)被
控訴人B主張の本件土地が分筆の結果その主張の如く地番を変更したこと及び該土
地が元訴外Fの所有にかかり、これが同人より控訴人Eを経て順次破産会社に譲渡
せられ、各所有権移転登記を経由したこと、同破産会社が右地上に現に塀及びさし
かけ五坪を所有して本件土地を占有することは、いずれも認めるが、本件土地につ
き同被控訴人が借地権を有することは否認する。その余の被控訴人主張事実は不
知。(三)被控訴人Bの主張によれば、本件地上には戦災当時まで訴外D所有名義
の建物はあつたが、同被控訴人自身の名義に登記された建物は存在していなかつた
のであるから同被控訴人としては建物保護法の規定によるも、土地の権利取得者に
対しその借地権を対抗し得なかつたこと明かである。然るに罹災都市借地借家臨時
処理法第十条は、建物保護法による借地権の保護要件を具備していたものについて
のみ適用されるのであるから、同被控訴人の借地権はこれを以て破産会社に対抗す
ることはできない。」と述べた外、原判決事実摘示と同一につき、これを引用す
る。
 証拠として、被控訴人等代理人は甲第一号証第二号証第三号証の一、二、三、第
四、五号証の各一、二、第六ないし第十四号証第十五号証の一、二を提出し、原審
における証人Gの証言被控訴人両名各本人尋問の結果、当審における証人D(第
一、二回)、Hの各証言、被控訴人A本人尋問の結果及び検証の結果を援用し、乙
号各証の成立は不知と答え、控訴人等及び訴訟引受人は乙第一ないし第三号証を提
出し(但し控訴人破産管財人は他の控訴人の提出にかかる右乙号証を援用)、原審
の証人I、Jの各証言控訴本人Eの尋問の結果並に当審検証の結果を援用し、甲第
六号証は不知その余の甲号各証の成立は認めると述べた。
         理    由
 第一 被控訴人Aの請求について。
 (一) 成立の争のない甲第一号証、当裁判所の真正に成立したと認める同第六
号証、原審証人Gの証言及び原審並に当審における被控訴本人A尋問の結果によれ
ば、東京都中央区a町b丁目c番地宅地二百二十九坪六合一勺は元訴外Fの所有に
属し、被控訴人Aは大正十三年九月一日久世より右宅地のうちその主張の六十一坪
九合三勺の区域(この部分の地番が後に同番の二と変更されたことは、当事者間に
争がない)を賃料一ケ月金三十二円二十二銭毎月二十八日払期間満二十年と定めて
賃借したところ、右賃貸借は期間満了により昭和十九年九月更に同一条件を以て更
新されたこと、被控訴人Aはその妻Cと共有にて右地上に木造瓦葺二階建の建物三
棟を所有していたが、昭和二十年三月十日これが戦災に罹り焼失したこと等の事実
を認めうべく、控訴人Eが昭和二十三年四月二十八日久世より右土地を買受け、所
有権取得登記をしたことは、同控訴人並に控訴人三興産業株式会社、訴訟引受人箱
崎木工株式会社の敢えて争わないところである。然らば、被控訴人Aの有する本件
土地の賃借権は、戦時罹災土地物件令第三条第一項附則第三項の規定により昭和二
十年七月十二日よりその存続期間の進行を停止し、罹災都市借地借家臨時処理法の
施行に伴い昭和二十一年九月十五日より再び進行を始めたものというべく、且つ同
法第十条の規定により、同被控訴人は右借地権を以て昭和二十一年七月一日より五
ケ年以内に本件土地の所有権を取得した控訴人Eにこれを対抗しうること明かであ
る(被控訴人Aが本件地上に有した罹災建物については、保存登記を経由してなか
つたことは、その自陳するところであるが、後記第二の(二)に説示する理由によ
り土地賃貸借の登記なく且つ建物の保存登記なき場合と雖も、右処理法第十条の適
用あるものと解すべきである。)。
 控訴人等は、仮りに被控訴人Aが本件土地につき借地権を有していたとしても、
控訴人Eにおいて、本件土地買受前たる昭和二十年十二月頃当時の所有者Fより本
件上地を含む二千二百坪を建物所有の目的で賃借していたのであるから、かかる地
位にある控訴人Eに対しては旧借地人の借地権はこれを対抗し得ない旨主張するけ
れども、右抗弁を採用し難いことについては、原判決理由に説明するとおりであ
る。よつてこれを引用する。左すれば、控訴人Eはその所有権取得と共に被控訴人
Aと前所有者Fとの間における本件土地の賃貸借関係を承継したものというべきに
拘らず、現に同被控訴人の借地権を否認しているのであるから、控訴人Eに対し主
文掲記の内容の借地権を有することの本訴確認請求はこれを正当として認容すべき
である。
 (二) 控訴人三興産業株式会社が、被控訴人Aの借地とその隣地に跨り木造ト
タン葺二階建一棟建坪六十六坪五合二階八坪(公簿上の表示は主文記載の如く平家
建建坪五十八坪五合)の建物を所有し、また訴訟引受人箱崎木工株式会社は原審訴
訟引受人日本生活文化株式会社の跡を襲つて右建物を使用占有し、よつていずれも
右建物のうち五十五坪三合二階八坪の部分の敷地として被控訴人Aの前記借地六十
一坪九合三勺を占有していることは、各当事者間に争がない。しかして右控訴会社
並に訴訟引受人が本件土地占有につき被控訴人Aに対抗しうる正当な権限を有する
ことは何等の立証もないのでその占有は同被控訴人の借地権を侵害する不法のもの
と認むべく、同被控訴人は右借地権に基き控訴会社に対し本件地上に存する前示建
物部分を収去し、右訴訟引受人に対し該建物部分より退去し、それぞれその敷地た
る本件宅地六十一坪九合三勺を明渡すべきことを求めうるものというべきである。
ところで右控訴会社並に訴訟引受人は本件借地権は現実の土地占有を伴わない単な
る債権にすぎないから、被控訴人がこれに基き第三者に対して直接にその妨害排除
を求めうべき筋合ではないと主張する。しかし、罹災都市借地借家臨時処理法第十
条によつて保護される罹災地借地権は賃貸借の登記及び地上建物の登記がなくと
も、これを以て第三者に対抗しうべく、右借地上に建物を建ててこれを所有若しく
は使用して土地を占有する第三者に対してはその建物の収去若しくは退去並に土地
明渡を請求することができるわけであるから、前記主張は採用に値しない(最高裁
判所昭和二十八年十二月十八日第二小法廷判決参照)。故に被控訴人の控訴会社並
に訴訟引受人箱崎木工株式会社に対する本訴請求も亦正当とすべきてある。
 第二 被控訴人Bの請求について。
 当裁判所は控訴人中央運輸倉庫株式会社破産管財人に対する被控訴人の本訴請求
を全部認容すべきものと判定した。しかしてその理由については左のとおり補充す
る外原判決理由中第二原告Bの請求と題してこれにつき説示した部分を凡て引用す
る。
 (一) 訴訟手続受継前控訴人中央運輸株式会社は、昭和二十六年六月十九日そ
の商号を中央運輸倉庫株式会社と変更し、昭和二十九年五月十七日破産宣告を受
け、破産管財人にKが選任されたこと、右破産会社か主文四掲記の宅地十八坪一合
四勺の上に塀及びさしかけ五坪を所有してその土地を占有すること、右土地は元F
の所有にかかり、これが被控訴人主張の各日時、控訴人Eを経て順次破産会社に譲
渡され各所有権取得登記を了し、その後分筆により被控訴人主張の如く地番を変更
したこと等の点については、凡て控訴人破産管財人の認めるところである。
 (二) 控訴人破産管財人は、被控訴人B主張の本件借地については元来賃貸借
の登記なく、且つ罹災当時同被控訴人名義に登記された建物も亦存しなかつた故、
その借地権は本来対抗力を有せず、このような借地権については罹災都市借地借家
臨時処理法第十条を適用すべき限りでないから、同被控訴人はその借地権を以て本
件土地の買得者たる控訴人E及び破産会社に対抗することができなかつたものであ
ると主張する。
 <要旨>思うに、右臨時処理法第十条は、罹災都市における当時の社会状態の混乱
や極度の建築資材入手難等のために、従前の借地権者が急速に借地上に建物
を築造してその登記を経由することにより、新に借地権の対抗要件を具備しようと
欲しても、その実現が実際上困難であるところから、広く借地権者にして罹災当時
借地上に建物を所有していた者に対しては、一定期間を限りたとえ借地権の登記又
は建物の保存登記がなくとも、その借地権に対抗力を与え、以て借地権者の地位の
安定を計ろうとする趣旨に出た保護規定であつて、その保護の必要ある点において
は罹災建物につき当該借地権者のために保存登記がなされていた場合であると否と
に拘りはなく、また同条の法文上においても特にこのような区別を設けてはいない
のである。して見ればいやしくも借地上に建物を所有していた借地人の権利は同法
条に基きその建物罹災後における土地の権利取得者に対抗しうるものと解するのが
相当である。しかるところ、成立に争のない甲第一号証当審証人Dの証言(第一
回)及び原審における被控訴本人Bの供述によれば、罹災前同被控訴人は自己の費
用を以て本件地上に木造トタン葺平家建一棟建坪八坪の建物を建築し、一家の都合
上建物台帳の上では同居の兄Dの名義として置いたが、これは単に名義だけのこと
であつて、その所有権は終始被控訴人に属し、戦災に罹るまで遂に保存登記をする
に至らなかつたことを認めることができる。かくて被控訴人Bは建物保存登記こそ
なけれ、本件借地上に罹災当時建物を所有していたのであるから、同人の有する借
地権は罹災都市借地借家臨時処理法第十条の規定によつて(但し同法施行前におい
ては戦時罹災土地物件令第六条に基き)、これを本件土地の取得者たる控訴人E並
にその承継人たる破産会社に対抗しうるものというべきである。控訴人の前記主張
は採用できない。
 (三) 然らば被控訴人Bにおいて、その借地権を争う控訴人破産管財人に対
し、主文四掲記の内容の借地権を有することの確認を求めると共に本件地上に存す
る塀及びさしかけ五坪の撤去並に土地の明渡を求めうべきこと勿論である。
 第三 以上説明のとおり、被控訴人等の本訴請求は前示の範囲においては正当と
してこれを認容すべく、原審が同一趣旨により右の範囲内で被控訴人等の請求を容
れたのは相当であつて、本件控訴は理由がない。それ故控訴は棄却すべきである
が、被控訴人等は当審において本訴の目的たる宅地建物の地番坪数を訂正し、且つ
撤去を求める物件を追加したので(さしかけ五坪)、原判決の主文第一ないし第四
項はこれを変更する必要あるものとし、民事訴訟法第八十九条第九十五条第九十三
条第百九十六条に則り、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 薄根正男 判事 奥野利一 判事 古原勇雄)

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