弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役2年に処する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人から金100万円を追徴する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,平成15年4月1日から平成17年7月1日までの間,A局国営B公
園事務所長として,同公園の整備及び維持その他の管理の事務を所掌し,同公園が
発注する「C地区法面補強工事」,「C地区法面防災工事」の各請負契約に関する
事務等を分掌し,同各契約の予定価格の決定等の職務に従事していたものであるが,
下記第1ないし第3の行為を行った。
第1(平成20年3月31日付起訴状の公訴事実第1)
上記「C地区法面補強工事」の指名競争入札に関し,平成16年12月9日
ころ,奈良県高市郡a村bにあるA局国営B公園事務所において,同入札の指
名入札業者である株式会社Dの代表取締役であったEの求めに応じ,自己が職
務上知り得た秘密である同工事の入札書比較価格(予定価格から消費税額を差
し引いた金額)が約4000万円となることをEに内密に知らせて職務上不正
な行為をした。そして,これに対する謝礼の趣旨であることを知りながら,同
年12月16日ころ,同事務所の所長室において,Eから現金50万円の賄賂
を受け取った。
第2(平成20年3月10日付起訴状の訴因変更後の公訴事実)
E及びF局国営G公園事務所長であったHと共謀の上,上記「C地区法面防
災工事」の指名競争入札に関し,その入札書比較価格をEに教えて同工事をD
に高値で落札させようと企て,平成17年6月下旬ころ,第1記載の事務所に
おいて,被告人が,奈良県高市郡c町d番地にあるD事務所のEに対し,電話
で,同工事の入札書比較価格が5200万円をわずかに上回る金額となること
を内密に知らせた。これにより,同年7月7日から8日にかけて執行された同
工事の入札の際,Eの指示によりD従業員が上記入札書比較価格に近接する5
200万円で入札して同工事を落札した。
第3(平成20年3月31日付起訴状の公訴事実第2の1)
上記「C地区法面防災工事」の指名競争入札に関し,第2記載のとおり,平
成17年6月下旬ころ,同入札の指名入札業者であるDの代表取締役であった
Eの求めに応じ,自己が職務上知り得た秘密である同工事の入札書比較価格を
Eに内密に知らせて職務上不正な行為をした。そして,これに対する謝礼の趣
旨であることを知りながら,そのころ,第1記載の事務所の通用口付近におい
て,Eから現金50万円の賄賂を受け取った。
【証拠の標目】
(略)
【法令の適用】
1第1の行為は刑法197条の3第2項,1項(ただし,刑の長期は,行為時に
おいては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時に
おいてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令
によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為
時法の刑による。)に該当する(1年以上15年以下の懲役)。
第2の行為は刑法60条,96条の3第1項に該当する(1月以上2年以下の
懲役又は1万円以上250万円以下の罰金)。
第3の行為は刑法197条の3第2項,1項に該当する(1年以上20年以下
の懲役)。
2第2の罪については,定められた刑の中から懲役刑を選択する。
3以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最
も重い第3の罪の刑に法定の加重をすることとする。ただし,第1の罪は平成1
6年法律第156号の施行前に犯したものであり,第2及び第3の各罪は同法の
施行後に犯したものであるところ,これらの罪のうち同法の施行後に犯したもの
のみについて同法による改正後の刑法14条の規定を適用して処断することとし
た場合の刑が,これらの罪のすべてについてその改正前の刑法14条の規定を適
用して処断することとした場合の刑より重い刑となるときであるから,平成16
年法律第156号附則4条ただし書によりその改正後の刑法14条2項,47条
ただし書の制限内で法定の加重を行う。
そして,これにより導き出された刑期(1年以上22年以下の懲役)の範囲内
で,被告人を懲役2年に処することとする。その理由は後記【量刑の理由】のと
おりである。
4ただし,後記【量刑の理由】に記載したとおり被告人に有利に考慮すべき事情
もあるので,情状により,刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から4年
間その刑の執行を猶予することとする。
5被告人が第1及び第3の犯行により受け取った賄賂はいずれも没収することが
できないので,刑法197条の5後段によりその合計価額金100万円を被告人
から追徴することとする。
【量刑の理由】
1事案の概要
本件は,国営B公園事務所長をしていた被告人が,公園事務所の発注する公共
工事の入札に際して,指名入札業者に入札書比較価格を内密に知らせて,その謝
礼として賄賂を受け取るなどした事案である。
2量刑上特に考慮した事情
(1)被告人に不利な事情
ア加重収賄について
(ア)被告人は,安易に業者の提供した賄賂を受け取っており,その動機に
同情すべき点はない。
(イ)被告人は,入札を実施する公園事務所の所長の地位にありながら,指
名入札業者から,2回賄賂を受け取っており,その合計額は100万円と
多額に上る。しかも,その賄賂は,いずれも被告人が機密事項である入札
書比較価格を指名入札業者に内密に知らせるという職務上不正な行為をし
たことの謝礼として受け取ったものである。公務の適正な遂行が賄賂によ
って現実にゆがめられており,公務に対する国民の信頼を著しく損なった
ものというほかない。
イ競売入札妨害について
(ア)被告人は,国土交通省のいわゆる造園職キャリアで先輩に当たる共犯
者から働きかけを受け,今後の同省内での保身等のために犯行に及んでい
るが,その身勝手な動機に同情すべき点はない。
(イ)入札を実施する公園事務所の所長の地位にあった被告人が,特定の指
名入札業者に入札書比較価格を内密に知らせた結果,同業者が5207万
円の入札書比較価格に対し5200万円という極めて近接した価格での落
札に成功し,これにより約550万円の利益を得た。このように,公正な
競争を目的とする入札が現実に妨害された。
(ウ)入札書比較価格を事前に知る被告人は本件犯行に不可欠であって,共
犯者間で重要な役割を果たしている。
ウ小括
以上によれば,被告人の刑事責任は重いと言わなければならない。
(2)被告人に有利な事情
ア被告人が受け取った賄賂は,いずれも業者が一方的に渡してきたものであ
って,被告人が積極的に要求したものではない。
イ被告人は,入札書比較価格を知らせてほしいという業者の求めをいったん
は断っており,先輩からの働きかけを受けて結局はこれに応じているものの,
関与の態様は消極的である。
ウ被告人は事実関係をすべて認めているほか,国土交通大臣に対し,自ら退
職手当を辞退した上で辞職することを願い出た上,100万円の贖罪寄付を
するなどして,反省の度合いを深めている。その上で,再び社会に役に立つ
人間になりたいと述べ,今後の更生を誓っている。
エ被告人は,既に免職の懲戒処分を受けており,一定の社会的制裁を受けた
といえる。
オ被告人には前科がない。
カ被告人の母親が,被告人を指導監督していくと証言している。
キ以上のとおり,被告人にとって有利に考慮すべき事情も多数指摘できる。
3結論
よって,これらの諸事情を総合的に考慮すれば,被告人に対しては,今回に限
り,社会内で更生する機会を与えるのが相当であるから,主文の刑を量定した上,
その刑の執行を猶予することとした。
(求刑懲役2年,主文と同様の追徴)
平成20年7月3日
大阪地方裁判所第14刑事部
長井秀典裁判長裁判官
今井輝幸裁判官
渡邉一昭裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛