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裁判例


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【判事事項の要旨】
市議会の各会派が交付を受けた政務調査費の選挙直前の月の支出のうち,選挙
の実施されない年の支出額の24分の1(4.2パーセント)程度を超える部分
が目的外の選挙活動費用に使用された疑いがあるなどとして,市長に各会派に対
し返還を求めさせるなどの措置を求めた住民監査請求について,「対象の特定」
(狭義)及び「違法事由の特定」(広義の「対象の特定」)に欠けるところはな
いとされた事例
主文
1 原判決を取り消す。
2 本件を仙台地方裁判所に差し戻す。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件の事案の概要は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由
」欄の「第2 事案の概要」と同一であるので,これを引用する。
1 原判決2頁2行目の「請求することを求めた事案である。」を次のとおり
改める。
「請求することを求めたが,原審が,本訴に先行する住民監査請求は請求の
対象の特定を欠き不適法であり,適法な監査請求を経ていないから訴訟要件
を欠くとして本訴を却下したため,控訴人がこれを不服として控訴した事案
である。」
2 原判決3頁5行目の次に,行を変えて次のとおり加える。
「 また,政務調査費の交付を受けた会派が解散した場合は,当該会派の代
表者であった者は,当該解散した日の属する年度において交付を受けた政務
調査費の総額(条例4条2項の適用がある場合には,同項により返還させる
額を控除して得た額)からその年度において必要経費として支出した額を控
除して得た額に残余があるときには,当該解散した日の属する月の翌月の末
日までに当該残余の額に相当する額を市長に返還しなければならず,議員の
任期が満了した場合又は議会の解散があった場合も,同様である(条例10
条2項)。」
3 原判決5頁4行目の次に,行を変えて次のとおり加える。
「 なお,条例10条2項,9条4項及び3条によれば,本件政務調査費に
つき,その収支状況報告書を議長に提出すべき時期及び必要経費を控除して
得た額に残余がある場合に当該残余の額に相当する額を市長に返還すべき時
期は,平成15年5月末日である。(争いなし)」
4 原判決6頁18行目から22行目までを次のとおり改める。
「 控訴人は,平成15年8月25日,市監査委員に対し,本件政務調査費
について,本訴と同旨の主張をし(後記3(2)(原告の主張)参照。ただし,
監査請求では,補助参加人らに交付された本件政務調査費の違法又は不当な
支出について被控訴人に返還を求める具体的な金額を主張していないが,本
訴と同様に補助参加人らにおける平成15年4月の政務調査費の支出は原則
として選挙の実施されない年の支出額の24分の1(4.2パーセント)程
度であってしかるべきであるとして,これを前提に補助参加人毎に違法又は
不当な支出の疑いのある事項を指摘して主張している。),選挙がなかった
平成14年度の支出状況との比較検討をした資料を提出して,法242条1
項の監査請求(以下「本件監査請求」という。)をしたが,市監査委員は,
請求の対象の特定を欠いて不適法であるとして,同年9月19日付けでこれ
を却下した。(本件監査請求における控訴人の主張及び提出資料につき甲8
,却下理由につき甲9,その余は争いなし)」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人がした本件監査請求は請求の対象の特定に欠けるとこ
ろはなく,これを欠くことを前提に適法な住民監査請求を経ていないとして
本訴を却下した原判決は相当でないから,これを取り消し,本件を原審に差
し戻すのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。
2 すなわち,法242条1項は,普通地方公共団体の住民は,当該普通地方
公共団体の執行機関又は職員について,財務会計上の違法若しくは不当な行
為又は怠る事実があると認めるときは,これらを証する書面を添え,監査委
員に対し,監査を求め,必要な措置を講ずべきことを請求することができる
旨規定しているところ,上記規定は,住民に対し,当該普通地方公共団体の
執行機関又は職員による一定の具体的な財務会計上の行為又は怠る事実(以
下,財務会計上の行為又は怠る事実を「当該行為等」という。)に限って,
その監査と非違の防止,是正の措置とを監査委員に請求する権能を認めたも
のであって,それ以上に,一定の期間にわたる当該行為等を包括して,これ
を具体的に特定することなく,監査委員に監査を求めるなどの権能までを認
めたものではないと解するのが相当である。けだし,法が,直接請求の1つ
として事務の監査請求の制度を設け,選挙権を有する者は,その総数の50
分の1以上の者の連署をもって,監査委員に対し,当該普通地方公共団体の
事務等の執行に関し監査の請求をすることができる旨規定している(75条
)ことと対比してみても,また,住民監査請求が,具体的な違法行為等につ
いてその防止,是正を請求する制度である住民訴訟の前置手続として位置付
けられ,不当な当該行為等をも対象とすることができるものとされているほ
かは,規定上その対象となる当該行為等について住民訴訟との間に区別が設
けられていないことからみても,住民監査請求は住民1人からでもすること
ができるとされている反面,その対象は一定の具体的な当該行為等に限定さ
れていると解するのが,法の趣旨に沿うものといわなければならない。さら
に,法242条1項が,監査請求は,違法又は不当な当該行為等があること
を証する書面を添えてすべきものと規定し,同条2項が,監査請求は,当該
行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,正当な理由があ
るときを除き,これをすることができないと規定しているのは,住民監査請
求の対象となる当該行為等が具体的に特定されることを前提としているもの
として理解されるのである。
 したがって,住民監査請求においては,対象とする当該行為等を監査委員
が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく
,当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的,具体的
に摘示することを要し,また,当該行為等が複数である場合には,当該行為
等の性質,目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断す
るのを相当とする場合を除き,各行為等を他の行為等と区別して特定認識で
きるように個別的,具体的に摘示することを要するが,監査請求書及びこれ
に添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資
料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為等であることを監査
委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもっ
て足りるのであり,上記の程度を超えてまで当該行為等を個別的,具体的に
摘示することを要するものではない。
(以上につき,最高裁平成2年6月5日第3小法廷判決・民集44巻4号7
19頁,最高裁平成16年11月25日第1小法廷判決・民集58巻8号2
297頁,最高裁平成16年12月7日第3小法廷判決・裁判集民事215
号871頁参照)
3 これを本件についてみるに,控訴人の本訴請求は,要するに,被控訴人が
補助参加人らに対し本件政務調査費から必要経費として支出した額を控除し
た残額の返還を求めないという不作為を違法として,補助参加人らに対しそ
れによる不当利得返還請求をすることを求めるもので,法242条の2第1
項4号所定の請求のうち,「怠る事実に係る相手方に不当利得返還の請求を
することを当該普通地方公共団体の執行機関に対して求める請求」であり,
補助参加人らの支出の違法を理由にその支出先から補助参加人らへの返還を
求めるものではない。したがって,本訴の前提としての住民監査請求の対象
は,法242条1項所定の事項のうち「違法若しくは不当な公金の支出」で
はなく「違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を
怠る事実」(怠る事実)であるといわなければならず,その特定においても
「怠る事実」が他の「怠る事実」と区別して特定認識できるかが問われるこ
ととなる。そして,前記第2の2(3)(市における政務調査費交付制度の概
要)の事実に弁論の全趣旨を併せれば,仙台市における政務調査費は,その
細目的な使途ごとに交付額を定めるようなことはせず,各会派に対し,一括
して「政務調査費」の名目で四半期毎に定額を交付し,かつ,各会派がこれ
を使用する月も予算年度内ないし会派解散等の時までであれば交付があった
四半期内等の一定期間内に限定されていない(いずれにせよ,こと本件政務
調査費については,平成15年4月の1回しか交付されていない。)事実が
認められるのであるから,このように不可分一体のものとして交付された政
務調査費のうち被控訴人が返還請求を怠っている部分を特定すべき指標は存
在しないのであって,結局,「怠る事実」の特定としては,例えば,補助参
加人Aの本訴についていえば,「補助参加人Aに対する平成15年度政務調
査費のうち381万3363円の返還請求をしない事実」で必要かつ十分で
あり,それ以上の特定は論理的に不可能であるといわなければならない。ま
た,本件監査請求においては,返還を求める具体的な金額は主張されていな
いし,本件政務調査費の全額につき違法又は不当であると主張されていない
が,前記第2の2(6)に認定のとおり,補助参加人らにつき本件政務調査費
の支出は原則として選挙の実施されない年の支出額の24分の1(4.2パ
ーセント)程度が相当でありこれを超える部分は違法又は不当な支出である
疑いがあるとして,これを前提に補助参加人毎に違法又は不当な支出である
疑いがある事項を指摘して被控訴人に返還を求めるなどの措置を求めている
のであり,監査請求の対象である「怠る事実」について監査委員に他の事項
から区別して特定認識できる程度に摘示されているということができる(住
民監査請求については,住民訴訟におけるのと同程度の厳密な請求の特定を
要するとは解されないので,具体的な金額は特定のための不可欠な要件とは
いえない。)。付言すると,補助参加人らが提出する「平成15年度政務調
査費収支状況報告書」(甲1の1~7)に記載された政務調査費の支出科目
及び金額は,あくまでも,その交付を受けた補助参加人らの支出に関して,
補助参加人らが自らが真実と主張するところに従い定めた主観的な指標にす
ぎず,補助参加人らの支出の違法を理由にその支出先から補助参加人らへの
返還を求めるものではない本訴において,後記の「違法事由の特定」との関
連で一応の手がかりになり得ることがあるとしても,特定の指標として機能
することを期待することはできない。かえって,住民監査請求に際し,その
ような報告書の記載のいずれに虚偽があるかの主張を要すると解するならば
,仮に補助参加人らにおいて選挙活動への支出があった場合,報告書上,例
えば,それが1つの支出科目として計上されていることもあり得るし,複数
の支出科目に分散して計上されていることもあり得ることから,控訴人とし
ては,結局,補助参加人らのすべての支出を精査しなければ監査請求ができ
ないことになりかねないという不合理を生じさせることとなるのである。
4 もっとも,上記2のような探索的な住民監査請求までは想定していない法
の趣旨に照らせば,控訴人としては,監査請求に際し,上記のとおり「怠る
事実」を主張し,また,例えば,補助参加人Aの本訴についていえば,単に
「補助参加人Aに対する平成15年度政務調査費のうち381万3363円
の返還請求をしない事実」と特定する(狭義の「対象の特定」)だけでは足
りず,その「怠る事実」に係る違法事由を他の違法事由から区別して特定認
識できるように個別的,具体的に主張し,これらを証する書面を添えて請求
をする必要があると解すべきである(「違法事由の特定」,換言すれば,広
義の「対象の特定」)が,前記第2の2(6)のとおり,控訴人は,本件監査
請求に際し,本件政務調査費のうち上記の意味で特定された費用が法及びこ
れに基づく条例等の定める目的外である選挙活動費用として使用された旨主
張するとともに,これを証するため,選挙がなかった平成14年度の支出状
況との比較検討をした資料を提出しているのであるから,控訴人がした本件
監査請求は「違法事由の特定」(広義の「対象の特定」)においても欠ける
ところがないというべきである。
5 以上によれば,控訴人がした本件監査請求は適法であり,これを不適法で
あることを理由に本訴を却下した原判決は取消しを免れない。よって,本件
控訴に基づき,以上と異なる原判決を取り消した上,本件を原審に差し戻す
こととし,主文のとおり判決する。
      仙台高等裁判所第3民事部
           裁判長裁判官  佐   藤       康
              裁判官  浦   木   厚   利
              裁判官  畑       一   郎

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