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平成15年(行ケ)第401号 審決取消請求事件(平成15年11月19日口頭
弁論終結)
判    決
    原    告       株式会社セント・ローラン
   同訴訟代理人弁護士    浅 井   正
   同     弁理士    足 立   勉
   同            石 原 啓 策
   被   告      ベアー ユー.エス.エー.インコーポレー
テッド
   同訴訟代理人弁護士    吉 武 賢 次
   同            宮 嶋   学
   同     弁理士    黒 瀬 雅 志
   同            小 泉 勝 義
    同            塩 谷   信
   主    文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
 1 特許庁が無効2001-35015号事件について平成15年8月5日にし
た審決を取り消す。
 2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
 被告は、指定商品を商標法施行規則別表第25類(以下「第25類」とい
う。)「パーカ,ジャケット,ティーシャツ,パンツ,その他の下着,ジャージー
生地からなる長袖シャツ,デニム生地からなるズボン,デニム生地からなるその他
の被服,防寒用帽子,履物」とし、別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)
別掲(1)に示すとおりの構成からなる登録第4419412号商標(平成8年3月6
日登録出願、平成12年9月22日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標
権者である。
 原告は、平成13年1月12日、本件商標に対する無効審判の請求をした。
 特許庁は、同請求を無効2001-35015号事件として審理した上、平
成15年8月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件
審決」という。)をし、その謄本は、同月15日ころ、原告に送達された。
 2 本件審決の理由 
 本件審決は、審決書記載のとおり、本件商標が、別紙引用商標目録記載の各
引用商標と類似する商標であるとすることはできず、また、商標法4条1項15号
に関する主張については立証するところがないから、同法4条1項11号及び15
号に違反して登録されたものではなく、同法46条1項の規定によりその登録を無
効とすることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 本件審決は、①引用商標1及び2について、「ベアー」の称呼及び「熊」の
観念が生じ、本件商標と類似するにもかかわらず、これを非類似と誤認し(取消事
由1)、②引用商標3~9について、その観念を誤認して、「ベアー」の称呼及び
「熊」の観念の識別力を軽視した結果、本件商標と類似するにもかかわらず、これ
を非類似と誤認し(取消事由2)、③引用商標10~14について、取引界の実情
の判断を誤って、本件商標と類似するにもかかわらず、これを非類似と誤認し(取
消事由3)、④本件商標が、第三者の著作権を侵害して無効であることを看過した
(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 引用商標1及び2の誤認(取消事由1)
(1) 本件審決は、引用商標1及び2について、特徴のある子持ち菱形状の図形
の中に熊の図形と文字部分とがまとまりよく構成された不可分一体の商標とみるの
が自然であると判断をしている(7頁27~29行)。
  しかし、この判断は、引用商標1及び2について、「中央部分に大きく表
示された「BEAR」の文字は、白抜きの籠字とされ、全体の構成上も浮き出るよ
うな視覚的印象を与えるものであり、これに加えて中央部分に極めて強い印象を与
える熊の上半身の図形が存在するのであり、通常は「ベアー(熊)」の称呼を生じる
ものと認められる。」と判断するとともに、「熊」の観念が生じると判断した東京
高裁平成13年(行ケ)第395号事件判決(甲4)及び同高裁平成13年(行ケ)第3
96号事件判決(甲5、以下、両判決を併せて「東京高裁参考判決1」という。)に
反する誤ったものである。
(2) また、本件審決は、本件商標並びに引用商標1及び2が不可分一体の商標
と判断した根拠として、最高裁昭和39年(行ツ)第110号事件判決(最高裁昭和
43年2月27日第2小法廷判決・民集22巻2号339頁、甲6、以下「最高裁
参考判決」という。)を挙げるが、上記判決は、その前提となる取引の実情が本件
商標と全く異なる商品についての判断であり、その適用を誤っているものである。
  すなわち、上記判決は、外観及び観念において著しく異なる商標に関する
ものであり、かつ、商標の称呼のみによって商標を識別し、商品の出所を知り、品
質を認識することがほとんど行われない実情を有する「硝子繊維糸」の取引に基づ
いての判断である。したがって、観念について共通性を有する本件商標並びに引用
商標1及び2とでは事情が異なる上、このような極めて稀な取引の実情を有する判
決に基づいて、本件商標や引用商標1及び2の称呼を判断するのは著しく不当であ
る。
  被服や他の商品も指定商品に含まれる本件商標や引用商標1及び2におい
ては、電話等による注文がされて取引が行われている例も少なくなく、また、文字
からなる商標は、称呼されることが前提とされているものであり、商標の類否判断
における称呼の役割を軽視することはできないはずである。原告の上記主張は、東
京高裁平成5年(行ケ)第2号事件判決(甲7、以下「東京高裁参考判決2」とい
う。)によっても明らかである。
(3) 本件商標から「ベアー」の称呼、「熊」の観念が生じることは、東京高裁
参考判決1の考え方のみならず、商標権侵害差止仮処分申請事件の仮処分申請書
(甲8)において、被告自身も認めている。
  そうであれば、本件商標が引用商標1及び2と類似することは、商標異議
申立事件(平成11年異議第91536号)の取消理由通知書(甲9、以下「参考
取消理由書」という。)からも明らかである。
 2 引用商標3ないし9の誤認(取消事由2)
 本件審決では、引用商標3ないし9が、外観上まとまりよく一体的に構成さ
れ、観念上も1つの意味合いを把握することができるとしている(8頁20~37
行)。
 しかし、本件審決で示された観念は、例えば「黄金の熊」、「すばらしい
熊」というように、取って付けたような意味合いであり、いずれも熟語として認め
られたものでもない。
 また、識別標識として機能しないと判断されている文字に関する以下の審決
例(以下「参考審決例」という。)も全く考慮されていない。すなわち、「ベビ
ー」について昭和52年審判第8230号審決(甲10)、「ゴールデン、GOLD
EN」について昭和53年審判第2422号審決(甲11)、「リトル、LITTL
E」について昭和54年審判第9339号審決(甲12)、「FINE」について昭
和50年審判第7817号審決(甲13)、「mini」について昭和57年審判第
9640号審決(甲14)では、それぞれ当該文字が識別機能を有しないとされてい
る。
 3 引用商標10ないし14の誤認(取消事由3)
 本件審決は、「前述したとおりの事情が存する状況のもとにおいては、引用
商標10ないし13の商標は、件外ゴールデン ベアー インターナショナル イ
ンコーポレイテッドの使用に係る「ベアー(熊)」として記憶され、認識されてい
る」(9頁21~24行)として、取引界の実情を考慮しているが、このような判
断は、前述した東京高裁参考判決1及び参考審決例などからも明らかなように、誤
りである。
 このような誤った判断を前提とした、引用商標10ないし14と本件商標と
の類否判断も誤りである。
 4 著作権侵害による本件商標の無効(取消事由4)
  本件商標は、雑誌「93 BUYER′S GUIDE」(甲15)に掲載
された広告中の図形(以下「本件広告図形」という。)と酷似しているから、第三
者の図形を盗用していることが明らかであり、このような盗用した商標権は、無効
にすべきである。
  なお、この著作権法違反の主張が、本件の無効審判の段階で明言されていな
かった無効理由であることは認めるが、商標法46条がこのような著作権法違反を
独立の無効事由として列挙しておらず、訴訟経済上も、東京高等裁判所で著作権法
違反を主張することが行政事件訴訟の本質に実質的に違背しないことを考慮すれ
ば、これを容認すべきである。
第4 被告の反論の要点
   本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由にはいずれも理由
がない。
 1 取消事由1について
(1) 原告は、引用商標1及び2から、「ベアー(熊)」の称呼、観念が生じる
ことを、本件審決の取消事由として主張する。
  しかし、本件審決は、引用商標1及び2から、「ベアー(熊)」の称呼、
観念が生じ得ることを否定していない。すなわち、本件審決は、本件商標並びに引
用商標1及び2から、「ベアー(熊)」の称呼、観念が生じ得るとしても、単に
「ベアー」(熊)の称呼、観念において類似することを理由に、各商標を類似とす
べきではない、としているのである。
  したがって、引用商標1及び2から「ベアー(熊)」の称呼、観念が生じ
得ることは、本件審決の認定と何ら矛盾しないので、原告の主張は、本件審決の取
消事由とならない。
  なお、本件審決の上記判断は、原告が援用する東京高裁参考判決1と同趣
旨のものである。
(2) 原告は、最高裁参考判決が、特殊な取引の実情を有する事案についての判
決であるので、ここで判示された判断基準を本件に適用するのは不当であると主張
する。
  しかし、本件審決が引用する上記判決の判示部分は、商標の類否判断一般
について言及する部分であり、当然、当該事案以外にも射程が及ぶものである。ま
た、商標制度の目的は、商標の有する出所識別機能を保護し、商標の使用者の業務
上の信用の維持を図ることで、産業の発達に寄与し、併せて需要者の利益を保護す
ることにある。商標の類否判断も、究極的には各商標が使用されたときに出所を識
別できるか否か、すなわち、取引の現場において出所の混同を生じるか否かで判断
することになる。このことは、上記判決の事案の場合に限られない。
  したがって、この最高裁参考判決の事案における取引の実情がいかなるも
のかは、本件審決の正否とは関係なく、原告の上記主張は、本件審決の取消事由に
なり得ない。
(3) また、原告は、被服等の商品分野においては、電話等により取引が行われ
ることも少なくないこと等を理由に、称呼の重要性を主張する。
  しかし、原告の主張は、「Bear」の文字あるいは「熊」の図形を構成
中に含む商標が被服等の商品の商標として数多く採択されているという取引の実情
を無視するものである。本件審決が示すとおり、このような実情がある以上、被服
等の商品分野では、「Bear」の文字あるいは「熊」の図形を構成中に含む商標
は、構成中に当該文字あるいは図形を含むからといって、それらの商標を全て、直
ちに、「ベアー」(熊)の称呼、観念において類似する商標であるとみるのではな
く、他の構成要素、あるいは、熊の構成態様等をも総合勘案してその類否判断がさ
れ、取引に資されているというべきである。
  以上を前提に、本件商標と引用商標1及び2との類否を判断すると、各商
標は、外観において顕著な差異があること、「ベアー」(熊)以外の称呼、観念が
生じることから、各商標は非類似である。
  したがって、本件商標並びに引用商標1及び2から「ベアー」(熊)の称
呼が生じ得るとしても、本件商標と引用商標1及び2とが非類似であると判断する
本件審決は、正当なものであるし、称呼を軽視するものではない。
  なお、原告は、自らの主張の正当性を示すために、参考取消理由書を挙げ
るが、同理由書の判断は、本件審決を拘束するものではないので、原告の主張の正
当性を示すものにはなり得ない。
 2 取消事由2について
 本件審決が示しているとおり、引用商標3ないし9は、「BEAR(S)」
あるいは「ベアー」の文字と、その他の文字がまとまりよく一体的に構成されたも
のであり、全体として1つの意味合いを把握でき、また、よどみなく一連に称呼し
得るものであるから、「BEAR(S)」あるいは「ベアー」の文字部分のみが独
立して認識されるべき特段の事情は見い出せない。
 この部分に関する原告の主張は、「Bear」の文字あるいは「熊」の図形
を構成中に含む商標が被服等の商品の商標として数多く採択されているという取引
の実情を無視したものであり、失当である。
 また、原告の挙げる参考審決例は、本件とは事案を異にするので関係のない
ものである。すなわち、各審決例は、それぞれ問題となっている商標の構成部分で
ある「ゴールデン」等の文字が、取引者、需要者にどのように認識されるかを、具
体的な取引の実情をもとに認定しており、このように問題となる商標や取引の実情
が異なれば、その判断も異なってくるのであるから、これらが異なる事件の審決例
を挙げたところで、全く意味がない。
3 取消事由3について
 本件審決が示すとおり、本件商標と引用商標10ないし14とは、外観及び
印象において顕著な差異があり、加えて、熊の図形を構成中に含む商標が被服等の
商品において多く採用されているという取引の実情からも、単に「ベアー(熊)」
の称呼、観念が生じ得ることのみによって、商標を類似とするべきではない。
 したがって、本件商標と引用商標10ないし14とを非類似とした本件審決
に誤りはない。
4 取消事由4について
 原告は、本件商標が第三者の著作権を侵害するなどと主張するが、全く事実
無根である。また、この主張は、本件審決の取消事由とは全く関係ないものであり
失当である。
第5 当裁判所の判断
 1 引用商標1及び2の誤認(取消事由1)
(1) 原告は、本件審決が、引用商標1及び2について、特徴のある子持ち菱形
状の図形の中に熊の図形と文字部分とがまとまりよく構成された不可分一体の商標
とみるのが自然であると判断したことが、これらの商標から、「ベアー(熊)」の称
呼及び「熊」の観念が生じるとした東京高裁参考判決1に反する誤ったものである
と主張する。
  しかしながら、本件審決は、「本件商標及び引用商標1、2から「ベア
ー」(熊)の称呼、観念をもって取引される場合があるとしても、上記両商標は、
その全体の構成において明らかな差異を有し、熊の図形部分のみを比較しても、そ
の構成、印象に顕著な差異を有するものであり、かつ、前述のとおり、本件商標
は、細線で縁取られた白地の熊と「Bear」の文字とが一体となったものとして
認識されているものというべきであるから、これらの商標の構成中から「Bea
r」「BEAR」あるいは熊の図形部分のみを抽出して、単に「ベアー」(熊)の
称呼、観念において類似するとの請求人の主張は採用し難く、取引の場において
は、本件商標を使用した商品が引用商標1及び2を使用した商品とその出所につき
誤認混同を生ずるおそれはないものとみるのが相当である。」(7頁37行~8頁
9行)と認定判断しており、本件商標と引用商標1及び2が、「ベアー(熊)」の
称呼、観念をもって取り引きされる場合があるとしても、各商標の全体の構成、印
象等を比較すれば、単に「ベアー」(熊)の称呼、観念において類似することを理
由に、本件商標と引用商標1及び2とを使用した場合に商品の出所の誤認混同を生
ずるとすべきではないと判断しているのであって、引用商標1及び2から「ベアー
(熊)」の称呼、観念が生じ得ることを否定するものではないから、東京高裁参考
判決1とも相矛盾するものではない。原告の上記主張は、本件審決を曲解して論難
するものであり、到底、採用することができない。
(2) また、原告は、本件審決が挙げる最高裁参考判決(甲6)が、取引の実情
が本件商標と全く異なる商品である「硝子繊維糸」の取引に基づいての判断である
から、観念について共通性を有する本件商標並びに引用商標1及び2とでは事情が
異なる上、このような極めて稀な取引の実情を有する判決に基づいて、本件商標や
引用商標1及び2の称呼を判断するのは著しく不当であると主張する。
  しかしながら、本件審決は、最高裁参考判決について、「「商標の類否
は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につ
き誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そ
のような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える
印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその取引の実情
を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであ
る・・・商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出
所の混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、・・・取引の実情によって、
なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを
類似商標と解すべきでない」と判示されているところである。」(6頁32行~7
頁3行)と説示しており、商標の類否及び商品の出所の誤認混同の判断は、当該商
品に使用された商標の外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連
想等を総合して全体的に考察すべきであるが、これらは商品の出所の混同のおそれ
を推測させる一応の基準にすぎず、できるだけ具体的な取引状況を明らかにし、取
引の実情により商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものは、類似商
標と解すべきでないとするものである。
  このような最高裁参考判決の判示事項は、商標の類否及び商品の出所の誤
認混同に関する一般的な判断基準ないし手法を示すものであり、最高裁参考判決の
対象とされる商標の具体的な指定商品とは関わりのないことが明らかであるから、
最高裁参考判決が特殊な「硝子繊維糸」の取引に基づいての判断であるとする原告
の主張は、上記判示事項を全く正当に理解せずに論難するものであり、到底、採用
することができない。
(3) 以上のことからすると、本件審決が、「「Bear」の文字あるいは
「熊」の図形を構成中に含む商標は、請求人が「ベアー」(熊)の称呼、観念を生
ずると主張して多くの商標を引用しているように、この種商品の商標として数多く
採択されている実情にある。そのため、構成中に「Bear」の文字あるいは
「熊」の図形を含むからといって、それらの商標を全て、直ちに、「ベアー」
(熊)の称呼、観念において類似する商標であるとみるのは、上記実情からすれば
適切なこととはいい難く、他の構成要素、あるいは熊の構成態様等をも総合勘案し
てその類否が判断がされ、取引に資されているものとみるのが相当である。」(7
頁4~12行)と認定判断したことも正当といわなければならない。
  この点について原告は、被服や他の商品も指定商品に含まれる本件商標や
引用商標1及び2においては、電話等による注文がされて取引が行われている例も
少なくなく、また、文字からなる商標は、称呼されることが前提とされているもの
であり、商標の類否判断における称呼の役割は軽視することはできないと主張し、
東京高裁参考判決2を例示する。
  しかしながら、本件審決が示すように、「Bear」等の文字あるいは
「熊」の図形を構成中に含む商標が被服等の第25類(旧第17類)の商品の商標
として数多く採択されている(引用商標1ないし9には、「Bear」「BEAR
(S)」「ベアー」の文字が含まれており、引用商標1及び2、10ないし14に
は、「熊」の図形が採択されている。特に、引用商標10ないし14は、すべて
「横向きの4本足の熊」の図形のみから構成され、文字部分はない。)という取引
の実情が存する以上、当該商標から生じる「ベアー」(熊)の称呼のみを重視して
類似する商標であると判断することは相当でなく、他の構成要素、あるいは、熊の
構成態様等をも総合的に考慮して類否判断を行うべきものといえる(なお、本件
は、「Bear」等の文字あるいは「熊」の図形を構成中に含む商標が当該指定商
品の商標として数多く採択されている点において、同種の商標が多数登録されてい
ることが前提とされていない東京高裁参考判決2(甲7)と事案を異にするから、
同判決は、本件商標と引用商標1及び2との類否判断に影響を及ぼすものではな
い。)。
  したがって、本件審決が、称呼の類似性のみを重視することなく本件商標
と引用商標1及び2との類否判断を行ったことに誤りはなく、その結果、両商標
が、外観において顕著な差異があること、観念、認識等において、例えば「白熊」
と「スノーボード等のマークとしての熊」との相違があることなどを総合的に考慮
して、非類似と判断したことにも誤りがないから、原告の上記主張を採用する余地
はない。
  なお、原告は、本件商標が引用商標1及び2と類似することは、参考取消
理由書(甲9)からも明らかであると主張するが、参考取消理由書の対象とされる
商標は、「BEAR」の欧文字のみを横書きしたものであって、図形と一体的に構
成された本件商標とは商標の構成が異なるから、同理由書により上記の認定判断が
左右されるものでないことは明らかであり、上記主張も、到底、採用することがで
きない。
 2 引用商標3ないし9の誤認(取消事由2)について
(1) 本件審決は、引用商標3ないし9について、「これらの商標は、いずれ
も、前半部分を構成する「BABY/ベビー」、「GOLDEN」、「ゴールデ
ン」、「LITTLE」、「FINE/ファイン」、「THREE」及び「ミニ/
MINI」の各文字と後半部分を構成する「BEAR(S)」あるいは「ベアー」
の各文字とは外観上まとまりよく一体的に構成されているものである。そして、観
念上も全体として、引用商標3は「子熊」、引用商標4及び5は「黄金の熊」、引
用商標6は「小さな熊」、引用商標7は「すばらしい熊」、引用商標8は「三匹の
熊」そして引用商標9は「小型の熊」の如き一つの意味合いを把握することのでき
るものである。また、これらの各商標より生ずると認められる「ベビーベアー」、
「ゴールデンベアー」、「リトルベアー」、「ファインベアー」、「スリーベアー
ズ」及び「ミニベアー」の各称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一
連に称呼し得るものであり、他に構成中の「BEAR(S)」あるいは「ベアー」
の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見い出せない。そう
とすれば、引用商標3ないし9の各商標は、それぞれ、その構成全体をもって不可
分一体のものと認識し把握されるとみるのが自然であり、その構成文字全体に相応
した上記各称呼及び観念のみを生ずるものというべきである。」(8頁20~37
行)と認定判断している。
  これに対し原告は、本件審決で示された「黄金の熊」、「すばらしい熊」
というような上記観念が、取って付けたような意味合いであり、いずれも熟語とし
て認められたものでもないと主張する。
  しかしながら、引用商標3ないし9の前半部分を構成する「BABY/ベ
ビー」、「GOLDEN」、「ゴールデン」、「LITTLE」、「FINE/フ
ァイン」、「THREE」及び「ミニ/MINI」の各文字並びに後半部分を構成
する「BEAR(S)」及び「ベアー」の各文字は、いずれも第25類(旧第17
類)の需要者、取引者であるわが国の一般国民にとって、親しみやすい比較的平易
な英単語(に由来する片仮名文字)であるから、その連続した2語の訳語の意味に
相応する観念を容易に認識することができるものと解される。したがって、具体的
には、本件審決が認定するように、引用商標3からは「子熊」、引用商標4及び5
からは「黄金の熊」、引用商標6からは「小さな熊」、引用商標7からは「すばら
しい熊」、引用商標8からは「三匹の熊」、引用商標9からは「小型の熊」の観念
が、それぞれ生じるものと認められ、原告の上記主張には理由がない。また、文字
からなる商標の観念は、当該文字部分が理解される内容に即応して生じるものであ
り、熟語として成り立つもののみが生じるわけではないから、この点に関する主張
も理由がない。
  いずれにしても、原告の上記主張を採用することはできない。
(2) また、原告は、本件審決が、識別標識として機能しないと判断されている
文字に関する参考審決例(甲10~14)を全く考慮していないと主張する。
  しかしながら、参考審決例は、「ベビー」、「ゴールデン、GOLDE
N」、「リトル、LITTLE」、「FINE」及び「mini」などの文字部分
について、当該文字の結合されていない他の商標との対比のため、あるいは、当該
商標自体の意味内容の確定のために、具体的な取引の実情に基づいて、取引者、需
要者にどのように認識されるかを検討しているものであり、これらの文字部分が一
般的に識別機能を有しないとされているわけではないから、引用商標3ないし9の
観念等に関する前記の認定を左右するに足るものではない。
  したがって、原告の上記主張も、採用することができない。
 3 引用商標10ないし14の誤認(取消事由3)について
 原告は、本件審決における取引界の実情の考慮が誤りであることを前提とし
て、引用商標10ないし14と本件商標との類否判断も誤りであると主張する。
 しかしながら、本件審決における取引界の実情の考慮に誤りがないことは、
前示のとおりであるから、これを前提とする原告の上記主張を採用する余地はな
い。
 4 著作権侵害による本件商標の無効(取消事由4)について
 原告は、本件商標が、本件広告図形と酷似しているから、第三者の著作権を
侵害したものとして無効であると主張する。
 しかしながら、上記主張が、本件審決の審判手続において主張されたもので
ないことは、当事者間に争いがないところ、審決取消訴訟においてその判断の違法
が争われる場合には、当該審判手続において現実に争われ、かつ、審理判断された
特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきものであり、それ以外
の無効原因については、上記訴訟においてこれを審決の違法事由として主張し、裁
判所の判断を求めることは許されないものと解すべきである(最高裁昭和51年3
月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照)。
 したがって、原告の上記主張は、その当否について検討するまでもなく、本
件審決の取消事由として主張することが許されないものといわなければならない。
 この点について原告は、商標法46条がこのような著作権法違反を独立の無
効事由として列挙しておらず、訴訟経済上も、東京高等裁判所で著作権法違反を主
張することが行政事件訴訟の本質に実質的に違背しないことを考慮して、上記主張
を容認すべきであると主張する。
 しかしながら、原告(審判請求人)が、本件審判手続において、上記著作権
法違反の主張を行うことが困難であったような事情、あるいは、今後、著作権法違
反を主張して無効審判請求を提起することが困難であるような事情は、いずれも認
められず、原告の上記主張は、前記説示に照らして、到底、採用することができな
い。
 4 結論
   以上のとおり、原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく、その他本件審
決にこれを取り消すべき瑕疵は認められない。
   よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のと
おり判決する。
東京高等裁判所第3民事部
    裁判長裁判官  北  山  元  章
        裁判官  青  柳     馨
裁判官  清  水     節
(別紙)
      引用商標目録
1 平成6年12月1日に登録出願され、審決書別掲(2)に示すとおりの構成よ
りなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,
水泳着,水泳帽,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,運動用
特殊衣服,運動用特殊靴(乗馬靴を除く。)」を指定商品として、同9年8月1日
に設定登録された、登録第3335699号商標(甲2、以下「引用商標1」とい
う。)
2 平成6年12月1日に登録出願され、審決書別掲(3)に示すとおりの構成よ
りなり、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,
水泳着,水泳帽,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,運動用
特殊衣服,運動用特殊靴(乗馬靴を除く。)」を指定商品として、同9年8月1日
に設定登録された、登録第3335700号商標(甲3、以下「引用商標2」とい
う。)
3 昭和43年5月23日に登録出願され、「BABYBEAR」の欧文字と「ベ
ビーベアー」の片仮名文字とを二段に横書きしてなり、商標法施行規則別表(平成
3年通産令70号による改正前のもの)第17類(以下「旧第17類」という。)
「被服、布製身回品、寝具類(寝台を除く。)」を指定商品として、同45年6月
23日に設定登録された、登録第862065号商標(以下「引用商標3」とい
う。)
4 昭和53年8月11日に登録出願され、「GOLDEN BEAR」の欧文字
を横書きしてなり、旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他
の類に属するものを除く。)」を指定商品として、同58年3月28日に設定登録
された、登録第1572840号商標(以下「引用商標4」という。)
5 昭和53年8月14日に登録出願され、「ゴールデン ベアー」の片仮名文字
を横書きしてなり、旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他
の類に属するものを除く。)」を指定商品として、同58年3月28日に設定登録
された、登録第1572841号商標(以下「引用商標5」という。)
6 昭和63年2月27日に登録出願され、「LITTLE BEAR」の欧文字
を横書きしてなり、旧第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、
平成2年6月28日に設定登録された、登録第2239238号商標(以下「引用
商標6」という。)
7 平成3年7月1日に登録出願され、「FINEBEAR」の欧文字と「ファイ
ンベア」の片仮名文字とを二段に横書きしてなり、旧第17類「被服(運動用特殊
被服を除く。)布製身回品(他の類に属するものを除く。)寝具類(寝台を除
く。)」を指定商品として、同7年10月31日に設定登録された、登録第271
0434号商標(以下「引用商標7」という。)
8 昭和59年6月29日に登録出願され、「THREE BEARS」の欧文字
を横書きしてなり、旧第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、
平成7年3月31日に設定登録された、登録第2705437号商標(以下「引用
商標8」という。)
9 平成4年6月23日に登録出願され、「ミニベアー」の片仮名文字と「MIN
I BEAR」の欧文字とを二段に横書きしてなり、第25類「洋服,コート,セ
ーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻
き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,
手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,
すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつ
り,バンド,ベルト,靴類(靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保
護金具を除く。),げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(乗馬靴を除
く。)」を指定商品として、同8年3月29日に設定登録され、その後、商標権の
一部取消審判により、指定商品中「靴類(靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴
びょう・靴保護金具を除く。)」については、これらを取り消す旨の登録がなされ
ている、登録第3135725号商標(以下「引用商標9」という。)
10 昭和43年7月26日に登録出願され、審決書別掲(4)に示すとおりの構
成よりなり、旧第17類「被服(溶接マスク、防毒マスク、防じんマスクを除
く。)布製身回品」を指定商品として、同46年1月27日に設定登録された、登
録第887884号商標(以下「引用商標10」という。)
11 昭和54年1月31日に登録出願され、審決書別掲(5)に示すとおりの構
成よりなり、旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他の類に
属するものを除く。)」を指定商品として、同58年11月25日に設定登録され
た、登録第1630934号商標(以下「引用商標11」という。)
12 平成2年3月30日に登録出願され、審決書別掲(6)に示すとおりの構成
よりなり、旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)布製身回品(他の類に属
するものを除く。)寝具類(寝台を除く。)」を指定商品として、同5年3月31
日に設定登録された、登録第2516347号商標(以下「引用商標12」とい
う。)
13 平成5年11月18日に登録出願され、審決書別掲(7)に示すとおりの構
成よりなり、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベル
ト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同9年1月31日
に設定登録された、登録第3255110号商標(以下「引用商標13」とい
う。)
14 平成4年12月7日に登録出願され、審決書別掲(8)に示すとおりの構成
よりなり、第25類「セーター類,ワイシャツ類,下着,帽子」を指定商品とし
て、同8年4月30日に設定登録された、登録第3150491号商標(以下「引
用商標14」という。)

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