弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
昭和三四年抗告審判第一、三〇六号事件につき、特許庁が昭和三九年八月六日にし
た審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 双方の求める裁判
 原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は
原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 原告の請求の原因
一 原告は、昭和三二年六月一三日特許庁に対し、「ガス洗気壜」の考案につき実
用新案登録の出願をしたところ(同年実用新案登録願第二五、九八七号)、昭和三
四年二月一四日附で、昭和一七年一〇月一五日河出書房発行化学実験学(第二部)
第2巻基本操作篇I第三八六ないし三八七頁(以下引用例甲という。)の記載を引
用しての、拒絶理由通知があつたので、昭和三四年四月一日意見書とともに同日附
の(全文訂正)説明書を差し出したが、同月一八日右通知による理由をもつて拒絶
査定がなされた。そこで原告は、同年五月二二日抗告審判の請求をするとともに
(昭和三四年抗告審判第一、三〇六号)、同日附でさらに(全文訂正)説明書を差
し出したが、昭和三九年八月六日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審
決がなされ、同審決の謄本は同年九月七日原告に送達された。
二 右審決の理由の要旨は、つぎのとおりである。
 本願考案は、昭和三二年六月一三日の出願にかかり、その要旨は、その訂正説明
書と図面の記載からみて、その登録請求の範囲に記載されたとおりのガス洗気壜の
構造にあるものと認める。
 これに対し、原査定の引用した引用例甲には、同じく洗気壜においてガス導入管
の先にガラスフイルタを用いたものの説明が図面とともに示されている。
 請求人は、原査定は、本願の特定構造による作用効果について正しく理解してい
ないもので、不当である、というけれども、その特定構造である硝子粒子の半凝固
多孔球状フイルタを設けることは、本願の説明書と図面の記載の程度では、板状フ
イルタとの具体的構造の差異は認められない。すなわち、粒子を結合したものと、
板に孔をあけたものとは、単に素材としての材料の相違にすぎないし、また粒子硝
子をフイルタ素材とすることは、本出願前より周知のものであるので(必要なら
ば、大正七年の特許第七〇、一五四号明細書(以下引用例乙という。)参照)その
製造方法ならばともかく、その粒子の具体的結合態様が明示されていない以上は、
板状のものと単なる素材の相違にすぎないものと認める。
 よつて本願の考案は、原査定のとおり旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)
第一条の登録要件を具備しないものと認める。
三 しかしながら審決はつぎの理由によつて違法であり、取り消さるべきである。
(一) 本願実用新案の考案の要旨は、原告が抗告審判において提出した前記訂正
説明書(昭和三四年五月二二日附)の登録請求の範囲に記載されたとおり「硝子壜
(1)の口部(2)に嵌着し一体に形成した導入管(6)並に導出管(8)を有す
る硝子栓(3)の前記導入管(6)の下端(4)に之と一体に同時に加熱熔着して
形成した硝子粒子の半凝固多孔塊状フイルター(5)を設けて成るガス洗気壜の構
造」であつて、右のような構造であるから、本願のガス洗気壜は、フイルター
(5)の形成と熔着が同時になされ、製作がきわめて容易であるばかりでなく、従
来のものにおける成型したガラスフイルターに硝子管を熔着するときのように、ガ
ラスフイルターが破損したり、熔接部が不良となるおそれもなく、きわめて迅速確
実に熔着がなされ、さらにフイルター(5)の形状も洗気壜(1)の口径、内部の
形状、使用目的等の必要に応じて任意の形状に形成することができる等の作用効果
を有するものである。
(二) そして、本願を引用例甲および乙と対比するに、作用効果上つぎのように
すぐれている。
(Ⅰ) 引用例甲との比較
(1) 製作上の面からみて
(イ) 引用例のものは、フイルターのついた封入管が容器に対し二重壁を形成す
るように封入され、また容器口と管との擢合わせを必要とするが、右の同心円的な
封入や擢合わせの作業は容易でないのに対し、本願のものは、フイルターが導火管
の外部に装着されるものであるから、引用例の封入管に比べて導入管を細管にする
ことができ、
したがつて容器に対して同心円的に封入する必要がなく、また摺合わせも栓と容器
との簡易な擢合わせですむから、製作が簡単容易である。
(ロ) 引用例のものにあつては、導入管と導出管の封入管に対する装着加工工程
とフイルターの封入管に対する装着加工工程とは、おのずから別個に行なわなけれ
ばならないから、右前者の工程時において後者の工程時に生じた歪みにより封入管
がしばしば破損するのみならず、フイルターの封入管に対する溶着不十分なところ
から破損し、フイルター自身もき裂を生じ易く、封入管の径が大きくなり、すなわ
ち容量が大きいものになるにしたがつてこの傾向が強く、全体としてコスト高とな
るのを免れないのに対し、本願のものは、導入管の先端にフイルターの形成と熔着
が同時に行なわれるもので、導入管は前記のように比較的細管ですむから、導火管
の栓に対する装着加工工程において、導入管が破損することなく、フイルターにも
き裂を生じない。また引用例のものは容量を大きくしようとすると、いきおい封入
管を太くしなければならないが、かような加工は厄介であるのに対し、本願のもの
は導入管が比較的細管ですむからその欠点がない。
(2) 操作上の面からみて
 引用例のものはフイルターが封入管内に装着されるもので封入管を細管とするこ
とができず、したがつて容器の大きさの割には、洗滌液が多く入らず、これがため
多量の気体を流すと器外に溢れる結果を招くし(引用例第三八七頁第二行目から三
行目にかけての「この際注意を要する事は逆流のため往々失敗する点で」の記載参
照)、気体の洗滌液に接触する時間も短かく、また、器壁を通じて気体を流すと、
フイルターを通過した洗滌液は封入管内に押し上げられるが、フイルター下端の圧
力が液を押し上げる圧力をこえたとき初めて通気するものであるから微圧の気体の
洗気には使用しえないし、各種の異なつた圧力気体を洗気するものには、不安定な
曝気現象を起こすので使用しえないのに対し、本願ののは、導入管を細管とするこ
とができるので、洗滌液を多量にいれることができるから、気体の洗滌液に接触す
る時間が多いし、多量の気体を流しても導入管と硝子壜との間のスペースが大きい
から液が壜外に溢れ出ないし、また各種の異なつた圧力気体を洗気するものに使用
しうる。
(Ⅱ) 引用例乙との比較
(1) 引用例のものは、予めフイルター(多孔質板)を作つて、硝子器に熔着す
るという二次工程によつて製作されるのに対し、本願のものは、導入管の下端にフ
イルターの形成と熔着が同時に行なわれる一次工程ですむので製作がきわめて簡単
であり、なお引用例のものは、手加工によらなければならないのに対し、本願のも
のは、耐熱成形具と加熱炉さえあれば作れる。
(2) 引用例のものは、予め成型したフイルター(多孔質板)を硝子器の内部に
挿入し、外部から強焔で加熱して熔着するものであるから、フイルターの硝子粒子
が硝子器から離れる方向に縮し、熔着が不良となり(引用例第二頁第五行目から六
行目にかけての「例ヘバ……避ケザルベカラズ」の記載からわかるように熔着操作
は容易でない。)、しかも粒子の収縮差のためフイルターにき裂を生じ易いのに対
し、本願のものは、硝子粒子が相互に半熔融化された工程で、導入管の先端を外周
から強く締めつけるような状態で縮小しながら塊状フイルターとなるので、熔着の
ために生じる不良がなく、熔着が迅速確実に行なわれる。
(3) 引用例のものは、フイルターが硝子器内に挿入されるものであるから、フ
イルターの大きさが硝子器の内径に制限されて、任意形状のフイルターができない
のに対し、本願のものは、導入管先端外周に塊状フイルターを形成するものである
から、任意形状のフイルターが成型できるのであつて、目的に応じて球状型、円錐
状型、棒状型、試験管型等表面積の大きい任意のものを、また壜口の口径に応じた
任意の大きさのものを選択できる。
(三) 以上のとおり本願実用新案は、引用例甲および乙のいずれに対しても、作
用効果上顕著な特長を有するものであるから、これら引用例によつてその登録を拒
絶せらるべきではない。
(なお、本願のものはその構造上必然的につぎの作用効果をもたらす。すなわち、
導入管の先端外周に塊状フイルターが形成されるものであるから、気体が多孔質塊
の全面から微細に拡散することができ、また右フイルターはその形成と導入管に対
する熔着が同時に行なわれるものであるから、熔け工合が一様で、均一の多孔質の
ものが形成され、したがつて不均一な泡立ち現象を起こすことがなく、気泡が均一
に分散され、●過能率がよい。しかるに前記各引用例のものは、いずれもフイルタ
ーの面積が管によつて制限され、しかも均一な多孔なものができないから、●過能
率が悪い。)
第三 被告の答弁
一 請求原因一、二の事実は認めるが、三の主張は争う。
二 原告は、請求原因三において、本願の考案を引用例甲および乙と対比して主張
するところがあるが、その主張はつぎのように理由がない。
(一) 引用例甲との対比について。
 審決は、右引用例を、単にガラスフイルタの洗気壜が公知であるという程度にお
いて引用したものであつて、細部について対比すれば、構造および作用効果が相違
するのは、当然である。
 要は、原告みずから本願考案の特定構造であると抗告審判請求において主張した
「導入管(6)の下端(4)に之と一体に同時に加熱熔着して形成した硝子粒子の
半凝固多孔球状フイルター(5)を設けて成る」構造(抗告審判請求書三枚目一四
行目から四枚目二行目まで)に、原告が抗告審判請求とともに提出した昭和三四年
五月二二日附(全文訂正)説明書に、本願考案の作用効果として記載してある、
(い)同一の加熱操作でフイルター(5)の形成と熔着が同時になされ、製作がき
わめて容易であり、(ろ)ガラスフイルターが破損するおそれもなければ、熔接部
が不良となるおそれもなく、(は)はフイルターを任意形状にできる、という効果
を勘案して、本願考案と引用例とを対比すべきであり、しかるときは、審決の説示
するとおり、本願の説明書と図面の記載の程度では、その特定構造は、単に引用例
のガラスフイルターをもつ洗気壜に帰着するものであつて、原告の主張は理由がな
い。
 なお原告は、本願考案においては、導入管を細管とすることができる、という観
点からその製作上の特長をいうが、
フイルターを塊状とすることが導入管を細管にすることができるという必然性につ
いて記載されておらず、したがつて本願考案の特定構造として認められないから、
この点の原告の主張は理由がない。
(二) 引用例乙との対比について。
 審決は、右引用例を、本願の出願前において硝子粒子を用いたフイルタが公知で
あるという、フイルタ自体の技術水準の説明としての持参示例としてあげたのであ
るから、本願考案と対比してその相違点をいうのは、無意味である。
 以上のとおりであつて、本願の説明書、図面の記載の程度では、本願に格別考案
の存在を認めることはできず、したがつて審決に誤りはない。
第四 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因一および二の事実は当事者間に争いがない。
二 (審決における「本願の考案」の認定について)
 右の当事者間に争いのない請求原因二の審決理由によつて明らかなように、審決
は、本願考案の要旨は、「その訂正説明書」と図面の記載からみて、「その登録請
求の範囲」に記載されたとおりのガス洗気壜の構造にあるものと認めて、その登録
適格を判断しているのであるが、他方同様に当事者間に争いのない請求原因一の特
許庁における手続経過によれば、原告は本件につき、審査の過程において、拒絶理
由の通知に対し意見書とともに昭和三四年四月一日附(全文訂正)説明書(以下第
一訂正説明書という。)を提出し、さらに抗告審判の請求とともに同年五月二二日
附(全文訂正)説明書(以下第二訂正説明書という。)を提出していることが明ら
かであるから(なおこの二通のほかに原告が訂正説明書を提出したことを認むべき
資料はない。)、審決のいう前記の「その訂正説明書」が、右の第一、第二各訂正
説明書のいずれを指しているとみるべきか、につき疑いがないではない。しかしこ
の二通の訂正説明書のいずれにあたるかの点について、これを示唆すべき手続上何
ら格段の事情の認められない本件にあつては、審決に直近して提出された右の第二
訂正説明書を採用したものとみるのが、通例に則し、審決の解釈として相当という
べきである。なお、いずれも成立に争いのない甲第一号証の一、三、甲第四号証の
二によれば、出願当初の説明書および右第一、第二各訂正説明書は、その各「登録
請求の範囲」の項の記載および「実用新案の説明」の項のうちの構造に関する記載
部分において、フイルター(5)の形状、構造に関する部分を除いては実質的に共
通しているが、このフイルター(5)の形状、構造について、第二訂正説明書は当
初の説明書に同じく「硝子粒子の半凝固多孔塊状フイルター(5)」としているの
に対し、第一訂正説明書のみはこれと異なり「硝子粒子の半凝固多孔球状フイルタ
ー(5)」としていることが認められるのであつて、この点からすれば、右のよう
に解釈するのが実質・内容的にもより正当であるといえる。もつとも審決理由中に
は「その(請求人の主張する本願の)特定構造である硝子粒子の半凝固多孔球フイ
ルタを設けることは本願の説明書と図面の記載の程度では、板状のフイルタとの具
体的構造の差異は認められない。」と説示した部分があり、この説示は一見本願の
特定構造を右第一訂正説明書にとることを容認しているかのごとき、換言すれば審
決が第一訂正説明書を採用しているかのような観を与えないでもないが、この点に
ついては、前記認定の、認定のような内容による説明書の再度の訂正の事実、しか
るに前記甲第一号証の三、甲第四号証の二および成立に争いのない甲第一号証の二
によつて明らかなように、右第一、二各訂正説明書にも、前記のように第一訂正説
明書と同時に提出された意見書にも、フイルター(5)の塊状であることと球状で
あることとの、本願の考案上の意味の相違について、直接そのことを摘記して明確
にした記載はなにも存しない事実、しかも成立に争いのない甲第四号証の一によつ
て認められる前記のように第二訂正説明書と同時に提出された抗告審判請求書に
は、本願の構造につき、右第二訂正説明書におけると異なり、フイルター(5)に
ついて、「球状フイルター」として請求理由の記載がなされている事実、そして審
決理由における右の説示は、その構文からもまた右甲第四号証の一と対比してもわ
かるように、抗告審判請求書における請求人(原告)の右請求理由に対応してのも
のである事実等を彼此対照し、なお本件口頭弁論の全趣旨をあわせて推断するに、
審決は、第二訂正説明書を採用したうえで第二訂正説明書における「塊状フイルタ
ー」というのは、「球状フイルター」と均等物であると即断し、前記のような説示
をしたものとみられるのである。本願において、「塊状フイルター」と「球状フイ
ルター」とが均等物視されるべきものであるかどうか、あるいはまた以上のような
手続経過のもとでは、抗告審判において、請求人に釈明を求め「フイルター」の
「塊状」と「球状」に関して本願の内容を明確にする手続をとるのが適切ではなか
つたのか等の問題はあろうが、それはおのずから別の問題であつて、すでになされ
た本件審決の解釈としては、審決が「その訂正説明書」と記載して採用している訂
正説明書は、前記のように第二訂正説明書を指すものとみるべきであり、この認定
に反するようにみえる審決理由の一部における前記表現も、その本旨は前記のよう
に解されるのであつて、この説示の表現の故に審決の解釈として右と異なる見解を
とるべき限りでないのは明らかである。
三 (一) (本願実用新案の考案の要旨について)
 前記甲第四号証の二によれば、第二訂正説明書には、その登録請求の範囲の項
に、原告が請求原因三の(一)で主張するとおりの記載がなされており、また本願
実用新案の作用効果として原告の右主張における同様の記載がなされていることが
それぞれ認められる。
 そこで本願実用新案の考案の要旨について考案するに、本件に適用すべき旧実用
新案法第一条にいわゆる物品の型とは、物品の形状、構造または組合わせ自体をい
い、この形状、構造または組合わせを実現するための方法、順序のいかん(製作方
法ないし工程)は、同法にいう実用新案の対象となるものではない。しかるに本願
実用新案における右の登録請求の範囲の記載中「導入管(6)の下端(4)に之と
一体に同時に加熱熔着して形成した硝子粒子の半凝固多孔塊状フイルター(5)を
設けて成る」の部分にある「同時に」というのは、字句自体と右説明書の「実用新
案の説明」の項の記載からみて、硝子粒子の加熱熔着によるフイルター(5)の形
成と、このフイルター(5)の導入管(6)の下端(4)への一体的加熱熔着と
が、同一の加熱操作によつてなされることを意味することが明らかであるから、そ
れは単なる工程を示すものであつて、実用新案の内容として保護の対象となりえな
いものといわなければならない。したがつて本願実用新案における考案の要旨は、
右登録請求の範囲の記載と右説明書および図面の記載によつて「硝子壜(1)の口
部(2)に嵌着し一体に形成した導入管(6)ならびに導出管(8)を有する硝子
栓(3)の前記導入管(6)の下端(4)に、加熱熔着して形成した硝子粒子の半
凝固多孔塊状フイルター(5)を、これと一体に加熱熔着して設けてなるガス洗気
壜の構造」にあるものと認められる。
(二) (各引用例について)
 これに対し、成立に争いのない甲第六号証の一ないし三によれば、引用例甲に
は、その第41図に、ガラスフイルター附き洗気瓶が「洗気壜として……極めて細
い気泡を生ずる様工夫されたガラスフイルター附のものは非常に有効である(第4
1図)……」との本文説明をもつて示されており、また成立に争いのない甲第七号
証によれば、引用例乙には、半熔硝子粒子より成る多孔性体を有する●過器におい
て、多孔性硝子体を無孔体の硝子器中に熔着したものが記載されていることが、そ
れぞれ認められる(右各引用例がいずれも、本件において旧実用新案法第三条第二
号所定の刊行物にあたることは、それぞれ右甲第六号証の三および甲第七号証の記
載によつて明らかである。)。
(三) (本願実用新案と各引用例のものとの対比)
 そこで本願実用新案と引用例甲記載のものとを比較するに、本願においては、フ
イルター(5)は、硝子粒子を加熱熔着して形成した半凝固多孔塊状のものであり
(硝子粒子の具体的結合態様については、粒子が外接した状態で半凝固接着してい
るとみるべきは技術上自明である。)、それが導入管(6)の下端(4)に一体に
加熱熔着されているのに対し、引用例甲では、フイルターについて、単にガラスフ
イルターと表現されているだけで、その形状および構造については、明らかにされ
ておらず、またその取付個所および取付手段についても同様明らかでないのである
が、その図示からみて、右の形状および構造については、審決のいうように、板状
のものに孔をあけたものとみることができ、また右の取付個所については、常識上
内管の底部に取り付けてあると推測するのが相当であるところ、右の取付手段につ
いては、これを知るに由なく、したがつて本願と引用例甲に記載してあるものと
は、ガラスフイルター自体の形状、構造においても、その硝子管に対する取付手段
においても相違するものである。また引用例乙によれば、硝子粒子を熔着した半溶
硝子粒子よりなる多孔性体のフイルターが、本願出願時に周知であつたことは認め
られるにしても、本願におけるように、硝子管の下端に塊状フイルターを一体に熔
着したという特定構造については、右引用例には何らの記載もない。
 以上のように、本願のガス洗気壜は、硝子粒子を加熱熔着によつて半凝固多孔塊
状に形成したフイルター(5)(硝子粒子の具体的結合態様は前記のとおり)を、
導入管(6)の下端(4)に一体に加熱熔着したという特定の形状、構造において
引用例甲記載のものと著しく相違しており、その故に説明書における前記記載のよ
うに、右引用例記載のものに比し製作が容易であり(この製作の容易の点について
説明書には、フイルターの形成とその導入管の下端への熔着が同一の加熱操作でな
されることによる効果として記載されているが、そのような製作の容易は、本願実
用新案そのものの効果とはいえないこと前記説示によつて明らかである。ただ板状
のものに孔をあけて形成されたフイルターを、管の底部に過不足なく取り付けた右
引用例における構造と、硝子粒子の加熱熔着によつて塊状に形成されたフイルター
を、管の下端に加熱熔着した本願の構造とは、フイルターの形成においても、その
管への結合においても、後者が前者に比し工作上容易であるのは明らかであつて、
説明書の記載とは態様をやや異にするが、この意味での製作の容易も本願の効果と
みてよかろう。)、またフイルターの形状が右引用例のものと異なり「塊状」であ
るため、その範囲内では種々の変化の余地があつて、この限界内で洗気壜の口径、
内部の形状、使用目的等の必要に応じて任意、適宜の形状のものにすることができ
る等の効果を有するものであつて(なお説明書には、本願の効果として、フイルタ
ーの導入管下端への熔着に際してのものとして、その他のものが記載されている
が、本願そのものの効果といえないこと前同様であり、また原告は、前記認定をこ
え説明書に記載のない本願の作用効果をあげるが、採用すべくもないことはいうま
でもない。)、かような本願実用新案は、とうてい引用例甲からは、そして引用例
乙をあわせても、これらからは、容易に推考できるものとはいえない。
 したがつて以上と異なる認定、判断をもつて本願の登録適格を否定した審決は違
法であつて、取消しを免れない。
(四) (被告の主張について)
 被告の主張が前記認定、判断を左右するに足りないことは、以上の説示によつて
明らかである。
四 以上のとおりであつて、審決の取消しを求める原告の請求は理由があるからこ
れを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条
を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古原勇雄 武居二郎 楠賢二)

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