弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人松山一忠の控訴趣意は別紙記載の通りである。
 控訴趣意第一点について。
 (イ) 論旨は原判示第一の事実は中止未遂であるに拘らず原判決がこれを障礙
未遂と認定したのは事実誤認であ<要旨>ると謂うのである。しかし、原判決挙示の
各証拠を綜合して判断すれば原判決認定の如く被告人は原判示日時場所にお
いてAを強姦せんとし同女を地上に押倒して乗りかかり同女の陰部に自己の陰茎を
挿入しようとしたが同女の抵抗により、未だ陰茎を挿入しない中に射精してしまつ
たためその目的を遂げなかつた事実を認めることができ、被告人は右射精のため姦
淫行為を中止して立去つた事実はこれを窺い得るけれどもかかる場合犯行を中止し
たことが被告人の意思によるものとしてもその原因が右の如く被害者の抵抗により
未だ陰茎を挿入できない中に射精したためである以上中止未遂を以て論ずるのは相
当でなく被告人の右行為は障礙未遂罪を構成するものと謂わなければならない。原
審が、取調べた各証拠を検討しても原判決が原判示第一の行為を障礙未遂と認定し
て弁護人の中止犯の主張を排斥したのは相当であつて、所論の如き事実誤認は認め
られない。
 (ロ) 論旨は原判示第二及び第三の各事実は実際は強姦未遂罪であるに拘らず
検察官がこれを暴行罪として起訴し原判決も暴行罪として認定したのは不法である
と主張する。しかし原判決の掲げる各証拠により原判示第二及び第三の各暴行事実
はその証明充分であり、仮にその事実は強姦未遂と見られ得るような場合であつた
としても或犯罪事実を如何なる訴因で起訴するかは検察官の裁量に属するところで
あるから、検察官が証拠の関係、犯行の態様等により本件第二、第三の各犯行を暴
行罪として起訴し原審裁判所もまた証拠によりこれを暴行罪と認定したことを以て
何等違法であるとはいえない。原判決並に本件記録を検討しても所論の如き違法は
認められない。
 従て論旨はいずれも理由がない。
 同第二点について。
 論旨は原判決の量刑は重きに過ぎると謂うのである。しかし本件は原判決認定の
如く山麓の一軒家に娘と二人暮しの未亡人を強姦せんとしまたは二回に亘り山道で
女学生(登校または帰校の途中)を襲つた事案であり、その罪責は必ずしも軽くな
く、その他諸般の情状を考量すれば原審が本件につき懲役二年を量定したのは蓋し
相当であると謂わなければならない。本件記録を精査し被告人は未だ前科のないこ
と、本件公訴提起後間もなく被害者等より告訴の取消と見られる書面(告訴権抛棄
につき稟申書と題する書頁)が検察庁に提出せられたことその他論旨主張の諸点を
斟酌しても本件につき刑の執行を猶予するは相当でなく、論旨は採用し難い。
 仍て本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により主文の通り判決
する。
 (裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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