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鳥取地裁平成19・6・18
316条の20第1項棄却
主文
本件請求をいずれも棄却する。
理由
1本件請求の趣旨及び理由
本件請求の趣旨及び理由は弁護人ら作成の裁定請求書記載のとおりであるが,要するに,
弁護人らが検察官に対し,刑事訴訟法(以下「法」という。)316条の20に基づいて,本件
において死亡したAほか2名(以下「Aら」という。)の前科調書及び前科にかかる判決書,
捜査報告書等(以下,まとめて「前科証拠」という。)を含んだ証拠の開示を請求したとこ
ろ,前科証拠については非開示とされたため,裁定を求めたというものである。
本件請求を受けて,当裁判所は,検察官に対しその保管する前科証拠の提示を求めて内容
を精査した上,次のとおり認定,判断するに至った。
2当裁判所の判断
(1)本件は,被告人がほか2名と共謀の上,スナックに居合わせた男性3名を包丁で刺す
などして殺害し,その際に正当な理由なく当該包丁を所持していたという,殺人,銃砲刀剣
類所持等取締法違反の事案であり,被告人は包丁での刺突行為に及んだ実行犯として起訴さ
れている。
弁護人らは,本件の争点として,被告人は自ら及び相被告人らの生命を防衛するため,正
当防衛としてやむを得ずAらを刺突したものであるとした上で,犯行現場で被告人らがAら
から攻撃を受ける危険性があったことを指摘する。そして,Aらに粗暴前科があることは被
告人らが攻撃を受ける危険性を示す証拠であるから,被告人の防御の準備のために前科証拠
を開示する必要性が高いとし,開示されたとしてもさほどの弊害は生じないと主張する。
(2)アところで,法は,いわゆる主張関連証拠の開示の判断に当たっては,主張との
関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該証拠を開示する必要性と,当該開示
によって生じるおそれのある弊害の内容や程度を総合的に考慮した上で,開示の相当性を判
断すべきものとしている(法316条の20)。
そして,本件で問題とされる前科については,その者の名誉あるいは信用に直接にかかわ
る事項であるから,その者はみだりに当該前科に関する事実を公表されないことについて,
法的保護に値する利益を有する。
本件では,既に死亡しているAらの前科証拠が問題とされるが,死者の名誉や信用をみだ
りに害すべきでないことは当然であるし,遺族感情にも一定の配慮が必要であり,弁護人ら
の主張を踏まえ検討しても,前科証拠が開示された場合に弊害が生じるおそれがあることは
明らかである。
イ一方で,弁護人らの主張と前科証拠との結びつきが強く,開示する必要性が高ければ,
上記弊害があってもなお開示を相当とすべき場合もある。
そこで,争点とされる防衛行為の相当性と前科証拠との関連性について検討するが,この
点,被告人が正当防衛や過剰防衛を主張する場合に,被害者が粗暴で攻撃的な性状であるこ
となど,被害者の悪性格を立証することが,被害者の行為の危険性等を判断する一要素とな
ることもあり得よう。本件においても,本件と同種の粗暴前科が前科証拠の中に含まれ,A
らの粗暴な性状を立証し得る場合,弁護人ら主張の争点について,その程度はともかくとし
て,関連性があること自体は否定できない。
しかしながら,防衛行為の相当性については,被告人と被害者の関係,事件に至る経緯や
動機,事件時の被害者や被告人の具体的な行為態様等を基本にして判断されるべきであり,
本件において,これらの事情のうち当事者間に争いがない点を踏まえ検討すると,これに加
えて,Aらの一般的な性状によって弁護人らが主張する防衛行為の相当性を推認しなければ
ならない程度はかなり弱いということができる。
したがって,前科証拠を開示することによる前記の弊害にも照らし検討すると,本件にお
いて,被告人らがAらから殺害されかねないほどに危険な状況にあったとの弁護人らの主張
を基礎付けるためにAらの前科証拠を開示することが認められるとしたならば,それは本件
の具体的な事情の下で,Aらの行為が更に危険なものに発展するであろうことをより推認さ
せるようなものである必要がある。
ウこうした点に加え,本件事案の重大性や弁護人らの主張が犯罪の成否に関するもので
あることなどを踏まえ,当裁判所において検察官に提示させた資料を検討したが,弁護人ら
の防御の準備のために開示させるべき前科情報は窺われなかった。
3結論
以上を総合すれば,本件において前科証拠を開示することが相当とは認められない。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・小倉哲浩,裁判官・空閑直樹,裁判官・炭村啓)

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