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平成22年8月19日判決言渡
平成21年(行ケ)第10350号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成22年7月13日
判決
原告アディダスインターナショナル
マーケティングベーヴェー
同訴訟代理人弁理士柳田征史
同佐久間剛
同我妻慶一
同訴訟復代理人弁理士樋口洋
被告特許庁長官
同指定代理人岩田洋一
同横林秀治郎
同紀本孝
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加
期間を30日とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2008−17192号事件について平成21年6月24日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は原告が名称をフットボールシューズとする発明につき特許出願特,,「」(
願2004−68681パリ条約による優先権主張平成15年(2003年)3
月11日ドイツ国)したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判
請求をしたが,同発明は後出の公知文献に記載された発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受け
ることができないとして,請求不成立の審決を受けたことから,その審決の取消し
を求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成16年3月11日,上記発明につき特許出願したが,平成20年4
月4日に拒絶査定を受けたので,これを不服として,同年7月4日に審判請求をす
るとともに,同日付けで手続補正書(甲5)を提出した。
特許庁は,審理の結果,平成21年6月24日,本件審判請求は成り立たないと
の審決をし,同年7月7日,その謄本を原告に送達した。
2本願の特許請求の範囲
平成20年7月4日付けの手続補正書(甲5)の記載によれば,請求項1の発明
は,次のとおりである(以下「本願発明」という。なお,請求項は1ないし15ま
で存在するが,請求項2ないし15に関する部分は,以下,省略する。。)
「足を受け入れるためのアッパー,
踵部分とフォアフット部分とからなるソールユニット,および
を備えたフットボールシューズであって,
ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルクを低減させる追加の錘
が前記ソールユニットのフォアフット部分に配置され,
前記追加の錘が,取外可能な挿入物中に組み込まれていることを特徴とするフッ
トボールシューズ」。
3審決の理由
,,(。「」審決は本願発明は米国特許5901473号明細書甲1以下引用例
という)に記載された発明(以下「引用発明」という)並びに登録実用新案第3。。
081468号公報(甲2。以下「周知例1」という)及び実願昭63−161。
98号(実開平1−119502号)のマイクロフィルム(甲3(ただし,本件に
おいては公報。以下「周知例2」という)に記載された周知技術に基づいて当業)。
者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により
特許を受けることができないと判断した。
審決が認定した引用発明等の内容,一致点及び相違点並びに容易想到性の判断内
容は,次のとおりである(なお,以下において引用した審決中の当事者及び公知文
献等の表記は,本判決の表記に統一した。。)
(1)引用発明の内容
「足を挿入する部位,踵部分とフォアフット部分とを有する靴底
を備えたサッカーなどのスポーツで使用する運動用シューズであって,1つ以上のウェイトト
レーニング用クリートを軽量のクリートと取り換えて装着する,ウェイトトレーニング用クリ
ートが取り換え可能なサッカーなどのスポーツで使用する運動用シューズ」
(2)引用発明と本願発明の一致点
「足を受け入れるためのアッパー,
踵部分とフォアフット部分とからなるソールユニット,および
を備えたフットボールシューズであって,
ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルクを低減させる追加の錘がソールユニ
ットに配置され,追加の錘が取外可能なフットボールシューズ」
(3)引用発明と本願発明の相違点
ア相違点1
「本願発明は,追加の錘がソールユニットのフォアフット部分に配置されるのに対して,引
用発明は追加の錘がどこに配置されるか決められていない点」。
イ相違点2
「本願発明は,追加の錘が取外可能な挿入物中に組み込まれるのに対して,引用発明は,取
外可能ではあるものの挿入物中に組み込まれていない点」。
(4)相違点に関する容易想到性の判断
ア相違点1について
「追加の錘をソウルユニットのどこに配置するかは,低減させようとするトルクの種類,ボ
ールの蹴り方に応じて,使用者が適宜決定すべき事項であって,しかも,引用発明は,ウェイ
トトレーニング用クリートを,通常使用される軽量のクリートと交換するものであり,通常使
用されるクリートはソウルユニットのフォアフット部分にも配設されているものであるから,
引用発明において,フォアフット部分に配設された通常のクリートをウェイトトレーニング用
クリートと交換し,フォアフット部分に追加の錘を配置するようにすること,すなわち,前記
相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になし得ることであ
る」。
イ相違点2について
「追加の錘を有する靴の技術分野において,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むこと
は,本願の優先日前に周知技術(必要ならば,周知例1,周知例2等参照)であり,引用発。
明に前記周知技術を適用して,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むものとし,前記相違
点2に係る発明特定事項とすることは,当業者であれば容易になし得ることである」。
(5)むすび
「以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をする
,,。」ことができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない
第3原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,認定及び判断に誤りがあるから,取り消されるべき
である。
1取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り)
,「」,「」(1)審決は引用発明のウェイトトレーニング用クリートは本願発明の錘
及び「追加の錘」に相当すると認定する。しかしながら,引用発明は,競技会用シ
ューズにおいて靴底に装着された軽量の競技会用クリートを,3倍以上の重量であ
るウェイトトレーニング用クリートに交換することにより,競技会用シューズをそ
の緩衝性や柔軟性を損なうことなくウェイトトレーニング用シューズに変更するこ
とを特徴とするものである。したがって,引用発明における「ウェイトトレーニ
ング用クリート」とは,シューズの重量を増加させて着用者の足にかかる負荷
を上げることにより,競技会用のシューズをウェイトトレーニング用に変更す
るためのクリートを指すものである。
一方,本願発明における「錘」および「追加の錘」とは,フットボールシュ
ーズにおいてボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルクを低減
させるものであって,シューズの重量を増加させてウェイトトレーニング用に
変更するための錘として用いることは全く意図されておらず,引用発明におけ
る「ウェイトトレーニング用クリート」とは機能及び作用が全く異なるもので
ある。
以上のとおり,引用発明の「ウェイトトレーニング用クリート」が,本願発明の
「錘」及び「追加の錘」に相当するとした審決の認定は誤りである。
(2)審決は,引用発明が「ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のト
ルクを低減させる追加の錘がソールユニット「に配置され」の発明特定事項を有」
するといえると判断する。
しかしながら,本願発明において「ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一
種類のトルクを低減させる追加の錘がソールユニットに配置される」なる構成は,
フットボールシューズにおけるソールユニットの特定位置に追加の錘を配置するこ
とによって,追加の錘の質量と足の回転軸までの距離の二乗によって定まる慣性モ
,「」ーメントを増大させボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルク
すなわち,ボールを蹴るときにシューズに作用する力と足の回転軸までの距離との
積によって定まるトルクを低減させるものである。
一方,引用発明は,競技会用シューズの靴底に複数設けられた軽量の競技会用ク
リートを,同様の形状であるが3倍以上の重量であるウェイトトレーニング用クリ
,,,ートに交換することによってシューズ全体の重さを増加させ着用者のスピード
持久力及び筋力を改善することを目的とするものであるから,本願発明のフットボ
ールシューズとは構成も技術的思想も全く異なるものであり,当然ながら本願発明
における「ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルクを低減させる
追加の錘がソールユニットに配置される」という技術的意義を記載あるいは示唆す
るものではない。
特に,本願発明においては,追加の錘を配置することによってシューズの総重量
が増加することによりプレーヤーに過度の負担が生じることを防止するために,ソ
ールユニットの特にフォアフット部分にのみ追加の錘を配置することによって,追
加の錘から足の回転軸までの距離を大きくし,追加の錘の質量を必要最小限にしな
がら追加の慣性モーメントを可能な限り大きくするものであるから,単にトレーニ
ングのためにシューズ全体の重量を増加させることを本来の目的とする引用発明と
は技術的思想が全く異なるものである。引用発明においては,ボールを蹴る時の足
の複数の回転軸について慣性モーメントを最大化してトルクを可能な限り低減する
ために追加の錘を最適の位置,すなわちフォアフット部分にのみ配置するという技
術的思想は全くない。
したがって,引用発明は「ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のト
ルクを低減させる追加の錘がソールユニット「に配置され」の発明特定事項を有」
するといえる,との審決における判断は誤りである。
(3)引用発明の「ウェイトトレーニング用クリート」は本願発明の「追加の錘」
に相当するものではないから,本願発明の「追加の錘が取外可能な挿入物中に組み
込まれる」ことと引用発明の「ウェイトトレーニング用クリートが取り換え可能」
なこととは「追加の錘が取外可能」である点で共通する,との審決における判断は
誤りである。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)
(1)相違点1の判断の誤り
審決は,相違点1について,追加の錘をソールユニットのどこに配置するかは,
低減させようとするトルクの種類,ボールの蹴り方に応じて,使用者が適宜決定す
べき事項であると判断する。
しかしながら,引用発明は,競技会用シューズをウェイトトレーニング用シュー
ズに変更する方法に関するものであって,そもそも本願発明におけるフットボール
シューズと異なってボールを蹴ることを主目的とするものではない。また,引用発
明においては,競技会用シューズの靴底に複数設けられた軽量の競技会用クリート
を,同様の形状であるが3倍以上の重量であるウェイトトレーニング用クリートに
交換することによって,シューズ全体の重さを増加させ,着用者のスピード,持久
力及び筋力を改善するだけのものであって,クリートの交換は所望のシューズの重
量にのみ依存するものであり,本願発明の「ボールを蹴るときに足にかかる少なく
とも一種類のトルクを低減させる追加の錘がソールユニットのフォアフット部分に
配置される」という特定の技術的意義を記載・示唆するものではなく,ボールを蹴
るときに足にかかる少なくとも一種類のトルクを低減させるために追加の錘をソー
ルユニットのどこに配置するかを想起する動機付けとなり得る記載を有するもので
はない。
したがって,相違点1について,引用例に基づいて当業者が容易に想到すること
ができたということはできないから,この点に関する審決の判断は誤りである。
(2)相違点2の判断の誤り
審決は,相違点2について,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むことは本
願の優先日前に周知技術であると判断する。
しかしながら,引用発明は,競技会用シューズの軽量クリートを取り外して重い
ウェイトトレーニング用に交換するだけで,シューズに十分な重量を容易に与える
とともに,競技会用シューズの緩衝性や柔軟性を損なうことなく快適な着用感を可
能にしようとするものである。
一方,審決において周知技術を示すものとして新たに引用された周知例1及び周
知例2は,エクササイズ,リハビリ,脚力増進等のために靴の重量を増加させるこ
とを目的として,靴のインソールに鉛板を組み込む,あるいは靴の中敷きに足型に
形成した重りを入れるだけのものであるが,このような構成は,まさに引用例にお
いて,従来技術として不適切であるとして記載されているものであるから,引用発
明に上記周知技術を適用しようとした場合には,引用発明の本来の発明の目的が達
成できなくなってしまうものである。
したがって,引用例は,引用発明と周知技術とを組み合わせる動機付けとなり得
る記載を有するものではなく,相違点2について,引用発明に周知技術を適用する
ことは当業者であれば容易になし得ることであるとはいえないから,この点に関す
る審決の判断は誤りである。
第4被告の主張
次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理
由がない。
1取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り)に対して
(1)引用発明におけるクリートとは,例えば,引用例の図2及び図6に示される
,,ように靴底の踵部分及びフォアフット部分から下方に突き出すように配置されて
走行性を向上させることを本来の目的とするものであり,また「cleat」と,
,,「」()いう英単語は例えば滑り止めに靴の底につけるゴムまたは金属の突起甲6
と和訳されるものであるから,引用発明のクリートは,本願発明における,フィー
ルド上でのシューズのグリップ力を向上させるためのスタッドに相当するものであ
る。そして,引用発明における「ウェイトトレーニング用クリート」は,軽量のク
リートと交換して使用されるものであって,その重量は軽量のクリートの3倍以上
である。すなわち,引用発明における「ウェイトトレーニング用クリート」は,軽
量のクリートと交換してシューズに追加することにより,シューズの重量を増大さ
せるものであるから「追加の錘」ということができるものである。,
また,本願発明における「追加の錘」には,錘がスタッドと一体に形成される場
合も含まれるのであるから,このことからも,引用発明のウェイトトレーニング用
クリートが,本願発明における「追加の錘」に相当するということができる。
さらに,引用例の記載からして,引用発明のシューズはアメリカンフットボール
やサッカーの練習試合に使用することも意図されているから,引用発明の「ウェイ
トトレーニング用クリート」もフットボールシューズにおいてボールを蹴るときに
足にかかる少なくとも一種類のトルクが低減されるものであるし,本願発明も「追
加の錘」を用いることにより,原告の主観的な意図とは関係なく,シューズの重量
が増加するのである。
この点,原告は,本願発明においては,ソールユニットの特にフォアフット部分
にのみ追加の錘を配置することによって,追加の錘から足の回転軸までの距離を大
きくし,追加の錘の質量を必要最小限にしながら追加の慣性モーメントを可能な限
り大きくするものであるなどと主張するが,本願明細書の図1において,力Fと距
離d1は,ボールを蹴る力と位置で決まるから,足にかかるトルクの大きさは,ウ
ェイトトレーニング用クリートの配置に関係しない。したがって,原告の主張は誤
りである。
(2)「慣性モーメント」は,追加の錘の質量と足の回転軸までの距離の二乗によ
って定まる(本願明細書の段落【0016。このことは,物理法則から導かれる】)
のであり,引用発明においても同様に当てはまる。すなわち,引用発明において,
すべてのクリートを「ウェイトトレーニング用クリート」と交換した場合,クリー
トから足の回転軸までの距離は変化せずに一定で,錘(クリート)の重量が3倍以
,,上になるのであるからクリートを交換する前に作用する慣性モーメントに比べて
3倍以上の慣性モーメントを生じることになる。そして,慣性モーメントが増大す
れば,作用するトルクが低減すること(トルクに対する抵抗が増大すること)も力
学上の常識である。そうすると,上記3倍以上に増大した慣性モーメントが「ボー
ルを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルク」を低減させることになるか
ら,引用発明において,このような作用が意図されていなかったとしても,その構
成から,当然に本願発明と同様の効果を奏することは明らかである。
また,引用例には,全部のクリートを交換せずに,一部のクリートのみを交換す
ることも記載されており,一部のクリートのみを交換した場合も,当然に慣性モー
,。,メントは増大し本願発明と同様の効果を奏することは明らかであるしたがって
原告の主張は失当である。
,「」,(3)上述したとおり引用発明におけるウェイトトレーニング用クリートは
本願の「追加の錘」に相当するものであるから,本願発明の「追加の錘が取外可能
な挿入物中に組み込まれる」ことと引用発明の「ウェイトトレーニング用クリート
が取り換え可能」なこととは「追加の錘が取外可能」である点で共通する,との審
決における判断に誤りはない。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)に対して
(1)相違点1の判断の誤りに対して
引用例には,クリートの一部のみ交換することも記載され,図2,図6Cには,
ウェイトトレーニング用クリート20,130を靴底44の前方にも配置する態様
が示唆されている。また,引用発明は,フットボールの練習試合に用いることも想
定されている。そして,クリートを交換する位置によって,ボールを蹴った際の使
用感が異なることは自明であるから,競技者(使用者)が,クリートを交換するに
際しては,使用感がより良好になるように交換することは当然であり,どの部分の
クリートを交換するかは,使用者が使用してみて決定すれば足りるものである。
そうすると,引用発明は,クリートの一部のみ交換することや,ウェイトトレー
ニング用クリートをソールユニットのフォアフット部分に配置することも予定され
たものであって,クリートを交換する際に,ボールを蹴ったときの使用感をも加味
して,ウェイトトレーニング用クリートをソールユニットのフォアフット部分に配
置することは,当業者が容易に想到し得たことである。
したがって「追加の錘がソールユニットのフォアフット部分に配置される」と,
いう相違点1について,引用例に基づいて当業者が容易に想到することができたと
した審決の判断に誤りはない。
(2)相違点2の判断の誤りに対して
本願発明においては,出願当初の請求項1では,追加の錘の設け方については何
ら限定されていなかったものを平成20年7月4日付けの手続補正書(甲5)によ
り「取外可能な挿入物中に組み込まれている」と限定したものである。
しかし,本願明細書には「ソールユニットのソールプレートに1つ以上のバラ,
」,「」,スト部材として組み込むこと追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むこと
「」ソールユニットのレセプタクル中に追加の錘をねじ込むための手段を設けること
がそれぞれ並列に記載されている。そのため,審決では「追加の錘を取外可能な,
挿入物中に組み込むこと」が「ソールユニットのレセプタクル中に追加の錘をねじ
込むための手段を設けること(すなわち,追加の錘をスタッドと一体に形成する」
こと)とは異なる構成を意味すると解する余地もあると考えて,相違点2を認定し
たものである。そして,本願明細書には,取外可能な挿入物中に組み込まれる錘を
どのように設けるかについては,具体的な例示はされていないため,取外可能な挿
入物の具体例として,周知のインソールを想定した上「追加の錘を取外可能な挿,
入物中に組み込むことは本願の優先日前に周知技術である」と認定し,周知技術を
示すものとして,周知例1及び2を例示したものである。
したがって「追加の錘が取外可能な挿入物中に組み込まれる」という相違点2,
を認定し「引用発明に前記周知技術を適用して,追加の錘を取外可能な挿入物中に
組み込むものとし,前記相違点2に係る発明特定事項とすることは,当業者であれ
ば容易になし得ることである」と判断した審決に誤りはない。。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り)について
(1)本願発明の内容
証拠(甲4)によれば,本願明細書には次の記載がある。
「技術分野】【
(段落【0001)本発明はフットボールシューズに関する。」】
「フットボールシューズのさらなる設計目的は,ランニングシューズと同様に,シューズを
できるだけ軽くすることにある。これにより,克服すべき慣性力はシューズの質量に比例して
増加するので,運動の過程に必要なプレーヤーのパワーが減少する。軽量のシューズを動かす
のには,重いシューズと比べて小さい力しか必要としない。このことは,ランニングとボール
のキックの両方に当てはまる。軽量で安定性の高いプラスチック材料が益々使用されるように
段落0なって今日では総重量が300g未満のフットボールシューズを製造できる,,。」(【
003)】
「しかしながら,トレーニングを目的とする場合,脚部(leg)と足部(foot)の筋肉を選
択的に強化するためにシューズに錘を設けることが知られている。この概念の例は,シューズ
の様々なソール区域へのトレーニング用錘の配置を開示している特許文献1,2および3に見
ることができる。フットボールシューズに関して,特許文献4から,完成したシューズに特に
重いスタッドを設けることにより,トレーニング中にシューズの重量を増大させることも具体
的に知られている。それゆえ,プレーヤーは,別のシューズを使用する必要なく,追加のパワ
ーを蓄えることができる。しかしながら,試合のために,重いトレーニング用スタッドは,特
に軽量のシューズの上述した利点を得るために,一般的な軽量スタッドに交換される。
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0000835号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0017039号明細書
【特許文献3】米国特許第5758435号明細書
(【】)【】()」特許文献4米国特許第5901473号明細書判決注:引用例1段落0004
「発明が解決しようとする課題】【
追加の錘が設けられたフットボールシューズは,長い目で見れば,アスリートの全体的なパ
フォーマンスを向上させるであろう。しかしながら,プレーヤーのシュートするパワーや,ボ
ールの感触は,この手法では直接的には改善されない。したがって,本発明の課題は,従来技
術のフットボールシューズよりも,より鋭く,よりコントロールされた様式でプレーヤーがボ
(【】)ールを蹴ることができるフットボールシューズを提供することにある。」段落0005
「課題を解決するための手段】【
本発明は,足を受け入れるためのシューズアッパーと,踵部分およびフォアフット部分を持
つソールユニットとを有するフットボールシューズであって,ボールを蹴るときに作用する少
なくとも一種類のトルクに対して足を安定化させる少なくとも1つの追加の錘がソールユニッ
(【】)トのフォアフット部分に配置されているフットボールシューズに関する。」段落0006
「従来技術の均一に分布したトレーニング用錘とは対照的に,本発明による追加の錘は,キ
ックのパフォーマンスを向上させるために,フットボールシューズのソールユニットのフォア
フット部分に選択的に配置されている。それゆえ,外側または内側への足の回転に関して,フ
ットボールシューズの追加の慣性モーメントが生じる。この慣性モーメントは,内側または外
側のボールとの接触により生じるトルクに逆らって作用し,それによって,運動のコースを安
定化させる。所望の位置で鋭いキックをするために足を維持する労力が減る。転じて,これに
より,ボールをより鋭く蹴ることができ,それによって,プレーヤーのパフォーマンスが向上
(段落【0007)する。」】
「さらに,追加の錘により達成される安定化によって,慣性モーメントがより大きい足は,
ボールとの接触中により正確に導くことができるので,ボール・コントロールが改善される。
ボールに加わるトルクのために,ボールとの接触中に意図する運動のコースおよび方向から足
(段落【0008)がずれることによって生じるミスキックが起こりにくくなる。」】
「追加の錘は,プラスチック材料と,金属,好ましくは,タングステンとの複合材料からな
ることが好ましく,タングステンは,本発明の好ましい実施の形態においては,プラスチック
材料のポリマー母材中に埋め込まれている。高密度のタングステンにより,追加の錘を比較的
小さな部材で所望の質量値にすることができる。この部材は小さいので,ソールユニットのフ
(段落【0011)ォアフット部分に非常に選択的に配置することができる。」】
「好ましい実施の形態において,追加の錘は,ソールユニットのソールプレートに1つ以上
のバラスト部材として組み込まれている。この例では,追加の錘により与えられる慣性モーメ
ントは決まっている。あるいは,例えば,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むことによ
り,またはソールユニットのレセプタクル中に追加の錘をねじ込むための手段を設けることに
より,ソールユニットのフォアフット部分に追加の錘を取外可能に取り付けることも考えられ
る。取外可能に取り付けることにより,プレーヤーは,シューズから追加の錘を一部または完
全に取り外したり,もしくはフォアフット部分における正確な位置を変更したりすることがで
きる。これにより,ボールとの接触中にフットボールシューズの動的性質を個別に適合させる
(段落【0012)可能性が与えられる。」】
「図1は,シューズ10とボール1との間で作用する物理的ベクトル量を示している。大き
な方の矢印の方向へのキックの場合,力Fが,ニュートンの法則の作用反作用にしたがって,
シューズ10に作用している。力FはトルクMを生じる。Mの量は,力Fと足の回転軸D(ほ
ぼ下肢の端部に位置する)までの距離d1との積により決まる。図1に示すように,インステ
ップの内側によるキックの場合,トルクMは反時計方向を持ち,インステップの外側によるキ
(【】)ックの場合トルクはシューズ10の時計方向に作用する図示せず,()。」段落0014
「従来技術によるフットボールシューズの場合,プレーヤーの足の筋肉が全トルクMに耐え
なければならない。しかしながら,足は,筋肉が高張力下にある場合でさえも,完全には剛性
に維持され得ないので,足は,ボールとの接触中にトルクMの方向にわずかに曲がる(図1の
小さい方の矢印。この曲りにより,転じて,ボール1への線形モーメントの伝達が減少し,)
(段それによって,結果として生じるプレーヤーのシュートのパフォーマンスが低減する。」
落【0015)】
「,,本発明はシューズ10が上述した回転に関して増大した慣性モーメントTを生じる場合
作用するトルクMを減少させられるという認識に基づく。増大した慣性モーメントは,フォア
フット部分にある追加の錘20の質量および回転軸Dまでの距離d2の二乗により決まる。本
発明の意味におけるフォアフット部分の追加の錘は,例えば,プロファイルの形状,アッパー
の安定性または挿入物の形状などのシューズへの他の任意の機能的要件により生じない任意の
(段落【0016)錘である。」】
「,,シュートのパフォーマンスを向上させることは別にしてフォアフット部分の追加の錘は
ボールのコントロールを改善する。シューズ10の降伏モーメント(図1に左下への矢印によ
り示されているように)が追加の慣性モーメントTにより減少する場合,ボールをより正確に
(段落【0020)案内でき,ミスキックの可能性が減る。」】
「図3は本発明の第1の実施の形態を示しており,ここでは,フットボールシューズ10の
他のスタッド12より重いスタッド11が,フォアフット部分に配置されている。例えば,前
方のスタッド11は適切な高密度金属から製造されるであろうが,後方のスタッド12には軽
量のプラスチック材料が用いられる。重いスタッド11には,複合材料,例えば,プラスチッ
(段落ク材料の母材中に埋め込まれたタングステンまたは鉛を使用することも考えられる。」
【0023)】
「図3の側面から分かるように,フォアフット部分の重いスタッド11は,足30の中足骨
31および基節骨32の下に配置されている。使用する軽量スタッド12および重いスタッド
11の正確な配置および数は様々であってよい。スタッド11がシューズ10のソールユニッ
ト13に取外可能に取り付けられる場合には,追加の錘の質量は,プレーヤーの必要に応じて
(段落【0024)個別に調節することができる。」】
「,,図4a∼4fは本発明によるフットボールシューズの別の群の実施の形態を示しており
ここでは,追加の錘がソールユニット13のフォアフット部分中にプレート15として組み込
まれている。また,挿入物としてプレート15を提供することにより,取外可能な実施の形態
も考えられる。この場合,プレート15は,取り外しても,異なる質量の挿入物と交換しても
よい。図4aにおいて,プレート15は中間のソール層中に埋め込まれており,一方で,図4
bは,プレート15がアウトソール内またはその下に配置されている実施の形態を示してい
(段落【0026)る。」】
「,,。,最後に図5aおよび5bは本発明の別の実施の形態を示すプレート15の代わりに
複数のバラスト部材16がソールユニット13のフォアフット部分中に組み込まれている。こ
の実施の形態について,バラスト部材16を全ての種類のソール層に配置することができる。
さらに,個々のバラスト部材16は,ソールユニット13にねじで取り付けたり,任意の他の
様式で取外可能に取り付けられていてもよい。バラスト部材16を取り外したときに,対応す
るネジ山または他の取付装置中に土や泥が入り込むのを防ぐために,プラスチック材料等から
製造されたダミースクリュー(図示せず)または対応するカバー部材(図示せず)を使用する
ことができる。図5bは,ソールユニットのフォアフット部分の内側と外側のバラスト部材1
。,,,6の分布例を示しているこの実施の形態においてこの分布は中足指節軸1+2および3
4+5に関して実質的に対称である。個別のバラスト部材16の使用は,特に,シューズの縦
方向における,ソールユニット13の柔軟性を追加の錘により損なうべきではない場合,プレ
(段落【0029)ート15の使用と比較して,都合よい。」】
(2)引用発明の内容
証拠(甲1)によれば,引用例には次の記載がある。
ア「アメリカンフットボール,トラック競技,サッカーなどのスポーツで使用する従来の
クリートを装着した運動用シューズ又は競技会用シューズは,通常,芝又は土の上での走行性
を向上させることを目的として,靴底に軽量のクリートを有する。このような従来の軽量のク
リートには一般的にネジ式の鋲を有し,例えば靴底の輪郭となっている穴に鋲をネジで締め付
けることにより,クリートを靴底に装着することができる。このような鋲を使用することによ
り,摩耗又は損傷したクリートを当該クリートのネジをはずすだけで容易に取り換えることが
可能となる。
本発明は,全般的には,軽量のクリートを装着した競技会用のシューズをウェイトトレーニ
ング用シューズに変更する方法に関する。本方法には,1つ以上の軽量のクリートをウェイト
トレーニング用のクリートに交換するステップを含む。ウェイトトレーニング用のクリートの
(翻訳文2頁2ないし12行)重量は軽量のクリートに比べて3倍以上重い。」
イ「図1は,本発明の代表的な実施形態である,ウェイトトレーニング用のクリートを示
す。通常,ウェイトトレーニング用のクリート20には,内腔24を定める耐摩耗性の外部ケーシ
ング22と,クリート20の重量を増加させるために内腔24で保持されるウェイトコア26とが含ま
れる。さらに,ウェイトトレーニング用クリート20には,このクリート20を運動用シューズに
(翻訳文3頁15ないし19行)装着するためのネジポスト34が含まれる。」
「ウェイトコア26は,ケーシング22の内腔24の中で保持されており,クリート20の重ウ
量を増加させるために用いられる。図1で示されるように,ウェイトコア26の形状は,ケーシ
ング22の外面によって定められる円錐台形と,略同じ形状の輪郭である円錐台形であることが
。,,,好ましいさらにこの内部にあるコア26は内腔24の形状と同じ形状であることが好ましく
(翻訳文3頁最ウェイトコア26の少なくとも一部は,外部ケーシング22の内腔24内にある。」
下行ないし4頁5行)
「当然ながら,ウェイトコア26とポスト34は,単一の構成部分として一体的に形成さエ
れうる。また,ポスト34をウェイトコア26の表面に形成された円筒開口部(図示せず)内に圧
入するので,ウェイトコア26とポスト34は,別々の部品にもなり得る。このような実施形態で
は,ポスト24とウェイトコア26を別々の材料で構成することが望ましい。例えば,ウェイトコ
ア26は,鉛から構成されうるが,ネジ切りポスト24は,鋼鉄などの材料から構成することがで
きる。
図1のクリート20では,クリート20をシューズ40に装着するために,ネジ切りポスト34が用
いられているが,当該技術分野において周知である様々な構造を活用して,クリート20をシュ
ーズ40に装着することができる。例えば,クリート20は,靴底の輪郭となっている穴または溝
穴の中にきちんと嵌るフランジ付きの鋲(図示せず)を含むことができる。さらに,ウェイト
トレーニング用のクリート20に中心開口部を設けることができ,その開口部は,靴底にしっか
りと結合された鋲(図示せず)と嵌り合うか,ネジで係合される。本発明は,当然のことなが
ら,具体的に示され,説明されるクリートの装着技術に限られるものではなく,当該技術分野
(翻訳文において周知であり利用されている他の適したクリートの装着技術も含んでいる。」
4頁14ないし28行)
「使用する際,本発明のウェイトトレーニング用クリートは従来のクリートを装着しオ
た運動用シューズ40に装着することができる。図2には通常,紐を結ぶ方法で足に固定する従
来の上部42など,足を挿入する部位を有する従来のクリートを装着した運動用シューズ40を示
す。靴底44は上部42の底に取り付け,ポリウレタン,ポリエチレン,ポリアミドなど注入成形
用又は鋳造用合成材料から構成することができ,靴40の底部全体を覆っていることが好適であ
る。靴底44は一般に,開口部が靴底44の内側に向かって垂直に開口している複数個のネジ込み
用開口部46を有することが好適である。ネジ込み用開口部46は直接靴底44に形成することが可
翻能である又はネジ込み用鋼鉄製スリーブを靴底44の内側に取り付けることも可能である。。」(
訳文5頁8ないし16行)
「図6Aは,複数の軽量の競技会用クリート122が上部126の靴底124に取り付けられた競カ
技会用シューズ120を示している。競技会用シューズ120をウェイトトレーニング用シューズ12
8に変換するためには,競技会用クリート122を上部126の靴底124から取り外し(図6Bで示され
るように,ウェイトトレーニング用クリート130と交換する(図6Cで示されるように。ウェ))
イトトレーニング用シューズ128を競技会用クリート122に戻す場合には,ウェイトトレーニン
グ用クリート130を軽量の競技会用クリート122と交換する。本明細書中で前述するように,ク
リート122と130を容易に交換するために,クリート122および130は靴底124の中にネジ込まれ
ることが好ましい。
本発明は,すべての競技会用クリート122をウェイトトレーニング用クリート130に交換する
ことに限定するものではない。代わりに,希望するシューズの重量によって1つ以上の競技会
(翻訳文6用クリート122をウェイトトレーニング用クリート130に交換することができる。」
頁30行ないし7頁5行)
(3)引用発明の「ウェイトトレーニング用クリート」が,本願発明の「錘」及び
「追加の錘」に相当するか否かについて
ア前記(2)の記載によれば,引用発明にいう「クリート」は,引用例の図2及
び図6に示されるように,運動用シューズの靴底の踵部分及びフォアフット部分か
ら下方に突き出すように配置されているすべり止め用の突起である。そして,引用
発明における「ウェイトトレーニング用クリート」は,使用する際に従来のクリー
トを装着した運動用シューズに装着することができるものであって,軽量のクリー
トの3倍以上の重量を持ち,軽量のクリートと交換して使用されるものである。す
なわち,引用発明における「ウェイトトレーニング用クリート」は,軽量のクリー
トと交換してシューズに追加することにより,シューズの重量を増大させるもので
あるから「追加の錘」ということができるものである。,
そして,前記(1)の本願明細書の段落【0023】及び図3の記載からすれば,
,「」,「」本願発明においても追加の錘には他のスタッド12より重いスタッド11
が実施の形態として記載されているように「錘」がスタッドと一体に形成される,
場合も含まれているのであるこの点は原告も認めているから引用発明のウ(。),「
ェイトトレーニング用クリート」が本願発明の「追加の錘」に該当することは明ら
かである。
イこの点について,原告は,引用発明における「ウェイトトレーニング用ク
リート」とは,単に,シューズの重量を増加させて着用者の足にかかる負荷を
上げることにより,競技会用のシューズをウェイトトレーニング用に変更する
ためのクリートを指すものであるのに対し,本願発明における「錘」及び「追
加の錘」とは,フットボールシューズにおいてボールを蹴るときに足にかかる
少なくとも一種類のトルクを低減させるものであって,シューズの重量を増加
させてウェイトトレーニング用に変更するための錘として用いることは全く意
図されておらず,引用発明における「ウェイトトレーニング用クリート」とは
機能及び作用が全く異なる旨主張する。
,【】,【】,【】,確かに前記(1)の本願明細書の段落000600070008
【】【】,【】,,0014ないし00160020等の記載によれば本願発明は
追加の錘をソールユニットのフォアフット部分に配置して追加の慣性モーメントを
生じさせることで,従来のフットボールシューズに比してボールを蹴るときに足に
かかる少なくとも一種類のトルクを低減させることに技術的意義を有するものであ
る。
しかしながら,前記(2)アに記載されているように,引用発明の「ウェイトトレ
ーニング用クリート」を装着した運動用シューズもアメリカンフットボールやサッ
カーなどのスポーツで使用することも意図されているから,その際,運動用シュー
ズでボールを蹴る際の慣性モーメントとボールを蹴るときに足にかかるトルクの問
題が生じるところ,慣性モーメントとは,物体の質量と該物体の回転軸までの距離
の二乗により決まる量であり(前記(1)の段落【0016,物体の質量が増加す】)
れば,それに比例して慣性モーメントも増加するのは明らかであって,しかも,フ
ットボールシューズの場合,上記回転軸の位置は,プレーヤーの足首に一致し,上
記物体の数,位置,それぞれの質量によって変化しないと考えられるから,物体の
数が増えるほど,慣性モーメントも増加するものといえる。とすれば,引用発明の
「ウェイトトレーニング用クリート」は,取り換え前の軽量のクリートよりも質量
が大きいのであるから,慣性モーメントを増加するもの,すなわち,本願明細書で
いう追加の慣性モーメントを生じさせるものであるといえ,結局,引用発明におい
ても軽量の競技会用クリートを「ウェイトトレーニング用クリート」に交換するこ
とによって,ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルクを低減させ
る作用を奏するものと認めることができる。そして,本願発明の「追加の錘」にお
いても,まさにその「錘」という語が示すとおり,原告の主観的な意図とは関係な
く,シューズの重量が増加するのであるから,本願発明の「追加の錘」と引用発
明における「ウェイトトレーニング用クリート」とは機能及び作用が全く異な
る旨の原告の主張は失当である。
(4)引用発明は「ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類のトルクを
低減させる追加の錘がソールユニット「に配置され」の発明特定事項を有すると」
いえるか否かについて
引用発明においても軽量の競技会用クリートを「ウェイトトレーニング用クリー
ト」に交換することによって,ボールを蹴るときに足にかかる少なくとも一種類の
トルクを低減させる作用を奏することは,上記(3)で認定したとおりである。
そして,引用発明の「ウェイトトレーニング用クリート」は「靴底44」に配,
置されるものであるから「ソールユニットに配置され」という点で一致するとし,
た審決の認定に誤りはない。
この点について,原告は,特に,本願発明においては,追加の錘を配置すること
によってシューズの総重量が増加することによりプレーヤーに過度の負担が生じる
ことを防止するために,ソールユニットの特にフォアフット部分にのみ追加の錘を
配置することによって,追加の慣性モーメントを可能な限り大きくするものである
から,シューズ全体の重量を増加させることを本来の目的とする引用発明とは技術
的思想が全く異なる旨主張する。
しかしながら,本願の請求項1の記載によれば,本願発明は「追加の錘」の配,
置について「フォアフット部分」と特定されてはいるが,フォアフット部分のみ,
に限定されるものではない。すなわち,少なくともフォアフット部分に配置されて
いればよいと解されるのであるから,フォアフット部分にのみ追加の錘を配置する
ことを前提とする原告の主張は,本願発明の特定事項に基づかない主張であって,
その前提において失当である。
(5)本願発明と引用発明とは「追加の錘が取外可能」である点で共通するか否か
について
前記(3)及び(4)のとおり,引用発明における「ウェイトトレーニング用クリ
ート」は本願発明の「追加の錘」に相当するものであり,軽量の競技会用クリー
トと交換して使用するものであるから,本願発明と引用発明とは「追加の錘が取外
可能」である点で共通するとした審決の認定に誤りはなく,この点についての原告
の主張は失当である。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)について
(1)相違点1の判断の誤りについて
前記1(3)のとおり,引用発明においても軽量の競技会用クリートを「ウェイト
トレーニング用クリート」に交換することによって,ボールを蹴るときに足にかか
る少なくとも一種類のトルクを低減させる作用を奏するものと認めることができる
ところ,追加の錘をソールユニットのどこに配置するかは,低減させようとするト
ルクの種類,ボールの蹴り方に応じて,使用者が適宜決定すべき事項であると認め
られる。そして,引用例の図2,図6Cのとおり,引用発明には,ウェイトトレー
ニング用クリート20,130を靴底44の前方,すなわち,フォアフット部分に
も配置する態様が示唆されているばかりか,前記1(2)カに「本発明は,すべての
競技会用クリート122をウェイトトレーニング用クリート130に交換することに限定
するものではない」と記載されているとおり,引用例には,クリートの一部のみ。
を交換することも示唆されている。したがって,引用発明において,フォアフット
部分に配設された通常のクリートをウェイトトレーニング用クリートと交換し,他
の部分のクリートを軽量のクリートのままとすることによって,フォアフット部分
に追加の錘を配置するようにすること,すなわち,相違点1に係る本願発明の発明
特定事項とすることは当業者であれば容易になし得ることである。
したがって,審決には,相違点1についての判断の誤りはなく,この点について
の原告の主張は失当である。
(2)相違点2の判断の誤りについて
ア本願発明は,追加の錘が取外可能な挿入物中に組み込まれていることが発明
特定事項ではあるが,本願明細書には,それに関する記載として,前記1(1)の段
落【0012】に,ソールユニットのソールプレートに1つ以上のバラスト部材と
して組み込むこと,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むこと,ソールユニッ
トのレセプタクル中に追加の錘をねじ込むための手段を設けることがそれぞれ例示
として併記されているにすぎず,取外可能な挿入物中に組み込まれる錘をどのよう
に設けるかについて,その具体例は示されていない。
一方,証拠(甲2,3)によれば,周知例1及び2には,靴のインソールに鉛板
を組み込む,あるいは靴の中敷きに足型に形成した重りを入れることによって,靴
の重量を増加させてエクササイズ,リハビリ,脚力増進を図ることが記載されてい
るところ,その共通した技術的事項は,錘を装着する靴の技術分野において,靴の
インソールに鉛板を組み込む,あるいは靴の中敷きに足型に形成した重りを入れる
といった態様で,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むことであるといえる。
そうすると,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むことに関し,追加の錘が
「スタッド」と一体的に形成される場合を含め,本願明細書に記載されている上記
例示に対応した態様をも念頭に置いて,引用発明に上記周知技術を適用することに
よって,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むことは当業者であれば容易にな
し得ることであるとした審決の判断に誤りがあるとはいえない。
イこの点に関し,原告は,審決において周知技術を示すものとして新たに引用
された周知例1及び2は,引用例において,従来技術として不適切であるとして記
載されているものであり,引用例は,引用発明と周知技術とを組み合わせる動機付
けとなり得る記載を有するものではないから,引用発明に上記周知技術を適用する
ことはできない旨主張する。
しかしながら,審決は,引用発明に周知例1及び2に記載された発明特定事項を
適用しようとするものではなく,追加の錘を取外可能な挿入物中に組み込むという
周知技術の参考例として記載したものにすぎないから,これら周知例1及び2が,
重いウェイトトレーニング用クリートを装着しても競技会用シューズとしての緩衝
性や柔軟性を損なうことなく快適な着用感を可能にしようとする引用発明の観点か
らすれば不適切な従来技術であったとしても,追加の錘を取外可能な挿入物中に組
み込むという周知技術の参考例として挙げることについては,何ら問題はないとい
うべきである。したがって,この点に関する原告の主張は,失当である。
ウところで,引用例に関する前記1(2)イの「ウェイトトレーニング用のクリ
ート20には,内腔24を定める耐摩耗性の外部ケーシング22と,クリート20の重量を
増加させるために内腔24で保持されるウェイトコア26とが含まれる」との記載,。
ウの「ウェイトコア26の少なくとも一部は,外部ケーシング22の内腔24内にある」
との記載,エの「ウェイトコア26とポスト34は,別々の部品にもなり得る」及び。
「当該技術分野において周知である様々な構造を活用して,クリート20をシューズ
40に装着することができる。例えば,クリート20は,靴底の輪郭となっている穴ま
()。」たは溝穴の中にきちんと嵌るフランジ付きの鋲図示せずを含むことができる
との各記載によれば,引用発明のウェイトトレーニング用クリートは,ネジ切りポ
ストによって若しくは靴底の輪郭となっている穴又は溝穴の中にきちんと嵌るフラ
ンジ付きの鋲によって靴底に取外可能に装着しうるものであるから,ウェイトトレ
ーニング用クリート自体若しくはウェイトトレーニング用クリートを構成する外部
ケーシングが本願発明の取外可能な挿入物に相当するものであるともいえるこ「」(
の点,原告も,追加の錘が「スタッド」と一体的に形成される場合も本願発明に含
まれる旨を主張する。。)
そうであれば,引用発明における「ウェイトトレーニング用クリート」も「追加
の錘が取外可能な挿入物中に組み込まれる」ものとなるので,相違点2は実質的な
相違点とはいえないこととなるから,相違点2の判断の誤りをいう原告の主張は,
この点においても失当である。
,,。エよっていずれの点においても相違点2に関する審決の判断に誤りはない
3結論
以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の
請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

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