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令和2年6月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成30年(ワ)第10126号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日令和2年3月19日
判決
原告グリッドマーク株式会社
上記訴訟代理人弁護士小林幸夫
同弓削田博
同神田秀斗10
同平田慎二
上記訴訟代理人弁理士平川明
同今堀克彦
被告ワールド・ファミリー株式会社15
上記訴訟代理人弁護士下田憲雅
上記訴訟代理人弁理士住吉勝彦
同瀧澤匡則
被告補助参加人ソニックステクノロジー株式会社
上記訴訟代理人弁護士矢部耕三
同岡本義則
上記補佐人弁理士松尾淳一25
同末松亮太
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求5
1被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を製造し,譲渡し,輸入し,輸出し,
譲渡の申出をし,又は譲渡のために展示してはならない。
2被告は,前項の各製品及びその半製品(同目録記載の各製品の構造を具備して
いるが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成30年3月30日から支払10
済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,発明の名称を「ドットパターン」とする特許権(第4392521号),
「音声情報再生装置」とする特許権(第4817157号),「ドットパターン」15
とする特許権(第4899199号),「ドットパターンが形成された媒体,ドッ
トパターンを用いた情報入力方法,ドットパターンを用いた情報入出力方法,ド
ットパターンを用いた情報入力装置,ドットパターンを用いた情報処理装置」と
する特許権(第5259005号)を有する原告が,被告が製造,譲渡等する別
紙被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載1の製品を「被告製品1」,同目20
録記載2の製品を「被告製品2」といい,併せて「被告各製品」という。)が原告
の上記各特許権を侵害すると主張し,被告に対し,特許法100条1項及び2項
に基づき,被告各製品の製造,譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法
709条,特許法102条1項に基づき,1億円(18億3333万3332円
の一部請求)及びこれに対する不法行為後の日である平成30年3月30日から25
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で
ある。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容
易に認められる事実)
当事者等
ア原告は,二次元コード等に関わる情報技術の研究,開発及びコンサルティ5
ング,同技術情報を利用した情報デバイスの企画,設計,開発,製造,輸入
及び販売等を目的とする株式会社である(甲1)。
イ被告は,英語教材販売,教育関連事業及びイベントに関する企画・後援・
普及,その他の教材・出版物の販売等をその事業内容とする株式会社である
(弁論の全趣旨)。10
ウ被告補助参加人(以下「補助参加人」という。)は,半導体製品の輸出入
及び販売等を目的とする株式会社であり,台湾法人である松翰科技股份有限
公司(以下「補助参加人親会社」という。)の100%子会社であって,補
助参加人親会社の日本市場における営業,顧客サポートなどの事業を統括す
る(弁論の全趣旨)。15
原告の特許権
原告は,以下の各特許権(以下,順に「本件特許権1」,「本件特許権2」な
どといい,併せて「本件各特許権」という。)を有している。以下,本件各特許
権に係る特許を,順に「本件特許1」,「本件特許2」などといい,併せて「本
件各特許」という。また,本件各特許に係る明細書及び図面を,特許の符号に20
従い「本件明細書1」,「本件明細書2」などという。本件明細書1の記載は段
落番号の後にⅠを付し,本件明細書2の記載は段落番号の後にⅡを付し,本件
明細書3の記載は段落番号の後にⅢを付し,本件明細書4の記載は段落番号の
後にⅣを付す。本件明細書1~4の図面は,番号も含めて同じなので,図面は
単に図面番号で示す。25
ア本件特許権1(甲3,4,顕著な事実)
特許番号第4392521号
発明の名称ドットパターン
出願日平成20年9月1日
原出願日平成15年9月26日(平成21年7月22日付け更正
通知では,平成14年9月26日)5
優先日平成14年9月26日,同年10月4日,平成14年1
2月27日
登録日平成21年10月23日
イ特許権2(甲6,7)
特許番号第4317157号10
発明の名称音声情報再生装置
出願日平成22年11月30日
原出願日平成15年9月26日
優先日平成14年9月26日,同年10月4日,平成14年1
2月27日15
登録日平成23年9月9日
ウ特許権3(甲9,10)
特許番号第4899199号
発明の名称ドットパターン
出願日平成23年2月28日20
原出願日平成15年9月26日
優先日平成14年9月26日,同年10月4日,平成14年1
2月27日
登録日平成24年1月13日
エ特許権4(甲12,13)25
特許番号第5259005号
発明の名称ドットパターンが形成された媒体,ドットパターンを用
いた情報入力方法,ドットパターンを用いた情報入出力
方法,ドットパターンを用いた情報入力装置,ドットパタ
ーンを用いた情報処理装置
出願日平成24年9月28日5
原出願日平成15年9月26日
優先日平成14年9月26日,同年10月4日,平成14年1
2月27日
登録日平成25年8月7日
⑶本件各特許権に係る専用実施権の設定登録並びに取得の経緯10
ア原告は,本件特許権1につき,原特許権者であるZⅰ(以下「Zⅰ」とい
う。)から平成25年1月9日を受付日とする専用実施権の設定を受け,そ
の後,平成26年8月25日を受付日とする特許権移転登録を受けた(甲3)。
イ原告は,本件特許権2につき,Zⅰから平成25年1月9日を受付日とす
る専用実施権の設定を受け,その後,平成26年8月25日を受付日とする15
特許権移転登録を受けた(甲6)。
ウ原告は,本件特許権3につき,Zⅰから平成26年8月25日を受付日と
する特許権移転登録を受けた(甲9)。
エ原告は,本件特許権4につき,Zⅰから平成26年8月25日を受付日と
する特許権移転登録を受けた(甲23)。20
⑷本件各特許の特許請求の範囲
本件各特許に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。
ア本件特許1の請求項1(以下,この請求項に記載された発明を「本件発明
1」という。)
「媒体面上に形成され,且つデータ内容が定義できる情報ドットが配置さ25
れたドットパターンであって,前記ドットパターンは,縦横方向に等間隔に
設けられた格子線の交点である格子点を中心に,前記情報ドットを前記格子
点の中心から等距離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に,ど
の程度ずらすかによってデータ内容を定義し,前記情報ドットが配置されて
情報を表現する部分を囲むように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水
平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交差するように前5
記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上と
において,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置されたことを特
徴とするドットパターン。」
イ本件特許2の請求項1(以下,この請求項に記載された発明を「本件発明
2」という。)10
「媒体表面に印刷され,所定の配置法則で印刷された所定のドットパター
ンを読み取る光学読取手段と,予め所定の音声情報をドットパターンと関連
づけた参照テーブルと,前記音声情報が記憶された音声記憶手段と,前記光
学読取手段によって前記ドットパターンが読み取られたときに,前記参照テ
ーブルを参照して前記音声記憶手段から当該ドットパターンに関連付けら15
れた音声情報を読み出して出力する音声出力手段とからなる音声情報再生
装置であって,前記所定のドットパターンは,媒体面上に形成され,且つデ
ータ内容が定義できる情報ドットが配置されたドットパターンであって,縦
横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,前記情報
ドットを前記格子点の中心から等距離で45°づつずらした方向のうちい20
ずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容を定義し,前記情報
ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,前記縦方向の所定の
格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ライン
と交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた
第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが25
配置されたドットパターンであることを特徴とする音声情報再生装置。」
ウ本件特許3の請求項1(以下,この請求項に記載された発明を「本件発明
3」という。)
「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,前記水平方向に配置
されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向
に配置されたドットと,前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定5
された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想
的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方で
データ内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,
前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置からのず
らし方によって前記ドットパターンの向きを意味していることを特徴とす10
るドットパターン。」
エ本件特許4の請求項1(以下,この請求項に記載された発明を「本件発明
4」という。)
「ドットパターンが形成された媒体であって,前記ドットパターンは,等
間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,前記水平方向に配置された15
ドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置
されたドットと,前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された
垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設
定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ
内容が定義された情報ドットと,からなり,前記垂直方向に配置されたドッ20
トの1つは,当該ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパタ
ーンの向きを意味していることを特徴とするドットパターンである,ドット
パターンが形成された媒体。」
オ本件特許4の請求項20(以下,この請求項に記載された発明を「本件発
明5」といい,本件発明1~5を併せて「本件各発明」ということがある。)25
「請求項1~11のいずれか一項に記載のドットパターンが形成された媒
体に対して,該媒体のドットパターンを撮影する手段と,等間隔に所定個数,
所定方向に配置されたドットを水平方向に配置されたドットとして抽出し,
前記所定方向に対して垂直方向に等間隔に所定個数配置されたドットを垂
直方向に配置されたドットとして抽出し,前記水平方向に配置されたドット
から仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットか5
ら水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点である格子点からの
ずれ方でデータ内容が定義された情報ドットを抽出する手段と,前記垂直方
向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の位置からのずれ方
によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段と,該ドットの配置に
したがって該ドットパターンの定義するデータ内容を解析する手段と,該デ10
ータ内容に対応した情報を記憶する記憶手段と,該データ内容に対応した情
報を出力する出力手段と,を備えたドットパターンを用いた情報処理装置。」
⑸本件各発明の構成要件
本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれの
符号に従い「構成要件A1」などと表記する。)。15
ア本件発明1
A1媒体面上に形成され,且つデータ内容が定義できる情報ドットが配
置されたドットパターンであって,
B1前記ドットパターンは,縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交
点である格子点を中心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距20
離で45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらす
かによってデータ内容を定義し,
C1前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,前
記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上
と,該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点間隔25
ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複
数の格子点上に格子ドットが配置された
D1ことを特徴とするドットパターン。
イ本件発明2
A2媒体表面に印刷され,所定の配置法則で印刷された所定のドットパ
ターンを読み取る光学読取手段と,5
B2予め所定の音声情報をドットパターンと関連づけた参照テーブルと,
C2前記音声情報が記憶された音声記憶手段と,
D2前記光学読取手段によって前記ドットパターンが読み取られたとき
に,前記参照テーブルを参照して前記音声記憶手段から当該ドットパタ
ーンに関連付けられた音声情報を読み出して出力する音声出力手段と10
E2からなる音声情報再生装置であって,
F2前記所定のドットパターンは,媒体面上に形成され,且つデータ内容
が定義できる情報ドットが配置されたドットパターンであって,
G2縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,
前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°づつずらした方15
向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容を定
義し,
H2前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,前
記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上
と,該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点間隔20
ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複
数の格子点上に格子ドットが配置されたドットパターンである
I2ことを特徴とする音声情報再生装置。
ウ本件発明3
A3等間隔に所定個数水平方向に配置されたドットと,25
B3前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから
等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
C3前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ
ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ
れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ
内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンであって,5
D3前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置
からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している
E3ことを特徴とするドットパターン。
エ本件発明4
A4ドットパターンが形成された媒体であって,10
B4前記ドットパターンは,等間隔に所定個数水平方向に配置されたド
ットと,
C4前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから
等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドットと,
D4前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ライ15
ンと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定さ
れた水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデータ
内容が定義された情報ドットと,からなり,
E4前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位置
からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味していること20
を特徴とするドットパターンである,
F4ドットパターンが形成された媒体。
オ本件発明5
A5請求項1~11のいずれか一項に記載のドットパターンが形成され
た媒体に対して,25
B5該媒体のドットパターンを撮影する手段と,
C5等間隔に所定個数,所定方向に配置されたドットを水平方向に配置
されたドットとして抽出し,前記所定方向に対して垂直方向に等間隔に
所定個数配置されたドットを垂直方向に配置されたドットとして抽出し,
前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ラインと,
前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定された水5
平ラインとの交点である格子点からのずれ方でデータ内容が定義された
情報ドットを抽出する手段と,
D5前記垂直方向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の
位置からのずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段
と,10
E5該ドットの配置にしたがって該ドットパターンの定義するデータ内
容を解析する手段と,
F5該データ内容に対応した情報を記憶する記憶手段と,
G5該データ内容に対応した情報を出力する出力手段と,
H5を備えたドットパターンを用いた情報処理装置。15
⑹原告による訂正請求
原告は,平成31年1月25日付で,本件明細書1~4を訂正する旨の訂正
審判を請求した。その後,特許庁から,同年4月17日付で,同訂正審判事件
につき,他の審判事件(無効2018-800155,無効2018-800
156,無効2018-800157,無効2019-800003)と同じ20
特許に対して請求されたものであることを理由として,手続中止通知を受ける
と,令和元年6月10日,上記各無効審判事件の手続において,訂正請求をし
た(甲34~37,44~50,54。以下「本件訂正」という。)。
本件訂正の内容は,以下のとおりである。(下線を付したのは訂正箇所)
ア【0186】Ⅰ,【0230】Ⅱ,【0232】Ⅲ,【0226】Ⅳ「ここ25
で,4×4個の格子領域を1つのデータブロックまたは格子ブロックと呼び,
この格子ブロックの四隅(格子線の交点(格子点)上)には格子ドットLD
が配置されている。」を「ここで,図105における4×5個の格子領域を
1つのデータブロックまたは格子ブロックと呼び,この格子領域の四隅(格
子線の交点(格子点)上)には格子ドットLDが配置されている。」に訂正
する。5
イ【0187】Ⅰ,【0231】Ⅱ,【0233】Ⅲ,【0227】Ⅳ「どの格
子ブロックからどの格子ブロックまでが1つのデータであるかを示すため
にキードットKDを配置している。」を「どの格子領域からどの格子領域ま
でが1つのデータであるかを示すためにキードットKDを配置している。」
に訂正する。10
ウ【0191】Ⅰ,【0235】Ⅱ,【0237】Ⅲ,【0231】Ⅳ「データ
は,図103に示すように,ドット605を格子ブロック内の中心点からど
の程度ずらすかによってデータ内容が定義できるようになっている。」を「デ
ータは,図103に示すように,ドット605を格子領域内の中心点からど
の程度ずらすかによってデータ内容が定義できるようになっている。」に訂15
正する。
上記各段落「同図では,中心から等距離で45度ずつそれぞれずらした点
を8個定義することによって単一の格子ブロックで8通り,すなわち3ビッ
トのデータを表現できるようになっている。」を「同図では,中心から等距
離で45度ずつそれぞれずらした点を8個定義することによって単一の格20
子領域で8通り,すなわち3ビットのデータを表現できるようになってい
る。」に訂正する。
エ【0192】Ⅰ,【0236】Ⅱ,【0238】Ⅲ,【0232】Ⅳ「つま
り,前述のようにキードットKDがデータ領域の範囲を定義しているため,
このキードットKDの配置を変更すれば任意の可変長の格子ブロック群を25
データ格納領域として扱うことができるわけである。」を「つまり,前述の
ようにキードットKDがデータ領域の範囲を定義しているため,このキード
ットKDの配置を変更すれば任意の可変長の格子領域群をデータ格納領域
として扱うことができるわけである。」に訂正する。
⑺被告各製品
被告製品1は,マジックペン1本,絵本合計8冊,CD4枚,ゲームカード5
合計6セット,ステッカーブック1冊,ガイドブック・説明書合計3冊,コン
トロールカード1枚,USBケーブル1本,ACアダプター1個で構成されて
いる(甲14の1,争いのない事実)。
被告製品2は,マジックペン1本,ミッキーのしゃべる人形1体,絵本4冊,
カード合計42枚,カード用スティック・オンズ(ステッカー)11枚,ポス10
ター1枚,ガイドブック・説明書合計2冊,コントロールカード1枚,アクテ
ィビティ・レッツ・スタート・カード1枚,USBケーブル1本,ACアダプ
ター1個で構成されている(甲14の2,弁論の全趣旨,争いのない事実)。
被告各製品に含まれる上記絵本,カード等の一部には,肉眼で視認困難な程
度の大きさの点の配列(ドットパターン)が印刷されている(以下,被告各製15
品を構成する絵本,カード等に印刷されたドットパターンを「被告ドットパタ
ーン」といい,上記絵本,カード等を「被告媒体」という。)。また被告各製品
に含まれるマジックペン(以下「被告マジックペン」という。)には,ドットパ
ターンの読み取りに用いるデコーダICとカメラモジュール等が搭載されて
おり,被告ドットパターンを読み取って,特定の音声を再生する(弁論の全趣20
旨)。
⑻被告の行為
被告は,遅くとも平成22年11月26日以降,被告各製品を輸入し,販売
している(争いのない事実)。
なお,補助参加人親会社は,被告ドットパターンを生成するソフトウェア25
(SONIXOIDAT-InfoWeaver)を提供し,上記マジックペンに搭載されたデ
コーダICとカメラモジュールを製造している(弁論の全趣旨)。
3争点
本件の主要な争点は,以下のとおりである。
⑴被告ドットパターンは本件発明1の技術的範囲に属し,被告マジックペンは
本件発明2の技術的範囲に属するか(争点1)5
ア構成要件B1・G2「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である
格子点を中心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ず
つずらした方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ
内容を定義し」)の充足性(争点1-1)
イ構成要件C1・H2(「情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲10
むように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向
ライン上と,該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点
間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複
数の格子点上に格子ドットが配置された」)の充足性(争点1-2)
⑵被告ドットパターンは本件発明3の技術的範囲に属し,被告媒体は本件発明15
4の技術的範囲に属するか(争点2)
ア構成要件B3・C4(「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置す
る当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」)の充足
性(争点2-1)
イ構成要件C3・D4(「前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設20
定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮
想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方
でデータ内容が定義された情報ドット」)の充足性(争点2-2)
ウ構成要件D3・E4(「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意
味している」)の充足性(争点2-3)25
⑶被告マジックペンは本件発明5の技術的範囲に属するか(争点3)
⑷本件各特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点4)
ア実施可能要件に違反しているか(争点4-1)
イ補正要件に違反しているか(争点4-2)
ウサポート要件に違反しているか(争点4-3)
エ明確性要件に違反しているか(争点4-4)5
オ進歩性を欠いているか(争点4-5)
カ新規性を欠いているか(争点4-6)
キ産業上利用可能性を欠いているか(争点4-7)
ク特許法39条2項に違反しているか(争点4-8)
⑸損害額(争点5)10
4争点に対する当事者の主張
⑴構成要件B1・G2(「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である
格子点を中心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつ
ずらした方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容
を定義し」)の充足性(争点1-1)15
(原告の主張)
ア被告ドットパターンの構成
被告ドットパターンを,本件発明1の構成要件に合わせて表現すると,以
下のとおりとなる。
a1媒体面上に形成され,且つデータ内容が定義できるドットである別20
紙当事者図面目録の原告図(8)~(16)(以下,原告の主張につき,
同原告図の符号を用いることがある。)が配置されたドットパターンであ
って,
b1前記ドットパターンは,縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交
点である格子点を中心に,前記ドット(8)~(16)を前記格子点の中25
心から等距離で90°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に,どの
程度ずらすかによってデータ内容を定義し,
c1前記ドット(8)~(16)が配置されて情報を表現する部分を囲む
ように,前記垂直方向の4個の格子点間隔ごとに水平方向に引いた水平
ライン上と,該水平ラインと交差するように前記水平方向の4個の格子
点間隔ごとに垂直方向に引いた垂直ライン上とにおいて,該垂直水平方5
向の14個の格子点上にドット(1)~(5),(7),(1)’,(5)’,(7)’,
(1)”~(4)”,(1)’”が配置された,
d1ドットパターン。
イ被告マジックペンの構成
被告マジックペンを,本件発明2の構成要件に合わせて表現すると,以下10
のとおりとなる。
a2被告媒体表面に印刷された被告ドットパターンを撮影して読み取る
光学ユニット及びドット解析用CPUと,
b2予め所定の音声情報を被告ドットパターンと関連づけた情報と,
c2前記音声情報が記憶されたマイクロSDカードと,15
d2前記光学ユニット及びドット解析用CPUによって被告ドットパタ
ーンが読み取られたときに,前記被告ドットパターンと関連づけた情報
を参照して前記マイクロSDカードから当該被告ドットパターンに関連
付けられた音声情報を読み出して出力する音声再生用CPU及びスピー
カーと20
e2からなる音声情報再生装置であって,
f2前記被告ドットパターンは,媒体面上に形成され,且つデータ内容が
定義できるドット(8)~(16)が配置されたドットパターンであって,
g2縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,
前記ドット(8)~(16)を前記格子点の中心から等距離で90°ずつ25
ずらした方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデー
タ内容を定義し,
h2前記ドット(8)~(16)が配置されて情報を表現する部分を囲む
ように,前記垂直方向の4個の格子点間隔ごとに水平方向に引いた水平
ライン上と,該水平ラインと交差するように前記水平方向の4個の格子
点間隔ごとに垂直方向に引いた垂直ライン上とにおいて,該垂直水平方5
向の14個の格子点上にドット(1)~(5),(7),(1)’,(5)’,(7)’,
(1)”~(4)”,(1)’”が配置された,
i2音声情報再生装置。
ウ「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点を中心に…どの程度ずらす
かによってデータ内容を定義し」について10
原告図におけるドット(8)~(16)は,縦横方向に等間隔に設けられ
た格子線の交点である格子点を中心に,前記格子点の中心から等距離で9
0°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによって
データ内容を定義している。
被告らは被告ドットパターンにおいてステートゾーンと称するエリアが15
定義されていると主張するが,そうであるとしても,被告媒体に印刷された
被告ドットパターンのどこにも,ステートゾーンと称する四角形の枠は存在
しないから,ステートゾーンが定義されていることと被告ドットパターンの
構成とは無関係である。本件発明1及び2においては,ドットパターンにお
けるドットの配置が構成要件になっているのであるから,本件発明1及び220
と対比されるのは被告ドットパターンにおけるドットの配置である。
エ「格子点の中心」について
「格子点の中心」とは,格子線の交点である格子点の中心を意味すると
ともに,4個の格子点の中心をも包含する概念である。
「点」とは,「①物の面に現れている小さな円形のかたち。②物の表面25
に打った小さなしるし。」を意味する。そして,「小さな円形のかたち」に
は物理的な広さがある上,一般的な意味においても点には中心が存在す
るから,本件発明1及び2の格子点にも中心が存在することが明らかで
あり,当業者であれば当然に理解できる事項である。そして,本件明細書
1及び2の図6には,情報ドットが,そのもののあるべき位置であるライ
ンの交点(格子点)からずれることで情報が表現されており,当該記載に5
対応して,構成要件B1・G2には「格子点を中心に…どの程度ずらすか
によってデータ内容を定義」すると記載されているのであるから,本件発
明1及び2は,情報ドットについて,格子点を基準としてずらすことを内
容とした発明を含むことは明らかである。
被告らは,「格子点の中心」は4個の格子点の正中心,すなわち格子ブ10
ロック内の中心点を意味すると主張するが,本件訂正のとおり誤記を訂
正した後の【0186】によれば,「格子領域」の集まりを「1つのデー
タブロックまたは格子ブロック」と呼ぶことが理解でき,「四隅(格子線
の交点(格子線)上)」とは「格子ブロック」の四隅ではなく,「格子領域
の四隅」と解釈されなければならない。15
なお,本件訂正につき誤記の訂正(特許法126条1項2号)を目的と
するものとは認められなかったとしても,明瞭でない記載の釈明(同行3
号)を目的とするということもできる。
被告ドットパターン(原告図)のドット(8)~(16)は,縦横方向
に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,格子点の中20
心から等距離で90°ずつずらした方向に配置されているから,「格子点
の中心から…ずらす」を充足する。
オ「45°ずつずらした方向のうちいずれか」について
構成要件B1・G2に「いずれかの方向に」と記載されているとおり,
情報ドットは,これを8方向全てにずらす必要はなく,8方向のうち選択25
的にいずれかの方向にずらせばよい。つまり,8方向のうち,何方向を使
用してもよく,2方向であれば1ビット,4方向であれば2ビット,8方
向であれば3ビットのデータ内容を定義することができる。【0191】
Ⅰ,【0235】Ⅱ及び図103においては,45°ずつずらすことによ
り3ビットのデータ内容を定義することができることが記載されている
だけであって,8方向全てに情報ドットを配置しなければならないこと5
は記載されていない。
したがって,本件発明1及び2は,情報ドットを8方向のうち4方向の
みに配置した発明をその技術的範囲に含んでいる。
被告ドットパターンにおいては,原告図のとおり,水平方向に配置され
たドット(1)~(4)から仮想的に設定された垂直ラインと,垂直方向10
に配置されたドット(1),(5)~(7)から水平方向に仮想的に設定さ
れた水平ラインとの交点を格子点とすると,ドット(8)~(16)は,
当該格子点から等距離で90°ずつずらした方向のうちいずれかの方向
にずれた4つの位置に存在する。そして,ドット(8)~(16)は,ド
ットの位置によってデータ内容を定義するものであるところ,その配置15
として4つの位置が存在するから,格子点から等距離で90°ずつずら
した方向のうちいずれかの方向にずれた4つの位置によりデータ内容を
定義するものである。
したがって,被告ドットパターンは「45°ずつずらした方向のうちい
ずれかの方向に」を充足する。20
(被告及び補助参加人(以下「被告ら」ということがある)の主張)
ア被告ドットパターンの構成
被告ドットパターンの構成は,以下のとおりである。
物体表面上に印刷される画像インジケーターであって,別紙当事者図面目
録の被告ら図の画像インジケーター(10)(以下,被告らの主張につき,25
同図の符号を用いることがある。)は4行×4列の16個のステートゾーン
(状態エリア)であるmu1~mu16で構成されるコンテンツ・データ部
(DP)およびヘッダー部(HP)を有し,ヘッダー部は,第1行および第
1列にL字型に設けられた7個のステートゾーン(状態エリア)(mu1~
mu5,mu9,mu13)を有し,前記第1行と前記第1列が交差する第
1画像ステートゾーン(状態エリア)(mu1)から列方向に2個目の第25
ステートゾーン(状態エリア)(mu9)内のドット(画像マイクロユニッ
ト)(d9)を第1位置に配置し,残りの6個のステートゾーン(状態エリ
ア)(mu1~mu5,mu13)内のドット(画像マイクロユニット)(d
1~d5,d13)を各ステートゾーン(状態エリア)内の第2位置に配置
し,前記第2ステートゾーン(状態エリア)(mu9)において,第1位置10
は,第2位置に対し,行方向に沿うコンテンツ・データ部(DP)の側の固
定位置であり,ヘッダー部にしたがってその分布エリアが決定されるコンテ
ンツ・データ部(DP)は3行×3列の9個のステートゾーン(状態エリア)
(mu6~mu8,mu10~mu12,mu14~mu16)を含み,前
記ステートゾーン(状態エリア)のそれぞれが専有するエリアは4つのバー15
チャルエリア(AR1~AR4)を収容し,該4つのバーチャルエリアのう
ち何れかのエリア内の任意の位置に1つのドット(画像マイクロユニット)
が配置され,コンテンツ・データ部(DP)の9個のドット(画像マイクロ
ユニット)(d6~d8,d10~d12,d14~d16)が配置される
バーチャルエリアに対応したデータがそれぞれ特定されることにより,画像20
インジケーター(10)によって示されるコンテンツ・データが決定される,
画像インジケーター(10)。
イ被告マジックペンの構成
被告マジックペンの構成は,以下のとおりである。
前記ア記載の画像インジケーター(10)を読み取るマジックペンであっ25
て,物体表面上に印刷された複数のドット(画像マイクロユニット)の配置
領域の画像を読み取る撮像光学ユニットと,読み取った画像を解析してコン
テンツ・データを特定すると共に,コンテンツ・データを音声ファイルに関
連付けた情報を予め保持する画像解析ユニットと,音声ファイルを記憶する
メモリ・ユニットと,撮像光学ユニットによって読み取られたのに応じて,
コンテンツ・データに関連付けられた音声ファイルを再生する音声再生ユニ5
ットと,再生された音声ファイルの音声を出力するスピーカと,を備え,画
像解析ユニットが,ドット配置領域内で,4行×4列の16個のステートゾ
ーン(状態エリア)(mu1~mu16)を含む画像インジケーター(10)
を,L字型のヘッダー部(HP)を特定することによって特定し,特定され
た上記画像インジケーター(10)において,コンテンツ・データ部(DP)10
の9個のドット(画像マイクロユニット)(d6~d8,d10~d12,
d14~d16)が配置されるバーチャルエリアに対応したデータをそれぞ
れ特定することにより,上記画像インジケーター(10)が示すコンテンツ・
データが決定される,マジックペン。
ウ「縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に…ど15
の程度ずらすかによってデータ内容を定義し」について
被告ドットパターンは,前記アのとおり,4×4の16個のステートゾー
ンで構成され,コンテンツ・データ部においては各ステートゾーンの4つの
バーチャルエリアのうちいずれかのエリア内の任意の位置に1つのドット
が配置されることによってデータが決定されているから,縦横方向に等間隔20
で設けられた格子線やその格子線の交点である格子点を設定してデータ内
容を定義していない。
エ「格子点の中心」について
【0191】Ⅰ,【0235】Ⅱでは,格子ブロック内の中心点からのず
らし方によりデータ内容が定義できると記載されており,【0186】Ⅰ,25
【0230】Ⅱでは,格子ブロックの四隅のことを格子線の交点(格子点)
と説明していること及び図103の記載を踏まえれば,「格子点の中心」は
4個の格子点の正中心,すなわち格子ブロック内の中心点を意味すると解釈
されるべきである。そうすると,本件明細書1及び2において開示されてい
る発明は,格子ブロック内の中心点からの情報ドットのずれ方によって情報
を定義する発明ということになる。原告は,【0186】Ⅰ,【0191】Ⅰ,5
【0230】Ⅱ,【0235】Ⅱの「格子ブロック」は「格子領域」の誤記で
あると主張するが,「格子ブロック」が誤りで「格子領域」の記載が正しい
ことが本件明細書1及び2の記載や当業者の技術常識等から明らかである
ことを主張していない。
原告は,小さな円形の形には物理的な広さがあるから,点には中心がある10
として,「格子点の中心」とは格子線の交点である格子点の中心である旨主
張するが,本件明細書1及び2における格子線は仮想のものであり,格子線
の交点である格子点も仮想点であるところ(【0185】Ⅰ,【0229】Ⅱ),
実際の大きさを持たない仮想点の「中心」は観念できないから,原告の上記
主張は失当である。15
したがって,原告が主張する被告ドットパターンの構成によっても,被告
ドットパターンは「格子点の中心から…ずらす」を充足するものではない。
オ「45°ずつずらした方向のうちいずれかの方向に」について
構成要件B1・G2は「格子点の中心から等距離で45°ずつずらした方
向のうちいずれかの方向に」と記載されており,90°ではなく45°を選20
択したことによって,ベクトル8方向の3ビットで情報を定義するドットパ
ターンの発明であることは明らかである。4方向で2ビットの情報を定義す
るドットパターンであれば,「90°ずつずらした方向」とクレームされる
べきである。
構成要件B1の補正前のクレームは「いずれかの方向に」として全ての方25
向を含む記載であったが,原告は,平成21年5月25日付拒絶理由通知書
において審査官から補正を示唆されたことを受け,ずらす角度として90°
ではなく45°を選択して,ずらす角度を45°に限定する形でクレーム文
言を補正して特許査定を受けた。この審査経過からすれば,情報ドットを8
方向のうち,90°ずつずらした4方向のみに選択して配置して2ビットの
データ内容を定義することを含むとする原告の主張は,出願段階における上5
記補正内容と矛盾する上,クレーム文言とも乖離し,本件明細書1の記載に
も基づかないものである。
⑵構成要件C1・H2(「情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲む
ように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライ
ン上と,該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ご10
とに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子
点上に格子ドットが配置された」)の充足性(争点1-2)
(原告の主張)
ア「所定の格子点間隔ごとに…引いた第一方向ライン…第二方向ライン」に
ついて15
「所定の格子点間隔」とは,2個の格子点の間隔に限定されるものでは
なく,3個以上の格子点の間隔をも含む。すなわち,「所定」とは,「間隔」
に係る修飾語ではなく,「格子点間隔」に係る修飾語であり,「間隔」とは,
ある物とある物との距離であるから,当該物が隣り合っている必要はな
い。20
本件明細書1及び2の図6には,縦方向の4個の格子点間隔ごとに水
平方向に引いた第一方向ラインと,該第一方向ラインと交差するように
横方向の4個の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上と
において,該縦横方向の複数の格子点上の格子ドットが配置されたドッ
トパターンが開示されており,当該ドットパターンは本件発明1及び225
の技術的範囲に含まれる。
被告ドットパターンの構成c1の「垂直方向の4個の格子点間隔ごと
に水平方向に引いた水平ライン」は,「第一方向ライン」に,「該水平ライ
ンと交差するように前記水平方向の4個の格子点間隔ごとに垂直方向に
引いた垂直ライン」は「第二方向ライン」に,それぞれ相当する。
イ「第一方向ライン上と…第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数5
の格子点上に格子ドットが配置された」について
「第一方向ライン上と…第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複
数の格子点上に格子ドットが配置された」とは,あくまで縦横方向の複数
の格子点上に格子ドットが配置されていれば足り,全ての格子ドットが
第二方向ライン上の格子点に配置されている必要はない。すなわち,本件10
発明1及び2は,一部の格子ドットが第二方向ライン上の格子点に配置
されていない発明を含む。
被告ドットパターン(原告図)においては,垂直ライン及び水平ライン
上にドット(1),(5),(7),(1)”(垂直ライン),(1),(2),(3),
(4),(1)’(水平ライン),(1)’,(5)’,(7)’,(1)’”(垂15
直ライン),(1)”,(2)”,(3)”,(4)”,(1)’”(水平ライン)が配置
されており,これらのドットは「格子ドット」に該当する。
ウ「情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように」について
被告ドットパターンにおいては,前記イのとおり「格子ドット」に相当す
るドットは,「情報ドット」に相当するドット(8)~(16)を囲うように20
配置されているから,「情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲む
ように」を充足する。
(被告らの主張)
ア「所定の格子点間隔ごとに…引いた第一方向ライン…第二方向ライン」に
ついて25
「間隔」とは,物と物との距離を意味するから,「格子点間隔」は,隣
接する2つの格子点の間隔(2つの格子点の間の距離)を意味する。原告
が主張するように,4個などの複数個の格子点分の距離を意味するので
あれば,「所定個数の格子点間隔」とクレームされるべきであり,「所定の
格子点間隔」とクレームされれば,当業者は2つの隣り合う格子点の間の
間隔を意味すると理解する。5
本件明細書1及び2の図6には「第一方向ライン」を示す「603」や
「第二方向ライン」を示す「604」の番号は付されていないから,原告
が主張するように4個の格子点間隔ごとに第一方向ライン及び第二方向
ラインが引かれていることを読み取ることはできない。
被告ドットパターンでは,仮想的にラインを設定していないから,「第10
一方向ライン」及び「第二方向ライン」は存在しない。
イ「第一方向ライン上と…第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数
の格子点上に格子ドットが配置された」について
被告ドットパターンにおける「第一方向ライン」と「第二方向ライン」の
交点である格子点上には,格子ドットが配置されていない箇所もあるから,15
「第一方向ライン上と…第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の
格子点上に格子ドットが配置された」を充足しない。
ウ「情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように」について
被告ドットパターンは4×4のドットを構成単位としており,原告が主張
するドット(1)~(16)と,ドット(1)’,(5)’,(6)’,(1)”,(2)”,20
(3)”,(4)”,(1)’”は異なる構成単位である。そうすると,(1)~(7)
は,原告が「情報ドット」に該当すると主張するドット(8)~(16)を
「囲むように…配置」されていない。
⑶構成要件B3・C4(「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する
当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」)の充足性(争25
点2-1)
(原告の主張)
ア被告ドットパターンの構成
被告ドットパターンを,本件発明3の構成要件に合わせて表現すると,以
下のとおりとなる。なお,被告ドットパターンのうち4×4の1単位のみを
比較対象とした場合の予備的主張は,括弧内のとおりである。以下,括弧内5
の記載は同趣旨である。
a3等間隔に5個水平方向に配置されたドット(1)~(4),(1)’又
はドット(1)”~(4)”,(1)’”と(等間隔に4個水平方向に配置され
たドット(1)~(4)と),
b3前記水平方向に配置されたドット(1)~(4),(1)’(ドット(1)10
~(4))の端点に位置する当該ドット(1)又は(1)’(ドット(1))
から等間隔に5個(4個)垂直方向に配置されたドット(1),(5)~(7),
(1)”又はドット(1)’,(5)’~(7)’,(1)’”と(ドット(1),
(5)~(7)と),
c3前記水平方向に配置されたドット(2)~(4)から仮想的に設定さ15
れた垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドット(5)~(7)から
水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格
子点からのずれ方でデータ内容が定義されたドット(8)~(16)と,
からなるドットパターンであって,
d3前記垂直方向に配置されたドット(1),(5)~(7),(1)”又は20
ドット(1)’,(5)’~(7)’,(1)’”(ドット(1),(5)~(7))
の1つドット(6)又は(6)’(ドット(6))は,当該ドット(1),(5)
~(7),(1)”又はドット(1)’,(5)’~(7)’,(1)’”(ドット(1),
(5)~(7))本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターン
の向きを意味している25
e3ドットパターン。
イ「水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドット」について
被告ドットパターンのドット(1)又は(1)’は,水平方向に配置され
たドット(1)~(4),(1)’の端点に位置するドットである。
また,被告ドットパターンが4×4との構成であったとしても,ドット(1)
は,水平方向に配置されたドット(1)~(4)の端点に位置するドットで5
ある。
ウ「当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向の配置されたドット」につい

「等間隔に所定個数垂直方向に配置された」の「等間隔に」は「所定個
数垂直方向に」を修飾しており,「配置された」を修飾するものではない。10
垂直方向において等間隔に所定個数配置されたドットは,本件明細書
3及び4の図5~8に開示されているから,本件発明3及び4の「等間隔」
の意味は,上記各図を考慮して解釈されるべきである。そして,上記各図
においては,水平方向においてずれているものの,垂直方向において等間
隔のドットが開示されている。15
被告ドットパターンのドット(1),(5)~(7),(1)”((1),(5)
~(7))又は(1)’,(5)’~(7)’,(1)’”((1)’,(5)’~(7)’)
は,ドット(1)又は(1)’から等間隔に5個(4個)垂直方向に配置
されたものであるから,「当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向の配
置されたドット」を充足する。ドット(6)又は(6)’は,(1),(5),20
(7),(1)”又は(1)’,(5)’,(7)’,(1)’”を通る垂直方向のライ
ン上から水平方向にずれて配置されているが,垂直方向にはずれていな
いから,垂直方向において等間隔といえる。
(被告らの主張)
ア「水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドット」について25
原告が「端点」であると主張するドット(1)及び(1)’は,他のドット
にはさまれているから端点に位置していない。
イ「当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向の配置されたドット」につい

「等間隔に…垂直方向に配置されたドット」との文言記載からすれば,
「ドット」が「等間隔」なのであって,「ドット」間の距離が等しいこと5
を意味していることは明らかである。本件明細書3及び4の図104及
び図105をみると,水平方向,垂直方向の双方において等間隔に配置さ
れたドットが開示されているのであり,本件発明3及び4は上記各図に
対応する発明と解されるべきである。
被告ドットパターンにおける原告が主張するドット(6)又は(6)’10
は,垂直方向に位置するドットとの間が「等間隔」ではない。
⑷構成要件C3・D4(「前記水平方向に配置されたドットから仮想的に設定
された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮想的
に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点からのずれ方でデー
タ内容が定義された情報ドット」)の充足性(争点2-2)15
(原告の主張)
被告ドットパターンの構成c3の「前記水平方向に配置されたドット(2)
~(4)から仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたド
ット(5)~(7)から水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点を
格子点とし」は,構成要件C3の「水平方向に配置されたドットから仮想的に20
設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから水平方向に仮
想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし」に相当する。
また,被告ドットパターンの構成c3の「該格子点からのずれ方でデータ内
容が定義されたドット(8)~(16)」は,構成要件C3の「格子点からのず
れ方でデータ内容が定義された情報ドット」に相当する。25
(被告らの主張)
被告ドットパターンでは,原告が主張するドット(2)~(4)から仮想的
に垂直ラインやドット(5)~(7)から仮想的に水平ラインを設定していな
いから,これらのラインの交点である格子点も存在しない。
また,格子点からのずれ方でデータ内容を定義していることもない。
⑸構成要件D3・E4(「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味5
している」)の充足性(争点2-3)
(原告の主張)
ア「ずらし方」とは,【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳに開示されるように,
連続する等間隔のドットを結ぶ「ライン上」があるべき位置であり,そのラ
イン上からずらされていることを意味する。すなわち,【0072】Ⅲ,【010
066】Ⅳに記載された「次の点もしくは3つ目の点がライン上にないこと」
とは,本来あるべき点がほかの位置にずれているためにないのであるから,
垂直方向に配置されたドットの1つ(次の点もしくは3つ目の点)が,本来
の位置である垂直ライン上からずれていることと同義である。そして,「上
下方向を認識する」ことは,上下方向が定まれば当然に左右方向も定まるか15
ら,ドットパターンの向きを認識することと同義である。
上記【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳ,図5~8に加え,【0234】Ⅲ,
【0228】Ⅳ,【0239】~【0241】Ⅲ,【0233】~【0235】
Ⅳ及び図104~106には,ドットがずれることで別の向きを定義するこ
とが記載されている。20
このような本件明細書3及び4における開示事項を総合すれば,本件発明
3及び4において,向きを示すドットは,水平ラインを構成するドットから
次の点もしくは3つ目の点に限られるわけではなく,被告ドットパターンの
ように,水平ラインを構成するドットから2つ目のドットが右にずれること
により,ドットパターンの向きを定義する態様を含む。なぜなら,図8に示25
されるドットのように,ドットのずれる向きが一つに定まっていれば,2つ
目の点であっても,ドットのずらし方によって向きを定義することにより,
ドットパターンの向きを定義することができるからである。
イ被告ドットパターンの構成d3の「垂直方向に配置されたドット(1),
(5)~(7),(1)”又はドット(1)’,(5)’~(7)’,(1)’”の1つ
ドット(6)又は(6)’」は,「当該ドット(1),(5)~(7),(1)”又5
はドット(1)’,(5)’~(7)’,(1)’”本来の位置からのずらし方によっ
て前記ドットパターンの向きを意味している」ものであるから,構成要件D
3の「ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向き
を意味している」「垂直方向に配置されたドットの1つ」に相当する。
仮に,ドット(6)が本体の位置からずれた位置に存在していないという10
ことになると,連続して配置されたドットパターンの水平垂直方向に等間隔
なドットでは,上下左右が全て同じ形状であるため,ドットパターンの向き
を特定することができない。そこで,ドット(6)を本体の位置からずれた
位置に配置し,非対称の形状を顕出させ,これによってドットパターンの向
きの特定を可能とする。このように,被告ドットパターンにおけるドット(6)15
(被告ら図のd9)が水平方向右側にずれていることに意味があり,その意
味は「ドットパターンの向き」である。
(被告らの主張)
ア「ずらし方」とは,少しすべらせて動かすやり方,すなわち,どのように
元の位置から少しすべらせて動かすかをいうものであり,少しすべらせて動20
かすやり方に複数の候補があり,どの候補を選んだかによって情報を表現し
ている場合をいうと解される。そうすると,「ずらし方によって前記ドット
パターンの向きを意味している」とは,どのようにドットを元の位置から最
終位置まで少しすべらせて動かすかについて複数の候補があり,どの候補を
選んだかによって「前記ドットパターン」の基準(格子線)の方向との関係25
で向いている方向を表現しているということができる。
原告が「ずらし方」の具体例として挙げる【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳ
は,「次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから上下方向を認識
する。」と記載されているとおり,上下方向を認識するに当たって,どの位
置のドットがライン上に存在しないかが重要となるところ,被告ドットパタ
ーンにおいて原告が向きを意味していると主張するドット(6)(原告図)5
は,水平ラインから2つ目の点であり,「次の点もしくは3つ目の点がライ
ン上にないこと」に該当しない。そして,被告ドットパターンが媒体上に印
刷されたものを180°回転した場合も,やはりドット(6)は上から2つ
目の位置にあって,上下方向を認識できない。そうすると,被告ドットパタ
ーンは【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳが説明するところの「ドットパター10
ンの向き」を有していないことは明らかである。
イドット(6)(原告図)を含むドット(1)~(7)はヘッダー部に該当す
るものであるが,被告ドットパターンにおいてドット(1)~(7)は固定
であって,ドット(6)をずらすことはなく,「本来の位置」との概念も存
在しない。15
すなわち,被告ドットパターンでは,Tile1~Tile4を用いてコンテンツ・
データ部(被告ら図のmu6~mu8,mu10~mu12,mu14~m
u16)のステートゾーンによって情報を定義している。原告がずれている
と主張するドット(6)(被告ら図のd9)は,ヘッダー部を構成するTile
Bに対応するものであるが,TileBは6つのTileAとともにヘッダー部を20
構成するステートゾーンタイルの一つという意味しかない。ヘッダー部のス
テートゾーンタイルは常に固定されており,デコードプロセスにおいては,
ヘッダー部を認識することによって,向きとは関係なく,コンテンツ・デー
タ部のデコードが開始される。
したがって,被告ドットパターンは「ずらし方によって前記ドットパター25
ンの向きを意味している」を充足しない。
⑹被告マジックペンは本件発明5の技術的範囲に属するか(争点3)
(原告の主張)
ア被告マジックペンの構成
被告マジックペンを,本件発明5の構成要件に合わせて表現すると,以下
のとおりとなる。なお,被告ドットパターンのうち4×4の1単位のみを比5
較対象とした場合の予備的主張は,括弧内のとおりである。
a5被告媒体に対して,
b5該被告媒体の被告ドットパターンを撮影して読み取る光学ユニット
及びドット解析用CPUと,
c5前記ドット解析用CPUは,等間隔に5個(4個),所定方向に配置10
されたドット(1)~(4),(1)’(ドット(1)~(4))を水平方
向に配置されたドットとして抽出し,前記所定方向に対して垂直方向に
等間隔に5個(4個)配置されたドット(1),(5)~(7),(1)”((1),
(5)~(7))を垂直方向に配置されたドットとして抽出し,前記水平
方向に配置されたドット(2)~(4)から仮想的に設定された垂直ライ15
ンと,前記垂直方向に配置されたドット(5)~(7)から水平方向に仮
想的に設定された水平ラインとの交点である格子点からのずれ方でデー
タ内容が定義されたドット(8)~(16)を抽出し,
d5前記垂直方向に配置されたドット(1),(5)~(7),(1)”又は
ドット(1)’,(5)’~(7)’,(1)’”の1つドット(6)又は(6)’20
(ドット(1),(5)~(7)の1つドット(6))における当該ドット
本来の位置からのずれ方によって,前記被告ドットパターンの向きを認
識し,
e5該ドット(8)~(16)の配置にしたがって該被告ドットパターン
の定義するデータ内容を解析し,25
f5該データ内容と関連づけた音声情報が記憶されたマイクロSDカー
ドと,
g5該データ内容に関連付けられた音声情報を読み出して出力する音声
再生用CPU及びスピーカーと,
h5を備えた音声情報再生装置。
イ被告マジックペンは,本件発明5の構成要件をすべて充足するから,本件5
発明5の技術的範囲に属する。
構成要件A5については,被告媒体は,本件発明4の構成要件全てを充
足するから,これを充足する。
構成要件B5については,被告マジックペンはドットパターンを撮影
する手段を有し,構成要件C5については,被告マジックペンの「ドット10
解析用CPU」の構成は上記構成c5のとおりであり,「情報ドットを抽
出する手段」に相当する。
構成要件D5については,被告マジックペンの「ドット解析用CPU」
の構成は上記構成d5のとおりであり,「ドットパターンの向きを認識す
る手段」に相当する。15
構成要件E5については,被告マジックペンの「ドット解析用CPU」
の構成は上記構成e5のとおりであり,「ドットパターンの定義するデー
タ内容を解析する手段」に相当する。
構成要件F5については,被告マジックペンの「マイクロSDカード」
の構成は上記f5のとおりであり,「記憶手段」に相当する。20
構成要件G5については,被告マジックペンの「音声再生用CPU及び
スピーカー」の構成は上記g5のとおりであり,「出力手段」に相当する。
(被告らの主張)
ア被告マジックペンの構成
被告マジックペンの構成は,前記⑴イの被告らの主張で述べたとおりであ25
る。
イ本件発明5はその構成要件の主要な要素が本件発明3と共通であること
から,被告ドットパターンの情報定義方法が本件発明3の構成要件を充足し
ない以上,被告マジックペンも本件発明5の構成要件を充足しない。
構成要件A5については,被告媒体が本件発明4の構成要件を充足し
ないため,充足しない。5
構成要件C5については,被告ドットパターンは,仮想的に設定された
ラインやそれらの格子点を設定しておらず,格子点からのずれ方でデー
タ内容を定義するものではないから,充足しない。
構成要件D5については,被告ドットパターンにおいては,ドット(6)
の本来の位置という概念は存在しないから,充足しない。10
構成要件E5については,被告ドットパターンは構成要件B5及びC
5記載のデータ定義方法によって定義されていないため,被告マジック
ペンのドット解析用CPUは「該ドットの配置にしたがって該ドットパ
ターンの定義するデータ内容を解析する手段」に該当しない。
構成要件F5については,被告ドットパターンは構成要件B5及びC15
5記載のデータ定義方法によって定義されておらず,構成要件B5及び
C5のドットパターンが定義するデータ内容に対応した情報を記憶する
ことはないので,被告マジックペンの「マイクロSDカード」は,「該デ
ータ内容に対応した情報を記憶する記憶手段」に該当しない。
構成要件G5については,被告ドットパターンは構成要件B5及びC20
5記載のデータ定義方法によって定義されておらず,構成要件B5及び
C5のドットパターンが定義するデータ内容に対応した情報を出力する
ことはないので,被告マジックペンの「音声再生用CPU及びスピーカー」
は,「該データ内容に対応した情報を出力する出力手段」に該当しない。
⑺実施可能要件に違反しているか(争点4-1)25
(被告らの主張)
本件明細書1〜4の発明の詳細な説明の記載は,以下に述べるとおり,
当業者が本件発明1~5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記
載したものであるとはいうことができないから,本件発明1~5に係る本件特
許1~4は特許法36条4項1号に違反する。
ア本件明細書1~4において,【0184】~【0202】Ⅰ,【0228】5
~【0246】Ⅱ,【0230】~【0248】Ⅲ,【0224】~【024
2】Ⅳ及び図103~図106の記載からは,「格子領域」「格子ブロック」
「格子ブロック群」を互いに矛盾なく定義することができず,その結果,「情
報ドット」についても正しく定義することができない。
イ本件明細書1及び2には,「第一方向ライン」及び「第二方向ライン」を10
ドットパターンのみから一義的に導き出せることが記載されていない。ドッ
トが直線状に配置されていることを検出することによって,そのドットを通
る直線を検出することは周知技術であるが,図2の「第一方向ライン603」
「第二方向ライン604」上では,その格子点からずれた位置に「ドット6
05」が配置されているから,「ドット605」の配置から「第一方向ライ15
ン603」「第二方向ライン604」を検出することもできない。したがっ
て,その記載から本件発明1及び2を実施することはできない。
ウ本件発明3~5は,図6において,垂直ライン上のドットが水平ラインを
構成するドットを含めて2ドットしかないドットパターンも含むところ,こ
の水平ラインを構成するドットからスタートして次の点であるドットが右20
にずれていた場合,上下の水平ラインを構成するドットから数えていずれも
1つ目であるから,【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳ「ライン上にないことか
ら上下方向を認識する」ことができない。本件明細書3,4の発明の詳細な
説明には,このような場合にどのように対処するか記載されていないから,
「上下方向を認識する」との課題を実現できず,本件発明3~5を実施する25
ことはできない。
エ本件発明1及び2は「情報ドットを…どの程度ずらすかによってデータ内
容を定義し」(構成要件B1,G2),本件発明3~5は「該格子点からのず
れ方でデータ内容が定義された情報ドット」(構成要件C3,D4,C5)
を要件とするところ,図103~図106は「格子点からのずれ方」を記載
したものではなく,図5~図8については点線で囲われた領域内の10個以5
上のドットが全体として情報を表現するものであり,いずれも上記構成に対
応しておらず,実施態様・実施例が示されておらず,本件発明1~5を実施
することはできない。
オ本件発明3及び4は「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味
している」,本件発明5は「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを10
認識する」との構成を有するところ,【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳには,
「次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことから」との記載からも明
らかなとおり,ドットがライン上にあるか否かの説明しかなく,ドットがラ
インの右にあっても左にあってもライン上にないことは同じであるから,
「ずらし方」を因果関係として向きの情報を表現しているとの上記構成に対15
応しておらず,実施態様・実施例が示されておらず,本件発明3~5を実施
することはできない。
原告が指摘する【0239】Ⅲ,【0233】Ⅳの記載は,図103~図
106に対応するものであり,これらは,前記エで述べたとおり,本件発明
3~5の実施例ではない。20
(原告の主張)
ア本件訂正をした後の記載によれば,「格子領域」「格子ブロック」「格子ブ
ロック群」について矛盾なく定義することができるから,被告らの前記アの
主張には理由がない。
イ当業者は【0017】Ⅰ,【0021】Ⅰ,【0025】Ⅰ,【0026】Ⅰ25
及び図6を参照することで,ドットパターンのみから「第一方向ライン」及
び「第二方向ライン」を導き出すことができるから,被告らの前記イの主張
には理由がない。
ウ【0239】Ⅲ,【0240】Ⅲ,【0233】Ⅳ,【0234】Ⅳ,図10
5,図106(d),図8には,ドットをずらす方向で,向きを定義し,認識
できることが示されているから,被告が前記ウで示す場合であっても,ドッ5
トをずらす方向で向きを定義することにより,ドットパターンの向き(上下
方向)を認識することができる。
エ図5~図8の点線で囲われた領域内のそれぞれのドットが,格子点からの
ずれ方でデータ内容が定義された情報ドットであることには変わりないし,
図5~図8を含む実施例と図103~106を含む実施例は,同一の課題を10
解決するために互いに組み合わせ可能である。したがって,本件明細書1~
4には構成要件B1,G2,C3,D4,C5に対応する実施態様が記載さ
れており,被告らの前記エの主張には理由がない。
オ【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳの記載は,明細書の一文にすぎず,本件発
明3~5はこれらを包含するものの,この記載に限定されるわけではない。15
【0239】Ⅲ,【0240】Ⅲ,【0233】Ⅳ,【0234】Ⅳ及び図10
5,図106(b),図8には,キードット等のずらし方を一定の方向とす
ることで,ドットパターンの向きを意味しているから,本件明細書3,4に
は,本件発明3~5の実施態様が記載されており,被告らの前記オの主張に
は理由がない。20
⑻補正要件に違反しているか(争点4-2)
(被告らの主張)
本件特許1について平成21年6月15日付けでした補正(以下「本件補正
1」という。),本件特許2について平成23年6月30日付けでした補正(以
下「本件補正2」という。)は,本件特許1及び2の出願の願書に最初に添付し25
た明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたも
のではないから,特許法17条の2第3項に違反する。
ア補正後の構成要件B1・G2は,【0184】~【0202】Ⅰ,【022
8】~【0246】Ⅱ及び図103~図106に記載される実施例に対応し,
補正後の構成要件C1・H2は,図5~図8に記載される実施例に対応する。
そして,図103~図105の実施例と図5~図8の実施例は,「情報ドッ5
ト」「格子線」「格子ドットLD」「キードットKD」「格子領域」「格子ブロ
ック」「格子ブロック群」といった基本的部分で互いに相違し,両発明を組
み合わせることは当業者に自明であるとはいえないから,補正後の本件発明
1及び2は,出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面
に記載した事項の範囲内のものではない。10
イ補正後の本件発明1の構成要件C1及び本件発明2の構成要件H2「前記
情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように」という点も,図
5~図8の実施例に記載されておらず,出願の願書に最初に添付した明細書,
特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。
(原告の主張)15
ア図103~図106の実施例と図5~8の実施例は,極小領域であっても
コード情報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提案するという
共通の課題を解決するための異なる実施例であり,共通の課題を解決するた
めの解決手段が,専門家であれば選択可能な2つの変形例として記載されて
いるのであるから,これらを組み合わせることは当業者には自明の範囲のも20
のである。
図6の実施例における情報ドットと図103〜106の実施例における
情報ドットは,ずらされる方向が90°ごとか,45°ごとかという違いし
かなく,相互に代替可能であるし,図103〜図106の実施例と図4〜図
8の実施例とは,いずれもずらすことでドットパターンの向きを意味すると25
いう同一の機能を有するドット(図105ではキードットKD)を有してお
り,相互に組み合わせることができない理由はない。
イ【0186】Ⅰ,【0025】Ⅰ,【0026】Ⅰ,【0230】Ⅱ及び図6
によれば,水平ライン・垂直ライン上の格子ドットが,情報ドットが配置さ
れる領域を囲んでいるから,本件明細書1及び2からは,「格子ドット」が
「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように」という構5
成は自明のものである。
⑼サポート要件に違反しているか(争点4-3)
(被告らの主張)
本件発明1及び2の「前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引い
た第一方向ライン」「該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の10
格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン」「前記縦方向の所定の格
子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交
差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方
向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置され
た」との点,及び,本件発明3~5の「ドット本体の位置からのずらし方」「ド15
ットパターンの向き」との点は,それぞれ,本件明細書1~4の発明の詳細な
説明に記載されたものではないから,本件発明1~5に係る本件特許1ない
し4は,いずれも特許法36条6項1号に違反する。
ア本件発明1及び2について,構成要件C1・H2の「前記縦方向の所定の
格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン」「該第一方向ラインと20
交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第
二方向ライン」との記載からは,本件発明1及び2のドットパターンにおい
ては「第一方向ライン」の間に「縦方向の所定の格子点間隔」があり,また,
「第二方向ライン」の間に「横方向の所定の格子点間隔」がある必要があり,
複数の「第一方向ライン」「第二方向ライン」が存在するはずである。しか25
し,【0017】Ⅰ,【0021】Ⅰ,【0061】Ⅱ,【0065】Ⅱには,
1つのドットパターンの中に複数の「第一方向ライン」「第二方向ライン」
が存在することは記載されておらず,図2にも「第一方向ライン603」「第
二方向ライン604」と考えられるものは一つずつしか存在しない。
イ本件発明1及び2について,構成要件C1・H2の「前記縦方向の所定の
格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ライン5
と交差するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた
第二方向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが
配置された」との記載からすれば,本件発明1及び2の「第一方向ライン」
「第二方向ライン」の上に存在する「格子点」には「格子ドット」が配置さ
れている必要がある。しかしながら,【0017】Ⅰ及び【0061】Ⅱに10
は「ドット605」が格子点上に配置されることの明示は無く,また同段落
における「ドット605」は「格子ドット」ではなく「情報ドット」に相当
すべきものである上,図2は「第一方向ライン603」「第二方向ライン6
04」上の「格子点」からずれた位置のみに「ドット605」が配置されて
いるから,「該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置された」もの15
ではない。
ウ本件発明3~5について,構成要件D3・E4・D5「ずらし方によって
前記ドットパターンの向きを意味している」「ずれ方によって,前記ドット
パターン」の各構成につき,本件明細書3及び4において説明する段落は【0
072】Ⅲ,【0066】Ⅳのみであるところ,同段落で用いられる「上下20
方向」という用語は「左右方向」との概念を含まない上,前記⑺オの被告ら
の主張で述べたとおり,「ずらし方」を因果関係として向きの情報を表現し
ているとの上記各構成について記載するものではない。
さらに,【0237】Ⅲ,【0238】Ⅲ,【0231】Ⅳ,【0232】Ⅳ
及び図104,図105におけるキードットKDは,データ領域の範囲を定25
義するためのドットであるから,ずらし方によってドットパターンの向きを
意味するものではない。たとえキードットKDがドットパターンの向きを意
味するとしても,図104,図105に示される実施例は,本件発明3~5
における情報ドットを有していないから,同実施例に係る構成を図5~図8
の実施例に適用することはできない。
エ本件発明3~5について,構成要件D3・E4・D5が解決しようとする5
課題は「上下方向を認識する」ことにあるところ,図6において「一般コー
ドフラグ」とされるドットが本来の位置であるライン上に戻り,その下のド
ットが右にずれた場合,「ライン上にない」ドットは上下の水平ラインを構
成するドットから数えていずれも2つ目であるから,「ライン上にないこと
から上下方向を認識する」ことができない。本件発明3~5は,このような10
状態を含むものであるから,発明の課題を解決する手段が反映されていない。
オ本件発明1~5について,本件明細書1~4には,前記⑺ウないしオの被
告らの主張で述べたとおり,本件発明1及び2「情報ドットを…どの程度ず
らすかによってデータ内容を定義し」,本件発明3~5「当格子点からのず
れ方でデータ内容が定義された情報ドット」,「ずらし方によって前記ドット15
パターンの向きを意味している」の構成に対応する実施態様・実施例が開示
されていない。
(原告の主張)
ア被告らが挙げる【0017】Ⅰ,【0021】,【0061】Ⅱ,【0065】
Ⅱ及び図2は,本件発明1及び2の一実施例にすぎず,本件明細書1及び220
において複数の「第一方向ライン」「第二方向ライン」を導き出せることは,
【0025】Ⅰ,【0026】Ⅰ,【0069】Ⅱ,【0070】Ⅱ及び図6の
とおりであるから,被告らの上記アの主張には理由がない。
イ前記アと同様に,【0025】Ⅰ,【0026】Ⅰ,【0069】Ⅱ,【00
70】Ⅱ及び図6には,第一方向ラインと第二方向ラインの複数の格子点上25
に格子ドットが配置された構成が開示されているから,被告らの上記イの主
張には理由がない。
ウ【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳには上下方向の特定しか記載されていな
いが,上下方向が認識できれば左右方向も認識できるのは自明であるから,
同段落にはドットパターンの向きを認識できることが記載されている。また,
「ずらし方」について,図103~図106の実施例と図5~図8の実施例5
とは,共通の課題解決するための異なる実施例であり,これらを組み合わせ
ることは当業者には自明の範囲のものであるところ,【0234】Ⅲ,【02
39】Ⅲには「ずらし方」が例示されている。
したがって,被告らの上記ウの主張には理由がない。
エ前記⑺ウで述べたとおり,ドットをずらす方向で向きを定義することによ10
り,ドットパターンの向き(上下方向)を認識することができるから,被告
らの上記エの主張には理由がない。
オ前記⑺エ及びオで述べたとおり,本件明細書1~4には本件発明1~5に
係る実施態様・実施例が開示されているから,被告らの上記オの主張には理
由がない。15
⑽明確性要件に違反しているか(争点4-4)
以下のとおり,本件発明1~5は明確でないから,本件発明1~5に係る本
件特許1~4は特許法36条6項2号に違反する。
(被告らの主張)
ア本件発明2の構成要件A2は,光学読取手段が採用する読取アルゴリズム20
としては各種のものが想定できるから「媒体表面に印刷され,所定の配置法
則で印刷された所定のドットパターンを読み取る光学読取手段」が具体的に
どのような構成をしているのか一義的に定まらない。また,構成要件F2・
G2・H2の記載は,「ドットパターン」との用語を含む構成要件B2・D
2を限定するのか否か,限定するとすればどのように限定しているのかが明25
らかではない。
イ本件発明5の構成要件B5~G5に記載された内容は,それぞれ各種のも
のが想定できるから,明確ではない。
ウ本件発明1及び2の構成要件B1・C1・G2・H2には「縦横方向」「縦
方向」「横方向」「水平方向」「垂直方向」という表現,本件発明3~5には
「水平方向」「垂直方向」「垂直ライン」「水平ライン」という表現をそれぞ5
れ用いた記載があるが,ドットパターン自体には「縦」「横」や「水平」「垂
直」という概念を含んでいないし,これらの概念を導き出すこともできない。
また,本件発明1及び2で用いられる「縦」と「垂直」,「横」と「水平」そ
れぞれの意味がどのようなものであり,互いにどのように異なるのかについ
ては,全く明らかではない。10
エ本件発明1及び2における「格子線」「格子点」は仮想のものであり,幾
何学での「線」「点」の定義によれば,「格子線」は幅を持たず,「格子点」は
大きさを持たないものと解釈すべきものであるから,構成要件B1・G2の
「格子点の中心」はどのような技術的意味を有しているのか明らかではない。
オ本件発明1及び2における「情報ドット」は「格子点の中心」のからずれ15
た位置に存在するものであるところ,ドットパターンに含まれる「情報ドッ
ト」のみをみた場合には,その「情報ドット」が位置する座標を導き出すこ
とができたとしても,それがずれたものであるか否か,ずれたものであると
して,ずれる前の位置はどこかを導き出すことはできないから,「格子点の
中心」を導き出すことはできない。そして,「格子点の中心」が導き出せな20
ければ,「格子点」「格子線」も導き出すことができない。また,「格子点の
中心」が導き出せたとしても,これが一つだけである場合には,その「格子
点」を通る「格子線」は無数に存在することとなるから,「格子線」が「縦横
方向に等間隔に設けられた」ものであることも確認できず,「格子点を中心
に」情報ドットをずらしたものであるか否かも確認することはできない。25
カ本件発明1及び2の構成要件B1・G2は,①前記オのとおり「情報ドッ
ト」のみをみた場合,それがずれたものであるか否か判別できないため,「等
距離で45°ずつずらした」か否か判断できないこと,②ドットパターンが
一つだけしか存在しない場合には「等距離で45°ずつずらした」か否か判
断できないこと,③「等距離で」は「45°ずつずらした」にかかるのか,
「どの程度ずらすか」にかかるのか不明であること,④「等距離」と「45
5°」という用語は,一方は長さ,他方は角度という,極座標系では直
交し対立する概念であるが,この一つの「ずらす」という動詞で直交す
る概念の双方に対し「ずらす」という概念を表現していると解釈してい
るのは技術的に不自然であることから,明確ではない。
キ本件発明1及び2の構成要件C1・H2の「所定の格子点間隔」とい10
う表現は,「格子点間隔」の整数倍という意味か,単に「格子点間隔」そ
のものを指しているのか,それら以外の何かを表現しようとしているの
か,明らかではない。また,「所定の格子点間隔」が2回用いられている
ことについて,それぞれ同じ間隔を表現しているのか,異なる間隔を表
現しているのか,いずれでもよいのか明らかではない。15
ク本件発明3~5の「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドット」
(構成要件A3・B4・C5)と「前記水平方向に配置されたドットの
端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置された
ドット」(構成要件B3・C4)における「所定個数」とは「水平方向に
配置されたドット」「垂直方向に配置されたドット」双方で同じ個数とな20
ることを表しているのか明らかではない。また,「前記水平方向に配置さ
れたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向
に配置されたドット」における「所定個数」とは「前記水平方向に配置
されたドットの端点に位置する当該ドット」を含んだ数を指しているの
か否か明らかではない。25
ケ本件発明3~5において「当該ドット本来の位置から」ずらされてい
る「垂直方向に配置されたドットの1つ」(構成要件D3・E4・D5)
は,その直上や直下のドットとの間隔がずらされている分だけ変化する
ことから,「等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」となること
はありえないから,「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する
当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」という5
点と,「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位
置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」
という点は互いに矛盾している。
(原告の主張)
ア本件発明2は,「所定の配置法則で印刷された所定のドットパターンを読10
み取る光学読取手段」(構成要件A2)により,所定のドットパターンと光
学読取手段とが明確に対応付けられ,「予め所定の音声情報をドットパター
ンと関連づけた参照テーブル」(構成要件B2)により,ドットパターンと
参照テーブルとが対応付けられ,「前記光学読取手段によって前記ドットパ
ターンが読み取られたときに,前記参照テーブルを参照して前記音声記憶手15
段から当該ドットパターンに関連付けられた音声情報を読み出して出力す
る音声出力手段」(構成要件D2)という限定によって,「所定の配置法則で
印刷された所定のドットパターンが読み取られたとき」の処理が明確に限定
されている。その上で,構成要件F2~H2によってドットパターンが限定
され,ドットパターンによって光学読取手段が明確に特定されるから,被告20
らの上記アの主張には理由がない。
イ本件発明5においても,「該媒体のドットパターンを撮影する手段」(構成
要件B5),「等間隔に所定個数,所定方向に配置されたドットを…データ内
容が定義された情報ドットを抽出する手段」(構成要件C5),「前記垂直方
向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の位置からのずれ方25
によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構成要件D5),「該
ドットの配置にしたがって該ドットパターンの定義するデータ内容を解析
する手段」がいずれもドットパターンとの関係を限定されており,ドットパ
ターンによって各手段が明確に特定されているから,被告らの上記イの主張
には理由がない。
ウ本件発明1~5において,「縦」「横」や「水平」「垂直」という概念を用い5
て,ドットパターンを規定することは,当該技術分野の技術水準からして不
明なものではないし,「縦」と「垂直」,「横」と「水平」それぞれの意味は同
義であるから,被告らの上記ウの主張には理由がない。
エ「格子点の中心」の意味は,前記⑴エで述べたとおり明確であるから,被
告らの上記エの主張には理由がない。10
オ本件発明1の構成要件B1の記載内容によれば,「縦横方向に等間隔に設
けられた格子線」は複数であること,格子線の交点も複数あることは当然で
あり,複数の情報ドットが存在するから,ドットパターンが「情報ドット」
を1つだけ含む場合を想定することはできず,これを前提とする被告らの上
記オの主張には理由がない。15
カ①例えば本件発明1の構成要件B1に示されるように,「情報ドット」の
ずれる前の位置は格子線の交点である格子点であるから,ずれる前の位置は
どの位置であるかを導き出せること,②前記で述べたとおり,本件発明1の
構成からドットパターンが「情報ドット」を一つだけ含むことはないこと,
③「等距離で」はその直後の「45°ずつずらした」にかかるものであり,20
読点によって区切られた後の「どの程度ずらすか」にかかるものではないこ
とは明らかであることから,被告らの上記カの主張には理由がない。
キ「所定の」とは,その文言のとおり「定まっていること」であり,「所定の
格子点間隔」とは構成要件C1で示されるように第一方向ライン及び該第一
方向ラインと交差する第二方向ラインにおけるものであり,いずれも不明確25
ではないから,被告らの上記キの主張には理由がない。
ク本件発明3~5の「所定個数」は,「水平方向に配置されたドット」「垂直
方向に配置されたドット」双方で同じ個数となる必要はなく,限定はない。
また,「水平方向」と「垂直方向」とは向きが異なるから,これらが双方で
同じ個数となる否かで,上記各発明が不明確となるものでもない。また,「所
定個数」自体が特定の数値に限定されない個数を表しているから,「前記水5
平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定
個数垂直方向に配置されたドット」における「所定個数」が「前記水平方向
に配置されたドットの端点に位置する当該ドット」を含んだ数を指すか否か
を明確にする必要はないから,被告らの上記クの主張には理由がない。
ケ「前記水平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間10
隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」における「等間隔」とは,「等
間隔に」「垂直方向に配置され」たドットを意味するから,水平方向にずれ
ているドットが存在していても,「等間隔に所定個数垂直方向に配置された
ドット」といえるから,被告らの上記ケの主張には理由がない。
⑾進歩性を欠いているか(争点4-5)15
(被告らの主張)
ア優先権主張について
本件特許1~4に係る出願は,平成14年9月26日に出願された特願2
002-281815号(以下「本件基礎出願1」という。),平成14年1
0月4日に出願された特願2002-292907号(以下「本件基礎出願20
2」という。),平成14年12月27日に出願された特願2002-380
503号(以下「本件基礎出願3」という。),特願2002-380932
号(以下「本件基礎出願4」という。),及び特願2002-381743号
(以下「本件基礎出願5」という。)を基礎とする優先権を主張する出願で
ある。しかし,本件基礎出願1~5に最初に添付した明細書,特許請求の範25
囲又は図面には,図103~図106の実施例に対応する記載は存在しない。
したがって,本件発明1~5の新規性,進歩性の判断が,本件基礎出願1
~5の出願日を基準としてされることはない。
なお,本件特許1~4に係る出願の原出願は,特願2005-50195
4号(出願日平成15年9月26日。以下「本件原出願」という。本件特
許1~4に係る出願と本件原出願との関係は後記イのとおり。)である。5
イ出願日の遡及について
本件特許1に係る出願(特願2008-223887号)は,本件原出願
から数えて第3世代に当たる特願2008-177416号(以下「第3世
代出願」という。)の一部を分割したものであり,第3世代出願は特願20
07-026471号(以下「第2世代出願」という。)を分割したもので10
あり,第2世代出願は特願2006-261555号(以下「第1世代出願」
という。)を分割したものであり,第1世代出願は本件原出願を分割したも
のである。
また本件特許2に係る出願(特願2010-267198号)は,特願2
010-254460号(以下「第4世代出願」という。)を分割したもの15
であり,第4世代出願は第3世代出願を,第3世代出願は第2世代出願を,
第2世代出願は第1世代出願を,第1世代出願は本件原出願をそれぞれ分割
したものである。
また本件特許3に係る出願(特願2011-041190号)は,本件特
許2に係る出願を分割したものである。20
また本件特許4に係る出願(特願2012-218687号)は,特願2
012-039515号(以下「第8世代出願」という。)を分割したもの
であり,第8世代出願は特願2011-180881号(以下「第7世代出
願」という。)を分割したものであり,第7世代出願は本件特許3に係る出
願を分割したものである。25
【0002】~【0013】Ⅰ,【0002】~【0056】Ⅱ,【00
02】~【0058】Ⅲ,【0002】~【0052】Ⅳにそれぞれ記載
された事項は,第2世代出願の明細書,特許請求の範囲及び図面に記載さ
れた事項の範囲内であるとはいえず,本件特許1~4に係る出願は特許
法44条1項所定の分割要件を満たさない。したがって,本件発明1~5
の新規性,進歩性の判断の基準となるのは,本件特許1~4の現実の出願5
日であり,本件発明1につき平成20年9月1日,本件発明2につき平成
22年11月30日,本件発明3につき平成23年2月28日,本件発明
4,5につき平成24年9月28日である。
第7世代出願の明細書の【0002】~【0065】,第8世代出願の
明細書の【0002】~【0011】に記載されている事項は,いずれも10
第2世代出願の明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範
囲内であるとはいえず,特許法44条1項所定の分割要件を満たさない
から,第9世代出願の本件特許4に係る本件発明4,5の新規性,進歩性
の判断の基準となるのは,第7世代出願の出願日である平成23年8月
22日か,第8世代出願の出願日である平成24年2月27日である。15
本件特許1及び2に係る出願は,前記⑻(補正要件違反)で述べたのと
同じ理由により,本件特許1につき第3世代出願,本件特許2につき第4
世代出願の明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内
であるとはいえず,特許法44条1項所定の分割要件を満たさないから,
本件発明1,2の新規性,進歩性判断の基準となるのは,それぞれ本件特20
許1,2の現実の出願日である。
本件特許1~4に係る出願は,前記⑼(サポート要件違反)で述べたの
と同じ理由により,本件特許1につき第3世代出願,本件特許2につき第
4世代出願,本件特許3につき本件特許2に係る出願,本件特許4につき
第8世代出願の各明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項の25
範囲内であるとはいえず,特許法44条1項所定の分割要件を満たさな
いから,本件発明1の新規性,進歩性判断の基準となるのは本件特許1の
現実の出願日であり,本件発明2の新規性,進歩性判断の基準となるのは
本件特許2の現実の出願日であり,本件発明3の新規性,進歩性判断の基
準となるのは本件特許3の現実の出願日であり,本件発明4,5の新規性,
進歩性判断の基準となるのは本件特許4の現実の出願日である。5
本件特許3に係る出願は,本件特許2に係る出願を分割したものであ
るが,前のとおり,本件発明2の新規性,進歩性判断の基準となるの
は,本件特許2の現実の出願日である平成22年11月30日であるか
ら,本件特許3に係る本件発明3の新規性,進歩性判断の基準となるのも
同日である。また,本件特許4は,本件特許2及び3に係る出願をさらに10
複数回分割したものであるが,前記のとおり,本件特許2及び本件特許
3に係る発明の新規性,進歩性の判断の基準となるのは,それぞれの特許
の現実の出願日である平成22年11月30日,平成23年2月28日
であるから,本件特許4に係る本件発明4,5の新規性,進歩性判断の基
準となるのは,それらの日である。15
ウ各引用発明の認定
平成10年12月8日に公開された特開平10-326331号公報
(丙5。以下「丙5公報」という。)には,音声情報,映像情報又はデジ
タルコードデータ等を含む情報が光学的に読み取り可能なコードパター
ンとして紙等の記録媒体に記録されるドットコード1であって,所定単20
位のドットの集合からなるブロック2を二次元マトリクス状に隣接配置
したブロック群で構成され,ブロック2は,変調処理の施された情報デー
タの各ビット値がその値に対応するドットで配列された複数のデータド
ット7を有するデータドットパターン部3と,データドットパターン部
3の4隅に配置された,ブロックの認識に利用するマーカ5と,第1の方25
向に隣接するマーカ5の間に配置されたマッチングドットパターン部6
と,第2の方向に隣接するマーカ5の間に配置されているブロックヘッ
ダ部4と,互に直交し格子状の,第1の方向・第2の方向の複数の仮想直
線とを有し,データドットパターン部3に存在する格子状の第1の方向・
第2の方向の複数の仮想直線は互いに等間隔であり,マッチングドット
パターン部6と,ブロックヘッダ部4は,データドットパターン部3を囲5
むものであり,データドットパターン部3には,格子状の第1の方向・第
2の方向の複数の仮想直線の交点上のみにデータドット7が配置され,
マッチングドットパターン部6には,第1の方向の仮想直線と第2の方
向の仮想直線の交点に一つとばしでドットが等間隔で配列され,ブロッ
クヘッダ部4には,第1の方向の仮想直線と第2の方向の仮想直線の交10
点上にドットが配置され,マッチングドットパターン部6とブロックヘ
ッダ部4には,ドットが異なるように配置されており,第2の方向に読み
取られる,ことを特徴とする,音声情報,映像情報又はデジタルコードデ
ータ等を含む情報が光学的に読み取り可能なコードパターンとして紙等
の記録媒体に記録されるドットコード1の発明(以下「丙5発明A」とい15
う。)が記載されている。
また,丙5公報には,音声情報,映像情報又はデジタルコードデータ等
を含む情報が光学的に読み取り可能なコードパターンとして紙等の記録
媒体に記録されるドットコード1として記録されたマルチメディア情報
を読み取るコード読取装置であって,前記コード読取装置は,紙等の記録20
媒体に記録されるドットコード1の画像を撮像するための検出部12と,
この検出部12から供給される画像データをドットコード画像として認
識しノーマライズを行う走査変換部13と,データ列の調整や変調テー
ブル19を参照して復調処理を行うデータ列調整部14と,再生時の読
み取りエラーやデータエラーを訂正するエラー訂正部15と,データを25
それぞれの属性に応じたデータ圧縮処理に対応する伸長処理を行う再生
処理部16と,これら各部を制御するコントローラ17と,スピーカやモ
ニタ等のマルチメディア情報が出力される出力装置18とを有し,音声
情報,映像情報又はデジタルコードデータ等を含む情報が光学的に読み
取り可能なコードパターンとして紙等の記録媒体に記録されるドットコ
ード1は,所定単位のドットの集合からなるブロック2を二次元マトリ5
クス状に隣接配置したブロック群で構成され,ブロック2は,変調処理の
施された情報データの各ビット値がその値に対応するドットで配列され
た複数のデータドット7を有するデータドットパターン部3と,データ
ドットパターン部3の4隅に配置された,ブロックの認識に利用するマ
ーカ5と,第1の方向に隣接するマーカ5の間に配置されたマッチング10
ドットパターン部6と,第2の方向に隣接するマーカ5の間に配置され
ているブロックヘッダ部4と,互に直交し格子状の,第1の方向・第2の
方向の複数の仮想直線とを有し,データドットパターン部3に存在する
格子状の第1の方向・第2の方向の複数の仮想直線は互いに等間隔であ
り,マッチングドットパターン部6と,ブロックヘッダ部4は,データド15
ットパターン部3を囲むものであり,データドットパターン部3には,格
子状の第1の方向・第2の方向の複数の仮想直線の交点上のみにデータ
ドット7が配置され,マッチングドットパターン部6には,第1の方向の
仮想直線と第2の方向の仮想直線の交点に一つとばしでドットが等間隔
で配列され,ブロックヘッダ部4には,第1の方向の仮想直線と第2の方20
向の仮想直線の交点上にドットが配置され,マッチングドットパターン
部6とブロックヘッダ部4には,ドットが異なるように配置されており,
第2の方向に読み取られる,ことを特徴とする,音声情報,映像情報又は
デジタルコードデータ等を含む情報が光学的に読み取り可能なコードパ
ターンとして紙等の記録媒体に記録されるドットコード1として記録さ25
れたマルチメディア情報を読み取るコード読取装置の発明(以下「丙5発
明B」という。)が記載されている。
平成14年7月11日に公開された米国特許出願公開第2002-0
91711号明細書(丙6)には,光学的に読み取り可能な位置コードパ
ターンであって,表面上の位置を決定する装置によって直接検出するこ
ともできない仮想ラスタ線A8と,仮想ラスタ線A8の交点によって表5
されるラスタ点A6と,円形のドットの形状をしているマークA7とを
有し,表面上の位置を決定する装置によって直接検出することもできな
い仮想ラスタ線A8は直交グリッドを構成し,円形のドットの形状をし
ているマークA7は,円形のドットの形状をしているマークA7が,仮想
ラスタ線A8の交点によって表されるラスタ点A6に対してどこに位置10
するかという変位に依存してマークA7の値を表現するものであり,円
形のドットの形状をしているマークA7は,仮想ラスタ線A8の交点に
よって表されるラスタ点A6から伸びる各ラスタライン上にある4つの
可能な位置と,正方形のラスタパターンの別個の四分円内の4つの可能
な位置の8方向に変位し,仮想ラスタ線A8の交点によって表されるラ15
スタ点A6からの変位は,すべての値で同じサイズであり,互に45度ず
つずらされている,ことを特徴とする光学的に読み取り可能な位置コー
ドパターンの発明(以下「丙6発明」という。)が記載されている。
平成3年2月19日に公開された特開平03-038791号公報
(丙7)には,マトリクスに配列された内部のデータセル14を備えたデ20
ータフィールド12と,前記データフィールド12に隣接した境界線1
6と,を備えることを特徴とする機械により効率よく読取ることができ
るシンボル10において,前記境界線16の外側又は内側に方向付け用
セル120をさらに含み,前記方向付け用セル120はシンボルの3次
元方向を規定し,シンボル10が撮像装置40のイメージ面に正確に配25
されているような状況においては,前記データフィールド12の2つの
側94と96にそれぞれ1本の境界線16を配するのに対し,そうでは
ない場合には,境界線16を,データフィールド12の四方を囲むように
境界線16を配する,ことを特徴とする,機械により効率よく読取ること
ができるシンボル10の発明(以下「丙7発明」という。)が記載されて
いる。5
昭和60年6月14日に公開された特開昭60-108894号公報
(丙8)には,マイクロプロセッサなどを用いる制御部2,必要な音声の
データ(またにパラメータ)を内蔵しているROM4,ROM4からの音
声データを音声に変換する音声合成回路を有する音声合成装置において,
前記マイクロプロセッサなどを用いる制御部2は,外部からの2値信号10
5を受け取り,内部に有する外部コード-ROMアドレス変換テーブル
から所望の音声単語(または文章)のデータが格納されているROM4の
先頭アドレスを得,この先頭アドレスをROM4に出力する,音声合成装
置の発明(以下「丙8発明」という。)が記載されている。
平成15年7月16日に公開された英国特許出願公開第23840915
4号明細書(丙9。以下「丙9明細書」という。)には,オブジェクトの
表面に書き添えられたもしくは付された図形標識11であって,6×6
マトリックスの形式で36単位の状態領域113を含むコンテンツ情報
112と,直交する2つの腕を有するL字状の形状をし,L字状のそれぞ
れの腕に直線状に概略等間隔に連なるドットが含まれ,L字状のそれぞ20
れの腕に含まれるドット数が異なることによって,図形標識11の配向
を規定しているヘッダ情報111とを含み,各状態領域113は,第1又
は第2状態を表すために,選択的に1つのドットを含んだり,そのドット
を含まなかったりするものであり,第1状態の状態領域113に“1”の
値を割当てられ,第2状態の状態領域113に“0”の値を割当てられ,25
ヘッダ情報111のL字状のそれぞれの腕に直線状に概略等間隔に連な
るドットを通る直線の交点上に,各状態領域113に含まれるドットが
存在し,ヘッダ情報111のL字状のそれぞれの腕の一方を水平に,他方
を垂直に置くことができ,ヘッダ情報111のL字状のそれぞれの腕に
直線状に概略等間隔に連なるドットと,各状態領域113に含まれるド
ットを通る直線の一方を水平に,他方を垂直に置くことができる,オブジ5
ェクトの表面に書き添えられたもしくは付された図形標識11の発明
(以下「丙9発明A」という。)が記載されている。
また丙9明細書には,図形標識11を含むオブジェクトの表面から画
像を取り込む光学装置311と,画像から図形標識11を取り出し,図形
標識11に対応する追加情報を取得する処理装置312と,処理装置310
12から追加情報を取り出して,その追加情報を出力する出力装置31
3と,を含む,標識を利用する電子システム31であって,処理装置31
2が取得する追加情報は,英語で馬の発音等の音声情報や,馬の挿絵など
他の映像情報を含み,出力装置313は,音声情報をスピーカ3131で
出力し,また,表示パネル3132で映像情報を出力するものであり,図15
形標識11は,オブジェクトの表面に書き添えられたもしくは付された
ものであって,6×6マトリックスの形式で36単位の状態領域113
を含むコンテンツ情報112と,直交する2つの腕を有するL字状の形
状をし,L字状のそれぞれの腕に直線状に概略等間隔に連なるドットが
含まれ,L字状のそれぞれの腕に含まれるドット数が異なることによっ20
て,図形標識11の配向を規定しているヘッダ情報111とを含み,各状
態領域113は,第1又は第2状態を表すために,選択的に1つのドット
を含んだり,そのドットを含まなかったりするものであり,第1状態の状
態領域113に“1”の値を割当てられ,第2状態の状態領域113に“0”
の値を割当てられ,ヘッダ情報111のL字状のそれぞれの腕に直線状25
に概略等間隔に連なるドットを通る直線の交点上に,各状態領域113
に含まれるドットが存在し,ヘッダ情報111のL字状のそれぞれの腕
の一方を水平に,他方を垂直に置くことができ,ヘッダ情報111のL字
状のそれぞれの腕に直線状に概略等間隔に連なるドットと,各状態領域
113に含まれるドットを通る直線の一方を水平に,他方を垂直に置く
ことができる,図形標識11である,標識を利用する電子システム31の5
発明(以下「丙9発明B」という。)が記載されている。
平成19年11月1日に公開された特開2007-288756号公
報(丙10。以下「丙10公報」という。)には,物体表面上に形成され,
画像識別を利用して読み取ることができる画像インジケーター10であ
って,コンテンツデータ部12とヘッダー部14を含み,コンテンツデー10
タ部12は,9個のドット16で構成される9個の画像マイクロユニッ
トを含み,コンテンツデータ部12の占有エリアは9個の状態エリア1
8に区分され,3*3の平面2次元状態エリアのアレイを構成しており,
コンテンツデータ部12の状態エリア18は,4個のバーチャルエリア
に等分し,ドット16は選択的に右下方,左下方,左上方或いは右上方の15
バーチャルエリアに設置でき,ドット16が,横軸を0°とし反時計方向
が角度の正方向としたときに,右下方315°,左下方225°,左上方
135°,右上方45°の方向であって,状態エリア18の中心から一定
の距離の位置に置かれることにより,ビット値00,01,10或いは1
1を表すか,又は,8個のバーチャルエリアに区分し,ドット16が,状20
態エリア18の中心から等距離であって,横軸を0°とし反時計方向が
角度の正方向としたときに,右下方337.5°右下方292.5°,左
下方247.5°,左下方202.5°,左上方157.5°,左上方1
12.5°,右上方67.5°,右上方22.5°の方向であって,状態
エリア18の中心から一定の距離の位置に置かれることにより,ビット25
値000,001,010,011,100,101,110或いは11
1を表すことができ,ヘッダー部14は,コンテンツデータ部12を囲う
ようにL型分布に形成され,状態エリア18に区分され,ヘッダー部14
の各状態エリア18は,L型分布に形成されたヘッダー部14の腕にそ
れぞれ3個,L型分布に形成されたヘッダー部14の角の位置に1個の
計7個あるように配置することができ,ヘッダー部14の各状態エリア5
18は,1つのドットを含み,ヘッダー部14中の1つのドット16'の
位置は特定方向に偏移させ,その他のドット16の位置と変えることに
よって,画像インジケーター10のヘッダー部14を識別するだけで,そ
の画像インジケーター10に対する方向付けができ,ヘッダー部14中
の1つのドット16'が偏移される特定方向として,そのヘッダー部1410
中の1つのドット16'が含まれるL型分布に形成されたヘッダー部1
4の腕と直交する方向を選ぶことができ,L型分布に形成されたヘッダ
ー部14の各状態エリア18に含まれるドットを通るように,横方向と
縦方向に仮想的なラインを置くことができ,ヘッダー部14の各状態エ
リア18に含まれるドットは,互いに,水平方向又は垂直方向の少なくと15
も一方について一定の間隔に配置されており,水平方向及び/又は垂直
方向に複数繰返して配置できる,物体表面上に形成され,画像識別を利用
して読み取ることができる画像インジケーター10の発明(以下「丙10
発明A」という。)が記載されている。
また丙10公報には,光学デバイス112,プロセッサー114及び出20
力デバイス116を有し,画像識別ステップにより,その画像インジケー
ター10を読み取る電子システム110において,画像インジケーター
10は,物体表面上に形成され,画像識別を利用して読み取ることができ
るものであって,コンテンツデータ部12とヘッダー部14を含み,コン
テンツデータ部12は,9個のドット16で構成される9個の画像マイ25
クロユニットを含み,コンテンツデータ部12の占有エリアは9個の状
態エリア18に区分され,3*3の平面2次元状態エリアのアレイを構成
しており,コンテンツデータ部12の状態エリア18は,4個のバーチャ
ルエリアに等分し,ドット16は選択的に右下方,左下方,左上方或いは
右上方のバーチャルエリアに設置でき,ドット16が,横軸を0°とし反
時計方向が角度の正方向としたときに,右下方315°,左下方225°,5
左上方135°,右上方45°の方向であって,状態エリア18の中心か
ら一定の距離の位置に置かれることにより,ビット値00,01,10或
いは11を表すか,又は,8個のバーチャルエリアに区分し,ドット16
が,状態エリア18の中心から等距離であって,横軸を0°とし反時計方
向が角度の正方向としたときに,右下方337.5°右下方292.5°,10
左下方247.5°,左下方202.5°,左上方157.5°,左上方
112.5°,右上方67.5°,右上方22.5°の方向であって,状
態エリア18の中心から一定の距離の位置に置かれることにより,ビッ
ト値000,001,010,011,100,101,110或いは1
11を表すことができ,ヘッダー部14は,コンテンツデータ部12を囲15
うようにL型分布に形成され,状態エリア18に区分され,ヘッダー部1
4の各状態エリア18は,L型分布に形成されたヘッダー部14の腕に
それぞれ3個,L型分布に形成されたヘッダー部14の角の位置に1個
の計7個あるように配置することができ,ヘッダー部14の各状態エリ
ア18は,1つのドットを含み,ヘッダー部14中の1つのドット16'20
の位置は特定方向に偏移させ,その他のドット16の位置と変えること
によって,画像インジケーター10のヘッダー部14を識別するだけで,
その画像インジケーター10に対する方向付けができ,ヘッダー部14
中の1つのドット16'が偏移される特定方向として,そのヘッダー部1
4中の1つのドット16'が含まれるL型分布に形成されたヘッダー部25
14の腕と直交する方向を選ぶことができ,L型分布に形成されたヘッ
ダー部14の各状態エリア18に含まれるドットを通るように,横方向
と縦方向に仮想的なラインを置くことができ,ヘッダー部14の各状態
エリア18に含まれるドットは,互いに,水平方向又は垂直方向の少なく
とも一方について一定の間隔に配置されており,水平方向及び/又は垂
直方向に複数繰返して配置できる,物体表面上に形成され,画像識別を利5
用して読み取ることができる画像インジケーター10を読み取る電子シ
ステム110の発明(以下「丙10発明B」という。)。
平成18年7月6日に公開された国際公開第2006/070458
号公報(丙11。以下「丙11公報」という。)には,印刷物等の媒体面
の正方形または長方形の矩形領域をブロックとし,核ブロックの枠を構10
成する縦方向および横方向の直線を基準格子線1a~1dとして,該基
準格子線1a~1d上の所定間隔毎に仮想格子点4を設け,横方向の該
基準格子線1a,1b上に設けられた仮想格子点上に基準格子点ドット
2を配置し,該基準格子点ドット2同士および縦方向の仮想格子点同士
を結んだ直線を格子線3とし,格子線同士の交点を仮想格子点4とした15
ドットパターンであって,仮想格子点4を通過する格子線3を基準に時
計方向に45度ずつ8方向に情報ドットを配置することによって,合計
8通り(二進法で000~111,3ビット)の情報を定義でき,前記ブ
ロックを構成する基準格子点ドットの少なくとも1つが,仮想格子点か
らずれた位置に配置され,そのずれた向きによって当該ブロックの向き20
およびブロックの構成を定義されているキードットであり,前記キード
ットは,前記基準格子線1aと直交する方向にずらすことができ,前記ブ
ロックが任意の領域内に縦・横方向に連続して配置され,基準格子線1c,
1dの間に置かれる基準格子線1a,1b上の基準格子点ドット2は,基
準格子線1c,1dと基準格子線1a,1bの交点の上の基準格子点ドッ25
ト2も含めると5個ずつとすることができ,基準格子線1a,1bの間に
置かれる基準格子線1c,1d上の仮想格子点4に関連する情報ドット
5は,基準格子線1c,1dと基準格子線1a,1bの仮想格子点4上の
ものは基準格子点ドット2であるから除くと3個ずつないし4個ずつと
することができることを特徴とするドットパターンの発明(以下「丙11
発明A」という。)が記載されている。5
また丙11公報には,ドットパターンを画像情報として光学読み取り
手段で読み込んで,該ドットパターンを数値化して,該数値化情報に対応
する音声情報を記憶手段から読み出して出力する装置であって,前記ド
ットパターンは,印刷物等の媒体面の正方形または長方形の矩形領域を
ブロックとし,核ブロックの枠を構成する縦方向および横方向の直線を10
基準格子線1a~1dとして,該基準格子線1a~1d上の所定間隔毎
に仮想格子点4を設け,横方向の該基準格子線1a,1b上に設けられた
仮想格子点上に基準格子点ドット2を配置し,該基準格子点ドット2同
士および縦方向の仮想格子点同士を結んだ直線を格子線3とし,格子線
同士の交点を仮想格子点4としたドットパターンであって,仮想格子点15
4を通過する格子線3を基準に時計方向に45度ずつ8方向に情報ドッ
トを配置することによって,合計8通り(二進法で000~111,3ビ
ット)の情報を定義でき,前記ブロックを構成する基準格子点ドットの少
なくとも1つが,仮想格子点からずれた位置に配置され,そのずれた向き
によって当該ブロックの向きおよびブロックの構成を定義されているキ20
ードットであり,前記キードットは,前記基準格子線1aと直交する方向
にずらすことができ,前記ブロックが任意の領域内に縦・横方向に連続し
て配置される,基準格子線1c,1dの間に置かれる基準格子線1a,1
b上の基準格子点ドット2は,基準格子線1c,1dと基準格子線1a,
1bの交点の上の基準格子点ドット2も含めると5個ずつとすることが25
でき,基準格子線1a,1bの間に置かれる基準格子線1c,1d上の仮
想格子点4に関連する情報ドット5は,基準格子線1c,1dと基準格子
線1a,1bの仮想格子点4上のものは基準格子点ドット2であるから
除くと3個ずつないし4個ずつとすることができることを特徴とするド
ットパターンである装置の発明(以下「丙11発明B」という。)が記載
されている。5
平成16年4月8日に公開された国際公開第2004/029871
号公報(丙12)には,格子状に配置されたドットで構成されているドッ
トパターン部601であって,実際の印刷物上には存在しない縦横方向
の格子線と,格子ブロックの四隅(格子線の交点(格子点)上)に配置さ
れた格子ドットLDを有し,格子ドットLDと格子線は,縦方向と横方向10
に等間隔で並んでおり,ヘッダには当該ドットパターン部がコード情報
なのかXY座標なのかを定義するフラグを登録しておくことができ,格
子ドットLDのずれ方によって当該ドットパターン部がコード情報なの
かXY座標なのかを示すことを特徴とするドットパターン部601の発
明(以下「丙12発明」という。)が記載されている。15
エ分割出願の出願日が遡及し,優先権主張も認められる場合について
本件発明1
本件発明1と丙5発明Aの相違点は,①丙5発明Aは構成要件B1に
相当する構成を有さないこと(相違点1),②本件発明1の「第一方向」
は「水平方向」であり「第二方向」は「垂直方向」であり,また,「縦横20
方向」でもあるのに対し,丙5発明Aの「第1の方向」「第2の方向」は
「水平方向」「垂直方向」ないし「縦横方向」と限定されていない点(相
違点2)の2点であるところ,上記相違点は,丙5発明Aと丙6発明を組
み合わせることによって,当業者が容易に想到できた。
本件発明225
本件発明2と丙5発明Bの相違点は,①本件発明2は「予め所定の音声
情報をドットパターンと関連づけた参照テーブル」「前記音声情報が記憶
された音声記憶手段」「前記光学読取手段によって前記ドットパターンが
読み取られたときに,前記参照テーブルを参照して前記音声記憶手段か
ら当該ドットパターンに関連付けられた音声情報を読み出して出力する
音声出力手段」を有するのに対し,丙5発明Bは「データをそれぞれの属5
性に応じたデータ圧縮処理に対応する伸長処理を行う再生処理部16」
「スピーカやモニタ等のマルチメディア情報が出力される出力装置18」
を有するに留まる点(相違点3),②丙5発明Bは構成要件G2に相当す
る構成を有しないこと(相違点4),③本件発明2の「第一方向」は「水
平方向」であり「第二方向」は「垂直方向」であり,また,「縦横方向」10
でもあるのに対し,丙5発明Bの「第1の方向」「第2の方向」は「水平
方向」「垂直方向」ないし「縦横方向」と限定されていない点(相違点5)
の3点であるところ,上記相違点は,丙5発明B,丙8発明及び丙6発明
を組み合わせることによって,当業者が容易に想到できた。
本件発明315
本件発明3と丙5発明Aの相違点は,①本件発明3では「水平方向」「垂
直方向」と方向が限定されているのに対し,丙5発明Aの「第1の方向」
「第2の方向」とされているに留まる点(相違点6),②本件発明3は「該
格子点からのずれ方でデータ内容が定義され」するものであるのに対し,
丙5発明Aの「データドット7」は「変調処理の施された情報データの各20
ビット値がその値に対応するドットで配列され」るものであって「格子状
の第1の方向・第2の方向の複数の仮想直線の交点上のみ」に配置される
ものである点(相違点7)の2点であるところ,上記相違点は,丙5発明
Aと丙6発明を組み合わせることによって,当業者が容易に想到できた。
本件発明425
本件発明4と丙5発明Aの相違点は,①本件発明4では「水平方向」「垂
直方向」と方向が限定されているのに対し,丙5発明Aの「第1の方向」
「第2の方向」とされているに留まる点(相違点8),②本件発明4は「該
格子点からのずれ方でデータ内容が定義され」するものであるのに対し,
丙5発明Aの「データドット7」は「変調処理の施された情報データの各
ビット値がその値に対応するドットで配列され」るものであって「格子状5
の第1の方向・第2の方向の複数の仮想直線の交点上のみ」に配置される
ものである点(相違点9)の2点であるところ,上記相違点は,丙5発明
Aと丙6発明を組み合わせることによって,当事者が容易に想到できた。
本件発明5
本件発明5と丙5発明Bの相違点は,①本件発明5では「水平方向」「垂10
直方向」と方向が限定されているのに対し,丙5発明Bの「第1の方向」
「第2の方向」とされているに留まる点(相違点10),②本件発明4は
「該格子点からのずれ方でデータ内容が定義され」するものであるのに
対し,丙5発明Bの「データドット7」は「変調処理の施された情報デー
タの各ビット値がその値に対応するドットで配列され」るものであって15
「格子状の第1の方向・第2の方向の複数の仮想直線の交点上のみ」に配
置されるものである点(相違点11)の2点であるところ,上記相違点は,
丙5発明Bと丙6発明を組み合わせることによって,当事者が容易に想
到できた。
オ分割出願の出願日が遡及し,優先権主張は認められない場合について20
本件発明1
本件発明1と丙9発明Aの相違点は,①丙9発明Aは構成要件B1に
相当する構成を有さない点(相違点12),②丙9発明Aの「直交する2
つの腕を有するL字状の形状を」した「ヘッダ情報111」は「図形標識
11」毎に1つのみ存在するのに対し,本件発明1の「ドットパターン」25
の「第一方向ライン」「第二方向ライン」は,「前記縦方向の所定の格子点
間隔ごとに」ないし「前記横方向の所定の格子点間隔ごとに」複数存在し,
その結果として「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲
むように」存在する点(相違点13)の2点であるところ,上記相違点は,
丙9発明A,丙6発明及び丙7発明を組み合わせることによって,当業者
が容易に想到できた。5
本件発明2
本件発明2と丙9発明Bの相違点は,①丙9発明Bは構成要件B2,C
2及びD2に相当する構成を有しておらず,「データをそれぞれの属性に
応じたデータ圧縮処理に対応する伸長処理を行う再生処理部16」「スピ
ーカやモニタ等のマルチメディア情報が出力される出力装置18」を有10
するに留まる点(相違点14),②丙9発明Bは構成要件G2に相当する
構成を有していない点(相違点15),③丙9発明Bの「直交する2つの
腕を有するL字状の形状を」した「ヘッダ情報111」は「図形標識11」
毎に1つのみ存在するのに対し,本件発明2の「ドットパターン」の「第
一方向ライン」「第二方向ライン」は,「前記縦方向の所定の格子点間隔ご15
とに」ないし「前記横方向の所定の格子点間隔ごとに」複数存在し,その
結果として「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むよ
うに」存在する点(相違点16)の3点であるところ,上記相違点は,丙
9発明B,丙8発明,丙6発明及び丙7発明を組み合わせることによって,
当業者が容易に想到できた。20
本件発明3
本件発明3と丙9発明Aの相違点は,①本件発明3は「該格子点からの
ずれ方でデータ内容が定義され」するものであるのに対し,丙9発明Aの
「各状態領域113は,第1又は第2状態を表すために,選択的に1つの
ドットを含んだり,そのドットを含まなかったりするもの」である点(相25
違点17),②本件発明3は「当該ドット本来の位置からのずらし方によ
って」ドットパターンの向きを意味しているのに対し,丙9発明Aでは,
そのドットの有無によってドットパターンの配向を意味している点(相
違点18)の2点であるところ,上記相違点は,丙9発明Aと丙6発明を
組み合わせることによって,当業者が容易に想到できた。
本件発明45
本件発明4と丙9発明Aの相違点は,①本件発明4は「該格子点からの
ずれ方でデータ内容が定義され」するものであるのに対し,丙9発明Aの
「各状態領域113は,第1又は第2状態を表すために,選択的に1つの
ドットを含んだり,そのドットを含まなかったりするもの」である点(相
違点19),②本件発明4は「当該ドット本来の位置からのずらし方によ10
って」ドットパターンの向きを意味しているのに対し,丙9発明Aでは,
そのドットの有無によってドットパターンの配向を意味している点(相
違点20)の2点であるところ,上記相違点は,丙9発明Aと丙6発明を
組み合わせることによって,当業者が容易に想到できた。
本件発明515
本件発明5と丙9発明Bの相違点は,①本件発明5は「該格子点からの
ずれ方でデータ内容が定義され」するものであるのに対し,丙9発明Bの
「各状態領域113は,第1又は第2状態を表すために,選択的に1つの
ドットを含んだり,そのドットを含まなかったりするもの」である点(相
違点21),②本件発明5は「当該ドット本来の位置からのずらし方によ20
って」ドットパターンの向きを意味しているのに対し,丙9発明Bでは,
そのドットの有無によってドットパターンの配向を意味している点(相
違点22)の2点であるところ,上記相違点は,丙9発明Aと丙6発明を
組み合わせることによって,当業者が容易に想到できた。
カ分割出願の出願日が遡及しない場合25
本件発明1
本件発明1と丙10発明Aの相違点は,①丙10発明Aの「L型分布に
形成されたヘッダー部14」は「画像インジケーター10」毎に1つのみ
存在するのに対し,本件発明1の「ドットパターン」の「第一方向ライン」
「第二方向ライン」は,「前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに」ないし
「前記横方向の所定の格子点間隔ごとに」複数存在し,その結果として5
「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように」存在
する点(相違点23)であるところ,上記相違点は,丙10発明Aと丙7
発明を組み合わせることによって,当業者が容易に想到できた。
また本件発明1と丙11発明Aの相違点は,①丙11発明Aの「縦方向
の基準格子線1c,1d」には「基準格子点ドット2」は配置されておら10
ず,その結果として,丙11発明Aの「基準格子線1a~1d」は発明と
は異なり「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むよう
に」配置されていないのに対し,本件発明1は「「第二方向ライン上」に
配置された「格子ドット」』を有し,本件特許1の請求項1に係る発明の
「第一方向ライン」「第二方向ライン」は「前記情報ドットが配置されて15
情報を表現する部分を囲むように」配置されている点(相違点24)であ
るところ,上記相違点は,丙11発明Aと丙12発明を組み合わせること
によって,当業者が容易に想到できた。
本件発明2
本件発明2と丙10発明Bの相違点は,①丙10発明Bは「光学デバイ20
ス112」「プロセッサー114」「出力デバイス116」を有するのに留
まるのに対し,本件発明2は「音声情報再生装置」であって,「予め所定
の音声情報をドットパターンと関連づけた参照テーブル」「前記音声情報
が記憶された音声記憶手段」「前記光学読取手段によって前記ドットパタ
ーンが読み取られたときに,前記参照テーブルを参照して前記音声記憶25
手段から当該ドットパターンに関連付けられた音声情報を読み出して出
力する音声出力手段」を有する点(相違点25),②丙10発明Bの「L
型分布に形成されたヘッダー部14」は「画像インジケーター10」毎に
1つのみ存在するのに対し,本件発明2の「ドットパターン」の「第一方
向ライン」「第二方向ライン」は,「前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに」
ないし「前記横方向の所定の格子点間隔ごとに」複数存在し,その結果と5
して「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように」存
在する点(相違点26)の2点であるところ,上記相違点は,丙10発明
B,丙8発明及び丙7発明を組み合わせることによって,当業者が容易に
想到できた。
また,本件発明2と丙11発明Bの相違点は,①丙11発明Bは構成要10
件B2,C2及びD2に相当する構成を有しておらず,「該ドットパター
ンを数値化して,該数値化情報に対応する音声情報を記憶手段から読み
出して出力する」に留まる点(相違点27),②丙11発明Bの「縦方向
の基準格子線1c,1d」には「基準格子点ドット2」は配置されておら
ず,その結果として,丙11発明Aの「基準格子線1a~1d」は本件発15
明2とは異なり「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲
むように」配置されていないのに対し,本件発明2は「第二方向ライン上」
に配置された「格子ドット」を有し,本件発明2の「第一方向ライン」「第
二方向ライン」は「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲
むように」配置されている点(相違点28)の2点であるところ,上記相20
違点は,丙11発明B,丙12発明及び丙8発明を組み合わせることによ
って,当業者が容易に想到できた。
本件発明3
本件発明3と丙10発明Aの相違点は,①本件発明3では,その「ドッ
トの1つ」は「垂直方向に配置された」ものでなければならないのに対し,25
丙10発明Aでは,そのような限定が無い点(相違点29)であるところ,
上記相違点は,丙10発明Aに基づき,当業者が容易に想到できた。
また,本件発明3と丙11発明Aの相違点は,①本件発明3は「前記水
平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所
定個数垂直方向に配置されたドット」を有するのに対し,丙11発明Aの
「縦方向の基準格子線1c,1d」には「基準格子点ドット2」は配置さ5
れていない点(相違点30),②本件発明3では,その「当該ドット本来
の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味してい
る」ドットは「前記垂直方向に配置されたドット」であるのに対し,丙1
1発明Aでは「横方向の該基準格子線1a,1b上に設けられた仮想格子
点上」の「基準格子点ドット」である点(相違点31)の2点であるとこ10
ろ,上記相違点は,丙11発明Aと丙12発明を組み合わせることによっ
て,当業者が容易に想到できた。
本件発明4
本件発明4と丙10発明Aの相違点は,①本件発明4では,その「ドッ
トの1つ」は「垂直方向に配置された」ものでなければならないのに対し,15
丙10発明Aでは,そのような限定が無い点(相違点32)であるところ,
上記相違点は,丙10発明Aに基づき,当業者が容易に想到できた。
また,本件発明4と丙11発明Aの相違点は,①本件発明4は「前記水
平方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所
定個数垂直方向に配置されたドット」を有するのに対し,丙11発明Aの20
「縦方向の基準格子線1c,1d」には「基準格子点ドット2」は配置さ
れていない点(相違点33),②本件発明4では,その「当該ドット本来
の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味してい
る」ドットは「前記垂直方向に配置されたドット」であるのに対し,丙1
1発明Aでは「横方向の該基準格子線1a,1b上に設けられた仮想格子25
点上」の「基準格子点ドット」である点(相違点34)の2点であるが,
上記相違点は,丙11発明Aと丙12発明を組み合わせることによって,
当業者が容易に想到できた。
本件発明5
本件発明5と丙10発明Bの相違点は,①本件発明5では,その「ドッ
トの1つ」は「垂直方向に配置された」ものでなければならないのに対し,5
丙10発明Bでは,そのような限定が無い点(相違点35)であるところ,
上記相違点は,丙10発明Bに基づき,当業者が容易に想到できた。
また本件発明5と丙11発明Bの相違点は,①本件発明5は「前記水平
方向に配置されたドットの端点に位置する当該ドットから等間隔に所定
個数垂直方向に配置されたドット」を有するのに対し,丙11発明Bの10
「縦方向の基準格子線1c,1d」には「基準格子点ドット2」は配置さ
れていない点(相違点36),②本件発明5では,その「当該ドット本来
の位置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味してい
る」ドットは「前記垂直方向に配置されたドット」であるのに対し,丙1
1発明Bでは「横方向の該基準格子線1a,1b上に設けられた仮想格子15
点上」の「基準格子点ドット」である点(相違点37)の2点であるとこ
ろ,上記相違点は,丙11発明Bと丙12発明を組み合わせることによっ
て,当業者が容易に想到できた。
(原告の主張)
ア優先権主張について20
本件特許1に係る本件明細書1の【0184】~【0202】Ⅰ及び図1
03においては,格子領域の中心からずれることで情報が表現されるドット
パターン803等について,「格子ドット」を用いることで,ドットパター
ン601の画像データを取り込むときに正確に認識することができる実施
例が開示されている。一方,本件基礎出願3の明細書の【0014】【0025
15】及び図2には,「格子ドット3b」(△マークのドット)を用いて,ド
ットパターン1を正確に認識することができる実施例が記載されており,図
2には,本件明細書1の図103と同様,ドットがそのもの(あるべき)位
置である,格子領域の中心から8方向にずれることで情報が表現されている。
以上については,本件特許2~4についても,同様である。
したがって,本件特許1~4に係る本件明細書1~4の図103~図105
6の実施例は,本件基礎出願3の願書に最初に添付した明細書,特許請求の
範囲又は図面に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)であるか,
記載された事項から自明な事項である。
さらに,本件基礎出願3の明細書の【0014】【0015】及び図2と
同様の記載が,本件基礎出願4及び5の明細書にあるから,本件特許1~410
に係る明細書の図103~図106の実施例は,本件基礎出願4及び5の願
書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面にそれぞれ記載された
事項(記載されたに等しい事項を含む)であるか,記載された事項から自明
な事項である。
したがって,本件特許1~4に係る発明について,少なくとも,本件基礎15
出願4及び5を基準とする優先権主張が認められる。
イ出願日の遡及について
本件特許1~4を含む第4世代出願以下の分割出願の明細書に記載され
た事項は,第2世代出願の明細書又は図面のすべての記載を総合することに
より導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しない20
ものであるので,第2世代出願の出願当初の明細書,特許請求の範囲及び図
面に記載された事項の範囲である。したがって,第4世代出願以下の分割出
願の出願日は,本件原出願の出願日である平成15年9月26日まで遡及す
る。
ウ分割出願の出願日が遡及し,優先権主張も認められる場合について25
丙5発明の技術的事項の特徴は,ドットが存在する黒部分には「1」,存
在しない白部分には「0」が記録されるデータドット7とブロックの認識に
利用するマーカ5とマーカ間に配置されたマッチングドットパターン部6
とによって情報データを記述し,読み取ることにある。一方,丙6発明の技
術的事項の特徴は,少なくとも一部のマークをラスタ線上に配置するという
制限を設けることによって,丙5発明におけるマーカ5とマッチングドット5
パターン部6のような,「データドットパターン部3内の各ドットの読取基
準点」を示すパターンを不要とし,すべてのマークによって位置コード化パ
ターンの形成(コード化)と読み取りを可能にしたものである。
そうすると,上記のような制限のある丙6発明に記載されたマークを丙5
発明Aの「データドットパターン部3」として採用したとしても,構成要件10
B1となることはないから,当業者は相違点1,4,7,9,11は解消で
きない。
したがって,本件発明1~5は当業者が容易に発明できたものではない。
エ分割出願の出願日が遡及するものの,優先権主張が認められない場合につ
いて15
丙9発明は,微細単位が,“1”の値を割当てられ,また,第2状態の状
態領域113における微細単位が,“0”の値を割当てられる点で,丙5発
明と同様である。したがって,前記ウで主張したのと同様の理由により,丙
9発明に対し丙6発明を組み合わせたとしても本件発明1の構成に容易に
想到できるものではない。20
⑿新規性を欠いているか(争点4-6)
(被告らの主張)
本件発明1~5に係る特許の出願日が,それぞれ現実の出願日等である平成
20年9月1日,平成22年11月30日,平成23年2月28日,平成24
年9月28日等とされた場合,本件発明1~5は,丙12発明と同一であるか25
ら,新規性を欠く。
(原告の主張)
前記⑾イの原告の主張で述べたとおり,本件特許1~4の出願日は本件原出
願の出願日(平成15年9月26日)まで遡及するから,被告らの主張には理
由がない。
⒀産業上利用可能性を欠いているか(争点4-7)5
(被告らの主張)
本件発明1,3及び4は,その発明の実施においてソフトウェアを利用する
発明であるが,特許・実用新案審査ハンドブックにおいて,ソフトウェア関連
発明が自然法則を利用した科学的思想の創作となる例として挙げられたもの
にはいずれも該当しないから,特許法29条1項柱書の要件を満たしていない。10
(原告の主張)
本件発明1,3及び4は,いずれもドットを用いるものであり,ドットは光
学的に検知可能なものであるから自然法則を利用している上,複数のドットの
構造上の特徴を有するものであるから,単なる情報の提示ではなく,技術的思
想に該当する。そして,本件明細書1,3及び4記載のとおり,これらの発明15
は,多数のアプリケーションに適用可能であり,産業利用できる発明である。
したがって,本件発明1,3及び4は特許法29条1項柱書の要件を満たし
ている。
⒁特許法39条2項に違反しているか(争点4-8)
(被告らの主張)20
本件発明3と本件発明4を対比すると,本件発明3が「ドットパターン」で
あるのに対し,本件発明4が「ドットパターンが形成された媒体」で相違し,
その他の点では相違しない。そして,本件発明3のような「ドットパターン」
は通例何らかの「媒体」上に形成されて用いられるものであることから,「ドッ
トパターン」と「ドットパターンが形成された媒体」の関係は,課題解決のた25
めの具体化手段における微差,すなわち,周知技術,慣用技術の付加,削除,
転換等であって,新たな効果を奏するものではない。
したがって,本件発明3と本件発明4は同一であるから,特許法39条2項
により特許を受けることができない。
(原告の主張)
「ドットパターンが形成された媒体」の発明は,「ドットパターン」の発明と5
は異なり,情報システムを構成する部品として機能し,本件明細書4に記載さ
れた様々なアプリケーションに含まれる部品としての効果を発揮する。このよ
うな効果がある以上,「ドットパターン」と「ドットパターンが形成された媒
体」の関係は,課題解決のための具体化手段における微差ではない。
⒂損害の数額(争点5)10
(原告の主張)
ア被告各製品の販売により得た利益
被告各製品の1個当たりの利益は2万5000円を下らず,年間販売数は
8000個を下らないと推測されるから,年間推定利益は2億円(2万50
00円×8000個)を下らない。15
被告は,遅くとも平成22年11月1日から被告各製品を販売しているか
ら,被告が同日から本件訴訟提起日である平成30年3月30日までの間に
得た利益額は16億6666万6666円(2億円×8年4か月)を下らな
い。
イ弁護士・弁理士費用20
被告による不法行為と相当因果関係ある弁護士・弁理士費用相当の損害額
は,1億6666万6666円を下らない。
(被告らの主張)
争う。
第3当裁判所の判断25
1本件各発明及びその意義
⑴本件明細書1~4の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(甲4,7,
10,13)。
ア発明の属する技術分野
「本発明は,印刷物に形成したドットパターン情報を光学的に読み取り該
ドットパターンに対応した種々の情報を再生する技術に関する。」【0005
1】Ⅰ~Ⅳ
イ背景技術
「従来より,光センサを用いて絵本やゲームカードに印刷されたバーコー
ドを読み取り,特定の音声を発音させる音声発生玩具が提案されている。
これらの音声発生玩具では,読み込んだバーコードに対応した音声情報を10
メモリから読み出すことで多種の音声情報を再生できるようにしていた。」
【0002】Ⅰ~Ⅳ
「しかし,このようなバーコードを用いた技術は,紙面上にバーコード印
刷用の専用領域を確保しなければならず,かつバーコードは情報処理シス
テムが読み取るためのものであり,絵本や書籍の読者にとっては目視でそ15
のコード内容を把握しかねるものであったため,限られた紙面上にバーコ
ードが印刷されていることは読者にとっては煩わしく絵本等書籍の製品価
値を下げかねないものとなっていた。」【0003】Ⅰ~Ⅳ
「さらに,上記のようにバーコード技術は,紙面上に印刷された文字,図
形,記号に重ねて印刷することができないために,これらの文字,図形,記20
号等に対して音声再生を行いたい場合に文字等の近傍にバーコードを印刷
するしかなく,読者にとって直感的に文字等に別の音声情報等が付加され
ていることを伝えにくい特性を有していた。」【0004】Ⅰ~Ⅳ
「この点について,特開平10-261059号公報に開示されている
『ドットコード』技術では,ドットパターンで印刷されたコード情報を読25
み取って情報を再生させる方法が提案されている。」【0005】Ⅰ~Ⅳ
「係る先行技術では,ブロック領域内のドットパターンの配置の仕方によ
ってデータを定義するとともに,データドットパターンではあり得ないド
ットパターンでマーカを定義することにより,これを同期信号として機能
させている。したがって,この技術では,ドットを所定の法則で紙面の二次
元方向に印刷したドットパターンをペン型のスキャナで読み取り,このス5
キャナの走査速度と走査方向を情報処理装置で解析して予め対応付けられ
た音声等の情報を再生させる方法となっている。」【0006】Ⅰ~Ⅳ
「しかし,係るドットコード技術では,動的にスキャナを走査させること
を前提としているために,紙面に印刷された文字に沿って音声情報を再生
することは可能であるものの,紙面上にキャラクタ等が自由に印刷配置さ10
れた絵本等で静的に読取装置を当接させるだけで情報を再生させたいよう
な用途には不向きであった。すなわち,このドットコード技術では意味のあ
るコード情報を取得するためにはXY座標上で一定の距離以上のスキャニ
ングを実行する必要があるため,紙面上に印刷された極小領域にドットコ
ードを対応付けて印刷することはできなかった。」【0007】Ⅰ~Ⅳ15
ウ発明が解決しようとする課題
「本発明は,極小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義可能な
ドットパターンを提案し,係るドットパターンに基づいた情報再生方法お
よび情報再生装置を提案するものである。」【0008】Ⅰ~Ⅳ
「特に,ドットパターンに関連付けられた音声情報を再生する音声情報再20
生装置を提案するものである。」【0009】Ⅱ
エ発明の効果
「本発明によれば,極小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義
可能なドットパターンを提供することができる。」【0009】Ⅰ~Ⅳ
「本発明によれば,ドットパターンを読み取る光学読取手段と,ドットパ25
ターンに対応する音声情報を出力する音声情報出力手段とが一体となって
いるため,ドットパターンによる音声再生を,より簡易かつ便利に実現す
ることが可能となる。」【0056】Ⅱ
⑵本件各発明の意義
前記⑴によれば,本件各発明の意義は以下のとおりであると認められる。
従来から,光センサを用いて絵本やゲームカードに印刷されたバーコードを5
読み取り,特定の音声を発音させる音声発生玩具が提案されており,先行技術
においては,バーコードに代わってドットパターンで印刷されたコード情報を
読み取って情報を再生させる方法が提案されていた。同技術においては,ドッ
トを所定の法則で紙面の二次元方向に印刷したドットパターンをペン型のス
キャナで読み取り,このスキャナの走査速度と走査方向を情報処理装置で解析10
してあらかじめ対応付けられた音声等の情報を再生させるが,動的にスキャナ
を走査させることを前提としているために,紙面上にキャラクタ等が自由に印
刷配置された絵本等で静的に読取装置を当接させるだけで情報を再生させる
用途には不向きであった。
本件各発明は,印刷物に形成したドットパターン情報を光学的に読み取り該15
ドットパターンに対応した種々の情報を再生する技術に関するものであり,極
小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを
提案し,このドットパターンに基づいた情報再生方法及び情報再生装置を提案
するものである。
本件発明1はドットパターン,本件発明2は本件発明1に係るドットパター20
ンを読み取って音声を再生する音声情報再生装置,本件発明3はドットパター
ン,本件発明4は本件発明3に係るドットパターンが形成された媒体,本件発
明5は本件発明3に係るドットパターンを撮影してその定義するデータ内容
に対応した情報を出力する情報処理装置の発明である。
2本件明細書1~4におけるドットパターンの記載25
本件明細書1~4には,発明に係るドットパターンについて説明した以下の記
載がある(本件明細書1~4に同じ記載がある。)また,本件明細書1~4には,
それぞれ,同じ図1~図113が掲載されており,このうち,ドットパターンを
示すものとして,図2,図5~8,図22,図103~図106がある(本判決
別紙図面目録の各図面)。
「図1は本発明のドットパターンを用いた情報再生方法の構成を示すブロック5
図であり、(a)はドットコードの生成について、(b)はドットパターンの認識
についての説明図である。図2はドットパターンの一例を示す正面図である。図
3は絵本と情報再生方法の状態を説明する機能ブロック図である。」【0014】
Ⅰ,【0058】Ⅱ,【0060】Ⅲ,【0054】Ⅳ
「本発明のドットパターン601の生成は、ドットコード生成アルゴリズムに10
より、音声情報を認識させるために微細なドット605を第一方向ライン603
に所定の規則に則って配列し、かつこの第一方向ライン603に交差するように
配置した第二方向ライン604に所定の規則に則ってドット605を配列する。
さらに、パソコン608内のメモリまたはカメラ602内に設けられたメモリに
マッピングテーブルも生成する。この第一方向ライン603と第二方向ライン615
04とは90度の角度で交差させたものに限定されず、たとえば、60度の角度
で交差させたものでもよい。」【0017】Ⅰ,【0061】Ⅱ,【0063】Ⅲ,
【0057】Ⅳ
「図4は他のドットパターンを用いた情報再生方法の構成を示すブロック図で
あり、(a)はドットコードの生成について、(b)はドットパターンの認識につ20
いての説明図である。図5から図8は他のドットパターンの一例を示す正面図で
ある。」【0023】Ⅰ,【0067】Ⅱ,【0069】Ⅲ,【0063】Ⅳ
「上述したようにカメラ602で取り込んだ画像データは,画像処理アルゴリ
ズムで処理してドット605を抽出し,歪率補正のアルゴリズムにより,カメラ
602が原因する歪とカメラ602の傾きによる歪を補正するので,ドットパタ25
ーン601の画像データを取り込むときに正確に認識することができる。」【00
24】Ⅰ,【0068】Ⅱ,【0070】Ⅲ,【0064】Ⅳ
「このドットパターンの認識では,先ず連続する等間隔のドット605により
構成されたラインを抽出し,その抽出したラインが正しいラインかどうかを判定
する。このラインが正しいラインでないときは別のラインを抽出する。」【002
5】Ⅰ,【0069】Ⅱ,【0071】Ⅲ,【0065】Ⅳ5
「次に,抽出したラインの1つを水平ラインとする。この水平ラインを基準と
してそこから垂直に延びるラインを抽出する。垂直ラインは,水平ラインを構成
するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にないことか
ら上下方向を認識する。」【0026】Ⅰ,【0070】Ⅱ,【0072】Ⅲ,【00
66】Ⅳ10
「最後に,情報領域を抽出してその情報を数値化し,この数値情報を再生する。」
【0027】Ⅰ,【0071】Ⅱ,【0073】Ⅲ,【0067】Ⅳ
「図21は本発明のカメラ入力による情報入出力方法の構成を示すブロック図
であり、(a)はドットコードの生成について、(b)はドットパターンの認識に
ついての説明図である。図22はドットパターンの一例を示す正面図である。」15
【0061】Ⅰ,【0105】Ⅱ,【0107】Ⅲ,【0101】Ⅳ
「次に,本発明におけるドットパターンの仕様について図103~図106を
用いて説明する。」【0184】Ⅰ,【0228】Ⅱ,【0230】Ⅲ,【0224】

「ドットパターン部601は,図105に示すように,格子状に配置されたド20
ットで構成されている。なお縦横方向の格子線はドットの配置位置を説明するた
めのものであり実際の印刷物上には存在しない。」【0185】Ⅰ,【0229】
Ⅱ,【0231】Ⅲ,【0225】Ⅳ
「ここで,4×4個の格子領域を1つのデータブロックまたは格子ブロックと
呼び,この格子ブロックの四隅(格子線の交点(格子点)上)には格子ドットL25
Dが配置されている。格子ドットLD同士の間隔は0.35mm~1.0mm,
好ましくは0.5mm程度であることが最適である。また,ドットの直径は前記
格子ドット間隔の8~10%程度であることが望ましい。」【0186】Ⅰ,【02
30】Ⅱ,【0232】Ⅲ,【0226】Ⅳ
「どの格子ブロックからどの格子ブロックまでが1つのデータであるかを示す
ためにキードットKDを配置している。」【0187】Ⅰ,【0231】Ⅱ,【025
33】Ⅲ,【0227】Ⅳ
「キードットKDとは,格子ドットLDの位置をずらしたものである。すなわ
ち,格子ドットLDは本来格子点上に配置されているが,この位置をずらしてキ
ードットKDを配置している。なお,キードットKDの格子点からのずれは約2
0%前後程度が好ましい。」【0188】Ⅰ,【0232】Ⅱ,【0234】Ⅲ,【010
228】Ⅳ
「前記キードットKDに囲まれた領域,またはキードットKDを中心にした領
域が1つのデータを構成している。」【0189】Ⅰ,【0233】Ⅱ,【0235】
Ⅲ,【0229】Ⅳ
「このデータの並びは,図104に示すように,左上から下方向に向かって順15
番に配置されている。」【0190】Ⅰ,【0234】Ⅱ,【0236】Ⅲ,【023
0】Ⅳ
「データは,図103に示すように,ドット605を格子ブロック内の中心点
からどの程度ずらすかによってデータ内容が定義できるようになっている。同図
では,中心から等距離で45度ずつそれぞれずらした点を8個定義することによ20
って単一の格子ブロックで8通り,すなわち3ビットのデータを表現できるよう
になっている。なお,さらに中心点から距離を変更した点をさらに8個定義すれ
ば16通り,すなわち4ビットのデータを表現できる。」【0191】Ⅰ,【023
5】Ⅱ,【0237】Ⅲ,【0231】Ⅳ
「本発明のドットパターンは,1個のデータブロックを構成する格子を自由に25
定義することができる点に特徴がある。つまり,前述のようにキードットKDが
データ領域の範囲を定義しているため,このキードットKDの配置を変更すれば
任意の可変長の格子ブロック群をデータ格納領域として扱うことができるわけ
である。」【0192】Ⅰ,【0236】Ⅱ,【0238】Ⅲ,【0232】Ⅳ
「また,本発明のドットパターンでは,キードットのずらし方を変更すること
により,同一のドットパターン部であっても別の意味を持たせることができる。5
つまり,キードットKDは格子点からずらすことでキードットKDとして機能す
るものであるが,このずらし方を格子点から等距離で45度ずつずらすことによ
り8パターンのキードットを定義できる。」【0193】Ⅰ,【0237】Ⅱ,【0
239】Ⅲ,【0233】Ⅳ
「ここで,ドットパターン部をC-MOS等の撮像手段で撮像した場合,当該10
撮像データは当該撮像手段のフレームバッファに記録されるが,このときもし撮
像手段の位置が紙面の鉛直軸(撮影軸)を中心に回動された位置,すなわち撮影
軸を中心にして回動した位置(ずれた位置)にある場合には,撮像された格子ド
ットとキードットKDとの位置関係から撮像手段の撮像軸を中心にしたずれ(カ
メラの角度)がわかることになる。この原理を応用すれば,カメラで同じ領域を15
撮影しても角度という別次元のパラメータを持たせることができる。そのため,
同じ位置の同じ領域を読み取っても角度毎に別の情報を出力させることができ
る。」【0194】Ⅰ,【0238】Ⅱ,【0240】Ⅲ,【0234】Ⅳ
「いわば,同一領域に角度パラメータによって階層的な情報を配置できること
になる。」【0195】Ⅰ,【0239】Ⅱ,【0241】Ⅲ,【0235】Ⅳ20
「この原理を応用したものが図74,図76,図78に示すような例である。
図74では,ミニフィギュア1101の底面に設けられたスキャナ部1105で
このミニフィギュア1101を台座上で45度ずつ回転させることでドットパ
ターン部の読取り情報とともに異なる角度情報を得ることできるため,8通りの
音声内容を出力させることができる。」【0196】Ⅰ,【0240】Ⅱ,【02425
2】Ⅲ,【0236】Ⅳ
「本発明において,ダミードットDDを定義することができる。このダミード
ットDDは,4個の格子ドットLDの正中心に配置したドットである(図106
(a)参照)。このようなダミードットは,マスク領域毎に境界を定義した絵本等
に適している。図106(c)に示すようにmask1とmask2の領域の境
界にダミードットDDを配置している。このようなマスク境界にダミードットD5
D領域を配置することにより,それぞれのマスク領域に定義されたコード情報を
同時に読み取ってしまうことを防止している。図106(d)はダミードットD
Dの配置状態を示した図である。」【0197】Ⅰ,【0241】Ⅱ,【0243】
Ⅲ,【0237】Ⅳ
「また,絵本等の背景部分については,格子ドットの中心にドットを配置しな10
い空ドットを配置することが好ましい。空ドットは,情報が記録された通常のデ
ータドットに比べてドット数が少ないため,ドットパターンの目立たない印刷が
可能となる。また,空ドットの連続であるために,模様が生じにくく,単一色の
背景に適している。」【0198】Ⅰ,【0242】Ⅱ,【0244】Ⅲ,【0238】
Ⅳ15
「また,本発明では,本来撮影中心を含む1ブロック分のデータを解析する必
要があるが,撮影中心の近傍の格子データ(情報データ)をブロックをまたがっ
て読取りデータとしてもよい。このような場合,本来の1ブロックから欠けてい
る情報データに該当するデータを隣り合う他のブロックから読み込んで1ブロ
ック分のデータに補完して入力を完了することができる。」【0199】Ⅰ,【0220
43】Ⅱ,【0245】Ⅲ,【0239】Ⅳ
「XY座標を定義するドットパターンについては,撮影中心とは異なるブロッ
クからそれに相当するXY座標を構成する情報ドットを読み,補正をかけて撮影
中心のXY座標値とすることができる。」【0200】Ⅰ,【0244】Ⅱ,【02
46】Ⅲ,【0240】Ⅳ25
「本発明は,以上に説明したような,格子ドットを用いたドットパターンであ
るため,撮影条件にあまり左右されないという特性を有している。すなわち,撮
影条件(カメラのレンズのひずみ,カメラの写す角度,紙の変形)によってドッ
トパターン全体がひずみを起こした場合,4個の格子ドットで形成される形状と,
情報ドットの位置のずれが同様に起きるため,格子ドットからの相対的な位置関
係にかわりはなく,これら格子ドットを基準に補正計算を行えば,各情報ドット,5
キードットについての真の位置がわかる。」【0201】Ⅰ,【0245】Ⅱ,【0
247】Ⅲ,【0241】Ⅳ
「つまり,本発明の格子ドットを用いたドットパターンは歪みに強いといえる。」
【0202】Ⅰ,【0246】Ⅱ,【0248】Ⅲ,【0242】Ⅳ
3争点4-2(補正要件に違反しているか)について10
事案に鑑み,本件特許1及び本件特許2の補正要件違反の有無についての争点
4-2を判断する。
⑴補正の内容
ア本件特許1に係る本件補正1は,以下の内容を含む。(甲19,20,丙
21,58,59)15
平成21年1月9日付手続補正書による補正後の特許請求の範囲第1
項の「前記ドットパターンは,縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交
点である格子点を中心に,前記情報ドットをいずれかの方向に,どの程度
ずらすかによってデータ内容を定義し,」の「前記情報ドットを」と「い
ずれかの方向に」との間に,「前記格子点の中心から等距離で45°ずつ20
ずらした方向のうち」との事項が追加されたこと(本件発明1の構成要件
B1)
平成21年1月9日付手続補正書による補正後の特許請求の範囲第1
項が以下のとおり変更されたこと
a変更前25
「前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向
ライン上と,該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格
子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて,前記情
報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,該縦横方向の
複数の格子点上に格子ドットが配置された」
b変更後5
「前記情報ドットが配置されて情報を表現する部分を囲むように,前
記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン
上と,該第一方向ラインと交差するように前記横方向の所定の格子点
間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ライン上とにおいて,該縦横方
向の複数の格子点上に格子ドットが配置された」(本件発明1の構成要10
件C1)
【0009】Ⅰの記載について,と同じ変更がされたこと
イ本件特許2に係る本件補正2は,以下の内容を含む。(丙1,22,55,
60)
願書に最初に添付した特許請求の範囲における第1項が以下のとおり15
変更されたこと
a変更前
「前記所定のドットパターンは,水平方向に所定間隔ごとに所定
個数配置された水平基準格子点ドットと,前記水平基準格子点ドッ
トの端点に位置する当該水平基準格子点ドットから垂直方向に所定20
個数配置された垂直基準格子点ドットと,前記水平基準格子点ドッ
トから仮想的に設定された垂直方向基準格子線と,前記垂直方向基
準格子点ドットから水平方向に仮想的に設定された水平方向基準格
子線との交点を格子点とし,該格子点に囲まれた領域内に配置され,
データ内容が定義された情報ドットと,からなるドットパターンで25
ある」
b変更後
「前記所定のドットパターンは,媒体面上に形成され,且つデー
タ内容が定義できる情報ドットが配置されたドットパターンであっ
て,縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中
心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°づつ5
ずらした方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによって
データ内容を定義し,前記情報ドットが配置されて情報を表現する
部分を囲むように,前記縦方向の所定の格子点間隔ごとに水平方向
に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交差するように
前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方向ラ10
イン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配
置されたドットパターンである」)と変更されたこと(本件発明2の
構成要件F2~H2)
【0010】Ⅱの記載について,と同じ変更がされたこと。
当初明細書の記載15
ア本件特許1に係る出願の願書に最初に添付した明細書(丙58。以下,図
面も含めて「当初明細書1」という。)には,本件明細書1の図2,図5~
図8,図22,図103~図106と同じ図面に加え,前記2の【0023】
~【0027】Ⅰ,【0184】~【0202】Ⅰと同一の段落に同一の記載
がある。20
本件特許2に係る出願の願書に最初に添付した明細書(丙55。以下,図
面も含めて「当初明細書2」という。)には,本件明細書2の図2,図5~
図8,図22,図103~図106と同じ図面に加え(本件明細書1の各図
面と同じ),前記2の【0067】~【0071】Ⅱ,【0228】~【02
46】Ⅱと同一の段落に同一の記載がある。以下,本争点においては,当初25
明細書1,2の記載を示すものとして,段落番号とその後にⅠ,Ⅱを示し,
また,図面を示す。
そして,上記図面のうち,図2及び図22は,いずれも,発明の詳細な説
明において,ドットパターンを示す一例であるとだけ記載され,ドットパタ
ーンの内容に関する説明はなく(【0014】Ⅰ,【0058】Ⅱ,【006
1】Ⅰ,【0105】Ⅱ),発明の詳細な説明にドットパターンの内容につい5
ての記載があるのは,図5~図8のドットパターンと,図103~106の
ドットパターンである。
イ図5~図8のドットパターンに関係して,前記2のとおり,【0023】
~【0027】Ⅰ,【0067】~【0071】Ⅱの記載がある。これらに
は,情報を示すドットパターンについて,等間隔のドットにより構成され10
たラインが抽出されるとともに,そのうちの一つを水平ラインとして,そ
こから垂直に延びるラインを抽出し,その垂直ラインは,水平ラインを構
成するドットの次の点,または3つ目の点がライン上にないことから上下
方向を認識し,情報領域を抽出して,その数値情報を再生することが記載
されている(以下,図5~図8や上記発明の詳細な説明に記載されている15
技術思想のドットパターンを「図5ドットパターン」ということがある。)。
図5について,説明のため,垂直方向のラインについて,LV1,LV
2などの符号を付し,水平方向のラインについて,LH1,LH2などの
符号を付し,ドットにD1,D2などの番号を付したものが別紙図5その
2である。20
LH1,LH13上には,水平方向に等間隔にドットが配置されている。
LV1は,LH1,LH13上に配置されたドットから垂直方向に延びる
ところ,LV1上には,垂直方向に基本的に等間隔にドットが配置されて
いる。ただし,LV1とLH4との交点にはドットはなく,その交点から
左に矢印が伸び,その先にドットがあり,このドットに「x,y座標フラ25
グ」との説明がある。また,LV13上には,垂直方向に基本的に等間隔
にドットが配置されているが,LV13とLH4との交点にはドットがな
く,その左側にドットがある。そして,図5には,概ね,LV1,LV1
3,LH1,LH13で囲まれる範囲に対応する,点線で囲まれた部分が
「この部分で情報を表現」と説明されている。そうすると,図5では,L
H1,LH13が第一方向ラインであり,LV1,LV13が第二方向ラ5
インであって,それらにより情報領域が示されているといえる。また,図
5で「情報を表現」として記載されている部分をみると,例えば,第一方
向ライン上に配置されたドット(D8,D20,D30)から垂直方向に
延びるライン(LV4,LV7,LV10)と,第二方向ライン上に配置
された各ドット(D2~D4)から水平方向に延びるライン(LH4,L10
H7,LH10)の各交点について,水平方向及び垂直方向に矢印が示さ
れ,その先に水平方向及び垂直方向に各1個のドットが記載されている。
D8から垂直方向に延びるLV4と,D2から水平方向延びるLH4上の
交点について,同交点から上にずれた場合はy1を示し,下にずれた場合
はy0を示し,右にずれた場合はx1を示し,左にずれた場合はx0を示15
すと記載され,図5では,上にずれたドット(D9)と右にずれたドット
(D14)が示され,それがX座標,Y座標ともに1を示す旨が記載され
ている。そして,図5のドットパターンがx座標,y座標を示していると
して,その具体的な座標が記載されている。
図6に示されたドットパターンは,概ね図5に示されたドットパター20
ンと同じであるが,第二方向ライン上にドットがない部分について右に
矢印が示されその先にドットがあり,このドットに「一般コードフラグ」
との説明がある。第一方向ラインと第二方向ラインで概ね囲まれる「この
部分で情報を表現」とされている部分では,第一方向ライン上に配置され
たドットから垂直方向に延びるラインと,第二方向ライン上に配置され25
た各ドットから水平方向に延びるラインの交点から,上にずれた場合に
はc0,右にずれた場合にはc1,下にずれた場合にはc2,左にずれた
場合にはc3などと示され,各交点について,水平方向又は垂直方向にず
れたドットが1個示されている。そして,図6のドットパターンがコード
を示しているとして,その具体的なコードが記載されている。
図7に示されたドットパターンは,概ね図5に示されたドットパターン5
と同じであり,第一方向ラインと第二方向ラインで概ね囲まれ「この部分
で情報を表現」とされている部分では,第一方向ライン上に配置されたド
ットから垂直方向に延びるラインと,第二方向ライン上に配置された各ド
ットから水平方向に延びるラインの交点から,上にずれた場合にはy1,
下にずれた場合にはy2,右にずれた場合にはx2,左にずれた場合には10
x1などと示され,各交点について,水平方向又は垂直方向にずれたドッ
トが1~3個示されている。そして,図7のドットパターンがx座標,y
座標を示しているとして,その具体的な座標が記載されている。
図8に示されたドットパターンは,概ね図5に示されたドットパター
ンと同じであるが,第二方向ライン上にドットがない部分について右に15
矢印が示されその先にドットがあり,このドットに「一般コードフラグ」
との説明がある。第一方向ラインと第二方向ラインで概ね囲まれ「この部
分で情報を表現」とされている部分では,第一方向ライン上に配置された
ドットから垂直方向に延びるラインと,第二方向ライン上に配置された
各ドットから水平方向に延びるラインの各交点について,水平方向又は20
垂直方向にずれたドットが1~3個示されている。そして,図8のドット
パターンがコードを示しているとして,その具体的なコードが記載され
ている。
ウ図103~106のドットパターンに関係して,前記2のとおり,段落
【0184】~【0195】Ⅰ,【0228】~【0246】Ⅱの記載があ25
る。これらによれば,そのドットパターンは,格子状に配置されたドット
で構成される。そして,格子ドットLDと呼ばれるドットを四隅に配置し,
その4つの格子ドットLDで囲まれた領域の中心からどの程度ずらすかに
よってテータ内容が定義され,例えば,同領域の中心から等距離の位置で
45度ずつずらした点を8個定義することで,8通りのデータを表現でき,
このずらす距離を変更した点を8個定義することで16通りのデータを表5
現できる。また,格子ドットLDは,本来,縦横方向の格子線の交点上で
ある格子点上に配置されるが,その位置をずらしたドットをキードットK
Dとして,このキードットKDに囲まれた領域,又は,キードットKDを
中心にした領域が一つのデータを示している。また,キードットKDを格
子点から等距離で45°ずつずらすことにより,その角度ごとに別の情報10
を定義することができることなどが記載されている。(以下,図103~1
06や上記発明の詳細な説明に記載されている技術思想のドットパターン
を「図105ドットパターン」ということがある。)
図105について,垂直方向のラインについて,LV1,LV2などの
符号を付し,水平方向のラインについて,LH1,LH2などの符号を付15
し,ドットにD1,D2などの番号を付したものが別紙図105その2で
ある。
図105においては,例えば,垂直方向の格子線であるLV1,LV3,
LV5と,水平方向の格子線であるLH1,LH3,LH5の交点に格子
ドットが配置され,格子ドットが四隅に配置されている領域が示されてい20
る(例えば,D1,D2,D13,D12(ただし後述)を四隅とするも
の,D2,D3,D14,D13を四隅とするもの)。そして,その4個の
格子ドットで囲まれる領域の中心から等距離の位置でいずれかの位置に
1個のドットが配置されていることが示され(例えば,D7,D8),図
105全体では,上記領域の中心から等距離の位置で,45°ずつずれた25
位置のいずれか1つの位置にドットが配置されることが記載されている。
また,図103には,交点から45°ずつずれた位置にドットを配置する
構成が記載されている。そして,D12やD56は,垂直方向の格子線で
あるLV3又はLV11上にあるが,水平方向の格子線であるLH1上に
はなく,これらは,格子線の交点からずれたキードットKDであることが
示されている。5
ア本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2は「(前記ドットパ
ターンは,)縦横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中
心に,前記情報ドットを前記格子点の中心から等距離で45°ずつずらした
方向のうちいずれかの方向に,どの程度ずらすかによってデータ内容を定義
し」である。10
当初明細書1及び2の記載や図における図105ドットパターンにおい
て,4個の格子ドットで囲まれる領域の中心は,それらの格子ドットが配置
されている格子線の中間にそれらと並行して存在するといえる格子線の交
点ともいえるから(例えば,格子点D1,D2,D13,D12で囲まれる
領域の中心は,垂直方向の格子線であるLV1,LV3の間のLV2と,水15
平方向の格子線であるLH1,LH3の間のLH2の交点といえ,また,L
V2,LV4,LV6,LH2,LH4,LH6は,縦横方向に等間隔に設
けられた格子線ともいえる。),上記構成要件B1・G2に係る構成は,【01
84】~【0195】Ⅰ,【0228】~【0246】Ⅱ及び図105に記載
されているといえる。20
他方,図5ドットパターンにおいて,図5~図8では,縦横方向に等間隔
で設けられた格子線(例えばLV4,LV7,LV10,LH4,LH7,
LH10)の交点から等距離に,水平方向及び(又は)垂直方向にずらした
位置に各1~3個のドットが記載されて情報を示している。これらでは,縦
横方向に等間隔に設けられた格子線の交点である格子点を中心に,情報内容25
を定義するドットが格子点の中心からずれることで情報が示されていると
いえるが,情報内容を定義するドットは,水平方向及び(又は)垂直方向に
ずらされるのであり,等距離で90°ずつずらしているとはいえるとしても,
等距離で45°ずつずらしているものではない。図5~図8では,格子線の
間に設けられた垂直方向及び水平方向のライン(例えば,LV3,LV5,
LH3,LH5)が示された上で,それらのラインや格子線の交点に情報を5
示すドットが示されていて(例えば,D9,D14),これは情報を示すド
ットを格子点の中心から等距離で90°ずつずらすことを前提としている
ものであり,このように交点に情報を示すドットを配置するこの図では情報
を示すドットを等距離で45°ずつずらすことは想定されていない。そうす
ると,上記構成要件B1・G2に係る構成は,【0023】~【0027】10
Ⅰ,【0067】~【0071】Ⅱ及び図5~図8に記載されているもので
はない。
イ本件補正1及び2による補正後の構成要件C1・H2は「前記情報ドット
が配置されて情報を表現する部分を囲むように,前記縦方向の所定の格子点
間隔ごとに水平方向に引いた第一方向ライン上と,該第一方向ラインと交差15
するように前記横方向の所定の格子点間隔ごとに垂直方向に引いた第二方
向ライン上とにおいて,該縦横方向の複数の格子点上に格子ドットが配置さ
れた(ドットパターンである)」である。
前記アのとおり,当初明細書Ⅰ,Ⅱには,図105ドットパターンに関す
る記載において,本件補正1及び2による補正後の構成要件B1・G2に係20
る構成が記載されていた。しかし,図105ドットパターンにおいては,縦
横方向の格子線の交点上である格子点上に格子ドットLDが配置され,その
位置をずらしたドットをキードットKDとして,このキードットKDに囲ま
れた領域,又は,キードットKDを中心にした領域が一つのデータを示すも
のとされている。このようなキードットKDに囲まれた領域又はキードット25
KDを中心にした領域が一つのデータを示すものであり,「前記情報ドット
が配置されて情報を表現する部分」(C1・H2)であるといえるところ,
図105ドットパターンでは,前記のようにキードットKDによって,それ
に囲まれた領域,又はそれを中心にした領域が情報を表現する部分とされて
いるのであり,また,図105では,情報を表現する部分はキードットKD
により囲まれていることが示されているのであって,そうである以上,「第5
一方向ライン」及び「第二方向ライン」(C1・H2)として特定される水
平方向及び垂直方向のラインによって,情報を表現する部分を囲んでいると
直ちにいえるものではない。したがって,「第一方向ライン」,「第二方向ラ
イン」がない以上,情報を示すドットが配置されて情報を表現する部分を囲
むような「第一方向ライン」及び「第二方向ライン」上にドットが配置され10
ているということもできない。以上によれば,上記構成要件C1・H2に係
る構成は,【0184】~【0195】Ⅰ,【0228】~【0246】Ⅱ及
び図105に記載されているとは認められない。
なお,図5ドットパターンについて,補正後の構成要件B1・G2に係る
構成の記載はないのであるが,図5ドットパターンには,情報ドットが配置15
されて情報を表現する部分を囲むように,縦方向の所定のドットの間隔ごと
に水平方向に引いた水平ラインと,水平ラインと交差するように横方向の所
定のドットの間隔ごとに垂直方向に引いた垂直ラインが存在し,また,それ
らのライン上において,複数の格子点上に格子ドットが配置されているとい
える。したがって,上記構成要件C1・H2に係る構成は,【0023】~20
【0027】Ⅰ,【0067】~【0071】Ⅱ及び図5~図8に記載され
ているとはいえる。
ア前記⑶によれば,当初明細書1及び2において,構成要件B1・G2に係
る構成は,【0184】~【0195】Ⅰ,【0228】~【0246】Ⅱ及
び図105には記載されているとはいえるが,そこで記載されているドッ25
トパターンである図105ドットパターンは構成要件C1・H2の構成を
有するものではない。また,当初明細書1及び2において,構成要件C1・
H2に係る構成は,【0023】~【0027】Ⅰ,【0067】~【007
1】Ⅱ及び図5~図8には記載されているとはいえるが,そこで記載されて
いるドットパターンである図5ドットパターンは構成要件B1・G2の構
成を有するものではない。5
そして,図5ドットパターンと図105ドットパターンは,情報ドットの
ずらし方,1つの交点に対する情報ドットの個数,情報ドット以外のドット
の配置,格子線又はラインのうち特定のものを「第一方向ライン」等として
特定するか否か,垂直ライン上のドットが本来の位置からのずれ方によって
データの種類を表すか否か,1つのデータを区画するキードットKDが存在10
するか否か等,多くの点で相違しており,これらの相違は,各実施例が開示
する技術的事項,すなわちドットパターンによる情報の定義方法が相当に異
なることに起因する。当初明細書1及び2は,極小領域であってもコード情
報やXY座標情報が定義可能なドットパターンを提供するとし(【0013】
Ⅰ,【0008】Ⅱ),複数のドットパターンを記載しているのであるが,そ15
こに記載されたドットパターンである図5ドットパターンと図105ドッ
トパターンの情報の定義方法は上記のとおり相当に異なるのであり,また,
当初明細書1及び2に,これらの異なる情報定義方法を採用した各ドットパ
ターンが採用する情報定義方法を相互に入れ替えたり,重ねて採用したりす
ることについては何ら記載されていない。したがって,当初明細書1及び220
に,これらのドットパターンを組み合わせたものについての記載があるとは
いえないし,それが当業者に自明であるともいえない。
以上によれば,当初明細書1及び2には,いずれも,本件補正1及び2に
よって変更された構成要件B1・G2及び構成要件C1・H2の構成をいず
れも備えるドットパターンについての記載があるとはいえない。25
そうすると,当初明細書1又は2において,全ての記載を総合したとして
も,当初明細書1又は2には,本件補正1及び2で補正後のドットパターン
が記載されているとはいえず,本件補正は,当初明細書1又は2に開示され
ていない新たな技術的事項を導入するものである。
したがって,本件補正1及び2は,当初明細書1又は2の記載等から導か
れる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものである5
から,特許法17条の2第3項の補正要件に違反する。
イこれに対し,原告は,図103~図106の実施例と図5~図8の実施例
は,極小領域であってもコード情報やXY座標情報が定義可能なドットパタ
ーンを提案するという共通の課題を解決するための異なる実施例であり,こ
れらを組み合わせることは当業者には自明の範囲のものであるから,構成要10
件B1・G2及び構成要件C1・H2の構成は,いずれも当初明細書1及び
2に記載されていると主張する。
しかしながら,図5~図8の実施例で示される図5ドットパターンと図1
03~図106の実施例で示される図105ドットパターンでは,上記のと
おり,情報の定義方法が相当に異なり,それを組み合わせることが当業者に15
自明とはいえないし,当初明細書1及び2にそのような組み合わせを前提と
した記載も存在しない。原告の上記主張には理由がない。
4争点4-3(サポート要件に違反しているか)について
事案に鑑み,続いて,争点4-3のうち,本件発明3~5についてのサポート
要件違反について判断する。20
本件発明3の構成要件D3及び本件発明4の構成要件E4の特許請求の範
囲の記載は「前記垂直方向に配置されたドットの1つは,当該ドット本来の位
置からのずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」との記
載を含み,本件発明5の構成要件D5の特許請求の範囲の記載は,「前記垂直
方向に配置されたドットの1つにおける当該ドット本来の位置からのずれ方25
によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」との記載を含むもので
ある。
これらには,垂直方向に配置されたドットの1つについて,本来の位置に配
置せず別の位置に配置すること,そして,「ずらし方によって」「ずれ方によっ
て」ドットパターンの向きを示すとしていることからも,本来の位置と実際に
配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されること5
が記載されているといえる。
⑵ア本件明細書3及び4には,前記1の記載があり,また,ドットパターンに
関係して前記2の記載がある。
ここで,本件明細書3及び4には,ドットを本来の位置とは違う位置に配
置し,本来の位置と実際に配置された位置のずれ方によってドットパターン10
の向きを表現することに関係し得るものとして,本件明細書3の【0009】
Ⅲに特許請求の範囲と同じ記載があり,後記イのキードットKDのずらし方
に関係する記載があることを除いて,何ら記載がない。
イ【0240】~【0242】Ⅲ,【0234】~【0236】Ⅳには,キー
ドットKDにつき,撮像された格子ドットとキードットKDとの位置関係か15
らカメラの角度が分かり,カメラで同じ領域を撮影しても角度という別次元
のパラメータを持たせることができる旨の記載がある。このようにキードッ
トKDの配置のずらし方によってドットパターンを撮像するカメラの角度
が分かることが記載されているところ,その角度が分かるためには配置のず
らし方があらかじめ定められていることを前提としているはずであり,ドッ20
トパターンについていうと,キードットKDの配置のずらし方によって,ド
ットパターンの向きを示すことが記載されているともいえる。
しかしながら,上記記載は,図105ドットパターンに関するものである
(ドットパターンに関する明細書の記載及び図面は,当初明細書1及び2,
本件明細書1~4では,いずれも同じであり,本件明細書3,4にも,図125
05ドッパターンと図5ドットパターンが記載されているといえる。)。前記
のとおり,図105ドットパターンにおいて,情報を示すドットは4
個の格子ドットLDに囲まれた領域の中心から等距離の位置で45°ずつ
ずらしたいずれかの位置に配置されている。しかし,その中心点を交点とす
るような垂直ラインと水平ラインを仮想的に想定したとして,それらは水平
方向あるいは垂直方向に配置されたドットから設定されたものではない。す5
なわち,図105ドットパターンにおいては,4個の格子ドットLDに囲ま
れた領域の中心について,そこを交点とする垂直ラインと水平ラインを仮想
的に想定するとしても,それらの垂直ラインと水平ラインを設定するドット
はない。そうすると,図105ドットパターンは,少なくとも,「前記水平
方向に配置されたドットから仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方10
向に配置されたドットから水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの
交点」である「格子点…からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」
(構成要件C3・D4・C5)に係る構成を有するものではない。また,図
105,図106においては,キードットKDは,垂直方向の格子線上にあ
るが水平方向の格子線上にはないという態様で格子点からずれていて,これ15
らのキードットKDは「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドット」(A
3・B4・A5)の1つであり,「前記水平方向に配置されたドットの端点
に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたドット」
(A3・C4・A5)ではないから,「前記垂直方向に配置されたドットの
1つは,当該ドット本来の位置からのずらし方によって前記ドットパターン20
の向きを意味している」(構成要件D3・E4・D5)ものには当たらない
といえる。
以上によれば,図105ドットパターンは,少なくとも,構成要件C3・
D4・C5に対応する構成を有するものではない。また,図105,図10
6のキードットKDは,構成要件D3・E4・D5の情報ドットではないと25
もいえる。
そうすると,図105ドットパターンは,本件発明3~5に係るドットパ
ターンと異なるドットパターンである。そのような図105ドットパターン
に関してキードットKDについて上記記載があるとしても,その記載をもっ
て,本件発明3~5について,「ずらし方によって前記ドットパターンの向
きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドット5
パターンの向きを認識する手段」(構成要件D5)についての記載があると
いえるものではないし,また,当業者にとって,その記載があると理解する
ことはできない。
ウ図5ドットパターンについては,水平ライン(図5その2のLH1,LH
13等)上に等間隔に配置されたドット(図5その2のLH1上ではD1,10
D8,D20,D30等)は「等間隔に所定個数水平方向に配置されたドッ
ト」(構成要件A3・B4)「等間隔に所定個数,所定方向に配置されたドッ
トを水平方向に配置されたドット」(構成要件C5)であるといえ,垂直ライ
ン(図5その2のLV1,LV13等)上に等間隔で配置されたドット(例
えば,図5その2のD2,D3等)は「前記水平方向に配置されたドットの15
端点に位置する当該ドットから等間隔に所定個数垂直方向に配置されたド
ット」(構成要件B3・C4),「前記所定方向に対して垂直方向に等間隔に所
定個数配置されたドットを垂直方向に配置されたドットとして抽出し」(構
成要件C5)であるといえる。また,水平ライン及び垂直ライン上に設置さ
れた上記各ドットを通過する縦横の格子線の交点から,90°ずつずれたい20
ずれかの方向にずれた情報ドットは,「前記水平方向に配置されたドットか
ら仮想的に設定された垂直ラインと,前記垂直方向に配置されたドットから
水平方向に仮想的に設定された水平ラインとの交点を格子点とし,該格子点
からのずれ方でデータ内容が定義された情報ドット」(構成要件C3・D4・
C5)であるといえる。25
しかしながら,「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味して
いる」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向き
を認識する」(構成要件D5)については,本件明細書3及び4には,関係す
る記載はないといえる。図5ドットパターンの図5~8において垂直ライン
上にドットがないところがあり,そこにはドットが本来の位置と比べて,図
5では左(図5その2のD2),図6では左又は右,図7では左,図8では右5
にずれた位置にドットが配置されているが,【0069】~【0073】Ⅲ,
【0063】~【0067】Ⅳには,これらのドットについて,その本来の
位置と実際に配置された位置との関係に基づいてドットパターンの向きを
意味することを示す記載は全く存在しない。かえって,上記のドットについ
て,図5及び図7では,左にずれたドットについて「x,y座標フラグ」と10
記載され,そのドットパターンがx座標,y座標を示すことが記載され,図
6及び図8では,右にずれたドットについて「一般コードフラグ」と記載さ
れ,そのドットパターンが「一般コード」を示すことが記載されている。そ
うすると,これらのドットは,ドットの本来の位置と実際に配置された位置
との関係によってドットパターンのデータの種類を定義していることがう15
かがえる。
また,図5ドットパターンについて,【0072】Ⅲ,【0066】Ⅳには,
水平ラインから垂直ラインを抽出した後,「垂直ラインは,水平ラインを構
成するドットからスタートし,次の点もしくは3つ目の点がライン上にない
ことから上下方向を認識する。」という記載があり,垂直ライン上のドット20
の有無によってドットパターンの上下方向を認識することが記載されてい
る。しかし,ここでは,ライン上にドットがあるかないかだけを認識して上
下方向を判断することが記載されているのであって,構成要件D3・E4・
D5に係る構成である,本来のドットの位置と実際に配置されたドットの位
置との関係に基づいてドットパターンの向きが表現されることが記載され25
ているとはいえない。
これらによれば,図5ドットパターンについても,本件明細書3及び4は,
「ずらし方によって前記ドットパターンの向きを意味している」(構成要件
D3・E4),「ずれ方によって,前記ドットパターンの向きを認識する手段」
(構成要件D5)の構成について,何ら記載はないといえることとなる。そ
の他,本件明細書3及び4に,本件発明3~5における上記構成について説5
明していると解される記載は存在しない。
エ以上によれば,本件明細書3及び4には,「ずらし方によって前記ドット
パターンの向きを意味している」(構成要件D3・E4),「ずれ方によって,
前記ドットパターンの向きを認識する手段」(構成要件D5)の構成につい
て,具体的に何ら記載がないといえるし,具体的な記載がないにもかかわら10
ず,当業者が,技術常識に照らして上記構成を理解したことを認めるに足り
る証拠もない。
したがって,本件発明3の構成要件D3,本件発明4の構成要件E4,本
件発明5の構成要件D5は,本件明細書3及び4の発明の詳細な説明に記載
したものとは認められない。15
ア原告は,図5~図8において,「ドットパターンの向きを意味している」ド
ットは,「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」と兼用されている
と主張する。
しかしながら,図5~図8の記載は上記のようなものであって,そこでは
ドットが「x,y座標フラグ」又は「一般コードフラグ」として記載されて20
いるが,それ以外に,ドットパターンの向きに関する記載はない。そして,
明細書の発明の詳細な説明においても,【0071】~【0073】Ⅲ,【0
065】~【0067】Ⅳにおいては,ドットの本来の位置と実際に配置さ
れた位置との関係によってドットパターンの向いている方向を認識するこ
とについては何ら説明されておらず,また本件明細書3及び4のどこにも,25
ずれ方によってドットパターンの向きを意味するドットと,データ内容を定
義するドットとを兼用するとの説明は記載されていない。原告の上記主張に
は理由がない。
イ原告は,【0239】~【0241】Ⅲ,【0233】~【0235】Ⅳに
は,キードット(KD)につき,データ領域の範囲を定義する第1の機能と,
ずらし方を変更することによりドットパターンの向き(角度)を意味すると5
いう第2の機能を有することが示されており,図105及び図106(d)
では全てのキードット(KD)を一定の方向にずらすことによってドットパ
ターンの向きを表すことが開示されていると主張する。
しかしながら,これらは,図105ドットパターンに関する記載である。
前記⑵イのとおり,図105ドットパターンの情報の定義方法は本件発明310
~5の構成要件C3・D4・C5に係る構成の情報の定義方法と異なる。当
業者において,本件発明3~5の情報の定義方法と異なる情報の定義方法を
採用する図105ドットパターンに開示された構成をもって,本件発明3~
5の構成要件D3・E4・D5の各構成が開示されていると理解することは
できない。原告の上記主張には理由がない。15
5小括
以上によれば,本件発明1及び2に係る本件特許1及び2は特許法17条の2
第3項に違反し,本件発明3~5に係る本件特許3及び4は同法36条6項1号
に違反し,いずれも特許無効審判により無効にされるべきものである(同法12
3条1項1号,4号)。そうすると,その余を判断するまでもなく,原告は,同法20
104条の3第1項により,被告各製品が本件発明1~5の技術的範囲に属する
ことを主張して本件各特許権を行使することはできない。
第4結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官柴田義明
裁判官安岡美香子及び裁判官古川善敬は,転勤のため署名押印することが5
できない。
裁判長裁判官柴田義明
(別紙)
被告製品目録
1製品名「ミッキー・マジックペン・セット」
2製品名「ミッキー・マジックペン・アドベンチャー・セット」

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