弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数のうち180日を刑に算入する。
自動装てん式けん銃1丁(平成15年押第25号の1),弾倉1個(同号の2),
回転弾倉式けん銃1丁(同号の3)を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は
第1 現金輸送車内の金員を強取しようと企て,平成14年11月22日午前10
時27分ころ,名古屋市a区bc丁目d番e号所在の株式会社A銀行b支店内駐車
場において,同所に駐車中の現金輸送車の警備員B(当時29歳)及び同C(当時
55歳)に対し,死亡するに至るかもしれないことを認識しながら,あえて,所携
の自動装てん式けん銃1丁(平成15年押第25号の1,2)で,両名に向け,そ
れぞれ弾丸1発ずつを発射し,このうち1発を上記Cの右膝下を貫通させた上,左
膝下に命中させ,両名の反抗を抑圧して,同車内から,上記Bら管理に係る現金5
000万円入りのバッグ1個を強取したが,上記Cに加療約4週間を要する両下腿
挫滅創(銃創)の傷害を負わせたにとどまり,上記Bには命中しなかったため,い
ずれも殺害するに至
らず,その際,法定の除外事由がないのに,不特定若しくは多数の者の用に供され
る場所においてけん銃を発射した。
第2 法定の除外事由がないのに
 1 前記日時・場所において,前記自動装てん式けん銃1丁及び回転弾倉式けん
銃1丁(平成15年押第25号の3)を所持していたものであるが,前記自動装て
ん式けん銃1丁をこれに適合する実包23発とともに,上記回転弾倉式けん銃1丁
をこれに適合する実包5発とともに携帯した。
 2 同日ころ,同市a区bc丁目d番f号D北側駐車場に駐車中の軽四貨物自動
車内において,けん銃実包44発を所持した。
(証拠)(省略)
(事実認定の補足説明)
第1 被告人は,けん銃2発を発射したのは,いずれも警備員を威嚇制圧するため
であって,殺意はなかったと弁解し,弁護人も同様に主張する。一方,検察官は,
被告人には,確定的な殺意があったと主張する。そこで,当裁判所が判示事実を認
定した理由を以下補足して説明する。
第2 関係証拠により認められる事実
 1 被告人は,平成二,三年ころ,判示第1の自動装てん式けん銃及び判示第2
の1の回転弾倉式けん銃をそれぞれ適合する実包とともに入手し,平成5年ころま
での間に,実射して,それぞれのけん銃に発射機能があり,人を殺傷するに足りる
性能を有していることを十分認識していた。
 2 被告人は,けん銃を発砲して現金輸送車を襲撃し,現金を強取することを計
画して,周囲の状況等から考えて判示株式会社A銀行b支店(以下「b支店」とい
う。)であれば現金輸送車を襲撃するのに都合がよいと考え,二,三か月の間に数
回下見をし,現金輸送車が到着するのが午前10時30分ころであることを確認し
た。
 3 そして,被告人は,逃走用として小回りの利く軽四貨物自動車を入手した
上,ナンバープレートも取り替えたり,現金輸送車の到着を身を隠して待ち伏せす
るために,小型カメラを用意して,これらを設置予定場所と同色に塗装するなどし
て,発見されないように準備したり,人相が分からないようにするための変装用の
カツラやマスクなどを用意するなどして,現金輸送車を襲撃するための準備を整え
た。
 4 本件当日,被告人は,適合実包を装てんした自動装てん式けん銃1丁(以下
単に「けん銃」という。),回転弾倉式けん銃1丁や変装用具等を自動車に積載し
て,b支店に向かった。そして,b支店付近に停車した車内で,変装して,けん銃
及び上記回転弾倉式けん銃を腰に装着し,b支店北側駐車場に向かった。b支店北
側駐車場で,被告人は,小型カメラを設置するなどして,物陰に潜んで現金輸送車
の到着を待った。
 5 同日午前10時23分ころ,被告人は,小型カメラで現金輸送車が到着し
て,現金輸送車の警備員である判示Bが,車内からバッグ数個を取り出すのを確認
してから,けん銃を手に持ち,現金輸送車の方へ向かった。
 6 そして,被告人は,Bの左斜め後方から約3.4メートルないし4.4メー
トルの距離まで接近して,けん銃を両手で持って構え,いきなりBの左足膝下付近
を狙ってけん銃を発射した。
   発射された弾丸はBが着用していたズボンの左足膝上部(地上から約56セ
ンチメートル,裾から約53センチメートル,ウエスト下方から約47センチメー
トル)の布地部分を貫通し,現金輸送車の右側サイドステップ(地上から40セン
チメートル)を貫通し,その延長線上にあった現金輸送車のカーバッテリーに命中
した。
 7 判示Cは銃声を聞き,Bのいる方に行ったところ,被告人がけん銃をBに向
けて立っていた。そこで,Cは威嚇のため警棒を前に突き出し身構えて,被告人と
正対したが,被告人が銃口をCに向けたため,Cは後ろ向きに反転し逃げだそうと
した。そのとき,被告人は,被告人から約5.3メートルないし7.2メートルの
距離にいたCの下腿部付近を狙ってけん銃の弾丸1発を発射した。
   発射された弾丸はCの右下腿部を貫通して,左下腿部に命中し,Cは加療約
4週間を要する両下腿挫滅創(銃創)の傷害を負った。そして,Cの着用していた
ズボンの左側の裾から表側には約26センチメートル,裏側には約29センチメー
トル,右側の裏側には裾から約38センチメートルと36.5センチメートルの位
置に不整形の穴がある。
 8 その後,被告人は,けん銃の銃口をBに向けて威圧しながら,現金輸送車内
から現金5000万円入りのバッグ1個を強取し,さらに,銃口をBに向けて威圧
しながら,設置した小型カメラを取り外して回収した後現場から逃走した。
 9 しかし,Bは,被告人を追跡し,被告人が軽四貨物自動車に乗り込もうとし
たところで追いつき,被告人を自動車のドアと自動車の間に挟み,引っ張り出そう
とした。そのとき,被告人は,前記回転弾倉式けん銃を右手に持って銃口をBの顔
に向けて突き付けたが,Bがとっさに弾倉をつかみ,けん銃を取り上げたため,被
告人はけん銃を発射することなく,Bに現行犯逮捕された。
第3 殺意について
 1 以上のとおり,被告人は,殺傷能力を有するけん銃であることを認識しなが
ら,約3.4メートルないし7.2メートル離れた場所からB及びCに向けてけん
銃を発射したのである。そうすると,被告人が,それぞれ両名の膝下を狙ったとし
ても,弾丸がそれたり,あるいはBやCの動き次第では身体の枢要部である腹部等
や大腿部の動脈等に命中し,両名が死亡するかもしれないことが予想されるのであ
り,被告人においても上記の部位に当たれば死に至らせるおそれがあることを認識
していたものと認められるから,特別の事情がない限り,被告人は発射された弾丸
によりBやCが死亡するに至るかもしれないことを認識しながらあえて発射したも
のと推認できるというべきである。
 2 この点につき,被告人は,公判廷において,2人の警備員とも1発ずつ全く
同じ場所に,膝下の足すれすれにズボンに弾痕を残すように狙って発砲したもの
で,B及びCに対して殺意がなかった旨弁解する。
   しかしながら,被告人は,捜査段階においては下腿部を狙ったと供述してい
たもので,一貫性に欠ける。しかも,被告人は,捜査段階の供述を変遷させた理由
として,自分は格好よく犯行をしようと思っていたものの,結果が大きく違ってし
まったので,捜査段階では本当の意図を言い出せず,実況見分の際も現実に起こっ
た結果に従って再現したにすぎないと言うが,被告人は,実況見分の際,現実に結
果が生じたBの左足膝上部ではなく,同人の左足膝下付近を狙ったとして犯行を再
現し,また,Cが左右どちら向きに反転したかは覚えていないということで,それ
ぞれの場合について犯行を再現しているのであって,現実の結果に従ったという被
告人の供述はこれと整合しない。
   また,被告人は,ターゲットマスターという器具を使用するなどして,射撃
の練習をしていたから,自分は射撃の技術に自信があり,弾道が上下にぶれること
はなく,相手の膝より下の部分以外に命中することはないと確信していたとも弁解
する。
   しかし,被告人がターゲットマスターを用いて練習したというのは2年ほど
前までのことというのであり,現に本件犯行の際,被告人は約3.4メートルない
し4.4メートルの近距離で,しかも特に動いていたわけではない標的であるBの
膝下を狙って発砲したにもかかわらず,弾丸は地上から約56センチメートルの高
さにあるBの膝上の部位をかすめたという結果が生じている。加えて,被告人は,
何ら警告を発することなく背後からけん銃を発射することを予定していたのである
から,被告人に気付いていない作業中の警備員がどのような行動をとるか予測でき
ないし,被告人に銃口を向けられたCは後ろ向きに反転して逃走したが,とっさの
場合に伏せるなどして低い姿勢をとる可能性もあったのである。したがって,この
弁解もまた不合理で
あり,信用できない。なお,被告人は,射撃の技術に自信があったから2発しか発
射するつもりはなかったと言うが,自動装てん式けん銃には12発を装てんした
上,別に実包を装てんした弾倉や,回転弾倉式けん銃まで携帯して,状況によって
はさらに発射する準備をし,現にBに捕まりそうになった際回転弾倉式けん銃をB
の顔面に向けているのであって,これまた信用できない。
   以上のとおりであって,被告人の各弁解は不自然,不合理であって,信用で
きない。
 3 弁護人は,自動装てん式けん銃は比較的銃身が長く,精度が高いとか,Cの
傷害結果には生命侵害に至る可能性はなかったと主張する。
   しかし,前記のとおり,現にBについては近距離であったにもかかわらず,
被告人が狙った部位よりも離れた場所に弾丸が当たっていることからしても,銃身
が比較的長いことが狙った部位に必ず当たることを保証することにはならないし,
Cの傷害については,弾丸が命中した部位がたまたま死に至る危険性のないところ
だったというだけのことであるから,いずれも前記推認を覆す特別の事情とはなら
ない。
 4 そのほかにも,前記1の特別の事情は存在しないから,被告人は,B及びC
の身体の枢要部や大腿部の動脈等に命中したりして両名が死亡するに至るかもしれ
ないことを認識しながら,あえて発砲したものと推認できる。
 5 もっとも,前記認定のとおり,被告人は,Bについては左膝下を狙い,Cに
ついては下腿部付近を狙って発射したものであることなどからすると,確定的殺意
はなかったものと認められる。
第4 以上の次第であるから,判示第1のとおり認定する。
(法令の適用)
罰 条
第1           B及びCに対する強盗殺人未遂の点はそれぞれ刑法2
43条,240条後段,自動装てん式けん銃を発射した点は包括して銃砲刀剣類所
持等取締法31条,3条の13
第2の1         包括して銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,
1項,3条1項
第2の2         銃砲刀剣類所持等取締法31条の8,3条の3第1項
科刑上の一罪の処理
 第1           刑法54条1項前段,10条(B及びCに対する強
盗殺人未遂とけん銃発射はそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,
2発のけん銃発射は包括して一罪であるから,結局以上を一罪として刑及び犯情の
最も重いCに対する強盗殺人未遂罪の刑で処断する。)
 第2           刑法54条1項前段,10条(重い第2の1の罪の
刑で処断する。)
刑種の選択
第1           無期懲役刑
法律上の減軽        
 第1           刑法43条本文,68条2号(未遂減軽)
併合罪の処理        刑法45条前段,47条本文,10条,14条(重
い第1の罪の刑に法定の加重をする。)
未決勾留日数の算入     刑法21条
没 収           
 自動装てん式けん銃1丁(平成15年押第25号の1),弾倉1個(同号の2)
              刑法19条1項2号,2項本文(第1について)
 回転弾倉式けん銃1丁(同号の3)
刑法19条1項1号,2項本文(第2について)
(量刑の理由)
 本件は,現金輸送車の襲撃を企てた被告人が,けん銃2丁等を用意して,警備員
2名に向けてけん銃をそれぞれ1発発砲し,1名に加療約4週間を要する傷害を負
わせた上,5000万円入りのバッグを強取し(第1),その際上記自動装てん式
けん銃1丁及び回転弾倉式けん銃1丁をそれぞれ適合実包とともに携帯したほか,
けん銃実包44発を所持した(第2)という悪質重大事案である。
 被告人は,あらかじめ現金輸送車を襲撃する場所を何度も下見に行き,逃走用車
両を準備したり,身を隠して現金輸送車の到着を待ち伏せできるように小型カメラ
を準備するなどした上,不発の場合を考えて2丁のけん銃を用意し,全身を変装す
るなどして敢行しており,本件は用意周到で,綿密に計画された犯行である。その
上,被告人は,警備員の後方からいきなりけん銃を発射し,逃げだそうとしたもう
1人の警備員に向かっても後方からけん銃を発射して命中させており,犯行態様が
危険で悪質である。幸い致命傷とはならなかったものの,弾丸が命中した部位が悪
ければ,死に至る危険性は十分にあったのであり,加療約4週間を要する両下腿挫
滅創(銃創)という傷害結果も重大である。そして,被告人は,計画どおり500
0万円入りのバッグ
を強取してもいて,この結果も重大である。被告人は,収入や資産がないことなど
から今後の生活に不安を覚え,一攫千金を夢見て犯行を決意したもので,動機にも
酌むべき事情はない。被害者両名には,何の落ち度もなく,被害感情は厳しいが,
いまだ被害弁償はなされていない。また,銃砲刀剣類所持等取締法違反の点も,装
てんした状態の適合実包合計28発とともにけん銃2丁を携帯したほか,けん銃実
包44発を所持し,現に発砲したもので,この犯情も悪い。本件各犯行が付近住民
に与えた不安や社会に与えた影響も軽視できない。
 被告人が,けん銃を使用した殺人罪等により無期懲役の判決を受け,長年受刑し
ていたにもかかわらず,今回再び上記のとおりの動機でけん銃を使用した本件犯行
に及んだものであることも併せ考慮すると,被告人の刑事責任は非常に重いといわ
なければならない。
 一方,殺意は未必的なものにとどまること,被告人が被害者に対し謝罪の言葉を
述べたこと,警備員が逃走しようとした被告人を現行犯逮捕した結果とはいえ,5
000万円入りのバッグが返還されたこと,被告人は,昭和61年11月4日,恩
赦により前記無期懲役の刑の執行を免除されているが,それ以前の同51年3月2
5日に仮釈放となってからの犯罪歴は認められないこと,被告人が現在73歳と高
齢であることなどの事情もある。
 そこで,これらの諸事情を総合考慮して,主文のとおり判決することとする。
(求刑-懲役20年,けん銃2丁の没収)
平成15年9月4日
名古屋地方裁判所刑事第3部
裁判長裁判官  片  山  俊  雄
裁判官  岩  井  隆  義
裁判官  石  井     寛

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