弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 控訴人の被控訴人に対する、昭和五八年一〇月二四日受領第「公開-八
三」号公文書公開請求に対し、被控訴人が同年一一月七日付けでなした公開拒否処
分を取り消す。
(三) 訴訟費用は、差戻しの前後を通じ、第一、二審とも被控訴人の負担とす
る。
2 被控訴人
本件控訴を棄却する。
二 当事者の主張
当事者双方の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただ
し、次のとおり付加、訂正、削除する。
1 原判決書三丁表一行目「尺一〇〇分の一」の後に「。以下「本件立面図」とい
う。」を、「縮尺一〇〇分の一」の後に「。以下「本件断面図」という。」を加え
る。
2 原判決書五丁表三行目の次に行を変えて、次のとおり加える。
(二) 個人に関する情報
行政処分の適否の判断は、処分時の事実関係及び法令に従って判断すべきであっ
て、控訴人が殊更に決定を長期間遅延させて、事実関係の変動を作出したというよ
うな特段の事情のないかぎり、処分時の事実関係を前提にして、公開非公開の決定
を行なうべきであるところ、本件処分がなされた昭和五八年一一月七日の時点では
本件マンションは完成し、入居者への引渡しが進行していたのであるから、本件平
面図は個人に関する情報である。
なお、公開請求の時点においても、本件マンションはほとんどの居室の販売が完了
し、かつ、程なく、鍵の引渡し及び住民票の異動も開始されたのであるから、かか
る状況のもとでは本件平面図は同様に個人に関する情報である。
3 同所四行目「(二)」を「(三)」に改め、四行目の次に行を変えて、次のと
おり加える。
(1) 条例五条一項一号本文は、「特定の個人が識別され、又は識別され得る」
もの、つまり、特定個人の識別可能性のあるものについては、これを非公開とする
ことができる旨を明記しているところ、特定個人の識別可能性があるというために
は、具体的氏名が明示されていることを要しないのは、その文言上からも明らかで
ある。そして、本件平面図は、所在及び名称が特定されている居住用分譲マンショ
ンに関するもので、しかも具体的な階及び位置、部屋ごとの面積、間取り及び構造
等も明示されたマンションの所有者ないし居住者という特定が可能である。
つまり本件平面図は、右のような特定個人の識別可能性を有する情報である。
4 同所五行目の冒頭に「(2)」を加える。
5 同丁裏三行目冒頭から六丁表五行目までを削除する。
6 九丁裏四行目の冒頭に「I」と加え、同末行の次に行を変えて、次のとおり加
える。
II 本件各図面は、資格を有する設計者が、地形、地勢、周囲の環境、法令等の
技術的基準、需要、経済状態、販売コストないし販売政策上の配慮、施工条件、施
工上の効率、利用者の利便性、耐久性、外観等の広範な諸要素を考慮し、その技
能、知識、経験、感覚等を駆使して考案し、作成したものであって、図面上の線、
図形、数値ないし文字等の一つ一つ及びその複合的総体がノウハウないし創意工夫
の所産である。そして、設計者のノウハウないし創意工夫は、法定の記載事項に限
定されるものではなく、当然のことながら、法定外記載事項にも具現されていると
ころ、本件各図面には、法定外記載事項は少なくない。
すなわち、本件各図面は、海浜地帯の不整形地に建築された地上五階建ての居住用
マンションに関する設計図書であり、また、前面が有料道路であるという特殊事情
もあるために、さまざまな要素を考慮する必要があった。太陽企画は、本件敷地が
不整形地であること、本件建物が一般住宅用マンションであるため、その機能を維
持しつつ、コストダウンを図る必要があること、海岸近くのマンションであって、
各室の採光を十分に保持するとともに、建物をできるだけ大きく、立派に見せる必
要があること等を考慮し、建物を雁行形としつつ、部屋の配置及び間取り、通路の
位置及び形状等に工夫し、同時に潮害及び水害を防止するため、本件建物の一階の
地上からの高さを大きく取りつつ、各階の高さを違える等の工夫を凝らし、また、
塩害を防止するため、壁厚を考慮するとともに、設計上のこれらの考慮を正しく伝
えるため、外壁等の材質及び仕上方法等を本件各図面に記載したものである。
III これを各図面ごとに具体的にみると次のとおりである。
(A)本件平面図
ア 太陽企画は、各室の用途、配置及び形状ないに大きさ、各室の組み合わせ、各
室と廊下、壁及び開口部の位置及び組み合わせ等に創意工夫を凝らした。その結
果、
(1) すべての住居が海又は河川に面し、眺望を楽しむとともに、十分な採光が
得られることを可能とした。
(2) 開口部の窓については十分な採光とともに、使用上の便宜等に適した位置
及び形状ないし大きさとした。
(3) 本件建物をV字型及び雁行形としたことによって生ずる三角形ないし狭小
な空間をできるかぎり少なくし、或いはそれらの空間の有効的利用を可能とした。
(4) 水害対策により、床を高くする一方で、法令の高さ制限内に、五階建ての
本件建物全体がおさまるように、各階の高さを一般の建物よりも狭めたにもかかわ
らず、快適な居住空間を確保できるだけの十分な天井の高さを取る必要から、通常
は、床下で処理する各種配管について、平面的な技術処理を施し、床下での処理を
行わないことを可能とした。
(5) 各住居相互間のプライバシーの侵害を回避した。
(6) 必要な部屋の戸数を確保する一方で、各居住者の使いやすさと住み心地を
十分に満足させる居住空間を作ることを可能とした。
イ 本件平面図には、「延焼のおそれのある部分の外壁の構造」をも明示すべきと
ころ、防火、塩害、外観及び保守管理上の配慮等から、右外壁及び開口部の構造並
びに材質を決定し、それを表示した。
ウ 本件平面図には、各種付属物の位置、地盤高、各階の床等の高低差、避難施設
及び工作物の位置、道路等の敷地の形状等を明示し、これにより本件建物の品質を
確保し、全体的でき上がり及び周辺との関係をイメージさせ、設計者の意思が依頼
主及び施工業者に正確に伝達され、手戻り等のないように、施工が十分かつ効率的
に行なわれるよう配慮した。
エ 本件平面図に、各部分の床面積、開口部の面積、必要採光面積等の計算表、タ
イプ別住居の戸数及び専有面積を表示し、これにより施工監理、建築確認及び保守
管理における点検等を可能とした。
(B)本件立面図
ア 本件立面図には、「開口部の位置」を明示すべきところ、太陽企画は、開口部
たる窓の位置及び大きさについて、採光及び使用上の便宜等を考慮し、かつ東西南
北各面から見た本件建物全体の形が、デザイン的に優れたものとなるように配慮
し、手すり等の位置及び形状ないし大きさと整合させるとともに、本件平面図及び
断面図との整合性を検証して決定した。
イ 本件立面図には、「延焼のおそれのある部分の外壁及び軒裏の構造」を明示す
べきところ、本件建物全体の外壁及び軒裏については、防火、塩害、外観及び保守
管理上の配慮等から、構造を決定し、仕上げの材質を明示するとともに、仕上げ方
法を指示し、これによりその品質を確保するとともに、設計者の意図が依頼主及び
施工業者に正確に伝達され、手戻り等がなく、施工が十分かつ効率的に行なわれる
配慮した。
ウ 湿気対策、保守管理上の配慮から、床下換気パイプ、誘発目地、通気管、笠木
等の各種付属物を設置することとし、建物の外観及び機能等を考慮し、その位置を
決定、明示するとともに、一部の付属物については、寸法及び仕上げを指示し、か
つ施工要領を明示し、これにより、その品質を確保するとともに、設計者の意図が
依頼主及び施工業者に正確に伝達され、手戻り等がなく、施工が十分かつ効率的に
行なわれるよう配慮した。
エ 本件立面図には、縮尺も明示されているのであるから、図上の計測により、建
築物の高さ、建築物の幅及び各階ごとの高さ等を知ることができるから、これに関
する創意工夫等も推知しうる結果となる。
(C)本件断面図
ア 本件断面図には、「床の高さ、各階の天井の高さ、軒及びひさしの出並びに軒
の高さ及び建築物の高さ」を明示すべきところ、
(1) 各断面における地盤高を表示した。
(2) 敷地の有効利用を増進するために適切な建物の幅を決定して表示した。
(3) 水害対策のため、地盤高、建築物の高さ、玄関の位置及び接道条件(前面
道路がやや傾斜)との関係等を考慮しつつ、床を高くして、これを表示した。
(4) 床を高くする一方で、法令の高さ制限内に、五階建ての本件建物全体が収
まるように各階ごとの高さを一般の建物よりも少しずつ狭めて表示した。
(5) 各階ごとの高さを狭めたとしても、快適な居住空間を確保する必要があ
り、そのために必要な天井の高さを決定し、これを表示した。
(6) 防音対策として、各階の床及び壁の厚さを一般の建物及び法令の基準より
も厚くしてこれを表示した。
(7) 建築物の法令の高さ制限及び技術基準に適合するように、軒の高さ及び廊
下の手すりの高さを定め、これを表示した。
(8) これらの配慮が、依頼主及び施工業者に十分伝達されるように、建築物の
高さ及びこれらの各部分との相互関係を明示した。
イ 防音対策のために、床、天井及び壁について、その材質を指示するとともに、
仕上げ方法を明示し、設計者の意図が依頼主及び施工業者に正確に伝達され、手戻
り等がなく、施工が十分かつ効率的に行なわれるよう配慮した。
ウ 塩害対策のため、外壁及びベランダの壁を厚くするとともに仕上げ方法を明示
し、品質確保に努めた。
エ 塩害対策及び防水機能維持のため、屋上の防水部分について、材質及び仕上げ
方法を指示し、これにより、品質を確保するとともに、設計者の意図が依頼主及び
施工業者に正確に伝達されるよう配慮した。
オ 柱及び梁の位置、形状及び寸法について、構造強度及び経済性を配慮して定
め、これを明示することにより、建築物の品質を確保するとともに、施工上の便宜
等に配慮した。
カ 法令の基準及び使用上の便宜等を考慮し、階段部分の形状及び位置、各階の高
さを決定し、これを表示するとともに、塩害対策から、階段部分の材質を指示し、
かつ、仕上げ方法を明示し、これにより品質を確保するとともに、設計者の意図が
依頼主及び施工業者に正確に伝達されるよう配慮した。
キ 建築物の機能、構造、使用上の便宜等を考慮し、各室の用途(種別)各種付属
物の位置等を決定、表示し、品質確保、施工の便宜等に配慮した。
I V したがって、本件各図面には、設計者のノウハウないし創意工夫が存在す
ることは明らかであるから、本件各図面を公開することにより太陽企画に「明らか
な不利益を与えると認められる」というべきである。
7 一〇丁表九行目「示した。」の後に「なお、控訴人は、口頭で写しの交付を請
求したというべきであるから、公表権侵害の点のみならず複製権侵害の点も考慮す
べきである。」を加える。
8 一一丁表四行目の次に行を変えて、次のとおり加える。
3 部分公開義務について
控訴人は、本件について部分公開をすべきであると主張する。しかし、控訴人は、
これまでこの問題を全く主張してこなかったものであり、これを当審において主張
するのは、時機に遅れた攻撃防御方法である。
仮にそうでないとしても、
(一) 本件各図面のような設計図書においては、図面に表示された線、図形、数
値ないし文字等の記述の一つ一つ、並びにその複合的総体が、設計者のノウハウな
いし創意工夫の所産であるのみならず、本件平面図、立面図及び断面図は、それら
相互間においてはもとよりのこと、他の設計図書とも密接な関連を有するのである
から、ノウハウないし創意工夫の部分とそれ以外の部分を容易かつ請求の趣旨を失
わない程度に合理的に分離することは実際上不可能である。仮に両者を分離し、記
述の一部分を抹消しえたとしてもそのことによりかえって、抹消された表示をあら
わにし、ノウハウないし創意工夫を推知させる結果となる。
また、個人が入居していない部屋についても、本件マンションが居住用のマンショ
ンであるから、仮に入居者がいない部屋があったとしても、その部屋には程なく入
居することが予定され、かつ、その部屋の内容は、入居者のいる部屋のそれと関連
性及び共通性を有している部分が存在するのであるから、本件平面図の全体につい
て非公開とされるべきである。
(二) 条例五条二項は、実施機関に対し、公開できる部分と非公開とする部分が
容易に分離できるか否か、容易に分離できる場合、それが請求の趣旨を失わない程
度に合理的に分離できるか否か、二段にわたる検討を行なわしめる趣旨である。そ
して、容易に分離できる場合とは、物理的困難を伴わないで、かつ、多くの費用と
時間をかけないで分離できるという趣旨であり、また請求の趣旨を失わない程度に
合理的に分離できるとは、請求の趣旨から判断して、請求者が知りたい情報の内容
が、非公開条項に該当する情報を分離して、残余の情報のみによって、なお十分知
り得る程度に分離できるという趣旨である。本件各図面においても、非公開条項に
該当する情報を削除した場合、残余の情報は、きわめて形式的な内容の情報にすぎ
ないから、全体を非公開とするのは当然である。
9 同所五行目「3」を「4」に改める。
10 一二丁裏七行目の次に行を変えて、「同1(二)の事実は否認し、その主張
は争う。」を加え、同所八行目「同1(二)」を「同(三)」に改め、同所一〇行
目を抹消する。
11 一三丁表六ないし八行目を「同2(二)(2)の主張は争う。」に改める。
12 同丁裏六行目の次に行を変えて、「3同3は争う。」を加え、同所七行目
「3」を二箇所とも「4」に改める。
13 一七丁裏四行目「要するものである。」の後に次のとおり加える。分譲マン
ションについては、広告等によりその間取り等は一般に知らされるものである。こ
れをプライバシー侵害とはいえない。現に、本件に先立って入居前に公開請求した
際には、神奈川県公文書公開審査会は、本件平面図について個人に関する情報には
当ならないと答申し、県知事も同旨の決定をしている。そして、入居後について
も、図面自体は、それ以前の図面と何ら変わるものではなく、入居者の日常生活が
わかるものではない。しかも、本件マンションの半分くらいは企業がリゾートに利
用しているということであり、本件マンションについては、個人の生活の拠点とま
ではいえない。
14 一八丁裏一〇行目の次に行を変えて、次のとおり加える。
仮に、他の資料を用いることにより、「容易に」識別可能である場合にのみ非公開
とできると解したとしても、どのような場合にどのような範囲で他の資料を用いる
ことができるのかが全く不明である。結局、どのあたりの情報まで合わせて考える
べきなのか定かでなければ情報公開の精神は失われる。
15 二二丁表一〇行目「(三)」を削除し、同丁裏二行目冒頭から九行目末尾ま
でを次のとおり改める。
(三) 著作権侵害について
被控訴人は、本件各図面の公開は太陽企画の著作権を侵害すると主張する。
(1) 本件各図面は、著作権法が侵害対象としている著作物には当たらない。本
件各図面の詳細は明らかではないが、これまで本件建物と同じ「ライオンズマンシ
ョン」と称して販売されている建物は、既に建築雑誌などにおいて公表されている
各部分のつなぎ合わせ的なものが多く、その意味で独創性が少ない。
(2) 控訴人は、本件においては写しの交付を請求していない以上、複製権の侵
害となることはない。
仮に、本件条例により、控訴人が著作物の写しの交付を請求していたとしても複製
権の対象とはならない。著作権法は、複製権を認めているが、すべての場合に複製
を禁じているのではなく、一定の場合(例えば、図書館の場合や裁判手続、立法、
行政目的の利用)には複製を認めている。このように著作者の権利は絶対的なもの
ではなく、公益性を有する目的の場合には複製が許されるのであり、条例に基づく
情報公開制度も右の場合に類するものであり、その範囲で複製は許される。
(3) 公表権についても、本件各図面のように、公開を予定して作成され、一般
に広く公開されてきた図面は、その対象とはならない。
仮にそうでなくとも、太陽企画が、本件各図面を建築確認申請書に添付したような
場合、遅くとも確認申請時期には公表に付したと解される。
(4) 本件各図面が公表の対象となり、かつ著作権者が公開に異議を述べたとし
ても、そのことだけでは直ちに「明らかに不利益を与える」ことにはならない。す
なわち、本件各図面が著作物であるとしてもその公開がいかなる意味で「明らかに
不利益を与える」ことになるかが立証3されなければならない。。しかもその判断
に際しては、当該情報の公開による「知る権利」の保障と非公開による不利益を比
較衡量しなければならない。
被控訴人は、太陽企画がさまざまな配慮をしている旨主張するが、それがあるから
といって「明らかに不利益を与える」とはいえない。公開することが設計者に「明
らかに不利益を与える」といえるためには、各図面について、次のようなことがい
えなければならない。
(1) 図面に現れている工夫がそれまでに考えられたことのない独創的なもので
なければならない。
(2) 仮に独創的な工夫があったとしても、それが既に公表されている他の図面
や建物の外観など、他の手段で知ることができるものであれば、その公開が不利益
を与えることにはならない。
(3) 本件図面が公開されてもそれだけでは「独創的な工夫」が明らかにならな
いのであれば、やはり、「明らかに不利益を与える」ことにはならない。
このような観点から本件各図面を個別に検討すると、いずれも独創性に欠けるか、
そのような工夫があるとしても他の方法で判明するものであるし、本件各図面の公
開により始めて独創的工夫が公表されるとしても、一部を非公開にすることだけで
その工夫が明らかにならないようにできるはずである。
16 二四丁裏三行目の次に行を変えて、次のとおり加える。
7 部分公開義務違反
条例五条二項は、「実施機関は、公文書に前項各号のいずれかに該当する情報とそ
れ以外の情報とが記録されている場合において、当該該当する情報とそれ以外の情
報とを容易に、かつ、公文書の閲覧又は公文書の写しの交付を求める趣旨を失わな
い程度に合理的に分離できるときは、同項の規定にかかわらず、当該該当する情報
が記録されている部分を除いて、当該公文書の閲覧をさせ、又は当該公文書の写し
を交付しなければならない。」と規定する。
したがって、本件各図面についても、五条一項二号の非公開事由に該当する特別な
ノウハウに関する記載、同項一号に該当する個人が入居している部分の記載を抹消
した上で、公開すべきものである。
17 同所四行目「7」を「8」に改める。
三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実(本件拒否処分の存在)は当事者間に争いがない。
二 本件拒否処分及び本件各図面の概要
1 本件拒否処分に至る経緯
成立に争いのない乙第六ないし第一一号証、第一三号証、第二三号証、原本の存在
及び成立に争いのない乙第二〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認
められる乙第二六号証の二、原審証人Aの証言及び原審における控訴人本人尋問の
結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 太陽企画は、訴外小松建設工業株式会社から本件マンションの設計及び建
築確認申請を委任され、昭和五七年一一月一二日、神奈川県横須賀三浦地区行政セ
ンター建築主事に対し、建築確認申請をなし、同年一二月八日、建築確認を受け
た。本件マンションは、右小松建設の施工、太陽企画の監理によって昭和五八年二
月ころに着工され、同年一〇月三日、右建築主事から検査済証が交付された。な
お、本件マンションは、昭和五七年一二月二三日から、訴外大京観光株式会社によ
って「ライオンズマンション逗子海岸」の名称で販売されるに至っている。
(二) 控訴人は、被控訴人に対し、昭和五八年四月一日、条例に基づき本件マン
ション建築確認申請書及び添付書類すべてについて、その公開を請求した。神奈川
県知事は、これに対し、請求にかかる文書のうち、確認申請書、附近見取図、配置
図、日影図、関連法令の許可書(写)については公開したが、審議カード、平面
図、立面図、断面図、伏図、構造詳細図(計算書)及び室内仕上表を非公開とする
旨の決定をなした。これに対して控訴人から、同年五月一二日、右の非公開とされ
た文書について異議申立てがなされたが、被控訴人は、神奈川県公文書公開審査会
の答申(右答申は、非公開とされた平面図、立面図、断面図、伏図、構造詳細図
(計算書)及び室内仕上表は、法人である設計者がその知識と技能を駆使して創作
する貴重な知的生産物であり、相当の報酬を支払う依頼主だけに使用目的を特定し
て提供する設計者にとっての貴重な財産であるという性格を持つ設計図書であり、
その設計者は、右設計図書に関する人格上及び財産上の権利を持っているから、こ
れらを公開することは明らかに設計者の人格上及び財産上の権利を侵害することに
なり、したがって、これらは、条例五条一項二号に規定する「公開することによ
り、当該法人等又は当該個人に明らかに不利益を与えると認められる」情報に該当
し、かつ、同号ただし書ア、イ又はウのいずれの規定にも該当しないので、これら
を非公開としたのは妥当であるが、審議カードについては、一部を除けば、同号に
規定する前記情報に該当しないと解されるから、一部を除いて、公開すべきであ
る、というものであった。)を経て、同年九月二四日、審議カードの一部を除いて
公開すべきであり、その余の文書の非公開は妥当である旨決定した。
(三) 控訴人は、同年一〇月二四日、非公開とされた右文書のうち、本件各図面
に絞って再度の公開を請求した。被控訴人は、同年一一月五日、太陽企画から公開
の可否について意見を聴取したところ、太陽企画は、「個人が利用する建物を建築
販売することを業としているので平面図等を公開されると犯罪問題等が発生する可
能性があるので営業上支障が出ることも考えられる。また、設計業務も営業してい
るので設計図書を公開されると技術の盗用のおそれもあるので公開されることは支
障がある。」旨回答した。被控訴人は、右回答を基礎に、同年一一月七日、本件各
図面全部について非公開の決定をした。これによれば、本件平面図については、
「入居者の引渡しがすすんでいる現時点においては特定の入居者が生活する住居の
間取りを示す特定個人に関する情報である」こと(条例五条一項一号該当)及び
「明らかに設計者の人格上及び財産上の権利を侵害することになると認められる」
こと(条例五条一項二号該当)が理由とされ、本件立面図及び本件断面図について
は、「明らかに設計者の人格上及び財産上の権利を侵害することになると認められ
る」こと(条例五条一項二号該当)が理由とされた。
2 本件各図面の内容
(一) 本件において公開を請求されている図面は、本件マンション建築確認申請
において添付された、太陽企画作成にかかる縮尺二〇〇分の一の各階平面図、縮尺
一〇〇分の一の立面図及び断面図である。証人Aの証言により真正に成立したもの
と認められる乙第三七号証の二及び証人Bの証言によれば、設計図は、意匠設計
図、構造設計図及び設備設計図に分けられるが、建築確認申請において必要とされ
る平面図、立面図及び断面図は意匠設計図に該当することが認められる。
建築基準法施行規則一条一項の表は、平面図、立面図、断面図について明示すべき
事項を次のとおり定めている。
(1) 平面図
縮尺、方位、間取、各室の用途、壁及び筋かいの位置及び種類、通し柱、開口部及
び防火戸の位置並びに延焼のおそれのある部分の外壁の構造
(2) 二面以上の立面図
縮尺、開口部の位置並びに延焼のおそれのある部分の外壁及び軒裏の構造
(3) 断面図
縮尺、床の高さ、各階の天井の高さ、軒及びひさしの出並びに軒の高さ及び建築物
の高さ
(二) 成立に争いのない乙第四三号証及び弁論の全趣旨によれば、右の規定は、
建築確認申請書に添付する図面として記載すべき最低限度の事項を明示したにとど
まり、本件各図面には、これらのほか次の法定外事項が記載されていることが認め
られる。
(1) 平面図
(1) 各種付属物の位置 (2)各部分の高低差 (3)各部分の寸法 (4)
各部分の仕上 (5)構造物の位置 (6)各種計算表 (7)避難施設の位置 
(8)各種工作物の位置 (9)敷地の形状 (10)植栽の位置 (11)タイ
プ別住戸の戸数 (12)タイプ別住戸の専有面積 (13)特記事項
(2) 立面図
(1) 各種付属物の位置 (2)各種付属物の寸法 (3)各部分の仕上 
(4)特記事項
(3) 断面図
(1) 各室の形状 (2)各部分の形状 (3)各部分の寸法 (4)各部分の
仕上 (5)各部分の高低差 (6)各種付属物の位置 (7)各種付属物の寸法
 (8)各種付属物の材質
三 条例の趣旨及び内容
1 神奈川県における情報公開制度の沿革をみるに、成立に争いのない甲第一ない
し第三号証、第六号証、成立に争いのない乙第二ないし第五号証によれば、次の事
実を認めることができる。
(一) 神奈川県では、昭和五四年五月に県民部主体の情報公開準備委員会が設置
され、昭和五五年八月、右委員会により「情報公開制度に関する調査研究中間報
告」(以下「中間報告」という。)がなされた。さらに、情報公開の制度化に向け
て、同年八月、全庁的規模の神奈川県情報公開準備委員会が設立され、諸種の調査
研究の末、昭和五六年九月、「情報公開制度に関する調査研究報告書」(以下「準
備委員会報告書」という。)が発表された。これによると、情報公開の制度化の基
本的考え方として
(1) 原則公開の精神に立って、非公開とすべき事項は必要最小限のものとす
る。
(2) 個人のプライバシー保護を最大限に配慮する。
(3) 制度化の目的が十分に確保されるシステムをつくる。
(4) 地方自治体としての本県の実情に合った制度により実施する。
ことが挙げられている。
(二) 神奈川県は、昭和五六年九月、知事の委嘱を受けた県民代表、市町村代表
及び学識経験者三〇名からなる神奈川県情報公開推進懇話会を設置し、同懇話会
は、昭和五七年七月「神奈川県の情報公開制度に関する提言」(以下「懇話会提
言」という。)を発表した。懇話会提言は、基本的考え方として、情報公開の制度
化に当たって、
(1) 原則公開の精神に立って、非公開とすることができる情報は、必要最小限
にとどめる。
(2) 個人のプライバシーは、最大限に保護されるよう配慮する。
(3) 県民主体の精神にのつとり、開示手続の簡素化、公文書の整理等、制度の
目的が十分に確保されるようなシステムをつくる。
(4) この制度にふさわしい救済機関を設ける。
ことに留意する必要があるとした。また、懇話会提言は、適用除外事項を定めるに
当たっての基本的考え方を
示し、その中で
(1) 非公開とすることができる情報は、必要最小限とすべきである。
(2) 非公開とすることができる情報の範囲を明らかにする適用除外事項は、具
体的な例をあげるなどして、限定的な表現にすべきである。
とした。
(3) 神奈川県は、同年九月、懇話会提言を受けて、県条例案を発表し、これは
同年一〇月に県議会を通過した。
この際、県議会は、「第一二者情報の公開に当たっては、その取り扱いに慎重を期
すること。」との項を含む六項目の付帯決議をなした。条例は、昭和五八年四月一
日施行されたが、神奈川県は、右の施行に先立って、「神奈川県の機関の公文書の
公開に関する条例施行規則」を制定し、さらに同年三月一〇日、「神奈川県の機関
の公文書の公開に関する条例の解釈及び運用の基準」(以下「運用基準」とい
う。)を定め、これに基づく条例の統一的運用を図っている。
2 条例は、その第一条において、「地方自治の本旨に即した県政を推進する上に
おいて公文書の公開が重要であることにかんがみ、公文書の閲覧等を求める権利を
明らかにするとともに公文書の閲覧等に関して必要な事項を定めることにより、一
層公正で開かれた県政の実現を図り、もって県政に対する県民の理解を深め、県民
と県との信頼関係を一層増進することを目的とする。」と定め、さらに、第二条に
おいては、「実施機関は、公文書の閲覧及び公文書の写しの交付を求める権利が十
分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において
は、個人の秘密、個人の私生活その他の他人に知られたくない個人に関する情報が
みだりに公にされないように最大限の配慮をしなければならない。」として、条例
の解釈運用方針を明らかにしている。
3 ところで、条例は、その第五条一項において、「実施機関は、次の各号のいず
れかに該当する情報が記録されている公文書については、当該公文書の閲覧又は当
該公文書の写しの交付を拒むことができる。」と規定し、その各号で非公開とする
ことができる公文書を定めているが、これは、県民の付託のもとに立法機関たる神
奈川県議会が、公文書公開の要請と第三者である個人のプライバシー保護や同じく
第三者である法人等の権利保護の要請及び公平かつ円滑な行政遂行の必要等との調
和を図りつつ、その結実として規定したものであるから、請求にかかる文書を公開
するか否かは、その法文の解釈を中心になされることとなる。
四 条例五条一項二号該当性
1 条例五条一項二号本文
(一) 条例五条一項二号本文は、非公開事由として「法人その他の団体(国及び
地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営も個人
の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該個人
に明らかに不利益を与えると認められるもの。」と規定する。
ところで、本件各図面が、法人等に関する情報に当たることは、前記認定の事実か
ら明らかであるから、条例五条一項二号本文に該当するかどうかは、本件各図面の
公開により、当該法人等すなわち本件では太陽企画に対し、「明らかに不利益を与
えると認められる」かどうかにかかることになる。
(二) 右非公開事由の立法過程における変遷をみるに、前掲甲第二号証、第六号
証によれば、中間報告では、「法人、団体等に関する情報で、公開することによ
り、当該法人等に重大な不利益を与えるもの」を公文書公開の適用除外事由とした
こと、その後の準備委員会報告書では、単に「当該法人等に不利益を与えるおそれ
のあるもの」を非公開とすることができるとされたこと、そして、懇話会提言によ
れば、「当該法人等に著しく不利益を与えるおそれのあるもの」が非公開事由とな
ったこと、以上の経緯を経て、条例五条一項二号本文は、「明らかに不利益を与え
ると認められる」ことを要件とするに至ったこと、を認めることができる。
右の経緯及び規定の文言からすると、条例第五条一項二号本文の「明らかに不利益
を与えると認められるもの」という規定は、「当該法人等に不利益を与えるおそれ
のあるもの」という比較的緩やかな文言も、「当該法人等に重大な不利益を与える
もの」或いは「当該法人等に著しく不利益を与えるおそれのあるもの」という比較
的厳格な文言もともに退けた規定であり、したがって、同項の「明らかに不利益を
与えると認められる」とは、文書を公開することにより法人等が不利益を受ける
「おそれ」があるにすぎない場合では不十分である一方、その不利益が「重大」若
しくは「著しい」ものであることを要しない趣旨であると解される。したがって、
右規定は、法人等に与える不利益の大小を問わないが、不利益を与えることが客観
的かつ明白なものでなければならないことを定めたものと解すべきである。
(三) そこで、本件各図面の公開により、太陽企画に対し、明らかに不利益を与
えると認められるかどうかについて検討する。
(1) まず、本件各図面は、太陽企画が自己の営業活動の用に供する目的で本件
マンションの建築工事のために作成した設計図面であるところ、前掲乙第三七号証
の二、成立に争いのない乙第四六号証の二、原審証人Aの証言によれば、本件各図
面は、専門的知識と技能を有する設計者が、その知識、技能、経験を駆使して作成
したものであり、設計者は、次のとおり、ノウハウないし創意工夫があると考えて
いることが認められる。
本件敷地が海浜地帯の不整形地であり、前面が有料道路であるという特殊事情があ
るために、さまざまな要素を考慮する必要があった。すなわち、ニーズや依頼主の
希望に即したものとすること、建物の機能を維持しつつコストダウンを図ること、
建物をできるだけ大きく立派に見せる必要があること、塩害及び水害対策を講じる
こと等を主要な条件として考慮し、建物を正面を海に向けた雁行形としつつ、部屋
の配置及び間取り、通路の位置を工夫し、同時に潮害及び水害を防止するため、本
件マンションの一階の地上からの高さを大きく取りつつ、各階の高さを違える等の
工夫を凝らした。
(A) 本件平面図
(ア) 太陽企画は、各室の用途、配置及び形状ないし大きさ、各室の組み合わ
せ、各室と廊下、壁及び開口部の位置及び組み合わせ等に創意工夫を凝らした。そ
の結果、
(1) 本件マンションをV字型及び雁行形としたことによって生ずる三角形ない
し狭小な空間をできるかぎり少なくし、或いはそれらの空間の有効的利用を可能と
した。
(2) 水害対策により、床を高くする一方で、法令の高さ制限内に、五階建ての
本件マンション全体がおさまるように、各階の高さを一般の建物よりも狭めたにも
かかわらず、快適な居住空間を確保できるだけの十分な天井の高さを取る必要か
ら、平面的な技術処理を施し、通常行なう床下での処理を行なわないことを可能と
した。
(3) 必要な部屋の戸数を確保する一方で、各居住者の使いやすさと住み心地を
十分に満足できるものとした。
(4) すべての住居が海又は河川に面し、眺望を楽しむとともに、十分な採光が
得られることを可能とした。窓については十分な採光とともに、使用上の便宜等に
適した位置及び形状ないし大きさとした。
(5) 各住居相互間のプライバシーの侵害を回避した。
(イ) 本件平面図には、防火等の配慮をして右外壁及び開口部の構造並びに材質
を決定し、それを表示した。
(ウ) 本件平面図には、各種付属物の位置、地盤高、各階の床等の高低差、避難
施設及び工作物の位置、道路等の敷地の形状等を明示し、全体的でき上がり及び周
辺との関係をイメージさせ、設計者の意思が依頼主及び施工業者に正確に伝達さ
れ、手戻り等のないように、施工が十分かつ効率的に行なわれるよう配慮した。
(エ) 各部分の床面積、開口部の面積、必要採光面積等の計算表、タイプ別住居
の戸数及び専有面積を表示し、これにより施工監理、建築確認及び保守管理におけ
る点検等を可能とした。
(B) 本件立面図
(ア) 東西南北各面から見た本件マンション全体の形が、デザイン的に優れたも
のとなるように窓及び手すり等の位置及び形状ないし大きさと整合させた。また、
開口部たる窓の位置及び大きさについて、採光及び使用上の便宜を考慮した。
(イ) 外壁及び軒裏については、防火、塩害、外観及び保守管理上の配慮から構
造を決定し、仕上げの材質を明示するとともに、仕上げ方法を指示した。
(ウ) 湿気対策、保守管理上の配慮から、床下換気パイプ、誘発目地、通気管、
笠木等の各種付属物を設置することとし、建物の外観及び機能等を考慮し、その位
置を決定、明示するとともに、一部の付属物については、寸法及び仕上げを指示
し、かつ施工要領を明示し、これにより、設計者の意図が依頼主及び施工業者に正
確に伝達され、手戻り等がなく、施工が十分かつ効率的に行なわれるよう配慮し
た。
(C) 本件断面図
(ア) (1) 敷地の有効利用を憎進するために適切な建物の幅を決定した。
(2) 床を水害対策のために高くする一方で、法令の高さ制限内に、五階建ての
本件マンション全体が収まるように各階ごとの高さを少しずつ狭めた。
(3) 防音対策として、各階の床及び壁の厚さを一般の建物及び法令の基準より
も厚くしてこれを表示した。
(4) 水害対策のため、地盤高、建築物の高さ、玄関の位置及び接道条件(前面
道路がやや傾斜)との関係を考慮しつつ、床を高くした。
(5) 各階ごとの高さを狭めたとしても、快適な居住空間を確保する必要があ
り、そのために必要な天井の高さを決定し、これを表示した。
(6) 建築物の法令の高さ制限及び技術基準に適合するように、軒の高さ及び廊
下の手すりの高さを定め、これを表示した。
(7) これらの配慮が、依頼主及び施工業者に十分伝達されるように、建築物の
高さ及びこれらの各部分との相互関係を明示した。
(イ) 防音対策のために、床、天井及び壁について、その材質を指示するととも
に、仕上げ方法を明示した。
(ウ) 塩害対策のため、外壁及びベランダの壁厚を厚くするとともに仕上げ方法
を明示した。
(エ) 塩害対策及び防水機能維持のため、屋上の防水部分について、材質及び仕
上げ方法を指示した。
(オ) 柱及び梁の位置、形状及び寸法について、構造強度及び経済性を配慮して
定め、これを明示した。
(カ) 階段部分の形状及び位置、各階の高さを決定し、これを表示するととも
に、塩害対策から、階段部分の材質を指示し、かつ、仕上げ方法を明示した。
(キ) 各室の用途、各種付属物の位置及び用途を明示した。
右認定事実によれば、本件各図面は、著作権の目的として保護される著作物といわ
なければならない。
そうであるとすれば、太陽企画の意に反し、本件各図面を公開することは、太陽企
画の著作権を侵害し、太陽企画に明らかに不利益を与えると認めるべき筋合いであ
る。
(2) この点に関し、控訴人は、まず、本件建物と同じ「ライオンズマンショ
ン」と称して販売されている建物は、既に建築雑誌などに公表されている各部分の
つなぎ合わせ的なものが多く、したがって、本件建物に関する本件各図面は、独創
性はなく、著作権法にいわゆる著作物に当ならない旨主張する。
なるほど、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一一号証、第三七、三八号証
によれば、本件マンションの販売業者である訴外大京観光株式会社は、本件マンシ
ョンと同じ「ライオンズマンション」の名称で販売している他のマンションに関し
てかなり詳細な平面図、立面図及び断面図を公開していることが認められ、また、
成立に争いのない甲第一九号証によれば、建築物についてたやすく創造、創作を論
じることはできないとする建築家のいることも認められるが、著作権法第二条一項
一号、一〇条一項六号、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約二条
(1)によれば、設計図書は、学術的な性質を有する図面として、著作物の目的と
なると解するのを相当とするから、控訴人の右主張は採用できない。
(3) 次に、太陽企画が本件各図面について著作権を有するとすれば、被控訴人
による本件各図面の写しの交付は、著作権法二一条の複製権の侵害となるべきとこ
ろ、控訴人は、本件においては、写しの交付を請求していないと主張し、被控訴人
は、控訴人が口頭で写しの交付を請求したから、本件各図面の公開は、著作権法上
の複製権を侵害すると主張する。しかし、本件全証拠によるも写しの交付請求の事
実を認めるに足りず、かえって、前掲乙第一〇号証によれば、控訴人は、公文書の
閲覧等の請求書において、公文書の閲覧のみを請求し、その写しの交付を請求して
いないことが認められるから、複製権の侵害には当たらないというほかない。
(4) 著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は
提示する権利(公表権、著作権法一八条一項)を有することはいうまでもなく、し
たがって、本件各図面の公開が、公表権を侵害することは否定できない。
この点について、控訴人は、本件各図面が、公開を予定して作成され、一般に広く
公開されてきた図面であり、また、太陽企画が、本件各図面を建築確認申請書に添
付したような場合、遅くとも確認申請時期には公表に付したものであると主張す
る。
しかし、設計図書自体は一般的に公衆に提供されることを予定されている著作物で
はなく、設計者が設計委託者に対し、部数を限って設計図書を提供するのが通例で
あろうし、本件においても、成立に争いのない乙第三〇号証の一、二、第三六号証
の一、証人Aの証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第三六号証
の二によれば、太陽企画が委託を受けて設計した場合、設計図書の著作物は太陽企
画に属すること、太陽企画が委託者に提出する設計図書は五部以内とし、五部を超
える場合は有償とすること、委託者がこの設計図書により建物を建てることができ
るのは一回かつ一棟限りであること、設計委託契約上の権利義務は相手方の書面に
よる同意がなければ第三者に譲渡できないことが認められるのであるから、本件各
図面が、公開を予定して作成され、一般に広く公開されているということはできな
いし、また、建築確認申請書に添付することは、建築確認という行政手続のために
当該行政庁に提出したにすぎず、そのことだけで公表に付したと理解することはで
きない。
また、一般的に、不特定多数を相手方として売却を予定されているマンションの場
合には、販売用パンフレットやカタログの購入を希望する公衆に頒布すると思われ
るが、殊に新築マンションの場合、建築段階から販売を開始することが多く(本件
マンションにおいても、その住戸の販売を開始したのが、建築確認の直後である昭
和五七年一二月二三日であることは前記認定のとおりである。)、そのような場合
には特に購入希望者の便宜のためにパンフレット等に相当詳細な図面や配置が載せ
られているのが通例である。しかも、その時期、コスト等からみて、建築確認に用
いられた図面を一部転用して広告宣伝用の図面を掲載することが通常であると考え
られるうえ、前記認定のとおり、本件マンションの販売業者である訴外大京観光株
式会社も、本件マンションと同じ「ライオンズマンション」の名称で販売している
他のマンションに関して、かなり詳細な平面図、立面図及び断面図を購入希望者に
頒布していることが認められ、原本の存在及び成立に争いのない甲第五六、五七号
証及び弁論の全趣旨によれば、本件マンションの中途購入者が所持していたパンフ
レットには、本件マンションの配置図及び平面図が登載されていることが認められ
る。さらに、原本の存在及び成立に争いのない甲第三二号証の二によれば、本件マ
ンションの管理組合理事長が、「マンションの図面は、売りに出された段階で、あ
る程度公表されている」ことを前提として、本件原審判決に感想を述べていること
が認められる。これらによれば、相当程度に詳細な図面が本件マンション新規購入
者等のために提供又は公表されていたものと推認することができる。
しかし、本件マンション購入者等のために提供又は提示されたものは、本件各図面
に類似するものであろうことは推認するに難くないが、なお本件各図面そのもので
ないことは明らかであり(そうであるからこそ、控訴人は、なお、その公開を求め
るのであろう。)、したがって、これらの広告、宣伝等に用いられた図面が不特定
又は特定の者に頒布されたからといって、本件各図面が公表されたことにはならな
い。
(5) 控訴人は、法人等の営利的活動に対する不利益を理由に知る権利を制約す
る場合は、知る権利を犠牲としてもなお非公開とせざるを得ないだけの重大な不利
益、すなわち、「法人等の正当な活動を困難にするような不利益」をこれらの営利
的活動に与える場合でなければならず、したがって、条例五条一項二号の「不利
益」は、現実的、具体的な不利益でなければならないし、その不利益は客観的に明
白でなければならないという見解を前提として、本件各図面が公開の対象となり、
かつ著作権者が公開に異議を述べたとしても、そのことだけでは直ちに「明らかに
不利益を与える。」ことにはならないのであり、さらに、本件各図面について、そ
れまでに考えられたことのない独創性があり、しかも、その独創的な工夫が既に公
表されている他の図面や建物の外観など他の手段で知ることのできないものでなけ
ればならず、また、一部を公開するだけでもその独創的工夫が明らかとなる、とい
えるものでなければならないところ、本件各図面はこれに当たらない旨主張する。
しかし、条例五条一項二号の「不利益」を控訴人主張のごとく限定的に解さなけれ
ばならないものでないことは、前記説示のとおりである。本件各図面が公開される
ことにより、太陽企画が本件各図面について有する著作権を侵害することになるの
であり、したがって、太陽企画が著作権を侵害されるという現実かつ具体的な不利
益を受けることは明らかであるといわなければならない。このことは、右著作権侵
害により、太陽企画が、どのような損害を被るかということとは、別問題である。
なるほど、本件各図面について設計者がノウハウないし創意工夫があると考えてい
るところについて、さらに子細に検討してみると、次のとおりである。
まず、本件敷地の前面が有料道路である点についてであるが、この関係で設計者が
考慮した事柄が本件立面図や断面図に表示されているとみることは困難であり、ま
た、平面図にそれが表現されているとしても、それは本件平面図によってのみ知り
うるというものではなく、既に公開された配置図や現在の現実の使用関係そのもの
から、容易に推知することが可能である。また、前記認定事実からすれば、本件マ
ンション販売のための広告、宣伝等に用いられた図面によっても、本件敷地の使用
方法については十分に知ることができるといわなければならない。
次に、不整形地利用及び雁行形建物に伴う間取等に関するノウハウ創意工夫の点に
ついても、それが立面図、断面図に表現されているとは見難いところであり、不整
形地を利用した建物であること、それについてどのような外形の建物が建築された
かは、すでに提供済みの図面及び現地見分によりたやすく知ることができるし、前
記(4)において説示したとおり、本件マンションに関しては、相当詳細な平面図
が、購入希望者らに対して提供されていたことが推認されるところ(殊に、各タイ
プごとの間取りを明らかにした平面図の公開のない新築分譲マンションの存在など
殆ど想定できない。)、これらの平面図によっても、太陽企画が主張する右の工夫
はある程度明らかとなるのである。
また、水害対策のために、階高等を工夫した点についても、これが本件平面図から
判明するとは考え難いところであり、本件立面図及び本件断面図によれば、その性
格及び記載内容からみて、当然、明らかになると認められるが、水害対策のために
一階を高くすること、その関係で法令の高さ制限に適合するために各階の高さを低
くしたことなどは、そのこと自体特別なノウハウや創意工夫と理解するには、いさ
さか無理があると考えられる。しかも、階高そのものは、外観からある程度は、明
らかになるはずであるし、前記甲第五六、五七号証及び弁論の全趣旨によれば、本
件マンションの中途購入者が所持していたパンフレットには、本件マンションの立
面図や断面図が登載されていることが認められ、これによれば、階高等の工夫それ
自体も、ある程度明らかにされたというべきである。
さらに、太陽企画は、塩害対策としての工夫を種々述べるところではあるが、海岸
付近における建物の建築に際して、設計者が塩害対策を考慮することは余りにも当
然のことであるし、塩害対策として具体的に述べるところは、壁の被り厚さを厚く
することや屋上の防水部分についての材質及び仕上げ方法の指示であるが、原本の
存在及び成立に争いのない甲第二六号証及び弁論の全趣旨によれば、これらの措置
は塩害対策としてはごく一般的な処置であることがうかがえるのであり、勿論、そ
の具体的な適用については設計者の力量が発揮されるであるにせよ、これをもって
特別なノウハウ又は創意工夫と考えることもできない。
そして、右において検討した事項以外の点については、その主張自体において、特
別なノウハウ又は創意工夫と認められるようなものはない。しかも、証人Bの証言
によれば、建築確証申請に添付するような平面図、立面図、断面図には一般に技術
的な細部の情報を記入することは少なく、多くは、それ以外の構造詳細図等に記載
するのが通例であることが認められるのであり、本件各図面に既に明らかになって
いるもの以外の本件マンション建築に関する特別なノウハウ又は創意工夫がなお多
く表示されているとまでは認め難いといわなければならない。
したがって、本件各図面が公開され、太陽企画がその著作権を侵害されることによ
り、その正当な活動を困難にするような重大な損害を被るとは認められない。
しかし、なお、本件各図面の公開により、太陽企画が何らかの損害を受けないとま
で断定することはできない。なぜなら、著作権法一八条の公表権との関係におい
て、著作物たる設計図書がすでに公表されたというには、当該設計図書が、発行
(著作物の性質に応じ、公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物
が作成され、頒布された場合において、発行されたものとされる。同法三条一項)
又は展示の方法で公衆に掲示されること(同法四条一項)が必要であると解するの
を相当とするところ、仮に、本件各図面と本件マンション購入者等に提供された図
面との間に相当程度の同一性があったとしても、本件マンション購入者等への図面
の頒布によっては、未だ本件各図面が公表されたものと認めることができず、本件
各図面を公開することにより、太陽企画が、本件マンション購入者に対する図面の
頒布とは別途に、何らかの損害を受けないことまでも保し難いからである。
そして、著作権法の公表権は、著作者人格権に属するものであり、同法は、著作権
の制限について、第二章第三節第五款に明文の規定を置きながら、同法五〇条で
「この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。」と
規定しているのであるから、法律の明文の規定がないのに、みだりに類推解釈によ
り公表権を制限すべきではなく、まして、法律の授権に基づかない条例の規定の解
釈運用によって、著作権法により与えられた公表権を制限するような結果をもたら
すことは許されないものといわなければならない。したがって、条例五条一項二号
の「明らかに不利益を与えると認められる」の解釈により、著作権者に重大な損害
が生じないからとして、公表権の侵害を容認する結果を認めることは許されないも
のである。
2 条例五条一項二号但書
当裁判所も、条例五条一項二号但書の規定の当否はさておき、本件各図面は右但書
に該当しないと判断するものであって、その理由は、原判決書三五丁表五行目から
三七丁裏三行目までと同一であるから、これを引用する。
五 条例五条一項一号該当性
1 条例五条一項一号本文
(一) 条例五条一項一号本文は、非公開事由として「個人に関する情報(事業を
営も個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又
は識別され得るもの。」と規定する。
神奈川県における情報公開制度の沿革上、準備委員会報告書、懇話会提言の中にお
いて、すでに、個人のプライバシーは、最大限に保護されるように配慮することが
盛られていたことは前記認定のとおりであり、また制定された条例の解釈運用方針
(二条)においても「個人の秘密、個人の私生活その他の他人に知られたくない個
人に関する情報がみだりに公にされないように最大限の配慮をしなければならな
い。」と規定されているのであるから、個人のプライバシー保護に関しては最大限
に保障される趣旨であるといわなければならない。
(二) 個人に関する情報
本号は、前記のような精神を受け、個人のプライバシー保護を枢要な制定趣旨とす
ることは明らかであるが、その文言からすると、明確にプライバシーと認められる
ものに限る趣旨ではなく、プライバシーであるか否かが不明確なものをも含めた個
人に関する情報と解されるのであるから、その中には、広く、思想、宗教、意識、
趣味等に関する情報、心身の状況、体力、健康等に関する情報、資格、犯罪歴、学
歴等に関する情報、職業、交際関係、生活記録等に関する情報、財産の状況、所得
等に関する情報など、個人に関するすべての情報が含まれる。
ところで、控訴人は被控訴人に対し、昭和五八年一〇月二四日付けで本件閲覧請求
をなし、被控訴人は控訴人に対し、同年一一月七日付けで本件拒否処分をなしてい
るところ、控訴人は、本件拒否処分の適否につき、請求時を基準として判断すべき
であるとする。しかしながら、行政処分の適否の判断は、処分庁がことさらに決定
を長期間遅延させて事実関係の変動を作出するなどの特段の事情がない限り、処分
時の事実関係及び法令に従ってなされるべきである。そして、本件請求から処分の
日までの期間が右のとおり、比較的短期であり、被控訴人がことさらに決定を長期
間遅延させた等の特段の事情を認めるに足りる証拠はない。よって、本件拒否処分
の適否は、処分時である昭和五八年一一月七日を基準時として判断すべきである。
しかるところ、成立に争いのない乙第二四号証の一、二、第二五号証の一、二、原
本の存在及び成立に争いのない乙第二六号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立
したものと認められる乙第二六号証の二、証人Aの証言によれば、本件マンション
は、昭和五八年二月に着工し、同年一〇月竣工したこと、その販売用住戸は五七戸
であること、右住戸は昭和五七年一二月二三日から販売され、昭和五八年三月一八
日販売を完了したこと、昭和五八年一〇月三一日から本件マンションの鍵の引渡し
が開始され、本件拒否処分時である同年一一月七日までに二三戸につき鍵の引渡し
を了していること、同日までに本件マンションに住所を定めたものが一八人六世帯
であることが認められる。
そうすると、本件拒否処分の時点においては、すでに、本件マンションの売却は完
了し、しかも、相当数の購入者が本件マンションに生活の本拠を定め、居住を開始
し始めていたことが認められるのである。そして、本件平面図において記載された
内容は、前記二において認定したとおりであって、これによれば、居住者の住居の
間取りや用途等を知ることができ、これにより居住者の財産状態や私生活を窺い知
ることも可能である。
以上によれば、本件平面図の全体が、個人の財産又は私生活に関する情報というを
妨げず、「個人に関する情報」に該当するというべきである。
(三) 特定の個人の識別可能性
(1) 本件平面図が建築確認申請に添付された図面であって、これに所有者等の
特定個人が記載されていることの証明はないから、本件平面図そのもののみによっ
て特定の個人が識別されることはありえない。
(2) 被控訴人は、本件平面図によれば、本件マンションの所有者又は居住者と
いう特定が可能であると主張する。なるほど、条例の文言に照せば、特定の個人の
識別可能性があるというためには、具体的氏名が明示されていることは必要ではな
いと解することができるのみならず、ある特定のマンションの所有者又は居住者と
いう特定だけでも、その情報が開示された場合、なんらかの不利益例えば盗難など
の被害を受けるおそれはあるということができるから、そのような解釈もあながち
不可能とまではいえない。しかし、あくまでも条例の文理上、「特定の個人」の識
別ができることを要求されているのであり、本件マンションの所有者又は居住者と
いう程度の漠然とした特定では、未だ特定の個人を判別することはできず不十分で
あるといわざるをえない。そうでなければ、「個人に関する情報」のほかに「特定
個人の識別可能性」の要件を含めた意味の相当部分が失われてしまうからである。
(3) しかしながら、特定の個人の識別可能性については、当該文書そのものだ
けでこれが認められるという必要はなく、当該文書での情報の外に、容易に取得し
得る他の資料を総合することにより特定個人を識別できる場合をも、非公開事由に
該当すると解すべきである。けだし、本号においては、特定の個人を識別すること
のみが要件となっておらず、「識別し得る」ことで足りるということは、当該文書
に氏名等の記載がなく、或いはこれが削除されたとしても、当該文書内のほかの事
情とあいまって特定の個人が判明する場合等をも含める趣旨と理解できるが、特定
個人のプライバシーを最大限に保障しようとする条例の態度に徴すると、少なくと
も、他の資料と総合するとそれと同程度に容易に特定個人を推測し得る場合もま
た、同様に特定個人を「識別し得る」と考えるのが相当であるからである。
そうすると、マンションのような場合、例えば、表札、郵便受け及び案内板などを
調査する等、いわば一挙手一投足の労により、当該住戸を住居とする居住者の氏名
はたやすく判明するのが通常であり、これらの資料を総合することによって、本件
平面図自体には居住者の氏名等の記載がなくとも、居住者の私生活の本拠である住
いに関する情報が明らかとなることは避けられない。
したがって、本件平面図は、他の資料と総合することにより、容易に個人を識別す
ることができる情報というべきであり、条例五条一項一号本文に該当する。
2 条例五条一項一号但書該当性
(一) 条例五条一項一号但書は、その本文を受けて、
イ 公表することを目的として作成し、又は取得した情報
ウ 法令の規定により行なわれた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に
際して作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要と認められ
るもの
を非公開の例外と定める。
(二) 但書イについて
本件マンションがひろく不特定多数に対する販売を目的とした建物であり、それに
ともなって、本件マンションに関する図面が公衆に頒布されることが推認されると
ころではあるが、本件平面図そのものが公表することを目的として作成したもので
あることまでを認めることはできないことは前記認定のとおりである。
(三) 但書ウについて
(1) 本件平面図が、法令の規定により行なわれた建築確認申請に際して被控訴
人が取得した情報であることは明らかである。
(2) そこで、本件平面図を公開することが公益上必要と認められるか否かにつ
き検討する。
控訴人は、本件平面図の公開が周囲の環境への影響を知るという公益のために必要
であるとし、周辺住民のプライバシー保護及び防犯、通風及び風害、臭気被害、建
物からの廃水、騒音被害等を主張する。一般に環境への影響を知ることそのもの
は、公益的性格を有するとみて差し支えないから、問題は必要性の有無である。
この必要性の判断に際しては、(1) 公開される文書の中に、公益上必要な情報
が含まれていること、(2)公開される文書の中の情報は、他の適切な手段により
取得できないこと、の二要件が必要であると解すべきであるほか、(3) 公開の
可否は、公開されることによる特定の個人の不利益と公開することによる公益とを
比較衡量して決するのが相当であると解される。
そこで、これを検討するに、本件平面図の中に控訴人が主張するような周囲の環境
への影響を知り得るような情報が含まれているとみるべきかどうかについても疑問
がないではないが、仮に、これを肯定したとしても、既に認定したとおり、控訴人
はすでに本件マンションの建築確認申請書、付近見取図、配置図、日影図及び審議
カードの各写し等を入手しているのであり、これらの図面等及び本件マンションに
対する実地調査により、環境への影響は十分に判明すると考えられ、本件平面図の
公開が不可欠であるとは考えることはできない。
なお、仮に本件平面図を公開することにより環境への影響が多少は明らかとなる余
地がありうるとしても、本件平面図が、私生活の基盤をなす住居に関する重要な情
報を含み、それゆえにその公開による影響殊に個人のプライバシーに対する侵害の
度合いが大きいことに比較するならば、本件平面図が非公開とされてもやもをえな
いというべきである。
六 部分公開について
1 条例五条二項は、「実施機関は、公文書に前項各号のいずれかに該当する情報
とそれ以外の情報とが記録されている場合において、当該該当する情報とそれ以外
の情報とを容易に、かつ、公文書の閲覧又は公文書の写しの交付を求める趣旨を失
わない程度に合理的に分離できるときは、同項の規定にかかわらず、当該該当する
情報が記録されている部分を除いて、当該公文書の閲覧をさせ、又は当該公文書の
写しを交付しなければならない。」と規定する。
2 控訴人は、右規定に基づき、まず、本件各図面に特別なノウハウないし創意工
夫があるならば、その部分を抹消して公開すべきであると主張する。
しかし、この点の控訴人の主張が時機に遅れたか否かはさておき、本件各図面にそ
れが公開されれば太陽企画に重大な損害を被らせるような特別なノウハウないし創
意工夫の表示がなかったとしても、本件各図面の公開は、本件各図面について太陽
企画が有する著作権法一八条の公表権を侵害し、太陽企画に対し、条例五条一項二
号に規定する「明らかに不利益を与えると認められる」ものであり、かつ、同号但
書に該当しないものであることは、前に説示したとおりであるから、控訴人の主張
は、その前提においてすでに失当であり、採用できない。
3 次に、控訴人は、本件平面図に関しても、五条一項一号に該当する個人が入居
している部分の記載を抹消した上で、公開すべきものであると主張する。
本件拒否処分の時点においては、未だすべての住戸につき入居してはいなかったに
せよ、それらに関してもすでに販売は完了し、ほどなく入居することが予想されて
いたうえ、マンションの特性上、各住戸の構造ないし間取り、用途は、相互に類似
していることが多く、関連性、共通性を有しているのであるから、本件平面図の全
体について、五条一項一号に該当する情報が含まれているとみるべきである。
また、成立に争いのない乙第四四号証によれば、本件マンション販売用戸数五七戸
のうち、法人が所有する戸数は、販売時において七戸、平成元年一二月時点におい
ても九戸であることが認められる。本件マンションのうち、私人が有する住戸のほ
か法人が保有するリゾート用の住戸等があるにしても、それらは前記認定のとおり
限られた数に過ぎない。
控訴人の右主張も採用できない。
七 理由付記について
原判決書四二丁裏五行目から四四丁表七行目までを引用する。
八 結論
以上のとおりであって、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。
よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、行政事件訴訟法
七条、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口 繁 安齋 隆 森 宏司)

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