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       主   文
一 被申立人から申立人に対する名古屋地方裁判所昭和五一年(ヨ)第七九一号賃
金仮払仮処分申請事件について、同裁判所が、昭和五一年一〇月二九日なした仮処
分決定中主文第一項を取消す。
二 被申立人の右仮処分申請を却下する。
三 訴訟費用は被申立人の負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 申立人
(一) 主たる申立
 主文一、三項と同旨及び仮執行の宣言。
(二) 予備的申立
1 被申立人から申立人に対する名古屋地方裁判所昭和五一年(ヨ)第七九一号賃
金仮払仮処分申請事件について同裁判所が昭和五一年一〇月二九日なした仮処分決
定中主文第一項は申立人が保証を立てることを条件としてこれを取消す。
2 訴訟費用は被申立人の負担とする。
3 仮執行の宣言。
二 被申立人
1 本件申立をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は申立人の負担とする。
第二 当事者の主張
(申立の理由)
一 被申立人は申立人名古屋航空機製作所に勤務していた従業員であつたところ、
申立人が昭和四六年七月一日被申立人に対し、申立人大阪営業所総務部勤労課に転
任を命じたのに拘らずこれを拒否したので、申立人は同年七月一六日被申立人に対
し解雇の意思表示をした。
 これに対して被申立人は申立人を相手取り右解雇処分が無効であるとして名古屋
地方裁判所に地位保全等の仮処分申請(以下「第一次仮処分申請」という)をなし
(同裁判所昭和四六年(ヨ)第八八四号)、同裁判所は昭和五一年五月三一日被申
立人が申立人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるととも
に金二、五〇〇、〇〇〇円及び昭和五〇年一〇月以降本案判決確定に至る迄毎月二
〇日限り金八二、九一二円を仮に支払えという賃金の仮払を命ずる仮処分判決(以
下「第一次仮処分判決」という)をなした。
二 そして被申立人は右第一次仮処分判決がなされるや、昭和五一年七月名古屋地
方裁判所に、申立人は右仮処分判決後も被申立人の就労を拒否しているのであるか
ら右仮処分判決後も被申立人は民法第五三六条第二項により本件解雇処分以降も賃
金請求権を有し、かつ、他の従業員と同様に、賃金規則、労働協約などに基づく賃
金引上げによる増額分、昇給及び賞与等の支払を受ける権利を有するところ、被申
立人の計算によれば、昭和五〇年一〇月より同五一年八月迄の例月給与、一時金の
合計は金三、六六九、〇八一円(昭和五一年四月以降の例月給与は月額二四六、八
一三円)となるが、第一次仮処分判決に従つて金八二、九一二円の一一ケ月分計九
一二、〇三二円が支払われているので、申立人に対し右残額金二、七五七、〇四九
円及び昭和五一年九月以降毎月二〇日限り前記計算による例月給与二四六、八一三
円と第一次仮処分判決による月額八二、九一二円との差額金一六三、九〇一円を仮
に支払うことを求める賃金仮払仮処分申請をなした(以下「第二次仮処分申請」と
いう、同裁判所昭和五一年(ヨ)第七九一号)。
三 右仮処分申請に対し名古屋地方裁判所は、昭和五一年一〇月二九日申請人(本
件被申立人)は第一次仮処分判決により被申請人(本件申立人)に対し労働契約上
の地位を仮に保有しているものであるから、右仮処分判決が取消されない以上本件
においても申請人(本件被申立人)が被申請人(本件申立人)に対し労働契約上の
地位を仮に保有しているものと認めるのが相当であり、被申請人(本件申立人)が
申請人(本件被申立人)の就労を拒否している以上、申請人(本件被申立人)は民
法第五三六条第二項により本件解雇以降も賃金請求権を有し、かつ、他の従業員と
同様に就業規則、労働協約等に基づく賃金引上げによる増額分、昇給及び賞与等の
支払を受ける権利を有するものというべきであると判断したうえ申請人(本件被申
立人)の昭和五〇年一〇月より同五一年九月迄の例月給与、一時金の合計は金三、
三二五、六八四円(昭和五一年四月以降の例月給与は月額二〇五、八八〇円)とな
るが、第一次仮処分判決により申請人(本件被申立人)は被申請人(本件申立人)
から毎月八二、九一二円の一二ヶ月分計九九四、九四四円の仮払を受けているので
これを控除すると申請人(本件被申立人)は被申請人(本件申立人)に対し、昭和
五〇年一〇月より同五一年九月迄の例月給与、一時金として計二、三三〇、七四〇
円の、また、同年一〇月以降本案判決確定に至る迄毎月二〇日限り一二二、九六八
円の各支払請求権をそれぞれ有するものというべきであるが、必要性の点で申請人
(本件被申立人)の本件仮処分申請は金二、〇〇〇、〇〇〇円及び昭和五一年一〇
月以降本案判決確定に至る迄毎月二〇日限り金一二二、九六八円を仮に支払えとの
限度において理由があるのでこれを認容し、その余は失当として却下する旨の決定
をなした(以下「第二次仮処分決定」という)。
四 而して被申立人はその後右第二次仮処分申請と同様の理由に基づき昭和五一年
年末一時金五一〇、八七三円の仮払を求める仮処分申請を名古屋地方裁判所になし
(同裁判所昭和五一年(ヨ)第一三六〇号)、同裁判所は昭和五一年一二月一七日
右仮処分申請は金三三〇、〇〇〇円を仮に支払えとの限度において理由があるので
これを認容しその余を失当として却下する旨の仮処分決定をしたが(以下「第三次
仮処分決定」という)、被申立人は更に昭和五二年六月、前同様の理由に基づき、
同年三月以降の賃金増額、同年四月以降の昇給により、同年三月より同年六月迄の
例月給与の合計は金八九六、二〇二円(同年三月分の例月給与は二一八、六六一
円、同年四月以降は二二五、八四七円)となるが第一次仮処分判決及び第二次仮処
分決定に従つて金八二三、五二〇円が支払われているので、申立人に対し右残額金
七二、六八二円及び昭和五二年七月以降毎月二〇日限り前記計算による例月給与二
二五、八四七円と第一次仮処分判決及び第二次仮処分決定に月額計二〇五、八八〇
円との差額金一九、九六七円を仮に支払うことを求める賃金仮払仮処分申請をなし
(同裁判所昭和五二年(ヨ)第九四四号)、同裁判所は昭和五二年七月一三日右仮
処分申請を認容し、「被申請人(本件申立人)は申請人(本件被申立人)に対し金
七二、六八二円及び昭和五二年七月以降毎月二〇日限り金一九、九六七円を仮に支
払え」との仮処分決定(以下「第四次仮処分決定」という)をなした。
 なお、被申立人はその後も引続き、前同様の理由に基づき昭和五二年夏季一時金
五五九、九五二円の仮払を求める仮処分申請を名古屋地方裁判所になし(同裁判所
昭和五二年(ヨ)第一二三五号)、同裁判所は昭和五二年九月七日右仮処分申請は
金三六〇、〇〇〇円を仮に支払えとの限度において理由があるのでこれを認容し、
その余を失当して却下する旨の仮処分決定をしたが(以下「第五次仮処分決定」と
いう)、次いで昭和五二年年末一時金五七六、二〇一円の仮払を求める仮処分申請
をなし(同裁判所昭和五二年(ヨ)第一八七九号)、同裁判所はこれに対し昭和五
二年一二月二三日右仮処分申請は金三七〇、〇〇〇円を仮に支払えとの限度におい
て理由があるのでこれを認容し、その余を失当として却下する旨の仮処分決定(以
下「第六次仮処分決定」という)をなした。
五 ところで申立人は前記第一次仮処分判決中、本件申立人敗訴の部分を不服とし
て名古屋高等裁判所に控訴の申立をしていたところ(同裁判所昭和五一年(ネ)第
二三七号)、同裁判所は昭和五三年四月二五日、控訴人(本件申立人)が被控訴人
(本件被申立人)に対してなした、被控訴人(本件被申立人)の転任命令拒否に基
づいてなした本件解雇処分はその配転命令が有効であるから、これまた有効であ
り、右配転命令の無効を前提とする被控訴人(本件被申立人)の解雇無効の主張は
採用の余地なきものというほかはなく、結局本件配転命令及び解雇処分が無効であ
ることについて疏明がないことに帰着するからこれらの無効を前提とする本件仮処
分申請(第一次仮処分申請)は理由がないものといわなければならないと判断して
原判決(第一次仮処分判決)中控訴人(本件申立人)敗訴の部分を取消す、被控訴
人(本件被申立人)の本件仮処分申請を却下する旨の判決を言渡した。
六 以上の経緯に鑑みれば第一次仮処分判決が取消されずに存することを前提とし
てなされた本件第二次仮処分決定は、右判決が取消された以上その理由がないこと
に帰し、事情が変更して原因及び必要性が消滅したものというべきであるから、申
立人はその取消を求めるため本申立に及んだ次第である。
七 また本件第二次仮処分申請は、縦令万一本案訴訟において被申立人の主張が認
容されたとしても、性質上被申立人において金銭的補償によつて仮処分の目的を達
し得るものであり、一方申立人は第一次仮処分判決後これを取消す前記控訴審の判
決の言渡がなされる迄の間に、被申立人に対し第一次仮処分判決並びに第二次仮処
分決定に基づき計金九、四〇六、六六四円の、第四次仮処分決定に基づき計金二七
二、三五二円の各仮払を了している外前記第三次、第五次、第六次各仮処分決定に
基づき計金一、〇六〇、〇〇〇円の仮払を了しているところ(仮払金総額計金一
〇、七三九、〇一六円)、申立人が本案訴訟において前記控訴審の判決と同様申立
人勝訴の判決を得ても既に支払われた右仮払金は消費され、申立人が被申立人に右
仮払金及び今後第二次仮処分決定に基づき引続き仮払を続けなければならないとす
るならば、その仮払金の返還を求めることは事実上不可能で申立人としてはより多
大の損害を蒙ることになることは明白である。
八 以上の事情は民事訴訟法第七五九条にいう特別の事情があるときにも該当する
ことは明らかであるので、申立人は予備的申立として同規定により本件第二次仮処
分決定の取消を求める。
(申立の理由に対する答弁)
一 申立の理由第一項ないし第五項の事実は認める。
二 同第六項の主張は争う。
三 同第七項中仮払のなされた事実は認め、その余は争う。
四 同第八項の主張は争う。
(被申立人の主張)
 本件第一次仮処分事件についての控訴審判決は、一方では被申立人の正当な組合
活動とこれに対する申立人の様々な妨害行為を認定し、被申立人の諸活動を、申立
人が嫌忌していたものと認定しながら、右嫌忌の事実と配転命令とを全く切り離し
て、右嫌忌の事実から直ちに不当労働行為意思を推認することは困難であるとして
いる。しかしながら、不当労働行為意思は、嫌忌の事実があればこれを推認するの
が当然であり、それ以外に不当労働行為意思の判断はできないのであるから、右控
訴審判決は不当である。
 従つて、被申立人が申立人の従業員であることは変わりなく、申立人に対し賃金
請求権を有し、且つ仮払の必要性があることも明らかである。
第三 証拠(省略)
       理   由
 申立の理由第一項ないし第五項の事実は当事者間に争いがない。右事実による
と、第二次仮処分決定は、被申立人が申立人に対し労働契約上の地位を有すること
を仮に定めた第一次仮処分判決のいわゆる形成的効力により被申立人は当然に労働
契約上の地位を仮に保有しているものとなし、右地位に基づいて発生する賃金支払
請求権を被保全権利として、申立人に対し、主文第一項において被申立人主張のと
おりの賃金仮払を命じたものであることが明らかである。
 ところが、右第一次仮処分判決が昭和五三年四月二五日控訴審において取消され
たことは当事者間に争いがなく、右控訴判決により第一次仮処分判決の前記形成的
効力は消滅するから、第二次仮処分決定主文第一項の被保全権利も発生の基礎を失
い、当然に消滅したものというべく、右は民訴法七五六条、七四七条にいう事情の
変更に当ると解するのが相当である。
 よつて、申立人の本件申立を正当として認容し、本件仮処分申請はこれを却下す
ることとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六
条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松本武 戸塚正二 島本誠三)

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