弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役五年に処する。
     原審における未決勾留日数中二〇〇日を右刑に算入する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人義江駿、同鈴木武志が連名で差し出した控訴趣意書に
記載してあるとおりであり、これに対する検察官の答弁は、検察官提出の答弁書記
載のとおりであるから、いずれもこれらを引用し、これに対して当裁判所は、次の
ように判断をする。
 一、 控訴趣意第一点について
 所論は、尊属傷害致死罪を規定した刑法二〇五条二項は憲法一四条一項に違反し
無効であるのに、被告人の判示第一の所為に対し刑法二〇五条二項を合憲として適
用した原判決は法令の適用を誤つたもので、その誤が判決に影響を及ぼすことが明
らかであると主張する。
 よつて、判断するに、憲法一四条一項は国民に対し法の下における平等を保障し
たものであるが、合理的な根拠に基づく限り、差別的な取扱いを禁ずる趣旨のもの
ではないと解すべきである。ところで、尊属傷害致死罪を規定した刑法二〇五条二
項は、被害者と加害者間に存在する特別な身分関係に基づき、同一類型の行為に対
する普通傷害致死罪を規定した同条一項よりも刑が加重されていることから見て、
刑法二〇五条二項をおくことは差別的取扱いにあたるものといわざるをえないが、
問題はかかる差別が合理的な根拠を有するか否かにある。この点については、尊属
殺人罪を普通殺人罪と対比し、特に重く処罰することを規定した刑法二〇〇条が憲
法一四条一項に違反するかどうかとも関連して、従来から論議のあつたところであ
るが、最高裁判所は昭和四八年四月四日大法廷判例において刑法二〇〇条につき判
断を示しており(裁判所時報六一五号一頁、判例時報六九七号三頁参照)、その理
由中八裁判官による多数意見の大要は、尊属に対する尊重報恩は社会生活上の基本
的道義であり、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持を目的として、普通
殺人罪のほかに尊属殺人罪という加重身分犯の規定を設けても、ただちに不合理な
差別とはいえないものの、尊属殺人罪に関する刑法二〇〇条の法定刑は死刑または
無期懲役刑のみに限られており、普通殺人罪に関する同法一九九条の法定刑が死
刑、無期懲役刑のほかに三年以上の有期懲役刑となつているのと比較すると、刑罰
加重の程度があまりにも厳しく、その立法目的達成のための必要な限度を遙かに超
え、著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法一四条一項に違反し
て無効であるというのである。
 当裁判所は右多数意見を尊重し、同意見に従うことを相当と考えるので、この見
地に添つて検討してみる。
 <要旨>尊属に対し卑属またはその配偶者が身体傷害により死という重大な結果を
招来せしめた場合は、普通の傷害致死に比較して、一般に高度の社会的道義
的非難を受けてもやむをえないものというべく、このことを処罰に反映させても、
加重の程度が極端にわたらない限り、不合理であるとはいえない。しかして、刑法
二〇五条二項の法定刑は無期懲役刑または三年以上の有期懲役刑であつて、これを
同条一項の法定刑が二年以上の有期懲役刑となつているのと対比すると、上限にお
いて前者は後者にない無期懲役刑があるとはいえ、有期懲役刑も存在するから刑種
選択の範囲が極めて重い刑に限定されているとは到底いえず、また下限において前
者は後者より僅かに一年重くされているにすぎないから、量刑において裁量をなし
得る範囲はかなり広いものがあるといい得るし、しかも減軽規定の適用をまつまで
もなく情状により執行猶予を付し得ることももとより可能であつて、従つてこの程
度の差は、前記刑法二〇〇条の法定刑と同法一九九条の法定刑の差とは異なり、さ
して甚だしいものではなく、その加重の程度は前記立法目的達成のための必要な限
度を逸脱しているとは考えられない。そうすると、刑法二〇五条二項が、被害者が
尊属であることを加重要件とする規定を設けておることをもつて、合理的根拠を欠
くものと断ずることはできないし、従つて憲法一四条一項に違反するものとはいえ
ない。被告人の原判示第一の所為に対し刑法二〇五条二項を適用した原判決は正当
であつて、法令適用の誤はない。論旨は採用できない。
 二、 控訴趣意第二点について
 所論は、被告人は本件傷害致死の際に心神耗弱の状態にあつたもので、このこと
は精神的に疲労していたことと当時一〇分位興奮して記憶を喪失していたことから
も明らかであるのに、これを認めなかつた原判決には、判決に影響を及ぼすべき事
実の誤認があるというにある。
 記録を精査し、当審における事実取調の結果も合わせ検討するに、被告人は右犯
行当時相当精神的に疲労していたとはいえ日常の生活活動にはなんら支障がなかつ
たことが認められ、また右犯行当時数分間記憶を喪失したことが窺われないではな
いが、興奮のあまり本件犯行に及んだものであるから、その間犯行の一部始終を記
憶していないからといつて、心神耗弱の状態に陥つていたとは認められない。しか
して、被告人のAに対する心境、犯行の態様、犯行前後の状況についての被告人の
記憶の程度、犯行後犯跡を隠蔽する手段を講じていること等を総合考慮するに、被
告人は本件傷害致死の犯行当時事理弁識の能力ないしその弁識に従つて行動する能
力が著しく減退していた状態にはなかつたものであることが認められる。原判決に
は事実誤認はなく、論旨は理由がない。
 三、 控訴趣意第三点について
 所論は、被告人を懲役六年に処した原判決は情状に照らし重きにすぎて不当であ
ると主張する。原審記録ならびに当審における事実取調の結果によつて検討する
に、本件は、原判示のとおり、被告人が夫Bの祖母でありかつ養母にあたるAに対
し、同女が酩酊のため抵抗が困難な状態にあるのに執拗な暴行を加えて死亡させ、
本件住宅に火を放ち、さらに通行人らにより鎮火された後、自己の犯行を隠蔽する
ため捜査官に対し虚偽の事実を陳述したもので、これらの観点からすれば、原判決
の量刑はあながち首肯できないことはない。しかしながら、他方において、被告人
はAとB、Cらとの長い間の深刻な感情的対立の板挾みとなり、辛い立場に耐えて
きた気持のうつ積がたまたまAとの口論をきつかけとして爆発し、本件傷害致死の
犯行を惹起させたこと、Aは気性が激しく異常なまでに我儘な性格で、生活も自己
中心的であり、実子のCらに対してさえ通常の親としての愛情を示さず、また猜疑
心が強く、日常これと顔を合わせる被告人は絶えず悪口や嫌味を言われながらも我
慢を重ねてきたものであつて、BやCらの被告人に対する配慮も十分でなかつたこ
と、Aの重い心臓弁膜症も死の一因となつていること、本件放火の点についても、
被告人は、Aの死という重大な結果を招いたことに痛く驚愕し、悔恨の情にかられ
ると共に、BやCらに対し到底顔向けができなく、もはや生きてはおれないと焦慮
し、精神的動揺のあまり、同人らにAの死が分らないうちに、本件住宅に放火し、
その火の中で自ら死んで詫びようと思いつめ、浅慮にも右放火におよんだものであ
るが、幸にも通行人や近隣の者に早期に発見されその適切な消火活動により、燃焼
の程度も小範囲にとどまり、被害も大事に至らずにすんだのであつて、被告人の放
火の所為はもとより十分責められるべきものがあるとはいえ、なおその放火をなす
に至つた経緯および態様等に鑑みれば憫諒すべき余地があると考えられること、被
告人は本件以外にはなんらの非行がみられなく、再犯のおそれもないこと、改悛の
情が顕著であること、穎夫との間に現在二年になる幼児があること、その他所論の
指摘する一切の情状を総合考察すれば、被告人に対する原判決の量刑は、その刑期
においてやや重きに失するものと認められるので、その意味において原判決を破棄
すべきものと判断する。論旨は結局理由がある。
 右のとおり、本件控訴は理由があるので、刑訴法三九七条一項、三八一条によ
り、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従つて更に自判する。
 原判決が適法に確定した罪となるべき事実に、法律を適用すると、被告人の原判
示第一の所為は刑法二〇五条二項に、同第二の所為は同法一〇八条にそれぞれ該当
するので、各所定刑中いずれも有期懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合
罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い原判示第二の罪の刑に、同法一
四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役五年に処し、同法二
一条を適用して原審の未決勾留日数中二〇〇日を右本刑に算入し、原審における訴
訟費用については刑訴法一八一条一項本文を適用して全部被告人に負担させること
とする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 高橋幹男 裁判官 大澤博 裁判官 千葉裕)

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