弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人は控訴人に対し、金七八万五、〇〇〇円およびこれに対する昭
和三八年一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
     訴訟費用は、第一、二審を通じ、参加に因り生じた部分は参加人の負担
とし、その余の部分は全部被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人の代表者は、「主文第一項同旨並に訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の
負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費
用は、控訴人の負担とする。」との判決を、また被控訴人の補助参加代理人は、
「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用および認否は、控訴人の代表者に
おいて、(一)被控訴人の補助参加人は訴外協和自動車有限会社と被控訴会社との
間に継続的な取引関係が存在し、将来における代金債権発生の基礎が存在したか
ら、訴外会社の訴外株式会社福岡銀行に対する債権譲渡の目的債権は既に発生の可
能性を有し、将来の債権として譲渡の対象となり得る旨抗争しているが、いやしく
も、将来において継続的発生期後の債権と目し得べき要件を具備するには、例え
ば、雇傭契約に基づく給料債権の如くある時期に発生した当該債権と他の時期に発
生した当該債権の間隔が短期間に一定の秩序を保持すべきもので、かつ、実験事例
上より観察して顕著性があり、しかも、一般通念として当該債権が絶え間なく発生
すべき要因かなければならないのに訴外会社と被控訴会社との間の構内運搬車の取
引は、昭和三七年五月および同年六月になされた本件取引以前には、その前年一二
月に僅か一回なされた事実が存するのみであるから、右当事者間においては、前記
に述べた継続的発生期後の債権が生じ得る要因は存在しないというに妨げない。
(二)控訴人が訴外会社から本件代金債権の譲渡を受けたのは、訴外会社に対する
債権担保の目的にいずるものであるが、訴外福岡銀行において仮りに同一の代金債
権を事前に訴外会社から譲り受けたとしても、これも控訴人と同様、担保の目的に
いずるものにほかならないところ、訴外銀行の訴外会社に対する被担保債権は、昭
和三七年一〇月三日消滅したから、控訴人が本件代金債権の上に有する担保権は第
一順位として存続する筋合である。したがつて、控訴人は、右担保権を実行する為
債務者たる被控訴人に対し、譲受に係る本件売掛代金の支払を求める権利があるの
は当然である。(三)被控訴人は訴外会社が控訴人に対して本件代金債権を譲渡し
た後、譲渡人から、右債権譲渡の通知を受けながら、これにつき何等異議を申出た
事実がないから、民法四六八条一項の法意に照して右譲渡を承諾したものといつて
もよいくらいである。と述べ証拠として、甲第六号証を提出し、当審証人A、同
B、同Cの各証言を授用し、被控訴代理人において、被控訴人か訴外会社から、同
会社の控訴人に対する本件債権譲渡の通知を受けた際これに対し、異議を申出なか
つた事実は認めるが、被控訴人従来の主張に反する控訴人の主張事実は否認する。
と述べ、証拠として丙第一号証を利益に援用し、甲第六号証の成立を認め、補助参
加人の訴訟代理人は参加人従来の主張に反する控訴人の主張事実は否認する。と述
べ、証拠として、丙第一号証を提出し、甲第六号証の成立を認めたほかは、原判決
事実摘示と同一であるから、これを引用する。
         理    由
 訴外協和自動車有限会社が被控訴人に対し、控訴人主張の如く二回に亘り主張の
約旨(但し、代金支払期日の点を除く)で構内運搬車を売渡したこと、控訴人主張
日時に訴外会社が被控訴人に対する右代金債権を控訴人に譲渡した旨の通知が主張
のとおり被控訴人に対してなされたことは当事者間に争のないところであり、成立
に争のない甲第一号証並びに当審証人Aの証言によれば、訴外会社と控訴人間に右
債権譲渡がなされたこと、右通知は、昭和三七年七月七日附の確定日附ある証書を
もつてなされたこと、前記売買代金の支払期日については、控訴人主張どおりの約
定が成立したことをそれぞれ肯認し得る。原審証人Dの証言中、右認定に反する部
分は採用しない。
 次に成立に争のない乙第一号証に当審証人Cの証言を綜合すると、訴外会社は訴
外株式会社福岡銀行に対する金融上の債務(昭和三六年一二月末現在において一三
〇万円ないし一五〇万円に達した)を担保する為、昭和三七年一月回銀行に対し、
訴外会社が同年同月一日以降同年一二月三一日迄の間に発生し、被控訴人から支払
を受けるべき納品代金、請負金その他の債権全部を譲渡し、被控訴人において同年
一月八日附の確定日附ある証書をもつて右譲渡を承諾したことを肯認し得る。そこ
で訴外会社から訴外株式会社福岡銀行に譲渡せられた右債権中に控訴人が譲り受け
た本件構内運搬車売買代金債権を包含するならば、正に同一の債権が二重に譲渡せ
られ、しかもいずれも債権譲渡の対抗要件たる通知または承諾が確定日附ある証書
をもつてなされた場合であるから、右債権譲渡並びに対抗要件たる通知承諾が有効
にその効力を生ずる限り先に対抗要件を具備した訴外銀行が控訴人に優先する筋合
であるが、控訴人はその主張する理由により訴外銀行は本件売買代金債権につき、
控訴人に優先する債権者ではないと主張するので、その当否を検討するに、(一)
前段認定事実によれば、訴外会社は被控訴会社に対して向う一年内に発生すること
あるべき売掛代金その他取引上の債権一切をいわゆる譲渡担保の趣旨で訴外株式会
社福岡銀行に譲渡したというのであるから、債権譲渡の契約当時においては、未だ
目的たる債権は発生していないし、また個々具体的にいかなる債権が発生するかを
確知し得ないのであるが、一般に契約当事者間において債権の発生を予想しえら
れ、かつその基盤たる法律関係が存在す<要旨>る限り、かかる将来の債権譲渡もそ
の効力を否定する理由はないであろう。しかして、債権譲渡の対抗要件た
通知ないし、承諾は少くとも、これにより特定の債権を譲受人に移転したという事
実を通知ないし承諾する行為であり、しかも当該債権が二重に譲渡せられた場合に
は確定日附ある証書によつてなされた右通知、または承諾によりその優劣が決せら
れるのであるから、右譲渡をもつて債務者その他の第三者に対抗するには通知、承
諾の時点において当該債権は既に発生しているか、発生していないとしても、将来
の債権としてその同一性を認識し得る程度に内容が特定し、明確にされていなけれ
ばならないことは理の当然というべきである。
 しかるに本件において被控訴人より債権の譲受人である訴外銀行に対してなされ
た右債権譲渡の承諾は、譲渡の目的債権がその当時未だ発生せず、かつ果して具体
的にいかなる債権が発生するか否かも予測し得なかつたものであることは前説示の
とおりであるから、目的債権の同一性を認識し得る程度にその内容が特定しかつ明
確にされていたとみることはできない。したがつてその後たまたま発生し、控訴人
に譲渡された本件売買代金債権につき、それ以前に訴外銀行がこれを譲り受け被控
訴人のなした前記承諾により、譲渡の対抗要件をも具備したとして控訴人に優先す
る権利者たることを主張することは許されず、この意味において被控訴人が訴外銀
行に対してなした前記承諾は、本件売買代金債権を目的とする訴外協和自動車有限
会社と訴外銀行間の債権譲渡につき、対抗要件としての効力を生し得ないものとい
うのほかはない。(二)当審証人A、同Cの各証言並びに右C証人の証言により成
立を認むべき乙第四号証を綜合すると、訴外株式会社福岡銀行は前記の如く訴外会
社に対する金融上の債権を担保する為訴外会社から同会社が被控訴人に対し、向う
一年間に生ずることあるべき取引上の債権を譲り受けたのであるが、昭和三七年一
〇月三日をもつて被控訴人に対する被担保債権はすべて弁済により消滅し、その後
訴外会社に対する金融上の債権は発生しなかつたので、昭和三八年に至つて、債権
担保の為譲り受けた右債権を訴外会社に返還し第三債務者である被控訴人にその旨
の通知をなした事実を肯認することができるし、訴外銀行が被控訴人から本件売買
代金債権の取立をなさなかつたことも、弁論の全趣旨により明らかであるから、同
銀行はもとより債務者たる被控訴人においても、もはや右売買代金債権につき訴外
銀行が、先に債権譲渡の対抗要件を具備した債権者なりとして控訴人の債権者たる
地位を否認することは許されない。
 してみると、以上いずれの理由よりするも訴外株式会社福岡銀行は、右売買代金
債権につき控訴人に対してその権利を主張し得る地位を有しないから、債務者たる
被控訴人は、右債権の譲受人として既に適法に対抗要件を具備した控訴人を唯一の
債権者として容認せざるを得ない筋合であり、したがつて、被控訴人に対して右代
金計金七八方五、〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日以降完済に至るまで年五
分の割合による損害金の各支払を求める控訴人の本訴請求は理由があるからこれを
認容すべきである。
 よつて、これとその趣旨を異にする原判決は失当として取消を免れないから、訴
訟費用の負担について民事訴訟法八九条九五条本文九四条を適用し、主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 高次三吉 裁判官 木本楢雄 裁判官 松田富士也)

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