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主文
1原告らの本件訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告ら
(1)被告が大分県に対して平成15年1月7日にした別紙埋立区域目録記載
の公有水面の埋立てを免許する旨の処分を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2被告
(本案前の答弁)
主文と同旨
(本案の答弁)
(1)原告らの請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告らの負担とする。
第2事案の概要
1本件は,被告が平成15年1月7日付けで大分県に対してした別紙埋立区域
目録記載の公有水面の埋立て(以下「本件埋立て」という。)を免許する旨の
処分(以下「本件免許処分」という。)について,原告らが,同処分は,本件
埋立区域に権利を有する原告らの同意を得ていないこと,公有水面埋立法(以
下「公水法」という。)4条1項各号の定める埋立免許の要件を満たしていな
いことなどを主張し,違法な免許処分であるとしてその取消しを求めた事案で
ある。
なお,以下においては,明治34年に制定された漁業法(明治34年法律第
34号)を「旧漁業法」,明治43年法律第58号による改正後の旧漁業法を
「明治43年漁業法」,昭和24年に新たに制定された漁業法(昭和24年法
律第267号)を「新漁業法」,昭和37年法律第156号による改正後の新
漁業法を「昭和37年漁業法」といい,単に「漁業法」という場合は,現行の
漁業法を指すものとする。
2前提事実(当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)当事者
ア原告石間区は,大分県佐伯市大字石間浦(以下,単に「石間浦」とい
う。)に居住する住民によって構成され,佐伯市長によって認可された地
縁団体(地方自治法260条の2)であり,その余の原告らは,石間区の
構成員であり,石間浦の住民である(以下,原告石間区を除く原告らを「住
民原告ら」という。)。
また,原告らのうち,原告F,同G,同Hは,大分県漁業協同組合(以
下「漁業協同組合」を「漁協」と略称する。)の組合員である(以下,こ
れら3名の原告を「組合員原告ら」という。)。
イ佐伯港は,昭和45年5月に,港湾法2条2項,同法施行令1条により
重要港湾に指定されているところ,被告は,同法33条1項に基づく佐伯
港の港湾管理者であり,同法58条2項に基づき,本件埋立てに関し,公
有水面埋立免許を付与する権限を有するものである。
(2)大入島及び石間浦の地理
大入島は,大分県南の中核都市である佐伯市に属し,佐伯市本土から北北
東に約700メートルに位置するリアス式地形の離島である。その周囲は約
22キロメートル,面積は5.66平方キロメートルであり,島の産業は漁
業を中核とし,柑橘類を中心とした農業も行われている。また,島の一部が
日豊海岸国定公園(1.11平方キロメートル)及び豊後水道県立自然公園
(4.51平方キロメートル)に指定されている。
大入島では,海岸線まで急峻な山地が迫っており,平地は少なく,各集落
は,入江の狭い平地に住宅が密集して建てられている漁業集落である。
(3)本件埋立てに関する計画
佐伯港港湾計画(港湾計画とは,港湾の開発の方針,港湾施設の規模及び
配置に関する事項,港湾の環境の整備及び保全に関する事項等を定めた,港
湾の長期的な開発,利用及び保全に関しての指針となる基本的な計画であ
る。)は,昭和46年に策定され,その後,同計画は,昭和57年及び平成
5年に改訂されているところ,平成5年8月に改訂された同計画では,大型
ふ頭の整備に伴い発生する浚渫土砂や,背後圏の公共工事により発生する公
共残土の処理用地の確保が必要とされ,その廃棄物処理用地として,大入島
東地区の海域17ヘクタールを充てることが計画された(乙20,48。以
下では,この大入島東地区における廃棄物処理事業を「本件埋立事業」とい
う。)。
他方,佐伯市では,平成11年2月,大入島の観光・産業両面にわたる活
性化を図るため,大入島開発計画を策定し,同計画では,本件埋立事業が実
施されることを前提として,シーサイドタウン(30戸相当の住宅地と店舗
用地)とシーサイドパーク(公園)を中心とした埋立地の整備が計画されて
いる(甲73)。
(4)本件免許処分の経緯
ア大分県は,佐伯港港湾計画に基づく廃棄物処理用地を,大入島開発計画
による緑地及び住宅用地として整備するため,平成14年7月19日,被
告に対して,公水法2条に基づき本件埋立てにかかる公有水面埋立免許願
書(以下「本件願書」という。)を提出した(乙1)。
本件願書では,埋立地の用途が,緑地約4.8ヘクタール,住宅用地約
1.3ヘクタールと計画され,埋立てに用いる土砂等の種類は,浚渫土及
び公共残土とされている。また,本件願書の添付図書である埋立必要理由
書(乙20)では,埋立ての必要性として,①緑地整備による必要性,②
住宅用地確保による必要性,③港湾及び道路整備等に伴う土砂処分場の確
保による必要性の三点が挙げられている。
イ被告は,公水法3条1項に基づき,出願された事項の要領の告示を行う
とともに,本件願書及び添付図書を平成14年8月2日から3週間にわた
って公衆の縦覧に供した(乙2)。
また,被告は,佐伯市長の意見を徴取し,同市長は,本件埋立てについ
て異議はない旨を佐伯市議会の議決書を添えて回答した(乙60の1及び
2)。
ウ上記のような手続を経た上,被告は,本件願書及び埋立必要理由書等の
添付図書の内容を審査し,平成15年1月7日,本件免許処分を行い,同
月21日,大分県告示第62号をもって同処分を告示した(乙4,5)。
(5)本件訴訟に至る経緯
ア大分県漁協設立前の佐伯市漁協(以下「旧佐伯市漁協」という。)では,
定款上,共同漁業権の全部又は一部を放棄する場合には,総会の議決前に
合併前(旧佐伯市漁協は,昭和44年に4つの漁協が合併して設立され,
その後,平成9年に西上浦漁協を吸収合併したが,これらの合併の前を指
す。)の旧組合の組合員の3分の2以上の書面による同意を要するとされ
ていた。
イ本件埋立事業の当初の計画では,埋立施行区域には,大入島西部を関係
地区とする共第35号第一種共同漁業権(以下「共第35号」という。)
の漁場の一部のほか,大入島東部を関係地区とする共第36号第一種共同
漁業権(以下「共第36号」という。)の漁場の一部も含まれていた。そ
こで,旧佐伯市漁協は,上記アの定款の規定に基づき,平成12年6月1
0日ころ,大入島西部及び東部のそれぞれの総代会において,漁業権の一
部放棄についての書面同意手続を行った。
その結果,大入島西部の総代会においては,組合員210名中,賛成1
85名で,3分の2以上の同意を得ることができたが,東部の総代会にお
いては,3分の2以上の同意を得ることができなかった。
ウそこで,佐伯市長は,平成13年3月18日,大入島西部の総代会にお
いて,東部では3分の2以上の書面同意が得られなかったことを説明した
上,埋立施行区域から共第36号の漁業権消滅区域を除外し,漁業権消滅
区域を大入島西部を関係地区とする共第35号の漁場の一部のみに限定す
る案を提示し,総代会は,この佐伯市長の提案に同意した。そして,同日,
大入島西部の総代会において,改めてこの提案に基づく漁業権放棄の書面
同意手続が行われ,組合員数206名中,184名の同意が得られた。
エその後,平成13年10月26日,旧佐伯市漁協の総会が開催され,共
第35号の一部消滅承認の件につき,出席組合員数594名中,賛成45
7名(議決権の3分の2以上の多数)により可決された(甲39)。
オこれに対し,本件埋立てに反対する旧佐伯市漁協の組合員や住民らは,
上記漁業権放棄の総会決議の瑕疵を主張して,決議不存在確認請求訴訟(大
分地方裁判所平成13年(ワ)第677号),住民監査請求とこれに続く財務
会計行為差止請求訴訟(同庁同年(行ウ)第23号),違法行為差止仮処
分申立事件(同庁同年(ヨ)第148号),総会決議取消等請求訴訟(同庁
平成14年(ワ)第9号)等を提起した。
カこうした中,旧佐伯市漁協は,大分県内の26の漁協との間で合併契約
を締結し,平成14年3月28日合併が認可され,同年4月1日,大分県
漁協が設立された。この合併に伴い,旧佐伯市漁協が有していた漁業権は,
大分県漁協に承継された。
キ大分県は,設立後の大分県漁協から,漁業法31条に基づく漁業権放棄
の手続を改めて取ることとし,平成14年6月7日,同漁協に対してその
依頼をした。そして,同漁協は,同月10日から同月12日にかけて,漁
業法31条,8条3項に基づき,共第35号の関係地区である大入島西部
の組合員を対象として,書面同意手続を行ったところ,総組合員数212
名(正組合員201名,准組合員11名)中,同意の署名(代筆も含む。)
又は記名及び押印をした者は184名であった。なお,組合員の中で,石
間区に居住する組合員数は73名(正組合員69名,准組合員4名)であ
り,そのうち上記手続における同意者は50名であった(甲16,21,
22)。
クさらに,平成14年7月13日,大分県漁協の総会の共第35号部会に
おいて,水産業協同組合法(以下「水協法」という。)51条の2第6項
に基づき,「大分県佐伯市大字(以下省略)の地先公有水面並びに(以下
省略)に接する道路の地先公有水面の埋立てに同意し,共第35号共同漁業
権の一部を放棄し,同漁業権の制限区域の認定に同意する。」との内容の
議案が提出され,同議案は,出席組合員数192名(うち書面議決書出席
186名)中,賛成175名(うち書面議決171名)によって可決され
た(乙40の1。以下「本件部会決議」という。)。
ケ大分県は,本件部会決議を前提として,前記(4)のとおり,平成14年
7月19日,被告に対して,本件願書を提出し,これに対して,被告は,
法定の手続を経た上で,平成15年1月7日,本件免許処分を行った。
そこで,本件埋立てに反対する大分県漁協の組合員などが,本件部会決
議の瑕疵を主張して,大分県漁協を被告として,部会決議無効確認等請求
事件(当庁平成14年(ワ)第429号)を提起するとともに,原告らが本
件訴訟を提起するに至った。
第3争点
本件の争点は,次のとおりである。
1原告適格について
(1)原告石間区及び住民原告らについて
ア原告石間区及び住民原告らが,公水法5条2号の「漁業権者」に該当す
るか。
イ原告石間区及び住民原告らが主張する慣習法上の漁業権が本件取消しを
求めるについての「法律上保護された利益」に当たるか。
ウ公水法が,埋立区域周辺住民について,埋立てにより生活環境に係る著
しい被害を受けないという利益を保護する趣旨を含んでいるか。また,原
告石間区及び住民原告らが,本件埋立てにより,こうした被害を受けるお
それがあるか。
(2)組合員原告らについて
本件部会決議が無効であり,組合員原告らが,未だ石間浦水域で第一種共
同漁業を営む権利を有しているといえるか。
2本案の争点について
(1)本件免許処分が,公水法4条3項の権利を有する者の同意を欠き,違法
無効な処分といえるか。
ア「磯草の権利」が慣習法上の漁業権に当たり,これについても公水法4
条3項の同意が必要となるか。
イ本件部会決議が無効であることにより,本件埋立てにつき,共第35号
の漁業権者である大分県漁協の同意を欠くこととなるか。
(2)本件埋立てが,埋立地の用途の特定を欠き,また,必要性がないことに
より,埋立免許の前提を欠くものといえるか。
(3)本件埋立てが,公水法4条1項の定める免許基準に適合するか。
ア国土利用の観点から,同項1号に適合するかどうか。
イ環境保全の観点から,同項2号及び3号に適合するかどうか。
第4各争点に対する当事者の主張の概要
1公水法5条2号の「漁業権者」の該当性(争点1(1)ア)
(原告らの主張)
(1)公水法5条2号の「漁業権者」の解釈
公水法は,大正10年に制定されているところ,当時の明治43年漁業法
下における地先水面専用漁業権は,入会漁業として部落の総有であった一村
専用漁場を,漁業組合の管理する漁業権に法的に整備したものにすぎず,そ
の実質的な帰属主体は,従来どおり地域住民集団であったから,管理主体と
しての漁業組合とその背後にある実在的総合人としての地域住民集団とは表
裏一体のものとして観念されていた。つまり,明治43年漁業法の下では,
入会集団である地域住民集団による地先水面の総有という慣習が継続してお
り,その上に免許がなされたことによって,漁業法上の権利ともなったとい
うことであり(免許漁業権と慣習法上の漁業権との二重構造),その権利者
は,漁業法上は漁業組合であるが,実体としてはその構成員を全く同じくす
る地域住民集団であり,その権利の内容及び行使は,漁業法と慣行とによっ
て規律されていたのである。こうした状況の下では,埋立てを行う場合,漁
業権者又は入漁権者の同意を求めれば,慣習法上の漁業権者も含めて,公有
水面において漁業をなし権利を有する者を全て網羅できたことから,公水法
は,漁業権については,引水権あるいは排水権とは異なり,その権原が法令
によるか慣習によるかの区別をする必要がなかった。
ところが,戦後に,水協法が制定され,また,新漁業法が制定されたこと
により,共同漁業権者と従前から地先水面の採貝採藻をしていた権利者が乖
離することとなった。すなわち,水協法で定める漁協は,任意加盟団体であ
り,その構成員となることができる要件について出漁日数等の制限が課され
たため,従前採貝採藻をしていた部落民と第一種共同漁業権の権利行使者が
一致しなくなったのである。しかしながら,共同漁業権は,慣習法上の権利
である地先水面専用漁業権ないし慣行専用漁業権を淵源とするものであり,
上記のとおり,地先水面専用漁業権は,免許と慣習の二重構造とされていた
のであるから,共同漁業権もまた同様の構造を維持していると解すべきであ
る。新漁業法も,漁業協同組合の二重の性格を前提とした上で,双方の性格
の相違から生じる乖離に伴う漁業権の分離(慣習による漁業権の顕在化)と
いう事態が生じうることを想定し,その場合の両者の権利の調整のために規
定(同法14条8項。なお,現行漁業法では14条11項。)を設けている。
この点,被告は,漁業法施行法(昭和24年法律第268号)の規定を根
拠として,新漁業法の施行に伴い,既存の漁業権はいったん全て消滅させら
れたのであり,慣習法上の漁業権者の存在する余地はなかったと主張するが,
同施行法にいう消滅すべき「既存の漁業権」とは,旧漁業法下における漁業
権の二重構造のうちの免許漁業権にすぎず,実体としての入会的(慣習法上
の)漁業権はそのまま存続し,共同漁業権に継承されてその二重構造を構成
しているのであって,被告の主張は失当である。
このように,公水法制定時における明治43年漁業法では,慣習法上の漁
業権と免許漁業権が一致していたために,同法5条2号の「漁業権者」とし
ては,慣習法上の漁業権者を明示する必要がなかったものであり,これを同
意権者から除外する趣旨ではなかった。そして,慣習法上の漁業権は,新漁
業法の下においても否定されていない。したがって,免許漁業権者と慣習法
上の漁業権者の範囲に乖離が生じる新漁業法の下では,公水法5条2号が所
期した漁業権者を把握するためには,免許漁業権者のみならず,慣習法上の
漁業権者も含めて解さなければならない。
(2)原告石間区及び住民原告らの慣習法上の漁業権
旧漁業法の制定に当たり実施された大入島の漁業慣行調査において,「各
浦共其地先ハ其浦々ノ専用採捕ノ慣行ナリ」と認められている。したがって,
旧漁業法制定以前において,大入島の各地先においては,地先住民による採
貝採藻についての一村専用漁場が慣行として確立していた。これが石間浦に
おける「磯草の権利」の起源である。
旧漁業法の施行により,石間浦の住民全てによって構成される総有団体と
しての石間浦漁業組合に対し,明治41年6月29日,第925号免許とし
て,地先専用漁業免許状が交付され,従来の一村専用漁場は,地先水面専用
漁業権として免許されることとなった。これは,慣行としての漁業権がその
まま免許漁業権として漁業法上の漁業権となったのであり,その漁業権の帰
属主体は,石間浦の漁民集団たる石間浦漁業組合であり,漁業権の行使は,
その構成員に平等利用権として与えられることになった。
戦後,新漁業法が成立し,地先水面専用漁業権は,第一種共同漁業権へと
編成替えされ,関係地区が定められた上で,その免許主体が法人としての漁
協とされることとなった。
石間浦の地先水面専用漁業権は,共第35号共同漁業権に編成され,免許
主体は大入島西漁協(その後,合併により昭和41年に旧佐伯市漁協)とな
り,その関係地区は,大入島西地区全体に拡大されるに至ったが,大入島で
は,第一種共同漁業権の免許によっても,慣行としての地先水面における磯
草の権利が消滅することなく存続した。
慣行としての入会漁業権と免許漁業権としての第一種共同漁業権との分離
は,昭和37年漁業法による漁業権行使規則によって,一層明確になったと
されているが,大入島においては,共第35号の漁業権行使規則において,
石間浦の地先における同漁業権の行使権者を石間浦に住所を有する組合員に
限ることを通じて磯草の権利の存続を図ったのであり,従前どおり,石間浦
の住民によって構成される石間区が,その管理者として地先水面を管理し,
その住民が独占的に採貝採藻を続けた。
石間区は,磯草の権利を守るために,旧佐伯市漁協に対して,昭和34年
から43年まで9年間にわたり,第一種共同漁業権の行使料を支払った時期
がある。また,パルプ廃液による補償金が,丙C株式会社(以下「丙C社」
という。)から漁協を通じて石間区に対して支払われていたこともある。こ
れらの事実は,磯草の権利を漁協が容認していたことの証拠である。
磯草の権利については,長い間,石間区の管理のもとに,石間区の住民の
みが誰でも,石間区の定める規則に従って採貝採藻を行うという形で行使さ
れてきたが,昭和37年から,アワビ,サザエ,テングサといった商品価値
の高いものについて,入札制度を実施して今日に至っている。こうした入札
制度は,石間区の主宰により,石間区が定めた規則によってなされているも
のであり,慣行上の入会権の行使の一態様である。
したがって,磯草の権利は,社会通念上権利と認められる程度にまで成熟
した慣習法上の漁業権であり,現在もなお存続している。
(3)まとめ
以上のとおり,公水法5条2号の「漁業権」には慣習法上の漁業権も含ま
れ,かつ,磯草の権利は慣習法上の漁業権として成熟しているのであるから,
かかる権利を有する原告石間区及び住民原告らは,本件埋立てについて公水
法上の同意権を有しており,本件免許処分の取消しを求めるにつき法律上保
護された利益を有している。
(被告の主張)
公水法は,埋立区域内に何らかの権利を有する者全てから同意を得ることは
困難であり,これを必要とすれば,公有水面埋立ての業務を阻害することから,
5条で,同意を要する公有水面に関し権利を有する者を4種類に定めたのであ
り,この趣旨からすれば,5条の同意権者が限定列挙であることは明らかであ
る。また,公水法5条が,引水ないし排水権者については法令による場合と慣
習による場合を書き分けているのに,漁業権者についてはそのような書き分け
をしていない点も,慣習法上の漁業権者を同意権者としない趣旨と解される。
さらに,昭和48年に公水法が改正された際にも,立法者意思は同法5条2号
の「漁業権者」を漁業法に基づいて漁業権を有する者とする立場であった。し
たがって,公水法5条2号の「漁業権者」は,同法制定当時も昭和48年の改
正後も,漁業法に基づいて漁業権を有する者であり,慣習法上の権利者を含ま
ない。
漁業法の制定・改正の経緯をみても,まず,旧漁業法の制定に伴い,慣行に
よる漁業権が否定され,漁業権者は免許によって漁業権を与えられた者に限ら
れることとなった。それまでの慣行による漁業者も,慣行による専用漁業権の
免許を与えられなければ漁業権者でないこととなった。その後,明治43年漁
業法でも,専用漁業権として,地先専用漁業権と,旧漁業法当時に免許が与え
られていた慣行専用漁業権が存していたが,明治43年漁業法の下における新
たな地先専用漁業権は,漁業組合に限って免許が与えられたことから,それ以
外の慣行による漁業権者は存在しなかった。そして,新漁業法の施行に伴い,
既存の漁業権はいったん全て消滅させられたのであり,この時点において,慣
習法上の漁業権者は存在する余地はなかったことになる。
原告らは,新漁業法14条8項が,員外者の権利規定を定めたことを指摘し,
これをもって新漁業法が慣習法上の漁業権の存在を認めている旨主張するが,
同条項は,漁協組合員になっていない非組合員で,関係地区内に住んでいる漁
民を保護するための規定である。共同漁業権の内容となっている漁業は,定置
漁業,区画漁業と異なり漁業権に基づかなくても行えるものであるが,漁協に
共同漁業権が免許された場合には,当該組合に排他的独占権が生じ,場合によ
っては関係地区内に住んでいる漁民といえども非組合員は漁業ができなくなる
ことを考慮し,これらの者に漁業を行わせようとするときは,海区漁業調整委
員会が必要な指示をして漁業権の排他的効力を抑えようというものである。特
に,第一種共同漁業と第五種共同漁業を内容とする共同漁業権について,委員
会に指示を義務づけたのは,これらの漁業は原則として地元漁民の誰でもに行
わせるべき性質の漁業であるためである。したがって,非組合員のこのような
漁業は,いわば自由漁業の性質を有するにすぎないものであって,この規定を
根拠に,新漁業法の下において,慣習法上の漁業権者が存在することを主張す
ることは理由がない。
このように,公水法が制定された当時の明治43年漁業法の下では,慣習法
上の漁業権者は存在しないことが前提となっていたのであり,また,新漁業法
の下でも,これを許容する規定は存在しないのであるから,公水法5条2号の
「漁業権者」には,慣習法上の漁業権者が含まれないことは明らかである。
したがって,原告石間区及び住民原告らは,公水法上の漁業権者に当たらず,
公有水面の埋立てにつき同意権を有する者でもないから,これに当たることを
理由として原告適格があるとする原告らの主張には理由がない。
2原告石間区及び住民原告らの主張する慣習法上の漁業権の「法律上保護され
た利益」該当性(争点1(1)イ)
(原告らの主張)
仮に,公水法5条2号の「漁業権者」に慣習法上の漁業権者が含まれないと
しても,原告石間区及び住民原告らが,慣習法上の漁業権である「磯草の権利」
を有していることは前記のとおりであるから,これらの原告は,当該公有水面
に権利を有する者に当たり,法律上保護された利益を有していることになる。
(被告の主張)
仮に,石間区及び石間区住民が,長年にわたって藻類等を採捕していたとし
ても,その経緯は,もともと住民が自由に海に入り,各々自宅で消費する藻類
等を採捕していたというものにすぎない。したがって,このような石間区及び
石間区住民の地位は,磯草の権利という財産権的な権利に該当するものではな
く,到底,慣習法上の漁業権とは言い得ない。
原告らは,石間区において,磯草の権利を入札しその収益を石間区の収入と
して計上していた旨主張するが,共同漁業権の客体である定着性動植物を採取
する権利を入札する行為は,漁業法で認められた漁業権を侵害する違法行為に
すぎず,旧佐伯市漁協はこのような行為を禁止してきた。また,新漁業法が施
行されて2年経過後は,既存の漁業権は全て消滅し,その後は新漁業法に基づ
いて設定された権利関係だけが存続するにすぎないといえることから,現時点
において,慣習法上の漁業権者は存在する余地がない。
このように,石間区及び石間区住民が藻類等を採捕してきた事実は,磯草の
権利といった財産的権利性を有するものではなく,慣習法上の漁業権にも該当
しないから,これに基づいて原告適格があるとする原告石間区及び住民原告ら
の主張には理由がない。
3公水法の趣旨と生活環境に係る著しい被害のおそれ(争点1(1)ウ)
(原告らの主張)
(1)公水法の趣旨
最高裁平成17年12月7日大法廷判決は,都市計画法が,騒音,振動等
によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある
個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別
的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解すべきであると判示し
ているところ,その根拠として,同法が都市計画の基準に関して,当該都市
について公害防止計画が定められているときは,都市計画がこれに適合した
ものでなければならないと定めていること,都市計画の案を作成しようとす
る場合において必要があると認められるときは,公聴会の開催等,住民の意
見を反映させるために必要な措置を講じる旨定められていること及び関係市
町村の住民や利害関係人に,縦覧に供された都市計画の案について意見書を
提出できるとしていることを挙げていることに特徴がある。
そして,公水法は,埋立てに伴う公害問題が多発し,各地で埋立反対・企
業誘致反対の住民運動や訴訟が展開されたことを背景に,昭和48年に改正
され,4条1項2号及び3号の環境配慮条項や,利害関係人からの意見聴取
手続が創設されており,公水法におけるこれらの条項の存在を,上記最高裁
大法廷判決の判示するところに照らせば
,違法な埋立てによって,健康ない
し生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該埋立
免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者ということができる。
(2)生活環境に係る著しい被害のおそれ
本件埋立てに用いられる浚渫土砂は,パルプ廃液に由来するヘドロであり,
昭和48年8月における大分県の佐伯湾ヘドロ実態調査報告書(甲128)
では,佐伯湾をヘドロによる汚染度によって,強汚染域,中汚染域,弱汚染
域,微汚染域に区分し,そのうち,「強汚染域は,中江川入江の大部分及び
その前面水道域の約600m×800m,大入島南部西方水道域の約400
m×400m並びに中江川全域を含んだ計約900,000㎡をしめ,汚染
物質は海底下約20㎝の範囲にあって,(中略)総計約180,000㎥と
なる」と指摘し,「強汚染域の汚染堆積物,計約180,000㎥について
は早急に除去が必要と考えられる」と提言している。
それにもかかわらず,本件埋立ての工法では,汚濁防止膜の構造,設置方
法,耐久性等について不明な点が多く,また,汚濁の予測も不十分である(こ
の点の主張の詳細は,争点2(3)イに関する原告の主張のとおりである。)。
したがって,違法な埋立てがなされれば,石間区住民は,その生活環境に対
し,直接的に著しい被害を受けるおそれがあるといえるから,原告石間区及
び住民原告らには原告適格が認められる。
(被告の主張)
公水法4条1項1号の規定は,およそ埋立ての可否の判断の基本となる一般
的理念を示した抽象的な規定であるし,同項2号が規定する環境保全に関する
基準は,埋立行為そのものに特有の配慮事項として,環境問題及び災害問題に
つき,一般的・公益的な見地から,現況及び影響を適格に把握した上で,これ
に対する措置を適正に講じることを免許基準としたものであり,一定水準以上
の環境,安全性を確保するという行政目的達成のための一般的・抽象的基準で
あって,環境保全等の具体的基準を明示していない。
同項3号の規定は,埋立地の用途について,埋立地周辺等における土地利用
上の整合性を求めたものであり,この規定により,環境保全に関しては,環境
への影響が環境基本法により定められた環境基準や公害防止計画等の許容基準
を超えてはならないことが要求されることになるが,これは人の健康を保護し,
生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準であって,行政の努力
目標を示す指標にすぎない。
したがって,これらの規定は,抽象的・一般的な公益を保護する趣旨と解す
るのが相当であり,周辺住民,周辺漁民等の有する生活又は営業上の環境利益
等を一般的公益の中に吸収解消されない個別的利益としても具体的に保護する
との趣旨を含むとは考えられない。
4本件部会決議の効力(争点1(2))
(原告らの主張)
(1)漁業権の放棄・変更は,組合の意思決定だけで決まるのではなく,総会
(総会の部会)で議決をする前に,総会の手続とは別個に,組合員の議決権
にかかわりなく(議決権を有しない准組合員も含めて),書面同意を求める
こととされている。そして,書面同意は,漁業法1条の目的を達成するため
に,漁場の管理に関する制度として設けられた強行規定で,書面同意が適法
になされることは,総会の議決を適法ならしめるための法律上の要件である。
したがって,書面同意の手続が要件を満たさないときには,決議自体が無効
となる。
このように,総会の部会の議決と別個に書面同意の手続を履践する
ことを定めたのは,組合員の地位と漁業を行使する地位が分離して,実際に
漁業を行使する資格のある関係地区の組合員の地位が不当に脅かされること
を慮ってのことであり,その手続要件についての漁業法の解釈は,組合員の
漁業を営む権利を実現するための制度である書面同意や,漁業権行使規則の
立法趣旨を踏まえてなされるべきである。
ア関係地区に住所を有する者を,一部放棄の対象となる当該漁場に漁業を
営む資格を有する者に限定せずに,書面同意手続に加えた違法
(ア)漁場区域及び関係地区設定のあり方
漁業法11条1項によれば,地元地区とは,自然的及び社会経済的条
件により,当該漁業の漁場が属すると認められる地区をいい,関係地区
もこれと同義である。漁協の合併等により,組合の地区が拡大しても,
漁場の利用関係が,合併前と同様,水域ごとに漁業権行使権者が完全に
区別される場合には,これを無視して漁場区域を単一にし,関係地区を
拡大して定めることは不当である。昭和37年漁業法は,漁業権行使規
則制度を設けることにより,漁協が合併された際,当該漁場においては,
合併前の旧組合の組合員だけが従来どおり漁業を行うことができるよう
にして,漁場の区域がその利用関係を反映させずに免許で定められたこ
とを是正したのである。このように,漁業権行使規則は,漁場の慣行を
取り入れることによって,不適法な関係地区の定めを補ってきたが,漁
場調整と水面の総合的利用という本来の趣旨に適うためには,古来から
の漁場慣行に従って,漁場区域や関係地区を定めなければならない。
これを共第35号についてみるに,その関係地区は,大入島西部の
(以下省略)とされているが,これは,大入島西部で2つの
組合の地区
が1つになって大入島漁協を設立し,組合の地区が拡大したことによる
ものである。しかしながら,かつて石間浦漁業組合を設立していた時代
における石間区の地先の独占排他的な利用関係は,引き継がれており,
免許に当たっての漁場区域や関係地区の定め方としては,漁場の区域を
石間区の地先に限定し,関係地区をその漁場の属する石間区に限定して
定めるべきであった。
(イ)書面同意手続の違法
上記(ア)のように,関係地区が拡大され,関係地区の組合員の地位と,
実際に漁業を行使する地位とが異なることとなった
本件の場合において
は,書面同意手続に加えられるべき者は,漁業法31条の趣旨から限定
解釈すべきである。すなわち,漁業権行使規則の制定・変更・廃止につ
いての書面同意制度(漁業法8条3項)は,組合の多数者の意思により
少数者たる当該漁業権者の地位が不当に脅かされることのないように配
慮したものであり,同条1項の,漁業権行使規則の規定を前提としたも
のである。そして,第一種共同漁業に関し,書面同意が必要な者を「沿
岸漁業を営む者」で「関係地区に住所を有する者」とした趣旨は,第一
種共同漁業は,本来その関係地区内の漁業者が平等に行使するのが最も
通常である漁業であって,その漁業権の行使方法を定める場合には特定
の既存権利者発言権というより,むしろこの漁業に依存する度合いが強
い沿岸漁業者等の同意を要するとした方が妥当と見られるからである。
そうすると,書面同意を要する者の範囲に関する漁業法8条3項括弧内
の規定は,①第一種共同漁業権は「本来その関係地区内の漁業者が平等
に行使するのが最も通常である漁業」であるということと,②関係地区
内に住所を有する沿岸漁業を営む漁民は第一種共同漁業権に対する依存
度が強い,との認識に立脚しているといえる。
ところが,石間浦水域における第一種共同漁業権に関しては,石間浦
以外に住所を有する者は何らの依存度もなく,平等に行使することもあ
りえない。
また,漁業法8条3項の立法趣旨である,少数者たる当該漁業者が多
数者の意思で脅かされることがないようにとの配慮の面からみても,本
件における書面同意を,関係地区に住所を有する沿岸漁業を営む者の3
分の2で足りるとする解釈は成り立たない。すなわち,石間浦地区に住
所を有し,沿岸漁業を営む組合員は,関係地区全体の沿岸漁業を営む者
の総数の3分の1に満たないから,関係地区に住所を有する沿岸漁業者
の3分の2で足りるとすると,石間浦に住所を有する組合員が全員一致
で反対しても書面同意の要件は満たされることになり,少数者たる当該
漁民を保護するという立法目的は果たされないことになる。
したがって,漁業法31条により同法8条3項が準用される場合には,
沿岸漁業を営む者のうち関係地区に住所を有する者の3分の2の中には,
「現に当該漁業権の内容たる漁業を営む者」の3分の2の書面同意が含
まれることを当然の前提として内包していると解すべきであり,本件部
会決議についても,石間区の組合員の3分の2以上の同意を得なければ
ならない。これを顧みなかった本件部会決議は,漁業法の趣旨にも慣行
にも反した重大な瑕疵があるものであって,当然無効とされなければな
らない。
イ共第35号を営む者以外の者を書面同意手続に加えた違法
漁業法31条の書面同意の要件は,①組合員であること,②当該漁業権
の内容たる漁業を営む者であること,③関係地区・地元地区の区域内に住
所を有する者であること,④3分の2以上の同意があること,の4つであ
る。
(ア)組合員の要件について
漁協の正組合員になるためには,漁業を営むか従事する日数が年間9
0日以上なければ資格を認められない。しかしながら,大分県漁協の組
合員に関し,佐伯市魚市場に対して仕切書の送付嘱託をしたところ,本
件で書面同意に加わった者のうち,I,J,K,L,M,N,O,P,
Q,R,S,T,Uについては,平成13年中の仕切書が1枚もなく,
1年に1回たりとも市場に出荷したことのない者であることが判明した。
このような者達は,第一種共同漁業権を営む者でないばかりか,漁業を
営む者でもなく,組合員資格も欠く者である。
(イ)当該漁業権の内容たる漁業を営む者の要件について
上記仕切書を精査したところ,V及びWがそれぞれ年1回ずつ第一種
共同漁業権の対象となる物を市場に出荷しているが,その出荷額は10
00円ないし3500円程度であり,第一種共同漁業を営む者には該当
しない。その他の書面同意をした者の中で,第一種共同漁業権の対象と
なる水産生物を出荷した者は誰1人存在しない。これに対して,書面同
意をしていない組合員の中にこそ,第一種共同漁業を営んできた者が存
在する。
(ウ)漁業従事者ではない漁業を営む者の要件について
R,S,T,Uについては,そもそも漁業従事者ともいえない者もい
るが,漁業法は漁業を営む者と漁業従事者を峻別しており,書面同意の
対象者は第一種共同漁業を営む者と明確に規定しているのであるから,
漁業従事者については書面同意の対象とすることはできない。したがっ
て,これらの4名については,書面同意の対象とすることは許されない。
(エ)住所の要件について
書面同意をした者のうち,I,X,Y,Z,AA,AB,Qの7人は,
関係地区内に住所がなく,書面同意の対象とすることはできない。
(2)このように,第一種共同漁業を営んでいない者,住所のない者,単なる
漁業従事者であり漁業を営んでいない者など,書面同意手続に加えるべきで
ない者を多数加え,同意者を水増しした上で,大分県漁協は書面同意手続を
完了したとしている。しかしながら,書面同意の対象としたものは,いずれ
も手続に加えるべきでない者ばかりであり,適法に書面同意手続を経ている
とはいえない。
したがって,本件部会決議の前提である書面同意手続を経ていない以上,
本件部会決議は無効である。
(被告の主張)
(1)本件部会決議が無効になるためには,決議の内容が法令に違反し,重大,
明白な瑕疵が存すること必要であるところ,そもそも,総会の部会の決議前
に適法な書面同意が必要であるとの要件は,総会の部会決議における手続的
要件の問題に他ならず,決議取消事由には該当しても,決議無効事由には該
当しないものである。
しかも,決議の瑕疵と埋立免許の有効性について,裁判例(青森地判昭和
61年11月11日・判例地方自治30号78頁)は,「同意が権限のない
者によってなされた場合のように同意に重大,明白な無効事由がある場合に
は同意を欠いた場合と同一であり(埋立免許は無効),同意の内容に右以外
の瑕疵がある場合でも免許権者がこれを知りながら免許した場合にはその免
許を無効とすべきであるが,右以外は同意の無効がただちに免許を無効にす
るものではない。」と判示して,同意に瑕疵がある場合でも,一定の重大事
由に当たる場合を除き,同意の無効が直ちに免許を無効とするものでないと
している。
(2)関係地区に住所を有する者を,一部放棄の対象となる当該漁場に漁業を
営む資格を有する者に限定せずに,書面同意手続に加えた違法について
漁業法8条3項にいう「関係地区」は,同法11条に規定する関係地区の
ことであると明記されており,同条では,都道府県知事が漁場計画で決定す
べき事項として,関係地区を定めなければならないとされている。そして,
共第35号の関係地区は,大入島西部(以下省略)と定められている。この
ような関係地区の定め方及び漁業法8条3項の規定からすれば,共同漁業権
の一部放棄の場合であるからといって,漁業法31条,8条3項の「関係地
区」の意義を,11条によって定められた関係地区よりも限定することはで
きないというべきである。
また,漁業法31条が,「実際に漁場を利用する地元漁業者の居住する地
区」といった規定を別個に定めることなく,同法11条の「関係地区」との
関係で規定された8条3項を準用する形式としたのは,漁業権の放棄等にお
いても,同法11条の「関係地区」に住所を有する漁業者との関係で書面同
意を要求したものであるからに他ならない。そうであれば,共同漁業権の一
部放棄の場合においても,書面同意を要する者の範囲は,漁業法11条の「関
係地区」に住所を有する漁業者であり,「関係地区」の意義をそれ以上に限
定解釈すべきでない。
さらに,漁業権行使規則の制定・変更等の場合には,「関係地区」が限定
解釈されることはないのであるから,漁業権の放棄の場合にも,たとえそれ
が共同漁業権の一部放棄であるとしても,「関係地区」を限定して解釈する
ことはできないというべきである。
加えて,本件では,大入島西部の地区は,「関係地区」として実態を備え
て,50年以上にわたって範囲を拡大することなく存在しており,これまで
にも,この関係地区によって漁業権放棄の同意手続がなされるに当たって,
何ら支障が生じたことはない。
したがって,共第35号の一部放棄における書面同意手続では,大分県漁
協の組合員のうち,共第35号の内容たる漁業を営む者であって,共第35
号の関係地区である大入島西部の区域内に住所を有する者の3分の2以上の
書面同意を得れば足りるというべきである。
この点,大分県漁協では,平成14年6月10日から同月12日にかけて,
共第35号の関係地区である大入島西部の組合員から3分の2以上の書面同
意を得た。この時の結果は,組合員212名中,賛成は185名であった。
(3)共第35号を営む者以外の者を書面同意手続に加えた違法について
漁業法8条3項の「当該漁業権の内容たる漁業を営む者」は,第一種共同
漁業を内容とする共同漁業権については,当該漁業権に係る漁場の区域が内
水面以外の水面である場合にあっては,「沿岸漁業を営む者」とされている。
すなわち,漁業法8条3項は,海面においては,組合員のうち沿岸漁業を営
む者であって関係地区内に住所を有する者の3分の2以上の書面同意を要す
るとしているのであって,それ以上の限定がなされるものではない。
また,組合員資格の判定方法については,「いかなる判定方法,基準を設
け運用するかは,漁協が水協法の趣旨のほか漁協の実態ないし個別事情を考
慮して,その裁量により具体的に決定すべきであり,また,その決定された
ところはこれを不合理と認める特段の事情のない限り尊重すべきものであ
る。」と判示する裁判例(松江地裁益田支部平成3年2月21日・判時13
99号120頁)からすれば,本件においても,関係地区の総会の部会の組
合員資格については大分県漁協が判断すべき事柄であって,その判断が尊重
されるべきである。そうすると,大分県漁協が,原告らの指摘する者らを組
合員として認定したことが,漁業権放棄手続を無効ならしめるほどに重大,
明白な瑕疵であるとはいえない。
仮に,原告らの主張に沿って,実際に漁業を営んでいない者は組合員資格
を有しないとして書面同意手続の結果から除外したとすると,石間浦区の組
合員73名のうち,同意者は50名,不同意者は23名であったところ,大
分県漁協の調査結果によれば,同意者のうち9名が除外されて同意者は41
名となるが,他方,不同意者のうち16名が除外されて不同意者は7名であ
ったことになる。したがって,結果的に85パーセントの組合員が同意して
いることになり,この点からしても大分県漁協の書面同意手続に問題はない。
(4)まとめ
このように,本件部会決議の前提となる書面同意手続は適法になされてお
り,本件部会決議もまた適法かつ有効である。そして,組合員は,漁業権行
使規則に規定された資格を有する場合に限り,当該漁業権の範囲内において
漁業を営む権利を有することとなるから,当該漁業権が漁業権者によって放
棄され漁業権が消滅すれば,当然に漁業を営む権利も消滅することになる。
したがって,本件においても,共第35号の一部が放棄されることにより,
組合員が当該漁業を営む権利も消滅し,埋立免許処分の取消しを求める法律
上の利益も消滅することとなる。よって,組合員原告らが漁業を営む権利を
有していることを根拠として,原告適格が認められるとする原告らの主張に
は理由がない。
5埋立同意の欠如(争点2(1)ア及びイ)
(原告らの主張)
磯草の権利を有する原告石間区及び住民原告らは,公水法5条2号の「漁業
権者」であり,同法4条3項1号の同意権者に該当するところ,原告らは本件
埋立てに関し,何ら同意をしていない。また,本件部会決議は,無効であるか
ら,本件埋立てについては,共第35号の漁業権者である大分県漁協の同意を
得ていないことに帰する。
したがって,本件免許処分は,公水法上の同意権者の同意を欠く違法がある
といわざるを得ない。
(被告の主張)
原告石間区及び住民原告らは,公水法5条2号の「漁業権者」に当たらず,
そもそも同意は不要である。また,本件部会決議は有効であるから,共第35
号のうち,本件埋立区域に係る部分の漁業権は適法に放棄されている。
したがって,本件免許処分について,公水法上の同意権者の同意を欠くとい
う瑕疵は存在しない。
6埋立地の用途の特定と埋立ての必要性(争点2(2))
(原告らの主張)
公水法2条2項では,埋立免許を受けようとする者が免許権者である都道府
県知事に免許を申請するに際し提出すべき願書には,埋立地の用途が特定され
なければならないと明記されている。また,埋立免許が認められるための要件
として,「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体
(港湾局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」(同法4条1項3号)
と規定されている。つまり,公水法では,埋立免許がなされるに当たって,免
許出願者の計画において,埋立地の用途が特定されていなければならないこと
及びその用途が法令に適合していなければならないことが要件とされている。
この点,本件埋立免許出願の願書に添付された埋立必要理由書には,埋立て
の必要性として,①緑地整備,②宅地整備,③浚渫土砂等の処分が挙げられて
いる。しかしながら,大入島はそれ自体,自然環境に恵まれた一大緑地を形成
しており,わざわざ地先を埋め立てて緑地を造成する必要性はない。また,大
入島は過疎化が進んでおり,空き地,空き家が続出している状況にあるから,
住宅用地は必要ない。そうすると,本件埋立ての必要性は,専ら③の浚渫土砂
等の処分にあり,緑地や宅地の整備は,埋立免許出願の際に必要とされる「埋
立地の用途」を形式的に整えるために付け足されたものにすぎない。
したがって,本件埋立ては,その用途が特定されておらず,願書に記載され
た緑地や住宅地は必要性がないから,本件免許処分は,公水法の免許要件を満
たしておらず,無効である。
(被告の主張)
(1)原告らは,本件埋立地の用途が特定されていないと主張するが,埋立願
書にいう「埋立地の用途」とは,埋立てによって造成される土地の使用目的
を特定するものであり,「埋立ての必要性(目的)」とは異なる概念である。
「埋立ての必要性」は,埋立てによって造成された土地の使用目的を示す「埋
立地の用途」だけでなく,埋立行為自体の必要性をも含む概念である。そし
て,本件埋立てによって造成される土地の使用目的は,緑地及び宅地であり,
浚渫土砂及び公共残土の処分場の確保は,埋立ての必要性の一内容ではある
が,埋立地の用途とはなり得ない。
したがって,原告の主張は,「埋立地の用途」と「埋立ての必要性」を混
同するものであり,本件埋立ての「埋立地の用途」に虚偽はない。
(2)緑地整備の必要性
大入島には平地がほとんどなく,公園等の緑地や住宅用地として適した遊
休地が非常に少ない。本件埋立ては,佐伯市民が水辺に親しみ,人と港,人
と海がふれ合うことのできる親水性に富んだ豊かなウォーターフロントを整
備し,快適な港湾環境を創造し,佐伯市及び大入島を訪れる利用者に豊かな
アメニティ空間を提供するために緑地を整備しようとするものである。
(3)宅地整備の必要性
大入島では過疎化と高齢化の傾向が著しく,今後もその傾向が加速するこ
とが予測された。そこで,佐伯市は,定住促進対策を策定し,大入島におい
ても人口増を計画した。そして,各種アンケートやIターン,Uターンの希
望者の問い合わせ等を考慮した結果,大入島において1戸建ての公共住宅の
整備を図る必要性があると認めて,これを30戸程度建設するための住宅用
地を確保することとした。しかし,大入島の地形からすると,公園等の緑地
や住宅用地を既存の陸域で確保することは困難であり,本件埋立てにより新
たに用地を確保せざるを得ない。
(4)浚渫土砂処分場確保の必要性
佐伯港港湾計画の改訂において,女島地区に新たに12メートルの水深を
有するふ頭の整備を図るとともに,現在10メートルの岸壁を14メートル
に改修することが計画された。そして,14メートル岸壁の航路・泊地の整
備に伴って33万立方メートルの浚渫土砂が発生する。また,国道217号
における改良工事やその他の道路整備等により40万立方メートルの土砂が
発生する。これらの浚渫土砂等の処分先を検討するに当たり,佐伯港背後陸
地は,市街地と工業用地等からなっており,大量の残土処理を行う場所が確
保できない。したがって,これらの浚渫土砂等の埋立処分場を確保する必要
がある。
(5)まとめ
このように,本件埋立地の用途は特定され,緑地整備及び住宅用地確保に
よる必要性は,浚渫土砂処分場の確保による必要性とともに現実に認められ
るものであるから,本件免許処分は適法である。
7公水法4条1項1号の適合性(争点2(3)ア)
(原告らの主張)
(1)都道府県知事が埋立免許をなすに当たって,本来最も重視すべき諸要素,
諸価値を不当に軽視し,本来考慮に入れるべきでない事項を考慮に入れ,若
しくは本来過大に評価すべきでない事項を加重に評価し,その結果判断に影
響を生じさせたというような場合には,当該免許処分は裁量権の逸脱,濫用
として違法となるというべきである。
(2)本件埋立ての必要性がないこと
前記のとおり,大入島地区において本件埋立てをしてまで緑地及び住宅地
を整備しなければならない事情は全く存在しない。このような用途や必要性
を前提に,出願者でもある被告自身が,虚偽を知りつつ免許をするというの
は,本来考慮に入れるべきでない事項を考慮に入れ,若しくは本来過大に評
価すべきでない事項を加重に評価したものであり,その結果その判断に影響
を生じさせたものであって,裁量権を逸脱した違法な免許である。
(3)国土利用上の合理性がないこと
本件埋立計画の端緒というべき佐伯港港湾整備計画は,佐伯港女島地区多
目的国際ターミナル整備事業(以下「佐伯港整備事業」という。)と,本件
埋立事業から構成されており,それぞれについて国土交通省九州地方整備局
事業評価監視委員会による再評価を受けているが,以下のとおり,いずれも
杜撰な費用便益分析がなされており,免許基準に適合しないことは明らかで
ある。
アまず,佐伯港整備事業についてみると,再評価の資料とされた「佐伯港
港湾施設整備調査報告書」(以下「本件報告書」という。)では,同事業
がもたらす年間の輸送費削減額(便益額)が,原木8.27億円,チップ
5.47億円,石炭1.19億円の合計15.2億円と計算され,50年
間の事業期間を通じる総便益は,土地の残存価値2.3億円と合わせて,
257億円とされている。
しかしながら,本件報告書は,将来の原木輸入を米材6万トンと仮定し
ている点,そのために必要とされる3万トンクラスの原木専用船が佐伯港
には入港できないという前提をとっている点は,佐伯港への米材の輸入が
平成13年から3年間皆無であることなどからすれば,いずれも全くの誤
りであり,事業の必要性を論証するために,架空の前提を措定したもので
ある。また,本件報告書では,チップに関して年間15万トンという需要
を前提に,佐伯港整備ができれば,四日市港ではなく,佐伯港で荷下ろし
できるとして,輸送コスト削減が算定されている。しかしながら,チップ
に関しては,佐伯港の臨港パルプ企業が業種変換し,1997年末にパル
プ製造を中止したため,地元に需要が全くなく,仮に佐伯港に5万トンの
チップ船が入港可能になっても四日市港で荷下ろしをするという事態に変
化をもたらさない。しかも,本件報告書におけるチップ輸送コスト削減の
計算は,比較すべき事前輸送コストと事後コストの輸送量が同一でない上
に,出港地をオーストラリアへと変更することを前提とされているもので
あり,合理性に欠ける。さらに,本件報告書では,石炭輸送コストの削減
見積りを,石炭消費量が7割程度に減少することを予測した上で,在港日
数を最高15日と算定し,5万トン貨物船の入港により10日に短縮され
ると計算しているが,こうした在港日数の算定は余りに過大であり,実際
には,3万トン貨物船での現状在港日数は4日,5万トン化により効率が
2倍に上がったとしても,在港日数は3.3日にしかならない。
このように,佐伯港に5万トン船舶を停泊させることによって生じる輸
送コストの削減は,ほとんど期待できないというべきであり,その事業に
よって排出する浚渫土の処分場として,本件埋立予定区域を埋め立てる必
要性は皆無に近い。同事業にかかる費用は133億円とされており,この
ような膨大な予算の無駄遣いになることは必定であって,国土利用上適正
かつ合理的とはいえない。
イ次に,本件埋立事業についてみると,被告による費用便益分析によれば,
同事業による主要な費用は護岸建設費のみであり,47億円と評価され,
主要な便益として,輸送費削減(61.16億円),海面消失(負の便益
2.43億円),土地の残存価値(14.43億円)が挙げられている。
しかしながら,被告が本件埋立事業と比較すべき代替案として検討した
のは,浚渫土砂の海洋投棄と公共残土の埋土処分であり,海洋投棄につい
ては海上輸送費用が,埋土処分についてはトラック輸送費・水田購入費等
が計上され,これら代替処分に要する費用は約84億円と試算されている
ところ,上記費用はいずれも市場価格とはかけ離れており,市価に照らし
適正な価額で検討すると,代替処分案にかかる費用は約24億円にすぎな
い。また,土地の残存価値についても,その算定の基礎とされたのは,大
入島における土地の時価ではなく,佐伯市本土側の同市(以下省略)の土
地であり,これは大入島石間地区の時価の3倍である。
このように,本件埋立事業は,24億円余りで可能な代替処分案を83
億7200万円と過大に評価してその必要性を説明しようとするものであ
り,その護岸建設費に47億円もの費用を必要とするのであるから,国土
利用上全く不適正且つ不合理な計画というほかない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件免許処分は,国土利用上適正かつ合理的で
あるとの免許基準に著しく違背した違法な処分であり,取り消されるべきで
ある。
(被告の主張)
(1)本件埋立予定区域において,緑地及び住宅地の整備の必要性があること
は前記のとおりである。
(2)原告らは,被告の費用便益分析が杜撰であると主張するが,佐伯港整備
事業については,平成14年7月24日に事業再評価に付され,整備の必要
性,費用対効果分析,将来の産業構造の変化への対応策等について審議が行
われ,継続相当との評価がなされている。佐伯港整備事業は,本件埋立免許
出願者である大分県が行う事業とは異なる国土交通省の直轄事業であり,し
かも,本件免許出願時にはその事業が相当程度に進捗していたことなどから,
被告が,この事業に合理性があることを前提として,本件埋立てについて免
許基準に違背していないか否かを審査したものであって,本件免許処分をし
たことについて裁量権の逸脱はない。
また,本件埋立事業については,佐伯港整備事業から大量の浚渫土砂が発
生し,さらに,東九州自動車道佐伯弥生バイパス工事等により公共残土も発
生することから,このような大量の土砂を一括で,効率的かつ長期にわたり
処分する必要性から,埋立規模,土砂発生地からの距離,埋立後の造成地の
有効活用,佐伯市等の関係者からの要望等を総合的に判断して,大分県によ
って策定されたものである。
(3)したがって,これらの佐伯港整備事業や本件埋立事業を組み込んだ佐伯
港港湾計画を前提として,本件埋立事業について,公水法4条1項1号の免
許基準に違背しないとした被告の判断には裁量権の逸脱はない。
8公水法4条1項2号及び3号の適合性(争点2(3)イ)
(原告らの主張)
(1)埋立区域に生息する生物の調査について
本件埋立願書の添付図書6「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」
(以下,「本件環境保全図書」という。)には,本件埋立予定地に生息する
調査結果として,希少種は存在しないと記載されているが,平成15年8月,
本件埋立予定地である石間区地先において,岡山大学水系保全研究室が軟体
動物(貝類)の調査を行ったところ,国内のレッドリスト(地方版も含む)
に登載された12種の絶滅危惧種(ニシキヒザラガイ,ケハダヒザラガイ,
ヘソアキクボガイ,ミヤコドリガイ,ヒナユキスズメガイ,ヤマトクビキレ,
シラギク,アラウズマキ,ヤタテガイ,アコヤガイ,クロヒメガキ,ヒメア
サリ)をはじめとする多種の貴重な生物の存在が確認された。このうち,ミ
ヤコドリガイ,ヒナユキスズメガイ,シラギク,アラウズマキ,クロヒメガ
キの5種はWWFジャパン(世界保護基金)のレッドデータブックに,アコ
ヤガイは水産庁のレッドデータブックに登載されている。また,ミヤコドリ
ガイ及びヒナユキスズメガイは,大分県版レッドデータブックにおいて絶滅
危惧IA類に指定されている。さらに,本件環境保全図書には,本件埋立予
定地における代表的な生物であるサザエやアワビについての記載さえない。
こうした事情からすれば,被告の調査は極めて杜撰なものであり,本件埋立
ては環境保全に十分な配慮がなされているとはいえず,公水法4条1項2号
に反する。
(2)埋立工法と埋立土砂の流出について
ア汚濁防止膜について
本件埋立工事は,一部の開口部を除いた外周施設を概成した後,周辺に
汚濁防止膜を展張し,埋立工事に着手するものとされているが,この工程
では開口部からの埋立土砂の流出を防ぐことはできない。また,汚濁防止
膜は,完全に海底に定着させるものではなく,土砂の流出を完全に防ぐこ
とはできない。さらに,本件海域は,海中低層部の流速が極めて速く汚濁
防止膜の浮き上がり等が予測されることからすれば,汚濁防止膜の実際の
効果はそれほど期待できない。また,そもそも,本件埋立願書等には,①
汚濁防止膜の材質・構造(膜素材・目合)・機能・設置方法・単位膜の結
紮方法・海底面における固定方法・開口部の構造・開閉作動様式・展張距
離及び水深を考慮した展張面積,②展張範囲全域にわたる点検・保守・維
持・管理の具体的方法,③船舶通過時の開閉が汚濁防止機能に及ぼす影響
とその対策,④汚濁防止膜の耐久性・潮流耐性・潮差耐性・風浪耐性・台
風対策,⑤展張期間(撤去時期)等に関する記載がなく,・展張位置に関
しても,添付図書相互間で異なった記載がなされている。これらの点は,
本来,汚濁防止膜による汚濁除去の効果を検討する上で不可欠な基本的事
項であり,これらの検討抜きに汚濁除去の効果を予測することはできない。
イ埋立工事の汚濁予測について
本件環境保全図書では,水質汚濁の予測について「フィック型岩井の
解」を用いているが,この予測式は,汚濁物質が定常状態で一定方向の平
均流のもとで拡散するという仮定を前提としているものであり,本件のよ
うな複雑な地形及び潮流を有する海域に適用することは妥当でない。また,
予測条件として,土質を砂質土という粒径の比較的大きなものを前提とす
る点でも妥当ではなく,係数の設定根拠についても明確ではない。そして,
本件埋立願書等では,護岸工事時の単純な机上の計算による予測が記載さ
れているのみである。
ウ沈降・ろ過・オーバーフローについて
本件埋立願書等によれば,埋立時に発生する濁水は,護岸の防砂シート,
裏込栗石,捨石を順次通過するに従い,粒子分が沈降・ろ過されるものと
想定しているようである。しかし,この想定には以下の点で疑問がある。
(ア)本件埋立願書等では,汚濁水の浸透・通過・ろ過機構を実証的に裏
付けるデータは全く示されていないし,この点に関する予測も行われて
いない。そうすると,本件埋立願書等における沈降・ろ過機構は,単な
る期待・推測・予測の域を出るものではい。
(イ)大量の浚渫土及び公共残土が投入されることにより,相当量の溢流
(オーバーフロー)が生じる可能性がある。また,粘土・シルトという
微細な粒子はそれ自体が防砂シートの目を詰まらせる可能性がある上,
シート膜面には微細な生物群が繁殖しそれらの生物が粘液物質を分泌し
て防砂シートに海水浸透阻害生物膜を形成する可能性もある。
エ浚渫土の有害性について
本件環境保全図書では,浚渫土は全ての項目で「海洋汚染及び海上災害
の防止に関する法律施行令第5条第1項に規定する埋立場所等に排出しよ
うとする金属等を含む廃棄物に係る判定基準を定める省令」(昭和48年
総理府令第6号,平成12年総理府令第94号改正)に規定する水質土砂
に係る判定基準を満足しているとするが,こうした判断については,以下
の点で疑問がある。
(ア)本件環境保全図書中の埋立土砂の分析結果(浚渫土)では,資料の
前の処理として「溶出試験」と表示しているのみで,溶媒の記載さえな
い。この点,溶出試験は,試料中に含まれる分析対象物質あるいは元素
の総量を決定する方法ではなく,特定の溶媒中に試料を浸漬し,その溶
媒中に溶出した対象物質量あるいは元素量を定量分析する測定法であり,
試料に含有される当該物質あるいは元素の総量を示すものではなく,そ
れらの総量より低い値となることが通例である。したがって,溶出試験
による記載のみでは,含有総量が隠蔽されるおそれがあり,実際の含有
総量が判定基準を下回っているのか否かを判断することができない。
(イ)底質試料の採取法についての記載がない。また,底質試料の粒度組
成についても記載がない。
(ウ)昭和48年に被告が自ら調査を依頼しその結果を公表した「佐伯湾
ヘドロ実態調査報告書」との関係が全く触れられておらず,パルプ廃水
由来の汚濁物質についてもほとんど検討した結果は認められない。佐伯
湾水質調査報告書の記載内容から判断すると,本件浚渫海域は,パルプ
廃液により極度に高含有の有機物質が堆積,蓄積し,かつ多量の硫黄化
合物の供給を受けた特殊な底質で構成されていると思われる。したがっ
て,本件で環境保全上の調査をする場合には,浚渫海域底土中のパルプ
廃液由来の汚濁物質について調査するとともに,硫黄酸化物・硫化物等
の存在量を明確にし,酸化還元に関わる環境実態・生息生物の有無,そ
の他の状況についての調査結果を明確にすることが不可欠である。
(3)まとめ
このように,本件埋立てが施行されると,稀少生物が棲息する豊かな海が
失われるだけでなく,本件埋立願書等には,環境への影響に関して重大な調
査漏れがあり,これにつき環境保全上配慮がなされたと判断することは相当
ではなく,本件埋立免許は公水法4条1項2号及び3号に反するから,取り
消されるべきである。
(被告の主張)
(1)埋立区域に生息する生物の調査について
国内のレッドリストについては,多数のものが作成されているが,水生生
物に関しては,水産庁が「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」
(以下「水産庁版RDB」という。)を作成している。これによれば,ラン
クが6段階(①普通,②減少傾向,③減少種,④希少種,⑤危急種,⑥絶滅
危惧種)に分けられており,原告らが指摘する12種は,絶滅危惧種に該当
していないだけでなく,危急種や希少種にさえ該当していない。
ところで,原告らが平成15年8月になしたとする調査結果が公表された
ことを受け,大分県は,同年11月,本件埋立地や周辺海域を調査した。そ
の結果,原告らが主張する12種のうち,ミヤコドリガイ,シラギク,クロ
ヒメガキを除く9種が確認されたが,これら底生生物についてみると,水産
庁版RDBでは,アコヤガイが減少種に該当するものの,その他は普通及び
減少傾向にランクされているにすぎない。
(2)埋立工法と埋立土砂の流出について
ア汚濁防止膜について
本件環境保全図書によれば,まず,埋立土砂投入に先立って護岸開口部
の周囲に汚濁防止膜を展張し,土砂投入の拡散を抑えることとし,次に,
護岸開口部を外周施設で閉め切った後に埋立土砂を投入することとなる。
そして,この埋立土砂投入に伴い,濁水が放出されることが予想されるが,
この濁水は,防砂シート,裏込栗石及び基礎捨石を通過していくに従い,
粒子分が沈降・ろ過されるため,濁水が直接海域へ流出することはないと
考えられる。さらに,施行区域の外周には,汚濁防止膜を展張しており,
埋立施行中における埋立土砂からの濁りの影響は少ないものと考えられる。
したがって,原告らが主張するように,汚濁防止膜のみで埋立施行中の水
質濁りの対応策を行うものではない。
イ埋立工事の汚濁予測について
本件環境保全図書において,フィック型岩井の解を用いて水質濁りを予
測しているのは,埋立施行時ではなく,護岸工事時におけるものであり,
基礎捨石投入工事における濁りについて,護岸工事施行区域からの外海へ
の影響を予測したものである。したがって,予測条件として土質を砂質土
を前提として係数を設定したことには何の問題もない。原告らの主張は,
護岸工事と埋立工事を混同したものである。
ウ浚渫土の有害性について
本件環境保全図書には,「工事中の環境への影響」についての記載があ
り,その中で,水質汚濁についての調査結果が報告されている。この調査
結果によれば,埋立工事時の水質濁りについての調査において,浚渫予定
地の3箇所から浚渫土がサンプリングされ,その分析結果は,全ての項目
で「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」10条2項3号及び同施
行令5条1項の基準を満足している。したがって,本件環境保全図書の分
析結果について疑問を挟む余地はない。
(3)まとめ
このように,環境への影響についての調査の欠如や,生物調査の杜撰さを
指摘して本件埋立てが公水法4条1項2号及び3号に反するとする原告らの
主張は,いずれも理由がなく,本件環境保全図書を前提として,本件埋立免
許出願が,公水法4条1項2号及び3号の免許基準に違反しないとした被告
の判断には,裁量権の逸脱はない。
第5当裁判所の判断
1取消訴訟の原告適格の判断基準について
行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項
にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当
該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然
的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,
不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,
それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨
を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利
益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれの
ある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきであ
る。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無
を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによる
ことなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利
益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考
慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその
趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,
当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利
益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものであ
る(同条2項参照)(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・判タ1202
号110頁参照)。
以下においては,かかる見地に立って,原告らが本件免許処分の取消しを求
める法律上の利益を有するか否かについて検討する。
2公水法5条2号の「漁業権者」の解釈について(争点1(1)ア)
(1)原告らは,公水法5条2号の「漁業権者」には慣習法上の漁業権者も含
まれることを前提として,原告石間区及び住民原告らが有しているという「磯
草の権利」が慣習法上の漁業権に当たると主張し,これによって,原告らに
本件埋立てについての同意権者たる地位が認められ,したがってまた,本件
免許処分の取消しを求める法律上の利益を有する旨主張する。
(2)そこで,まず,そもそも現行漁業法制下において,免許漁業権以外に慣
習法上の漁業権が認められる余地があるかどうかを検討するに,証拠(甲5,
6,14,15,36,82,乙13ないし17)及び弁論の全趣旨によれ
ば,漁業制度の沿革と現行漁業制度の特徴について,以下のとおり認定する
ことができる。
ア旧漁業法制定以前
江戸時代終わりころにおける漁場の秩序は,寛保元年の律令要略の「山
野海川入会」に,「磯猟ハ地附根附次第也,沖ハ入会」との記載があるよ
うに,磯猟と沖猟を区別した上で,領主への海石浦役永等の貢租の納付を
前提として,村前海又は地元の磯根続きは,土地の延長と同一視して,地
元浦一村専用の漁場とし,その村の漁民等が各自又は共同利用して漁業を
行う入会漁場が成立していた。
明治維新後,明治政府は,地租改正を頂点とする土地制度の改正と並行
して,明治8年12月,太政官布告をもって,雑税の廃止と同時に海面官
有を宣言し,旧来の漁業に関する権利や慣行を否認し,新たな申請に基づ
いて借区料を徴して権利を設定する制度の実施を強行したが,その結果,
漁民の間で漁場の争奪を巡って紛争が激化するに至ったため,翌明治9年
7月,この海面借区制を事実上廃止し,太政官達をもって,漁業取締りに
ついては従来の慣行を維持するという原則を採用して事態を収拾した。そ
して,明治19年には,漁業組合準則(同年5月農商務省令第7号)が制
定され,旧慣の承継を主旨として,各地に漁業組合を組織させ,これを単
位として漁場区域と操業規律を定めさせて,当面の漁場秩序の維持を図っ
た。
イ旧漁業法
明治34年に制定された旧漁業法は,漁業権免許制を確立して,公有水
面における漁業を規律することとし,漁業権の内容となる免許漁業と,漁
業権の対象とならない自由漁業を区別した。そして,漁業権の種類として,
漁具を定置する定置漁業権,水面を区画する区画漁業権,主務大臣が免許
を必要と認める特別漁業権,これら3種の漁業以外で水面を専用してなす
専用漁業権が定められ,さらに,専用漁業権は,漁村維持のために地元漁
業組合にのみ免許された地先水面専用漁業権と,慣行によって個人でも同
法施行後1年以内に出願すれば免許された慣行専用漁業権の2種類が存在
した。このうち,地先水面専用漁業権は,一村専用漁場の慣行を継承した
ものであり,地元漁業組合がその地先水面の専用を出願した場合のみ与え
られ(同法5条2項),その漁場は漁業組合の地区の前面である地先水面
の範囲内に限られた。他方,慣行専用漁業権は,従来の慣行がある場合に,
慣行のある者に対して与えられた漁業権であって(同法4条2項,5条2
項),同法以前の慣行に基づいて免許されたものであるため,その慣行に
応じて,漁業組合以外の団体,市町村区,個人に対しても免許され,漁場
も必ずしも地先水面に限定されていなかった。
旧漁業法は,議会における十年近い議論を経て制定され,4つの漁業権
が法定されたが,その内容は,旧来の慣行がほとんどそのまま維持された
ものであり,漁業権の法的性格があいまいなことや,慣行漁業,慣行漁場
の処理方法等種々の点で実情に即しない点が多く,明治43年に全面改正
が行われるに至った。
ウ明治43年漁業法
明治43年漁業法は,漁業権を物権とみなして,土地に関する規定を準
用し,新たに入漁権を創設して漁業に関する従来の入会権をこれに整理し
(同法12条ないし15条)
,専用漁業権及び入漁権につき,漁業をなす
ことを組合員の権利として認め(同法43条4項),旧漁業法が,漁業組
合は組合規約の定めるところにより組合員をして漁業をさせなければなら
ないと規定するにすぎず,組合員の権利を認めていなかった点を改めた。
もっとも,漁業権の種類は,旧漁業法の内容を承継し,新規免許につい
ては,事実上先願主義がとられており,また,漁業権の存続期間は20年
以内において行政官庁の定めるところによるものとされていたが(同法1
6条1項),その期間は,漁業権者の申請によって更新することができる
こととされた(同条2項)。
エ新漁業法
昭和24年,戦後の経済民主化政策の一環として,新漁業法が制定され,
同法の施行とともに,既存の漁業権を2年以内に消滅させることとし,旧
漁業権者に対しては補償金が交付された(漁業法施行法1条ないし17条)。
新漁業法においては,漁業権の種類を変更して,従来の専用漁業権及び
特別漁業権を廃止し,そのうち浮魚を漁業権の内容から外して許可漁業又
は自由漁業とし,その他を従来の定置漁業の一部とともに共同漁業権に編
成替えした。さらに,同法は,漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調
整機構の運用によって水面を総合的に利用し,もって漁業生産力を発展さ
せ,あわせて漁業の民主化を図ることを目的とし(同法1条),かかる目
的実現のために,免許の方法について,明治43年漁業法下では,事実上
先願主義によって個々の申請に基づいて免許していたのに対し,都道府県
知事が海区漁業調整委員会の意見をきき,水面の総合的利用の見地から予
め漁場計画を定めて公示し(同法11条),免許を希望する申請人のうち
から,適格性のある者で,かつ,優先順位の第一のものに免許を与えるも
のとされた(同法13条ないし20条)。また,漁業権は物権とみなされ
るが(同法23条1項),明治43年漁業法と異なり貸付けが一切禁止さ
れ(同法30条),譲渡,担保権の設定も極めて制限される(同法23条
2項,27条)など,財産権としての性質が著しく制限され,漁業権の存
続期間も,従来の20年から,5年(定置漁業権,区画漁業権)又は10
年(共同漁業権)に短縮され,区画漁業権を除いて,更新制度が廃止され
た(同法21条)。また,漁協の組合員の地位については,組合員であっ
て漁民である者は,定款の定めるところにより,当該漁協(又はその連合
会)の有する共同漁業権,区画漁業権又は入漁権の範囲内において,各自
漁業を営む権利を有するものとされた(同法8条)。
さらに,新漁業法は,昭和37年に一部が改正され,改正後の昭和37
年漁業法では,漁場計画を策定する基準として,当該水面につき漁業上の
総合利用を図り,漁業生産力を維持発展させるためには漁業権の内容たる
漁業の免許をする必要があり,かつ,当該漁業の免許をしても漁業調整そ
の他公益に支障を及ぼさないと認める場合には,海区漁業調整委員会の意
見をきき,必ず漁場計画を定めることとされた(同法11条1項)。また,
漁業権行使規則制度を導入して(同法8条1項),特定の者に行使権を限
定できるとすることによって,零細経営の防止と専業化を図り,あわせて
組合の合併を促進した(反面,それまで行使権を有していた者が多数者の
ためにその地位を不当に脅かされることがないよう,漁業権行使規則の制
定又は変更には,その総会の特別決議前に,第一種共同漁業及び新規開発
漁場における区画漁業にあっては,関係地区又は地元地区内に住所を有す
る組合員たる沿岸漁業者の,その他の区画漁業にあっては地元地区内に住
所を有し,当該漁業を営む者のそれぞれ3分の2以上の書面による同意を
要するものとされた(同法8条3項)。)。
(3)こうした漁業制度の沿革に照らすと,旧漁業法及び明治43年漁業法
(以下併せて「明治漁業法」という。)の下では,漁業権の体系を一応整理
して免許制度を採用したものの,その内容は従来からの漁業慣行を追認した
にすぎなかったから,免許を受けない漁業慣行も,それが反復継続され,社
会通念上権利と認められる程度に成熟したものであれば,免許漁業権と並立
する慣習法上の漁業権として成立する余地があったと考えられる。しかしな
がら,このような明治漁業法下の漁業権は,漁業生産力の向上に必要な,水
面を計画的に総合利用するといった観念に基づかずに物権化され,その種類,
内容は慣行の承継がはかられ,一方,新規免許については,適切な調整機構
を有しないまま事実上先願主義がとられ,長期の存続期間と更新制度により,
権利者に不当に強い効力が与えられることとなって,漁場の民主化と水面の
計画的高度利用を妨げることとなっており,これらの弊害を除去して,漁業
生産力の発展と漁業の民主化を図ることが,新漁業法の制定理由となったも
のと解される。そして,かかる目的を実現するために,新漁業法の下では,
その施行に伴って,旧来の漁業権を全て消滅させて一旦白紙の状態とした上
で,漁業権の免許に当たり,水面の総合利用の見地から漁場計画を樹立する
こととして,広範な水面を計画的かつ総合的に利用できるような漁場配置を
可能とし,さらに,漁業権の存続期間の短縮と更新制度の廃止により,漁場
を固定化させずに,事情の変化に応じた合理的な漁場利用をしうるよう配慮
がなされている。
このような新漁業法の趣旨及び内容に鑑みれば,同法の施行に伴って消滅
した漁業権の中には,免許漁業権だけでなく,慣習法上の漁業権も含まれる
と解すべきであり,また,計画的に配置された流動性のある免許漁業権以外
に,必ずしも計画性を有しない固定的な漁場を前提とする慣習法上の漁業権
の存続,成立を認めることは,新漁業法の下では予定されていないといわざ
るを得ない。したがって,少なくとも新漁業法の下では,免許漁業権と並立
する慣習法上の漁業権が存続,成立する余地はないというべきであり,現行
漁業法に至るも,その趣旨及び内容は同様である。
この点,原告らは,地先水面専用漁業権は免許と慣習の二重構造をなして
おり,新漁業法の施行に伴う漁業権の消滅は,免許漁業権を消滅させたにす
ぎないから,慣習法上の漁業権はそのまま存続し,これが共同漁業権に継承
されて再び免許漁業権と二重構造を形成しているとして,新漁業法の下にお
いても,慣習法上の漁業権は否定されていない旨主張し,
確かに,共同漁業
権は,沿革的には,入会的権利と解されていた地先専用漁業権ないし慣行専
用漁業権にその淵源を有するものであることは疑いがなく,新漁業法の下に
おいても,漁業の実態として,古来からの慣習が継承されている地域が存在
することも否定できない。しかしながら,新漁業法は,漁場の計画的な総合
利用による漁業生産力の発展のために,従来の漁業権を一旦全て消滅させた
のであり,慣習についてだけ権利としての存続を認めることは,かかる法の
目的を阻害することになりかねない。したがって,慣習法上の漁業権の存続
を前提として,その上に免許がなされて二重構造の権利が形成されるという
原告らの主張は採用できない。
また,原告らは,新漁業法14条8項(現行漁業法14条11項)が,第
一種及び第五種共同漁業権の行使につき,関係地区に居住する非組合員たる
漁民との調整を,海区漁業調整委員会に委ねていることをもって,慣習法上
の漁業権の存立根拠として主張するが,同条項は,非組合員であっても,地
元漁民を共同漁業権の設定された漁場から完全に排除することは適切でない
ことから,海区漁業調整委員会においてその調整を図るようにしたものにす
ぎず,いかなる調整をするかは専ら同委員会の判断に委ねられているから,
こうした非組合員である漁民の行う漁業を慣習法上の漁業権として許容した
ものとは解されない。
(4)このように,慣習法上の漁業権は,新漁業法ないし現行の漁業法の下で
は成立する余地がないというべきであるから,「磯草の権利」が慣習法上の
漁業権であることを前提として,原告石間区及び住民原告らが公水法5条2
号の「漁業権者」に当たるという主張は,採用することができない。
3慣習法上の漁業権の「法律上保護された利益」該当性について(争点1(1)
イ)
(1)前記のとおり,新漁業法の下では,慣習法上の漁業権は存続,成立する
余地がないといわざるを得ないが,新漁業法の下においても,共同漁業は,
一定の水面を共同に利用して営むところに本質があり,漁業権に基づかなく
ても営むことができるから(同法9条参照),共同漁業権が設定されている
漁場において,非組合員が当該漁業権の内容たる漁業を営むことが全く許さ
れないわけではなく,漁業権者である漁協の明示又は黙示の容認があれば可
能であると解される。また,第一種及び第五種共同漁業については,もとも
と地元漁民の入漁が多いことから,海区漁業調整委員会の指示による漁業調
整が予定されており(同法14条8項),かかる指示がある場合には,漁協
の容認の有無にかかわらず,非組合員が漁業を営むこともできる。
そうすると,第一種共同漁業権の内容たる漁業を,非組合員が,漁協の容
認や,海区漁業調整委員会の指示の下で操業した場合には,一応正当な操業
と認められ,それが社会通念上権利と認められる程度にまで成熟した場合に
は,慣習上の利益として法的保護に値する場合もあり得ると解される。
なお,こうした慣習上の利益が免許漁業権と同等の内容及び効力を持ち得
ないことは上記のとおりであるが,少なくとも,漁場の埋立てのように,当
該慣習上の利益を消滅させられる場合には,損失に応じた補償を受ける地位
が認められるというべきであり(公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭
和37年6月29日閣議決定)2条5項参照),原告らの「慣習法上の漁業
権」に関する主張の中には,こうした慣習上の利益としての主張も含まれる
と解される。そして,公水法において明文上補償の対象とされているのは,
同法5条各号の定める権利者のみであるが(同法6条,4条3項),同法は
それ以外の者に対する補償をなすことを禁ずる趣旨ではなく,埋立施行区域
で操業する慣習上の利益は,埋立免許により必然的に侵害される関係にある
から,こうした慣習上の利益も,埋立免許処分の取消しを求める「法律上の
利益」に当たると解するのが相当である。
(2)そこで,原告らの主張する「磯草の権利」が,そのような成熟した慣習
上の利益といえるかについて検討するに,証拠(甲9,13,24,30,
41,49ないし72(枝番号にかかる書証も含む。),79,乙32,3
3,35,37の1ないし5,証人AC,原告A)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
ア旧漁業法が制定される前ころ,石間浦をはじめとする大入島の各浦にお
いては,各浦に存在する部落が地先の漁場を管理し,一村専用漁場を形成
していた。
石間浦の岩場では,テングサ,フノリ,ヒジキ,クロメ等の藻類,アワビ,
サザエ,アサリ,ニナ等の貝類,ウニ,ナマコ,カメノテ等の定着性の海
棲動物が豊富に生息していたが,石間部落民は,アワビ,サザエ,ウニに
ついて素潜り漁を行っておらず,沿岸部の浅瀬において,専ら自家消費用
に上記貝類等を採取したり,農業の肥料用として年に1度定められた日に,
区長の号令に従い一斉に藻類を採取するなどしていた。
旧漁業法下においては,「漁業組合ノ地区ハ濱,浦,漁村其ノ他漁業者
ノ部落ノ区域ニ依リ之ヲ定ム」(同法18条2項)とされており,石間浦
漁業組合に対しても,明治41年6月29日,農商務大臣から専用漁業権
が免許されていた。
イ戦後,昭和23年に水協法,昭和24年に新漁業法が制定され,新たに
任意加盟団体としての漁業協同組合が編成され,組合員としての漁民資格
が規定されて,従前採貝採藻をしていた部落民が必ず漁協の組合員となる
わけではなくなったが,大入島では,その後も,従来どおり,部落民は,
漁協組合員であるか否かにかかわらず,地先水面において自家消費用の採
貝採藻をすることができた。そして,大入島の各浦の地先については,大
分県知事から各漁業協同組合に対し,第一種共同漁業権が免許されたが,
各漁協やその組合員が,部落民による採貝採藻について異議を述べるとい
うことはなかった。なお,肥料にするために,部落民が一斉に藻を採るこ
とは,戦後間もなくしてなくなった。
ウ昭和28年ころ,丙C社の操業に伴い,大量のパルプ廃液が佐伯湾内に
流入し,石間浦もその廃液によって汚染された。その結果,佐伯湾内の漁
業は大きな打撃を受け,石間浦の地先においても藻類や定着性の海棲動物
がほぼ全滅するなど,壊滅的な打撃を受けた。
丙C社は,昭和29年10月15日,大入島漁協を含む大分県佐伯市,
(以下省略)に所在する各漁協との間で覚書を締結し,毎年,各漁協に対
し,漁業援助金を支払うことが確認された。その後,覚書の締結が更新さ
れ,丙C社は,現在まで上記各漁協及びその承継団体に対し,上記援助金
を支払ってきている。大入島漁協では,丙C社から支払われた援助金は,
漁協の運営費のほか,内部の配分委員会の決定に基づいて各組合員に配分
していたが,石間浦に居住する組合員らに配分された援助金は,同組合員
らの意思に基づいて,その一部が石間区に拠出されていた。大入島漁協が
佐伯市漁協に合併された後も,大入島地区漁業権管理委員会内の配分委員
会の決定に基づき,組合員等に援助金の配分がなされたが,同様に,石間
浦に居住する各組合員から,石間区に対し,その一部が拠出されていた。
エ昭和30年代の後半に至り,パルプ廃液による海域の汚染がある程度改
善され,石間浦の地先も藻類や定着性の海棲動物が回復し,そのころ,石
間部落の住民から,テングサを主体とした石間浦の地先の海産物の採取権
を売却し,石間区の収入にすることが発案され,当初は数年に1度,昭和
48年ころからは年に1度,1年間のテングサ等の採取権を入札の方法に
よって売却することが行われるようになった。
当初,入札の参加資格は,石間部落の住民に限られ,専らテングサの採
取を目的とした入札がされ,落札代金も低額であったが,昭和45年ころ
から参加資格が他の部落の漁師にも拡大され,昭和55年ころには,荒網
代浦地区で素潜り漁を行っていた漁師も入札に加わったことから,以後,
アワビ及びサザエの採取を目的とした業者による落札が続き,落札代金の
相場は高額化して50万円を超えるようになり,昭和58年には159万
円という高値で取引されたこともあった。しかしながら,昭和61年以降
は,落札代金が50万円を下回るようになり,20万円前後で取引される
ことも多くなった。
入札の時期や方法は,当初のころのものは不明であるが,昭和53年こ
ろには,毎年1月に,石間区公民館において,石間区長が主催して実施さ
れるようになった。
なお,入札対象以外の,ヒジキ,アサリ,ニナ,フノリ,タコ,カメノ
テ,ナマコ等の動植物については,入札制度が始まった後も,従前どおり,
石間区の住民が自家消費用に随時採取していた。
オ上記入札の開始後,本件埋立事業の計画が公表された平成9年ころまで
は,入札について異論を述べる者はなく,平成11年ころまでは,大入島
漁協及び佐伯市漁協からも異議が出されるということはなかったが,平成
11年1月7日,石間地区の漁協組合員70名中54名が集まって話し合
い,石間区の行う入札は違法であるので認めないとの結論になり,同月9
日,漁協大入島総代会長のADが,石間地区の漁協組合員を代表して,当
時の石間区長であったAEに対し,以後入札を行わないよう通知した。ま
た,その後,大分県漁協は,落札者が石間浦海域で漁業を行うことに対し
て,漁業権行使規則に違反しているとして注意をするようになった。
(3)上記の認定事実によれば,石間区の地先では,組合員に限らず部落民は
誰でも採貝採藻をすることができる慣習が継続しており,漁協は,そうした
部落民の採貝採藻を黙認していたことに加え,テングサ,アワビ,サザエを
採捕する地位を石間区が入札にかけることも,平成11年ころまでは黙認し
ていた
とみることができる。
しかしながら,漁業法14条11項が,非組合員にも第一種共同漁業権の
内容たる漁業を行うことができるよう特に配慮しているのは,本来,第一種
共同漁業権の内容は,地元漁民の誰もが行える性質のものだからであり,そ
こで保護されるのは,地元漁民が個々に行う漁業であることが当然の前提と
されているというべきである。したがって,非組合員である地元漁民が自ら
行わず,専ら入札の対象としている漁業を,漁業法14条11項によって保
護すべき理由はない。
また,入札によって一年ごとに採取権を落札させ,利用させることは,漁
業権の一部を有償で貸し付けることにほかならず,漁業法が,漁業権を水面
の総合利用という観点からその範囲で免許される公的性格を持つ権利として,
適格性や優先順位等を考慮されて漁業権を免許された者に,自らの意思で漁
業を営むという利益を保護する趣旨から,貸付けを禁止し(漁業法29条),
これに違反する場合には,罰則(同法141,142条)や,漁業権を取り
消すこともできること(同法38条3項)を定めていることに照らすと,そ
のような入札を行うことは,漁業法の趣旨に反したものといわざるを得ない。
そして,それを長期間にわたって漁協が黙認していたからといって,直ちに
社会的正当性を獲得し得るものとはいえず,原告石間区がこうした入札を続
けてきた事実は,慣習の成熟度を検討するに当たり,積極的な要素として重
要視することはできない。
すると,こうした入札を除けば,近年の「磯草の権利」の内容は,部落民
各自が自家消費用の採貝採藻を行う程度のものにすぎなくなっており,その
営利性は極めて希薄で,経済生活上の依存度も低いから,権利として保護す
べき根拠にも乏しいといわざるを得ない。
これらの事情に照らすと,原告らの主張する「磯草の権利」は,それが長
期間にわたる慣習として部落民の間に根付いていることは認められるものの,
慣習上の利益として保護すべき程度の内容を備えていると解することはでき
ない。
(4)したがって,「磯草の権利」が慣習法上の漁業権に当たり,本件取消訴
訟において原告
石間区及び住民原告らに「法律上保護された利益」があると
する原告らの主張は採用することができない。
4公水法の趣旨と生活環境に係る著しい被害について(争点1(1)ウ)
(1)原告らは,公水法が,埋立区域の周辺住民について,その生活環境に係
る著しい被害を受けない利益を保護する趣旨を含んでおり,原告石間区及び
住民原告らは,本件埋立てにより生活環境に係る著しい被害を受けるおそれ
があるから,本件免許処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有して
いる旨主張する。
(2)そこで公水法の趣旨及び目的を検討するに,同法には,いわゆる目的規
定が存在しないけれども,昭和48年の改正により,埋立免許基準が明確化
され,「国土利用上適正且合理的ナルコト」(4条1項1号),「其ノ埋立
ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」(同項2号),
「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港湾
局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」(同項3号)等が埋立免許
の要件として明示されたこと等に照らすと,同法の目的は,公有水面の埋立
てに関し,免許基準,手続,監督その他必要な事項を定めることにより,埋
立事業を適正円滑に行わせて国土の有効利用と港湾の整備を図り,もってわ
が国の健全な経済発展に寄与するとともに,埋立てが少なからず自然環境及
び生活環境に影響を及ぼすことに鑑み,環境保全に十分な配慮を講じること
により,国民の健康で文化的な生活を確保することにあると解される。そし
て,都道府県知事は,埋立免許後であっても,竣功認可の告示前であれば,
その埋立てに関する工事施行の方法が公害を生じさせるおそれがあるときは,
免許の取消し等をすることができるところ(32条1項4号),環境基本法
は,「公害」について,環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の
活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,
騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭によって,人の健康又は生活環境に係る被
害が生ずることをいうと定義し(2条3項),大気の汚染,水質の汚濁,土
壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ人の健康を保護し,
及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を政府が定める
ものとし(16条1項),これによって定められた大気汚染防止法,水質汚
濁防止法,騒音規制法等による各環境基準は,公水法4条1項3号の「法律
ニ基ク計画」に該当し(乙22),埋立免許基準の内容として適用されるこ
ととなる。
また,免許処分前の手続に関する公水法及び同法施行令の規定をみると,
都道府県知事は,埋立免許の出願があったときは,願書とともに関係図書を
公衆の縦覧に供し,かつ,地元市町村長から意見を徴し(同法3条1項),
関係都道府県知事に対しても通知をしなければならず(同条2項),通知を
受けた都道府県知事は,遅滞なく関係住民に周知させるように努めなければ
ならない(同法施行令4条)。さらに,公水法は,埋立てに関し利害関係を
有する者は,都道府県知事に意見書を提出することができる旨定めていると
ころ(3条3項),この利害関係人の要件は特に限定されておらず,埋立区
域周辺住民も広く含まれるものと解され,都道府県知事は,埋立免許の際,
公益上又は利害関係人の保護に関し必要と認める条件を付すことができるか
ら(公水法施行令6条),提出された個々の意見書についてその評価を行う
とともに,合理的な理由があると認められるときは,これを尊重して免許処
分に反映させる措置を講じることが期待されている。
このような公有水面の埋立てに関する法令の規定に照らせば,公水法は,
違法な埋立免許がなされた場合には,汚濁の流出等に伴う水質や底質の悪化
等によって,埋立区域の周辺地域で生活する者の健康又は生活環境を害する
おそれがあることに鑑み,埋立区域周辺住民の健康の保持及び生活環境の保
全をも,その趣旨及び目的とし,埋立免許制度を通じて,周辺住民に対し,
そのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益
を保護しようとするものと解される。
そして,こうした法令の規制に違反して埋立免許がなされた場合,汚濁の
流出等に伴う水質や底質の悪化等による被害を直接的に受けるのは,埋立区
域の周辺地域で生活し,日常的に埋立区域や,水質や底質の悪化する周辺水
面に接する者に限られ,また,かかる被害を反復,継続して受けた場合,そ
の程度は,周辺住民の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねない。
このような,違法な埋立免許がなされた場合の被害の内容,性質,程度等に
照らせば,埋立区域周辺住民の上記利益は,一般的公益の中に吸収解消させ
ることが困難といわざるを得ない。
以上のような埋立免許に関する公水法の趣旨及び目的,それらの規定が埋
立免許制度を通じて保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれ
ば,同法は,それらの規定によって,わが国の健全な経済発展と国民の健康
で文化的な生活を確保するという公益的見地から埋立事業を規制するととも
に,その周辺地域で生活し日常的に埋立区域や,水質や底質の悪化する周辺
水面に接する者であって,埋立工事による汚濁流出等に伴う水質や底質の悪
化等により,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれの
ある者に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利
益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。
したがって,埋立てに係る公有水面の周辺地域で生活し,日常的に埋立区
域や,周辺水面に接する者であって,埋立工事による汚濁流出等に伴う水質
や底質の悪化等により,健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受け
るおそれのある者は,埋立免許の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有
するものというべきである。
そして,上記のような被害を直接的に受けるおそれがあるか否かについて
は,埋立ての規模,埋立てに用いる土砂の性状,施行方法に加え,被害のお
それを訴える者の生活と埋立区域又はその周辺海域との関係等を総合考慮し
て判断すべきである。
(3)以上を前提に,埋立ての規模,埋立てに用いる土砂の性状,施行方法等
から,原告石間区及び住民原告らの主張する本件埋立工事による汚濁物質流
出や水質,底質の悪化のおそれや,住民原告らの健康及びその生活環境に及
ぼす影響について検討する。
ア括弧内に記載する証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる(前提事実を含む。)。
(ア)埋立ての規模(乙21)
本件埋立区域の面積は約6万1000平方メートル,施行区域全体の
面積は約17万6500平方メートルであり,これは,環境影響評価法
(平成9年6月13日法律第81号)の適用を受ける対象事業に該当せ
ず,また,大分県環境影響評価条例の対象事業にも該当しない規模であ
る。
埋立ての際に投入される土砂量は,約73万立方メートル(浚渫土3
3万立方メートル,公共残土40万立方メートル)である。
(イ)埋立てに用いる土砂の性状(乙21,43,44,45)
埋立土砂には,佐伯港女島地区(以下「女島地区」という。)で航路
及び泊地の工事により発生する浚渫土,佐伯市門前地区及び鶴見地区の
道路改良工事で発生する公共残土,佐伯市とその近郊の公共工事及び大
入島内で発生する公共残土を使用し,
土砂の性状は,浚渫土がシルト,
公共残土が礫質土とされている。
そして,女島地区底土の性状をより詳細にみると,表層部分に細粒砂
を主体とする砂質土があり,その下層にシルト,粘性土の層が存在する
場所もあるが,粘性土のみで底土が構成される場所もある。したがって,
浚渫土の性状は,概ねシルト及び粘性土が中心となり,その粒径は微細
なものになる。
次に,土砂の成分についてみると,平成6年3月,平成7年3月,同
年12月,平成10年7月,平成16年12月に,女島地区の底土等の
調査が行われているところ,含有試験の結果,基準値を超える有害物質
は検出されておらず,溶出試験においても,全ての項目で,その当時の
「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令第5条第1項に規
定する埋立場所等に排出しようとする金属等を含む廃棄物に係る判定基
準を定める省令」(昭和48年総理府令第6号)に規定された水底土砂
に係る判定基準を満たしている(なお,平成16年2月にはダイオキシ
ン類の濃度が環境基準値以下であることを確認している。)。
また,平成14年1月から3月にかけて実施された佐伯市鶴見地区及
び門前地区の公共残土の調査結果も,全ての項目で「土壌の汚染に係る
環境基準」(平成3年環告第46号)を満たしている。
(ウ)施行方法(乙43)
a概要
本件埋立てに関する工事は,外周護岸工事及び埋立工事に大別され
る。すなわち,本件埋立工事の施行順序としては,まず,一部の開口
部を除き,埋立区域の外周護岸工事等を実施し,次に,埋立土砂,公
共残土の順に埋立区域に投入して埋立てを行った後,開口部の外周護
岸工事を実施して埋立区域を外海と遮断し,最後に開口部の背後に公
共残土を投入して埋立てを完了するというものである。なお,埋立工
事の竣功までには7年3か月を要する見込みであるが,埋立土砂の投
入は,工事開始後,3年次10月からの予定である。
b施行順序
本件埋立工事の施行順序は次のとおりである。
(A)埋立てに関する工事の施行区域の外周に汚濁防止膜を展張する
(埋立工事進捗状況図①参照)。
(B)外周施設のうち護岸①,護岸⑥の順で,基礎工として敷砂の施行,
サンドコンパクションパイルによる地盤改良工を行い,ガット船に
よる無規格石及び基礎捨石を順次投入する。その後,起重機船によ
りケーソンを据え付け(護岸⑥については開口部(90m,ケーソ
ン6函分)を除く。),その中に中詰砂を投入し,蓋コンクリート
を打設する。そして,裏込工として裏込栗石を投入し,完了箇所か
ら防砂シートを敷設する。また,本体工の前面(海側)には被覆石
を投入する。なお,護岸⑥の開口部については,浮沈式・半潜水式
の汚濁防止膜を展張する(埋立工事進捗状況図①~③参照)。
(C)護岸②,護岸⑦の順で,無規格石,基礎捨石の投入,ケーソン据
え付け等,上記護岸①及び⑥の施行手順と同様に護岸工事を行う。
(D)護岸③,護岸④,護岸⑧,護岸⑨の順で,基礎捨石を投入した後,
方塊(護岸③及び⑧は2段,護岸④及び⑨は1段)を据え付け,裏
込栗石の投入,防砂シートの敷設を行う。また,これと並行して,
本体工前面の被覆石投入,上部工の一次打設として場所打コンクリ
ートを打設する。
(E)護岸⑤,護岸⑩について,基礎捨石を投入し,場所打コンクリー
トを打設する。これと並行して,裏込栗石の投入,防砂シート敷設
を行う。また,本体工前面に被覆石を投入する。
(F)護岸③,④,⑤の前面には被覆ブロック(護岸③),消波ブロッ
ク(護岸④,⑤)を据え付ける。同様に,護岸⑨,⑩の前面に消波
ブロックを据え付ける。
ここまでの工事で,護岸⑥の開口部を除いた外周施設が概成する。
(G)浚渫土,公共残土の順に,土運船で埋立地まで土砂を運搬し,所
定の高さまで投入する。なお,埋立ては,埋立予定区域の北側から
南側に向けて埋立地を拡大していく形で行う(埋立工事進捗状況図
③~⑤参照)。
(H)各護岸の上部工の二次打設及び水叩工を施行する。
(I)護岸⑥の開口部については,埋立土砂投入の進捗に合わせて,本
体工(ケーソン据付け等),裏込工,上部工の順に施行して埋立区
域を閉め切る。施行に当たっては,開口部を囲うようにして凵型の
汚濁防止膜を展張し,その南側に第二開口部を設ける(埋立工事進
捗状況図⑤~⑦参照)。
(J)護岸⑥開口部の背後に埋立土砂(公共残土)を投入する。
(K)護岸⑥開口部の上部工の打設及び水叩工を施行する。
(エ)汚濁防止膜の機能及び構造(乙21,55の1及び2)
汚濁防止膜は,土粒子の接触・沈降を促進させるなどにより,波・風
・潮流などによる汚濁の拡散を遮断することを目的とした設備である。
汚濁防止膜の構造は,膜材を主に構成され,合成繊維でできたカーテ
ン部とそれを浮かせるためのフロート部及び固定するための係留部から
なる。
汚濁防止膜の種類は,固定式(フロート部が発泡ポリスチレン又は合
成樹脂により構成された,浮沈機能がない汚濁防止膜)と浮沈式(フロ
ート部がゴム等の気密材料により構成された,浮沈機能を有する汚濁防
止膜)に大別され,固定式については,さらに,垂下型,自立型,中間
フロート型,通水型に分類される。また,浮沈式汚濁防止膜は,船舶航
行時や気象条件の厳しいときにフロート内の空気を抜き,沈下させるこ
とができ(延長100mのもので,沈下・浮上にそれぞれ10~15分
程度),沈下時には,汚濁防止膜本体は半潜水式(開口部において浮沈
式と併設される汚濁防止膜)との接続部分を除き,海底に着底する。
また,その展張方法には,閉鎖形,半閉鎖形,開放形が考えられ,本
件埋立ては,前記のとおり,閉鎖形で,かつ,開口部を浮沈式として極
力汚濁を流出させない方策を採用したものである。
汚濁防止膜の効果は,主として,干渉沈降促進効果(濁水の拡散を抑
え,汚濁粒子が互いに影響を及ぼし合い,干渉沈降が促進される。),
沈降水深短縮効果(垂下式の場合,汚濁防止膜の下方からの汚濁粒子の
沈降域が短くなるため,背後への影響範囲が小さくなる。)などが考え
られる。
(オ)住民原告らの生活と埋立区域又はその周辺海域との関係
住民原告らの居住地域である石間区と埋立区域との位置関係は,別紙
「藻場分布図」のとおりであり,また,前記第5の3(2)で認定したとお
り,石間区の住民は,旧漁業法制定以前から,本件埋立区域を含む地先
の水面で採貝採藻を行い,日常的にそれらを食してきており,現在でも,
ヒジキ,アサリ,ニナ,ワカメ,フノリ,カメノテなどを日常的に採取
している。
イこのように,本件埋立ての規模は,環境影響評価法の適用を受ける対象
事業に該当せず,また,大分県環境影響評価条例の対象事業にも該当しな
いものであるから,その規模自体からは,環境影響の程度が著しいものと
なるおそれがあるとはいえないことに加え,埋立てに使用される浚渫土及
び公共残土からは,いずれも環境基準値を超える有害物質は検出されてい
ない。また,外周護岸工事をした後に埋立工事をするという施行順序や,
外周護岸工事の際の汚濁防止膜設置,埋立土砂投入の際の開口部における
浮沈式・半潜水式の汚濁防止膜設置,開口部護岸工事の際の凵型汚濁防止
膜設置等の施行方法をみても,工事期間を通じて,汚濁の流出を極力防止
するための配慮がなされているということができる。そして,浚渫土の投
入時期は,工事開始後3年次10月からの一定期間に限られている。
こうした埋立規模,埋立土砂の性状,施行の順序及び方法等に照らすと,
上記の措置等によっても工事期間中の汚濁の流出を完全には防止できない
としても,本件埋立工事に伴い汚濁の流出が反復継続され,周辺住民の健
康や生活環境に著しい影響を及ぼすほど水質や底質が悪化するとは認めら
れず,住民原告らの日常生活が従前から本件埋立予定区域(あるいはその
周辺水面)と密接な関係を有していることを考慮しても,住民原告らにつ
いて,その健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれが
生じるとは認められない。
ウこの点,原告らは,本件埋立てに用いられる浚渫土が,粒径の微細なシ
ルトを中心に構成されていることなどから,上記のような施行方法によっ
ても,汚濁の流出を防止できず,しかも,その浚渫土はパルプ廃水に由来
するものである点を指摘する。
(ア)そこで,まずパルプ廃水の有害性について検討するに,昭和43年
3月の佐伯湾水質調査報告書(甲122)によれば,その成分的な特徴
として,リグニン,亜硫酸塩,糖などを含みCOD値(化学的酸素要求
量)が著しく高いこと,また,Ca-リグノサルフォネートを著量に含
むため,海水を茶褐色に着色することなどが挙げられているが,パルプ
廃水に含有されるリグニンフェノール類等の成分自体に有害性は認めら
れず,魚類への影響の原因は,濃厚な廃水が湾内に放流されることによ
り,水中の好気性菌によって酸化を受け,湾内水の溶存酸素が消費され,
その量を著しく低下させるためであると推測されており,こうした溶存
酸素量の減少には,パルプ廃水のCOD値が著しく高いことが密接に関
係することが明らかにされている。したがって,パルプ廃水自体が有害
物質を含んでいるかのような原告らの主張には根拠がない。
ところで,昭和47年11月に実施された佐伯湾ヘドロ実態調査にお
いて,当時,こうしたパルプ廃水に起因する固相としてのヘドロが,佐
伯湾内の広範囲にわたって堆積し,特に,硫化水素臭,色調,混入物,
強熱減量,炭素量,C/N比,含水比等を総合して判定された強汚染域
が,中江川全域に加え,中江川入江の大部分及びその前面水道域の約4
8万平方メートル,大入島南部西方水道域の16万平方メートルの合計
約90万平方メートルにわたり,海底下約20センチメートルの範囲に
堆積していることが判明した(したがって,ヘドロの堆積量は約18万
立方メートルである。)(甲128)。さらに,上記実態調査から30
年以上経過した後の平成15年7月に実施された女島地区の底質調査の
結果,有機物量の指標となる調査項目(TOC,TON,強熱減量,C
OD)において数値が高いことが認められ,昭和50年3月の調査結果
と比較しても,COD値の減少がほとんど見られないこと(甲125),
平成14年に実施された底質調査においても,女島地区の底土からはリ
グニンフェノール類の含有が多く認められたこと(甲123)などから
すれば,パルプ廃水中の成分は,長時間の経過にかかわらず,未だに女
島沖の底土の中に残留していることが推測される。
そうすると,かかる高いCOD値を持つ浚渫土が埋立区域に投入され
ることによって,再び海中の溶存酸素量の減少を来すことも予想され,
酸素濃度の低い海水が拡散することで,埋立区域付近の魚介類の生育に
何らかの影響を及ぼす可能性もないわけではない。
しかしながら,深刻な漁業被害が生じた丙C社の操業時は,COD値
5万7000ないし7万ppmというパルプ廃水が,1日6万6000トン
も佐伯湾に排出されていたのに対し(甲122),本件埋立工事におい
て投入される浚渫土(33万立方メートル)は,女島地区の岸壁を水深
14メートルのものに改良する際に発生するものであるところ,パルプ
廃水の影響が残存するのは海底下約20センチメートルの範囲であり,
その下位の非汚染の堆積物とは明瞭に境されていること(甲128),
浚渫作業は海底を広範囲にわたって浚渫するのではなく,局地的に深く
掘り下げるものであることなどを考慮すると,浚渫土に含まれるパルプ
廃水由来の物質は,割合的にはごく限られたものになると考えられる。
このように,本件埋立工事においては,魚介類の生育に間接的に影響
を及ぼしうるCOD値の高い底土が,浚渫土の中に多量に含まれている
とは考えられず,仮に,浚渫土による汚濁あるいは溶存酸素量が減少し
た海水が埋立区域外に一部流出したとしても,その影響の程度は著しい
ものではないと考えられる。
なお,原告らは,丙I教授作成の「石間浦埋立計画の環境保全上の問
題点」(甲94)に基づき,パルプ廃水中の硫黄成分から硫化物が生成
され,あるいは硫化水素が発生することも指摘するが,それが周辺住民
の生活環境にいかなる影響を及ぼすかについては必ずしも明確に主張し
ておらず,しかも,女島地区の底土の硫化物は,昭和50年3月におい
て1m/mgを超える地点もあったのに対し,平成16年7月には0.0
6ないし0.16m/mgと減少しており(甲125),平成13年11
月に実施された調査でも,硫化臭はないとされているのであるから(甲
123),原告らの上記指摘は,具体的な裏付けを欠くものである。
(イ)次に,汚濁防止対策についてみると,一般的な汚濁防止膜の構造や
形式については既に述べたとおりであり,本件埋立工事においても,こ
れと同様の構造及び機能を有するものを設置することが前提とされてい
ると解されるから,その構造,耐久性,維持管理方法などの詳細が埋立
免許出願時の願書や添付図書に記載されなければ,直ちにその効果に疑
義が生じるというものでもない。さらに,浚渫土が微細なシルトを中心
とするものであることを考慮しても,護岸施設を構成する防砂シート,
裏込栗石及び基礎捨石が,大量の汚濁物質の通過を容易に許すような間
隙の多い構造であるとは考えられず,しかも,その外周に汚濁防止膜も
設置するのであるから,これらの障害物の設置により大幅に汚濁物質の
沈降・ろ過が進むと考えられ,本件環境保全図書において,埋立土砂投
入時に外部に流出する汚濁の程度が軽微であると判断していることには
合理性が認められる。
また,船舶通行時に開口部の汚濁防止膜を沈下させたことにより,一
定程度の汚濁流出は避けられないとしても,上記のとおり,汚濁防止膜
の沈下・浮上に必要な時間が30分程度であることを考慮すれば,その
間の汚濁流出が周辺住民の生活環境に著しい被害を与えるとは考え難い。
さらに,埋立土砂投入時の溢流(オーバーフロー)の可能性について
は,かかる作業時にも護岸内と外海とが物理的に遮断されているわけで
はないから,埋立土砂の量に対応する海水が,護岸を超えて溢流するこ
とは想定できない。
このように汚濁防止対策の面からみても,本件埋立工事によって多量
の汚濁物質が埋立区域外に流出する危険性は高いとはいえず,しかも,
原告らが危惧するパルプ廃水由来の成分について,それ自体に有害性が
認められないことは既に述べたとおりである。
(4)以上のとおりであって,本件埋立工事に伴い,住民原告らについて,そ
の健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれが生じるとし
て,石間区及び住民原告らが,本件埋立免許の取消しを求めるについての法
律上の利益を有するとする原告らの主張は採用することができない。
5本件部会決議の効力について(争点1(2))
組合員原告らは,総会の部会が,関係地区・地元地区の組合員の意思を的確
に反映させるための制度であり,書面同意は,漁業権行使規則によって漁業権
を行使する資格を認められ当該漁業を営む組合員の地位を保護するための制度
であるとした上で,書面同意に瑕疵があれば,総会の部会の議決前に有効な書
面同意が得られていないことになるから,本来総会の部会で議決すること自体
が許されず,かかる瑕疵は,決議の無効事由に当たる旨主張する。
しかしながら,総会の部会決議については,決議の内容が法令に違反するこ
とが無効事由とされているところ(水協法51条の2第7項,51条,会社法
830条2項),組合員原告らの主張の内容は,本来書面同意に加わるべきで
ない者が手続に加わったことにより,書面同意の結果が歪められ,ひいては部
会決議の結果が歪められたということに尽きるものであり,このような,決議
(同意)の成立過程に議決権者(同意権者)の意思が的確に反映し得なかった
という瑕疵は,決議の方法の瑕疵に当たると解するのが相当であるから,書面
同意手続の瑕疵に関する組合員原告らの主張を前提としても,本件部会決議の
内容が法令に違反した決議無効事由に当たると解することはできない。
したがって,組合員原告らの主張は採用できず,本件部会決議は有効である
ことを前提とせざるを得ないから,組合員原告らは,共第35号共同漁業権を
営む権利を喪失しており,埋立区域の公有水面に関し権利を有するものとは認
められない。
6結論
以上のとおりであるから,原告らは,いずれも本件免許処分の取消しを求め
るにつき法律上の利益を有する者とは認められず,原告適格を有しないといわ
ざるを得ない。
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの本件訴えはい
ずれも不適法であるから却下することとし,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法
61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。
大分地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官関美都子
裁判官神野泰一
裁判官矢崎豊
(別紙省略)

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