弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人森脇勝、同河村吉晃、同今村隆、同植垣勝裕、同小沢満寿男、同岩松
浩之、同田中泰彦、同山本了三、同麦谷卓也の上告理由について
 一 原審の適法に確定した事実関係は、(1) Mの相続人である被上告人らは、
第一審判決別紙物件目録記載(1)の土地(以下「本件土地」という。)を持分各
四分の一ずつの割合で相続した、(2) 本件土地は、その北側が上告人所有の道
路敷(以下「本件道路敷」という。)に、南側が同人所有の河川敷(以下「本件河
川敷」という。)に、それぞれ隣接している(以下、本件道路敷及び本件河川敷を
併せて「上告人所有地」という。)、(3) 被上告人らの間においてMの遺産の
分割について協議が調わず、被上告人B1を除く同B2ら三名(以下「被上告人B
2ら」という。)が同B1を相手方として申し立てた遺産分割の審判が京都家庭裁
判所に係属しているところ、本件土地と上告人所有地との境界が確定していないた
めに右手続が進行しないでいる、(4) 被上告人B2らは、本件土地と上告人所
有地との境界を確定するために、被上告人B1と共同して、上告人を被告として境
界確定の訴えを提起しようとしたが、被上告人B1がこれに同調しなかったことか
ら、同人及び上告人を被告として、本件境界確定の訴えを提起した、というもので
ある。
 二 第一審は、本件土地と本件道路敷との境界は第一審判決別紙図面記載イ、ロ、
ハ、ニの各点を結ぶ直線であり、本件土地と本件河川敷との境界は同図面記載ホ、
ヘ、トの各点を結ぶ直線であると確定した。上告人は、被上告人B2らを被控訴人
として控訴を提起し、原審において、土地の共有者が隣接する土地との境界の確定
を求める訴えは共有者全員が原告となって提起すべきものであると主張し、本件訴
えの却下を求めた。原審は、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人B1も被
控訴人の地位に立つとした上で、被上告人B2らと上告人との間及び被上告人B2
らと同B1との間で、それぞれ第一審と同一の境界を確定した。
 三 境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属
する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴えられることを要する固有
必要的共同訴訟と解される(最高裁昭和四四年(オ)第二七九号同四六年一二月九
日第一小法廷判決・民集二五巻九号一四五七頁参照)。したがって、共有者が右の
訴えを提起するには、本来、その全員が原告となって訴えを提起すべきものである
ということができる。しかし、【要旨】共有者のうちに右の訴えを提起することに
同調しない者がいるときには、その余の共有者は、隣接する土地の所有者と共に右
の訴えを提起することに同調しない者を被告にして訴えを提起することができるも
のと解するのが相当である。
 けだし、境界確定の訴えは、所有権の目的となるべき公簿上特定の地番により表
示される相隣接する土地の境界に争いがある場合に、裁判によってその境界を定め
ることを求める訴えであって、所有権の目的となる土地の範囲を確定するものとし
て共有地については共有者全員につき判決の効力を及ぼすべきものであるから、右
共有者は、共通の利益を有する者として共同して訴え、又は訴えられることが必要
となる。しかし、共有者のうちに右の訴えを提起することに同調しない者がいる場
合であっても、隣接する土地との境界に争いがあるときにはこれを確定する必要が
あることを否定することはできないところ、右の訴えにおいては、裁判所は、当事
者の主張に拘束されないで、自らその正当と認めるところに従って境界を定めるべ
きであって、当事者の主張しない境界線を確定しても民訴法二四六条の規定に違反
するものではないのである(最高裁昭和三七年(オ)第九三八号同三八年一〇月一
五日第三小法廷判決・民集一七巻九号一二二〇頁参照)。このような右の訴えの特
質に照らせば、共有者全員が必ず共同歩調をとることを要するとまで解する必要は
なく、共有者の全員が原告又は被告いずれかの立場で当事者として訴訟に関与して
いれば足りると解すべきであり、このように解しても訴訟手続に支障を来すことも
ないからである。
 そして、共有者が原告と被告とに分かれることになった場合には、この共有者間
には公簿上特定の地番により表示されている共有地の範囲に関する対立があるとい
うべきであるとともに、隣地の所有者は、相隣接する土地の境界をめぐって、右共
有者全員と対立関係にあるから、隣地の所有者が共有者のうちの原告となっている
者のみを相手方として上訴した場合には、民訴法四七条四項を類推して、同法四〇
条二項の準用により、この上訴の提起は、共有者のうちの被告となっている者に対
しても効力を生じ、右の者は、被上訴人としての地位に立つものと解するのが相当
である。
 右に説示したところによれば、本件訴えを適法なものであるとし、被上告人B1
も被控訴人の地位に立つとした原審の判断は、正当として是認することができ、原
判決に所論の違法はない。所論引用の各判例のうち、最高裁昭和三九年(オ)第七
九七号同四二年九月二七日大法廷判決・民集二一巻七号一九二五頁は、本件と事案
を異にし適切でなく、その余の各判例は、所論の趣旨を判示したものとはいえない。
論旨は、右と異なる見解に立って原判決を非難するものであって、採用することが
できない。なお、原審は、主文三項の1において被上告人B2らと上告人との間で、
同項の2において被上告人B2らと同B1との間で、それぞれ本件土地と上告人所
有地との境界を前記のとおり確定すると表示したが、共有者が原告と被告とに分か
れることになった場合においても、境界は、右の訴えに関与した当事者全員の間で
合一に確定されるものであるから、本件においては、本件土地と上告人所有地との
境界を確定する旨を一つの主文で表示すれば足りるものであったというべきである。
 よって、裁判官千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文
のとおり判決する。
 裁判官千種秀夫の補足意見は、次のとおりである。
 私は、境界確定の訴えにおいて、共有者の一部の者が原告として訴えを提起する
ことに同調しない場合、この者を本来の被告と共に被告として訴えを提起すること
ができるとする法廷意見の結論に賛成するものであるが、これは、飽くまで、境界
確定の訴えの特殊性に由来する便法であって、右の者に独立した被告適格を与える
ものではなく、他の必要的共同訴訟に直ちに類推適用し得るものでないことを一言
付言しておきたい。
 すなわち、判示引用の最高裁判例の判示するとおり、土地の境界は、土地の所有
権と密接な関係を有するものであり、かつ、隣接する土地の所有者全員について合
一に確定すべきものであるから、境界の確定を求める訴えは、隣接する土地の一方
又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え、又は訴
えられるのが原則である。したがって、共有者の一人が原告として訴えを提起する
ことに同調しないからといって、その者が右の意味で被告となるべき者と同じ立場
で訴えられるべき理由はない。もし、当事者に加える必要があれば、原告の一員と
して訴訟に引き込む途を考えることが筋であり、また、自ら原告となることを肯じ
ない場合、参加人又は訴訟被告知者として、訴訟に参加し、あるいはその判決の効
力を及ぼす途を検討すべきであろう。事実、共有者間に隣地との境界について見解
が一致せず、あるいは隣地所有者との争いを好まぬ者が居たからといって、他の共
有者らがその者のみを相手に訴えを起こし得るものではなく、その意味では、その
者は、他の共有者らの提起する境界確定の訴えについては、当然には被告適格を有
しないのである。したがって、仮に判示のとおり便宜その者を被告として訴訟に関
与させたとしても、その者が、訴訟の過程で、原告となった他の共有者の死亡等に
よりその原告たる地位を承継すれば、当初被告であった者が原告の地位も承継する
ことになるであろうし、判決の結果、双方が控訴し、当の被告がいずれにも同調し
ない場合、双方の被控訴人として取り扱うのかといった問題も生じないわけではな
い。かように、そのような非同調者は、これを被告とするといっても、隣地所有者
とは立場が異なり、原審が「二次被告」と称したように特別な立場にある者として
理解せざるを得ない。にもかかわらず、これを被告として取り扱うことを是とする
のは、判示もいうとおり、境界確定の訴えが本質的には非訟事件であって、訴訟に
関与していれば、その申立てや主張に拘らず、裁判所が判断を下しうるという訴え
の性格によるものだからである。しかしながら、当事者適格は実体法上の権利関係
と密接な関係を有するものであるから、本件の解釈・取扱いを他の必要的共同訴訟
にどこまで類推できるのかには問題もあり、今後、立法的解決を含めて検討を要す
るところである。
 以上、判示の結論は、この種事案に限り便法として許容されるべきものであると
考える。
(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田
昌道)

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