弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人の上告趣意第一、第二及び第三の(1)について。
 論旨はいずれも採証の不当、事実の誤認を主張するに帰し、刑訴四〇五条の上告
理由にあたらない。
 同第三の(2)について。
 論旨は、被告人等がAに対し説得、批判をしたのは憲法二一条、二八条による当
然の権利行使である、と主張する。しかし原審の是認した第一審判決は、被告人等
がAに対して暴行を加えたという事実を認定してこれを有罪としたのであるから、
論旨は第一審判決の認定と異なる事実を前提とする主張であつて採用できない。
 同第三の(3)について。
 論旨は、被告人等が組合役員たるの故を以て刑罰の対象とされたのは憲法一四条
に違反すると主張する。しかしそのような事実は第一審判決の判示していないとこ
ろであるから、所論は前提を欠き採用できない。
 弁護人諌山博の上告趣意第一点の(イ)について。
 原判決は、所論のように、被告人等の行為が「いわば仲間相互間の紛争行為に過
ぎない」というだけの理由によつて、憲法二八条の保障する団結権ないし団体行動
権の行使に該当しない、と判断したのではなく、「組合の統制のための行為として
許容される説得の範囲を超え、個人の自由意思を抑圧し、暴力を加えたものである」
ことをも併せ考えて正当性がないと判断しているのである。所論は原判決の趣旨を
誤解しそれを前提とする主張であるから採用できない。
 同第一点の(ロ)について。
 論旨は、被告人の行為は団結権、団体行動権の行使として正当性の範囲を超えて
はいなかつた、原判決は憲法二八条及び労組法一条二項の解釈適用を誤つたもので
ある、と主張する。しかし原判決が、第一審判決に認定されているような方法によ
つて個人の自由意思を抑圧し、暴力を加えた行為に正当性がないと判断したことは、
当裁判所のたびたびの判例(昭和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日大法廷
判決、昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決、昭和二五年
(れ)六二三号同年七月六日第一小法廷判決等)の趣旨に照らして正当である。論
旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は単なる法令違反の主張に帰し適法な上告理由とならない。
 同第三点について。
 論旨もまた単なる法令違反の主張であつて適法な上告理由とならない。(第一審
判決は暴力行為等処罰ニ関スル法律一条一項、刑法二〇八条等を適用しているだけ
で所論のように刑法二二二条―上告趣意書に「二〇二条」とあるのは「二二二条」
の誤記と認める―を適用してはいない。判示第一の「Aを脅迫しながら」、第二の
「Aが恐れをなし」という記載はいずれも事情として判示したものに過ぎないと認
められる。従つて原判決が控訴趣意第一、二点に対する判断として脅迫罪が成立す
るかの如き説明をしているのは誤解を招くおそれがあるが、暴行の事実は確定され
ているのであるから、結局判決に影響ない。)
 同第四点について。
 第一審判決が、本件行為当時の状況上被告人に他の行為を期待することができな
い旨の主張に対し、単に本件暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行の有罪事実を
認定したことは、間接的にも期待可能性なるものの存否につき判断を示したものと
は認め難い。従つて原判決がそれを間接的には判断を示しているごとく解したのは
誤りである。しかし、原判決は自ら本件が所論の状況の下になされたものであるこ
とを否定する判断を示しているのであるから、右の誤りは判決に影響を及ぼさない
こと明らかである(昭和二六年(あ)第四一六七号、同二八年五月一二日第三小法
廷判決、集七巻五号一〇一一頁参照)。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三三年七月二九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己

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