弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
         理    由
 抗告人の抗告理由について
 1 記録によれば,本件の経緯は,次のとおりである。
 (1) D工業株式会社(以下「D工業」という。)の各取締役は平成12年9月
30日に,監査役は平成13年9月30日にいずれも退任したが,同社の支店の所
在地における登記につき,その旨の登記がされたのは平成15年10月15日であ
った。もっとも,上記各退任により,D工業では取締役及び監査役につき法定の員
数が欠けることになったにもかかわらず,新たな取締役及び監査役は同年9月30
日まで選任されなかったことから,上記各退任の登記手続は,同日まで行うことが
できないものであった(最高裁昭和41年(行ツ)第65号同43年12月24日
第三小法廷判決・民集22巻13号3334頁参照)。
 (2) D工業の支店の所在地を管轄する広島法務局可部出張所の登記官は,広島
地方裁判所に対し,平成15年10月17日付けで,商業登記規則123条に基づ
き,D工業の支店の登記につき,同社の代表取締役である相手方に,商法498条
1項1号に該当する同社の取締役,代表取締役及び監査役の退任登記を怠ったとの
違反事項がある旨の通知をした。
 広島地方裁判所は,上記通知の内容である退任登記を怠ったとする点については
裁判をしなかったが,平成16年3月4日,相手方がD工業の代表取締役に在任中
,平成12年9月30日に取締役が退任し,法定の員数を欠くに至ったのに,平成
15年9月30日までその選任手続を怠ったことを理由として,相手方を過料6万
円に処する旨の非訟事件手続法(以下「法」という。)208条ノ2第1項に規定
する過料の裁判(以下「本件第1裁判」という。)をし,その異議申立期間が経過
した。
 (3) D工業の本店の所在地を管轄する広島法務局の登記官は,広島地方裁判所
に対し,平成15年10月30日付けで,商業登記規則123条に基づき,D工業
につき,相手方に,商法498条1項18号に該当する取締役及び監査役の各選任
を怠ったとの違反事項がある旨の通知をした。
 広島地方裁判所は,平成16年3月24日,本件第1裁判の存在を看過し,本件
第1裁判と同一の事由により,相手方を過料6万円に処する旨の法208条ノ2第
1項に規定する過料の裁判(以下「本件第2裁判」という。)をし,その異議申立
期間が経過した。
 (4) 原々審広島地方裁判所は,平成16年4月13日,本件第2裁判が,同一
の事由による確定した本件第1裁判が存在するにもかかわらずされたものであるこ
とを理由に,法19条1項を適用して本件第2裁判を取り消す旨の原々決定をした。
 (5) 原々決定は,平成16年4月13日に検察官に通知され,検察官は,同月
26日,原々決定に対する抗告をした。
 2 原審は,次のとおり判示して,抗告人の原々決定に対する抗告を却下した。
 原々決定は,過料の裁判を取り消した裁判であるから,法207条3項の「過料
の裁判」に当たるものであり,これに対しては即時抗告をすることができるとする
のが法の趣旨と解される。そうすると,原々決定に対する抗告は即時抗告によるべ
きものであるところ,本件の原々決定に対する抗告は,即時抗告期間経過後にされ
た不適法なものであって却下を免れない。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 【要旨1】原々決定は,法19条1項の規定に基づく取消しの裁判であって,法
207条3項に規定する過料の裁判に当たるものではないところ,法19条1項所
定の非訟事件の裁判を取り消す裁判について,抗告を禁ずるとの規定がなく,かつ
,即時抗告によるとする規定もない以上,同裁判に対しては通常抗告をすることが
できるものと解するのが相当である(法20条1項)。したがって,原審の上記判
断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 4 更に進んで,原々審の判断の当否について検討する。
 即時抗告に服する非訟事件の裁判は,法19条1項の規定による取消し及び変更
をすることができないこと(同条3項),通常抗告に服する非訟事件の裁判につい
ても,抗告により上級審の判断がされた場合には,同条1項による取消し及び変更
の余地がないことに照らして,非訟事件の裁判が確定したときには,同項による取
消し及び変更をすることができないものと解するのが相当である。
 しかしながら,非訟事件の裁判は,法律上の実体的権利義務の存否を終局的に確
定する民事訴訟事件の裁判とは異なり,裁判所が実体的権利義務の存在を前提とし
て合目的な裁量によってその具体的内容を定めたり,私法秩序の安定を期して秩序
罰たる過料の制裁を科するなどの民事上の後見的な作用を行うものである(最高裁
昭和36年(ク)第419号同40年6月30日大法廷決定・民集19巻4号10
89頁,最高裁昭和37年(ク)第243号同40年6月30日大法廷決定・民集
19巻4号1114頁,最高裁昭和37年(ク)第64号同41年12月27日大
法廷決定・民集20巻10号2279頁参照)。【要旨2】このような非訟事件の
裁判の本質に照らすと,裁判の当時存在し,これが裁判所に認識されていたならば
当該裁判がされなかったであろうと認められる事情の存在が,裁判の確定後に判明
し,かつ,当該裁判が不当であってこれを維持することが著しく正義に反すること
が明らかな場合には,当該裁判を行った裁判所は,職権により同裁判を取り消し又
は変更することができるものと解すべきである。
 本件においては,前記1のとおり,確定した法208条ノ2に規定する過料の裁
判である本件第1裁判が存在したにもかかわらず,その存在が看過され,同一事由
について本件第2裁判がされたものであるから,本件第2裁判は不当であってこれ
を維持することが著しく正義に反することが明らかであり,本件第2裁判を取り消
すことができるものというべきである。したがって,職権により本件第2裁判を取
り消した原々決定は,結論において是認することができる。
 5 以上によれば,原々決定に対する抗告を却下した原決定は破棄を免れない。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。そして,前記説示によれば,本件第
2裁判を取り消した原々決定は相当であるから,これに対する抗告人の抗告を棄却
することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 才口千晴)

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