弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の本刑に算入する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張を出ないものであつて、適法な上告理
由に当らない(なお、所論被告人の自白の任意性を疑うべき証跡は記録上認められ
ない。)。
 弁護人猪股喜蔵の上告趣意第一点について。
 所論は、原判決は刑訴四〇二条の定める不利益変更禁止の原則に違反するとして、
判例違反を主張するけれども、第一審判決、原判決の各宣告刑は、いづれも無期懲
役刑であつて、後者が前者の刑より重い刑を言渡したという関係にはないのである
から(昭和二三年(れ)第七四八号、同年一一月一六日第三小法廷判決、刑集二巻
一二号一五四三頁参照、もつとも、本件強盗殺人の法定刑のうち、第一審は無期懲
役刑を選択、処断したものであるのに対し、原審は死刑を選択したが、第一審の認
めなかつた、被告人の犯行当時における心神耗弱の事実を認め、法定減軽の上無期
懲役刑を宣告したものであることは、各判文に徴し明らかである。而して、刑訴四
〇二条に違反するかどうかは、言渡刑について判断すべきものであることは疑いを
容れないところであるから、右各選択刑の比較のみに頼つて原判決を非難する所論
は失当である。それのみならず、本件は、被告人、検察官双方の控訴にかかる事案
であるので、この点からしても刑訴四〇二条の適用を受けないものであることは明
白である。論旨は、同条の不利益変更禁止の原則が排除せられるには、検察官の控
訴があつたことだけでは足らずして、その控訴理由が認められた場合でなければな
らないと主張し、右論旨につき当裁判所の判例を引用するところがあるが、右判例
の趣旨を正解しないものであつて、採るをえない。なお、昭和三四年(あ)第一〇
七五号、同三七年六月一五日第二小法廷判決、刑集一六巻七号一二五〇頁参照)、
論旨はすでに、この点において前提を欠くものであつて、上告適法の理由とならな
いばかりでなく、その余の所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理
由に当らない。
(なお、論旨は、原審が検察官の量刑不当を理由とする控訴趣意に対する判断を省
略したのは違法であると主張する。しかしながら、原審は、弁護人の事実誤認、法
令適用の誤りを理由とする控訴趣意を容れ第一審判決全部を破棄し改めて有罪の判
決をすることとした以上、量刑についても原審独自の判断により相当とする量刑を
なすべきものであるから、かかる場合には弁護人主張にかかるもののみでなく、検
察官主張にかかるものであつても、量刑不当の控訴趣意に対しとくに判断を与える
必要はないものというべきである。昭和三三年(あ)第一四四六号、同年一一月一
七日第二小法廷決定、刑集一二巻一五号三五一三頁参照)
 同第二点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項但書、刑法二一条により裁
判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和三九年七月一四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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