弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成27年9月17日判決言渡
平成26年(行ウ)第51号公金支出金返還請求事件(住民訴訟)
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,Aに対し,299万8800円及び別紙1支出一覧表「支出額」欄記載
の各金員に対する「支出日」欄記載の各日から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
1本件は,愛知県稲沢市(以下「稲沢市」という。)の住民である原告が,稲
沢市議会議員であるB(以下「本件議員」という。)が中華人民共和国(以下「中
国」という。)において身柄を拘束され,職務を執行することができない状態であ
ったにもかかわらず,稲沢市が,別紙1支出一覧表(以下「支出一覧表」とい
う。)の「支出日」欄記載の各日に,同表「支出額」欄記載の金額の議員報酬及び
期末手当(以下「議員報酬等」という。)を支給したことについて,稲沢市議会事
務局長及び同事務局議事課長(以下「事務局長ら」という。)が,上記支給に係る
支出負担行為及び支出命令(以下「本件支出負担行為等」という。)をしたことは
違法であり,本件支出負担行為等が行われた当時の稲沢市長であるAは事務局長ら
を指揮監督すべき義務を負っていたにもかかわらずこれを怠り,このため稲沢市は
同額の損害を被ったなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づ
き,稲沢市の執行機関である被告に対し,Aに対して損害賠償金合計299万88
00円及び支出一覧表記載の「支出額」欄記載の各損害賠償金に対する「支出日」
欄記載の各日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を請求することを求めた住民訴訟である。
2関係法令等の定め
本件に関係する法令等の定めは,別紙2「関係法令等の定め」に記載のとおりで
ある。
3前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)当事者等(弁論の全趣旨)
ア原告は,稲沢市の住民である。
イ被告は,稲沢市の執行機関である市長である。
ウAは,本件支出負担行為等が行われた当時(平成25年11月以降)から現
在に至るまで,稲沢市の市長の職にある者である。
エ本件議員は,平成25年10月以前から現在に至るまで稲沢市議会議員の職
にある者である。
(2)本件議員が身柄を拘束された経緯等
本件議員は,平成25年10月31日,中国において覚せい剤を所持していたと
して中国の当局に身柄を拘束され,同日以降現在に至るまで,中国において,その
身柄を拘束されている(以下「本件事件」という。)。なお,本件議員は,平成2
6年7月28日,上記覚せい剤の所持に関し,中国において起訴された。(乙12
及び弁論の全趣旨)
(3)議員報酬等の支給
稲沢市議会事務局長は,専決により,支出一覧表記載1及び3の議員報酬並びに
同表記載2の期末手当に関する支出負担行為及び支出命令を,同事務局議事課長
は,専決により,同表記載4及び5の議員報酬に関する支出負担行為及び支出命令
をした。これらの議員報酬等は,上記各支出命令に基づき,同表「支出日」欄記載
の各日に,稲沢市から本件議員に支給された。(争いがない事実)
なお,本件議員に対する議員報酬等の支給方法については,平成26年1月14
日,本件議員の依頼により,口座振込みによる受取りを廃止して現金による受取り
に変更することとされ,その後,本件議員が現金の受取りを拒否したため,平成2
6年1月分及び同年2月分の議員報酬については,議員報酬月額から所得税等の月
額12万7400円を控除した残額35万2600円を1か月分の議員報酬とし
て,名古屋法務局一宮支局にそれぞれ供託されている。(甲5ないし12)
(4)監査請求
原告は,平成26年3月5日,稲沢市監査委員(以下「本件監査委員」とい
う。)に対し,被告の本件議員に対する支出一覧表記載の議員報酬等の支給は違法
な公金の支出である旨主張して,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求を
した。これに対し,本件監査委員は,同年5月1日付けで上記監査請求を棄却し,
その旨を原告に通知した。(甲1,弁論の全趣旨)
(5)議員報酬等に関する条例の改正
稲沢市議会は,平成26年6月25日,議員報酬等に関する条例を一部改正する
条例案について,全会一致で可決した(平成26年条例第21号。以下「本件改
正」という。)。改正後の議員報酬等に関する条例は,同月30日に公布され,同
年7月1日に施行され,以後,本件議員に対する議員報酬等の支給は停止された。
(甲17,乙12,弁論の全趣旨)
(6)本件訴えの提起
原告は,平成26年5月22日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
4争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,①議員が身柄を拘束されたときに議員報酬等を支給停止とする旨
の法令上の定めがない場合に,身柄を拘束された議員に対して議員報酬等を支給す
ることが違法であるか否か,②Aが,議員が身柄を拘束されたときに議員報酬等を
支給停止とする規定を設けるよう議員報酬等に関する条例を改正する旨の条例の提
案権を行使すべき義務を怠ったか否かである。
(原告の主張)
(1)身柄を拘束された議員に対して議員報酬等を支給することの違法性
ア普通地方公共団体の議員が,当該普通地方公共団体の議会に出席すること
は,議員の職務の本質的部分を構成し,議員報酬等は議員活動の対価として与えら
れる反対給付であるから,身柄を拘束されて議会に出席できず,議員活動を行えな
い議員に対して議員報酬等を支給することは著しく正義に反する。
また,個々の議場への出席だけが議員活動ではないとしても,単なる議員として
の地位があることを理由として,議員報酬等が得られるのであれば,地方財政法4
条1項の趣旨にも反するものである。
さらに,本件議員は,平成25年10月31日以降,議員活動を全く行っていな
い上,議員報酬等の受領を拒絶しているのであるから,仮に同人に議員報酬請求権
があったとしてもこれを放棄しているものと評価すべきである。
したがって,事務局長らが,本件支出負担行為等をしたことは違法である。
Aは,本件議員が身柄を拘束されていることを知っていたのであるから,本件議
員に対する議員報酬等の支給を阻止すべき指揮監督義務を負っていたにもかかわら
ず,これを怠ったものである。
イ被告の主張に対する反論
(ア)被告は,地方自治法203条1項を根拠として本件議員に対する議員報酬等
の支給は正当である旨主張するが,同条3項は「支給しなければならない」ではな
く「支給することができる」と定めており,議員報酬等を支給するか否かの判断を
普通地方公共団体の裁量に委ねているのであるから,議員が議会に出席できないな
どの状況が生じた場合に議員報酬等を支給することは違法というべきである。
(イ)被告は,市議会議員による議員報酬等の請求権の放棄は,公職選挙法199
条の2第1項に違反する旨主張するが,同項の規定の対象は住民一般と解され,普
通地方公共団体を想定していないものと解されるから,本件議員が議員報酬等の請
求権を放棄したと解することに問題はない。
(2)議員報酬等の支給停止に関する条例案を提出すべき義務違反
普通地方公共団体の長には,地方自治法138条の2以下において,大きな権限
が与えられており,同法149条において議案提出権が認められるほか,同法11
2条1項ただし書,97条2項ただし書によれば,専属的な予算調整権もあると解
される。普通地方公共団体の長の専属的権限に反するような議員による条例案の提
出は許されないところ,議員報酬等は予算を伴うものであるから,本件について議
会において自律的に条例制定権を行使することが望ましいと解することは地方自治
法の上記各規定に反する。
また,地方財政法4条1項によれば,普通地方公共団体の経費は,その目的を達
成するための必要かつ最少限度を超えて,これを支出してはならないと定められて
いるのであるから,普通地方公共団体の長は,同条項の趣旨に従った予算を伴う条
例案を提出すべきものと解され,議員活動のできない議員について議員報酬等を支
給停止とする旨の規定が条例にない場合には条例の改正案を提出すべきである。
なお,稲沢市においては,平成23年5月に贈収賄で逮捕された議員に対して,
逮捕中の同月1日及び2日の2日分の議員報酬を支給しており,この支給行為が問
題となっていたのであるから,本件議員が身柄を拘束されるまでに議員報酬等に関
する条例の改正案を検討する時間は十分あったものである。
したがって,Aは,本件議員が中国で身柄を拘束されたことが明らかになった時
点で,身柄を拘束された議員について議員報酬等を支給停止とする旨の条例案及び
それに伴う予算措置の条例案を提出すべきであったにもかかわらず,これを怠った
ものである。
(被告の主張)
(1)身柄を拘束された議員に対して議員報酬等を支給することについて
議員報酬等は,議会出席等個々の議員活動との間に法律上の対価関係を有さず,
議員報酬等に関する条例には,議会へ出席できない状況にあるからといって議員の
報酬,手当請求権が消滅する規定はない上,我が国の刑事法制は無罪推定の原則に
立っているのであるから,身柄を拘束された議員に対して議員報酬等を支給するこ
とは違法ではない。
また,本件議員は,平成25年12月下旬頃には議員報酬等を受領しない意向を
有していたが,報酬請求権の放棄は公職選挙法199条の2第1項に違反すること
から,本件議員に報酬請求権を放棄する意思があったわけではなく,実際,本件議
員から,議員活動ができない期間の議員報酬等の供託を了承する旨のメモが稲沢市
に提出されている。
したがって,原告の主張は理由がない。
(2)議員報酬等の支給停止に関する条例案を提出すべき義務について
議員が身柄を拘束された場合の議員報酬等の取扱いは立法政策の問題であって,
条例の制定権は議会に帰属し,議員は地方自治法112条に基づいて議員定数の1
2分の1の賛成を得て議案を提出できる。一方で,普通地方公共団体の長が条例に
ついての提案権を行使することは当然であるが,議会の議決を求める行為は政治的
行為でもあるから,その内容,時期等については普通地方公共団体の長に裁量が認
められる。また,地方財政法4条1項は裁量の余地のない義務的経費の支出に係る
ものではなく,支出義務の根拠となる法令の定め方について規定したものでもない
から,普通地方公共団体の長が条例の改正案を提案しなければ違法になるというも
のではない。特に,議員の身分及び権利に直接関わる問題については議会の自主的
判断に委ねるべきであって,普通地方公共団体の長の関与はできるだけ差し控える
ことが望ましく,議員報酬等に関する条例の改正についても同様である。
したがって,原告の主張は理由がない。
第3当裁判所の判断
1身柄を拘束された議員に対して議員報酬等を支給することの違法性について
(1)地方自治法は,議員報酬について「普通地方公共団体は,その議会の議員に
対し,議員報酬を支給しなければならない。」(203条1項),議員の期末手当
について「普通地方公共団体は,条例で,その議会の議員に対し,期末手当を支給
することができる。」(同条3項)とそれぞれ規定した上で,議員報酬等について
「議員報酬,費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は,条例でこれを定め
なければならない。」(同条4項)と規定している。これらの規定を受けて,稲沢
市においては,議員報酬等に関する条例が定められ,議員報酬について「議員には
その職についた日から日割計算によりそれぞれ議員報酬を支給する。」(2条1項
本文),「議長,副議長及び議員が任期満了,辞職,失職,除名又は議会の解散に
よりその職を離れたときは,その日までの議員報酬を支給し,死亡によりその職を
離れたときは,その日の属する月分までの議員報酬を支給する。」(同条2項),
期末手当について「期末手当は,6月1日及び12月1日・・・(中略)・・・に
それぞれ在職する議員に支給する。これらの期日前1月以内に任期が満限に達し,
辞職し,退職し,除名され,死亡し,又は解散により任期が終了したこれらの者・
・・(中略)・・・についても同様とする。」(4条1項)とそれぞれ規定されて
おり,本件支出負担行為等がされた当時においては,議員が,任期満了,辞職,退
職,失職,除名,議会の解散又は死亡によりその職を離れた場合以外に,議員に対
して議員報酬等を支給しない場合は定められていなかったものである。
そうすると,本件議員については,中国の当局に身柄を拘束されただけであって
議員報酬等を支給しない上記のいずれの場合にも該当しないのであるから,本件支
出負担行為等が違法なものではないことは明らかである。
したがって,稲沢市が本件議員に対して議員報酬等を支給したことは違法なもの
ではなく,原告の主張は理由がない。
(2)原告の主張について
アこれに対し,原告は,普通地方公共団体の議員が,当該普通地方公共団体の
議会に出席することは,議員の職務の本質的部分を構成し,議員報酬等は議員活動
の対価として与えられる反対給付であるから,身柄を拘束されて議会に出席でき
ず,議員活動を行えない議員に対して議員報酬等を支給することは著しく正義に反
することから議員報酬等を支給すべきではない旨主張する。
しかしながら,地方自治法203条4項が,議員報酬等の額及び支給方法を条例
で定めることとした趣旨は,議員報酬等の額及び支給方法(期末手当については支
給するか否かを含む。)の決定を条例に委ねることにより,これに対する民主的統
制を図ったものであると解され,同条項の文言上,議員報酬等の額及び支給方法を
条例で定めなければならないことは明らかである。また,これに加えて,普通地方
公共団体の議員の議員活動は,当該普通地方公共団体の議会や各種委員会に出席す
ることに限られるものではなく,その職責を十全に果たすための準備等も広く含ま
れ,必ずしもその範囲の画定が容易ではないことなども併せて考慮すれば,議員報
酬等の額及び支給方法の決定については,条例を制定する普通地方公共団体の議会
の裁量判断に委ねられていると解され,議会等に出席しない議員について議員報酬
等の減額や支給停止をするためには,その条件等を条例で定める必要があり,普通
地方公共団体の長が自己の判断で条例で定められた議員報酬等の減額や支給停止を
することは民主的統制の観点から許されないと解すべきである。
したがって,条例に定めがなくとも本件議員に対して議員報酬等を支給すべきで
はないとの原告の主張を採用することはできない。
イ原告は,単なる議員としての地位があることを理由として,議員報酬等が得
られるのであれば,地方財政法4条1項の趣旨に反する旨主張する。
しかしながら,地方財政法4条1項の趣旨は,地方公共団体の経費は,法令の定
めるところに従い,かつ,合理的な基準により算定され,予算に計上されるもので
あるところ(同法3条1項),本来,予算は執行機関に支払を可能ならしめ,か
つ,支出の最高限度額として執行機関を拘束するものであって支出額自体を定める
ものではないことから,予算の執行においても,その目的達成のための必要かつ最
少の限度を超えて支出してはならないとしたものであって,執行について裁量の余
地のない義務的経費である議員報酬等の支給が同条項の趣旨に反しないことは明ら
かである。
したがって,原告の主張は理由がない。
ウ原告は,本件議員は平成25年10月31日以降,議員活動を全く行ってい
ない上,議員報酬の受領を拒絶しているのであるから,仮に同人に議員報酬請求権
があったとしてもこれを放棄している旨主張する。
しかしながら,証拠(乙8及び9)によれば,本件議員は稲沢市が議員報酬を供
託することを了解していることが認められるから,本件議員が議員報酬請求権を放
棄しているということはできない。
したがって,原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
2議員報酬等の支給停止に関する条例案を提出すべき義務違反について
(1)前記1(1)において判示したとおり,本件支出負担行為等はいずれも議員報
酬等に関する条例に基づいて行われたものであるから,仮にAが議員報酬等の支給
停止に関する条例案を議会に提出しなかったことに違法があったとしても,その当
時有効に存在していた議員報酬等に関する条例に基づいて行われた本件支出負担行
為等が違法となる余地はないというべきである(なお,原告は,稲沢市がAに対す
る上記条例案を提出しなかったことに基づく損害賠償請求権を行使しないことが地
方自治法242条1項所定の怠る事実に当たると主張しているものではない。)。
したがって,この点についての原告の主張は失当といわざるを得ないが,事案に鑑
み,念のため当裁判所の判断を示すこととする。
(2)地方自治法においては,条例の制定,改廃の議決は議会の権能と定められて
おり,議員は,議員定数の12分の1以上の賛成を得て,議会に予算以外の議案を
提出することができ,普通地方公共団体の長も,議会に議案を提出することができ
ると定められている(地方自治法96条1項1号,112条1項及び2項並びに1
49条1号)。
ここで,前記1(2)アで判示したとおり,議員報酬等の額及び支給方法に関する
条例の制定は,普通地方公共団体の議会の裁量判断に委ねられていると解されると
ころ,議員報酬等の額及び支給方法に関する条例の改正案の議会への提出について
も条例改正作用の一部をなすものであるから,上記改正案を議会へ提出するか否か
については,議員又は普通地方公共団体の長の裁量に委ねられており,議員又は普
通地方公共団体の長が裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したものであると認めら
れない限り,違法とはならないというべきである。
本件においては,前記前提事実,証拠(乙10ないし12)及び弁論の全趣旨に
よれば,①本件事件の発生から2か月も経たない平成25年12月頃から稲沢市議
会政治倫理審査会等において議員報酬等に関する条例の改正が議論されるようにな
ったこと,②Aは,本件議員に対する議員報酬等の支給停止の問題は,議員の身
分,権利に関わることから,その対応を議会の自主的な判断に委ねたこと,③平成
26年6月25日に議員提案により本件改正が成立し,同年7月1日から改正後の
議員報酬等に関する条例が施行されたことがそれぞれ認められ,これらの事実によ
れば,Aが議員報酬等に関する条例の改正案を議会に提出しなかったことは,その
裁量権の範囲を超えるものではなく,それを濫用したものでもないことは明らかで
ある。
したがって,Aが議員報酬等の支給停止に関する条例案を提出しなかったことは
違法なものではない。
(3)原告の主張について
ア原告は,普通地方公共団体の長の専属的権限に反するような議員による条例
案の提出は許されないところ,議員報酬は予算を伴うものであるから,本件につい
て,議会において自律的に条例制定権を行使することが望ましいと解することは地
方自治法の規定に反する旨主張する。
しかしながら,議員報酬等の支給停止に関する条例案は,特に予算を伴うもので
はないから,これが普通地方公共団体の長の専属的権限に属するものでないことは
明らかであって,実際,本件改正は議員提案により成立している。
したがって,原告の主張は理由がない。
イ原告は,普通地方公共団体の長は,地方財政法4条1項の趣旨に従った予算
を伴う条例案を提出すべきものと解され,議員活動のできない議員について議員報
酬等を支給停止とする旨の規定が条例にない場合には条例の改正案を提出すべきで
ある旨主張する。
しかしながら,前記1(2)イで判示したとおり,地方財政法4条1項は予算の執
行について必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない旨規定しているにすぎ
ず,同項の趣旨に従った条例案の提出を普通地方公共団体の長に義務付けるものと
は解されない。
したがって,原告の主張は理由がない。
ウ原告は,稲沢市においては,平成23年5月に贈収賄で逮捕された議員に対
して,逮捕中の2日分の議員報酬を支給しており,この支給行為が問題となってい
たのであるから,本件議員が身柄を拘束されるまでに議員報酬等に関する条例の改
正案を検討する時間は十分あったものである旨主張する。
しかしながら,議員報酬等に関する条例の改正について普通地方公共団体の長に
裁量があることは前記(2)で判示したとおりである上,この点をおくとしても,証
拠(甲15)及び弁論の全趣旨によれば,上記議員は逮捕から2日で辞職している
ことが認められ,上記議員に対する議員報酬の支給が大きな問題となっていたと認
めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の主張は理由がない。
3まとめ
以上によれば,本件支出負担行為等は適法なものであって,本件議員の身柄拘束
中に稲沢市が本件議員に対して議員報酬等を支給したことは違法な公金の支出に該
当せず,Aの行為に違法はない。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決す
る。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官市原義孝
裁判官平田晃史
裁判官西脇真由子
(別紙1)
支出一覧表
番号支出日費目等支出額(円)
1平成25年11月21日議員報酬480,000
2平成25年12月10日期末手当1,078,800
3平成25年12月20日議員報酬480,000
4平成26年1月21日議員報酬480,000
5平成26年2月21日議員報酬480,000
合計2,998,800
(別紙2)
関係法令等の定め
1地方自治法
(1)96条1項
普通地方公共団体の議会は,次に掲げる事件を議決しなければならない。
1号条例を設け又は改廃すること。
2号ないし15号(略)
(2)97条2項
議会は,予算について,増額してこれを議決することを妨げない。但し,普
通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない。
(3)112条
1項普通地方公共団体の議会の議員は,議会の議決すべき事件につき,議会
に議案を提出することができる。但し,予算については,この限りでな
い。
2項前項の規定により議案を提出するに当たつては,議員の定数の12分の
1以上の者の賛成がなければならない。
3項第1項の規定による議案の提出は,文書を以てこれをしなければならな
い。
(4)138条の2
普通地方公共団体の執行機関は,当該普通地方公共団体の条例,予算その他
の議会の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規程に基づく当該普通地方
公共団体の事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し及び執行する義
務を負う。
(5)149条
普通地方公共団体の長は,概ね左に掲げる事務を担任する。
1号普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出する
こと。
2号予算を調製し,及びこれを執行すること。
3号地方税を賦課徴収し,分担金,使用料,加入金又は手数料を徴収し,及
び過料を科すること。
4号決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること。
5号会計を監督すること。
6号財産を取得し,管理し,及び処分すること。
7号公の施設を設置し,管理し,及び廃止すること。
8号証書及び公文書類を保管すること。
9号前各号に定めるものを除く外,当該普通地方公共団体の事務を執行する
こと。
(6)203条
1項普通地方公共団体は,その議会の議員に対し,議員報酬を支給しなけれ
ばならない。
2項(略)
3項普通地方公共団体は,条例で,その議会の議員に対し,期末手当を支給
することができる。
4項議員報酬,費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は,条例でこ
れを定めなければならない。
(7)204条の2
普通地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条
例に基づかずには,これをその議会の議員,第203条の2第1項の職員及び
前条第1項の職員に支給することができない。
(8)232条の4
1項会計管理者は,普通地方公共団体の長の政令で定めるところによる命令
がなければ,支出をすることができない。
2項会計管理者は,前項の命令を受けた場合においても,当該支出負担行為
が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が
確定していることを確認したうえでなければ,支出をすることができな
い。
(9)242条の2第1項
普通地方公共団体の住民は,前条第1項の規定による請求をした場合におい
て,同条第4項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条
第9項の規定による普通地方公共団体の議会,長その他の執行機関若しくは職
員の措置に不服があるとき,又は監査委員が同条第4項の規定による監査若し
くは勧告を同条第5項の期間内に行わないとき,若しくは議会,長その他の執
行機関若しくは職員が同条第9項の規定による措置を講じないときは,裁判所
に対し,同条第1項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき,訴えをもつ
て次に掲げる請求をすることができる。
1号ないし3号(略)
4号当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不
当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員
に対して求める請求。ただし,当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に
係る相手方が第243条の2第3項の規定による賠償の命令の対象となる
者である場合にあつては,当該賠償の命令をすることを求める請求
(10)243条の2第1項
会計管理者若しくは会計管理者の事務を補助する職員,資金前渡を受けた職
員,占有動産を保管している職員又は物品を使用している職員が故意又は重大
な過失(現金については,故意又は過失)により,その保管に係る現金,有価
証券,物品(基金に属する動産を含む。)若しくは占有動産又はその使用に係
る物品を亡失し,又は損傷したときは,これによつて生じた損害を賠償しなけ
ればならない。次に掲げる行為をする権限を有する職員又はその権限に属する
事務を直接補助する職員で普通地方公共団体の規則で指定したものが故意又は
重大な過失により法令の規定に違反して当該行為をしたこと又は怠つたことに
より普通地方公共団体に損害を与えたときも,また同様とする。
1号支出負担行為
2号第232条の4第1項の命令又は同条第2項の確認
3号及び4号(略)
(11)243条の2第3項
普通地方公共団体の長は,第1項の職員が同項に規定する行為によつて当該
普通地方公共団体に損害を与えたと認めるときは,監査委員に対し,その事実
があるかどうかを監査し,賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め,
その決定に基づき,期限を定めて賠償を命じなければならない。
2地方財政法4条1項
地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえ
て,これを支出してはならない。
3公職選挙法199条の2第1項
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下
この条において「公職の候補者等」という。)は,当該選挙区(選挙区がないと
きは選挙の行われる区域。以下この条において同じ。)内にある者に対し,いか
なる名義をもつてするを問わず,寄附をしてはならない。ただし,政党その他の
政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者等の親族に対してする場合及び
当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会そ
の他の政治教育のための集会(参加者に対して饗(きよう)応接待(通常用いら
れる程度の食事の提供を除く。)が行われるようなもの,当該選挙区外において
行われるもの及び第199条の5第4項各号の区分による当該選挙ごとに当該各
号に定める期間内に行われるものを除く。以下この条において同じ。)に関し必
要やむを得ない実費の補償(食事についての実費の補償を除く。以下この条にお
いて同じ。)としてする場合は,この限りでない。
4平成26年条例第21号による改正前の稲沢市議会議員の議員報酬及び費用弁
償等に関する条例(昭和35年4月1日条例第11号。乙1。以下「議員報酬等
に関する条例」という。)
(1)1条
この条例は,地方自治法(昭和22年法律第67号)第203条の規定に基
づき,議会の議員に対して支給する議員報酬,費用弁償及び期末手当について
必要な事項を定めるものとする。
(2)1条の2
議会の議長,副議長及び議員の議員報酬は,次のとおりとする。
議長月額550,000円
副議長月額500,000円
議員月額480,000円
(3)2条
1項議長及び副議長には,その選挙された日の翌日から,議員にはその職に
ついた日から日割計算によりそれぞれ議員報酬を支給する。ただし,議長
又は副議長が選挙された日以前に在職していないときは,選挙された日か
ら日割計算により議員報酬を支給する。
2項議長,副議長及び議員が任期満了,辞職,失職,除名又は議会の解散に
よりその職を離れたときは,その日までの議員報酬を支給し,死亡によ
りその職を離れたときは,その日の属する月分までの議員報酬を支給す
る。
3項及び4項(略)
5項議員報酬の支給日は,一般職の職員の例による。
(4)4条
1項期末手当は,6月1日及び12月1日(以下この条においてこれらの日
を「基準日」という。)にそれぞれ在職する議員に支給する。これらの期
日前1月以内に任期が満限に達し,辞職し,退職し,除名され,死亡し,
又は解散により任期が終了したこれらの者(以下「任期が満限に達した者
等」という。)についても同様とする。
2項期末手当の額は,それぞれ前項の基準日現在(任期が満限に達した者等
にあつては任期が満限に達し,辞職し,退職し,除名され,死亡し,又は
解散により任期が終了した日現在)における議員報酬月額及びその議員報
酬月額に100分の45を乗じて得た額の合計額に,6月に支給する場合
においては100分の140,12月に支給する場合においては100分
の155を乗じて得た額に,基準日以前6か月以内の期間におけるその者
の在職期間の次の各号に掲げる区分に応じ,当該各号に定める割合を乗じ
て得た額とする。
1号6か月100分の100
2号5か月以上6か月未満100分の80
3号3か月以上5か月未満100分の60
4号3か月未満100分の30
(5)5条
期末手当の支給方法については,一般職の職員の例による。
5平成26年条例第21号による改正後の稲沢市議会議員の議員報酬及び費用弁
償等に関する条例(昭和35年4月1日条例第11号。甲17。以下「改正後の
議員報酬等に関する条例」という。)
(1)2条の2第1項
議長,副議長又は議員が,刑事事件(外国の刑事事件を含む。以下同じ。)
の被疑者又は被告人として逮捕,勾留その他の身体を拘束する処分を受けたと
きは,その処分を受けた日からその処分が解かれた日までの期間(以下「逮捕
等期間」という。)の議員報酬は,その逮捕等期間の属する月の現日数を基礎
として日割計算により算出した額の支給を停止する。ただし,既に支給された
議員報酬又は市長がその処分を受けたことを知つた時が支給日直前であること
により支給を停止することができない議員報酬については,この限りでない。
(2)2条の3
議長,副議長又は議員が,前条第1項本文の規定による議員報酬の支給の
停止に係る刑事事件について,次の各号に該当する場合には,当該各号に掲
げる期間に係る議員報酬は支給しない。この場合において,既に支給したも
のがあるときは,日割計算により算出した額を返納させるものとする。
1号有罪判決が確定した場合逮捕等期間
2号刑の執行のため刑事施設に収容された場合刑事施設に収容された期間
(3)5条の2第1項
基準日以前6か月以内の期間において,逮捕等期間がある場合には,その基
準日に係る期末手当のうち,その逮捕等期間(その基準日以前6か月以内に係
る部分に限る。)の日数に応じて,その基準日以前6か月以内の期間における
その者の市議会議員としての在職期間の現日数を基礎として日割計算により算
出した額の支給を停止する。
(4)5条の3
基準日以前6か月以内の期間において第2条の3又は第2条の4第1項の規
定により議員報酬を支給しないこととした期間(第2条の3後段に規定する議
員報酬の返納の対象となる期間を含む。)がある場合には,その基準日に係る
期末手当のうち,その期間(その基準日以前6か月以内の期間に係る部分に限
る。)の日数に応じて,その基準日以前6か月以内の期間におけるその者の市
議会議員としての在職期間の現日数を基礎として日割計算により算出した額は
支給しない。
6稲沢市長の権限に属する事務を稲沢市議会事務局長等に補助執行させる規程
(昭和61年3月31日訓令第4号。乙2)
(1)1条
市長は,稲沢市議会事務局長その他の職員に,次に掲げる市長の権限に属す
る事務を補助執行させるものとする。
1号及び2号(略)
3号議会の所掌に係る事項に関する支出負担行為及びこれに伴う支出命令を
すること。
4号及び5号(略)
(2)2条
前条に規定する事務の決裁については,稲沢市決裁規程(昭和45年稲沢市
訓令第4号)に定めるところによる。
7稲沢市決裁規程(昭和45年4月1日訓令第4号。乙3)
5条1項前文
部長及び課長の専決事項は,別表第1から別表第3までに定めるそれぞれの
決裁区分に属する事項とする。
別表第1(第4条,第5条関係)
1及び2(略)
3財務関係
8稲沢市議会事務局条例施行規則(昭和45年7月10日議会規則第1号。乙
4)
(1)1条
稲沢市議会事務局(以下「事務局」という。)に議事課を置く。
(2)2条
議事課の事務分掌は次のとおりとする。
1号及び2号(略)
3号議員の議員報酬及び費用弁償等に関すること。
4号ないし24号(略)
(3)3条
1項事務局に局長を置く。
2項課に課長を置く。
3項及び4項(略)
9稲沢市職員の職名,補職名及び職階に関する規則(昭和45年4月1日規則第
9号。乙5)
(1)3条
法令に特別の定めのあるものを除き,職員の補職名は,その所属する組織単
位の名を冠した別表に掲げる名称とする。
(2)5条1項
職階は別表に掲げるとおりに区分し,それぞれ掲げる名称をもつて表すも
のとする。
別表(第3条,第5条関係)
行政職職階表(1)
職階補職名
部長,理事・・・,議会事務局長,(以下略)
次長(略)
課長課長,(以下略)
(以下略)(以下略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛