弁護士法人ITJ法律事務所

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平成15年10月23日宣告
平成15年特(わ)第4805号
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
主文
    被告人を懲役1年に処する。
    この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
    訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,インターネットを利用する不特定多数の者に対し,児童ポルノ画像を送信して,児童ポルノを
公然と陳列しようと企て,平成15年1月6日午後8時2分ころから同日午後8時31分ころまでの間,千葉
県市川市a丁目b番c号d室甲方において,パーソナルコンピュータに接続したインターネットを利用し,衣服
の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識する
ことができる方法により描写した児童ポルノである画像合計68画像のデータを,乙合資会社が管理する
東京都日野市e丁目f番地g号室所在のサーバーコンピュータを経由して,株式会社丙管理に係るIPアドレ
スを割り当てられた同都府中市h町i丁目j番地k号丁方のサーバーコンピュータに送信し,同コンピュータ
の記憶装置であるハードディスクにこれらを記憶・蔵置させ,インターネットに接続したコンピュータを利用
する不特定多数の者に対し,前記児童ポルノ画像を閲覧可能な状態に設定し,もって,児童ポルノ画像を
公然と陳列したものである。
(法令の適用)
罰条児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項,2条3項3号
刑種の選択 懲役刑を選択
刑の執行猶予刑法25条1項
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項本文(負担)
(量刑の理由)
 本件は,現職の警察官である被告人が,インターネットを利用して,多数の児童ポルノ画像を送信し,イ
ンターネットに接続したコンピュータを利用する不特定多数の者が上記画像を閲覧することができる状態
にして,児童ポルノを公然と陳列したという事案である。
 児童ポルノを公然と陳列する行為は,児童ポルノに描写された児童の心身に有害な影響を与えるだけ
でなく,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長するととも
に,身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与えるものであるところ,被
告人が,インターネットを利用して,児童ポルノ等の投稿欄が設けられているホームページに多数の児童
ポルノ画像を送信したことや,被告人が送信した画像の中には児童の性器等の部分を拡大したものも含
まれていたことにも照らせば,本件は,営利性のない事案であるとはいえ,反社会性の高い悪質な犯行と
いうべきである。
 被告人は,長年にわたって児童ポルノ等に親しみ,自分が入手した児童ポルノを同じ趣味を持つ者たち
に自慢したいなどといった安易な気持ちから本件犯行に及んでおり,強い非難を免れない。
 ましてや,被告人は,犯行当時,社会秩序の維持を職責とする警察官であり,本件犯行が警察に対する
国民の信頼を著しく損うものであることは明らかであって,その社会的影響も重大である。
 また,被告人は,多数の児童ポルノ画像を短時間で送信するため,画像を保存した自分のノート型パソ
コンを妹宅に持ち込み,通信速度の速い同人宅の回線を利用して本件犯行に及んでいる。そのため,被
告人の妹は,本件に何ら関与していないにもかかわらず,捜査機関による家宅捜索や事情聴取を受ける
こととなり,多大な迷惑を被っている。さらに,本件の発覚により,両親を初めとする被告人の家族が受け
た衝撃が非常に大きなものであったことも察するに難くない。
 自己の行為の悪質性や社会的な影響はもとより,自分の家族に思いを致すこともなく,本件犯行に及ん
だことは言語道断というほかない。
 以上によれば,被告人の刑事責任を軽視することは許されない。本件は罰金刑を選択すべき事案であ
るとは到底認められず,懲役刑をもってのぞむのは当然である。
 もっとも,他方,被告人のために酌むべき事情も認められる。すなわち,被告人は,捜査段階から一貫し
て犯行を素直に認めていることに加えて,千葉犯罪被害者支援センターに対して贖罪寄付をしたほか,警
察官を辞職し,退職金も受け取らない旨述べるなど,反省の態度を示している。さらに,被告人は,保釈
後,社会奉仕活動に参加することを通して,これまでとは違った形で社会に貢献する途を見出そうとして
おり,更生の意欲もうかがわれる。また,被告人には前科前歴がない。さらに,被告人の父親が,情状証
人として出廷し,被告人の更生に協力する旨述べている上,被告人が二度と今回のような事件を起こさな
いよう専門家に相談するなどしている。
 そこで,以上の諸事情を総合考慮し,本件については,懲役刑を選択した上で,今回に限り,その刑の
執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑 懲役1年)
平成15年10月23日
東京地方裁判所刑事第16部
   裁判官 早川幸男

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