弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年8月19日判決言渡
平成21年(行ケ)第10408号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成22年6月1日
判決
原告X
被告特許庁長官
同指定代理人江口能弘
同廣瀬文雄
同小林和男
同圓道浩史
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2009−390090号事件について平成21年11月10日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「情報供給方法と情報供給システム及び情報読出装置」と
する特許権(特許第3753411号。以下「本件特許権」といい,その明細書及
び図面を「本件明細書等」という)を有する原告が,同特許権につき,訂正審判。
請求をしたが,同訂正後の発明は後出の引用例に記載された発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特
許を受けることができないから,独立特許要件を欠くとの理由で訂正請求不成立の
審決を受けたことから,その審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
本件訂正請求に係る本件特許権は,平成8年7月2日に出願された特許(特願平
8−192814号)の一部を分割して平成12年5月30日に新たな特許出願と
した特許(特願2000−159385号)に基づくものであって,平成17年1
2月22日に設定登録がされた。原告は,その後,平成21年7月22日に本件訂
正審判請求をしたが,特許庁は,これを訂正2009−390090号事件として
審理した上,平成21年11月10日「本件審判の請求は,成り立たない」との,。
審決をし,同月20日,その謄本を原告に送達した。
2本件訂正の内容
(1)特許請求の範囲の請求項1について,訂正前の
「請求項1】一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を【
備えた記憶手段を用い,
前記一つのデータ入力部に入力された端末に一連に供給するべき映像情報又は
音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデー
タとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込
領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書
込領域中の指定された複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出し
て,複数の端末に送信する情報供給方法」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過時
間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂正
する(以下「訂正事項a」という。。)
(2)特許請求の範囲の請求項2について,訂正前の
「請求項2】前記一つのデータ入力部に入力されたデータを前記書込領域に書【
き込む書込み用のタイムスロットと,前記書込領域に書き込まれているデータを読
み出す読出し用のタイムスロットの複数とを時分割で周期的に設けて,
前記書込み用のタイムスロットにおいて前記一つのデータ入力部に入力された
データを前記書込領域に書き込む動作を周期的に繰り返すことにより,前記一つの
データ入力部に入力された前記一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用の
データとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,
前記読出し用のタイムスロットにおいて,前記書込領域に書き込まれているデ
ータをその書込領域中の前記読出し用のタイムスロット毎に対応する位置から読み
出す動作を周期的に繰り返すことにより,その書込領域に書き込まれている前記記
憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置
の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する請求
項1記載の情報供給方法」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過時
間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂正
する(以下「訂正事項b」という。。)
(3)特許請求の範囲の請求項4について,訂正前の
「請求項4】前記読み出した送信用のデータを複数の中継用情報供給手段に送【
信し,
前記中継用情報供給手段の各々は,一つのデータ入力部に入力されたデータを
,,書込可能な中継用の書込領域を備えた記憶手段を用いて送信されてきたデータを
前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶さ
れるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,
その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置の各々から端
末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する請求項1∼3のい
ずれか1項記載の情報供給方法」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項c」という。。)
(4)特許請求の範囲の請求項5について,訂正前の
「請求項5】一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を【
備えた記憶手段を設け,
前記一つのデータ入力部に入力された端末に一連に供給するべき映像情報又は
音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデー
タとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込
領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書
込領域中の指定された複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出し
て,複数の端末に送信する情報供給システム」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項d」という。。)
(5)特許請求の範囲の請求項6について,訂正前の
「請求項6】前記一つのデータ入力部に入力されたデータを前記書込領域に書【
き込む書込み用のタイムスロットと,前記書込領域に書き込まれているデータを読
み出す読出し用のタイムスロットの複数とを時分割で周期的に設けて,
前記書込み用のタイムスロットにおいて前記一つのデータ入力部に入力された
データを前記書込領域に書き込む動作を周期的に繰り返すことにより,前記一つの
データ入力部に入力された前記一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用の
データとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,
前記読出し用のタイムスロットにおいて,前記書込領域に書き込まれているデ
ータをその書込領域中の前記読出し用のタイムスロット毎に対応する位置から読み
出す動作を周期的に繰り返すことにより,その書込領域に書き込まれている前記記
憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置
の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する請求
項5記載の情報供給システム」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項e」という。。)
(6)特許請求の範囲の請求項8について,訂正前の
「請求項8】前記読み出した送信用のデータが送信される複数の中継用情報供【
給手段を設け,
前記中継用情報供給手段の各々は,一つのデータ入力部に入力されたデータを
,,書込可能な中継用の書込領域を備えた記憶手段を用いて送信されてきたデータを
前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶さ
れるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,
その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置の各々から端
末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信するように設けられて
いる請求項5∼7のいずれか1項記載の情報供給システム」の「複数位置の各々。
から」を,
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項f」という。。)
(7)特許請求の範囲の請求項9について,訂正前の
「請求項9】一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を【
備えた記憶手段を,
前記一つのデータ入力部に入力された端末に一連に供給するべき映像情報又は
音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデー
タとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込
領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書
込領域中の指定された複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出し
可能に設けてある情報読出装置」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項g」という。。)
(8)特許請求の範囲の請求項10について,訂正前の
「請求項10】前記一つのデータ入力部に入力されたデータを前記書込領域に【
書き込む書込み用のタイムスロットと,前記書込領域に書き込まれているデータを
読み出す読出し用のタイムスロットの複数とを時分割で周期的に設けて,
前記書込み用のタイムスロットにおいて前記一つのデータ入力部に入力された
データを前記書込領域に書き込む動作を周期的に繰り返すことにより,前記一つの
データ入力部に入力された前記一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用の
データとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,
前記読出し用のタイムスロットにおいて,前記書込領域に書き込まれているデ
ータをその書込領域中の前記読出し用のタイムスロット毎に対応する位置から読み
出す動作を周期的に繰り返すことにより,その書込領域に書き込まれている前記記
憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置
の各々から端末への送信用のデータとして読み出し可能に設けてある請求項9記載
の情報読出装置」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項h」という。。)
(9)本件明細書等の段落【0010】の,
「課題を解決するための手段】【
請求項1記載の情報供給方法の特徴構成は,一つのデータ入力部に入力された
データを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を用い,前記一つのデータ入力部に
入力された端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する一連
のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データ
として記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記
憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置
の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する点に
ある」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項i」という。。)
(10)本件明細書等の段落【0013】の,
「請求項2記載の情報供給方法の特徴構成は,前記一つのデータ入力部に入力さ
れたデータを前記書込領域に書き込む書込み用のタイムスロットと,前記書込領域
に書き込まれているデータを読み出す読出し用のタイムスロットの複数とを時分割
で周期的に設けて,前記書込み用のタイムスロットにおいて前記一つのデータ入力
部に入力されたデータを前記書込領域に書き込む動作を周期的に繰り返すことによ
り,前記一つのデータ入力部に入力された前記一連のデータを,前記書込領域に端
末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加
えながら,前記読出し用のタイムスロットにおいて,前記書込領域に書き込まれて
いるデータをその書込領域中の前記読出し用のタイムスロット毎に対応する位置か
ら読み出す動作を周期的に繰り返すことにより,その書込領域に書き込まれている
前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複
数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信す
る点にある」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項j」という。。)
(11)本件明細書の段落【0019】の,
「請求項4記載の情報供給方法の特徴構成は,前記読み出した送信用のデータを
複数の中継用情報供給手段に送信し,前記中継用情報供給手段の各々は,一つのデ
ータ入力部に入力されたデータを書込可能な中継用の書込領域を備えた記憶手段を
用いて,送信されてきたデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして
読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書
き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中
の指定された複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数
の端末に送信する点にある」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項k」という。。)
(12)本件明細書の段落【0021】の,
「請求項5記載の情報供給システムの特徴構成は,一つのデータ入力部に入力さ
れたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を設け,前記一つのデータ入力
部に入力された端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する
一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶デ
ータとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前
記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数
位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する
点にある」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項l」という。。)
(13)本件明細書の段落【0024】の,
「請求項6記載の情報供給システムの特徴構成は,前記一つのデータ入力部に入
力されたデータを前記書込領域に書き込む書込み用のタイムスロットと,前記書込
領域に書き込まれているデータを読み出す読出し用のタイムスロットの複数とを時
分割で周期的に設けて,前記書込み用のタイムスロットにおいて前記一つのデータ
入力部に入力されたデータを前記書込領域に書き込む動作を周期的に繰り返すこと
により,前記一つのデータ入力部に入力された前記一連のデータを,前記書込領域
に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書
き加えながら,前記読出し用のタイムスロットにおいて,前記書込領域に書き込ま
れているデータをその書込領域中の前記読出し用のタイムスロット毎に対応する位
置から読み出す動作を周期的に繰り返すことにより,その書込領域に書き込まれて
いる前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定され
た複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送
信する点にある」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項m」という。。)
(14)本件明細書の段落【0030】の,
「請求項8記載の情報供給システムの特徴構成は,前記読み出した送信用のデー
タが送信される複数の中継用情報供給手段を設け,前記中継用情報供給手段の各々
は,一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な中継用の書込領域を備え
た記憶手段を用いて,送信されてきたデータを,前記書込領域に端末への送信用の
データとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その
書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれてい
る書込領域中の指定された複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み
出して,複数の端末に送信するように設けられている点にある」の「複数位置の。
各々から」を,
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項n」という。。)
(15)本件明細書の段落【0032】の,
「請求項9記載の情報読出装置の特徴構成は,一つのデータ入力部に入力された
データを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を,前記一つのデータ入力部に入力
された端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデ
ータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとし
て記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記憶デ
ータを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置の各
々から端末への送信用のデータとして読み出し可能に設けてある点にあるの複。」「
数位置の各々から」を,
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項o」という。。)
(16)本件明細書の段落【0035】の,
「請求項10記載の情報読出装置の特徴構成は,前記一つのデータ入力部に入力
されたデータを前記書込領域に書き込む書込み用のタイムスロットと,前記書込領
域に書き込まれているデータを読み出す読出し用のタイムスロットの複数とを時分
割で周期的に設けて,前記書込み用のタイムスロットにおいて前記一つのデータ入
力部に入力されたデータを前記書込領域に書き込む動作を周期的に繰り返すことに
より,前記一つのデータ入力部に入力された前記一連のデータを,前記書込領域に
端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き
加えながら,前記読出し用のタイムスロットにおいて,前記書込領域に書き込まれ
ているデータをその書込領域中の前記読出し用のタイムスロット毎に対応する位置
から読み出す動作を周期的に繰り返すことにより,その書込領域に書き込まれてい
る前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された
複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出し可能に設けてある点に
ある」の「複数位置の各々から」を,。
「複数位置であって,前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過
時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から」と訂
正する(以下「訂正事項p」という。。)
3審決の理由
審決は,訂正事項aないしhは,いずれも,特許請求の範囲に記載した事項を
限定することを目的とするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものに当たらず,また,訂正事項iないしpは,いずれも,明りょうでな
い記載の釈明を目的とするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は
変更するものに当たらないとし,訂正後の請求項1,2,4,5,6,8,9及び
10は,特許請求の範囲の減縮を目的として訂正された請求項であり,また,請求
項3,7及び11については明示的な訂正事項は存在しないが,請求項3,7及び
11が引用している請求項が訂正されたので,請求項3,7及び11も実質的に訂
正されており,その訂正の目的も特許請求の範囲の減縮であるとした上で,訂正後
の請求項1ないし11に係る発明(以下,それぞれ「訂正発明1」ないし「訂正発
明11」という)は,特開平7−212737号公報(甲1。以下「刊行物1」。
という)に記載された発明(以下「引用発明」という)及び登録実用新案第30。。
06191号公報(甲2。以下「刊行物2」という)に記載された各技術事項に。
基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができないと判断した。
審決が認定した引用発明等の内容,一致点及び相違点並びに容易想到性の判断内
容は,次のとおりである(なお,以下において引用した審決中の当事者及び公知文
献等の表記等は,本判決の表記に統一した。。)
(1)訂正発明5について
ア引用発明の内容
「電話回線LINより受信者から送られてくる受信要求に応じて映画番組等の所望の番組情
報を各受信者に提供し得るようになされているデータ伝送装置1であって,
該データ伝送装置1は,番組ライブラリ2から得られる番組情報SR1,SR2,……,SR(k
,,,-1)SRkをスイツチヤ3を介して第1の送出部群4を構成する複数の送出部4A14A2
……,4AL-1,4ALに選択的に供給し,
スイツチヤ3は,番組ライブラリ2から送られた番組情報SR1∼SRkを,番組制御部5か
らの制御信号S2に応じて選択的に送出部4A1∼4ALに出力し,
各送出部4A1∼4ALは,1つの入力チヤンネルと(n+1)個の出力チヤンネルを有
し,また大容量の記憶装置を有し,入力した番組情報を一旦記憶装置に記憶し,これを番組送
出制御部6からの制御信号S3に基づいて読み出して出力するようになされており,
送出部4A1∼4AL及び10A1∼10Amは,スイツチヤ3又は7からの番組情報を
入力インターフエース20を介してバツフアメモリ21に入力し,
送出部4A1∼4ALは,バツフアメモリ21の出力を,記録再生用のインターフエース
22を介して記録再生部23により所定の記録媒体に記録することができると共に,同時に出
力インターフエース24を介して複数の出力チヤンネルから出力することもできるようになさ
れており,
記録再生部23は,記録媒体に番組ライブラリ2からの番組情報又は別の送出部4A1∼
4ALからの番組情報を記録しながら,時間差のある番組情報を各受信者に送出することもで
きるようになされており,
この場合記録再生部23は,単位時間をn個のタイムスロツトに分割し,このうち(n−
1)個のタイムスロツトで記録データを読み出すと共に,残りの1つのタイムスロツトで番組
ライブラリ2又は別の送出部4A1∼4ALからの番組情報を記録する
データ伝送装置1」。
イ引用発明と訂正発明5の一致点
,「『一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を設け
前記一つのデータ入力部に入力された端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一
つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶
データとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記憶デ
ータを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の複数の位置の各々から端末への送信
用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する情報供給システム』である点」。。
ウ引用発明と訂正発明5の相違点
(ア)相違点1
「訂正発明5は『端末への送信用のデータとして,書込領域中から読み出す複数の位置の,
各々』が『指定された複数位置の各々』であるのに対して,引用発明では『端末への送信用,
,』『』のデータとして書込領域中から読み出す複数の位置の各々が指定された複数位置の各々
であるのか否か不明である点」。
(イ)相違点2
「訂正発明5は『端末への送信用のデータとして,書込領域中から読み出す複数の位置の,
各々』が『前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過時間に応じて設定される
読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々』であるのに対して,引用発明では『端末へ,
の送信用のデータとして,書込領域中から読み出す複数の位置の各々』が『前記一連のデータ
の前記書込領域への書込開始からの経過時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読
出開始位置の各々』であるのか否か不明である点」。
エ相違点に関する容易想到性の判断
(ア)相違点1について
「引用発明において『端末への送信用のデータとして,書込領域中から読み出す位置の各,
』『』,【】,々を指定された複数位置の各々とすることは刊行物1の段落0062の記載から
容易に想到できたことである」。
(イ)相違点2について
「引用発明において,読出開始位置が『一連のデータの書込領域への書込開始からの経過,
時間に応じて設定される読出可能な範囲内』となることは,刊行物1の段落【0052【0】,
053】及び【0062】の記載から自明な事項である」。
(ウ)「したがって,訂正発明5は,引用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたものである」。
(2)訂正発明6について
「請求項6として特定されている事項は,刊行物1の段落【0034】に開示されている。
したがって,訂正発明6は,引用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものである」。
(3)訂正発明7について
「刊行物2は,刊行物1記載の発明と同様に,記録媒体に映像信号及び音声信号を書き込ん
で,且つ記録媒体の所望の位置から読み出して端末に供給するシステムに関する発明の文献で
あるから,刊行物1記載の発明の「所定の記録媒体」を刊行物2のように「円形バッファ」と
することは,容易に想到できたことである。
そして,円形バッファは,訂正発明7に記載されているような『書込領域に一連のデータの
うちの一定量を書き込んだ後は,その書込領域に書き込まれている記憶データのうちの最先に
書き加えたデータを,最新に書き加えたデータに後続して書き加えるデータに書き換え』る記
憶媒体であることは明らかである。
したがって,訂正発明7は,引用発明及び刊行物1及び刊行物2に記載の事項に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものである」。
(4)訂正発明8について
「訂正発明8の『複数の中継用情報供給手段』は,刊行物1の段落【0026】に『第2の
』。送出部群10の空き状態の送出部10A1∼10Am-1又は10Amとして開示されている
したがって,訂正発明8は,引用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業者が容易
に発明をすることができたものである」。
(5)訂正発明1ないし4について
「訂正発明1,2は,各々,訂正発明5,6の末尾の『情報供給システム』を『情報供給方
法』に変えただけのものであるから,訂正発明5,6と同様に,引用発明及び刊行物1に記載
の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
訂正発明3は,訂正発明7の末尾の『書き加える機能を備えている情報供給システム』を
『書き加える情報供給方法』に変えただけのものであるから,訂正発明7と同様に,引用発明
及び刊行物1及び刊行物2に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた
ものである。
訂正発明4は,訂正発明8の末尾の『複数の端末に送信するよう設けられている情報供給
システム』を『複数の端末に送信する情報供給方法』に変えただけのものであるから,訂正発
明8と同様に,引用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をするこ
とができたものである」。
(6)訂正発明9ないし11について
「訂正発明9,10は,各々,訂正発明5,6の末尾の『端末への送信用のデータとして読
み出して,複数の端末に送信する情報供給システム』を『端末への送信用のデータとして読み
出し可能に設けてある情報読出装置』に変えただけのものであるから,訂正発明5,6と同様
に,引用発明及び刊行物1記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたも
のである。
訂正発明11は,訂正発明7の末尾の『情報供給システム』を『情報読出装置』に変えただ
けのものであるから,訂正発明7と同様に,引用発明及び刊行物1及び刊行物2に記載の事項
に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」。
(7)原告の意見書の主張について
「原告は,訂正拒絶理由通知において『明らかである』と指摘した事項が『刊行物ア。,
1には記載されていません』と主張しているだけであって『明らかである』と指摘した事。,。
項について『明らかでない』と否認しているわけではない。したがって,上記主張は,実質,。
的に,訂正拒絶理由通知に対する反論となっていない」。
「前記[相違点2について]における検討は,刊行物1に記載された事項及び技術常識イ
に基づいて演繹的になされており,本件明細書等の記載に全く触れることなく結論を導出して
いるのであるから,事後分析的でない。また,演繹的になされていることからして,非論理的
でもない」。
「原告は『‥‥刊行物1には一切記載されていません』という主張を繰り返し行っウ,。
ていることから判断して,当業者として『刊行物に記載されているとおりのことしか考えず,
刊行物の記載事項に基づく通常の創作能力を発揮しない人間』を想定している。しかし,当業
者としては『刊行物の記載事項に基づいて,通常の創作能力を発揮する人間』を想定しなけ,
ればならない」。
(8)まとめ
「以上のとおり,訂正後の請求項1ないし11に係る発明は,特許法29条2項の規定によ
り,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。
したがって,この訂正審判の請求は,特許法126条5項の規定に適合しないので,これを
認めることはできない」。
第3原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,認定及び判断に誤りがあるから,取り消されるべき
である。
1取消事由1(訂正発明5における相違点2の判断の誤り)
審決における訂正発明5における相違点2の判断は,次のとおり,誤りである。
(1)刊行物1には「記録再生部23」に関して「また記録再生部23は,記録,,
媒体に番組ライブラリ2からの番組情報又は別の送出部4A1∼4AL,10A1
∼10Amからの番組情報を記録しながら,時間差のある番組情報を各受信者に送
出することもできるようになされている(段落【0034「さらに上述の実。」】),
施例においては,‥‥全ての受信者に対して番組情報を先頭から提供する場合につ
いて述べたが(段落【0062)と記載されている。,」】
したがって,引用発明のデータ伝送装置は「番組情報を記録媒体に記録しなが,
ら,時間差のある番組情報を先頭から読み出して各受信者に送出する記録再生部」
を備えたデータ伝送装置である。
このように,引用発明のデータ伝送装置は「番組情報を記録媒体に記録しなが,
ら,時間差のある番組情報を先頭から読み出して各受信者に送出する記録再生部」
を備えているのであるから,この「記録再生部」は,番組情報の読出開始位置につ
,「()」いてその読出開始位置が番組情報のうちの記録済みの部分コピー済みの部分
が記録されている範囲内の位置であるのか否かを判断することなく,番組情報を記
録媒体に記録しながら,時間差のある番組情報を先頭から読み出して各受信者に送
出するしたがって引用発明のデータ伝送装置が備える記録再生部では段落0。,,【
062】に記載されているように「受信者から途中から番組情報を見たい要求があ
,」,,つた場合にはこれに応じて読出し位置を選択すればその選択された読出位置
,「()」つまり読出開始位置が番組情報のうちの記録済みの部分コピー済みの部分
が記録されている範囲内の位置であるのか否かを判断することなく,記録媒体から
のデータの読み出し動作がその選択された読出位置から開始される。
よって,選択された読出位置(読出開始位置)が「記録済みの部分(コピー済み
の部分」が記録されている範囲内の位置ではないときには,受信者が要求してい)
る番組情報とは異なる別の情報が,受信者が要求している番組情報が上書きされる
前の記録領域から読み出されて受信者に提供される。
(2)したがって,段落【0062】に記載されているように「受信者から途中,
から番組情報を見たい要求があつた場合には,これに応じて読出し位置を選択すれ
ば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供すること」ができるデータ伝
送装置は,刊行物1に記載されているデータ伝送装置のうちの「一旦記憶装置に,
記憶した番組情報を読み出す記録再生部」を備えたデータ伝送装置においてのみ実
施可能に開示されている。
(3)以上のように,引用発明のデータ伝送装置は,番組情報を記録媒体に記録し
ながら,段落【0062】に記載されているように「受信者から途中から番組情,
報を見たい要求があつた場合には,これに応じて読出し位置を選択」しても,受信
者が要求している番組情報を受信者の希望に応じた位置から提供することができな
いという,訂正発明5が解決しようとする技術的課題と同様の技術的課題を有して
いる。
(4)そのうえ,刊行物1には,引用発明のデータ伝送装置において,番組情報を
記録媒体に記録しながら,段落【0062】に記載されているように「受信者か,
ら途中から番組情報を見たい要求があった場合には,これに応じて読出し位置を選
択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することができる」よ
うにするための提案も,選択した読出位置(読出開始位置)を「一連のデータの書
込領域への書込開始からの経過時間に応じて設定される読出可能な範囲内」の位置
にするという示唆もなくさらには番組情報を記録媒体に記録しながら段落0,,,【
062】に記載のように「受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場合
には,これに応じて読出し位置を選択」しても,受信者が要求している番組情報を
受信者の希望に応じた位置から提供することができないという技術的課題の提起も
ない。
(5)引用発明は,訂正発明5とは以上のような大きな相違があるのであるから,
相違点2が,引用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明
することができたものであるとする審決の認定判断には誤りがある。
2取消事由2(訂正発明6ないし8の判断の誤り)
訂正発明6ないし8は,訂正発明5に係る訂正後の請求項5に記載された発明を
特定発明として技術的限定を加えた発明であるから,取消事由1と同様の事由によ
り,審決の「訂正発明6は,引用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業
者が容易に発明をすることができたものである」との判断「訂正発明7は,引用。,
発明及び刊行物1及び刊行物2に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をす
ることができたものである」との判断,及び「訂正発明8は,引用発明及び刊行。
物1に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであ
る」との判断は,それぞれ誤りである。。
3取消事由3(訂正発明1ないし4の判断の誤り)
(1)訂正発明1及び2は訂正発明5及び6の末尾の情報供給システムを情,「」「
報供給方法」に変えただけのものであるから,取消事由1と同様の事由により,審
決の「訂正発明1,2は,訂正発明5,6と同様に,引用発明及び刊行物1に記載
の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである」との判。
断は誤りである。
(2)訂正発明3は,訂正発明7の末尾の「書き加える機能を備えている情報供給
システム」を「書き加える情報供給方法」に変えただけのものであるから,取消事
由1と同様の事由により,審決「訂正発明3は,訂正発明7と同様に,引用発明及
び刊行物1及び刊行物2に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすること
ができたものである」との判断は誤りである。。
(3)訂正発明4は,訂正発明8の末尾の「複数の端末に送信するように設けられ
ている情報供給システム」を「複数の端末に送信する情報供給方法」に変えただけ
のものであるから,取消事由1と同様の事由により,審決の「訂正発明4は,訂正
発明8と同様に,引用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業者が容易に
発明をすることができたものである」との判断は誤りである。。
4取消事由4(訂正発明9ないし11の判断の誤り)
(1)訂正発明9及び10は,訂正発明5及び6の末尾の「端末への送信用のデー
タとして読み出して,複数の端末に送信する情報供給システム」を「端末への送信
用のデータとして読み出し可能に設けてある情報読出装置」に変えただけのもので
あるから,取消事由1と同様の事由により,審決の「訂正発明5,6と同様に,引
用発明及び刊行物1に記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものではない」との判断は誤りである。。
(2)訂正発明11は,訂正発明7の末尾の「情報供給システム」を「情報読出装
置」に変えただけのものであるから,取消事由1と同様の事由により,審決の「訂
正発明7と同様に,引用発明及び刊行物1及び刊行物2に記載の事項に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものである」との判断は誤りである。。
5取消事由5(当審の見解]の誤り)[
(1)審決では,前記第2の3(7)アのとおりの見解が示されている。
しかしながら,意見書における原告の「上記主張」は,訂正拒絶理由通知に対す
,「。」,る反論として明らかであると指摘された刊行物1に記載されていない事項が
訂正発明5の「前記一連のデータの前記書込領域への書込開始からの経過時間に応
じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から端末への送信用
のデータとして読み出す」という構成に関して事後分析的に抽出された事項である
ことを主張するものである。したがって,上記審決の見解は,誤りである。
(2)審決では,前記第2の3(7)イのとおりの見解が示されている。
しかしながら[相違点2について]における検討は,刊行物1には「番組情報,,
を記録媒体に記録しながら,段落【0062】に記載のように受信者から途中から
番組情報を見たい要求があつた場合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,
各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することができる記録再生部」を
備えたデータ伝送装置が開示されていることを前提としてされた検討であるとこ
ろ,取消事由1において述べたように,刊行物1には,このような「データ伝送装
置」は開示されていない。
したがって[相違点2について]における検討は,刊行物1に記載された事項,
に基づいてされたものではなく,非論理的であり,実質的に事後分析的である。
(3)審決では,前記第2の3(7)ウのとおりの見解が示されている。
しかしながら,引用発明のデータ伝送装置は,番組情報を記録媒体に記録しなが
ら,段落【0062】に記載のように「受信者から途中から番組情報を見たい要求
があつた場合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じ
た位置から番組情報を提供すること」ができないデータ伝送装置である。
したがって,通常の創作能力を発揮し得る当業者であっても,引用発明のデータ
伝送装置において,コピーし始めた当初の状態において,第2の受信者から同じ番
組に対して,途中から番組情報を見たい要求,特に番組の終わりの部分を見たいと
いうような要求があるという状態を想定し得ない。
よって,上記見解は誤りである。
第4被告の主張
次のとおり,審決の判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由が
ない。
1取消事由1(訂正発明5における相違点2の判断の誤り)に対して
(1)原告の主張(1)に対して
ア審決において認定している引用発明には「先頭から読み出して」という文,
言は含まれていない。そして,後記第5の1(1)イの刊行物1の段落【0062】
に「さらに上述の実施例においては,各受信者に割り当てられたタイムスロツト毎
に,受信者の要求時間に応じた位置から記録データを読み出すことにより,全ての
受信者に対して番組情報を先頭から提供する場合について述べたが,本発明はこれ
に限らず,受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場合には,これに応
じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供す
ることができる」と記載されていることからして,引用発明は「先頭又は途中か。,
ら読み出すもの」であると解するのが相当である。したがって,引用発明を「先頭
から読み出」すものに限定する原告の主張は,刊行物1の記載を正解しないもので
あって,失当である。
イまた,後記第5の1(1)イの刊行物1の段落【0052】には「これに対,
して,どの送出部4A1∼4AL,10A1∼10Amにも要求番組が無い場合に
は,番組ライブラリ2から空き状態の送出部4A1∼4AL,10A1∼10Am
に要求番組を転送してコピーしながら,この送出部4A1∼4AL,10A1∼
10Amから要求番組を第1の受信者に送出する」と記載されている。。
このように,刊行物1に記載されているデータ伝送装置は,要求番組を受信者に
伝送することを前提とするものであって,要求されていない番組を受信者に伝送す
ることは想定していない。そして,仮に要求されていない番組を受信者に伝送した
場合には「受信者の希望に応じた番組情報を提供する(段落【0007)とい,」】
う引用発明の目的に反することは明らかであるから,原告が主張する動作をするよ
うに,当業者がデータ伝送装置を設計するはずがない。
したがって「受信者の希望に応じた番組情報を提供する」という引用発明の目,
的にかんがみれば「途中から番組情報を見たいという要求の位置」が「記録済み,,
の部分(コピー済みの部分)が記録されている範囲内」であるか否かの判定を当然
に行っていることは明らかである。
以上のとおり,この点に関する審決の判断には誤りはなく,原告の主張は失当で
ある。
(2)原告の主張(2)及び(3)に対して
後記第5の1(1)イの刊行物1の段落【0062】の記載は,段落【0034】
に記載されている事項を前提としているところ,段落【0034】には,単位時間
をn個のタイムスロツトに分割し,このうち(n−1)個のタイムスロツトで記録
データを読み出すとともに,残りの1つのタイムスロツトで番組情報を記録するこ
とが開示されている。すなわち,段落【0034】には「番組情報を記録媒体に,
記録しながら,番組情報を記録媒体から読み出す記録再生部23を備えたデータ伝
送装置」が記載されている。
したがって,刊行物1には「番組情報を記録媒体に記録しながら,番組情報を,
記録媒体から読み出す記録再生部23を備えたデータ伝送装置であって段落0」,【
062】に記載されたような「受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた
場合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置か
ら番組情報を提供することができる」データ伝送装置が開示されているといえる。
そもそも,要求番組の「記録済みの部分(コピー済みの部分」が記録されてい)
る範囲内の位置でない位置から要求番組の番組情報を見たいという要求を受けて
も,その要求に応じることが物理的に不可能であることは明らかであるから,段落
【0062】の「各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することができ
る」という記載は,要求番組の「記録済みの部分(コピー済みの部分」が記録さ。)
れている範囲内の位置から要求番組の番組情報を見たいという要求を受けた場合に
限定した記載と解釈すべきである。
【】「」,,段落0062の途中からについてかかる限定が課されているとすれば
段落【0062】の「各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することが
できる」という記載は「受信者の希望に応じた番組情報を提供する」という刊行。,
物1の目的に即するものである。
したがって,原告の主張(2)及び(3)は,失当である。
(3)原告の主張(4)に対して
後記第5の1(1)イの刊行物1の段落0038の記載を参照すれば段落0【】,【
062】のように,受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場合には,
受信信号S5が「視聴希望箇所付きの受信者からの番組要求を示す受信信号S5」
と変更し,ステツプSP2において,ステツプSP1で要求された番組の視聴希望
箇所が第1の送出部群4のいずれかの送出部にあるか否4A1∼4AL−1又は4AL
かを判断するようにすればよいことは自明のことである。
また,段落【0062】の「受信者から途中から番組情報を見たい要求があった
場合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置か
ら番組情報を提供することができる」という記載からみて,受信者から途中から。
番組情報を見たいという要求があった場合に,従来できなかった各受信者の希望に
応じた位置から番組情報を提供することを,見たい要求に応じて読出位置を選択す
ることにより,できるようにしたと解するのが自然である。したがって「受信者,
が要求している番組情報を受信者の希望に応じた位置から提供することができな
い」という技術的課題が,刊行物1に示唆されていることは明らかである。
2取消事由2(訂正発明6ないし8の判断の誤り)に対して
取消事由1に理由がないことは上記1のとおりであるから,同じ事由を主張する
取消事由2も理由がない。
3取消事由3(訂正発明1ないし4の判断の誤り)に対して
取消事由1に理由がないことは前記1のとおりであるから,同じ事由を主張する
取消事由3も理由がない。
4取消事由4(訂正発明9ないし11の判断の誤り)に対して
取消事由1に理由がないことは前記1のとおりであるから,同じ事由を主張する
取消事由4も理由がない。
5取消事由5(当審の見解]の誤り)に対して[
(1)原告の主張(1)に対して
「訂正拒絶理由通知において『明らかである』と指摘された事項について『明。
らかでない』と否認するものではない」ということは,原告が「訂正拒絶理由通。。
知において『明らかである』と指摘された事項について『明らかである』と是。,。
認する」ということである。。
そうすると,訂正発明5の「前記一連のデータの前記書込領域への書込開始から
の経過時間に応じて設定される読出可能な範囲内の複数の読出開始位置の各々から
端末への送信用のデータとして読み出す」という構成を,相違点2として判断した
相違点2についてにおける検討は刊行物1に記載された事項及び原告も明[],,「
らかである」ことを認める「訂正拒絶理由通知において『明らかである』と指摘。
された事項」からなる技術常識に基づいて演繹的にされており,本件明細書等の記
載に全く触れることなく結論を導出しているのであるから,事後分析的であるもの
ではない。
(2)原告の主張(2)に対して
刊行物1には「番組情報を記録媒体に記録しながら,番組情報を記録媒体から,
読み出す記録再生部23」を備えたデータ伝送装置であって,段落【0062】に
記載されたような「受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場合には,
これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報
を提供することができる」データ伝送装置が開示されている。
そして[相違点2について]における検討は,刊行物1に記載された事項,及,
び原告も「明らかである」ことを認める技術常識に基づいて演繹的にされており,
本件明細書等の記載に全く触れることなく結論を導出しているのであるから,非論
理的でも,事後分析的でもなく,原告の主張は失当である。
(3)原告の主張(3)に対して
刊行物1には「番組情報を記録媒体に記録しながら,番組情報を記録媒体から,
読み出す記録再生部23」を備えたデータ伝送装置であって,段落【0062】に
記載されたような「受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場合には,
これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報
を提供することができる」データ伝送装置が開示されている。
したがって,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(訂正発明5における相違点2の判断の誤り)について
(1)本願明細書及び刊行物の記載内容
ア本願発明の内容
証拠(甲3)によれば,本願明細書には次の記載がある。
「発明の属する技術分野】【
本発明は,端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータ
を,必要に応じて読出位置が異なる複数のデータとして記憶手段から読み出して,複数の端末
に送信する情報供給方法と情報供給システム,及び,端末に一連に供給するべき映像情報又は
音声情報の一つに対応する一連のデータを,必要に応じて読出位置が異なる複数のデータとし
(段落【0001)て記憶手段から読み出す情報読出装置に関する。」】
「従来の技術】【
端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,必要に
応じて読出位置が異なる複数のデータとして記憶手段から読み出して,複数の端末に送信する
技術として,例えば特開平5−167544号公報に記載されているように,記憶手段として
の半導体メモリに所定の映像情報に対応する一連のデータ全部を予め書き込んでおき,必要に
応じて読出位置が異なる複数のデータとしてその半導体メモリから読み出して,複数の端末に
(段落【0002)送信する技術が提案されている。」】
「発明が解決しようとする課題】【
上記従来技術によれば,所定の情報に対応する一連のデータ全部を記憶手段に予め書き込ん
でおいてから,必要に応じて読出位置が異なる複数のデータとしてその記憶手段から読み出す
ので,記憶手段に予め書き込まれていない情報に対応する一連のデータについては,その一連
のデータ全部の記憶手段への書き込みが終了するまでの間は,必要に応じて読出位置が異なる
複数のデータとして記憶手段から読み出して,複数の端末に迅速に送信できない欠点がある。
また,複数のサービス地域毎に情報供給手段を設けてある場合,各情報供給手段毎に,各種
(段落【0003)の情報のデータを記憶手段に書き込んでおく必要がある。」】
「特に,半導体メモリに比べてアクセス速度が低速の光ディスク等の大容量記憶手段に記録
されている一連のデータ全部を読み出して記憶手段に書き込むような場合は,その一連のデー
タ全部の大容量記憶手段からの読み出しに比較的長い時間を要するので,上記欠点が一層顕著
になっている。
そこで,必要に応じて読出位置が異なる複数のデータとして記憶手段から読み出して,複数
の端末に迅速に送信できるように,各種の情報毎に,その情報に対応する一連のデータ全部を
(段落【00記憶手段に予め書き込んでおくと,多数の記憶手段を必要とする欠点がある。」
04)】
「また,端末からの送信要求があるとその送信要求に応じた情報に対応する一連のデータを
読み出して送信する場合に,送信要求に応じて読出位置が異なる複数のデータとして記憶手段
から読み出して,複数の端末に迅速に送信できるように,送信要求の有無にかかわらず,各種
の情報毎に,その情報に対応する一連のデータ全部を記憶手段に予め書き込んでおくと,多数
の記憶手段を必要とするだけでなく,その書き込んだ一連のデータについての送信要求が長時
間に亘って一度もない場合があるので,それらの記憶手段を有効活用できない欠点があり,記
憶手段の有効活用を図るべく,記憶手段に既に書き込まれている一連のデータを必要に応じて
別の情報に対応する一連のデータに書き換えるようにすると,書き換えるべき情報を予め的確
に選択して,送信要求に応じて迅速に送信できるようにその情報に対応する一連のデータ全部
をタイミング良く書き換えなければならない等,記憶手段に書き込むべき一連のデータの管理
(段落【0005)が煩雑化する欠点がある。」】
「また,所定の情報に対応する一連のデータ全部を記憶手段に予め書き込んでから,必要に
応じて読出位置が異なる複数のデータとしてその記憶手段から読み出すので,動画情報のよう
なデータ量の多い情報ほど記憶容量の大きい記憶手段を設けなければ,必要に応じて読出位置
(段落【0006)が異なる複数のデータとして記憶手段から読み出せない欠点がある。」】
「また,スポーツ実況やコンサート実況,ニュース等の放送局から送信される情報に対応す
る一連のデータは,その一連のデータの記憶手段への書き込みが終了するまでの間は,必要に
応じて読出位置が異なる複数のデータとして記憶手段から読み出すことができないので,複数
(段落【0007)の端末に迅速に送信できない欠点がある。」】
「請求項5記載の情報供給システムの特徴構成は,一つのデータ入力部に入力されたデータ
を書込可能な書込領域を備えた記憶手段を設け,前記一つのデータ入力部に入力された端末に
一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に
端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えなが
ら,その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている
書込領域中の指定された複数位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数
(段落【0021)の端末に送信する点にある。」】
「つまり,記憶手段に書き込まれていない端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報
の一つに対応する一連のデータを,そのデータ全部を記憶手段に書き込み終えるまで待つこと
なく,記憶手段の書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶
されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている記憶データを,必要に応じて
その記憶データが書き込まれている書込領域中の指定された複数位置の各々から端末への送信
(段落【0022)用のデータとして読み出して,複数の端末に送信できる。」】
「従って,多数の記憶手段を必要とすることなく,記憶手段に書き込まれていない端末に一
連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,その一連のデータ
全部を記憶手段に書き込み終えるまで待つことなく,必要に応じて記憶手段に端末への送信用
のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その記憶デー
タを,端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する読出位置が異なる複
,。数の端末への送信用のデータとして記憶手段から読み出して複数の端末に迅速に送信できる
しかも,端末に一連に供給するべき映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータ全
部を記憶手段に予め書き込んでおくことを要しないので,記憶手段に書き込むべきデータの管
(段落【0023)理が煩雑化することなく,記憶手段の有効活用を図ることができる。」】
「発明の実施の形態】【
〔第1実施形態〕
図1は,いわゆるオン・ディマンド・サービス方式により,情報の一例としてのビデオ映像
等の音声を含む映像情報のデータVAを,複数の端末としての情報再生手段を備えた端末装置E
からの送信要求に応じて送信する情報供給システムのブロック図を示し,種々の映像情報の映
像データVAを送出する情報送出装置Aと,その情報送出装置Aから送出された映像データVAを
送信要求に応じて複数の端末装置Eに送信する情報供給装置Bとを備えたセンタ装置Cが,B
−ISDNのようなデジタル交換回線網Fを介して多数の端末装置Eと双方向に通信可能に設
(段落【0041)けられている。」】
「前記情報供給装置Bは,端末装置Eから送信要求データDAが入力されるとその送信要求デ
ータDAに対応する読出映像データVDmを読み出してその端末装置Eに送信するもので,書換え
可能な記憶手段としての情報蓄積メモリ(半導体メモリ)2に送信要求データDAに対応する所
定の書込映像データVBを書き込みながら,複数の端末装置Eからの送信要求データDAに応じて
読出位置が異なる複数の読出映像データVDm(m=1∼62,以下同じ)をその情報蓄積メモリ
2から読み出し可能な読出手段としての情報読出装置B3の複数と,情報読出装置B3の各々をデ
ジタル交換回線網F及び他の情報読出装置B3に接続する通信制御装置B4と,各情報読出装置B3
と通信制御装置B4の作動を制御する供給制御部B1と,情報読出装置B3に既に書き込まれている
特定の映像情報について多数の送信要求が予想される場合等に,その映像情報のタイトルとそ
の再書き込みとを指示する再書込要求データDCを必要に応じて供給制御部B1に入力可能なキー
(段落【0043)ボード等を備えた制御データ入力装置B5とが設けられている。」】
「前記供給制御部B1には,端末装置E毎の作動データと情報読出装置B3毎の作動データ及び
制御データ入力装置B5又は情報読出装置B3から入力された再書込要求データDCを供給制御デー
タとして記憶する供給制御データ記憶部B2が設けられ,供給制御部B1は,この供給データ記憶
部B2に記憶されている供給制御データに基づいて,必要な映像データが読み出されるように各
情報読出装置B3の作動を制御するとともに,情報読出装置B3の各々で読み出した読出映像デー
タVDn(n=1∼63,以下同じ)をシリアルのデジタル映像信号に変換して,そのうちの読出
映像データVDmが送信映像データVEとして送信要求データDAに応じて複数の端末装置Eに送信
され,かつ,読出映像データVD63が再書込映像データとして所定の情報読出装置B3に送信され
るように通信制御装置B4の作動を制御する。
従って,この供給制御部B1が,情報読出装置B3で読み出した複数の読出映像データVDmが複
数の端末装置Eからの送信要求データDAに応じてそれら複数の端末装置Eに送信されるように
(段落【0044)制御可能な供給制御手段に構成されている。」】
「前記情報読出装置B3の各々には,情報送出装置Aから送出される映像データVA又は別の情
報読出装置B3から送信される再書込映像データVD63を書込映像データVBとして選択する選択ス
イッチ4と,その選択スイッチ4で選択された書込映像データVBが書き込まれる情報蓄積メモ
リ2と,その情報蓄積メモリ2の書込・読出動作を制御するメモリ制御部1とが設けられ,メ
段モリ制御部1には読出制御データを記憶する読出制御データ記憶部1aが設けられている,。」(
落【0045)】
「前記メモリ制御部1は,選択スイッチ4で選択された書込映像データVBを情報蓄積メモリ
2に書込みながら,その情報蓄積メモリ2に記憶されている記憶映像データVCが,複数の端末
装置Eからの送信要求データDAに応じた読出位置が異なる複数の読出映像データVDnとして時
分割で読み出されるように情報蓄積メモリ2の書込・読出動作を制御可能に構成され,情報蓄
積メモリ2に書き込まれていない情報について,その情報の送出を要求する送出要求データDE
をその情報読出装置B3の識別データとともに必要に応じて情報送出装置Aに送信できるように
(段落【0046)設けられている。」】
「以下の説明において,図4∼図6で概念的に示すように,一つのタイトルの書込映像デー
タVBの全部のデータ量を,その映像データの全部を送信するに要する時間TAとして表現し,情
報蓄積メモリ2(2a,2b,2c)のM0番地からME番地までの書込領域ARの書込容量を,その書込領域
ARの全部に書き込まれている映像データを送信するのに要する時間TARとして表現し,現在時
刻TRにおいて情報蓄積メモリ2へ書き込んでいる書込映像データVBの位置である現在書込位置
を,その書込映像データVBの書込開始時刻TSからの経過時間TBとして表現し,現在時刻TRにお
いてタイムスロットnで情報蓄積メモリ2から読出映像データVDnの読み出しを開始する映像
データの位置である読出開始位置を,その書込映像データVBの書込開始時刻TSからその位置の
映像データが情報蓄積メモリ2へ書き込まれる時までの経過時間TCn(n=1∼63以下同じ),
として表現し,現在時刻TRにおいてタイムスロットnで読出映像データVDnを読み出している
位置である現在読出位置を,その書込映像データVBの書込開始時刻TSからその位置の映像デー
タが情報蓄積メモリ2へ書き込まれる時までの経過時間TDn(n=1∼63,以下同じ)として
(段落【0065)表現する。」】
「次に,供給制御部B1による制御動作を,図7∼図11のフローチャートを参照しながら説
明する。
前記供給制御データ記憶部B2は,端末装置E毎の作動データとして「情報供給開始処理」が終
了していない未処理の送信要求データDAと「情報供給終了処理」が終了していない未処理の受
信終了データDBを記憶し,情報読出装置B3毎の作動データとしてその情報蓄積メモリ2の書込
容量TAR,現在書き込まれている映像情報のタイトル,その書込開始時刻TSと書込終了時刻TE
及び読出映像データVDnを読出中の読出タイムスロットnとその読出映像データVDnを受信し
ている端末装置E及び情報読出装置B3を記憶し,更に「再書込開始処理」が終了していない,
未処理の再書込要求データDCと「再書込データ読出終了処理」が終了していない未処理の再書
(段落【0067)込終了データDDを記憶するように構成されている。」】
「そして,図7のフローチャートに示すように,起動電源を入力してから最初の送信要求デ
ータFDAが端末装置Eから入力されると制御動作を開始し(#1),供給データ記憶部B2に記憶さ
れている未処理の送信要求データDAと未処理の受信終了データDBと未処理の再書込要求データ
(【】)DCと未処理の再書込終了データDDを処理対象データとして読み出す(#2)。」段落0068
「次に,処理対象データ中の未処理の送信要求データDAの有無を判別して(#3),有りの場合
は,送信を要求する情報のタイトルとその送信開始位置が同じ送信要求データDA毎に,その送
信要求データDAを入力した端末装置Eに要求されている映像情報を同報送信する「情報供給開
始処理」を実行し(#4),無しの場合又は処理対象データ中の未処理の送信要求データDAが無く
なった場合は,処理対象データ中の未処理の再書込要求データDCの有無を判別して(#5),有り
の場合はその再書込要求データDC毎に「再書込開始処理」を実行し(#6),無しの場合又は処理
対象データ中の未処理の再書込要求データDCが無くなった場合は,処理対象データ中の未処理
の受信終了データDBの有無を判別して(#7),有りの場合はその受信終了データDB毎に「情報供
給終了処理」を実行し(#8),無しの場合又は処理対象データ中の未処理の受信終了データDBが
無くなった場合は,処理対象データ中の未処理の再書込終了データDDの有無を判別して(#9),
有りの場合はその再書込終了データDD毎に「再書込データ読出終了処理」を実行し(#10),無
しの場合又は処理対象データ中の未処理の再書込終了データDDが無くなった場合は,新たに供
給制御データ記憶部B2に記憶された処理対象データについて,ステップ#2∼#10の制御動作を
(段落【0069)繰り返す。」】
「前記「情報供給開始処理」では,図8のフローチャートに示すように,要求されているタ
イトルの映像情報が書き込まれている情報読出装置B3の有無を判別し(#21),その映像情報が
書き込まれている情報読出装置B3が有る場合は,要求されている送信開始位置がその情報読出
装置B3の現在読出可能な範囲内にあるか否かを判別する(#22)。
この判別は,その映像情報が書き込まれている情報読出装置B3が複数ある場合はその一つずつ
について実行し,書込開始時刻TSと現在時刻TRから,要求されている送信開始位置,つまり,
読出開始位置TCnがその情報蓄積メモリ2から読出可能な範囲内にある否かを判別するもの
,,,でTR−TS≦TAで書込映像データVBを現在書き込み途中である場合はその読出可能な範囲を
図4に示すようにTA≦TARのとき,及び,図5(a),(b),(c)に示すようにTR−TS≦TARのとき
は0≦TCn≦TBとして,また,図5(d)に示すようにTAR<TR−TSのときはTB−TAR≦TCn≦
TBとして判別し,TA<TR−TSで書込映像データVBの書き込みが終了している場合は,その読出
可能な範囲を,図4に示すようにTA≦TARのときは0≦TCn≦TAとして,また,図5に示すよ
(段落【0071)うにTAR<TAのときはTA−TAR≦TCn≦TAとして判別する。」】
「従って,図4(a)に示すように,書込容量TARが書込映像データVBの全部のデータ量TAよ
りも大きい情報蓄積メモリ2にその書込映像データVBの書き込みを開始した場合は,図4(b)
に示すように,その書込映像データVBを書き込みながら,その情報蓄積メモリ2に既に書き込
んだ記憶映像データVCから,読出開始位置TCnが異なる複数の読出映像データVDnを読み出す
ことができ,図4(c)に示すようにその書込映像データVBの書き込みが終了すると,任意の読
(【】)出開始位置TCnから複数の読出映像データVDnを読み出すことができる。」段落0089
「図1】【
【図4】

イ刊行物1の内容
証拠(甲1)によれば,刊行物1には次の記載がある。
「特許請求の範囲】【
【請求項1】受信者からの要求に応じたデータを所定の伝送路を介して伝送するデータ伝送装
置において,
所定の記録媒体上にデータを記録し再生する記録再生手段を有し,受信者からの要求に応じ
て上記記録媒体上の記録データを読み出す際,複数の受信者の要求を複数のタイムスロツトの
各タイムスロツトに振り分け,各タイムスロツト毎に,上記記録媒体の異なる記録領域から記
録データを読み出すことにより,複数の受信者の要求に応じた複数のデータを生成するデータ
送出部を具えることを特徴とするデータ伝送装置」。
「産業上の利用分野】本発明はデータ伝送装置に関し,例えば受信者の要求に応じた映像【
(【】)データを伝送する伝送するデータ伝送装置に適用して好適なものである。」段落0002
「発明が解決しようとする課題】ところで,CATVにおいては,上述したようにVTR【
から再生した番組情報を複数の受信者に対して提供するようになされているため,受信者の希
望する時間に受信者の希望する番組を供給することができなく,この結果受信者の要求を満た
す点で未だ不十分な問題があつた。例えば受信者が希望の番組を選択したとしても,この番組
は受信者の要求にかかかわらず複数の受信者を対象として一方的に提供されていることによ
(段落【0004)り,受信者はこの番組を先頭から見れない不便さがあつた。」】
「かかる課題を解決する一つの方法として,受信者数と同数のVTR及びビデオテープを用
いて,受信者からの要求に応じて受信者の希望する時間に希望する番組情報を提供することが
考えられるが,この方法においては,装置が大型化すると共に,大きなオペレーシヨンコスト
(段落【0005)がかかる問題があつた。」】
「また大規模なデイスクアレイと高性能ワークステイシヨンを組み合わせることにより,受
信者の要求に応じた番組情報を提供することも考えられるが,この方法においても構成が非常
に複雑になる問題があつた。またこの方法においては,多数の受信者の要求に即時に応答しか
つ一定の伝送レートを確保するためには記憶装置及びワークステーシヨンに大きなマージンが
必要となると共に,同時刻に受信できる受信者数の制限を無くすためには大きなコスト的な負
(段落【0006)担が必要となる問題があつた。」】
「本発明は以上の点を考慮してなされたもので,比較的簡易な構成により,各受信者の希望
に応じた番組情報を提供することができるデータ伝送装置を提案しようとするものである」。
(段落【0007)】
「図1において,1は全体としてデータ伝送装置を示し,電話回線LINより受信者から送
られてくる受信要求に応じて映画番組等の所望の番組情報を各受信者に提供し得るようになさ
れている。データ伝送装置1は,番組ライブラリ2から得られる番組情報SR1,SR2,……,
SR(k-1),SRkをスイツチヤ3を介して第1の送出部群4を構成する複数の送出部4A1,4
(段落【0020)A2,……,4AL-1,4ALに選択的に供給する。」】
「各送出部4A1∼4ALは,1つの入力チヤンネルと(n+1)個の出力チヤンネルを有
する。また各送出部4A1∼4ALは大容量の記憶装置を有し,入力した番組情報を一旦記憶
装置に記憶し,これを番組送出制御部6からの制御信号S3に基づいて読み出して出力するよ
うになされている。送出部4A1∼4ALの(n+1)個の出力チヤンネルのうちn個は受信
者用に割り当てられていると共に,残り1個の出力チヤンネルはスイツチヤ7に接続されてい
(段落【0022)る。」】
「送出部4A1∼4ALから受信者用に出力された番組情報は,フオーマツタ8A1∼8A
Lにより,受信者に対応したID情報(識別情報)が付加されると共に続くデータ交換機9の
入力フオーマツトに適合したフオーマツトに変換された後,データ交換機9及び電話回線LI
Nを介して各受信者に提供される。これによりデータ伝送装置1においては,例えば送出部4
A1からは内容の同じ番組情報をn人の受信者に提供することができると共に,例えば送出部
4ALからは送出部4A1の番組情報と内容の異なる番組情報をn人の受信者に提供し得るよ
(段落【0023)うになされている。」】
「実施例の場合,記録媒体としては例えば映画1本分の番組情報を記録可能な光磁気デイス
クが用いられており,記録再生部23としてはこの光磁気デイスクに番組情報を記録すること
ができると共に高速再生が可能なデイスク記録再生装置が用いられている。この結果記録再生
部23は,受信者からの要求に応じて記録媒体の所望の記録領域に高速でアクセスして所望の
(段落【0030)情報を高速再生し得るようになされている。」】
「記録再生部23から読み出された番組情報は,バツフアメモリ21によつて時間軸方向に
伸長されて所定の伝送レートに引き下げられた後,出力インターフエース24を介して複数の
受信者(n人以内)に送出される。因に記録再生部23による番組情報の書込み動作及び読出
段落0し動作はROM25及びRAM27を用いてCPU26によつて制御される,,。」(【
031)】
「記録再生部23は,記録媒体に既に番組情報が記録されている場合には,図4に示すよう
に,単位時間(実施例の場合1秒)をn個のタイムスロツトに分割し,各タイムスロツトを各
受信者に振り分け,各タイムスロツト毎に,記録媒体の異なる位置に高速でアクセスすると共
にこの位置の記録データを高速で読み出すことより,複数の受信者に対して同一の番組情報を
(段落【0032)時間差をもつて提供し得るようになされている。」】
「この結果データ伝送装置1においては,番組情報を各受信者に先頭から提供することがで
きる。すなわち記録再生部23は,単位時間をT〔秒〕とすると,T/n〔秒〕で,記録媒体
の所望の領域に高速でアクセスすると共に1人の受信者のT〔秒〕分のデータを高速で再生す
(段落【0033)る。」】
「また記録再生部23は,記録媒体に番組ライブラリ2からの番組情報又は別の送出部4A
1∼4AL,10A1∼10Amからの番組情報を記録しながら,時間差のある番組情報を各
受信者に送出することもできるようになされている。この場合記録再生部23は,図5に示す
ように,単位時間をn個のタイムスロツトに分割し,このうち(n−1)個のタイムスロツト
で記録データを読み出すと共に,残りの1つのタイムスロツトで番組ライブラリ2又は別の送
(【】)出部4A1∼4AL10A1∼10Amからの番組情報を記録する,。」段落0034
「(),(),ここで単位時間をT秒記録再生部23の記録媒体への最大アクセス時間をta秒
記録再生部のデータ書込み及びデータ読出しレートをr(バイト/秒,単位時間T内に受信)
者に送出するデータ量をd(バイト)とすると,各送出部4A1∼4AL又は10A1∼10
Amのタイムスロツト数Sは,次式,
【数1】

(段落【0035)】
「ここでデータ伝送装置1のスケジュール管理部12は,図6に示すような処理手順を実行
することにより,データ伝送装置1全体を制御する。すなわちスケジュール管理部12は,ス
テツプSP0から入つて,ステツプSP1においてデータ交換機9から受信者からの番組要求
を示す受信信号S5を入力すると,続くステツプSP2においてステツプSP1において要求
された番組が第1の送出部群4のいずれかの送出部4A1∼4AL−1又は4ALにあるか否
(段落【0038)かを判断する。」】
「以上の構成において,データ伝送装置1は第1の受信者からの番組要求があると,先ず送
出部4A1∼4AL又は10A1∼10Amにこの番組があるか否かを判断し,いずれかの送
出部4A1∼4AL又は10A1∼10Amに要求番組があつた場合には,この送出部4A1
(段落【0∼4AL又は10A1∼10Amの空きタイムスロツトに受信者を割り当てる。」
051)】
「これに対して,どの送出部4A1∼4AL又は10A1∼10Amにも要求番組が無い場
合には,番組ライブラリ2から空き状態の送出部4A1∼4AL又は10A1∼10Amに要
求番組を転送してコピーしながら,この送出部4A1∼4AL又は10A1∼10Amから要
(段落【0052)求番組を第1の受信者に送出する。」】
「またデータ伝送装置1においては,第1の受信者と時間差をもつて第2の受信者から同じ
番組に対する要求があると,当該第2の受信者を,第1の受信者を割り当てた送出部4A1∼
4AL又は10A1∼10Amの別のタイムスロツトに割り当てる。このときデータ伝送装置
1においては,各タイムスロツト毎に,番組要求があつた時間に応じた記録位置に高速でアク
セスし記録データを高速で読み出す。この結果データ伝送装置1は,複数の受信者に対して,
(段落【0053)要求時間に応じた時間差のある番組情報を提供することができる。」】
「以上の構成によれば,送出部4A1∼4AL又は10A1∼10Amに一旦番組情報を記
録すると共に,当該番組情報を読み出す際,受信者からの要求を複数のタイムスロツトの各タ
イムスロツトに振り分け,各タイムスロツト毎に,記録媒体の異なる記録領域に高速アクセス
しかつ高速で記録データを読み出すようにしたことにより,各受信者から時間差のある番組要
求があつた場合でも,この時間差に応じた番組情報を各受信者に提供し得るデータ伝送装置1
(段落【0056)を実現できる。」】
「さらに上述の実施例においては,各受信者に割り当てられたタイムスロツト毎に,受信者
の要求時間に応じた位置から記録データを読み出すことにより,全ての受信者に対して番組情
報を先頭から提供する場合について述べたが,本発明はこれに限らず,受信者から途中から番
組情報を見たい要求があつた場合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希
(段落【0062)望に応じた位置から番組情報を提供することができる。」】
「発明の効果】上述のように本発明によれば,所定の記録媒体上にデータを記録し再生す【
る記録再生手段を有し,受信者からの要求に応じて記録媒体上の記録データを読み出す際,複
数の受信者の要求を複数のタイムスロツトの各タイムスロツトに振り分け,各タイムスロツト
毎に,記録媒体の異なる記録領域から記録データを読み出すことにより,複数の受信者の要求
に応じた複数のデータを生成するデータ送出部を設けたことにより,比較的簡易な構成により
(段各受信者の希望に応じた番組情報を提供することができるデータ伝送装置を実現できる。」
落【0065)】
「図1】【
【図3】
【図5】

(2)上記(1)イの記載によれば,引用発明は,受信者の要求に応じた映像データ
を伝送するデータ伝送装置において,比較的簡易な構成により,受信者からの要求
に応じて受信者の希望する時間に希望する番組情報を提供することを課題とし,そ
の解決手段として,引用発明におけるデータ伝送装置では,受信者からの要求に応
じた番組情報を,一旦「記憶再生部23」の記録媒体に記録し,番組情報を読み出
す際,複数の受信者からの要求を複数のタイムスロットの各タイムスロットに振り
分け,各タイムスロットごとに,記録媒体の異なる記録領域から記録データを読み
出すデータ送出部を備え,複数の受信者に対して同一の番組情報を時間差をもって
提供することができ,また,記録媒体に番組ライブラリからの番組情報を記録しな
がら,時間差のある番組情報を各受信者に送出することができるようにしたものと
認められる。そして,引用発明において特定の番組について複数の受信者から要求
,,,がある場合データ伝送装置は第1の受信者からこの番組について要求があると
まず送出部にこの要求番組があるか否かを判断し,送出部に要求番組があった場合
,(【】),には送出部の空きタイムスロットに受信者を割り当て段落0051参照
一方,送出部に要求番組がない場合には,番組ライブラリから送出部に要求番組を
転送してコピー(記録)しながら,要求番組を第1の受信者に送出し(段落【00
52】参照,さらに第1の受信者と時間差をもって第2の受信者から同じ番組に)
ついて要求があると,第2の受信者を,送出部の別のタイムスロットに割り当て,
各タイムスロットごとに,番組要求があった時間に応じた記録位置に高速でアクセ
スして記録データを高速で読み出すことにより,複数の受信者に対して,要求時間
に応じた時間差のある番組情報を提供するものであり(段落【0053】参照,)
さらに,受信者から途中から番組情報を見たいという要求があった場合には,これ
に応じて読出位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供
することができること(段落【0062】参照)が開示されていると理解すること
ができる。
そうすると,引用発明では,送出部に要求番組がない場合には,番組ライブラリ
から送出部に要求番組を転送してコピーしながら,それを第1の受信者に送出する
のであるから,要求番組をコピーし始めた当初においては,要求番組の先頭部分し
かコピーされていないことになり,この状態において,第2の受信者から同じ番組
に対して,途中から番組情報を見たいという要求,特に番組の後半の部分を見たい
というような要求があった場合には,その要求には応えられず,結局,第2の受信
者から同じ番組に対して途中から番組情報を見たいという要求があったとしても,
要求番組のコピー済みの部分からしか提供できないことは明らかであり,このコピ
ー済みの部分が,コピー開始からの経過時間に応じて徐々に増加していくことも明
らかである。
したがって,引用発明において,読出開始位置が「一連のデータの書込領域へ,
の書込開始からの経過時間に応じて設定される読出可能な範囲内」となることは,
刊行物1の記載から自明な事項であって,訂正発明5は,引用発明及び刊行物1に
記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした
審決の判断に誤りはない。
(3)この点について,原告は,前記第3の1のとおり,引用発明のデータ伝送
装置の「記録再生部」は,番組情報の読出開始位置について,その読出開始位置が
番組情報のうちの「記録済みの部分(コピー済みの部分」が記録されている範囲)
,,内の位置であるのか否かを判断することなく番組情報を記録媒体に記録しながら
時間差のある番組情報を先頭から読み出して各受信者に送出するものであるとの認
定を前提として,選択された読出位置(読出開始位置)が「記録済みの部分(コピ
ー済みの部分」が記録されている範囲内の位置ではないときには,受信者が要求)
している番組情報とは異なる別の情報が,受信者が要求している番組情報が上書き
される前の記録領域から読み出されて受信者に提供されるとし,段落【0062】
に記載されているように「受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場,
合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から
番組情報を提供すること」ができるデータ伝送装置は,刊行物1に記載されている
データ伝送装置のうちの「一旦記憶装置に記憶した番組情報を読み出す記録再生,
部」を備えたデータ伝送装置においてのみ実施可能に開示されているにすぎないか
ら,引用発明は,訂正発明5が解決しようとする技術的課題と同様の技術的課題を
有しており,また,選択した読出位置(読出開始位置)を「一連のデータの書込領
域への書込開始からの経過時間に応じて設定される読出可能な範囲内」の位置にす
るという示唆もないなどと縷々主張する。
しかしながら,上記(2)で認定したとおり,引用発明のデータ伝送装置は,番組
,,,情報を提供するに当たって送出部に要求された番組があるか否かを判断しまた
番組要求があった時間に応じた記録位置に高速でアクセスし記録データを高速で読
み出すものであるから,技術常識からして,当然,記憶装置に記録された番組情報
及び記録位置の管理を行っているということができる。
そして,引用発明は,受信者からの要求に応じて受信者の希望する時間に希望す
る番組情報を提供するものであるから,記録媒体に既に記録されている番組情報を
提供する場合と同様に,番組情報を記録媒体に記録しながら,番組情報を途中から
,,提供する場合においても記憶装置に記録された番組情報及び記録位置に基づいて
要求された番組情報があるか否かを判断し,要求番組の要求に応じた記録位置にア
クセスし記録データを読み出すものであることは明らかであり,その際,アクセス
する位置が,要求番組の記録済み部分の範囲内の位置であるか否かを判断している
ことは,当然のことと認められる。
この点に関して,原告は,受信者からの「途中から番組情報を見たい要求」に応
じて読出位置を選択すれば,選択された読出位置が「記録済みの部分(コピー済み
の部分」の範囲内の位置ではないときには,受信者が要求している番組情報とは)
異なる別の情報が,受信者が要求している番組情報が上書きされる前の記録領域か
ら読み出されて受信者に提供されることになると主張するが,引用発明は,もとも
と受信者が要求している番組情報を提供するものであるし,また,刊行物1には,
受信者が要求している番組情報以外の情報を読み出す構成は何ら記載されていない
のであるから,引用発明が,受信者が希望している番組情報以外の情報を読み出す
ことを前提とした原告の主張に理由がないことは明らかである。
,,「()」,なお上記原告の主張は番組情報を一旦記憶装置に記録記憶するとは
番組情報の全データ(例えば映画1本分の番組情報全体)を記録することであり,
部分的に記録された記録途中の番組情報は「一旦記憶装置に記録(記憶)した番,
組情報」ではないとの解釈を前提とするものと解されるが,前記のとおり,引用発
明は,受信者からの要求に応じた番組情報を一旦記憶装置に記録し,受信者からの
要求に応じて記録データを読み出す構成をとったことにより,複数の受信者に対し
て同一の番組情報を時間差をもって提供することができるようにしたものであり,
番組情報を記録しながら番組情報を提供する場合においても「一旦記憶装置に記,
」,,録しているのであるからこのように部分的に記録された記録途中の番組情報も
「一旦記憶装置に記録(記憶)した番組情報」にほかならないというべきであるか
ら,原告の主張は,誤った解釈に基づくものといわざるを得ない。
また,前記のとおり,引用発明は,番組情報を記録媒体に記録しながら,受信者
の希望に応じた位置から番組情報を提供する場合,記憶装置に記録された番組情報
及び記録位置に基づいて,要求された番組情報があるか否かを判断し,要求番組の
要求に応じた記録位置にアクセスし記録データを読み出すものであり,アクセスす
る位置が,要求番組の記録済み部分の範囲内の位置であるか否かを判断していると
認められるところ,ここで,記憶装置に記録されるデータ量が,記録媒体へのアク
セス時間とデータ書込みレートにより決定されることは,前記1(1)イの段落【0
035】に示唆されているように技術常識であることから,1本の番組情報を記録
媒体に記録しながら番組情報を提供する場合,記録済み(コピー済み)の部分のデ
ータ量は,記録を開始した時点からの経過時間に応じて定まり,記録媒体から提供
可能な番組情報の位置が「一連のデータの書込領域への書込開始からの経過時間,
に応じて設定される読出可能な範囲内」となることは,必然であるというべきであ
る。
したがって,引用発明において,上記のとおり,希望する番組情報の希望に応じ
た位置のデータが記憶装置に記録されている場合に,その記録位置から番組情報を
提供するものである以上,選択した読出位置(読出開始位置)を「一連のデータの
書込領域への書込開始からの経過時間に応じて設定される読出可能な範囲内」の位
置にするということは示唆されているというべきである。
以上のとおり,上記原告の主張は,いずれも失当である。
2取消事由2(訂正発明6ないし8の判断の誤り)について
訂正発明6は,訂正発明5において,一連のデータを書き加えながら,読出位置
が異なる複数の映像データとして読み出すために,書込み用のタイムスロットと読
出し用のタイムスロットの複数とを時分割で周期的に設け,入力されたデータを書
込領域に書き込む動作と,書込領域に書き込まれているデータを読み出す動作を周
期的に繰り返す構成としたものである。
訂正発明7は,訂正発明5又は訂正発明6における記憶手段を限定したものであ
る。
訂正発明8は,訂正発明5ないし7において,一連のデータを書き加えながら,
読出位置が異なる複数の映像データとして読み出すために,複数の中継用情報供給
手段を設けたものである。
そして,上記訂正発明6ないし8について原告が主張する取消事由は,いずれも
取消事由1と同様の理由によって審決の判断は誤りであるというものであるとこ
,,,,ろ上記1において認定したとおり取消事由1は理由がないのであるから結局
訂正発明6ないし8についても同様に理由がない。
したがって,訂正発明6ないし8について,特許法29条2項の規定により,特
許出願の際独立して特許を受けることができないとした審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(訂正発明1ないし4の判断の誤り)について
訂正発明1ないし4は,それぞれ訂正発明5ないし8を「情報供給方法」として
特定した発明である。
そして,上記訂正発明1ないし4について原告が主張する取消事由は,いずれも
,,取消事由1と同様の理由により審決の判断は誤りであるというものであるところ
前記1において認定したとおり,取消事由1は理由がなく,さらに,上記2のとお
り,訂正発明6ないし8についても理由がないのであるから,結局,訂正発明1な
いし4についても同様に理由がない。
したがって,訂正発明1ないし4について,特許法29条2項の規定により,特
許出願の際独立して特許を受けることができないとした審決の判断に誤りはない。
4取消事由4(訂正発明9ないし11の判断の誤り)について
訂正発明9ないし11は,それぞれ訂正発明5ないし7を「情報読出装置」とし
て特定した発明である。
そして,上記訂正発明9ないし11について原告が主張する取消事由は,いずれ
も取消事由1と同様の理由により,審決の判断は誤りであるというものであるとこ
ろ,前記1において認定したとおり,取消事由1は理由がなく,さらに,前記2の
とおり,訂正発明6及び7についても理由がないのであるから,結局,訂正発明9
ないし11についても同様に理由がない。
したがって,訂正発明9ないし11について,特許法29条2項の規定により,
特許出願の際独立して特許を受けることができないとした審決の判断に誤りはな
い。
5取消事由5(当審の見解]の誤り)について[
引用発明のデータ伝送装置は,前記1(2)のとおり,番組情報を記録媒体に記録
しながら,時間差のある番組情報を各受信者に送出することができ,また,受信者
から途中から番組情報を見たい要求があった場合には,これに応じて読出位置を選
択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することができるデー
タ伝送装置であることから,番組情報を記録媒体に記録しながら,受信者の希望に
応じた位置から番組情報を提供することができ,希望に応じた位置,すなわち読出
開始位置が「一連のデータの書込領域への書込開始からの経過時間に応じて設定,
される読出可能な範囲内」であることは,前記1(3)のとおり,技術常識から必然
的に導き出される事項である。
,,,そうすると引用発明のデータ伝送装置は番組情報を記録媒体に記録しながら
各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供する場合,記録媒体には「コピ,
ーし始めた当初においては,番組の先頭部分しかコピーされていないこと,及び」
「コピー済みの部分は,コピー開始からの経過時間に応じて増加していく」もので
あることは明らかであり,また,この結果「番組の先頭部分しかコピーされてい,
ない状態において,途中から番組情報を見たい要求があった場合には,その要求に
応えられないこと,及び「同じ番組に対して途中から番組情報を見たい要求があ」
ったとしても,コピー済みの部分からしか提供できないこと」も明らかである。
したがって,審決において「明らかである」とした事項は,いずれも刊行物1。
に記載された事項,又は刊行物1に記載された事項から必然的に導き出される事項
に基づくものであり,事後分析的であるとはいえない。したがって,この点に関す
る原告の主張はいずれも失当である。
6結論
以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の
請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛