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平成22年8月19日判決言渡
平成21年(行ケ)第10342号審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日平成22年6月8日
判決
原告武蔵エンジニアリング株式会社
同訴訟代理人弁理士須藤阿佐子
同須藤晃伸
同訴訟復代理人弁理士佐藤勉
被告特許庁長官
同指定代理人金澤俊郎
同鈴木貴雄
同黒瀬雅一
同深澤幹朗
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−13838号事件について平成21年9月15日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は原告が名称を液体微量吐出用ノズルユニットとする発明以下本,,「」(「
願発明」という)につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを。
不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを
求めた事案である。
争点は,本願発明が,特開平11−40054号公報(甲1。以下「引用文献」
ということもある)に記載された発明(以下「引用発明」という)及び周知技術。。
から容易に想到することができるか否かである。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成13年11月16日,本願発明につき出願した(特願2001−3
51755号。甲9)ところ,平成18年12月22日付けで拒絶理由通知(甲1
0)を受け,平成19年2月26日付けで補正をした(甲12)が,同年4月10
日付けで拒絶査定を受けた(甲13。)
原告は,同年5月14日,上記拒絶査定に対する不服審判請求をした(甲14)
ところ,特許庁は,上記審判請求を不服2007−13838号事件として審理し
た。
原告は,同年6月13日付けで補正をした(甲15,16)ところ,平成21年
2月12日付けで書面による審尋が行われ(甲17,原告は,同年4月20日付)
け回答書(甲18)を提出したが,同年5月14日付けで,平成19年6月13日
付けの手続補正を却下する旨の決定(甲19)を受け,さらに,平成21年5月2
9日付けで拒絶理由通知甲20を受け同年8月3日付けで手続補正をした甲(),(
),,「,。」,22が同年9月15日本件審判の請求は成り立たないとの審決がされ
その謄本は,同年10月1日,原告に送達された。
2本願発明の内容
本願発明は,平成21年8月3日付けの手続補正により補正された明細書の特許
請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「後端に形成された挿入面(14)と,挿入面(14)に設けられた流体流入口
と,先端に形成された流体吐出口と,流体流入口および流体吐出口を連通する流路
(15)とを具え,主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料で作成したノ
ズルと,
最奥部に段部(27)が設けられたノズル挿入孔(26)が形成された金属材料
,,製ノズルホルダーとを含んで構成された流体微量吐出用ノズルユニットであって
前記ノズルを,その上半部を前記流路(15)の径と比べ数倍以上大径の肉厚円
筒形とし,その下半部を先細り形状とし,かつ,上半部の上下方向の長さが下半部
の上下方向の長さよりも長くなるように形成したこと,
前記ノズル挿入孔(26)に前記挿入面(14)が前記段部(27)に当接する
まで前記ノズルを圧入することにより,少なくとも前記ノズルの上半部の概ね半分
以上を前記ノズル挿入孔(26)に挿入し,かつ,前記ノズルの下半部全体が前記
ノズルホルダーから外界に露出するように前記ノズルの位置を規定したことを特徴
とする流体微量吐出用ノズルユニット」。
なお,請求項2は「主たる鉱物相がルビーからなる多結晶性材料である請求項1
の液体微量吐出用ノズルユニット」というものである。。
3審決の内容
審決は,次のとおり,引用発明及び周知技術から本願発明を想到することは容易
であったとして,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることが
できないとした。
(1)引用発明の内容
「ペースト流入口と,先端に形成されたペースト吐出口と,ペースト流入口およびペースト
吐出口を連通する流路とを具え,焼結性ルビーで作成したノズルを含んで構成されたペースト
微量吐出用吐出装置であって,
前記ノズルを,その上半部を円筒形とし,その下半部を先細り形状とし,
前記ノズルの下半部全体が外界に露出するように前記ノズルの位置を規定した,
ペースト微量吐出用吐出装置」。
(2)引用発明と本願発明の一致点及び相違点
ア一致点
「流体流入口と,先端に形成された流体吐出口と,流体流入口および流体吐出口を連通する
流路とを具え,主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶材料で作成したノズルを含んで構成
された流体微量吐出用のノズルを含む装置であって,
前記ノズルを,その上半部を円筒形とし,その下半部を先細り形状とし,
前記ノズルの下半部全体が外界に露出するように前記ノズルの位置を規定した,
流体微量吐出用のノズルを含む装置」。
イ相違点1
「液体微量吐出用のノズルを含む装置』について,本願発明においては『ノズル』と『金『,
属材料製ノズルホルダー』とを含んで『ノズルユニット』を構成しているのに対し,引用発明
においては『金属材料製ノズルホルダー』とを含んで『ノズルユニット』を構成しているか,
どうかが明らかでない点」。
ウ相違点2
「本願発明においては『ノズルを,その上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒,
形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成した』
のに対し,引用発明においては『ノズルを,その上半部を円筒形とし』ているものの,ノズ,
ルの上半部が流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚であるかどうか明らかでなく,また,上半部
の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成したかどうか明らかで
ない点」。
エ相違点3
「本願発明においては『ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを圧入するこ,
とにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズル
』,の下半部全体がノズルホルダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定したのに対し
引用発明においては,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出するようにノズル
の位置を規定してはいるものの,ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを圧入す
,,ることにより少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入したかどうか
明らかでない点」。
(3)容易想到性について
ア相違点1について
「ノズル』と『金属材料製ノズルホルダー』とを含んで『ノズルユニット』を構成する点『
は,流体吐出用ノズルの分野における周知技術(以下『周知技術1』という。たとえば,特,
,【】,開平6−10796号公報の請求項1及び図面特開平6−7707号公報の段落0003
【0025】及び図面,実願昭57−116457号(実開昭59−21084号)のマイク
ロフィルムの実用新案登録請求の範囲及び図面を参照)にすぎない。。
したがって,引用発明において,上記周知技術1を適用し,上記[相違点1]に係る本願発
明のような構成とすることは,当業者が格別困難なく想到し得るものである」。
イ相違点2について
「ノズルを,その上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下『
方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成した』点は,流体吐出用ノズ
ルの分野における周知技術(以下「周知技術2」という。たとえば,特表2000−508,
962号公報(この文献は,平成21年5月14日付け補正の却下の決定において周知例とし
て提示した文献でもある)の図3,特開昭50−44239号公報の第1図ないし第7図,。
実願平2−42384号(実開平4−961号)のマイクロフィルムの第2図等を参照)に。
すぎない。
したがって,引用発明において,上記周知技術2を適用し,上記[相違点2]に係る本願発
明のような構成とすることは,当業者が格別困難なく想到し得るものである」。
ウ相違点3について
「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを圧入することにより,少なくとも『
ノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズル
ホルダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定した』点は,流体吐出用ノズルの分野
における周知技術(以下「周知技術3」という。たとえば,特表2000−508962号,
公報の第10ページ第22行,第23行及び図3,特開昭50−44239号公報の第5ペー
ジ左下欄第9行ないし第20行及び第7図,特表2001−500962号公報(平成13年
1月23日公開)の図2,実願平2−42384号(実開平4−961号)のマイクロフィル
ムの第2図等を参照)にすぎない。。
したがって,引用発明において,上記周知技術3を適用し,上記[相違点3]に係る本願発
明のような構成とすることは,当業者が格別困難なく想到し得るものである」。
(4)作用効果について
「本願発明を全体として検討しても,引用発明及び上記周知技術1ないし3から予測される
以上の格別の効果を奏するとも認められない」。
第3原告主張の要旨
審決は,以下のとおり,本願発明と引用発明の一致点・相違点の認定を誤り,容
易想到性の判断を誤り,その手続に違背があったものである。
1取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)
(1)引用発明のノズルが「多結晶材料」からなると認定したことの誤り
ア審決は「コランダム』は「ルビー」を含む概念であるから,引用発明に,『,
おける『焼結性ルビー』は,本願発明における『主たる鉱物相がコランダムからな
る多結晶材料』に包含される」と認定し,この点を両発明の一致点とした。。
しかし,審決の同認定は,単結晶も含まれることが明らかな引用文献(甲1)の
「ルビーやサファイヤ等の焼結性セラミック」の記載から「焼結性ルビー」を導,
き出し,これを「多結晶材料」に当たると断定する点において失当である。
また「焼結性セラミック」の用語は「焼結性」の用語を含んでなるものである,,
ことから,焼結・成形後のノズルの材料のみならず,焼結・成形前の原料とも解さ
れる極めて多義的な用語である。このような多義的な「ルビーやサファイヤ等の焼
結性セラミック」の用語から「焼結性ルビー」を導き出し「多結晶性のコランダ,,
ム」を選択し,引用発明における「焼結性ルビー」が本願発明における「主たる鉱
物相がコランダムからなる多結晶材料」に包含されるとする認定は,著しく不当な
ものであるといわざるを得ない。
ちなみに,本願発明の液体吐出用ノズルは,原料として多結晶性コランダムが示
され,このコランダム材料にバインダーを添加し,常温若しくは加熱下で混練した
後,混練物を成形,焼成することにより製造することができるものである。
なお,被告の主張は「引用発明のノズルは,その材質が加工性などに優れたル,
ビーやサファイヤ等の焼結性セラミックであるから,多結晶性材料からなることは
当業者にとって自明」というものだが,これは,審決による「コランダム」が「ル
ビー」を含む概念であることのみを根拠とする認定とは整合しない。
また,被告は,焼結性セラミックにバインダー等を混練し,焼結したものは,特
別の工夫を講じた場合には「単結晶」になり,特別の工夫を講じなくとも,例外的
には単結晶となり得ることを認めている。
引用文献における「焼結性セラミック」の記載を通常の意味で理解すれば「焼,
結性」の部分がセラミックの性質をいうものであって「焼結性」とは焼結するこ,
,。,とができる性質であり焼結のみの処理しかできないという性質ではないそして
焼結性の原料から製造される成形品が常に「多結晶」のものだけに限られることは
ない。
なお「加工性に優れた」との記載は,具体的ではなくあいまいであり,直ちに,
「多結晶」という材質にのみ起因すると結論付けることは妥当ではない。また,ワ
イヤボンディングのような異なる技術分野における課題を液体微量吐出用ノズルの
技術分野に適用するには,審決とは異なる新たな論理付けが必要であり,乙5及び
6の導線やワイヤーを通すキャピラリーの材質についての記載を,周知技術として
参酌することはできない。
イ審決の認定に誤りがあることは,以下の甲24ないし30及び甲32ないし
40の各文献に記載されるように,ルビーやサファイヤ等の焼結性アルミナ,すな
わち「焼結性ルビー」から「主たる鉱物相がコランダムからなる単結晶材料」が得
られることからも明らかである。
「焼結」とは「非金属あるいは金属の粉体を加圧成形したものを融点以下の温,
度で熱処理した場合,粉体間の結合が生じ成形した形で固まる現象。窯業製品ある
いはセラミックス,粉末冶金,サーメットなどを製造する主要な手法」である。
,「」,「」またルビーやサファイヤ等については本願発明を構成するコランダム
はアルミナの1種であり,引用文献に例示されるルビーやサファイヤも(着色性を
与える不純物として極小量のCr,Fe,Ti等の酸化物を含むが)主成分はアルミナ
であることから,専らアルミナについて検討することとする。
()ウセラミックス原料粉体を融点以下の温度で熱処理して単結晶の物体成形品
を製造する方法はいくつか存在するので,以下では製法別にグループに分けて説明
する。
(ア)原料粉体を焼結させ成型品とした後,アルミナの融点以下の温度で加熱して
単結晶体(製品)を得る方法
a甲32(特開昭56−92190号公報)には,高純度アルミナ粉(サファ
イヤ)を成形,焼成し,更に1900℃(アルミナの融点2050℃)で加熱し,
高密度化と単結晶化して製品を得ることが記載されている。
b甲33(特開平成7−165484号公報)には,高密度の多結晶質アルミ
ナ物体(原料は焼結αアルミナ)を融点以下の温度で加熱することにより,単結晶
物体(サファイヤ)に転化させるための固相法が記載されている。
c甲34(特開平7−165485号公報)には,部分焼結された多結晶質ア
ルミナ物体にサファイヤ種結晶を接触させて,融点以下の温度で加熱することによ
り,単結晶物体(サファイヤ)に転化させるための固相法が記載されている。
(),,d甲35特開平7−242497号公報には多結晶質アルミナ物体上に
特定パターンの表面構造(例えば突起)を形成し,アルミナを予備焼結した後,ア
ルミナの融点以下の温度で加熱することにより,単結晶物体(サファイヤ)に転化
させるための固相法が記載されている。
e甲36(特開平7−267790号公報)には,ドーパントを転化した多結
晶質アルミナ物体を焼結し,アルミナの融点以下の温度で加熱することにより,単
結晶物体(サファイヤ)に転化させるための固相法が記載されている。
(イ)ベルヌーイ法,フラックス法,チョクラルスキー法,焼結法等の製法により
コランダム結晶(単結晶)を製造する方法
甲27(再表2005−54550号公報)の段落【0002】には「結晶独,
自の立体形状を有する単結晶が,その未知なる特性から各分野で求められている」
と記載され,それを受けて段落【0003】では単結晶の代表的な製造法(1)ない
し(4)が説明され,このうち(4)では,焼結法による人工コランダム結晶の製造法が
記載されているそうであれば甲27の段落0003の製造法で得られた人。,【】「
工コランダム結晶」が段落【0002】の「単結晶」を得ることを目的としている
。,(),ことは明らかである同様な記載は甲28再表2005−85503号公報
甲29(再表2005−78170号公報)及び甲30(再表2005−7816
9号公報)にも存在する。
したがって,焼結性アルミナから製造されるものに単結晶のものがあることは甲
27ないし30の各記載から明らかである。
なお,乙7(特開平7−187760号公報)では「高い透光率を要求される,
合成宝石」であると記載されているから,これが不透明な「多結晶」のものである
とは到底考えられず「単結晶」が生成しているものと考えられる。,
また,融点以下の温度で加熱するという同じ技術手段により「焼結」という現,
象も「結晶転移(多結晶→単結晶」という現象も生起するのであり,両者は区別)
し難く,甲1の「焼結性」という表現では,それから製造される「単結晶」を含ん
でしまうのである。
(ウ)フローティングゾーン法により単結晶を製造する方法(アルミナ原料粉末を
成形,焼結し,これを溶融ゾーン(フローティングゾーン)を通過させることによ
り単結晶体を製造する方法)
なお,フローティングゾーンでは局部的には溶融しているが,全体としてみれば
焼結棒は変形して流れ出すようなことはなく,実質的には焼結した状態を保ってい
るといえる。そのことは,例えば,甲37ではFZ炉(フローティング炉)につい
て2000℃以上の高温を得ることができると記載されアルミナの融点2「。」,(
050℃)に満たない温度でもこの方法が行われることが示唆されている。
a甲24特開平6−122585号公報では高純度アルミナの焼結棒棒(),(
状単結晶試料)を溶融帯(フローティングゾーン)で加熱することによりアルミナ
単結晶を製造できることが記載されており,このことから,焼結性アルミナからア
ルミナ単結晶が生成されることが分かる。そして,この単結晶アルミナにルビーが
含まれることも記載されている。
b甲37(特開昭60−81085号公報)には,アルミナ原料を成形,焼結
,()。しフローティングゾーンFZ炉で単結晶体を育成することが記載されている
c甲38(特開昭60−176985号公報)には,アルミナ原料を成型,焼
結し,フローティングゾーンで単結晶体を育成することが記載されている。
d甲39(特開昭60−191091号公報)には,アルミナ原料を成型,焼
結し,浮遊溶融帯(フローティングゾーン)で単結晶体を育成する方法が記載され
ている。
e甲40(特開昭60−227830号公報)には,アルミナ原料を成型,焼
結し,浮遊溶融帯(フローティングゾーン)で単結晶体を育成する方法が記載され
ている。
(エ)単結晶の製造方法について具体的な記載はないが,原料アルミナが焼結体用
原料にも,単結晶用原料にも使えることが記載されているもの
原料アルミナが焼結体用原料にも単結晶用原料にも使えるということは,すなわ
ち,原料アルミナが焼結性を有し,また,それから単結晶体が製造されることを意
味するものである。
a甲25(特開平6−191836号公報)において,α−アルミナ単結晶粒
子が焼結体用の原料になることが【請求項1】と【請求項5】の記載を併せ読む,
ことにより分かる。また,このα−アルミナがルビー等の単結晶用原料となること
が【請求項4【0038】に記載されている。したがって,焼結性アルミナがル】,
ビー等の単結晶の原料になること,すなわち,焼結性アルミナからルビー等の単結
晶が製造されることが示されている。
b甲26(特開平6−191835号公報)は,甲25と同一の発明者による
同日にされた特許出願の公開公報である。甲26には,粒度分布の狭いα−アルミ
ナ単結晶粒子がルビー等の単結晶用原料及び高純度焼結体用原料等に用いることが
できることが記載されている。したがって,焼結性アルミナがルビー等の単結晶の
原料になること,すなわち,焼結性アルミナからルビー等の単結晶が製造されるこ
とが示されているといえる。
エ以上のとおり,審決が引用発明のノズルにつき「多結晶材料」からなるもの
であるとした点は,相違点とされるべきものである。すなわち,相違点1ないし3
に加え,ノズルが多結晶材料からなるかどうかが明らかではない点が相違点4とし
て挙げられるべきであったところ,審決には,これを看過した違法がある。
(2)本願発明は,相違点4を有することにより,①ノズル先端の劈開による破損
・損傷を効果的に防止し,②単結晶ルビーでは劈開しやすいため特殊な形状に構成
したり接着剤等で接合しなければならなかったものを,略円筒形の単純な形状のも
のを圧入することにより,接着剤を使用することなく(下半部全体がノズルホルダ
ーから外界に露出する)ノズルを組み立てることができるという格別の効果を奏す
るものである。
このように,相違点4の看過により,本願発明の奏する格別の効果までもが看過
されたことになり,相違点4の看過の誤りが,審決の進歩性の判断の結論に影響す
ることは明らかである。
(3)以上のとおり,審決の一致点の認定には,相違点を看過した誤りがある。
2取消事由2(容易想到性判断の誤り)
(1)周知技術1の認定の誤り
ア審決は,相違点1に関し「液体微量吐出用のノズルを含む装置」について,
との前提をおき「ノズル」と「金属材料製ノズルホルダー」とを含んで「ノズル,
ユニット」を構成する点は,甲2ないし4に記載される周知技術(周知技術1)で
あるとの認定をした。
イしかし,まず,審決が,技術分野の異なる甲2及び4を挙示し「ノズル」,
と「金属材料製ノズルホルダー」とを含んで「ノズルユニット」を構成する点が周
知技術であると認定した点において誤りである。
甲2(特開平6−10796号公報)に記載される発明は「燃焼室に燃料を噴孔
より噴射する燃料噴射ノズル」の技術分野に属し,甲4(実開昭59−02184
号)に記載される考案は「ディーゼルエンジン用噴射ノズル」の技術分野に属する
ものである。
,,,そして甲2及び4に開示されるノズルはいずれもセラミックス材料からなり
ノズルホルダも,いずれも金属材料からなるものである。
これに対し,本願発明は「液体およびペースト等の液体材料を,定量に吐出お,
よび精密に塗布するための装置」の技術分野に属するものである。本願発明のノズ
ルを燃料室内で燃料噴射ノズルとして用いることはできず,甲2及び4に記載され
るノズルを液体材料の定量吐出及び精密塗布に用いることもできない。
このように,本願発明と甲2及び4に記載された発明・考案は,全く異なる技術
分野に属するものであるから,周知技術1を認定するに際し,甲2及び4を用いる
ことは不適当というべきである。
なお,進歩性の判断で考慮される「技術分野」は「この発明の属する技術分野」
であり,特許請求の範囲全体の記載から認定されるべきである。すなわち,一般に
機械関連発明において用途の限定がされることは少ないところ,当該発明の技術分
野を認定するに当たっては「∼用」といった用途限定の記載のみならず,特許請,
求の範囲に記載された形状,構造等の記載も考慮して認定が行われるべきである。
そして,甲2及び4における「噴射」とは「筒口から流体をある方向へ向けて,
噴出させること「強く噴き出すこと」をいうが「吐出」とは「口から吐き出され」,
ること。吐き出すこと」をいい,両者の概念は異なる。。
ウまた,審決は,相違点1の認定に際しては,ノズルが結晶材料(セラミック
ス)であることを前提としていたにもかかわらず,周知技術1の認定に際してはノ
ズルの材料の限定がない一般的な「液体微量吐出用のノズルを含む装置』につい『
て」周知技術1の認定を行う点で失当である。
すなわち,材料が限定されていない上位概念の吐出用ノズルの場合,さらにいえ
ば金属材料製のノズルの場合には,本願発明の解決しようとする課題そのものが存
在しなくなるので,ノズルが結晶材料(セラミックス)からなることを前提に相違
点1に係る構成の評価がされるべきである。
そうすると,審決が指摘する甲3(特開平6−7707号公報)は,金属パイプ
材からなるノズルを装着する技術を開示するものであるから,甲3を相違点1に係
る構成を開示する文献として用いることはできない。
なお,本願発明の進歩性を論じるに当たっては,本願発明の課題を的確に把握す
ることが必要であると解されるところ,本願発明の課題と関わりのないところで周
知技術を認定することに合理性はない。すなわち,本願発明には,ノズルをコラン
ダムからなる結晶材料で構成し,ノズルホルダーを金属製材料で構成してアセンブ
リする場合にノズルが劈開するという課題が存在するのであるから,ノズルの素材
が結晶材料(セラミックス)であることを前提に周知技術の認定がされるべきであ
る。
(2)周知技術2の認定の誤り
ア審決は,相違点2に関し「ノズルを,その上半部を流路の径と比べ数倍以,
上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さより
も長くなるように形成した」点は,甲5ないし7に記載される周知技術(周知技術
2)であると認定した。
イしかし,前記(1)同様,審決は,ノズルの材料の限定がない一般的な液体吐
出用のノズルを含む装置について周知技術2を認定する点で失当である。
すなわち,相違点2に係る構成が周知技術であるか否かの判断は,結晶材料(セ
ラミックス)で作成したノズルであることを前提にされなくてはならない。
材料の限定がされていない上位概念の吐出用ノズルを前提とした場合には,本願
発明の解決しようとする課題そのものが存在しなくなるからである。
,,本願発明ではノズルの素材に起因する問題を解決すべき課題としているところ
本願発明の課題と関わりのないところで周知技術を認定することに合理性はない。
ノズルの素材が金属でない場合,具体的にはノズルの素材がセラミックス等の多結
晶性材料からなる場合には,ノズルの形成・固定が困難であり,一般的なノズルの
形成・固定に関する技術をそのまま適用できないという重大な問題もある。そうで
あれば,ノズルの素材を問題としないノズルの形成に関する技術をセラミックス等
の多結晶性材料からなるノズルに適用するには,別途の論理付けが必要になるはず
だが,審決は,別途の論理付けについて何ら説明をしていない。
そして,ノズルが結晶材料(セラミックス)からなる場合には「ノズルを,そ,
の上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長
さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成する」構成は,甲5ないし
7に係る文献のいずれにも記載されない構成である。
,()「」確かに甲5特表2000−508962号公報の第3図には肉厚円筒形
のノズル53が記載されている。しかし,甲5には,ノズル53がいかなる材料で
構成されているのかの記載はない。他方で,甲5では「硬い材料」で作成される部
品(弁部材54,弁座55)については適宜の説明がされているから,ノズル53
が当該技術分野で広く用いられている金属材料とは異なる技術的意義のある部材で
作成される場合には同様の説明がされるはずであり,そのような材料についての説
明がない以上,甲5のノズル53は金属材料であることが強く推認される。
いずれにしても,甲5には,ノズルが結晶材料(セラミックス)からなる場合に
相違点2に係る「肉厚円筒形」のノズルを備えることは記載されていない。
また,確かに,甲6(特開昭50−44239号公報)の第1図ないし第7図に
限れば「肉厚円筒形」のノズルが記載されているといえる。しかし,甲6の他の,
箇所の記載(はんだ付けに関する記載)に照らすと,第1図ないし第7図に記載さ
れる肉厚円筒形のノズルは金属材料製のものであることが分かる。
すなわち,甲6には,第1図,第5図に関して「はんだ付け」についての記載が
あり,第2図においても「ここに示すノズル装置は下記の点を除いて第1図に示す
ものと同じである」との記載があり,第1図,第2図,第5図においては,符号。
21によりはんだ付けが図示されることから,いずれのノズルも金属材料製である
ことが理解される。
また,第6図についても「第6図において,ノズル装置(10)は本質的に第,
5図に示すノズル装置と同じである」とされており,やはりノズルは金属材料製。
であることが理解される。第7図には,符号21の記載はないものの,第1図,第
2図及び第5図の符号21に対応する位置に同じ黒塗りが記載されていることか
ら,はんだ付けにより固定されていると理解するのが自然であり,そうすると,第
7図のノズルもまた金属材料製であると解さざるを得ない。
このほか,甲6の第11図において「セラミック・ノズル(40」が第1図な,)
いし第7図とは異なる態様で固定されている。すなわち,セラミック・ノズル(4
0)には「フランジ(44」が設けられており,その固定態様も,ねじ付きナッ)
ト(41)の薄肉壁部分(43)により固定する態様又はエポキシ接着剤により固
定する態様が記載されるのみである。
したがって,甲6には,ノズルが結晶材料(セラミックス)からなる場合に相違
点2に係る「肉厚円筒形」のノズルを備えることの記載も示唆等もないといわざる
を得ない。
このほか,本願発明がノズルを「圧入」して装着することを前提としていること
を考慮すると,甲7(実開平4−961号)のノズルのようにネジ切り溝を有する
形状のものが本願発明にいう「円筒形」に当たるということはできない。
なお,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,原則的
には通常の用語の意味で理解されるべきであり,当該用語の意義が一義的に明確に
理解することができないなどの特段の事情がある場合に,明細書の発明の詳細な説
明や図面の記載を参酌して理解されるべきである「円筒形」の用語の明確性や明。
細書の記載と関わりなく他の特許文献に依拠して用語の解釈を行う被告の主張は,
独自の解釈をいうものであり,排斥されるべきである。すなわち「円筒形」の用,
語の意義は,被告がいうところの幾何学的な意味で一義的に明確に理解できるので
あるから,そのように理解されるべきである。
ウ以上のとおり,ノズルが結晶材料(セラミックス)からなる場合には「ノ,
ズルを,その上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上
下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成した」構成は,
甲5ないし7のいずれにも記載されない構成である。したがって,審決の周知技術
2の認定に誤りがあることは明らかであり,これを適用した相違点2についての判
断にも誤りがあることは明らかである。
(3)周知技術3の認定の誤り
ア審決は,相違点3に関し「ノズル挿入孔に前記挿入面が段部に当接するま,
でノズルを圧入することにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズ
ル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出す
るようにノズルの位置を規定した」点は,甲5ないし8に記載される周知技術(周
知技術3)であるとの認定をした。
イしかし,まず「ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出する」
構成につき,甲5及び甲8に開示があると認定することには無理がある。
まず,甲5の第3図では,ノズル53の下半部の一部がノズルホルダ52に挿入
された状態が記載されており,ノズルの「下半部全体」が露出されているとはいえ
。,「」,ないこのように甲5においてノズルの下半部全体が露出されていないのは
甲5が線引塗布(描画塗布)を行うことを目的としていないからであると推測され
る。
また,甲8(特表2001−500962号)の第2図では「ノズル40」がバ
ルブ座機構32(ノズルホルダーに相当)の下端部80の内側に位置することが開
,「」示されているところノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出する
構成が開示されているとはいえない。このようなノズルは,ワークとノズルの距離
が比較的大きく設けられた状態での滴下塗布にのみ用いられるものであり(甲8の
第3図参照,甲1の第1図や甲6の第12図に記載されるような線引塗布の態様)
で使用されるノズルと同じに扱われることは論外である。
ウノズルを「圧入」する構成につき,甲6ないし8に開示があるとする認定は
明らかに誤りである。
甲6の第7図にはノズルを挿入する構成は開示されるもののノズルを圧,「」,「
入」する構成は開示されていない。
甲44(機械工学用語辞典)ないし甲46の記載からすれば,機械工学分野にお
ける「圧入」とは,2個の部品が当該加圧押込み操作のみで「結合」を生じるはめ
あいの方法をいうものと解される。他方で「挿入」とは「すきま」のあるはめあ,
いのことをいうものと解される。
そうすると,甲6の第1図,第2図及び第5図の符号21に対応する位置にある
黒塗りからすれば,第7図では,ノズルがはんだ付けにより固定されていると理解
するのが自然であるから,第7図のはめあい方法は「圧入」ではないというべきで
あり,甲6には相違点3に係る「圧入」の構成を備えることは記載されていない。
また,甲7の第2図,第1図及び第4図のノズルのいずれにも,外周にネジ切り
溝が設けられていることが明瞭に記載されており,甲7の他の記載をみてもノズル
が「圧入」されることの記載は全くなく,いずれにしても甲7には相違点3に係る
「圧入」の構成を備えることは記載されていない。
そして,甲8の「ろう付け接続などの従来の手段」による固定態様は,機械工学
分野における「圧入」に相当するとはいえない。したがって,甲8には,相違点3
に係る「圧入」の構成を備えることは記載されていない。
他方で,甲5においては,ノズル53の固定方法が記載されていないことから,
「圧入」により固定していると解することもできそうであるが,甲5は甲8と同一
の出願人によるものであり,いずれも分配装置ないしディスペンサに関するもので
あることからすれば,甲5においても「ろう付け接続などの従来の手段」により固
定されている蓋然性は高く,甲5においてノズル53が「圧入」により固定されて
いると解するのは難しい。
このほか,被告が「圧入」に関して提出した証拠のうち,乙9及び10に開示さ
れる技術は「滑剤を塗布」して圧入する技術であり「滑剤を塗布」するという付,,
加的な工程を有しない「セラミックスを金属に圧入接合する技術」が開示されてい
るわけではなく,さらに「滑剤」が溶出し,液材が汚染される可能性もある。
また,乙16においては「圧入」と「接合」の用語が使い分けられていること,
からすれば,第11図では「圧入」ではなく「接合」により固定されているもの,
と解される。また,乙16にいう「圧入」とは,ノズル本体1の先端とは逆の端部
から段付き形状のノズルチップ2を圧入するものであり,これは「ノズル挿入孔,
(26)に前記挿入面(14)が前記段部(27)に当接するまで前記ノズルを圧
入する」本願発明とは技術的意義が全く異なるものである。
そして,乙17にいう「圧入」も,乙16と同様に,ノズル本体の先端とは逆の
端部から行うものである。
,,,このほか乙18にはノズルチップ1がセラミック製であることの記載はなく
燃料噴射ノズルに金属製のノズルチップが用いられることは周知の事実であり,乙
18のノズルチップが金属製である蓋然性は高い。
エ仮に,甲5に「圧入」の構成が開示されているとしても,甲5のノズル53
が金属材料からなることが強く推認されるので,甲5の明細書及び図面の記載から
ノズルを結晶材料(セラミックス)で構成し得ることを読み取ることはできない。
すなわち,相違点3に係る「圧入」の構成は,結晶材料(セラミックス)で作成
「」,したノズルを金属材料製ノズルホルダーに装着する構成を前提とした場合には
甲5ないし8のいずれにも記載されない構成である。
オ以上のとおり,相違点3に係る構成は周知技術であるとはいえず,ノズルが
結晶材料(セラミックス)からなる場合に「ノズル挿入孔に前記挿入面が段部に当
接するまでノズルを圧入することにより,少なくともノズルの上半部が概ね半分以
上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界
に露出するようにノズルの位置を規定」する構成は,甲5ないし8のいずれにも記
載されない構成であって,審決の周知技術3の認定に誤りがあることは明らかであ
り,これを適用した相違点3についての判断にも誤りがあることは明らかである。
なお,平成6年改正時に,特許法36条から「発明の目的,構成及び効果」の記
載は削除されているから,明細書に効果の記載がないことは非難されることではな
い。また「明細書等」には,明細書のほか特許請求の範囲及び図面が含まれるか,
ら,図面の記載から発明の効果が把握されるのであれば,それで足りるというべき
である。さらに,被告の主張は,本願の図面に記載された内容が公知のものである
場合にはじめて成り立つが,本願の図面に記載された内容が公知のものであること
の立証はされていない。
そして,明細書(甲9)の段落【0005】にある「塗布描画「ワーク表面と」,
ノズル先端との距離を所望量だけ設ける」などの記載を当業者が読めば,本願の請
求項1に記載された発明は,線引塗布(描画塗布)などの用途に適するための構成
であることが容易に理解できると解される。
(4)引用発明と周知技術1ないし3の組合せについて
ア審決は,引用発明に周知技術1ないし3を適用することにつき,その動機付
けには何ら言及することなく,当業者が格別困難なく想到し得るとの判断をした。
しかし,以下のとおり,このような動機付けはない。
イ本願発明は,金属製材料に比べて精密かつ微細な加工が可能である材料の鉱
物性材料を使用したノズルにおいて,描画塗布を行う際にノズル先端が劈開により
破損・損傷しやすいという課題(以下「課題1」という)を解決することを目的。
とし,かかる課題を解決するために,本願発明は「主たる鉱物相がコランダムから
なる多結晶性材料で作成したノズル」の構成(以下「特徴点1」という)を備え。
ている。
また,本願発明は,ノズルホルダーとノズルとを異なる材料で構成してアセンブ
リする場合,具体的には,ノズルをコランダムからなる結晶材料で構成し,ノズル
ホルダーを金属製材料で構成してアセンブリする場合にノズルが劈開するという課
題(以下「課題2」という)を解決することを目的とするものである。本願発明。
は,かかる課題を解決するために「ノズルを,その上半部を流路の径と比べ数倍,
以上大径の肉厚円筒形」とする構成(以下「特徴点2」という)を備えている。。
また,本願発明は,接着剤を使用することなく(下半部全体がノズルホルダーか
ら外界に露出する)ノズルを組み立てることのできるノズル及び同ノズルを装着し
たノズルユニットを提供するという課題(以下「課題3」という)を解決するこ。
とを目的とするものである。なお,同課題は,明細書に明示の記載はないものの,
自明ともいえるコランダムからなる結晶材料の性質(金属材料と異なり柔軟性がな
いため金属材料と同程度のしめ代のはめあいで「圧入」した場合には破損等が生じ
ること)に起因するものである。本願発明は,かかる課題を解決するために「上,
半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成」する
構成(以下「特徴点3−1」という)及び「前記ノズル挿入孔(26)に前記挿。
()(),入面14が前記段部27に当接するまで前記ノズルを圧入することにより
()」少なくとも前記ノズルの上半部の概ね半分以上を前記ノズル挿入孔26に挿入
する構成(以下「特徴点3−2」といい,特徴点3−1と併せて「特徴点3」とも
いう)を備えている。。
ウ甲1ないし8における本願発明の特徴点1ないし3に到達するための示唆等
(ア)甲1には,SUS等の金属材料製ノズルとルビー製ノズルとが選択的に使用
できることが記載される一方「ルビー製ノズル」を用いることの意義につき「ペ,
ーストの滑り,流体的な流れ,加工性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性
セラミックが好ましい」ことの記載があるのみで,本願発明の課題1ないし3の存
,。,在に気づいていないかそのような課題自体を問題としていないいずれにしても
甲1には,本願発明の特徴点1ないし3に到達するための示唆等の記載はない。
(イ)甲2に記載された発明は,燃料室内に配置される「燃料噴射ノズル」に関す
るものであり,ワーク表面に近づけて噴射を行うためのものではないから本願発明
の課題1は存在せず,当然に,特徴点1に到達するための示唆等の記載もない。ま
た,技術分野の違いは措くとしても,甲2の第1図及び第5ないし7図には,ノズ
ル本体1の「突出部15」及び「ノズルチップの凹部16」を係合させる構成のみ
が記載されており,甲2にはノズルを「円筒形」とし圧入する構成から遠ざける記
載(段落【0015【0025【0029)があるとさえいえる。】,】,】
(ウ)甲3は,金属パイプ材からなるノズルを用いるものであるから,本願発明の
課題1ないし3は存在せず,当然ながら本願発明の特徴点1ないし3に到達するた
めの示唆等の記載もない。
(エ)甲4に記載された考案は,燃料室内に配置される「燃料噴射ノズル」に関す
るものであり,ワーク表面に近づけて噴射を行うためのものではないから,本願発
明1の課題1は存在せず,当然ながら本願発明の特徴点1に到達するための示唆等
の記載もない。また,技術分野の違いは措くとして,甲4には,ノズル部5を締付
金具7で覆い,締付金具7の鍔部8に締付金具9の鍔部10を係合してノズル部5
を固定することが開示されており,このようにノズル部を締付金具で覆うため,本
願発明の課題2及び3は存在せず,当然ながら本願発明の特徴点2及び3に到達す
るための示唆等の記載もない。
そればかりか,甲4には「燃料噴射ノズルをセラミック材により形成したものが
知られているが,強度上の問題があり,実現は困難であった」との記載があり,む
しろ本願発明の特徴点2及び3への到達を遠ざける記載があるとさえいえる。
(オ)甲5は,ノズルの「下半部全体が前記ノズルホルダーから外界に露出」の構
成を備えておらず,また「1,500Hzで材料の点(ドット(つまり1秒間に)
1500の点)分配できるようにする」ことを目的とするものであり,ワークとノ
ズルの距離が設けられた状態での滴下塗布を行うものであると認められるので、本
願発明の課題1を読み取ることはできず,当然ながら本願発明の特徴点1に到達す
るための示唆等の記載を読み取ることもできない。
また,甲5には,ノズルホルダ52及びノズル53がいかなる材料で構成される
かの記載はない。しかし,前述のとおり,甲5ではカーバイドなどの硬い材料で作
成される部品については適宜の説明がされているから,ノズル53が金属材料と異
,,なる技術的意義のある材料で作成される場合には同様の説明がされるはずであり
そのような材料についての記載がない以上,甲5のノズルホルダ52及びノズル5
,。3は当該技術分野で広く用いられている金属材料からなることが強く推認される
すなわち,甲5の記載からは,本願発明の課題2及び3の存在を読み取ることはで
きず,いずれにしても,甲5には,本願発明の特徴点1ないし3に到達するための
示唆等はない。
(カ)甲6には,本願発明の特徴点1に到達することを示唆する記載があるといえ
るが,本願発明の特徴点2及び3については,それらへの到達を遠ざけるような記
載(はんだ付けに関する記載)があり,第1図,第2図及び第5図のノズルは金属
製であり,かつ圧入して固定していないことが分かる。
他方で,第11図には「セラミック・ノズル(40」が開示されるが,同ノズ)
ルにはフランジ44が設けられておりその装着態様もねじ付きナット4「()」,(
1)の薄肉壁部分(43)により固定する態様又はエポキシ接着剤により固定する
。,「」態様が記載されるのみであるこのような記載からすればセラミック・ノズル
の装着には技術的な制約があり,ノズルにフランジを設けてねじ付きナットの薄肉
壁部分により固定したり,接着剤等により固定しなくてはならないと解するのが当
業者の通常の理解である。
すなわち「圧入」についての説明がある甲45には「代表的な脆性材であるセ,,
ラミックが穴部品の材料に使用される場合は『しまりばめ』による締結を極力避け
るべきであろう」との記載があり,これが当業者の理解である。
してみれば,甲6の記載を読んだ当業者は,本願発明の特徴点2及び3への到達
を試みることの動機付けを失い,逆に本願発明の特徴点2及び3とは全く別の試み
をすることが動機付けられるものと思料される。
(キ)甲7に記載された考案は,ワークとノズルの距離が比較的大きく設けられた
状態での滴下塗布を行うものであるので,本願発明の課題1は存在せず,当然なが
ら本願発明の特徴点1に到達するための示唆等の記載もない。
また,甲7には,ノズル及びノズルホルダーがいかなる材料で構成されているの
かの記載はないだけでなく,甲7記載のノズルのいずれにも,外周にネジ切り溝が
設けられていることが明瞭に記載されており,本願発明の課題2及び3とは全く関
係がないノズルの固定態様を開示することが分かる。当然ながら,甲7には,本願
発明の特徴点2及び3に到達するための示唆等の記載もない。
(ク)甲8に記載された発明は,ワークとノズルの距離が比較的大きく設けられた
状態での滴下塗布を行うものであり,しかも第2図のノズル40は出口101がノ
ズルホルダーの外部に露出していない。
したがって,甲8には,本願発明の課題1は存在せず,当然ながら,本願発明の
特徴点1に到達するための示唆等の記載もない。
また,第2図のノズル40は,その上端部にすり鉢状の入口部98を有し,この
入口部98における流路の径は外周の数倍未満のものであることから,本願発明の
特徴点2を備えていない。さらに,ノズル40は,上半部の上下方向の長さが下半
部の上下方向の長さよりも短く形成された構成のものであり「ろう付け接続など,
の従来の手段」により固定する構成(特徴点3−2を備えない構成)が開示される
ものである。
したがって,甲8には,本願発明の課題2及び3は存在せず,特徴点2及び3に
到達するための示唆等の記載もない。
他方,甲8には,ノズル40及びノズルホルダー(バルブ座機構32)がいかな
る材料で構成されているかの記載はない。しかし,第2図のようにバルブヘッド9
2と当接し得るすり鉢状の入口部98を有するノズル40を結晶材料(セラミック
ス)で作成することは考え難いこと,ノズル466について「ステンレススティー
ル素材で構成することができ」との記載があること等からすれば,ノズル40が金
属材料製のものであることが強く推認される。
いずれにせよ,甲8から本願発明の課題1ないし3の存在を読み取ることはでき
ず,当然ながら,本願発明の特徴点1ないし3に到達するための示唆等の記載を読
み取ることもできない。
(ケ)以上のとおり,甲1ないし8のいずれからも,本願発明のすべての特徴点に
到達するための示唆等は存在しない。
エ甲1,2,4及び6に記載されるセラミックス製ノズルの固定態様及び甲4
5の記載について
甲1ないし8のうち,甲1,2,4及び6にはセラミックス製ノズルが記載され
ている。しかし,これらの各文献のノズルの固定態様を総括的にみると,セラミッ
クス製ノズルの固定には技術的制約があり,金属材料製ノズルと同じ態様で固定で
きない。
まず,甲1には,ルビーやサファイヤ等の焼結性セラミックからなるノズルが記
載されているが,ノズルホルダーがいかなる材料からなるかの記載はなく,また同
ノズルの固定態様の記載もない。したがって,甲1におけるセラミックス製ノズル
の固定態様は不明である。
甲2には,金属製ノズル本体にセラミックス製ノズルチップをメタルフローで結
合する燃料噴射ノズルの製造方法が記載されている。
甲4には,ノズル部5を締付金具7で覆い,締付金具7の鍔部8に締付金具9の
鍔部10を係合してノズル部5を固定する態様が開示される。かかる固定態様は,
「燃料噴射ノズルをセラミック材により形成したものが知られているが,強度上の
問題があり,実現は困難であった」という課題を解決するためのものである。
,()()甲6には第11図にフランジ44が設けられたセラミック・ノズル40
が記載されており,ねじ付きナット(41)の薄肉壁部分(43)により固定する
態様又はエポキシ接着剤により固定する態様が記載されている。なお,甲6の第1
ないし第7図には,ノズルをはんだ付けや薄い管状端部壁部分(32)で固定する
態様が開示されるのみである。
以上のように,甲1,2,4及び6記載の各発明は,金属材料製ノズルと同じ態
様で固定できないことを前提に,金属材料製ノズルとは異なる固定態様を探求する
ものである「圧入」についての説明がある甲45には「代表的な脆性材であるセ。,
ラミックが穴部品の材料に使用される場合は『しまりばめ』による締結を極力避け
るべきであろう」との記載があり,これが当業者の理解でもある。したがって,甲
1,2,4及び6の各記載を見た当業者が,本願発明のように,金属材料製ノズル
と同様の態様でノズルを固定することを動機付けられることはないというべきであ
る。
オ以上のとおり,引用発明に周知技術1ないし3を適用することの動機付けは
ない。
(5)引用発明においてノズルの材料に「多結晶性材料」を選択することについて
本願発明は,金属材料製ノズルでは加工が難しいほどの極微量の塗布を行うこと
に適するものであり,原告の本願発明に係る実施品によれば,線幅数十μmの線引
塗布を行うことも可能である。
他方で,甲1では「ルビー製ノズル」と「SUS製ノズル」とが選択的に使用で
きることが記載されており,前者については「ペーストの滑り,流体的な流れ,加
工性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性セラミックが好ましい」ことが記
載されている。しかし,甲1には,焼結性セラミックの中から「多結晶性材料」を
選択することの意義は何ら記載されていない。
すなわち,甲1の目的とする「加工性などに優れた」性質については,本願発明
では不適当とされる「例えば工業用ルビー材料といった安価な鉱物性材料」である
「単結晶ルビー」も備えているところ,甲1には「多結晶性材料」を選択するこ,
との意義が示唆されているとはいえない。
この点,本願発明は「多結晶性材料」を選択すること,すなわち「主たる鉱物相
がコランダムからなる多結晶性材料で作成したノズル」の構成(特徴点1)を備え
ることにより本願発明の「ノズル先端が劈開により破損・損傷しやすいという課題
(課題1」を解決している。さらに,本願発明は,特徴点1に加え,特徴点2及)
び3を備えることにより,特徴点1ないし3に係る構成の有機的な関係をもって,
課題2及び3を解決したものである。
このように,本願発明は「多結晶性材料」を選択することにより,引用発明が奏
し得ない格別の効果を有することを可能としたものである。
したがって,仮に甲1に主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料を含む
と解せる上位概念的記載があったとしても,本願発明の進歩性が否定されることは
ない。
(6)格別の効果の看過
ア本願発明の効果は,①ノズル先端の劈開による破損・損傷を効果的に防止す
ること,②多結晶性材料で形成されたノズルと,多結晶性材料と異なる材料で形成
されたノズルホルダー部とを,接着剤を使用することなく圧入接合を可能とするこ
と,③微量吐出,精密塗布を可能とすることというものである。これらのうち,少
なくとも②,③の効果については「引用発明及び周知技術1ないし3」から予測,
することはできない。
なお,スピンコート装置(いわゆる成膜装置)に係る技術常識を踏まえると,乙
27ないし29における「内径0.8μm」との記載が誤記であることは明白であ
る。
そして,原告は,本願の請求項1に記載されている「主たる鉱物相がコランダム
からなる多結晶性材料で作成したノズル」の塗布径が金属材料で作成したノズルの
塗布径と比べ格段に小さいことを立証すべく,実験報告書(甲72)を提出する。
同報告書からも「③微量吐出,精密塗布を可能とすること」という効果が,多結,
晶コランダムに特有の効果であることが明らかである。
イ前記②の効果について
(ア)甲1には,ノズルの接続態様についての記載はなく,前記②の効果を予測す
ることはできない。
(イ)甲2の第1図及び第5ないし7図には,ノズル本体1の「突出部15」及び
「ノズルチップの凹部16」を係合させる構成のみが記載され,また,ノズルチッ
プをメタルフローで結合するものであるから,前記②の効果を予測することはでき
ない。
(ウ)甲3は,金属パイプ材からなるノズルを用いるものであるから,前記②の効
果を予測することはできない。
(エ)甲4には,ノズル部5を締付金具7で覆い,締付金具7の鍔部8に締付金具
9の鍔部10を係合してノズル部5を固定することが開示されるのみであり,前記
②の効果を予測することはできない。
(オ)甲5には,ノズル53及びノズルホルダ52がいかなる材料で構成されてい
るかの記載はないものの,ノズル53が金属材料からなることが強く推認され,さ
らに,ろう付け接続などの従来の手段により固定される蓋然性が高いものであるか
ら,前記②の効果を予測することはできない。
(カ)甲6には,第11図に示す「セラミック・ノズル(40」には「フランジ)
(44」が設けられており,その装着態様もねじ付きナット(41)の薄肉壁部)
分(43)により固定する態様又はエポキシ接着剤により固定する態様が記載され
るのみであり,他方,第1図,第2図,第5図及び第7図のノズルは,金属材料製
かつはんだ付けされるものであり,第6図のノズルは「嵌合状に孔(20)内に,
,()」,固定されそこに薄い管状端部壁部分32により保持されるものであるから
接着剤を使用することなく圧入接合を可能とするという前記②の効果を予測するこ
とはできない。
(キ)甲7には,ノズル及びノズルホルダーがいかなる材料で構成されるかの記載
がないばかりか,図面記載のノズルのいずれも外周にネジ切り溝が設けられている
ことが明瞭に記載されているから,前記②の効果を予測することはできない。
(ク)甲8には,ノズル40及びノズルホルダー(バルブ座機構32)がいかなる
,「」材料で構成されているかの記載がないばかりかろう付け接続などの従来の手段
により固定する構成が開示されるものであるから,前記②の効果を予測することは
できない。
(ケ)以上のとおり,甲1ないし8のいずれからも,本願発明の前記②の効果を予
測することはできない。
ウ前記③の効果について
(ア)甲1の記載から,ノズルの内径につき,50μmないし数千μm程度のもの
を前提としていること,ルビーやサファイヤ等の焼結性セラミックの方が加工性に
優れることから内径を小さくするのに適していることを読み取ることができる。
しかし,甲1が出願された平成9年7月当時と比べ,本願が出願された平成13
,,年以降例えば液晶ディスプレイなどの製造分野における技術変革の速度は著しく
近年では微細なパターニングを実現するために内径が20μm程度の微細なノズル
が求められるようになっている。
このような超微量吐出を実現するためには,結晶性材料(セラミックス)でノズ
ルを作成することが実用的な観点からは不可欠である。
このように,甲1発明は,本願発明にいう「金属製材料に比べて精密かつ微細な
加工」を実現するという効果を奏するものではない。
(イ)甲2及び4に記載される発明・考案はいずれも「燃料噴射ノズル」に関し,
同一出願人の出願に係るものである。甲2及び4には噴射径についての記載はない
が,同一出願人による他の「燃料噴射ノズル」に関する出願を見ると「燃料噴射,
ノズル」における噴孔径は0.2mm前後のものが多いようである。
しかし,本願発明のノズルは,前述のとおり,内径が20μm程度の微細なノズ
,,ルを実現することを目的とするものであり甲2及び4に記載される発明・考案は
本願発明にいう「金属製材料に比べて精密かつ微細な加工」を実現するという効果
を奏さないことが明らかである。
(ウ)甲6に記載される発明は「金属鑵の端部を製造するのに使用する押出ノズ,
ルに関する」ものであり,本願発明のようにワーク表面に金属製ノズルでは形成で
きないほど微細な描画形状を形成するための「微量吐出,精密塗布」を行うもので
はない。すなわち,甲6では,金属材料製ノズルとセラミック材料製ノズルを「精
密かつ微細な加工」ができるか否かでは区別しておらず,セラミック材料製ノズル
を利用することの意義については「この形態のノズルを利用する第1の目的は,,
。」押出しされる高温材料とほぼ同じ温度に維持されるノズルを提供することである
と説示するのみであるしたがって甲6に記載される発明は本願発明にいう金。,,「
属製材料に比べて精密かつ微細な加工」を実現するという効果を奏さないことは明
らかである。
(7)商業的成功
本願発明の実施品に係るルビー製ノズルを含むノズルユニットは,微細なパター
ニング(描画塗布)を実現するために必要とされる微細なノズルをノズル先端の劈
開による破損・損傷の問題や接着剤溶出の問題を解消して提供可能とするものであ
り,液晶ディスプレイなどの製造分野における各種メーカーの評価は大変高い。
本願発明の実施品に係るノズルユニットは,本願の出願直後の平成13年12月
25日に販売を開始したが,その後追従企業(テクダイヤ株式会社)により酷似す
る製品が販売されるようになった。
本願発明の実施品に係るノズルユニットは,ルビー製ノズルを含むことから金属
材料製ノズルを含むノズルユニットと比べ約数十倍以上の価格(原告の実施品によ
る)となるが,それでも必要とされるのは微細なパターニングを実現するために。
は本願発明の実施品のような微細なノズルが不可欠であるからといえる。
このような原告による商業的成功は,本願発明の実施品に係るノズルユニットの
格別の効果に基づくものであり,販売技術や宣伝等の原因によるものではない。し
たがって,原告による商業的成功の事実によっても,本願発明の進歩性の存在を肯
定的に推認することができよう。
(8)以上のとおり,審決は,周知技術の認定及び適用を誤り,さらには,引用文
献からは予測することのできない本願発明の格別の効果を看過した違法があり,審
決の容易想到性の判断に誤りがあることは明らかである。
3取消事由3(手続違背)
(1)仮に周知技術の認定に誤りがないとしても,審決は,審決において初めて挙
示した周知技術を単に当業者の技術水準を知るためなどに補助的に用いたのではな
く,実質的な引用例として判断を行った違法がある。
,「」,相違点1ないし3に係る構成は相違点3における圧入に関する構成を除き
審判段階で出願人に通知された拒絶理由通知(甲20)に応答する手続補正書(甲
22)により初めて付加されたもので,審決は,審決において初めて挙示した文献
により周知技術1から3を認定したが,これらが審決以前に争点とされたことはな
い。
裁判例からすれば,原則的には周知技術を加えても新たな拒絶理由に当たらない
ものの,相違点に係る構成が発明の重要な部分である場合には,新たな拒絶理由通
知が必要であるとされ,周知技術は補助的に用いなくてはならないとされ,通知す
べき理由の程度は,原則として,特許出願人において,出願に係る発明に即して,
拒絶の理由を具体的に認識することができる程度に記載することが必要であるとさ
れる。
(2)ア周知技術1に係る文献(甲2ないし4)は,すべて審決の時点で初めて挙
示されたものであり,周知技術1であるとされた「ノズル」と「金属材料製ノズル
ホルダー」とを含んで「ノズルユニット」を構成する点が審決以前に争点とされた
ことはない。
そして,原告は,ノズルホルダーとノズルとを異なる材料からなることを明確に
すべく「金属材料製ノズルホルダー」の構成を付加する補正を行い,新たな争点を
提起したのである。この点が新たな争点であることは,被告が,この構成が周知で
あることを,審決で初めて挙示した甲2ないし4によらなければ認定できなかった
ことからも明らかである。
「、イ周知技術2であるとされた流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし
上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成し
た」構成がこれまで争点とされたことはない。
ウ補正の却下の決定(甲19)においては,周知技術3の一部の構成につき審
判合議体の見解が通知された。
しかし,①「少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入」
の構成,②「ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出」の構成が争点
とされていたものではなく,現に,審決は,補正の却下の決定(甲19)で甲5と
共に挙示した4つの文献を甲6ないし8に差し替えて周知技術3の認定を行ってい
る。このことは,周知技術を構成するとして挙示された5つの文献のうち4つの文
献が適用できなくなるような補正が本件第3補正(甲22)によりされたことを意
味する。
このように,周知技術3を認定するためには大幅に文献の差替えが必要であった
ものであり,周知技術3が審決以前に争点とされたことはない。
(3)相違点1ないし3に係る構成は,いずれも本願発明の核心をなす重要な構成
であるから,審判合議体は,これらの構成が周知であるとの認定をするに当たって
は,出願人に意見を述べる機会を与えることが必要であったというべきである。
まず,相違点1及び2に係る構成は,いずれも「ノズルホルダーと,ノズルとを
異なる材料で構成する場合には,つまり,ノズルホルダーとノズルとを別々に作成
した後に,ノズルホルダーとノズルとをアセンブリしてノズルとする場合において
は,単結晶ルビーが劈開しやすい(本願明細書の段落【0006)という本願発」】
明が解決しようとする課題と密接に関連する構成であり,核心的なものといえる。
また,相違点3に係る構成は,描画塗布(線引塗布)を行うための重要な構成で
あり,金属材料と異なり柔軟性がないため金属材料と同程度のしめ代のはめあいで
圧入した場合には破損等が生じる結晶材料からなるノズルにおいて「接着材を使用
することなくノズルを組み立てる(本願明細書の段落【0007)という本願発」】
明が解決しようとする課題と密接に関連する構成であり,相違点3に係る構成は核
心的なものといえる。
(4)以上のとおり,審決の相違点1ないし3についての判断は,審決において初
めて挙示した特定の周知技術を実質的に引用例として用いて行ったものであり,周
知技術を単に当業者の技術水準を知るためなどに補助的に用いたものということは
できない。
したがって,特定の周知技術を出願人に通知することなく,本願を拒絶とした審
決には重大な手続違背があったというべきである。
第4被告の反論
1取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)に対して
(1)本願の出願当初の請求項1には「多結晶性材料で作成した液体吐出用ノズ,
ル」と記載され,これが本願発明の最大の特徴と解される。。
次に,被告が平成21年5月29日付けで通知した拒絶理由(甲20)の対象と
なる,平成19年2月26日付けの手続補正書(甲12)において,請求項1には
「。」主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料で作成した液体吐出用ノズル
と記載されている。
そこで,本願の明細書(甲9)を参照すると「コランダム」とは,ルビー,サ,
ファイヤ等のアルミニウム酸化物であり「本発明の液体吐出用ノズル」が一例と,
して「コランダム原料にバインダーを添加し,常温もしくは加熱下で混練した後,
混練物を成形,焼成すること,すなわち焼結法により製造されることが分かる。」
そこで,被告は「ノズルの材質が,加工性などに優れたルビーやサファイヤ等,
の焼結性セラミック」である引用文献(甲1)を引用した。
ここで「焼結性セラミック」とは,一般的には「焼結されて焼結体となるセラ,
ミック」という意味であって(乙2,3参照,粉末状であり,粉末の一粒一粒は)
,,,単結晶であるとしても全体としては多結晶でありそれにバインダー等を混練し
,,「」「」焼結したものは特別の工夫を講じない限り通常は単結晶ではなく多結晶
となる。
「焼結」や「多結晶「単結晶」についての広辞苑(乙1の1ないし3)や理化」,
学辞典(甲31)の記載等からすれば「焼結」とは,多数の「粉体粒子」を加圧,
成形して融点以下の温度で熱処理して焼き固めるものであるから「焼結」という,
処理のみによって全体が「単結晶」となることは通常あり得ず「多結晶」である,
といえる。そして,金属やセラミックは,通常「多結晶」である。
また,乙4(特開昭58−20410号公報)には「焼結体でありながら単結晶
」,「」品と同等の性質および品質を保つことができとの記載があり当業者が焼結体
と「単結晶品」とが全く違うものであると考えていることが分かる。
(2)ア甲1では「ペーストの滑り,流体的な流れ」というように,被吐出物に,
対するノズルの特性に言及していることからみて,成形後のノズルの材質を記載し
,。ていると解するのが相当であり成形前の原料について記載しているとは考え難い
したがって,甲1に記載されたノズルは成形後の「ノズルの材質」が「焼結性セラ
ミック」と解すべきである。仮にノズルの材質が単結晶であるとしたら,焼結性セ
ラミックを使用したものとしては一般的でないものを使用することになるのでノ,「
ズルの材質は単結晶のセラミックである」等と明記されるはずである。
イ甲1に記載されたノズルの材質は加工性に優れたものである段落0,「」(【
041】参照)から,なおさら「単結晶」ではあり得ない。なぜなら,本願の明細
書の段落【0015】に記載されるように,コランダムは,自然界ではダイヤモン
ドに次ぐ硬度を有する硬い結晶であって「単結晶」のコランダム(ルビーやサフ,
ァイヤ)は,加工が非常に困難なものであるからである。
乙5(特許第2592223号公報)や乙6(特開平9−298214号公報)
の記載(乙5につき段落【0003,乙6につき段落【0002】ないし【00】
04】参照)からも明らかなように,従前「単結晶」のアルミナは,加工が困難で
あるため「ノズル」や「キャピラリー」の材料として,アルミナ粉末を焼結して,
得られたアルミナ多結晶体が使用されていたことが分かり,以上から,引用文献に
おける「加工性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性セラミック」が,当業
者からみれば多結晶体であることは明らかである。
(3)原告が提出した証拠について
ア甲24においては,高純度アルミナ粉末等を1700℃で焼結した焼結棒を
材料として,単結晶を育成する方法が記載されている。しかし,この方法は,一度
1700℃で焼結された焼結棒を更に2050℃という超高温に加熱して溶融さ
せ,もう一度凝固させることによって単結晶を作成したものであって,融点以下の
温度で熱処理して作成されたものとはいえないから,その結果できた単結晶はもは
や「焼結体」とはいえない。
また,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもならな
い。
イ甲25においては,粉末状のα−アルミナ単結晶粒子を,単結晶用原料及び
高純度焼結体用原料等に用いるものであるが,焼結により単結晶が得られるとは示
されていない。また,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根
拠にもならない。
ウ甲26においては,粉末状のα−アルミナ単結晶粒子を,単結晶用原料及び
高純度焼結体用原料等に用いるものであるが,焼結により単結晶が得られるとは示
されていない。また,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根
拠にもならない。
エ甲27において,原告が引用している「(4)コランダム結晶の原料粉末を成
形した後,水素ガス雰囲気中,高温で長時間加熱して焼結する方法」は,甲27の
従来技術に関するものであり【特許文献3】特開平7−187760号公報に記,
載されていることが分かる。そこで,乙7(特開平7−187760号公報)を参
照すると,乙7の従来技術として,合成宝石の原料粉末を成形後焼結する方法とし
て,水素ガス雰囲気中で摂氏1900ないし2000度で長時間,例えば100時
間以上,加熱する方法が記載されているといえる。しかし,この方法により「単結
晶」ができるとは明記されていない。
また,上記のように摂氏1900ないし2000度で長時間加熱するのは,合成
宝石の場合高い透光率を要求されるからであるが審決の引用文献に記載されたノ,「
ズル」は,高い透光率を実現する必要はないから,そのように高温で長時間をかけ
て焼結されたものとは考え難い。
,(),,そして火炎溶融法ベルヌーイ法フラックス法及びチョクラルスキー法は
乙7の段落【0005】に記載のとおり,材料粉末を溶融する方法であって「焼,
結」したものではない。
したがって,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にも
ならない。
オ甲28ないし30には,前記甲27と同様の記載があり,すべて,従来技術
を示す文献として乙7が引用されている。
そして,乙7の記載は,前記のとおり,合成宝石の原料粉末を成形後焼結する方
法として,水素ガス雰囲気中で摂氏1900ないし2000度で長時間,例えば1
00時間以上加熱する方法が記載されているが,この方法により「単結晶」ができ
るかどうかは明記されていない。
また,乙7に記載された前記方法が,引用文献に記載された「ノズル」にも適用
されるとも考え難い。
カ甲32においては「焼結体」にさらに別の熱処理を施すことにより「単結,
晶体」を製造するものであるから「焼結体」と「単結晶体」を明確に区別してい,
る。したがって「焼結体」は「単結晶体」であるとはいえない。また,引用文献,
に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもならない。
,「()」キ甲33においても焼結された多結晶質セラミック物体焼結αアルミナ
にさらに別の熱処理を施すことにより単結晶体を製造するものであるから焼「」,「
結された多結晶質セラミック物体(焼結αアルミナ」と「単結晶体」を明確に区)
別している。また「単結晶」のものについては,明確に「単結晶物体」あるいは,
「単結晶材料」と呼んでおり「焼結された多結晶質セラミック物体(焼結αアル,
ミナ」と記載されているものが「単結晶物体」を意味することはない。)
このほか,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもな
らない。
ク甲34においても「焼結された多結晶質セラミック物体」にさらに別の熱,
処理を施すことにより「単結晶物体」を製造するものであって「単結晶」のもの,
については,明確に「単結晶物体「単結晶材料「単結晶アルミナ「単結晶組」,」,」,
織」等と呼んでおり「焼結」されたものあるいは「焼結体」と記載されているも,
のが「単結晶物体」を意味することはない。
また,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもならな
い。
ケ甲35においては「予備焼結された前記多結晶質アルミナ物体」という記,
載はあるが「多結晶質物体」と「単結晶物体」とは明確に区別されている。,
また,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもならな
い。
コ甲36においては「ドーパントの添加されたアルミナ物体の加熱は,素焼,
きの物体を焼結して高密度の物体を形成し,転化を妨害する不純物(例えば酸化マ
グネシウム)を実質的に除去し(すなわち,高温はセラミック物体を構成する材料
から不純物を追い出す,かつ,多結晶質アルミナを単結晶組織(サファイア)に)
転化させるとの記載があるが素焼きの物体を焼結した高密度の物体及び多。」,「」「
結晶質アルミナ」と「単結晶組織(サファイア」とは明確に区別されている。,)
,。また引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもならない
サ甲37には,焼結材を原料として,これをさらにフローティングゾーン法と
いう処理を行うことにより,単結晶を製造する方法が記載されている。
しかし,フローティングゾーン法は,一部のゾーンを融点以上の温度に加熱する
ものであり,融解し,再び固化したものは,もはや「焼結材」とはいえない。
また「焼結材」という技術用語と「単結晶」という技術用語は,明確に区別さ,,
れて用いられている。
したがって,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にも
ならない。
シ甲38には「焼結原料棒」を原料とし,これをさらにフローティングゾー,
ン法という処理を行うことにより,融液から「ルビー単結晶」を育成する方法が記
載されているが,前記サのとおり,フローティングゾーン法によって製造されたも
のは「焼結材」とはいえず,また「焼結原料棒」と「ルビー単結晶」とは明確に区
別されており「焼結原料棒」が「ルビー単結晶」を意味することはない。,
そして,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもなら
ない。
ス甲39においては「棒状高密度焼結体原料」を溶融させ,これをさらにフ,
ローティングゾーン法という処理を行うことにより「ルビー単結晶」を育成する,
方法が記載されているが,前記サのとおり,フローティングゾーン法によって製造
「」,「」,「」されたものは焼結材とはいえない上棒状高密度焼結体原料焼結体原料
及び「焼結体」と「ルビー単結晶」とは明確に区別されており「棒状高密度焼結,,
体原料「焼結体原料」及び「焼結体」が「ルビー単結晶」を意味することはな」,,
い。
また,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもならな
い。
セ甲40においては「焼結棒」を原料とし,これをさらにフローティングゾ,
ーン法という処理を行うことにより,溶融部分を形成して「ルビー単結晶」を育,
成する方法が記載されているが,前記サのとおり,フローティングゾーン法によっ
て製造されたものは「焼結材」とはいえない上「焼結棒」と「ルビー単結晶」と,
は明確に区別されており「焼結棒」が「ルビー単結晶」を意味することはない。,
また,引用文献に記載されたノズルの材質が単結晶であることの根拠にもならな
い。
ソ以上のとおり,原告が提出したいずれの文献においても,引用文献に記載され
たノズルの材質が単結晶であるという根拠になるものはない。
(4)ア前記(1)ないし(3)のとおり引用発明の焼結性ルビーが本願発明の主,「」「
たる鉱物相がコランダムからなる多結晶材料」に包含され,一致点であることに誤
りはない。
,,「」,しかも原告が主張する本願発明1が相違点4を有することによる効果①
②(前記第3の1(2)参照)も,以下のとおり周知であって,引用発明において自
明な効果である。
イ本願発明における「単結晶のルビーが破損,損傷する」という課題は,本願
出願前の周知の課題であって(乙8参照,ワイヤボンディング用キャピラリーに)
おける技術をノズルに転用することは,例えば乙5にも記載されているように周知
の技術である。
,,,ウまたセラミックスを金属に圧入接合する技術も従来周知であって例えば
()()乙9特開平4−362072号公報や乙10特開平6−172052号公報
にも記載されている。
エ以上のとおり,原告のいう「格別の効果」は,従来周知の技術が本来有して
いた効果にすぎず,引用発明において自明の効果である。
(5)以上のとおり,原告主張の取消事由1には理由がない。
2取消事由2(容易想到性判断の誤り)に対して
(1)審決の対象となった特許請求の範囲(甲22)は「液体微量吐出用ノズル,
ユニット」という技術分野のみ特定するもので,その用途や上記の技術分野以外の
技術分野を限定するものではない。
そこで,周知例である甲2ないし4の内容をみると,甲2記載の発明は,微量の
液体であるガソリンを吐出するノズルユニットであり,甲3記載の発明は,微量の
液体を吐出し噴霧するノズルユニットであり,甲4記載の発明は,微量の液体であ
るディーゼル燃料を吐出するノズルユニットである。
したがって,甲2ないし4に記載されたものは,すべて「液体微量吐出用ノズル
ユニット」という,本願発明と共通する技術分野に属するものである。
また,本願発明の特許請求の範囲の記載は「定量に吐出および精密に塗布する,
ための装置」に限定されるものではなく,甲2ないし4に記載されるものも「液体
を,定量に吐出するための装置」であって,甲2ないし4に記載されたものも,や
はり本願発明と共通する技術分野に属するものである。
(2)審決においては,本願発明と引用発明とで「多結晶性材料で作成したノズ,
ル」の点は一致点とし,相違点1として「本願発明においては『ノズル』と『金,
属材料製ホルダー』とを含んで『ノズルユニット』を構成している点」を挙げ,相
違点1の判断として「引用文献に記載された多結晶性材料で作成したノズル」が,
「金属製ノズルホルダー」に保持されているかどうかを論じているものである。
審決では,ノズルの構造に関する技術分野における周知技術を参酌して,当該技
術分野における当業者の有する常識を考慮すると,周知例として例示した甲2ない
し4のように「ノズル」と「金属材料製ノズルホルダー」とを含んで「ノズルユ,
ニット」を構成することは周知技術であることが分かり,それゆえ,相違点1に係
る本願発明のような構成とすることは,当業者が格別困難なく想到し得るものとし
たものである。
(3)相違点2に係る本願発明の構成は「ノズルを,その上半部を流路の径と比,
べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の
長さよりも長くなるように形成した」というものである。
上記構成は,本願の願書に最初に添付した明細書には記載されていない構成であ
り,原告が,図面に基づいて後から付け加えた構成である。そして,明細書には,
上記構成による効果も記載されていない。そうすると,上記構成については,当業
者にとって図面の記載から自明な事項であるから,上記構成は,本願の出願時にお
いて,当業者にとって設計的事項といえる程度の自明な事項である。
そして,前記(2)のとおり,本願発明と引用発明とでは「多結晶性材料で作成し,
たノズル」の点は一致点であり,相違点2についての検討は,引用発明が,上記相
違点2に係る本願発明の構成を有する可能性について論じているのであり,周知技
術を示すための文献に,ノズルの材料の限定がないという原告の主張は当を得ない
ものである。
そして,ノズルの構造に関する技術分野における周知技術を参酌して,当業者の
技術レベルを参照すると,このような構成は,当業者にとって周知例として例示し
た甲5ないし7のとおり周知の事項であることが分かる。
なお,甲7に記載されたものは,ネジ切り溝を設けられており,これは厳密に幾
何学的な意味では「円筒形」ではないかもしれないが,機械の分野においては,ネ
ジ切り溝を設けたものも「円筒形」に含まれることが多く(乙11参照,厳密な)
意味での「円筒形」を解釈する必要はない。
(4)ア相違点3のうち「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを,
圧入する」点及び「ノズルの位置を規定した点」は,願書に最初に添付した明細書
に記載されている事項と認められるが,それ以外の「少なくともノズルの上半部の
概ね半分以上」とする点及び「ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露
出するように」する点は,願書に最初に添付した明細書に記載されていた事項では
なく,専ら図面に基づいて補正された内容である。
そして「少なくともノズルの上半部の概ね半分以上」とする点及び「ノズルの,
下半部全体がノズルホルダーから外界に露出するように」する点については,この
ようにすることにより奏する効果も明細書に記載されていない以上,このような点
は,当業者にとって設計的事項といえる程度の自明な事項である。
イそこで,当業者の技術レベルを参照すると,まず,甲5の第3図において,
ノズル53はノズルホルダ52に挿入することによって固定されているから,強い
力で挿入される,すなわち「圧入」される必要がある。また,同図において「ノ,
」。ズルの下半部のほぼ全体がノズルホルダーから外界に露出していることが分かる
「ノズルの下半部」の最上部は,一見,ノズルホルダーに隠れているようにも見え
るが,何かに覆われているわけではなく,吐出方向である同図の下側から見れば,
「ノズルの下半部」が見えることから,ノズルの下半部全体が露出しているという
こともできる。
,,「」,,また甲8にはノズルを圧入する技術が記載されており第2図において
ノズルの下半部全体は,明らかに外界(ノズルの外部)に露出している。
さらに,甲6の第1図ないし第7図を参照すると「ノズルの下半部全体がノズ,
ルホルダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定した」点が記載されてい
。,()()るまた精密に作成されたノズル・チップ16をノズル・アダプター11
に挿入するためには,強い力で挿入される,すなわち「圧入」される必要がある。
したがって,甲6には「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを圧,
入することにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿
入し」た点も記載されているといえる。
ウなお,本願発明においては,その特許請求の範囲の記載からも明らかなとお
り,ノズルを「圧入」することにより「挿入」しているものであって,同発明にお
いて「圧入」と「挿入」は同様のものと解され,格別区別されてはいない。,
また,甲7の第2図等を参照すると「ノズル(26)の下半部全体がノズルホ,
ルダー(リティナ24)から外界に露出するようにノズルの位置を規定した」点が
記載されているといえる。
そして,甲7に記載されたノズルは,ねじ込みにより固定されているから,強い
力でねじ込み圧入固定等する必要がある。
なお,乙13ないし15の記載等からすれば「ねじ」も「圧入」されるもので,
,,,,あることが分かり特にノズルのような精密な装置においては組み付ける際に
ほとんど隙間がないので,強い力を要し,組付けに際して「圧入」が必要となる。
したがって甲7にはノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズル2,,「(
6)を圧入することにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿
入孔に挿入し」という点も記載されているといえる。
エセラミックスを金属に圧入接合することは,従来周知の技術である。
一般に,2つの部材を接合するために「圧入」により接合する方法は,慣用手段
であり(乙16ないし18参照,ノズルの素材がセラミックであったとしても,)
それを,ホルダーに圧入し,固定することは,本願出願時において周知であったも
のである。
(5)ア原告が主張する「本願発明の解決しようとする課題1ないし3(前記第」
3の2(4)参照)は,ノズルの材料であるルビーが単結晶(一般的に単結晶のもの
は,多結晶のものに比べて強度が高い)であることに起因する課題であって,本。
願発明の課題である「単結晶のルビーを装置に取り付ける際に破損する」という課
題は,前述のとおり,本願出願前において技術常識ともいえる周知の課題であり,
引用発明においても自明の課題である(乙8参照。)
してみると,引用発明においても,上記周知の課題を前提として,ノズルの材料
を焼結性ルビー,すなわち多結晶材料を採用したことは,当業者にとって明らかで
ある。
なお,ワイヤボンディング用キャピラリーにおける技術を,ノズルに転用するこ
とは,例えば先に挙げた乙5にも記載されているように,従来周知の技術である。
また,前述のとおり,セラミックスを金属に圧入接合する技術も,従来周知の技
術であって,例えば乙9,10にも,この点に関する記載がある。
そして,原告が主張する「本願発明の解決しようとする課題」も,いずれも本願
出願前に既に解決されている課題にすぎない。
イなお,審決は,引用文献と周知技術1ないし3とは,いずれも「流体吐出用
ノズルの分野」に関する技術であり,また,通常当業者において,技術の改良に当
たって当該技術分野における周知の事項の適用を試みることは,当業者が通常期待
される創作活動の範囲のことといえるから,動機付けはあるとしたものである。
ウ原告が主張する本願発明の特徴点のうち「特徴点1」については,出願当,
初の明細書に記載があるものの「特徴点2」については,出願当初の明細書に記,
載がなく,効果についての説明もない。
また「特徴点3」のうち「特徴点3−1」については,やはり出願当初の明細,
書に記載がなく,効果についての説明もない。そして「特徴点3−2」について,
は「圧入」に関しては明細書に記載があるものの,それ以外の「少なくともノズ,
ルの概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホ
ルダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定した」等の構成については,
出願当初の明細書に記載はなく,効果についての説明もないものである。
,,,このような出願当初の明細書に記載がなく効果についての説明もない構成は
「特徴点」というよりも,むしろ当業者にとって個々の設計条件に基づいて適宜に
定める「設計的事項」であるというべきである。
(6)前述のとおり,甲1(引用文献)には「多結晶ルビー」が実質的に記載さ,
れているから,この点に関する原告の主張は失当である。
また,乙5に記載されるように「単結晶ルビー」は「加工が困難であるととも,,
に高価である」から,甲1(引用文献)に記載されたもののように「加工性が優れ
た」ものでも「安価な」ものでもない。
(7)原告は,本願発明の効果について主張するが,審決のとおり,引用発明に各
周知技術を適用して本願発明のように構成することに格別の困難性はないものであ
るから,本願発明が奏する効果も,当然,引用発明及び各周知技術から,当業者が
予測し得る範囲のものである。
すなわち,引用発明に記載されたノズルは,前述のとおり,多結晶ルビーで形成
されたものであるから,原告が主張する効果①ないし③(第3の2(6)参照)を有
するものである。
まず「ノズル先端の劈開による破損・損傷を効果的に防止すること」との効果,
は,例えば乙8に記載されているように,従来周知の効果であり「多結晶材料で,
形成されたノズルと,多結晶材料と異なるノズルホルダー部とを,接着剤を使用す
ることなく圧入接合を可能とすること」との効果についても,例えば乙9,10に
記載されるように従来周知の効果である。
また「微量吐出,精密塗布を可能とすること」との効果については,ノズルの,
流路の大きさによるものであって,正確には多結晶コランダムに特有の効果ではな
く,金属製のノズルであっても,本願発明よりも内径が小さいものができることが
示されている(乙27,28。)
(8)「商業的成功」は,進歩性の判断を左右するものではない。
また,前述のとおり,本願発明が,引用発明や各周知技術に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであり,その効果も,引用発明や各周知技術と比
べ顕著なものが見当たらない以上,原告が主張する商業的成功は,本願発明の技術
的特徴に由来するものとは解されない。
(9)以上のとおり,原告が主張する取消事由2は理由がない。
3取消事由3(手続違背)に対して
(1)審決は,平成21年8月3日付け手続補正書による本願の明細書の補正によ
り原告が本願発明を限定し追加した補正事項は周知技術であると判断したのである
が,周知技術は,当業者であれば当然知っている技術であるから,拒絶理由通知と
いう形式で,上記追加した補正事項が周知技術であるということを根拠となる文献
を摘示して事前に通知しなくても,審決の上記判断が不意打ちになることはないと
いうべきであり,実質的にみても,この点につき再度の拒絶理由通知をしなかった
ことが手続違背となるものでないことは明らかである。
(2)審判段階における手続について
本願については,審査段階において,平成18年12月22日付けで拒絶理由が
通知され,平成19年4月10日付けで拒絶査定がされた。
,,,その後平成21年2月12日付けで審判段階において書面による審尋がされ
同年5月14日付けで,平成19年6月13日付けの手続補正書によりした明細書
を補正する手続補正を却下する決定がされ,平成21年5月29日付けで,拒絶理
由が通知され,同年9月15日付けで審決がされた。
ア書面による審尋(前置審尋)について
書面による審尋(甲17)では,引用文献1ないし3(乙19ないし21)が挙
げられており「先端に吐出口が形成されたノズルと,接着剤を用いずにテーパ状,
スリーブの押さえつけ力によりシリンジの下端部の孔にノズルを挿入装着し,吐出
口を外界に露出させるシリンジとからなる吐出装置において,ノズルの材質として
ルビーを採用すること」及び「ノズルとしてワイヤボンディング用のキャピラリを
採用すること」が引用文献1により公知であること「多結晶ルビーをキャピラリ,
の材料とすること」が引用文献2により公知であること「ルビー等の材料で形成,
されたノズルを孔に固定するために,押圧して挿嵌すること」が引用文献3により
公知であることが,それぞれ示された。
イ補正の却下の決定について
平成21年5月14日付けで特許庁審判体が行った補正の却下の決定において,
「ノズルホルダーに穿設されているノズル挿入孔に圧入装着し,ノズルホルダーか
ら突出し外界に露出させて,ノズルホルダーとともに,液体吐出口が最先端位置に
設けられた液体吐出用ノズルユニットを構成するための液体吐出用ノズル」は,従
来周知の技術であることが示されている。
ウ拒絶理由通知について
平成21年5月29日付けで,特許庁審判体が通知した拒絶理由(甲20)にお
いて「請求項6に記載された『ノズル10の挿入面14がノズルホルダー20の,,
ノズル挿入孔26の段部27に当接するまで圧入し,ノズルホルダー20の規定位
置にノズル10を固定することにより組立てたものである』というような発明特定
事項は,ノズルユニットの組立に際し,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎな
い」とされている。。
なお,上記拒絶理由通知において,引用文献6(乙25)及び引用文献7(甲5
1)を引用しているのは,平成19年2月26日付け手続補正書において,特許請
求の範囲の請求項5に「ノズルを圧入装着してノズルホルダーに接合したもので,
ある請求項3または4の液体吐出用ノズルユニット」と記載されていたためであ。
る。本願明細書の段落【0012】及び【0014】等にも「ノズルを圧入装着,
してノズルホルダーに接合した」と記載されている。
ここで「接合」とは,一般的に,溶接,ろうづけ(はんだ付けを含む)等を含,。
む技術用語であり,本願発明は,ノズルを圧入装着してノズルホルダーに「接合」
したものも含むものと解される。
エ本願発明の本質
本願の明細書(甲9,12,22参照)の記載を総合的にみると,本願発明の課
題は,従来のノズルの材料が単結晶であったため,ノズルが劈開,破損,損傷する
おそれがあり,これを防止することであるから,本願発明の本質は,液体吐出用の
,,ノズルを主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料で作成することであり
,,,。このように構成することによりノズルの劈開破損損傷を防止するものである
なお,本願の願書に最初に添付した明細書(甲9)の請求項1には「多結晶性,
材料で作成された液体吐出用ノズル」と記載され,これ以降に補正された請求項1
においても,ノズルが「多結晶性材料で作成された」ことが記載されていることか
らみても,本願発明の本質が「液体吐出用のノズルを,主たる鉱物相がコランダ,
ムからなる多結晶性材料で作成する」ことであることが裏付けられている。また,
本願の明細書の段落【0019】及び【0020】にはノズルの形状が,段落【0
021】にはノズルホルダーの形状が,段落【0022】にはノズルユニットの形
状が,それぞれ記載されている。
しかし,本願の明細書には,原告が本願発明の特徴であると主張する「主たる,
鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料で作成したノズル(特徴点1「前記」),
ノズルを,その上半部を前記流路(15)の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形と
し,その下半部を先細り形状とし,かつ,上半部の上下方向の長さが下半部の上下
方向の長さよりも長くなるように形成したこと(特徴点2,及び,前記ノズル挿」)
入孔(26)に前記挿入面(14)が前記段部(27)に当接するまで前記ノズル
を圧入することにより「少なくとも前記ノズルの上半部の概ね半分以上を前記ノ,
ズル挿入孔(26)に挿入し,かつ,前記ノズルの下半部全体が前記ノズルホルダ
ーから外界に露出するように前記ノズルの位置を規定したこと(特徴点3)は,」
明示的に記載されていない。
原告が主張する「特徴点2」及び「特徴点3」は「各部材の名称」及び「圧入,
すること」以外は,明細書の記載に基づくものではなく,図面の記載に基づくもの
であり,それによる効果も格別記載されていないことから,上記「特徴点2」及び
「特徴点3,すなわち相違点2及び3に関する本願発明の構成は,図面の記載か」
ら自明な事項であって,設計的事項といわれても仕方がないものである。なお,特
徴点1は,引用文献に示されている。
してみると,本願発明の本質は,液体吐出用のノズルを,主たる鉱物相がコラン
ダムからなる多結晶性材料で作成し,ノズルホルダーに圧入してノズルユニットを
組み立てることであり,しかも特徴点2及び3は,本願明細書には記載されておら
ず,図面の記載に基づいて読み取れる程度のものであるから,特徴点2及び3は,
本願発明の特徴といえるものではない。
オ周知技術1について
ノズルホルダーが「金属材料製ノズルホルダー」からなるという構成は,出願当
初の明細書に記載がなかった事項である。現に,原告は,平成21年8月3日付け
意見書(甲21)において「ノズルホルダーに『金属材料製』のものが含まれる,
ことは自明の範囲である」と主張しており,相違点1に係る本願発明の構成が,出
願当初の明細書に記載がないが,自明であって,格別の技術的意義はなく,周知事
,,項である蓋然性が高いことは当業者である原告にとって理解できるものであって
新たな理由となるものではない。してみると,予想外の事項が判断対象となったも
のということはできず,当業者である原告に不意打ちとなることはない。
そして,引用発明においても,ノズルホルダーを「金属材料製」とすることは,
自明であるとも考えられたが,被告は,当業者の技術常識を確認し,審決において
「金属材料製のノズルホルダー」が周知であることを示したものである。
被告におけるこのような審理に,特に違法はないものと解される。
カ周知技術2について
相違点2に係る本願発明の「ノズルを,その上半部を流路の径と比べ数倍以上大
径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長
くなるように形成した」という構成は,出願当初の明細書には記載がなかった事項
であるが,原告は,平成21年8月3日付け意見書(甲21)において「前記流,『
路(15)の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形』は,図1において挿入面14の
径が流路15の径の約6倍であることを根拠とする」と主張しているから,相違
点2に係る本願発明の構成が,出願当初の明細書に記載がなく,本願の図面の記載
に基づいて読み取れる程度の自明な事項であって,格別な技術的意義はなく,周知
事項である蓋然性が高いことは,当業者である原告にとって理解できるものであっ
て,新たな理由となるものではない。してみると,予想外の事項が判断対象となっ
たということはできず,当業者である原告に不意打ちになることはない。
それに対し,被告は,当業者の技術常識を確認し,審決において「ノズルを,そ
の上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長
さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成した」ことが周知技術であ
ることを示したものである。
被告におけるこのような審理に,違法はないものと解される。
キ周知技術3について
相違点3に係る本願発明の構成のうち,(a)「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当
」,(【】)接するまでノズルを圧入するという事項は出願当初の明細書段落0022
に記載されているが,周知の事項及び設計的事項であることが,平成21年5月2
9日付けの拒絶理由通知により通知されており,(b)「少なくともノズルの上半部
の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホル
ダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定した」という事項は,出願当初
の明細書には記載されておらず,図面の記載に基づくものであり,上記構成(b)に
よる効果も,本願の明細書に記載されていない。
したがって,上記構成のうち,少なくとも(b)についての相違点3に係る本願発
明の構成が,出願当初の明細書に記載がなく,本願の図面の記載に基づいて読み取
れる程度の自明な事項であって,格別な技術的意義はなく,周知事項である蓋然性
が高いことは,当業者である原告によって理解できるものであって,新たな理由と
なるものではない。
してみると,予想外の事項が判断対象となったものということはできず,当業者
である原告に不意打ちとなることはない。
そして,被告は,当業者の技術常識を調べ,上記(b)がいずれも周知技術である
ことを確認した。
また原告も認めるように補正の却下の決定甲19において被告はノ,,(),,「
ズルホルダーに穿設されているノズル挿入孔に圧入装着し,ノズルホルダーから突
出し外界に露出させて,ノズルホルダーとともに,液体吐出口が最先端位置に設け
られた液体吐出用ノズルユニットを構成するための液体吐出用ノズル」という構成
は,従来周知の技術であることを示したから「ノズルを,ノズルホルダーに穿設,
されているノズル挿入孔に圧入装着する技術」が周知技術であることは,原告に既
に通知されており,不意打ちとはならない。
そこで,被告は,審決のとおり判断したものであり,被告におけるこのような審
理に違法はないものと解される。
,,,(3)前述のとおり本願発明の本質つまり原告のいう核心的構成とする事項は
「液体吐出用ノズルを,主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料で作成す
ること」であるから,本願発明のそれ以外の構成は,原告のいう核心的構成ではな
い。
相違点1に係る「金属材料製ノズルホルダー」の構成は,出願当初の明細書に記
載のない事項であり,原告が図面の記載から「自明」といえるほど,当業者にとっ
て周知の構成であり,それによる効果も,前述のとおり,既によく知られている効
果にすぎない。
したがって,本願発明において,相違点1に係る構成(周知技術1)は核心的な
ものではない。
また,相違点2に係る本願発明の構成は,出願当初の明細書に記載のなかった事
項を,原告が図面に基づいて追加した構成であり,このような構成は,当業者にと
って設計的事項といえる程度の自明な事項であって,周知技術にすぎないことから
も理解できる。
したがって,本願発明において,相違点2に係る構成(周知技術2)は核心的な
ものではない。
さらに,相違点3に係る本願発明の構成のうち,原告が主張する①「少なくとも
ノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入」及び②「ノズルの下半部全
体がノズルホルダーから外界に露出」の構成は,出願当初の明細書に記載のなかっ
た構成を,図面に基づいて追加した構成であり,このような構成は,当業者にとっ
て設計的事項といえる程度の自明な事項であって,周知技術にすぎないことからも
理解できる。
したがって,本願発明において,相違点3に係る構成(周知技術3)は,核心的
なものではない。
(4)以上のとおり,原告が主張する取消事由3には理由がない。
第5当裁判所の判断
1本願発明について
(1)本願明細書(甲9,22)には,以下の記載がある。
「請求項1】後端に形成された挿入面(14)と,挿入面(14)に設けられた流体流入【
口と,先端に形成された液体吐出口と,流体流入口および液体吐出口を連通する流路(15)
とを具え,主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料で作成したノズルと,
最奥部に段部(27)が設けられたノズル挿入孔(26)が形成された金属材料製ノズル
ホルダーと,を含んで構成された液体微量吐出用ノズルユニットであって,
,(),前記ノズルをその上半部を前記流路15の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし
その下半部を先細り形状とし,かつ,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さより
も長くなるように形成したこと,
前記ノズル挿入孔(26)に前記挿入面(14)が前記段部(27)に当接するまで前記
ノズルを圧入することにより,少なくとも前記ノズルの上半部の概ね半分以上を前記ノズル挿
入孔(26)に挿入し,かつ,前記ノズルの下半部全体が前記ノズルホルダーから外界に露出
するように前記ノズルの位置を規定したことを特徴とする液体微量吐出用ノズルユニット」。
(甲22(なお,以下は,甲9の記載である))。
「0001】【
【発明の属する技術分野】本発明は,液体およびペースト等の液体材料を,定量に吐出およ
び精密に塗布するための装置に関し,詳しくは,微量の液体を精密に吐出または微量の液体を
高精度に塗布するノズルおよびノズルユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】ノズル先端の吐出口より液体を吐出する技術は広く知られており,微量の液
体を精密に吐出し,または微量の液体を高精度に塗布する技術としては,例えば液体が貯留さ
れた貯留容器とノズル,が着脱可能に連通するように配設され,予め制御された空圧を前記貯
留容器内の前記液体に加圧作用して前記ノズルより所望量の液体を吐出する方法が知られてい
る」。
「0004】このような技術で使用されているノズルは,金属製材料であることが一般的【
であるが,金属製材料のノズルは,精密かつ微細な加工が難しいため,極微量の液体を吐出す
る,または極微量の液体を所望位置に高精度に塗布するには,金属製材料に比べて精密かつ微
細加工が可能な高硬度な材料,例えば工業用ルビー材料といった安価な鉱物性材料で作成され
ている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし,従来使用されているルビー材料は,単結晶ルビー
であるため劈開しやすく,他の物体との接触による,破損,損傷するおそれがあり,先端が破
損,損傷したノズルで塗布描画すると,描画形状に乱れ,ムラが生じ,均一な描画形状となら
ず,また,ワーク表面とノズル先端との距離を所望量だけ設けるために,ノズル先端をワーク
表面に当接した位置を基準として,前記距離を前記ワークと前記ノズルを相対的に移動して設
ける技術が知られているが,当該技術もノズルが破損,損傷するから使用することができない
ので,その取り扱いには充分注意をはらわねければならなかった。
【】,,,,0006またノズルホルダーとノズルとを異なる材料で構成する場合にはつまり
ノズルホルダーとノズルとを別々に作成した後に,ノズルホルダーとノズルとをアセンブリし
てノズルとする場合においては,単結晶ルビーが劈開しやすいため,ノズルホルダーにノズル
を圧入接合することが不可能であるから,ノズルホルダーとノズルとを接着剤にて接合してノ
ズルを組立ていた。しかし,液体の種類によっては,前記接着剤の成分が液材に溶出し,液体
,,,が前記接着剤成分に汚染され前記液体が機能性材料である場合には所望する機能が働かず
液材に期待する効果が得られないことがあった。
【0007】そこで,本発明は,金属製材料に比べて精密かつ微細な加工が可能である材料
の鉱物性材料を使用したノズルにおいて,ノズル先端の劈開による破損・損傷を効果的に防止
して,微量吐出,精密塗布を可能とする,液体の吐出方法,およびその方法に用いるためのノ
ズルを提供することを目的とする。
すなわち,本発明は,接着剤を使用することなくノズルを組立てることのできるノズルおよ
び同ノズルを装着したノズルユニットを提供することを目的とする」。
「0015】【
【実施の形態】本発明の液体吐出用ノズルの原料は,鉱物性多結晶性材料,好ましくは鉱物
相がコランダムからなる多結晶性材料である。コランダム(鋼玉)は,結晶系が六方晶系,モ
ース硬度9の硬いアルミニウムの酸化鉱物であり,クロムの混入に基づく赤色のルビー,チタ
ンと鉄の混入に基づく青色のサファイヤなどがある。微量吐出,精密塗布用のノズルは,多結
晶性材料で形成することにより,ノズル先端の劈開による破損・損傷を効果的に防止すること
ができる。多結晶性コランダム原料は電融法,焼結法が例示される。
【0016】本発明の液体吐出用ノズルにおいて,その製造方法は特に限定されるものでは
ないが,従来から行われているように,コランダム原料にバインダーを添加し,常温もしくは
加熱下で混練した後,混練物を成形,焼成することにより製造することができる」。
「0020】なお,上記実施例においては,ノズル10は,円筒形の上半部と截頭円錐形【
の下半部とで砲弾形に構成しているが,液体の種類,吐出量,塗布形状等の条件に応じて,全
体を円筒形等の所望の形状にすることができ,また,流路15の形状についても,本実施例に
おいては,ストレート形状としているが,液体の種類,吐出量,塗布形状等の条件に応じて,
テーパ形状等の所望する形状にすることができる。
【】《》,,0021ノズルホルダー図2に示すノズルホルダー20は円筒形の本体部21と
本体部21の下部に一体に成形した,本体部21より小径の先端部25と,本体部21の上部
に,他の吐出用部材,例えば貯留容器等の他の吐出用部材に接続するための,本体部21と一
体に形成された接続部とで構成されており,上記接続部は,本体部21に続く小径部22と,
小径部22の上面に形成された周面に対向する切り欠き部24,24を具えるフランジ部23
とで構成されている。また,フランジ部23,小径部22および本体部21に亘って,他の吐
出用部材に装着するための装着孔28が穿たれており,先端部25から本体部21に亘って,
ノズル10の円筒部を圧入するためのノズル挿入孔26が穿設されていおり,ノズル挿入孔2
6と装着孔28とは同心に形成されており,両者の境界にはノズル10の挿入面14が当接さ
せるための,軸芯に直交する環状の平面を有する段部27が形成されている。
【0022《ノズルユニット》図3および図4は,図1に示すノズル10を図2に示すノ】
ズルホルダー20に圧入装着したノズルユニットを示す。
このノズルユニットは,ノズル10の挿入面14がノズルホルダー20のノズル挿入孔26
の段部27に当接するまで圧入し,ノズルホルダー20の規定位置にノズル10を固定するこ
とにより組立てる。
このとき,ノズル10は,多結晶性材料で構成されているから,劈開,破損,損傷が無くノ
ズルホルダー20に圧入接合することができ,ノズルユニットを得ることができる」。
「0024】【
【発明の効果】このように,本発明によると,多結晶性材料でノズルを形成するから,ノズ
ル先端の劈開による破損・損傷を効果的に防止して,微量吐出,精密塗布を可能とし,また,
多結晶性材料で形成されたノズルと,多結晶性材料と異なる材料で形成されたノズルホルダー
部とを,圧入接合することが可能であるから,前記ノズルとノズルホルダーの接合に接着剤が
,,。」不要となり接着剤成分の液体への溶出が無く液体をクリーンに吐出することが可能となる
(2)このように,液体及びペースト等の液体材料を,定量に吐出及び精密に塗布
するためのノズルは,金属製材料であることが一般的であるが,金属製材料は,精
密かつ微細な加工が難しいため,ごく微量の液体を吐出等するには,高硬度な材料
である工業用ルビー材料などの鉱物性材料で作成されている。
しかし,従来使用されているルビー材料は,単結晶ルビーであるため劈開しやす
く,他の物体との接触により破損,損傷するおそれがあり,また,ノズルホルダー
とノズルを異なる材料で構成する場合,つまり,ノズルホルダーとノズルとを別々
に作成した後に組み立てる場合においては,単結晶ルビーが劈開しやすいためにノ
ズルホルダーにノズルを圧入接合することが不可能であるから,接着剤にて接合し
ていたが,接着剤の成分が液材に溶出するという問題があった。
本願発明は,このような課題を解決するためのものであり,ノズルがコランダム
からなる多結晶性材料であること,ノズルホルダーが金属製であること,ノズルの
形状が下半部が先細り形状で上半部がそれより長い肉厚円筒形であること,ノズル
ホルダーのノズル挿入孔にノズルが圧入されること,及びノズルの下半部全体がノ
ズルホルダーから外界に露出すること等が特定されている。
,,本願発明はこのような構成としたことによりノズルが多結晶性材料であるため
ノズル先端の劈開による破損・損傷を効果的に防止でき,多結晶性材料と異なる材
料で形成されたノズルホルダー部と,圧入接合することが可能で,接着剤が不要と
なるものである。
(3)ただし,請求項1で特定された上記事項のうち,ノズルがコランダムからな
る多結晶性材料であること,ノズルホルダーのノズル挿入孔にノズルが圧入される
ことについては,明細書中に文言として記載があるが,ノズルの形状が下半部が先
細り形状で上半部がそれより長い肉厚円筒形であること,及びノズルの下半部全体
がノズルホルダーから外界に露出すること等の形状に関する事項については,図面
に示されているのみで,その意義を含めて,出願当初の明細書(甲9)に記載はな
いこのほかノズルホルダーが金属製であることの記載も出願当初の明細書甲。,,(
9)には見当たらない。
2取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)について
(1)原告は,審決では,甲1の焼結性ルビーは多結晶性材料であると認定してい
,,,るが甲1には焼結性ルビーが多結晶のものに限定されるとは記載されておらず
単結晶の焼結性ルビーも存在するから,甲1のノズルが多結晶か否か明らかでない
点が相違点4として挙げられるべきところ,本件審決は甲1の認定を誤り,相違点
を看過した旨主張する。
そこで,甲1の記載事項について検討する。
(2)甲1の記載事項
ア(ア)甲1には以下の記載がある。
「請求項1】平均粒径が1∼10μm,粒度分布において粒径20μm以上の粒子がカッ【
トされた細粒化かつ分級された粉末材料を,ビヒクルと混練して,使用粘度が10000∼1
00000mPa・sのペースト状にし,これを,内径40μm以上のノズルを用いたディス
ペンス方式の吐出装置により塗布することを特徴とするペーストの塗布方法」。
「0001】【
【発明の属する技術分野】本発明は,微細粉末材料からなるペーストの塗布方法,より具体
的には画像表示装置の部材の固着材として使用する低融点ガラス(フリットガラス)の線引塗
布方法,及びこの方法を用いて作製した画像表示装置に関する」。
「0041】133はノズルであり,その寸法・形状は,前述のように所望の塗布形状に【
より決定されるが,スペーサに適用する場合,ノズルの内径は通常数十∼数百μmの範囲,特
に市販されるノズルを用いることを考えると50μm以上の所望の線幅より若干小さめか若し
くは同等の径のノズルを用いる。ノズル133の材質は,SUS等の金属材,プラスチック,
セラミック等が用いられ特に限定されるものではないが,ペーストの滑り,流体的な流れ,加
工性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性セラミックが好ましい」。
また,甲1の第1図には,ノズル133が,上部が円筒形で,下部が先細り形状
となり,下半部全体が外界に露出している様子が描かれている。
(イ)以上のとおり,甲1は,微細粉末材料からなるペーストを塗布する方法に関
するものであり,ノズルとして加工性に優れたルビー等の焼結性セラミックを用い
ることが記載されている。
イ「加工性などに優れたルビー等の焼結性セラミック」の意味について
(ア)はじめに「焼結性」の意味について,原告は,焼結・成形後のノズル材料,
のみならず,焼結を行うことが可能な,焼結・成形前の原料という意味とも解され
る多義的な用語であると主張するので,これについて,検討する。
「ノズル133の材質は,SUS等の金属材,プラスチック,セラミック等が用甲1では,
いられ特に限定されるものではないが,ペーストの滑り,流体的な流れ,加工性などに優れた
(段落【0041】参照)とされルビーやサファイヤ等の焼結性セラミックが好ましい。」
ている。すなわち,ノズルとして成形されたものの材質として「ルビーやサファイ
ヤ等の焼結性セラミック」としており,原料状態のものを呼んでいるのでないこと
は明らかである。したがって,甲1における「焼結性セラミック」とは「ノズル,(
の形状に)焼結されたセラミック」のような意味に用いていると解するのが相当で
ある。
また,原告は,甲1の「焼結性セラミック」の記載を通常の意味で理解すれば,
「」,「」焼結性の部分がセラミックの性質をいうものであることは明らかで焼結性
は,焼結することができる性質であり,焼結のみの処理しかできないという性質で
はない旨主張する。
確かに,一般的に「焼結性」はセラミックの性質であるとみることは可能である
が,甲1では,成形されたノズルの材質として「焼結性セラミック」を挙げている
のであるから,この文脈において,セラミックの性質をわざわざ説明していると理
解するのは不自然であり,原告の上記主張は理由がない。
(イ)「焼結」について「広辞苑」第4版(乙1の1。株式会社岩波書店199,
5年11月10日発行)には,以下の記載がある。
「(sintering)粉末を加圧成形し融点以下の温度で熱処理した場合,粉体粒子の間に結合が生
じて成形した形で固まる現象。窯業製品・セラミックスなどの主な製法」。
同様に「岩波理化学辞典」第5版(甲31。株式会社岩波書店1998年2,
月20日発行)には,以下の記載がある。
「焼結[英sintering・・(略)・・]シンタリング.非金属あるいは金属の粉体を加圧成
,.形したものを融点以下の温度で熱処理した場合粉体間の結合が生じ成形した形で固まる現象
・・略・・焼結過程における微細構造の変化は複雑であるが,一般的には次の3つの段階に()
..,.分けて考える1)初期段階粒子どうしの癒着がおこりこの部分の面積がしだいに増加する
この変化を頸部成長(neckgrowth)とよぶ.この段階で,相対密度(焼結体密度の理論密度に対
する比)は約0.5∼0.6,収縮率では4∼5%程度までになる.2)中期段階.チャネル状の空隙
がしだいに狭くなり,相対密度は0.6∼0.95,収縮率は5∼20%近くまでになる.一般に粒
子の成長が顕著におこる.3)終期段階.相対密度が0.95以上になり,多面体化した粒子の角
の部分や粒内に空隙(気孔という)が残るだけとなる.外気と通じている気孔を通気孔(open
pore,通じていない気孔を孤立気孔(closedpore)とよぶが,この終期段階では気孔の消滅に)
よってさらに緻密化が進む・・・(後略)・・・」.
「多くの微小な単結晶また「多結晶」につき,上記「広辞苑(乙1の2)には,」,
との記載ががまちまちな結晶軸の方位をもって集合しているもの。普通の金属は多結晶」。
「任意の結晶軸に着目したとあり「単結晶」につき,同「広辞苑(乙1の3)には,」,
との記載がある。き,試料のどの部分においてもその向きが同じであるような結晶」。
同様に,被告が提出したフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia(乙3)」
「多結晶は,多数の微小な単結晶すなわち微結晶から構成されていること1)においても,
を示す。多結晶の物体は,多結晶体または単に多結晶と呼ばれる。多くの金属やセラミックス
と記載されている。は多結晶体である」。
以上のとおり「焼結」とは,粉体粒子の間に結合が生じて成形した形で固まる,
現象であり,多結晶は微小な単結晶が集合したものであるから「焼結性ルビー」,
とは,一般的に多結晶のルビーを意味すると解される。
このことは,甲1でもと「ルビーやサファイヤ等の焼結性セラミック(0041)」【】
記載され,乙31にと記載されている「多くの金属やセラミックスは多結晶体である」。
こととも符合する。
「焼結体でありながら単結晶品と同等の性質および品質を保つことがでさらに,乙4にも
との記載があり「焼結体」と「単結晶品」とは異なるものと理解されているき」,
ことが明らかである。
(ウ)「ルビーの加工性」に関して,乙6には,以下の記載がある。
「0002】【
【従来の技術】金または金合金細線などのワイヤーをLSIやICなどの半導体装置にボン
ディングするための装置としてキャピラリーが使用されることは知られており,このキャピラ
リーは,ルビー,サファイヤなどのアルミナ単結晶体,アルミナ粉末を焼結して得られたアル
ミナ多結晶体またはSiC単結晶体などで構成されており,図4の一部断面図に示されるよう
に,キャピラリーの中心に,キャピラリー1の先端へ行くほど細くなっている形状の細孔2を
有している。
【0003】前記ルビー,サファイヤなどのアルミナ単結晶体またはSiC単結晶体製キャ
ピラリーは加工が難しく,したがってコストが高いという欠点があり,そのため一般にはアル
ミナ多結晶体製キャピラリーが広く使用されている(略」。)
このように,乙6においては,ルビーなどのアルミナ単結晶体は加工が困難であ
り,アルミナ多結晶体製キャピラリーが広く使用されると記載されている。
同様に,乙5には,以下の記載がある。
「0003】そこで,強度が大きな単結晶アルミナをキャピラリーに加工したり,アルミ【
ナをインジェクション成形した成形体を脱脂,焼成,加工することによって製造しているが,
単結晶アルミナは加工が困難であるとともに高価であるので,アルミナにバインダーを加え,
インジェクション成形によって成形し,焼成したものが一般的に使用されている。また,ノズ
ルにおいても寸法的には,ボンディングキャピラリーより大きいものの,形状や求められる強
度,硬度,耐磨耗性等の機械的特性は,ほとんど同様であり,金属の細線の製造などに用いら
れている」。
なお,アルミナにバインダーを加え,インジェクション成形によって成形し,焼
成したものとは,焼結体を意味するから,乙5においては,単結晶アルミナは加工
が困難であるため,キャピラリーやノズルを(多結晶の)焼結体から製造するとさ
れている。
以上より,一般的に,単結晶のルビーは加工が困難とされ,これと比較して多結
晶体は加工が容易と理解されていることが認められる。
ウ以上のとおり,焼結されたものは,一般的に多結晶であると理解されている
こと,単結晶のルビーは加工が困難で,多結晶のルビーは加工しやすいとされてい
ることを併せて考えると,甲1のノズル材質である「加工性などに優れたルビーや
サファイヤ等の焼結性セラミック」とは,多結晶のルビー等を意味するものと解す
るのが相当である。
したがって,これと同旨の審決の一致点・相違点の認定に誤りはない。
(3)原告の主張について
,,ア原告は甲24ないし30及び32ないし40の各文献に記載されるように
ルビーやサファイヤ等の焼結性アルミナ,すなわち「焼結性ルビー」から「主たる
鉱物相がコランダムからなる単結晶材料」が得られるから「焼結性ルビー」が多,
結晶であるとした審決の認定は誤りである旨主張する。
以下,各甲号証の内容について確認する。
(ア)原料粉体を焼結させ成型品とした後,アルミナの融点以下の温度で加熱して
単結晶体(製品)を得る方法とされた甲32ないし36について
甲32ないし甲36には,原告が主張するとおり,成形,焼成・焼結した多結晶
のアルミナ物体を,融点以下の温度で加熱することにより,単結晶化することが記
載されている。
しかし,甲32には,以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
(1)酸化物セラミック微粉を所定の形状に成型する工程と,その成型体を焼成し,その
高密度焼結体をさらに該セラミックの融点以下で熱処理してなる酸化物単結晶体(明細書1。」
頁左下欄4∼8行)
すなわち,甲32においては,高密度の焼結体をさらに熱処理することにより,
単結晶体に変えているものである。
また,甲33には,以下の記載がある。
「請求項1】高密度の多結晶質セラミック物体を単結晶物体に転化させるのに十分な時間【
にわたり,前記高密度の多結晶質セラミック物体をそのセラミック材料の融点の1/2より高
くかつ該セラミック材料の融点より低い温度に加熱することを特徴とする,高密度の多結晶質
セラミック物体を単結晶物体に転化させるための固相法」。
「0001】【
【】()()()発明の分野略本発明は多結晶質アルミナPCAを単結晶アルミナサファイア
にバルク転化させるための固相法に関する(略」。)
「0011】【
【詳しい説明】PCAからサファイアへの固相転化のための本発明方法においては,PCA
出発原料は比較的純粋な焼結αアルミナであれば有用であることが判明した(略」。)
すなわち,甲33においては,高密度の多結晶質セラミック物体である焼結αア
ルミナを,単結晶物体に転化させている。
「部分焼結された多結晶質アルミナ物体」「サファイア物体に転同様に,甲34ではを,
」(【】)「」「」化請求項17多結晶質アルミナ物体サファイア物体に転化と甲35ではを,,
(請求項1)「請求項1】多結晶質アルミナ物体をサファイア物体に【】【と,甲36では,
と,記載されている。転化させる」
本件において「焼結性セラミック」が何を意味するかが問題であるところ,上,
記甲号証は,いずれも「焼結体」等と呼ばれる「多結晶物体」を「単結晶物体」,
に変えるとしているから,むしろ焼結性セラミックが単結晶を意味することを否定
するものである。
(イ)ベルヌーイ法,フラックス法,チョクラルスキー法,焼結法等の製法により
コランダム結晶(単結晶)を製造する方法に関する甲27ないし30について
甲27には,以下の記載がある。
「背景技術】【
【0002】
近年,天然に存在するような,結晶独自の立体形状を有する単結晶が,その未知なる特性か
ら各分野で求められている。
【0003】
人工コランダム結晶の製造方法としては,(1)酸素および水素炎中にコランダム結晶の原料
粉末を落下させながら結晶粒を成長させる火炎溶融法(ベルヌーイ法,(2)コランダム結晶の)
原料粉末を適当なフラックスに混合して坩堝で溶融し,溶液を徐冷しながら結晶を析出・成長
させる,または溶液を坩堝の中で温度勾配を付けながら結晶を析出・成長させる,あるいはフ
ラックスを蒸発させながら結晶を析出・成長させるフラックス法,(3)コランダム結晶の原料
粉末を坩堝で溶融し,融液から結晶を引き上げるチョクラルスキー法,(4)コランダム結晶の
原料粉末を成形した後,水素ガス雰囲気中,高温で長時間加熱して焼結する方法等が挙げられ
る」。
以上のとおり,甲27には,原告が指摘するように,ベルヌーイ法,フラックス
法などのように,単結晶を成長させる製造方法のほか,焼結法による人工コランダ
,。ム結晶の製造方法が記載されており同様の記載が甲28ないし30にも存在する
ただし,いずれの文献においても,上記製造方法の紹介は,乙7に開示された事項
に基づくものであるので,乙7の記載事項を検討する。
乙7には,以下の記載がある。
「0002】【
【従来の技術】一般に人工宝石と呼ばれるものとして,合成宝石と模造宝石とがある。この
うち,合成宝石は,天然に産出する宝石と全く同じ化学成分を有するものを人工的に合成して
製造するものであり,天然に産出する宝石とは全く異なる化学成分を有し,外観だけを宝石に
似せて作った模造宝石と区別されている。
【0003】ところで,近年,合成宝石の製造技術の進歩に伴い,天然に産出する宝石と全
く同じ化学成分を有する合成宝石が次々と人工的に合成され,ひすいとキャッツアイを除くほ
とんどの宝石について,現在既に合成宝石が商品化されている。
【】,,。0004そして合成宝石の製造方法としては以下a)∼d)の方法が確立されている
a)酸水素炎中に合成宝石の原料粉末を落下させながら結晶粒を成長させる火炎溶融法
b)合成宝石の原料粉末をるつぼで溶融し,融液から結晶を引き上げるチョコラルスキー法
c)合成宝石の原料粉末をるつぼで溶融し,融液をるつぼの中で温度勾配を付けながら凝固
させるブリッジマン法
d)合成宝石の原料粉末を成形した後,水素ガス雰囲気中で摂氏1900∼2000度で長
時間加熱して焼結する方法
【0005】ところで,上記a)∼c)の合成宝石の原料粉末を溶融する方法は,棒状又は板
状のように断面形状が単純かつ一定のものでないと製造することができない。したがって,例
えば,ワイングラスのような断面形状が複雑に変化するものを製造しようとする場合には,ま
ず棒状の素材を製造してから削り出す必要があり,素材が硬いものであることと相まって,膨
大なコストがかかるという問題点を有していた。
【0006】他方,上記d)の合成宝石の原料粉末を成形後焼結する方法は,成形可能な形状
であれば断面形状が複雑に変化するものでも製造することができるが,水素ガス雰囲気中で摂
氏1900∼2000度で長時間,例えば100時間以上,加熱しなければならず,膨大なエ
ネルギーを必要とする。このように,摂氏1900∼2000度という高温で加熱しなければ
ならないのは,アルミナ系合成宝石の場合,高い透光率を要求されるからであり,このために
はアルミナ系焼結体の密度を理論密度まで高めなくてはならず,摂氏2000度近くまで加熱
しないと理論密度に到達するような焼結駆動力が充分働かないからである。また,アルミナは
真空中で摂氏2000度近くに加熱すると激しく蒸発する。そこで,従来は,気体,例えば,
水素ガスを焼結用チャンバー内に入れて,雰囲気圧をかけることによってアルミナの蒸発を抑
えていたが,この気体が焼結の過程で閉気孔内に閉じ込められ緻密化を妨げることになる。長
時間加熱しなければならないのは,この閉気孔内に閉じ込められた気体が表面まで拡散するの
を待つためであり,また,一般的に水素ガスが使用されるのは,アルミナ系焼結体内での拡散
速度が速いからである。加えて,高温の水素ガス雰囲気に耐える耐火物は非常に高価であるこ
と,さらに1回の処理工程が長時間に及ぶことから耐火物の消耗が激しいことから,焼結に高
いコストがかかるという問題点を有していた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記従来の合成宝石の製造方法の有する問題点に
鑑み,複雑な形状の合成宝石を低廉に製造することが可能な人工宝石焼結体の製造方法を提供
することを目的とする」。
「0013(加熱温度について)アルミナ系合成宝石の原料をマイクロ波で加熱すること【】
によって,焼結時の加熱温度を従来より低い温度に設定することができる。この場合,摂氏1
400度に加熱すれば緻密化して透光性を有するようになるが,透光度が低く,商品価値の低
いものとなる。摂氏1300度以下では,透光性のある焼結体が得られなかった。一方,加熱
温度を高めることによって,緻密化が促進され,透光性が向上するが,摂氏1750度まで加
熱すれば充分緻密化し,充分な透光性のあるアルミナ系焼結体が得られることから,これ以上
高い温度に加熱する必要はなく,また,摂氏1800度以上に加熱するとアルミナの蒸発によ
る影響が無視できなくなる。したがって,加熱温度は,摂氏1300∼1800度,さらに好
ましくは,摂氏1400∼1750度に加熱する必要があることが分かった」。
上記記載によれば,乙7では,合成宝石の製造方法として,原料粉末を成形後焼
結する方法が紹介されているが,製造された物質が単結晶であるとの記載はない。
,,他方で乙7における合成宝石焼結体の製造方法として記載された事項において
,,1400度に加熱すると原料粉末が緻密化して透光性を有するようになるとされ
加熱温度を高めることによって緻密化が促進され,透光性が向上し,1750度ま
で加熱すれば十分緻密化するとされている。前記(2)イ(イ)のとおり,多結晶体が熱
処理に応じて緻密化することは考えられる(甲31参照)が「単結晶」は,甲2,
7のように「成長」すると説明されるのが普通であるし「任意の結晶軸に着目し,
たとき,試料のどの部分においてもその向きが同じであるような結晶(広辞苑,」
乙1の3)とされる,分子又は原子の配列が一定に定まった「単結晶」が,熱処理
「」,「」。により緻密化しまたそれによって透光性が向上することは想定できない
したがって,乙7で「焼結」としているのは,多結晶のものを対象とすると解す
るのが合理的であり,甲27ないし30に記載された焼結法で製造した結晶が,単
結晶を意味するものとは認められない。
この点に関し,原告は,乙7について,高い透光性を要求される合成宝石とされ
ているから単結晶が生成されていると主張するが,採用できない。
(ウ)フローティングゾーン法により単結晶を製造する甲24,37ないし40の
方法について
原告が主張するように,上記甲号証には,アルミナ原料粉末を成形,焼結し,こ
れを溶融帯(フローティングゾーン)を通過させることにより単結晶体を製造する
方法が記載され,2050度というアルミナの融点に満たない温度でもこの方法が
行われることが示唆された文献もある。
しかし,甲24には,焼結棒(棒状単結晶試料)を2050度に加熱し,溶融帯
を形成させ,アルミナ単結晶を生成せしめた(0023)旨の記載があり,この【】
ように融点で処理して単結晶としたものが,なお「焼結体」に該当すると理解すべ
き記載はない。
また,甲37では,実施例1として,焼結材(アルミナに酸化クロムを添加し,
充分混合した後に焼結したもの)を原料として,FZ(フローディングゾーン)炉
で2000度以上の高温で加熱し,単結晶を育成した旨の記載(2頁左上欄13行
∼右上欄5行)はあるが,ほぼ融点に等しい温度で加工することになる上,このよ
うにして製造された単結晶がなお「焼結体」であると理解すべき記載はない。
このほか,甲38には,単結晶を製造する方法として,以下の記載がある。
「原料棒をFZ装置(赤外線加熱単結晶製造装置)の上部シャフトに吊るし,下部シャフトに
種子結晶を設置して加熱を行ない,原料と種子の間に溶融体を形成して,この両方を同時に一
定の速度で下方に移動させて種子結晶上に結晶を育成させる(2頁右上欄20行∼左下欄5。」
行)
上記の方法は,原料と種子の間に溶融体を形成して単結晶を育成させるものであ
って,このように製造された単結晶が「焼結体」であるとは理解されない。
また,甲39及び40記載のものも,甲38同様,溶融して単結晶を製造すると
されており,このように製造された単結晶が「焼結体」であるとは理解されない。
以上のとおり,甲24及び37ないし40の記載から「焼結性ルビー」が単結,
晶のものも含むとは認められない。
(エ)単結晶の製造方法についての具体的な記載はないが,原料アルミナが焼結体
用原料にも,単結晶用原料にも使えることが記載されているとされた甲25,26
について
原告が主張するように,甲25及び26には,α−アルミナがルビー等の単結晶
用原料や,焼結体用原料となることが記載されている。
しかし,前記(2)イ(ア)で検討したとおり,甲1における「焼結性ルビー(加工」
性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性セラミック)は,成形されたノズル
の材質を意味するものであって,原料を意味するものではなく,α−アルミナが単
結晶用原料として使用できるとしても「焼結性ルビー」が単結晶を意味すること,
にはならない。
以上のとおり,甲24ないし30及び32ないし40の各文献から,甲1に記載
された「加工性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性セラミック」が単結晶
のものを含むとは認められず,原告の主張は理由がない。
イ原告は,本願発明には,ノズルを多結晶材料とすることにより,①ノズル先
端の劈開による破損・損傷を効果的に防止し,②円筒形の単純な形状のものを圧入
することにより接着剤を使用することなく組み立てることができるという格別の効
,,,。果があり審決はこの相違点を看過した結果格別の効果を看過した旨主張する
,,しかし甲1のノズルは多結晶材料で作成されたとした審決の認定に誤りはなく
相違点の看過はないので,原告の主張は理由がない。
ウ原告は「審決では『コランダム』は『ルビー』を含む概念であることの,,,
みを根拠として『焼結性ルビー』が『主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶材
料』の下位概念に当たるとして一致点と認定したが,被告は,甲1のノズルは,そ
の材質が『加工性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性セラミック』である
から『多結晶性材料』であると主張しており『コランダム』と『ルビー』の概念,,
の上下だけからでは『焼結性ルビー』は『主たる鉱物相がコランダムからなる多,
結晶材料』の下位概念に相当するとはいえない」旨主張する。
しかし,前記(2)イ(イ)のとおり「焼結体」とは一般に多結晶体を表すものであ,
り,審決はこれを踏まえて「焼結性ルビー」を「多結晶材料」と同視したものと解
されまた加工性も併せて考慮すると甲1に記載された焼結性ルビー加,「」,「」(
工性などに優れたルビーやサファイヤ等の焼結性セラミック)は多結晶材料に該当
すると解するのが相当であるから,原告の主張は理由がない。
エ原告は,甲1の「加工性に優れた」の記載につき,引用文献の「加工性に優
れた」はあいまいであり,周知技術を参酌する余地はない旨「加工性が優れる」,
ことが直ちに「多結晶」という材質にのみ起因すると結論付けることはそもそも妥
当ではない旨,乙5及び6の,ワイヤボンディングのような異なる技術分野におけ
る課題を液体微量吐出用ノズルの技術分野に適用するには,審決とは異なる新たな
論理付けが必要であり参酌することはできない旨,それぞれ主張する。
しかし,文献に示された技術事項を解釈するに当たり,他の文献に示された技術
水準などに関する背景的な事項を参考とすることは通常行われていることである。
また,乙5及び6は,甲1と同様に,液状物を供給するキャピラリー,ノズルに関
する文献であり,単結晶アルミナが多結晶のものより加工が困難とされているとい
う,一般的な事項を開示しているのであるから,これを参酌できないとすることは
できず,原告の上記主張は理由がない。
3取消事由2(容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,審決には,相違点1ないし3に係る構成を周知技術1ないし3であ
ると認定した誤りがあり,周知技術を適用することの動機付けがないにもかかわら
ず,本願発明は当業者が格別困難なく想到し得るものであると判断した誤り,さら
には本願発明の格別の効果を看過した誤りがある旨主張する。
そこで,相違点1ないし3と周知技術1ないし3及びそれらの甲1への適用につ
いて検討する。
(2)周知技術1について
ア(ア)周知技術1は,本願発明と甲1の相違点1の容易想到性判断のために指摘
されたもので,認定された本願発明と甲1の相違点1は「液体微量吐出用のノズ,
ルを含む装置」について,本願発明においては「ノズル」と「金属材料製ノズル,
ホルダー」とを含んで「ノズルユニット」を構成しているのに対し,引用発明にお
いては「金属材料製ノズルホルダー」とを含んで「ノズルユニット」を構成して,
いるかどうかが明らかでない点であり,審決は「ノズル」と「金属材料製ノズル,
ホルダー」とを含んで「ノズルユニット」を構成する点は,流体吐出用ノズルの分
野における周知技術(周知技術1)であるとして,甲2ないし4を摘示する。
(イ)甲2には,以下の記載がある。
「0001】【
【産業上の利用分野】この発明は,金属製ノズル本体とセラミック製ノズルチップから成る
燃焼室に燃料を噴孔より噴射する燃料噴射ノズルの製造方法に関する」。
甲3には,以下の記載がある。
「0001】【
【産業上の利用分野】本発明は,加湿機や2流体噴霧装置等の各種液体噴霧装置に用いられ
る気化器に関するものである」。
「0015】ノズルホルダ5は金属等の良伝熱材料から先細りの多段円柱状に形成されて【
おり,その中央にはノズル挿着孔5aが長手方向に貫通して設けられている。尚,ノズルホル
ダ5の後段外径は,接続アダプタ4の雄ネジ部4bの外径よりも僅かに小さい。
【0016】噴出ノズル6は小径の金属パイプ材から成り,前後両端が突出するようにノズ
ル挿着孔5aに挿着されている」。
甲4には,以下の記載がある。
「ノズルホルダを有する燃料噴射ノズルにおいて,前記ノズルホルダを金属製の円筒状のホ
ルダ部と,その先端部に位置するセラミック材からなるノズル部とで構成し(明細書1頁7」
∼10行)
(ウ)以上の甲2ないし4の各記載からすれば,流体噴出用のノズルを取り付ける
ためのノズルホルダーを金属材料製とすることは周知であると認められる。
そして,甲1は液体を吐出するノズルに関するものであって,ノズルを取り付け
るためのノズルホルダーを何らかの材料で形成すべきところ,そのようなノズルホ
ルダーの材料として金属材料を用いることは周知であるから,ノズルホルダーの材
料として金属材料を選択することは,当業者が容易になし得る事項であるというこ
とができる。
したがって,甲1に周知技術1を適用することにより,相違点1に係る構成とす
ることは容易であるとした審決の判断に,誤りはない。
イ原告の主張について
(ア)原告は,甲2及び4は燃料噴射ノズルの技術分野に属するもので,ノズルが
セラミックス材料であるのに対し,本願発明は「液体およびペースト等の液体材,
料を,定量に吐出および精密に塗布するための装置」の技術分野に属するものであ
るし,噴射と吐出は異なる概念であるから,審決が,技術分野の異なる甲2及び4
を挙示し「ノズル」と「金属材料製ノズルホルダー」とを含んで「ノズルユニッ,
ト」を構成する点が周知技術であると認定したのは誤りである旨主張する。
,,しかし相違点1に係るノズルホルダーが金属材料製であることの意義について
明細書に特段の記載はなく,ノズルホルダーが金属製であることが,原告が主張す
る本願発明の技術分野において特別の意義を有すると認めることはできず,原告の
主張は採用できない。
また,甲2ないし4は,噴射あるいは吐出と表現されているとしても,甲1と同
様に流体をノズルから吹き出す技術で類似したものであって,これらを斟酌するこ
とにつき阻害要因があるともいえないから,原告の主張は理由がない。
そもそも,ノズルホルダーが金属材料製であることは,平成21年8月3日付け
の手続補正(甲22)により初めて請求項1で特定された事項であり,出願当初の
明細書(甲9)には,ノズルホルダーの具体的な材料につき何ら記載はない。これ
は,ノズルホルダーを金属材料製とすることが自明な事項であり,この補正により
明細書に新たな技術的事項を導入するものでないことから補正がされたものと解さ
れるが,甲1においても,本願発明と同様にノズルが多結晶材料であるところ,ノ
ズルホルダーを金属材料製とすることは周知の技術であるから,そのような材料と
することは自明なことともいえる。
原告は,ノズルホルダーが金属材料製であることの意義を繰り返し主張するが,
,,。上記経緯にかんがみれば上記主張は明細書の記載に基づかない主張にすぎない
(イ)原告は,材料が限定されない上位概念の吐出用ノズルの場合,本願発明の解
決しようとする課題そのものが存在しなくなるので,ノズルが結晶材料(セラミッ
クス)からなることを前提に相違点1に係る構成の評価がされるべきであり,甲3
のノズルはこれと異なるから相違点1に係る構成を開示する文献として用いること
はできない旨主張する。
しかし,ノズルが結晶材料からなること自体は甲1に開示された事項であり,ノ
ズルホルダーを金属材料製とすることと,本願発明の解決しようとする課題との間
に格別の関連を認めることができないのは前記(ア)のとおりであって,原告の主張
は理由がない。
(3)周知技術2について
ア(ア)周知技術2は,本願発明と甲1の相違点2の容易想到性判断のために指摘
されたもので認定された本願発明と甲1の相違点2は本願発明においてはノ,,,「
ズルを,その上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上
」,下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成したのに対し
引用発明においては「ノズルを,その上半部を円筒形とし」ているものの,ノズ,
ルの上半部が流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚であるかどうか明らかでなく,ま
た,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成
したかどうか明らかでない点であり,審決は「ノズルを,その上半部を流路の径,
と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方
向の長さよりも長くなるように形成した」点は,流体吐出用ノズルの分野における
周知技術(周知技術2)であるとして,甲5ないし7を提示した。
(イ)甲5には,以下の記載がある。
「技術分野
本発明は流体分配装置(dispenser)またはアプリケータ,特に高周波数で作動できる電気
機械起動式の弁機構を組み込んだ流体分配装置(dispenser)またはアプリケータに関する」。
(明細書5頁3∼6行)
「適切なノズル53をノズル・ホルダ52に挿入する(明細書10頁22∼23行)。」
また,甲5の第3図には,ノズル53が,上半部を流路の径と比べ数倍以上大径
の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長い
形状とした状態が描かれている。
甲6には,以下の記載がある。
「2.特許請求の範囲
流体供給装置の端部に取はずし可能に取りつけられ,前記供給装置内に弁要素が配置され,
前記弁要素が弁座と共働して流動する材料の流量を制御するようにした少なくとも14Kg/,
cm(200psi)の圧力で粘性流体材料を押出す押出しノズルにおいて(略(1頁左

)」
下欄4∼10行)
「第6図において,ノズル装置(10)は本質的に第5図に示すノズル装置と同じである。
しかし,ノズル・チップ(16)は嵌合状に孔(20)内に固定され,そこに薄い管状端部壁
部分(32)により保持され,前記端部壁部分(32)はノズル・チップ(16)のテーパー
端部(25)に係合するように機械加工で曲げられている。
第7図に示すノズル装置において,ノズル・チップ(16)はノズル・アダプター(11)
にねじ固定されたノズル保持体(34)に固定されている(5ページ左下欄9∼20行)。」
そして,甲6の第1図ないし第7図には「ノズルを,その上半部を流路の径と,
比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向
の長さよりも長くなるように形成した」形状が示されている。
甲7には,以下の記載がある。
「産業上の利用分野〕〔
本考案は,液体微量吐出用ディスペンサの改良に係る(明細書3頁3∼4行)。」
また,甲7の第1図,第2図には,上半部の一部にネジの溝が設けられているも
のの「ノズル(6,26)を,その上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚,
円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるよ
うに形成した」形状が示されている。
(ウ)以上のとおり,甲5ないし7の記載から,流体を吐出等するためのノズルに
おいて,その上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上
下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるように形成した形状は周知
であるものと認められる。
そして,甲1のノズルは,上半部が円筒形であるが,上半部の肉厚,及び上半部
と下半部の長さの関係が不明であるところ,ノズルの形状として,上半部を流路の
径と比べ数倍以上大径の肉厚円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下
方向の長さよりも長くなるようにすることが周知なのであるから,周知の形状にな
らい,相違点2に係る構成とすることは格別困難ではなく,これと同旨の審決の判
断に誤りはない。
イ原告の主張について
(ア)原告は,材料の限定がされていない上位概念の吐出用ノズルを前提とした場
合には,本願発明の解決しようとする課題そのものが存在しなくなるから,相違点
2に係る構成が周知技術であるか否かの判断は,結晶材料で作成したノズルである
ことを前提にされなくてはならないが,審決は,ノズルの材料の限定がない一般的
な液体吐出用のノズルを含む装置について周知技術2を認定しており,失当である
旨主張する。
しかし,相違点2に係る,ノズルの上半部を流路の径と比べ数倍以上大径の肉厚
円筒形とし,上半部の上下方向の長さが下半部の上下方向の長さよりも長くなるよ
うに形成したことの意義について,明細書に特段の記載はなく,本願発明の課題解
決において,ノズルが上記形状であることが特別の意義を有する旨の原告の主張は
明細書の記載に基づくものではなく,採用できない。
また,甲1のノズルとして何らかの形状としなければならないところ,一般的な
液体吐出用ノズルの形状を参照することは特段の工夫なく行われることであるし,
甲5ないし7は,甲1同様,流体を吐出等する技術であって,類似しており,これ
らを斟酌することにつき阻害要因があるともいえないから,原告の主張は理由がな
い。
(イ)原告は,甲7記載のノズルは,ネジ切り溝を有しており「円筒形」に当た,
らない旨主張する。
しかし,甲7のノズルにおける上半部のネジ溝が形成されていない部分は肉厚の
円筒形とされているところ,甲1のノズルも,上半部が円筒形であるから,肉厚の
構成について参考とすることに問題はなく,甲7のノズルにネジ溝が形成されてい
ることをもって,審決の判断が誤りであるとすることは相当でない。
(ウ)原告は,ノズルの素材が金属でない場合には,ノズルの形成・固定が困難で
あり,一般的なノズルの形成・固定に関する技術をそのまま適用できない旨主張す
る。
一般的なノズルの形成・固定に関する技術とは何を意味しているのか必ずしも明
らかではないが,周知技術2は,ノズルの形状に関するものであるところ,多種多
様な形状のセラミックノズルが存在し,それぞれ各種形態で固定していることが明
らか(甲1,2,4,6等参照)であるから,原告の上記主張は採用できない。
(4)周知技術3について
ア(ア)周知技術3は,本願発明と甲1の相違点3の容易想到性判断のために指摘
されたもので認定された本願発明と甲1の相違点3は本願発明においてはノ,,,「
ズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを圧入することにより,少なくと
もノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部
全体がノズルホルダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定した」のに対
し,引用発明においては,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出す
るようにノズルの位置を規定してはいるものの,ノズル挿入孔に挿入面が段部に当
接するまでノズルを圧入することにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以
上をノズル挿入孔に挿入したかどうか,明らかでない点であり,審決は「ノズル,
挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを圧入することにより,少なくともノ
ズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体
がノズルホルダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定した」点は,流体
吐出用ノズルの分野における周知技術(周知技術3)であるとして,甲5ないし8
を摘示する。
甲5には,以下の記載がある(前記(3)ア(イ)も参照。)
「技術分野
本発明は流体分配装置(dispenser)またはアプリケータ,特に高周波数で作動できる電気
機械起動式の弁機構を組み込んだ流体分配装置(dispenser)またはアプリケータに関する」。
(明細書5頁3∼6行)
「適切なノズル53をノズル・ホルダ52に挿入する(明細書10頁22∼23行)。」
そして,甲5の第3図には,ノズル53の挿入面が,ノズル・ホルダ52の挿入
孔における段部に当接している様子が示されている。
甲6には,以下の記載がある(前記(3)ア(イ)も参照。)
「第6図において,ノズル装置(10)は本質的に第5図に示すノズル装置と同じである。
しかし,ノズル・チップ(16)は嵌合状に孔(20)内に固定され,そこに薄い管状端部壁
部分(32)により保持され,前記端部壁部分(32)はノズル・チップ(16)のテーパー
端部(25)に係合するように機械加工で曲げられている。
第7図に示すノズル装置において,ノズル・チップ(16)はノズル・アダプター(11)
にねじ固定されたノズル保持体(34)に固定されている(5ページ左下欄9∼20行)。」
そして,甲6の第6図ないし第8図には,ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接す
るまで挿入され,ノズルの上半部の概ね半分以上がノズル挿入孔に,ノズルの下半
部全体がノズルホルダーから外界に露出した様子が示されている。
甲7のノズル6も,甲6における第7図の例と同様にねじ固定するものであり,
甲7の第1図には,ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまで挿入され,ノズル
の上半部の概ね半分以上がノズル挿入孔に,ノズルの下半部全体がノズルホルダー
から外界に露出した様子が示されている。
また,甲8には,以下の記載がある。
「本発明の主な特徴は,ろう付け接続などの従来の手段によってバルブ座部品78の下端部
88の中に固定されたノズル機構40に関する(17頁17∼19行)。」
そして,甲8の第2図には,ノズル挿入孔にノズルが挿入され,ノズルの上半部
の概ね半分以上がノズル挿入孔に,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界
に露出した様子が示されている。
(イ)まず,相違点3に係る本願発明の「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接する
までノズルを圧入する」構成の意味について検討する。
本願発明は,前記1のとおり,従来,ノズルホルダーとノズルとを接着剤で接合
していたものを,接着剤を使用せずに固定しようとするものであるから,ここでい
う「圧入」とは,ノズルを,挿入孔に対して強い圧力で押し込むことにより,強固
,,「」な固定関係を生じさせることを意味するものと解されこのような解釈は圧入
につき「強い圧力で物を押し込むこと」とする広辞苑(甲47,乙1の4)の記。
載とも一致する。
一方「挿入」とは,通常「さし入れること,さしこむこと(株式会社岩波書,,」
店発行広辞苑第6版)のような意味であり,挿入した状態ですきまがあることも
排除されていない(甲46参照)から,固定状態までを意味する言葉ではない。そ
して,前記のとおり,ノズルを固定させる方法として接着剤を用いることが知られ
ており,ノズルに接着剤を塗布した上で,ノズルホルダーに挿入して接着して固定
することも考えられる。
以上を前提にすると,甲5では「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまで,
ノズルを挿入することにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル
挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出する
ようにノズルの位置を規定した」構成が開示されているといえるが,ノズルの固定
関係についての明示はなく,本願発明でいう「ノズルを圧入」する構成が開示され
ているとまではいえない。
甲6では,甲5と同様に,ノズルを挿入孔に「圧入」するとの記載はなく,第6
図には,ねじ固定する例が示されている。他方で,本願発明は,単結晶ルビーを圧
入すると劈開しやすい問題を解消するために,多結晶性材料としたものであり,ね
じ固定する場合このような問題は生じないはずであるから本願発明における圧,,「
入」が,ねじ固定に伴う圧入を意味しているものと解することはできない。
したがって,甲6では「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまでノズルを,
挿入することにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル挿入孔に
挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出するようにノ
ズルの位置を規定した」構成が開示されているといえるが「ノズルを圧入」する,
構成が開示されていると認めることはできず,甲7も同様である。
また,甲8には,従来の手段によって固定されるとの記載はあるが,例示されて
いるのはろう付けであり「圧入」が甲8でいう従来の手段に含まれるか否かは明,
らかではない。
したがって,甲5ないし8より「ノズル挿入孔に挿入面が段部に当接するまで,
ノズルを挿入することにより,少なくともノズルの上半部の概ね半分以上をノズル
挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出する
ようにノズルの位置を規定した」構成は周知ということができるが「ノズルを圧,
入すること」が周知といえるか否かは不明である。
(ウ)この点に関し,被告は,一般に2つの部材を接合するために「圧入」により
接合する方法は周知慣用手段であるとして,乙9,10,16ないし18を挙げる
ので,これらの証拠につき検討する。
乙9には,以下の記載がある。
「特許請求の範囲】【
【請求項1】セラミックス部材と金属部材とを嵌合させることにより,各々の接合面で接
触させて機械的に接合する方法であって,上記セラミックス部材及び金属部材の少なくとも一
方の接合面に,加熱によってその滑性が消失する滑剤を塗布して,上記セラミックス部材と金
属部材とを圧入接合し,その後接合面を加熱する熱処理を行なうことを特徴とするセラミック
スと金属との接合方法」。
「0002】【
【従来の技術】従来,セラミックス製の部材と金属製の部材とを接合する場合には,溶接等
による化学的接合や嵌合等による機械的接合があり,このうち,機械的接合としては,圧入,
焼バメ,冷バメ等が行われている。
【0003】
【】,,発明が解決しようとする課題しかしながら上記の焼バメや冷バメによる接合方法では
大がかりな装置が必要であり,従って高コストであるという問題があった。また,これらの方
法は,セラミックスと金属との熱膨脹率の差を利用して,両部材の接合部を高温もしくは極低
温にした状態で嵌合するために,接合部が常温に戻った時に,大きな残留応力が発生するとい
う問題があった。更に,焼バメの場合には,金属組織が変態するという問題があり,冷バメの
場合には,締め代があまり確保できないという問題があった。
【0004】一方,温度変化を伴わない圧入接合の場合は,上記加熱や冷却に伴う問題は回
避されるが,その反面,セラミックスと金属と間にカジリと呼ばれる現象,即ち圧入時に金属
がセラミックスに凝着し,金属表面がむしれた状態となる現象が発生し,圧入荷重が極端に上
昇するという難点があった。このため,接合部に残留応力が発生し,接合強度が低下したり,
或は製造した部品に重心のアンバランスが発生する等の問題があった。
【0005】このカジリを抑制するために,従来より,二硫化モリブデンや黒鉛といった滑
剤を,予め接合部に塗布して圧入接合する技術が開発されているが,これらの滑剤を用いた場
合には,接合後にも接合部が滑り易いので,接合部の保持力が弱くなり,耐抜け強度や耐ねじ
り強度等が低下するという別の問題が生じていた」。
以上の乙9の記載からすれば,圧入による接合が従来から行われてきたこと,圧
入による「カジリ(圧入時に金属がセラミックスに凝着し,金属表面がむしれた」
状態となる現象)を抑制するために,予め接合部に滑剤を塗布する技術が開発され
ていることが認められる。
乙10には,以下の記載がある。
「0002】【
【従来の技術】従来より,タ−ボチャ−ジャロ−タやタ−ビンロ−タ等に利用されるセラミ
,,()ックと金属との結合体においては図4に示すように金属部材3に凹部4もしくは貫通孔
を設け,その凹部4にセラミック部材2を圧入して両部材の互いの押圧力によって結合させた
構造が知られている。
【0003】この「圧入」は,中間にろう材等の接合材料を介在させる必要もなく,結合時
に熱衝撃が加わることもない有用な結合方法であるが,結合体の一方の部材がセラミックスで
あるときに押圧力を高めようとすると,セラミックス3と金属1との間にカジリと呼ばれる現
象,即ち圧入時に金属がセラミックスに凝着し,金属の凹部4内面がむしれた状態となる現象
が発生し,圧入荷重が極端に上昇するという難点があった。このため,接合部に残留応力が発
生し,接合強度が低下したり,或は製造した部品に重心のアンバランスが発生する等の問題が
あった。
【0004】そこで,前記カジリを抑制するために,従来より,二硫化モリブデン,黒鉛,
高級アルコールといった滑剤もしくは潤滑油を,予め接合部に塗布して圧入接合する技術が提
案されている(特開平4−134715号公報」)。
以上の乙10の記載からすれば,圧入による結合が従来から行われてきたこと,
圧入による「カジリ」を抑制するために,予め接合部に滑剤や潤滑油を塗布する技
術が開発されていることが認められる。
乙16には,以下の記載がある。
「この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,金属製ノズル本体の先端部の中空
部内にセラミック製ノズルチップを圧入,焼嵌め,接合等で簡単に配置できると共に(略」,)
(3頁左上欄13∼16行)
このように,乙16には,圧入による固定方法が,各種の固定方法と共に例示さ
れている。
乙17には,以下の記載がある。
「0005】また,図2は本発明の樹脂成形用ダイの別の態様を示す略示図であり,ここ【
ではノズルの突出部はセラミックにより構成されている。このようにノズルの突出部をセラミ
ックで形成すると,目ヤニの発生防止,発生した目ヤニの変色防止の面で一段と効果があるの
みならず,耐摩耗性にも優れるため特に好ましい。ノズルの突出部をセラミックで形成するに
あたっては,図2の如くダイフェースから所望長さに突出し得る長さを有し且つ溶融樹脂を目
的形状に賦形するためのノズル孔が設けられたセラミック製ノズルチップを形成しておき,こ
れをダイ本体に設けられたノズルチップ取付用孔部に嵌合させ,焼き嵌め等の手段により固定
するのが好ましい。焼き嵌めは,金属に比べてセラミックの熱膨張係数が小さいことを利用し
た固定法であり,例えば,本発明の如きダイにおいては,金属製のダイ本体を高温に加熱して
おき,そのノズルチップ取付用孔部にセラミック製のノズルチップを圧入嵌合したのち冷却す
ることにより強固な接合が行われる(略」。)
以上のとおり,乙17には,ノズルチップ取付用孔部にセラミック製のノズルチ
ップを圧入することが記載されている。
乙18には,以下の記載がある。
「ノズルボディ3の一端には,中空形状のノズルチップ1が圧入固定されている(2頁左。」
下欄9∼10行)
,,。以上のとおり乙18にはノズルチップを圧入固定することが記載されている
以上からすれば,本願発明でいう「圧入」は,周知で慣用されている固定手段で
あることが認められる。
なお,原告は,乙9及び10に開示される技術は「滑剤を塗布」して圧入する,
技術であり「滑剤を塗布」するという付加的な工程を有しない「セラミックスを,
金属に圧入接合する技術」が開示されているわけではなく,さらには「滑剤」が,
溶出し,液材が汚染される可能性もある旨主張する。
しかし,前記のとおり,乙9及び10には,圧入による接合が従来から行われて
きたこと,圧入による「カジリ」を抑制するために,予め接合部に滑剤等を塗布す
る技術が開発されていることが記載されており「滑剤を塗布」しない圧入の存在,
を前提に,その問題点を解消する方法として「滑剤を塗布」する構成が開示されて
いるから,原告の主張は理由がない。
また,原告は,乙16及び17においては,本願発明と同じ態様で圧入するもの
ではない旨主張するが,これらの文献上,少なくとも,固定手段として「圧入」を
用いることが示されているものである。
(エ)ところで,審決が摘示した甲5ないし8は「圧入」による固定が周知であ,
ることの例示として必ずしも適切ではないが,審決の前提となった平成21年5月
29日付け拒絶理由通知書(甲20)では「請求項5に特定するようにノズルを,
圧入装着することも,従来周知の技術(例えば,前記引用文献3ないし5の各記載
を参照)である」として,乙22ないし24(引用文献3ないし5に相当)を摘。。
示している。
乙22(実開平6−34769号のCD−ROM)には,以下の記載がある。
「0007】【
前部ガン本体2の前端にはシール部材17を介して袋ナット18が螺着されており,この袋
ナット18で固定された中空のノズルホルダ19の前端にノズル20が圧入により固定され
る。ノズル20には,前部ガン本体2のシーラー供給通路2に連通するノズル通路20及11
び吐出口20が形成される」2。
このように,乙22には,ノズル20をノズルホルダ19に圧入して固定するこ
とが記載されている。
乙23(特開2001−212487号公報)には,以下の記載がある。
「0027】距離Lのばらつきが,液体(ペースト半田)の吐出量のばらつきの1要因と【
なるので,距離Lのばらつきを抑える必要があり,このためには,寸法C∼Gのそれぞれのば
らつきを抑える必要がある。寸法Cはブロック部品8の部品寸法であり,寸法Dはワーク押え
板11の部品寸法であり,寸法Eはシリンジ保持部6の筐体6a及びストッパー14の部品寸
法により決定される寸法であり,寸法Fはホルダー13の部品寸法であるため,寸法C∼Fに
関しては,それらの部品の製造時に部品寸法のばらつきを抑えればよい。しかし,シリンジ5
の口金5bに圧入されるノズル5aは,ノズル5aの目詰まり等が発生した場合等に比較的頻
繁に交換される部品であるため,その度に,口金5bからのノズル5aの突出高さ(寸法G)
を調整しなければならない。ノズル5aの交換が必要となった場合,作業者は古いノズル5a
を口金5bから抜いて新しいノズル5aを圧入する作業を行う。シリンジ5の口金5bにノズ
ル5aを圧入する寸法がばらつくと,シリンジ5の口金5bからノズル5aの先端までの長さ
がばらつくので寸法Gのばらつきの1要因となる。口金5bからノズル5aの先端までの長さ
のばらつきを抑えるためには,例えば,図10に示す治具を用いてノズル5aの圧入作業を行
えばよい。
【0028】図10の断面図に示す略円筒状の治具17には,軸方向の一方の端部に略円柱
状の凹部が形成され,さらに,その凹部の底面に,その凹部と同じ軸を有する口金収納用凹部
17aが形成されている。さらに,その口金収納用凹部17aの底面には,治具17の軸方向
の他方の端部に貫通するノズル挿通口17bが形成されており,他方の端部の端面と,口金収
納用凹部17aの底面との距離はシリンジ5の口金5bからノズル5aの先端までの長さ寸,(
法G)となるように構成されている。次に,治具17を用いてノズル5aの突出長さを調整す
る方法について説明する。まず,口金5bに新しいノズル5aを少し圧入し,ノズル5aを治
具17の凹部側からノズル挿通口17bに挿通させ,口金部5bを口金収納用凹部17aの底
面に当接させる。これにより,治具17の軸方向の他方の端部にノズル5aの先端が突出する
ので,この状態で,ノズル5aの先端が,治具17の軸方向の他方の端部の端面と面一になる
まで,突出したノズル5aを治具17の方に押し,ノズル5aを口金5bにさらに圧入する。
このように,図10に示す治具17を用いることにより,口金5bから突出するノズル5aの
突出長さ(寸法G)のばらつきを容易に抑えることができる」。
以上の記載からすれば,乙23では,ノズル5aを口金5bに圧入しており,こ
れにより固定しているものと認められる。
乙24(特開2001−300354号公報)には,以下の記載がある。
「0028】上記貫通孔14の内周面と,上記ノズル4の外周面とはほぼ同じ形状でほぼ【
同じ大きさとされている。そして,上記外側パイプ6の内部側から上記貫通孔14に上記ノズ
ル4の他端部18が圧入されて,上記貫通孔14の内周面に上記ノズル4の一端部17の外周
,,,面が全体的面接触するよう圧接させられておりもって上記ノズル基部2の外側パイプ6に
上記ノズル4が固定されると共に,貫通孔14の内周面とノズル4の一端部17の外周面との
間のシールが十分になされている」。
「0032】上記構成によれば,上記貫通孔14の内径寸法と,上記ノズル4の上記一端【
部17の外径寸法とをそれぞれ上記一方向Aに向うに従い一旦ほぼ一定寸法とした後,増大さ
,。せるようにし上記貫通孔14の内周面に上記ノズル4の一端部17外周面を圧接させてある
【0033】このため,上記ノズル基部2へのノズル4の固定は,上記ノズル基部2の貫通
孔14にノズル4の一端部17を圧入させることにより達成されることから,従来のように,
ノズル基部が外側パイプと内側パイプと,上記外側パイプに内側パイプを内嵌させるためのね
じ手段とを備え,かつ,上記ノズルが径大部と径小部とを備えて,これらが機械加圧されてい
たことに比べて,機械加工が少なくて済み,よって,その分,ノズル装置1の成形が容易にで
きることとなる」。
すなわち,乙24では,ノズル4を外側パイプ6の内部側から貫通孔14に圧入
するので,本願発明と態様は異なるが,ノズル4を貫通孔14に圧入して固定して
いるものと認められる。
以上からすると「ノズルを圧入する」ものとして審決が摘示した甲5ないし8,
は,必ずしも適切ではないが,その前提となる拒絶理由通知書(甲20)において
も「ノズルを圧入する」技術が周知であるとして,乙22ないし24が摘示され,
ており,これらの文献から,実際に「圧入」による固定方法が周知技術であると認
めることができる。そうすると,拒絶理由通知を受けた原告も,上記周知技術の内
容を理解していたはずであるから,審決が再度提示した文献が「ノズルの圧入」,
が周知技術であることを示す文献として必ずしも適切ではなかったとしても,審決
を取り消すべき瑕疵があるとまではいえない。
「単結晶ルビーが劈開しやすいため,ノなお,原告自身が,本願の明細書において,
(【】),ズルホルダーにノズルを圧入接合することが不可能」と記載し段落0006参照
接合方法として圧入を考慮していることからして,このような周知慣用技術の存在
を知っていたというべきである。
(オ)そして,甲1のノズルは,ノズルホルダーから下半部全体が露出するように
固定されているものの,この固定の態様が不明であるところ「ノズル挿入孔に挿,
入面が段部に当接するまでノズルを挿入することにより,少なくともノズルの上半
部の概ね半分以上をノズル挿入孔に挿入し,かつ,ノズルの下半部全体がノズルホ
ルダーから外界に露出するようにノズルの位置を規定」すること,および圧入によ
り固定することが周知なのであるから,周知の固定態様にならい,相違点3に係る
構成とすることに格別の困難性はなく,同旨の審決の判断に,誤りはない。
イ原告の主張について
(ア)原告は「ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出する」構成,
につき,甲5及び8に開示はなく,甲5及び8につき,線引塗布の態様で使用され
るノズルと同じに扱うことは論外である旨主張する。
しかし,本願発明の請求項には,本願発明に係る液体微量吐出用ノズルユニット
が,ワークとノズルを相対的に移動して線状描画塗布するためのものとの特定はな
い上「ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出する」構成であるこ,
との意義についても,明細書に記載はなく,原告の主張は,その前提において失当
である。
なお,原告は,明細書に記載されていないとしても,図面の記載から発明の効果
が把握されるのであればそれで足りる旨主張する。
しかし,当該発明における特定の構成が,従来技術と比し,異質な意義があると
いうことであれば,そのような意義が図面の記載のみから把握され得るとは認め難
く,このような意義は明細書に明記すべきものであり,原告の上記主張は採用でき
ない。
また「ノズルの下半部全体がノズルホルダーから外界に露出する」構成につい,
ては,甲1自体が有している上,甲8の第2図において,ノズルの下半部全体がノ
ズルホルダーから外界に露出しているとみることも可能であり,甲5も,第3図に
おいては,ほぼこれに沿う形状となっているから,原告の主張は理由がない。
(イ)原告は,相違点3に係る構成は,結晶材料(セラミックス)で作成したノズ
ルを金属材料製ノズルホルダーに装着する構成を前提とした場合は,甲5ないし8
に係る文献のいずれにも記載されない構成である旨主張する。
しかし,ノズルを結晶材料(セラミックス)で作成すること自体は甲1が有して
いる構成であり,それがどのような固定態様を取り得るかが問題であるから,甲5
ないし8のノズルの材質が結晶材料(セラミックス)でないことをもって,審決が
周知技術の認定を誤っているとすることはできない。また,セラミックス製のノズ
ルを何らかの形態でノズルホルダーに取り付ける必要があるが,そのために周知の
形状を参考にすることは,特段の工夫なく行われることであるし,これらの構成を
甲1に適用することを阻害する要因はない。
(5)甲1と周知技術1ないし3の組合せについて
ア原告は,本願発明は,課題1ないし3を解決するために,特徴点1ないし3
の構成を備えているものであるが,甲1ないし8には,上記構成とするための示唆
等はなく,甲1に周知技術1ないし3を適用する動機付けはない旨主張する。
しかし,まず「主たる鉱物相がコランダムからなる多結晶性材料で作成したノズ
ル」は,甲1自体が有している構成である。
また,乙8(特公平3−16779号公報)には,以下の記載がある。
「特許請求の範囲
1少なくとも先端部を,純度が99.9%以上で,かつ平均気孔径が1μm以下のアルミ
。」ナ多結晶セラミツクスにより形成したことを特徴とするワイヤボンデイング用キヤピラリー
「また,ルビー,サフアイア等のアルミナ単結晶で形成したキヤピラリーの場合は,先端部
への導線や電極粉の付着や摩耗は少ないが,キヤピラリー自体を製造する加工工程中に発生し
たマイクロクラツクに基づき,キヤピラリーをボンデイング装置に取り着ける際などの取り扱
い中に欠けや折れが発生することが多く,ボンデイングにより寿命を全うするものに対し途中
で使用不能となるものが約50%あつた。さらにルビーやサフアイアは,アルミナ多結晶セラ
ミツクスに比べコストが高いという問題点もあつた(1頁2欄8∼18行)。」
以上の記載からすれば,アルミナ単結晶は破損しやすいため,アルミナ多結晶セ
ラミックスを用いることは既に知られたことであり,当然,甲1においても妥当す
る事項である。
次に,ノズルの上半部を肉厚円筒形とすること,上半部と下半部の長さ関係等に
ついては,前記(3),(4)のとおり,その意義について明細書に記載はなく,それぞ
れノズルに適宜採用可能な周知の形状であるから,原告の主張は採用できない。
さらに,圧入に関する構成についても,ノズルを何らかの方法でノズルホルダー
に固定する必要があるところ,前記(4)のとおり,圧入は固定手段として周知慣用
されている方法であるから,その採用に特別困難性があるとはいえない。
イ原告は,甲1,2,4及び6に記載の各発明は,金属材料製ノズルと同じ態
様で固定できないことを前提に,金属材料製ノズルとは異なる固定態様を探求する
ものであり,甲45は,セラミック材料を「しまりばめ」により締結することは極
力避けるべきとしているから,金属材料製ノズルと同様の態様でノズルを固定する
ことは動機付けられないと主張する。
しかし,前記(4)ア(ウ)で,乙9,10,16,17につき検討したとおり,セラ
ミックからなる部品を金属からなる受け部材に圧入することは,普通に行われてい
ることであるから,原告の主張は採用できない。
ウこのほか,原告は,本願発明は,金属材料製ノズルでは加工が難しいほどの
ごく微量の塗布を行うことに適するものであり,線幅数十μmの線引塗布を行うこ
,「」「」,とも可能であるが加工性などに優れた性質は単結晶ルビーも備えており
甲1には,焼結性セラミックの中から「多結晶性材料」を選択することの意義は何
ら記載されていない旨主張する。
しかし,材料を多結晶性とすることの意義について,甲1から把握可能であるこ
とは前記アのとおりであり,単結晶のルビーに比べ,多結晶のルビーの加工が容易
であることが知られているのは前記2(2)イ(ウ)のとおりであって,原告の主張は理
由がない。
(6)格別の効果の看過について
原告は,本願発明の効果は,①ノズル先端の劈開による破損・損傷を効果的に防
止すること,②多結晶性材料で形成されたノズルと,多結晶性材料と異なる材料で
形成されたノズルホルダー部とを,接着剤を使用することなく圧入接合を可能とす
ること,③微量吐出,精密塗布を可能とすることであり,少なくとも②,③の効果
については「引用発明及び周知技術1ないし3」から予測することはできない格,
別の効果であって,これらの効果を予測できるとした審決の判断は誤りである旨主
張し,本願発明では精密塗布することが可能であるとして実験報告書(甲72)を
提出している。
しかし,甲1は,本願発明と同様に多結晶性材料でノズルを製造するものである
,,。,からこの構成に基づく本願発明の上記①③の効果を有するものといえるまた
接着剤を使用することなく簡易に接合できることは,圧入による接合方法自体が必
然的に有する作用効果であり,接合手段として圧入を採用することは適宜行われる
ことであって,その採用に伴う効果も当業者が極めて容易に予測できることが明ら
かであるから,原告の主張は理由がない。
(7)商業的成功について
原告は,本願発明の実施品に係るルビー製ノズルを含むノズルユニットは,微細
なパターニングを実現するために必要とされる微細なノズルをノズル先端の劈開に
よる破損・損傷の問題や接着剤溶出の問題を解消して提供可能とするものであり,
商業的な成功を収めている旨主張する。
しかし,引用発明に周知技術1ないし3を適用して本願発明の構成とすること,
それによる効果も容易に予測可能であることは上述のとおりであるから,それにも
かかわらず,本願発明の実施品が商業的な成功を収めているというのであれば,本
願発明の実施品とそうではなかった製品とについて,それぞれの売上高の推移など
について明らかにし,そのうち本願発明の実施と因果関係を有するのがどの程度か
等を主張し,必要な関係資料を証拠として提出すべきであるのに,原告は必要な主
張立証を尽くしておらず,原告の主張は採用するに由ない。
(8)以上のとおり,本願発明は,引用発明を前提として,周知技術1ないし3を
斟酌することにより容易想到であったといえるものであり,この点に関する判断に
つき,審決に誤りはない。
4取消事由3(手続違背)について
(1)原告は,相違点1ないし3に係る構成は,いずれも本願発明が解決しようと
する課題と密接に関連する構成であり,核心的なものである旨主張する。
,,,「」しかし前記3のとおり相違点1ないし3に係る構成はノズルを圧入する
ことに関する構成以外,いずれも,明細書上,図面にのみ根拠があるか,又は何も
根拠がない構成である。また,その意義についても,同図面の内容を,これに明細
書の全体を併せて検討してみても,その構成が本願発明の核心的ないし特徴的な構
成と認めることはできない。
なお「ノズルを圧入する」構成については,甲20(拒絶理由通知書)におい,
て「請求項5に特定するようにノズルを圧入装着することも,従来周知の技術」,
として指摘されておりかつこの手段が実際に周知技術であることは前記3(4),,,
ア(ウ)で検討したとおりである。
(2)ア原告は,相違点1ないし3に係る構成は,相違点3における「圧入」に関
する構成を除き,審判段階で出願人に通知された拒絶理由通知(甲20)に応答す
る手続補正書(甲22)により初めて付加されたものであり,特許庁審判官は,審
決において初めて挙示した文献により周知技術1から3を認定したが,これらが審
決以前に争点とされたことはない旨主張する。
しかし,拒絶理由通知に応答する手続補正書により初めて請求項に付加された構
成に対して,その拒絶理由通知において文献が摘示されていないのは,審査対象と
なった請求項に当該構成が特定されていなかったのであるから,摘示する必要もな
く,そもそも摘示不可能であり,当然のことである。
イまた,原告は,特許庁審判官が,審決において初めて挙示した周知技術を単
に当業者の技術水準を知るためなどに補助的に用いたのではなく,実質的な引用例
として判断を行った違法がある旨主張する。
引用例を挙げて本願発明の容易想到性を指摘する拒絶理由を受けた出願人(審判
請求人)が,当該拒絶理由を回避するために,当該引用例からだけでは想到できな
い構成とする補正を行い,拒絶理由を回避しようとすることがある。
本件においては,拒絶理由通知後の手続補正(甲22)で補正された相違点1か
,,,ら3に係る構成につき審決で摘示された周知技術1ないし3は前記3のとおり
いずれも実際に周知技術であることが認められるところ,前記(1)のとおり,相違
点1から3に係る構成は,本願発明における核心的ないし特徴的な構成とはいえな
い。
そうすると,当事者の手続保障の観点からしても,相違点1ないし3に係る構成
には,改めて特許出願人である原告に対し,拒絶理由を通知して,応答の機会を与
えることが必要となるような事項はない以上,特許庁審判官が,原告に対し,当該
相違点1ないし3に対応する周知技術1ないし3について,改めて文献を摘示し,
意見を述べる機会を与えなかったとしても,違法になるとはいえない。
(3)以上のとおり,本件での事情の下,特許庁審判官が,原告に対して改めて拒
絶理由を通知せず,相違点1ないし3に係る構成がいずれも周知技術であるとした
点に手続上の違法があるとはいえない。
5このように,審決による,引用発明と本願発明との一致点・相違点の認定,
容易想到性の判断に誤りはなく,手続違背もないから,審決に誤りはなく,原告の
請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

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