弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,平成11年6月から平成17年8月31日まで株式会社a名古屋支店
営業部長,平成17年9月1日から同支店副支店長であったものであるが,以下の
各行為をした。
第1b株式会社営業本部副本部長A及び別表1(省略)記載のc株式会社営業一
部長Bらと共謀の上,愛知県瀬戸市役所発注の建設工事に関する郵便公募型指
名競争入札において,同市内の土木建設業者等が有利な価格で落札することが
できるよう入札参加業者間で談合することを企て,愛知県瀬戸市役所が平成1
7年9月15日に開札した「α幹線管渠工事」の郵便公募型指名競争入札に,
前記c株式会社等入札参加業者合計25社が参加するに際し,公正な価格を害
する目的で,平成17年8月下旬ころ,愛知県瀬戸市n町o番地社団法人d事
務所等において,前記工事をe株式会社に落札させるため,同社以外の入札参
加業者においては前記e株式会社常務取締役Cの指定する価格で入札すること
を入札参加業者のうち株式会社f以外の24社間で取り決めるとともに,同年
9月7日ころ,名古屋市p区qr丁目s番t号株式会社a名古屋支店において,
前記入札への参加意思を有していた株式会社f開発事業部長Dに対し,同社が
前記取り決めに従うよう説得して,これを承諾させ,さらに同月上旬ころ,前
記e株式会社以外の入札参加業者の各営業担当者等に各社が入札すべき金額を
記載した工事内訳表を配付するなどの方法により,前記e株式会社以外の入札
参加業者である前記c株式会社ら24社が,前記e株式会社より高額で入札し
て同社に前記工事を落札させることを協定し,もって公正な価格を害する目的
で談合した。
第2株式会社a名古屋支店副支店長E,株式会社g名古屋支店営業1部長F,同
支店副支店長G,株式会社h名古屋支店営業部長H,同支店営業部副部長I及
び別表2(省略)記載のi株式会社名古屋支店営業部長Kらと共謀の上,名古
屋市上下水道局発注の土木工事に関する入札後資格確認型一般競争入札におい
て,特定の土木建設業者が有利な価格で落札することができるよう入札参加業
者間で談合することを企て,名古屋市上下水道局が平成17年3月9日に開札
した「β準幹線下水道築造工事」の入札後資格確認型一般競争入札に,前記株
式会社g名古屋支店等19社が参加するに際し,公正な価格を害する目的で,
平成17年2月上旬ころ,前記株式会社a名古屋支店等において,前記工事を
前記株式会社g名古屋支店に落札させるため,前記工事の落札を希望していた
前記株式会社h名古屋支店においては,発注者である名古屋市上下水道局には
秘匿した形態で前記株式会社g名古屋支店と共同企業体を結成し,反面,前記
入札には参加しないことを取り決めるとともに,平成17年2月中旬ころから
平成17年3月上旬ころまでの間,名古屋市u区vw丁目x番y号前記株式会
社g名古屋支店等において,同支店以外の入札参加業者が前記Fの指定する価
格で入札することを取り決めるなどの方法により,前記株式会社g名古屋支店
以外の入札参加業者である18社が,前記株式会社g名古屋支店より高額で入
札して同社に前記工事を落札させることを協定し,もって公正な価格を害する
目的で談合した。
第3前記第2のE,株式会社j名古屋支店副支店長L,同支店土木営業部部長M
及び別表3(省略)記載のk株式会社名古屋支店副支店長Nらと共謀の上,名
古屋市上下水道局発注の土木工事に関する入札後資格確認型一般競争入札にお
いて,特定の土木建設業者が有利な価格で落札することができるよう入札参加
業者間で談合することを企て,名古屋市上下水道局が平成17年3月9日に開
札した「γ幹線下水道築造工事」の入札後資格確認型一般競争入札に,前記株
式会社j名古屋支店を代表構成員とするj・k・l特別共同企業体等9特別共
同企業体が参加するに際し,公正な価格を害する目的で,平成17年2月上旬
ころ,前記株式会社a名古屋支店等において,前記工事を前記j・k・l特別
共同企業体が落札することを取り決めるとともに,平成17年2月中旬ころか
ら平成17年3月上旬ころまでの間,前記株式会社a名古屋支店等において,
前記j・k・l特別共同企業体以外に入札に参加する業者として8特別共同企
業体を指定するとともに,その8特別共同企業体においては前記Mの指定する
価格で入札することを取り決めるなどの方法により,前記j・k・l特別共同
企業体以外の入札参加業者である8特別共同企業体が,前記j・k・l特別共
同企業体より高額で入札して同特別共同企業体に前記工事を落札させることを
協定し,もって公正な価格を害する目的で談合した。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)
罰条それぞれ刑法60条,96条の3第2項
刑種の選択それぞれ懲役刑
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も
重い第3の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予刑法25条1項
(量刑の理由)
1本件は,株式会社a名古屋支店の営業部長あるいは副支店長であった被告人が,
多数の土木建設業者らと共謀の上,愛知県瀬戸市役所発注の下水管敷設工事に関
する郵便公募型指名競争入札(第1)及び名古屋市上下水道局発注の下水道築造
工事に関する入札後資格確認型一般競争入札(第2,第3)において行った不正
談合3件の事案である。
2被告人は,株式会社aの全国的かつ強大な事業規模を背景に,談合の最高責任
者であった同社副支店長のEの手足となり,愛知県内の土木建設業者における談
合を取り仕切るための諸作業を担っていた者であり,このような地位にあった被
告人らによる本件各犯行は,瀬戸及び名古屋地区の土木建設業者における恒常的
かつ根深い談合体質の現れである。
3本件各犯行の関与者は,第1につき,被告人を含めて28名,業者25社,第
2につき,被告人を含めて24名,談合に基づいて入札を断念した1社を含めて
業者20社,第3につき,被告人を含めて31名,業者27社であり,いずれも
大規模である。また,談合の結果として,第1につき,約4900万円で設定さ
れていた予定価格の約98パーセントの金額,第2につき,約3億5500万円
で設定されていた予定価格の約97パーセントの金額,第3につき約13億円で
設定されていた予定価格の約97パーセントの金額でそれぞれ落札がなされ,瀬
戸市民あるいは名古屋市民から徴収された税金を不当に高額に支出させたもので,
厳しい非難に値する。
4第1の犯行に至る経緯は次のとおりである。瀬戸市が,談合防止策として,入
札参加業者の事前把握が困難な郵便公募型指名競争入札を平成16年度から導入
し,適正な落札がなされていた状況下で,平成17年に入り,瀬戸市の建設業者
団体の会長であった共犯者O,地元有力会社の営業担当者であった共犯者Bを中
心に従来どおりの談合が画策されるに至った。被告人は,同年7月ころ,Bらか
らの依頼を受けて,談合の取りまとめを承諾し,共犯者Aへの相談を助言するな
どした。他方,Bらは,電話連絡による入札参加業者の把握等に努めた。ところ
が,同年8月開札の工事に関しては,兵庫県に本社を置く株式会社fが予定価格
の約80パーセントにあたる最低制限価格で落札し,談合は失敗に終わった。そ
こで,被告人は,Bらから,株式会社fに対する談合協力要請を依頼されて,こ
れに応じ,e株式会社による落札予定が決まった後の同年9月7日ころ,株式会
社f事業部長であった共犯者Dをa名古屋支店に呼び,談合に加わるように説得
して承諾させ,本件談合を成立させた。
すなわち,被告人らにおいて,郵便公募型指名競争入札の導入目的を蔑ろにす
ること甚だしく,被告人は,愛知県外の土木建設業者の担当者に対し,談合への
協力を直接説得するなど,本件において不可欠な役割を果たしている。被告人は,
関与の理由として,Bとの長年の付き合い,今後の有益な営業情報の入手等を挙
げるが,特段酌量すべき事情はない。
5第2の犯行において,被告人は,共犯者Eの了解の下で,工事現場付近の従前
の工事実績,営業活動状況等を基準に,当該工事を落札するいわゆる本命業者を
株式会社gと決め,落札を希望していた株式会社j等の担当者には落札断念を促
して諦めさせ,株式会社h担当者からなおも工事受注を強く要求されると,発注
者に秘匿した形態での共同企業体(裏JV)結成による解決を考案し,Eの了承
も得て,株式会社hにおいて入札不参加を納得させ,さらに,共犯者Fにおいて
電話連絡等により入札参加業者を把握し,株式会社gによる落札を実現させたも
のである。
第3の犯行において,被告人は,当該工事の本命業者を株式会社m,k株式会
社及び株式会社lのJVと考えていたが,株式会社mが指名停止処分を受けて空
席ができたため,前記のとおり第2の工事の落札断念を促した経緯があったこと
及び社格等から,株式会社jをJVに入れることを企図して,Eのお墨付きを得
た上,談合発覚防止策として自然な入札状況を装うため,いわゆる当て馬JVの
編成も決め,j・k・l特別共同企業体による落札を実現させたものである。
このように,被告人は,土木建設業者の共存共栄の名目で,落札工事業者の決
定自体のみならず,秘密裏の共同企業体結成,当て馬共同企業体編成も含めて,
Eの意向を確認しながら思い通りに調整し,一般競争入札を空洞化させたもので,
被告人の権限及び各犯行において果たした役割は,Eに次いで絶大である。そし
て,被告人が,談合に関する絶大な権限を背景に,格安のリフォーム工事施工,
高額の現金及び商品券の贈与等,様々な便宜供与を業者から受けている点も到底
看過し難い。
6そうすると,被告人の刑事責任は到底軽視できない。
7他方,被告人は,Eとの関係では従属的立場にあり,第1に関しては犯行を主
導したものではない上,談合に手を染めた原因には,自らの積極的意思ではなく,
会社業務の一環として応じざるを得なかった側面があることは否定できないこと,
被告人は,本件各犯行を認め,瀬戸市民及び名古屋市民への謝罪の意思を表明し,
二度と談合に関与しない旨述べるなど,反省の態度を示していること,昭和48
年の罰金前科以外の前科前歴がないこと,業者から受けた個人的利益放棄の趣旨
で300万円の贖罪寄付をしたこと,会社から解職処分を受けるなどの社会的制
裁を受けたこと,妻が出廷して今後の監督を誓約していること,そのほか被告人
の年齢,家族関係,健康状態,保釈までの身柄拘束期間等,被告人にとって酌む
べき事情も認められる。
8そこで,以上の事情を総合考慮し,今回に限り,刑の執行を猶予するのが相当
であると判断した。
(求刑懲役2年)
平成19年2月14日
名古屋地方裁判所刑事第3部
裁判官森島聡

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