弁護士法人ITJ法律事務所

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平成20年(わ)第1136号住居侵入,器物損壊被告事件
主文
被告人を懲役10月に処する。
未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
神戸地方検察庁で保管中の簡易ライター1個(平成20年領
第1836号符号1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,正当な理由がないのに,平成20年10月11日午後1時ころ,神戸市
a区b町c丁目d番所在のAのe号棟f号室の元妻であるB方に無施錠の玄関ドアか
ら侵入し,同所において,同女所有の掛け布団1枚(時価約1万円相当)を所携のラ
イター(神戸地方検察庁平成20年領第1836号符号1)で点火して焼損し,もっ
て,他人の物を損壊したものである。
(事実認定の補足説明)
1被告人及び弁護人は,住居侵入の点については,被害者の黙示の承諾ないし推
定的承諾があった,器物損壊の点については,被害者に告訴の意思がなかった,と
して,被告人は無罪である旨主張するので,以下検討する。
2住居侵入の点について
関係証拠によれば,被告人と被害者は,平成18年6月ころ離婚した後,別居し
ていたこと,被害者は,被告人方に赴きその世話をするなどしていたものの,被告
人が被害者方に行ったことがあるのは1,2回であること,被害者は被告人に自己
の住居へ立ち入っていいと言っていなかったこと,被告人もこれまで被害者に無断
で被害者方に立ち入ったことはなかったこと,被害者は,離婚後の被告人との付合
いについて夫婦同然であると思っていないことが認められる。
問題は,弁護人がいうような,被害者方へ被告人が立ち入ることについて被害者
が黙示に認めていたと言えるか否かである。関係証拠上,本件住居侵入は,被告人
が,被害者が被告人の金員を窃取したと思い込み,これを問い質すために相当立腹
して被害者方に赴き,たまたま玄関が施錠されていなかったことから,勝手に上が
り込んだというものである。被害者は,公判廷において,被告人は酒に酔うと人が
変わり,そのような被告人には自宅に立ち入ってほしくない旨を述べているが,こ
れは,自分に迷惑をかけない平素の温和な被告人であればいいが,自分に迷惑をか
けるような状態になっている場合には自宅へ立ち入ってほしくない旨を表明してい
るものと解される。そうすると,前記のように立腹した状態の被告人が被害者方に
立ち入ることを被害者が黙示的に許していたものとは考えられない。
被告人は,自分の金を取ったのではないかと疑っていた被害者に対し,そのこと
を問い質すために被害者方に立ち入った旨を述べ,被害者方に立ち入るについて正
当な理由があるように思っている節があるが,これが,被害者が承諾していないに
もかかわらず,被害者方に無断で立ち入るについての正当な理由とならないのは明
らかである。また,被告人は,被害者から自宅に立ち入っていいと聞いたことがな
く,鍵を預かっていたわけでもないし,これまで被害者に無断で同人方に立ち入っ
たこともなかったのであって,被告人がそのような事情を認識していた以上,住居
侵入罪の故意も認められる。
3器物損壊について
証人B及び同Cの各公判供述によれば,甲1号証の告訴調書が作成された際,被
害者は,被害者方居室内で掛け布団を焼かれたことについての告訴意思があったこ
とは明らかに認められる。弁護人は,本件告訴の対象となる事実は,掛け布団1枚
に対する侵害事実に限られ,被告人が掛け布団を集合住宅の一室である被害者方室
内で焼損したということは考慮すべきでない旨主張するが,本件器物損壊は,被害
者方の居室内において掛け布団に点火され焼損されているのであるから,この状態
を前提として器物損壊についての告訴意思の有無があったかどうかを判断するのは
当然である。弁護人の主張は独自の見解であって,前提において失当である。
(法令の適用)
罰条
判示所為中,住居侵入の点は刑法130条前段,器物損壊の点は刑法261条
科刑上一罪の処理
刑法54条1項後段,10条(一罪として犯情の重い器物損壊罪の刑で処断)
刑種の選択
懲役刑
未決勾留日数の算入
刑法21条
刑の執行猶予
刑法25条2項
保護観察
刑法25条の2第1項後段
没収
刑法19条1項2号,2項本文(判示器物損壊の用に供した物で被告人以外の者に
属しない)。
訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
被告人は,平成18年1月に暴力行為等処罰に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等
取締法違反の各罪で懲役1年に処せられ,3年間その刑の執行を猶予されたのである
から,十分自重した生活をすべきであったのに,自分の身の回りをよく確かめもせず
に,元妻が被告人の金員を盗んだものと短絡的に思い込み,立ち入ることを承諾され
ていたものでないのに,勝手に元妻方に侵入した後,腹いせに布団を燃やしてやろう
と決意して本件各犯行に及んだものであって,犯行に至る経緯や動機に酌むべき点は
何らなく,室内で布団に火を付けるなど態様は悪質であり,結果も軽視できない。そ
れらの諸点に照らすと,被告人の刑事責任は相当重い。
他方,現在では,本件各犯行に及んだことを後悔し反省していること,被害者との
間で弁償金として1万円を支払って示談が成立し,被害者は被告人を許す旨述べてい
ること,前刑判決後に違法行為をしたのは本件だけであること,一定期間身柄を拘束
されてそれなりの制裁を受けたことなど酌むべき事情も認められる。
以上の諸事情を総合考慮し,被告人に対し,もう一度だけ社会内で更生する機会を
与えることとし,主文のとおり判決する。
(求刑懲役10月,簡易ライターの没収)
(国選弁護人重冨保男)
平成21年1月8日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判官佐野哲生

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