弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件再上告を棄却する。
         理    由
 弁護人坂本英雄、同古屋福丘上告趣意について。
 憲法三八条三項にいわゆる「本人の自白」と言う中には、判決裁判所の公判廷に
おける被告人の自白を含まないと解すべきことは、当裁判所の判例においてすでに
理由を詳しく述べて屡々判示したところである。今この判例を変更すべき理由と必
要を認めない。成る程所論のごとく、新刑訴三一九条二項においては、「被告人は、
公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠
である場合には、有罪とされない」との規定を新に設けた。かように判決裁判所の
公判廷における被告人の自白をも含むとした部分の規定の内容が、元来本質的、一
般的に、またわが国現在の社会実態を対象として果して妥当であるか否かの論は、
しばらくさて措き、この規定は単に憲法三八条三項に対する静的な、内容解説的な、
いわゆる解釈規定と見るべきものではない。
 それは、自白偏重の幣害を是正し、被告人の基本的人権を保障擁護しようとする
憲法の根本精神を、さらに拡充し動的に一歩前進せしめて、当事者対等主義を指導
原理とする新刑事訴訟法において法律の規定をもつて従来の憲法上の自白の証拠能
力の制限を判決裁判所の公判廷における自白にまで及ぼすに至つたものと解するを
相当とする。これは恰かも憲法三八条二項においては、「強制、拷問若しくは脅迫
による自白又は不当に長く抑留された後の自白は、これを証拠とすることができな
い」と定めているに対し、新刑訴三一九条一項においては、「強制、拷問又は脅迫
による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでな
い疑のある自白は、これを証拠とすることができない」と規定し、従来の憲法上の
自白の証拠能力の制限を「その他任意にされたものでない疑のある自白」にまで拡
張するに至つたのと全く同巧異曲である。
 されば、憲法三八条三項の合理的解釈として当裁判所が示した前記判例の見解は、
新刑訴三一九条二項の規定と毛頭矛盾するところはなく、両者は時を同じうして共
に併存し得るわけのものである。言いかえれば、新刑訴法が適用される下において
は、憲法上の自白の証拠能力の制限と新刑訴法上の自白の証拠能力の制限とが同時
に並行して適用せられるが、前述の「判決裁判所の公判廷における自白」または「
その他任意にされたものでない疑のある自白」は、単に新刑訴法上の自白の証拠能
力の制限に属するのである。それ故に、旧刑訴法の適用せられる本件においては、
これらの新刑訴法上の制限には服しないものと言わねばならぬ。従つて、これと全
く反対の見地に立つて前記判例の変更を求める所論には、到底賛同することを得な
い。論旨は、理由なきものである。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二四年一〇月一三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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