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平成22年8月19日判決言渡
平成22年(行ケ)第10101号審決取消請求事件(商標)
口頭弁論終結日平成22年6月29日
判決
原告株式会社サンエイ
同訴訟代理人弁護士清水良二
同訴訟代理人弁理士西良久
被告株式会社インタシグナム
同訴訟代理人弁護士森田政明
同訴訟代理人弁理士森正澄
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2009−890074号事件について平成22年2月18日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
,,(「」。)本件は原告が被告が有する別紙1の構成の商標以下本件商標という
につき無効審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを
求めた事案である。
争点は,本件商標が,別紙2に記載された商標(以下「引用商標」という)と。
類似するか否かである。
1特許庁における手続の経緯
被告は,平成18年9月4日,本件商標につき出願し(甲29,平成19年5)
月7日に登録査定を受け,同月25日に設定登録した(甲30。)
原告は,平成21年6月22日,本件商標の無効審判請求をした。
特許庁は,上記審判請求を無効2009−890074号事件として審理し,平
成22年2月18日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄,。
本は,同年3月2日,原告に送達された。
2本件商標の内容
本件商標(登録第5049553号)は,別紙1記載のとおりの構成のもので,
指定商品を第30類「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリ
ーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く,茶,コーヒー及びココア,氷,菓。)
子及びパン,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コー
ヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうま
い,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッ
グ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダ
,,,,,,,ー即席菓子のもと酒かす米脱穀済みのえん麦脱穀済みの大麦食用粉類
食用グルテン」とするものである。
3審決の内容
審決は,次のとおり,本件商標は引用商標とは類似せず,本件商標の登録は商標
法4条1項11号の規定に違反してされたものではないから,同法46条1項の規
定によりその登録を無効とすることはできないとした。
(1)本件商標と引用商標の類否について
「本件商標は,別掲のとおり,バラ色系の色彩が施され右肩上がりに傾いた桜と思しき5弁
の花びらの図形中に『きっと』と『サクラサクよ』の句読点を含む文字を二段に配置した構,。
成からなるものであるところ,その構成中の『きっと,サクラサクよ』の文字部分が独立し。
て自他商品識別標識として機能を果たし得るものと認められる。
そして,この『きっと』と『サクラサクよ』は,濃いバラ色の輪郭の籠文字により,双方,。
が右肩上がりに傾いた五弁の花びらに沿う形でほぼ円弧状に,外観上まとまりよく配置され,
その構成文字全体が一体のものとして認識し得るものであり,これから生ずる「キットサクラ
サクヨ」の称呼も格別冗長なものでもなく,無理なく一連に称呼し得るものである。
また,これは『桜が咲く』又は合格通知電報の定型文であって『試験に合格したこと』ほ,
どの意味を有する『サクラサク』の文字に『確実に行われることを予測・期待するさま。必,
ず』などを意味する副詞の『きっと(屹度・急度』と『自分の判断を示し,相手に同意を。),
』『』,,求めたり念を押したりする意を表す終助詞のよが付加されたものであって全体として
『必ず桜が咲くよ』又は『必ず試験に合格するよ』ほどの意味合いの将来の事象を認識させる
熟語を形成しているものとみるのが相当である。
そうすると,本件商標は『きっとサクラサクよ』の文字部分全体に相応し『キットサクラ,,
サクヨ』の一連の称呼のみを生じ『必ず桜が咲くよ』又は『必ず試験に合格するよ』との将,
来の事象を認識させる観念を生ずるものとみるのが自然である。
一方,引用商標は『サクラサク』の片仮名からなるものであるから『サクラサク』の称呼,,
を生ずるものであり,前記のとおり『桜が咲く』又は『試験に合格した』との現在又は過去,
の事象を認識させる観念を生ずるものとみるのが自然である。
そこで,本件商標と引用商標の称呼を比較すると,両者は『キット』及び『ヨ』の音の有無
という構成音数の差,音構成の差などにより,明瞭に区別し得るものであり,また,観念につ
いても,将来の事象を認識させるものと,現在又は過去の事象を認識させるものとの相違があ
り,さらに外観も判然と区別し得る差異を有するものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相
紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号には該当しない」。
(2)当事者の主張について
「サクラサク』が合格通知電報の定型文であって『試験に合格したこと』ほどの意味を有『
する語であって,特に受験シーズンにおいて合格を意味する縁起のよい(験担ぎ)語として使
用されていることについては,請求人及び被請求人の間において争いはないところである。
そして,請求人は『サクラサク』の文字を含む本願商標が『菓子,パン』において,特に,,
受験シーズンに販売される受験に関連する季節商品に使用されると『サクラサク』の部分が,
需要者の注意を惹く部分として着目され,当該部分が独立して自他商品識別機能を発揮する旨
主張する。
しかし『サクラサク』が上記意味合いを有する語として広く知られているとしても,前記,
1で認定したとおり,本件商標中の『きっと,サクラサクよ』の文字部分は,全体を一体の。
ものとして把握されるとみるのが自然であるから,本件商標は,その構成文字全体から生ずる
称呼及び観念をもって取引されるものと言わざるを得ない。
さらに,両者の主張する取引の実情を考慮したとしても,本件商標について『サクラサク』
の文字のみを抽出し,これが独立して自他商品識別標識としての機能を発揮し得るとする特段
の事情も見あたらない。
したがって,請求人の主張は,採用できない」。
第3原告主張の要旨
1本件商標の「サクラサク」部分が独立して識別力を有すること
(1)本件商標中の「サクラサク」部分は,合格通知電報の定型文であって「試験
に合格したこと」ほどの意味を有する語であって,特に受験シーズンにおいて合格
を意味する縁起のよい(験担ぎ)語として使用されている。
また本件商標は上記片仮名文字のサクラサクに対して平仮名文字のき,,「」,「
っと」と「よ」を付加しただけの構成であり,全体としては一種のスローガンで,
あって,自他商品識別力を発揮しているのは,登録商標「サクラサク」をそっくり
含んでいるからである。
(2)なお,本件商標中の「きっと,サクラサクよ」は「きっと」の次に読点で。,
ある「」を追加した「きっと」部分を区切って上段に表示している。次いで,下,,
段には「サクラサクよ」の次に句点である「」を追加した「サクラサクよ」部,。。
分を表示したものであって,全体を見ると,読点と句点をそれぞれ有する「文章」
であり,本件商標が,読点と句点とを有する文章であって,熟語でないのは明白で
ある。
そして「必ず桜が咲くよ」又は「必ず試験に合格するよ」の意味合いは「きっ,,
と,サクラサクよ」の文章が有する意味そのものである。。
この種の商標は,スローガンやキャッチフレーズとして,本来商標法3条1項6
号に該当するが,本件商標では,その文章中に合格通知電報の定型文である片仮名
文字の「サクラサク」が平仮名文字で記された「きっと・・・よ」と区別して表,
,「」,記されておりかつサクラサクの語の部分にのみ自他商品識別力を有するので
文章全体にも自他商品識別力が認められるにすぎない。
したがって,本件商標の要部は「サクラサク」である。
本件商標は,後述のとおり,引用商標である「サクラサク」をそっくり含んでお
り,その意味合いにおいても「サクラサク」を合格通知電報の定型文を直感させ,
るものとして使用しており「きっと・・・よ」部分はわずかにその事象を変更,,。
した文章としたものであることは「サクラサク」が合格通知電報の定型文であり,
「サクラサク=合格」であるとの被告の主張からも明らかである。
(3)最高裁平成20年9月8日判決で示された基準からすると,本件商標と引用
商標の類否判断においては,①その構成において「サクラサク」の文字部分だけが
,「」,独立して見る者の注意を惹くように構成されているか②サクラサクの部分が
取引者,需要者に商品又は役務の出所識別標識として,強く支配的な印象を与える
ものと認められるか,③それ以外の部分(本件商標では「きっと・・・よ」の部,。
分)から出所識別標識としての称呼,観念が生じるか,の各点を検討する必要があ
る。
ア本件商標は「きっと」と「サクラサクよ」が上下2段に分かれているの,,。
で「きっと」と「サクラサクよ」は分離され,一体性がない。,,。
また,本件商標のうち「サクラサク」の文字部分だけがカタカナで「きっと・,,
・・よ」部分は平仮名となっており「サクラサク」の文字部分が分離独立して強。,
調されている。
さらに,本件商標には読点「」があり,その前後を区切って分断している。ま,
た,最後に句点「」があり,全体として文章になっている。。
以上からすれば,本件商標の「きっと,サクラサクよ」は,その構成から一体。
不可分の熟語とはいえず「サクラサク」の文字部分だけが独立して見る者の注意,
を惹くように構成されている。
イ前述のとおり「サクラサク」は合格通知電報の定型文であり「サクラサク,,
=合格」という観念を生ずるものであり「菓子」との関係では,十分な自他商品,
識別力を有し,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
ウ「きっと」は副詞で「よ」は終助詞であり,いずれも文章中の「サクラサ,
ク」を修飾するだけの一般的,普遍的な文字であり,自他商品を識別する機能がな
いもので,出所識別標識としての称呼,観念が生じないものである。
エ以上のとおり,本件商標は結合商標であるが「サクラサク」の部分が要部,
であり「サクラサク」の部分にこそ「合格」という重要な意味があるもので,そ,
れ以外の部分「きっと・・・よ」は,付随的な副詞,助詞で,それ自体に自他商,。
品を識別するための意味はない。
本件商標を構成する9文字と句読点との組合せ中,5文字が引用商標と一致し,
外観,称呼も主要部分で共通するものであり,観念も「試験に合格する」という主
要な意味は共通である。
したがって,全体として,本件商標は引用商標と類似するものである。
2審決の認定等について
(1)外観について
本件商標は,桜を模した5弁の花の図形中に「きっと,サクラサクよ」の文字,。
を「きっと」部分と「サクラサクよ」部分とに上下2段に分けて配置している。,。
また,文字の配列に関して,上段の「きっと」部分が下端をほぼ直線状にそろ,
えており,下段の「サクラサクよ」部分の下端はほぼ円弧状に並んでいるため,。
文字の配列から上段と下段に規則性,関連性がない。
そして「きっと」部分は上段中央に配置されて,下段の「サクラサクよ」と,,。
は物理的に分離されていると共に平仮名文字からなっている。
一方,下段の「サクラサクよ」は「サクラサク」部分のみが唯一片仮名文字で。,
構成され,続く文末の「よ」は平仮名文字から構成されている。。
したがって,全体からみて「サクラサク」部分のみが唯一片仮名文字となってお
り,外観上も語句の中で目立つように配置されている。
本件商標は,験担ぎ商品において「サクラサク」部分を看者に強く印象付ける必
要があるものであり,そのために「きっと」部分と「サクラサクよ」部分とをあ,。
えて上下二段に分け「サクラサク」部分の片仮名文字を目立たせるために「きっ,,
と」及び「よ」を平仮名文字を用いて書した構成を採っている。
したがって,上段の「きっと」と下段の「サクラサクよ」の双方がやや右肩上,。
がりに傾いた五弁の花びらに沿う形でほぼ円弧状に配置されているものの,下段の
「サクラサク」又は「サクラサクよ」部分が看者に強く印象付けられる。。
(2)称呼について
前述のとおり,外観上では,本件商標の下段の「サクラサク」又は「サクラサク
よ」部分が上段と分離される。。
また,商標中の「サクラサク」部分だけが他と異なる片仮名文字で表記されてお
り,分離して観察しやすく,かつ直感的に合格通知電報文を連想しやすい。
また「キットサクラサクヨ」は9音構成であるが,無音の句点,読点が付加さ,
れており,冗長ともいえる。
さらに,後述のとおり,ネスレコンフェクショナリー株式会社は,本件商標の付
された商品の販売促進において,本件商標を車内及び車外に大きく付した「サクラ
サク受験生応援バス」を運行している。
本件商標の付された商品の販売促進のためであるにもかかわらず「きっと,サ,
クラサクよ。受験生応援バス」とはせず「サクラサク受験生応援バス」としている
のは,本件商標が「サクラサク」と同一視できるからであり,需要者が,本件商標
について「サクラサク」と略称する可能性が非常に高い。
,,「」。このように需要者は本件商標につきサクラサクと略称する可能性がある
(3)観念について
前述のように,本件商標はスローガンであって,審決がいうような複数の語が一
体不可分に結合されて一語となった「熟語」ではない。
このスローガンの本質を占めるのは「サクラサク」の部分である。
,「」,「」換言すればサクラサクのような識別力のある登録商標であってもきっと
を上段に配置し,下段に前記登録商標に「よ」を付加したスローガンに変更するだ
けで,前記登録商標とは全く別の商標として自他商品識別力を発揮するというので
あれば,前記登録商標に蓄積した顧客吸引力は,簡単にダイリューションされ,取
引者,需要者は誤認混同を生じることになる。
また「きっと」の語は,本件商標の使用商品との関係で特別の意味を持つ。,,
すなわち,本件商標がダブルブランドとして付される登録商標「KitKat」
の付された商品(以下「キットカット商品」という)は,博多弁の「きっと勝つ。
と」と同音であることから転じて「きっと勝つ」の験担ぎのネーミングとして需要
者に知られている。
したがって,キットカット商品に付された「きっと」の文字を見た需要者は,,
キットカット商品であることを連想し,その結果「サクラサクよ」部分が分離し,。
て観察され「サクラサク」が要部になる。,
この種の商標の用法として,例えば「キット,想いとどく」商標(甲6参照)。
や「キット,願いかなう」商標(甲7参照)などがあり,ロゴ化されてキットカ,。
ット商品のパッケージに使用されている。
この「きっと」部分について,本件商標では「サクラサクよ」部分とは意図的,。
に分離して上段に配置した構成となっている。
被告は「きっとサクラサクよ」等の一連の商標(甲13,15,17)を出願,。
又は登録しながら,キットカット商品に付して使用しないのは「サクラサク」部,
分の印象を強めるためとも考えられる。
,「」「」,したがって本件商標の要部はサクラサク又はサクラサクよ部分であり
「桜が咲く」又は合格通知電報の定型文としての「試験に合格したこと」の意味を
有するとみるのが自然である。
(4)他の商標について
なお,被告が挙げる商標のうち,甲9,11,13及び15のものは出願しただ
けで,登録料を納付せずに出願無効となっており,その審査結果も遡って消滅して
いる。
商標登録されたのは,甲17に示された,同書,同大で横一連に表記され,読点
も省かれた「きっとサクラさくよ」の文字商標だけである。。
,,「」,,そしてこの商標はきっとに続く読点がなく文全体が横一連で構成され
さらにサクラだけが片仮名文字で他はすべて平仮名文字で構成されておりき「」,「
っと,サクラの花が咲くよ」の意味合いしか生じない点で,本件商標とは異なっ。
ている。
さらに,上記「きっとサクラさくよ」商標は商標登録されてはいるが,商品に。
使用されていない。
このほか,甲18,19に示された「サクラサクラ」及び「サクラ」は,引用商
標の「サクラサク」とは全く非類似の登録商標である。
「サクラサク」は,被告も認めるように,合格通知電報の定型文として一体不可
分に結合されて常用句となっており,需要者間において「サクラ」部分と「サク」
部分とが分離して観察されることは決してない。
3本件商標の使用の実際
(1)アネスレコンフェクショナリー株式会社は,本件商標を「KitKat」商
標と共に使用した商品のほかに,これらの商標をそっくり含んで郵便局と共同企画
した「キットメール」商品を販売している。
そして,同社は,この「キットメール」商品の販売促進のために平成21年12
月から「サクラサク受験生応援バス」を受験期間中に運行し,活発に宣伝広告を行
っているところ,本件商標が付された販売促進用のバスは「サクラサク受験生応援
バス」と命名されており「サクラサクシール」に志望校合格の願いなどを書き込,
むようになっている。
このように,本件商標が付された販売促進用のバスであるにもかかわらず「き,
っと,サクラサクよ。受験生応援バス」とせず「サクラサク受験生応援バス」と,
し,また「きっと,サクラサクよ。シール」ではなく「サクラサクシール」とな,
っていることからすれば本件商標の要部がサクラサクであり本件商標がサ,「」,「
クラサク」と同一視できることが裏付けられる。
さらに,キットカット商品のイメージキャラクターが歌う受験生応援ソングの題
名が「きっと,サクラサクよ」ではなく「サクラサク」とされたのも「サクラサ。,
ク」が本件商標の中核であり,まさしく要部であるからであり,本件商標も「サク
ラサク」と略称される蓋然性が高いものといえる(以上につき甲31ないし37参
照。)
,,したがってネスレコンフェクショナリー株式会社のこのような本件商標の宣伝
広告のための「サクラサク受験生応援バス」や「サクラサクシール」という「サク
ラサク」の使用行為によって,新聞,雑誌に広く取り上げられていることと相まっ
て需要者は本件商標をサクラサクと略称する蓋然性が高く引用商標のサ,,「」,「
クラサク」と誤認混同する蓋然性が高いものといわなければならない。
イ本件商標は,ネスレコンフェクショナリー株式会社のキットカット商品のみ
に用いられ,被告は同商標を一切使用していないから,ネスレコンフェクショナリ
ー株式会社の宣伝・広告は,まさしく本件商標の使用そのものである。
そして同社のサクラサク受験生応援バスやサクラサクシールというサ,「」「」「
クラサク」の使用行為は,キットカット商品の宣伝,広告としての使用にほかなら
ない。
また,原告は,本件商標が「サクラサク」と略称されるとの主張を既に行ってい
る。すなわち,原告は,無効審判請求時に「簡易迅速を尊ぶ取引界においては,,
本件商標の『サクラサク』部分が自他商品識別力を有する特徴的部分として認識さ
れるものというべきである」との主張を行っている。
原告は,本件商標の唯一の使用者が,本件商標を「サクラサク」と略称すること
を導くような宣伝広告を行っていることを示すために甲31ないし37を提出した
もので,これは新たな主張立証ではない。
(2)原告は,本件商標の唯一の使用者であるネスレコンフェクショナリー株式会
社に対し,引用商標権の侵害による使用の中止を申し入れたことがある。
同社の平成19年4月11日付けの回答書によると,本件商標につき「商品表示
として使用しているものではなく・・・受験生等に向けた励ましのメッセージと,
して期間限定で販売している」とし,さらに「サクラサク』は合格電文として周『
知であり,合格電文としてのメッセージ的使用であり,格別これに商標商品識別機
能を企図したものでないことは一見して明らかであります」と回答している。
このように,被告は,引用商標の存在を知りながら,本件商標の登録前には商品
表示で識別機能がないメッセージ的使用と主張して本件商標を使用し,本件商標の
登録後には,非類似の商標であり,周知事項となっていると主張を変更して,自己
の正当性を言いつくろうものである。
4まとめ
本件商標は,その要部が「サクラサク」部分にあり,外観上も上段の文字部分と
下段の文字部分とが分離し,称呼上は「サクラサク」と略称される蓋然性が高い。
また,観念上も「桜が咲く」又は合格通知電報の定型文としての「試験に合格,
したこと」の意味合いを有するので,引用商標の「サクラサク」と称呼,外観及び
観念上において類似する。
よって,本件商標は,商標法4条1項11号に違反し,同法46条1項1号に該
当するので,審決は取り消されるべきである。
第4被告の反論
1審決の認定の正当性及びその補足
(1)本件商標と引用商標については,以下の事実が認められ,審決の認定は正当
である。
ア外観について
本件商標のバラ色の5弁の花びらは,バラ色の人生を連想させ,バラ色の輪郭で
白抜きされた「きっと,サクラサクよ」部分は,星取り表の白星を連想させ,右。
肩上がりである点は,未来への躍動感を示している。
これに対し,引用商標の「サクラサク」は,等間隔で横一連に墨書きされている
ところ,ここからバラ色の人生は連想し得ず,また,文字の色が黒であって,星取
り表の「白星」は連想し得ず,横一連の等間隔墨書きであることから,未来への躍
動感があるとも認められない。
イ称呼について
本件商標は,読点,句点を備えた一文であり「キットサクラサクヨ」の称呼を,
生じる。また,意味を有する一文なので,9音一連に称呼され,9音は冗長ではな
い。
これに対し,引用商標からは「サクラサク」の5音の称呼を生じる。,
ウ観念について
本件商標からは「必ず入試は合格するよ」旨連想され,将来の事象を観念する,
,,「,。」,ものであって受験応援文言であり電文としてのきっとサクラサクよは
受け取った際に「来年は・・・」を示唆するものであって,合格電文たり得ない。
これに対し,引用商標からは「桜咲く「合格」を連想するものであって,現在」
の事象を観念するものであり,これは周知の合格電文である。
エ以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念等が全く異なる
ので,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれは全く存しない非類似商標という
べきである。
(2)また,審決における,本件商標と引用商標とが非類似であるとの認定は,引
用商標と他の商標との類否に関する登録審査例に照らしても,適法として是認する
ことができる。
すなわち,以下の各出願商標は,引用商標との間で相互に非類似とされている。
ア商願2007−36122号(甲9)
甲9の商標(別紙3参照)は,平成19年4月12日に商標登録出願された被告
の出願商標であり,第30類の「菓子,パン」を含む商品を指定商品としている。
この甲9の商標は,引用商標とは非類似であるとして登録査定がされている(甲1
0)ところ,甲9の商標と本件商標は,色違いである以外は同一態様である。
イ商願2007−36123号(甲11)
甲11の商標(別紙4参照)は,平成19年4月12日に商標登録出願された被
,「,」。告の出願商標であり第30類の菓子パンを含む商品を指定商品としている
この甲11の商標は,引用商標とは非類似であるとして登録査定がされている(甲
12。)
ウ商願2007−36124号(甲13)
甲13の商標(別紙5参照)は,平成19年4月12日に商標登録出願された被
,「,」。告の出願商標であり第30類の菓子パンを含む商品を指定商品としている
この甲13の商標は,引用商標とは非類似であるとして登録査定がされている(甲
14。)
エ商願2007−36125号(甲15)
甲15の商標(別紙6参照)は,平成19年4月12日に商標登録出願された被
,「,」。告の出願商標であり第30類の菓子パンを含む商品を指定商品としている
この甲15の商標は,引用商標とは非類似であるとして登録査定がされている(甲
16。)
オ登録第5049552号(甲17)
甲17の商標「きっとサクラさくよ(別紙7参照)は,平成18年9月4日に。」
商標登録出願され,平成19年5月25日に登録された被告の標準文字登録商標で
あり,第30類の「菓子,パン」を含む商品を指定商品としている。この甲17の
商標は,引用商標とは非類似であるとして登録されている。
カ登録第2391042号(甲18)
甲18の商標(別紙8参照)は,平成4年3月31日に商標登録された,サクマ
,「,」。製菓株式会社の登録商標であり第30類の菓子パンを指定商品としている
この甲18の商標は,引用商標の先願先登録の商標であって,ゴチック体調の片
仮名で等間隔,横一連表記の「サクラサクラ」であるところ「サクラサク」との,
間で,末尾の「ラ」の有無のみ相違して,外観,称呼が極めて近似し,かつ,観念
も「桜咲く』等」のように「サクラサク』ラ」が想起され得て観念類似と思料さ『『
れるにもかかわらず,引用商標は甲18の登録商標とは非類似であるとして登録さ
れている。
この甲18の「サクラサクラ」と引用商標の「サクラサク」が非類似であるとい
うことは,類否判断において,一群の意味を有する文字どうしを組み合わせた一連
のもので判断されるべきことを示唆している。
すなわち,甲18の「サクラサクラ」においては「サクラサク」と「ラ」を分,
断して類否を判断するのではなく一群の意味を有する文字サクラと同じくサ,「」「
クラ」を組み合わせて「サクラサクラ」一連で判断することを意味する。
そうすると,本件商標の「きっと,サクラサクよ」も,複数の構成部分を組み。
合わせた結合商標でありさらに必ず入試は合格するよを観念するきっと必,「」「(
ず「サクラサク(入試合格する「よ(強調」の一群の意味を有する文字を組)」)」)
み合わせたものであるから「きっと,サクラサクよ」一連のもので判断されるべ,。
きことは明らかである。
キ登録第1335994号(甲19)
甲19の商標(別紙9参照)は,昭和53年7月21日に商標登録された,雪印
乳業株式会社の登録商標であり,第30類の「菓子,パン」を含む商品を指定商品
としている。
この甲19の商標は,引用商標の先願先登録の商標であって,引用商標には,甲
19のゴチック体調の片仮名で等間隔,横一連表記の「サクラ」がそのまま含まれ
ているところ,引用商標は甲19とは非類似として登録されている。
「」,「」,。一般にサクラはサクラの花を瞬時に想起し咲いている桜を観念する
また「サクラ」と「サクラサク」は,前者の「サクラ」が咲いている桜を観念す,
るから「サクラ(甲19」は後者の「サクラ『サク(引用商標」を観念し,,)『』』)
逆に,後者(サクラサク)が略称されて前者(サクラ)を連想する蓋然性も高「」「」
い。
このように,原告主張からすると,むしろより一層近似すると思われるものです
ら,非類似とされ,結果,引用商標は非類似として登録されているのである。
このことは「菓子,パン」を指定商品とする第30類においては,実際に商品,
を手にとって購入することが多いことも相まって,一見類似するように思料される
商標どうしが,明確に区別され取引され得ることを物語っている。
したがって,より一層異なる「きっと,サクラサクよ」商標と「サクラサク」。
商標は,明らかに非類似というべきである。
2商品の取引の実情について
(1)最高裁昭和43年2月27日判決は「商標の類否は,対比される両商標が,
同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるお
それがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用さ
れた商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を
総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎ
り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当する」旨判示している。
また,最高裁平成20年9月8日判決は,上記「氷山印事件」判決を踏まえて,
「法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用され
た商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,
連想等を総合して全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた
結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけ
,,を他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することはその部分が取引者
需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと
認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じな
いと認められる場合を除き,許されないというべきである」と判示している。。
したがって,本件商標と引用商標との類否判断は,これらの判断基準に則って
考察されなければならない。
(2)本件商標は,甲22ないし24にみられるように,本件商標権の使用権者た
るネスレコンフェクショナリー株式会社が販売するチョコレート菓子「KitKa
t商品(キットカット商品)の正面右上(正面左上のものもある)に表示され,」。
しかも,キットカット商品のみに用いられている。さらに,本件商標は,いわゆる
受験生応援製品として,受験シーズンのみに販売されるキットカット商品に用いら
れている。実際,多くの菓子店舗にて,販売促進用ディスプレーに専用のコーナー
を設置し,他社商品とは区分けして並べられている。
そして,キットカット受験生応援製品は「受験生応援製品(ただし菓子類)の,」
中で常に全国50%を超える販売シェアを獲得しており,センター試験の前後でキ
ットカットの売上げが拡大すること等がニールセン・スキャントラック出典として
報告されている(甲25参照。)
(3)本件商標「きっとサクラサクよ」を表示したキットカット商品は「きっと,
サクラサラクよ」の「きっと」が,キットカットの「キット」にかけて「必ず」を
連想し「サクラサクよ」が,キット『カット』の『勝つ』と共に合格電文の「サ,
クラサク=合格」を想起するので,縁起の良い合格祈念製品として,周知のように
多くの受験生に受験必携品として支持されている。このようなことは,受験シーズ
ンになるとテレビ等の情報番組で紹介される周知事項である(甲25。)
また,本件商標「きっとサクラサクよ」を表示したキットカット商品が発売され
たこと「きっとサクラサクよ」がキットカット商品に用いられていること等から,
して,本件商標の使用はもはや周知事項といって過言ではない。
(4)本件商標は,上述したとおり,キットカット商品のいわゆる受験生応援グッ
ズとして,受験シーズンに販売される商品だけに用いられている。そして,多くの
受験生が合格を祈念してキットカット商品を求め,4人に1人が受験会場に持参す
るといわれるほど着目される商品にあって,本件商標を付した商品と引用商標が使
用される商品とを混同することは皆無ということができる。
後述のとおり,引用商標の付される商品は,基本的にいわゆる袋菓子であり,験
を担ぐ受験生が,本件商標の商品と引用商標の商品とを取り違えるということはあ
り得ない。
なお,桜の時期以外は,甲26にみられるように,本件商標はキットカット商品
には使用されていない。
(5)他方「サクラサク」の文字は,本件商標が使用される受験シーズンにあっ,
ては「合格」を意味する。それゆえ,本件商標が使用されるキットカット商品が販
売される時期において「サクラサク」は「合格」を連想し得ても,原告の登録商,
標(引用商標)を想起するものでないことは明白である。
(6)さらに,引用商標が使用される商品は,いわゆる袋菓子であり,キットカッ
ト商品とは全く異なる商品形態及び製品態様である。
すなわち,引用商標は,カンロ株式会社が販売する袋入りキャンディに「KAN
RO/さくらさく!/コ∼ラ縁起がいいよかん「KANRO/さくらさく!/い」
いあん梅だよあんずるなかれ」と記載された商品に使用され,また,有限会社菓の
子やが販売する透明な袋入りラスク(焼菓子)に「SAKURASAKU/サクラサク/RUSK」
と記載された商品に使用されている。
なお,受験シーズンにおいて,受験生は合否を連想する言葉についてとりわけ敏
感であるところ,このような袋菓子の「袋」は,広辞苑に「袋」の例示として記載
されているように「袋小路,すなわち「行きづまって通り抜けることのできない,」
小路。転じて,物事の行きづまること」を連想し,また,焼菓子は「全体に焼き。,
が回っている」菓子を示唆するので「焼きが回る,すなわち「年を取ったりして,」
能力が落ちる」ことを容易に連想するものであり,引用商標が使用される商品とキ
ットカット商品とでは,その連想の落ち着き先が顕著に異なるものである。
(7)このように,商品取引の実情を勘案してみれば一層明らかなように,本件商
標と引用商標との間で,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれは皆無であると
いっても過言ではない。
以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観,称呼,観念等が全く異なり,さら
に,前掲最高裁各判決が判示する具体的な取引状況に基づいて判断してみれば明ら
かなように,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれが全く存しない非類似商標
である。
3原告の主張に対する反論
(1)「サクラサク」部分の独立性について
ア本件商標は桜が咲く旨のサクラサクをその構成部分としているがサ,「」,「
クラサク」は周知の合格文言(甲3参照)であって「サクラサク」の文言は,日,
本国中,各所で各様に用いられるから,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識
として強く支配的な印象を与えるものとは認められない。
,,「」「,」,さらに本件商標のようにサクラサクにきっと・・・よを付加すると
全体の文脈として「必ず試験に合格するよ」の受験応援メッセージを強く発する,
文に転化する。すなわち「きっと,サクラサクよ」は,単なる「桜が咲く」の現,。
在形の文(サクラサク)とは異なり,強い応援メッセージを具備した未来形の文「」
となっており,前述のとおり「サクラサク」とは観念が全く異なることは明白で,
ある。
イ原告も主張するとおり「サクラサク』部分は,合格通知電報の定型文であ,『
って『試験に合格したこと』ほどの意味を有する語であって,特に受験シーズンに
おいて合格を意味する縁起の良い(験担ぎ)語として使用され,その文言自体,」
誰もが使用可能であることは明白である。
ただ「サクラサク」の文字を含む商標が,指定商品「菓子及びパン」の識別標,
識として,原告の「サクラサク」商標との間で,需要者・取引者に対し,出所の混
同を惹起せしめるものであってはならないというにすぎない。
しかして,前掲2つの最高裁各判決が判示する「商標の類否は,同一又は類似の
商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要
者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきもの」とする規範並
びに被告商標が使用された取引実情に照らして,その出所混同の有無を考察してみ
れば明らかなように,出所混同のおそれを全く生じ得るものではないから,この点
に関する原告の主張は理由がない。
(2)原告は「きっと」の語が「キットカット商品」を連想する旨主張し「キ,,,
ットカット商品」製造販売元のネスレコンフェクショナリー株式会社の宣伝広告を
云々するが,これもまた当を得ないものである。
すなわち,本件商標の「きっと」の語が「キットカット商品」を連想させるの,
であれば,本件商標の商品と引用商標を付した商品とを取り違えることがますます
ないのは明らかであり,出所混同のおそれは生じない。
また,本件商標と引用商標との類否判断にかかる審決の取消事由として,原被告
以外の第三者の宣伝広告であって,とりわけ本件商標の使用とは無関係である「商
標使用の事実」を摘示することは無意味であり,また,新たな主張立証であって許
されない。
以上のとおり,審決に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1商標の類否の判断手法について
商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商
品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,
それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取
引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも
その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判
断するのが相当である。
また,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所
の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,上記3点のう
ち1点において類似するものでも,他の2点において著しく相違するなどして,取
引の実情等によって,商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものにつ
いては,これを類似商標とすべきではない(最高裁昭和43年2月27日判決・民
集22巻2号399頁同旨。)
さらに,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標
の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの
類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別
標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分か
ら出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許さ
れない(最高裁昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁,最高裁
平成20年9月8日判決・判例時報2021号92頁,判例タイムズ1280号1
14頁参照。)
2本件商標及び引用商標の類否について
(1)本件商標について
本件商標は,別紙1のとおり,バラ色系の色彩が施され,右肩上がりに傾いたサ
クラ様の5弁の花びらの図形中に「きっと」と「サクラサクよ」の句読点を含む,。
文字を二段に配置した構成からなるものである。
証拠(甲2,4)からすれば,副詞「きっと」には「確実に行われることを予測
・期待するさま。たしかに。必ず。相違なく」といった意味があり,助詞「よ」。
には「自分の判断を示し,相手に同意を求めたり念を押したりする意を表す」と。
いった意味があることが認められ,以上からすれば,本件商標からは,全体として
「きっと桜の花が咲くよ」とか「きっと試験に合格するよ」といった意味が生じ。。
るものといえる。
そして,本件商標からは,少なくとも「キットサクラサクヨ」との称呼が生じる
ものと解される。
この点につき,原告は「キットサクラサクヨ」は9文字で冗長であり,本件商,
標からは「サクラサク」の称呼が生じる旨主張する。
確かに「サクラサク」という語が,合格電報の定型文であることからすれば,,
本件商標から「サクラサク」という称呼が生じ得る可能性は否定できないが「キ,
ットサクラサクヨ」は「サクラサク」に比べると長いものの,決して冗長という,
ほどではなく,短い一文として十分称呼可能な長さであり,本件商標から「サクラ
サク」という称呼のみが生じるとまではいえない。
また,原告は,本件商標において「サクラサク」部分のみが片仮名であるとか,
上下二段になっている旨主張するが,本件商標において,特に「サクラサク」部分
のみが文字のサイズが大きかったり,色が違うというような事情は存在せず「サ,
クラサク」部分だけが目立つものではなく,以上からすれば「サクラサク」部分,
のみが本件商標の要部であるとはいえない。
また,原告は,本件商標の「きっと,サクラサクよ」は熟語ではなく文章ない。
しスローガンであるとも主張するが,この点もまた,上記判断に影響を与えるもの
ではない。
このほか,原告は,本件商標を付したキットカット商品の宣伝広告として行われ
た「サクラサク受験生応援バス」や「サクラサクシール,受験生応援ソング「サ」
」,「,。」「」クラサクにおいていずれもきっとサクラサクよではなくサクラサク
部分だけが用いられている甲31ないし37参照として本件商標の要部がサ(),「
クラサク」である旨主張する。
しかし,このような宣伝広告の態様により,本件商標が「サクラサク」と称呼さ
れるとしても,それによって直ちに同商標の要部が「サクラサク」部分のみとなる
とまではいえない。
(2)引用商標について
証拠(甲1の1,1の2)からすれば,引用商標は「サクラサク」の片仮名文,
字からなり,指定商品を第30類「菓子,パン」とするものであることが認められ
る。
そして,引用商標からは「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」といった意,
味合いが生じるものといえる。
また,引用商標からは,当然に「サクラサク」の称呼が生じるといえる。
(3)本件商標と引用商標の対比
ア外観上,本件商標は,バラ色系の色彩が施され,右肩上がりに傾いたサクラ
様の5弁の花びらの図形中に「きっと」と「サクラサクよ」の句読点を含む文字,。
を二段に配置した構成からなる,図柄を含む華やかな商標であるのに対し,引用商
標は,単に片仮名の「サクラサク」だけからなる商標であり,両商標は,その外観
が大きく異なる。
イ他方で,本件商標からは「キットサクラサクヨ」又は「サクラサク」の称呼
が生じ,引用商標からは「サクラサク」の称呼が生じるものであって,その称呼は
同一になる場合もあり,少なくともかなり類似するものといえる。
ウまた,本件商標からは「きっと桜の花が咲くよ」又は「きっと試験に合格,。
するよ」といった観念が生じ,引用商標からは「桜の花が咲く」又は「試験に合。
格した」との観念が生じるものといえる。
このように,両商標から生じる観念は,一定程度類似するが,引用商標からは,
淡々と「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」という事実についての観念が生じ
るのに対し,本件商標からは,受験生等に対するメッセージ的な観念が生じるもの
といえ,生じる観念はある程度異なるものといえる。
エこのほか,証拠(甲25,27)及び弁論の全趣旨から,本件商標は,受験
シーズンに専らキットカット商品に用いられ,このことはよく知られており,本件
商標の付されたキットカット商品はかなりの売上げを示しており,他方で,引用商
標は,受験シーズンに関係なく,袋菓子や焼菓子などに用いられていることが認め
られる。
このように,本件商標が用いられたキットカット商品が,受験生応援製品として
持つ意味合いは大きいものと認められ,このような本件商標の用いられたキットカ
ット商品と,そのような意味合いの薄い引用商標が用いられた袋菓子等との間で誤
認混同が生じるおそれは非常に低いものと認められる。
この点につき,原告は,誤認混同のおそれがないとしても,ネスレコンフェクシ
ョナリー株式会社による本件商標の使用によって,引用商標が希釈化されるおそれ
がある旨主張する。
しかし,本訴において,引用商標の著名性等は全く立証されておらず,そのよう
な引用商標につき,本件商標の使用による希釈化のおそれなどを考慮することは相
当ではない。
,,()このほか原告はネスレコンフェクショナリー株式会社による回答書甲38
上の記載をもって,同社が,本件商標の使用は「商標的使用」ではなく,単なる励
ましメッセージにすぎない旨主張していた点を指摘するが,この点もまた,上記判
断に影響を与えるものではない。
オ以上を前提とした場合,確かに,本件商標及び引用商標から生じる称呼はか
なり類似しており,観念においても,一定程度類似することは否定し得ないが,他
方で,もともと「サクラサク」は1つのまとまった表現として常用されており造語
性が低く識別力が限られている上,両商標の外観は大きく異なり,取引の実態をも
考慮すると,両商標につき混同のおそれはないといえる。
以上のように,本件での諸事情を総合的に考慮した結果,本件商標と引用商標と
は,類似しないというべきである。
,,3したがって本件商標につき商標法4条1項11号を適用することはできず
審決に誤りはないから,原告の請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉
別紙1
別紙2
別紙3
別紙4
別紙5
別紙6
別紙7
きっとサクラさくよ。
別紙8
別紙9

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