弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴をいずれも棄却する。
     控訴費用は控訴人等の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人が昭和三三年一二月二二日付を以て控
訴人等に対しなした懲戒処分は無効であることを確認する、訴訟費用は第一、二審
とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、右請求が容れられない場合は「原判
決を取消す、被控訴人が昭和三三年一二月二二日付を以て控訴人等に対しなした懲
戒処分を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求
め、被控訴代理人は主文第一、二項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、
 控訴代理人において、
 一、 地方公務員法(単に地公法という)第三七条によつて争議権を規制せんと
する対象は、団結を中心とする集団的な労働関係であつて、個別的労働関係におけ
る職務専念義務を負う職員ではない。つまり、第三七条第一項前段は団体構成員た
る職員が争議行為をすること及び右職員が他の団体構成員たる職員に争議行為を働
きかけることを禁止したもので、労使間における絶体平和義務を設定したものであ
る。そこで右の如き意味を持つ第三七条第一項前段との関連において同条項後段の
法意を考えると、同法規は職員でない第三者が特定の政党員の地位で職員団体に争
議行為への工作を行うとか、或は職員であつても団体主体の立場を離れて個人的立
場で争議行為をなすよう働きかけることを禁止したものと解すべきである。
 したがつて、本件の如く職員団体の機関たる控訴人等がその機関として行動した
ときは地公法第三七条第一項前段、すなわち前記平和義務違反に該当することはあ
り得ても、同項後段を適用することは許されない。
 二、 地公法第三七第一項後段の「あおり」は他の法令にいう煽動と同意義であ
つて、人をして実行を決意せしめるような刺激を与えるとか或は人をして既存の決
意を助長せしめるような勢ある刺激を与えることである。すなわち「あおり」の行
為に該当すると評価されるには、その刺激の激しさが通常の場合より特に著しい場
合をいうのである。また「そそのかし」は他の法令にいう教唆と同意義であつて、
正犯者に実行を決意せしめたことが要件である。両者は相手方が決意決定をなした
か否かによつて区別されるべきである。
 ところで控訴人等の行為が仮に原判決の如きものであつたとしても、控訴人等は
各学校の組合支部で開催した総会の議場に出席し組合本部の決議及び指令の趣旨徹
底を期するために発言したに過ぎないのであつて、その発言は組合員の疑問に答
え、統一行動の意味を説得し、組合員個人の理性的自覚に訴え、組合支部の自主的
助言の役割を果しにに過ぎない。すなわち組合員個々の斗争参加の意思は自ら関与
した支部決議の結果に基くものであつて、控訴人等の発言のみによつて具体的意思
決定がなされたものでないから「そそのかし」の要件を欠くのである。また控訴人
等の発言は組合員の感情に訴える刺激的言辞ではなく、却つて組合員の理性に訴
え、組合員の自覚を求めたものであり、組合員の意思決定の自由を妨害したもので
もないので「あおり」の行為に該当しない。
 三、 労働基準法(単に法という)第四一条第三号「断続的労働に従事する者」
とは本務が常態として断続的労働である場合の労働者をいうのである。学校教職員
は通常一日八時間の労働に従事しているのであるから、この勤務時間後に宿日直を
命ずることは、その宿日直が断継的労働であるからといつて、その宿日直者を断続
的労働に従事する者ということはできない。したがつて学校教職員に対し法第四一
条第三号を適用することはできない。それでは学校教職員に対し労働基準法施行規
則(単に規則という)第二三条を適用し宿日直を命ずることができるであろうか。
法第四一条第三号の行政官庁の許可手続を定めたのは規則第三四条であつて規則第
二三条は右の許可手続を定めたものでない。法第四一条第三号の許可手続を定めた
規則第三四条の外に、別に規則第二三条が規定せられていること、規則第二三条が
殊更法第三二条の適用を排除する旨定め、法第三四条、第三五条の適用を排除する
旨定めていないこと、法第四一条第三号は常態としての断続的労働者に対するもの
であり、規則第二三条が特定時間のみの断続的労働に従事する者に対するものであ
ること等を考えると、法第四一条第三号と規則第二三条とは全然別個の性質のもの
であつて、結局規則第二三条の法的根拠は法第四一条第三号でないことが明らかで
ある。元来労働者の労働条件を定めるには憲法第二七条第二項により法律を以てし
なければならないところ、規則第二三条はこれが根拠となるべき法律が存しないの
で、同条は違憲規則であり無効である。このように見てくると、地方公務員たる教
職員に対し規則第二三条を適用し、宿日直を命ずることは違法であるといわざるを
得ない。
 仮に規則第二三条が違憲規則でないとしても、同条は法第三二条の適用を排除す
る旨規定し、法第三五条の適用を排除する旨定めていないので、地方公務員たる教
職員に対し代休を与えることなく休日に日直を命ずることは違法である。
 四、 立証として甲第四号証の一、二、同第五乃至第一〇号証を提出し、当審に
おける控訴本人Aの尋問の結果を採用する
 と述べ、
 被控訴代理人にいて
 一、 地公法第三七条第一項前段は地方公務員に対する争議行為等の禁止規定で
あり、同条後段は争議行為が職員の団体の組織的集団的行動である点に着目し、争
議行為禁止の実効を確保するため、職員たると、非職員たるとを問わず、すべての
人に対する右の違法行為の企画、遂行の共謀、そそのかし、あおることの禁止規定
であり、地公法第六一条第四号は右禁止規定の違反者に対する処罰規定である。
 争議行為は通常職員団体の機関によつて企画、遂行されるのであるから、もしこ
れらの行為が地公法第三七条第一項後段に含まれないとすれば、同項存在の意義は
ないことになる。
 而して職員団体機関の前記の如き行為の結果、争議行為が実行された場合は、前
記第三七条第一項前段と同後段とは競合適用せらるべきものであり、任命権者は両
者を併せて、或はその何れか一つを選択してその機関の責任を追及し得るのであ
る。
 二、 控訴人等の本件オルグ活動の対象は(イ)争議行為に未だ参加していない
教職員であり(ロ)争議行為を中止し、又は中止しようとしている教職員であり
(ハ)予め争議行為の参加が危ぶまれる教頭及び主事であつた。しかも控訴人等の
行動の大半は組合の職場大会における争議行為への説得、激励であつた。そうだと
すれば、教唆、煽動の詳細な意義を論ずるまでもなく控訴人等の行為が争議行為を
「そそのかし」乃至「あおり」に該当することは明らかである。
 三、 本件宿日直拒否斗争当時における熊本県立学校教職員の宿日直手当は熊本
県職員及び九州における他県の教職員のそれに比し不相当な額ではなかつた。
 四、 甲第四号証の一、二、同第五乃至第一〇号註の各成立を認める。
 と述べたほか原判決事実摘示と同一であるので、これをここに引用する。
         理    由
 一、 当裁判所も諸般の証拠を検討した結果、控訴人等の請求はいずれも認容し
難いと判断するのであつて、その理由は次の点を補足するほか原判決の理由と同一
であるので、これをここに引用する。
 二、 控訴人等は地公法第三七条第一項前段は団体構成員たる職員が争議行為を
すること及び右職員が他の団体構成員たる職員に争議行為をなすよう働きかけるこ
とを禁止したものであり、同条項後段は職員団体の外部からの右働きかけを禁止し
たものであると主張するので、この点について判断する。
 地方公務員たる職員は地方公共団体の機関が代表する住民全体の奉仕者として、
公共の利益のために勤務し、且つ職務専念義務を負うているのであるから、一般私
企業における勤労者とその法的性格を異にしている。憲法第二八条によつて保障さ
れている勤労者の団結権、団体交渉権、争議権は基本的人権の一種と解されてお
り、基本的人権の保護は一般的福祉を維持増進する目的を有するものと考えるの
で、勤労者の右の如き基本的人権も公共の福祉によつて制限されることあるは当然
である。殊に地方公務員たる職員が争議行為をなし、同人等の使用者たる住民を代
表する機関の活動能力を低下させることは、職員の前記義務に違反し、公共の福祉
に反することになる、このような見地から地公法第三七条第一項前段は職員に対し
争議行為及び怠業的行為を禁止する旨明らかにしたのである。
 右の如く地方公務員たる職員の争議権は法的に容認されないので、職員の違法な
る争議行為を未然に防止するため、その違法事態発生の源動力となる争議行為の計
画、遂行の共謀、及び争議行為をそそのかし、あおる行為を特に重視し、地公法第
六一条第四号により、これらの行為を独立の犯罪類型として処罰の対象としたので
ある。したがつて地公法第三七条第一項後段にいう「何人」とは団体構成員たる職
員はもとより団体構成員以外の第三者をも含むものと解するを相当とする。よつて
右と見解を異にする控訴人等の右主張は採用できない。
 三、 控訴人等は地公法第三七条第一項後段の「そそのかし」、「あおり」の意
義を分析し、本件控訴人等の行為は右のいずれにも該当しないと主張する。
 ところで地公法第三七条第一項後段の「そそのかし」とは地力公務員たる職員を
して地公法第三七条第一項前段所定の違法行為を実行させる目的を以て、同人等に
その実行の決意を新に生ぜしめるに足る慫慂行為をすることを指し、その慫慂行為
が客観的に見て相手方に新に実行の決意を生じ、実行行為にでる危険性がある限
り、実際に相手方が新に実行の決意を生じたか、或は既に生じている決意を助長さ
れたか否かは問わないと解するし(昭和二九年四月二七日最高裁判所判決、最高判
例集八巻四号参照)、また同条項後段「あおり」は地力税法第二一条第一項、破壊
活動防止法第四条第一項第一号ハにいう「せん動」と同意義であり、地公法第三七
条第一項前段所定の違法行為を実行させる目的で文書若しくは図画または言動によ
つて職員に対しその行為を実行する決意を生ぜしめるような又は既に生じている決
意を助長させるような勢のある刺激を与えることをいうものと解する。(昭和三七
年二月二一日最高裁判所判決、最高判例集一六巻二号参照)しかして先に控訴人等
の各言動を認定するに当つて援用した証拠によると、控訴人等の各説得を聴く前、
組合員の大部分は宿日直拒否斗争を行うことが違法に非ずやとの疑問を抱いてお
り、少数の組合員のみが右の拒否斗争を行う決意を有していたのであるが、組合員
中には控訴人等の説得によつて右の拒否斗争に踏切り、本件争議行為を行つた者も
あることが認められるので、右事情の下においては、控訴人等の本件各言動は前記
「そそのかす」「あおり」の行為に該当するものと十分判断できるので、右認定に
反する控訴人等の主張は採用できない。
 四、 次に控訴人等の主張する労働基準法第四一条第三号と同法施行規則第三四
条、第二三条との関係、及び右二三条が違憲規則であるとの主張について判断す
る。
 <要旨第一>労働基準法(以下単に法という)第四一条第三号にいう「断続的労働
に従事する者」とは実作業時間が比較的少なく、手持時間が多い業務を
担当する者で、かかる業務を本務とする者のみならず他の業務を本務とする者が附
随的に右業務を行う場合でも、それが過度の労働にならない限り、この者を「断続
的労働に従事する者」と解すること原判決理由説示のとおりである。蓋し法第四一
条第三号は断続的労働を本務とする者に限つてこれを適用する旨何等規定しておら
ず、他の業務を本務とする者が附随的に断続的労働を行う場合であつても、それが
過度の労働になるか否かを行政官庁の具体的判断に委せ、もし過度の労働となると
判断せられる場合は、法<要旨第二>第四一条第三号の許可をしないことによつて勤
労者の人権を使用者から保護し得ることとしたのである。そこで右の許
可申請手続について一つは規則第三四条がこれを定め、他は断続的労働のうち宿日
直という特殊のものについて規則第二三条がその許可手続を定めていると解するの
が相当である。尤も規則第二三条に「法第三二条の規定にかかわらず」と規定し、
法第三二条のみ適用を排除するが如き規定をしているけれども、規則第二三条は法
第四一条第三号を母体として規定せられたものであり、而も法第四一条は法第四章
で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を排除しているのであるから
規則第二三条に「法第三二条の規定にかかわらず」とあるからといつて法第三四条
第三五条の適用を排除しないと解すべきでない。結局規則第二三条は法第四一条第
三号を母体として制定せられた手続規定に過ぎないものであつて、何等違憲の規則
ではない。
 なお法第四一条第三号の「行政官庁」は地方公務員たる県立学校の教職員の場合
地公法第五八条第二項により県人事委員会を指すものとする。
 よつて右と見解を異にする控訴人等の主張は採用し難い。
 ところで本件においては、被控訴委員会所管の本件県立諸学校の校長がその所属
の教職員に対し宿日直を命じた当時、当該教職員にとつてその宿日直が過度の労働
になるとの点について、控訴人等の何等立証がないのみならず、当審における控訴
本人Aの尋問の結果に、当事者弁論の全趣旨を綜合すると、本件斗争当時教職員に
対する宿日直の手当は宿直料二〇〇円、日直料二五〇円であつて、九州の他県にお
ける学校教職員の宿日直料に比し不相当でないことが認められ、控訴人等援用の全
証拠を以てするも、未だ以上の認定を覆すに足りないので、右校長の宿日直命令は
適法であつたといわざるを得ない。
 五、 よつて、控訴人等の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控
訴をいずれも理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九
五条、第八九条、第九三条を適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 岩永金次郎 裁判官 厚地政信 裁判官 原田一隆)

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