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平成18年10月6日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第2908号著作権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成18年9月5日
判決
アメリカ合衆国91604カリフォルニア州〈以下略〉
原告パラマウント・ピクチュア
ズ・コーポレーション
東京都港区〈以下略〉
原告株式会社東北新社
上記両名訴訟代理人弁護士遠山友寛
同升本喜郎
同宮澤昭介
東京都中央区〈以下略〉
被告株式会社ブレーントラスト
訴訟代理人弁護士浅野憲一
同冨永敏文
東京都立川市〈以下略〉
被告有限会社オフィスワイケー
訴訟代理人弁護士赤沼康弘
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告株式会社ブレーントラストは,別紙映像素材目録記載の映像素材を販
売してはならない。
2被告株式会社ブレーントラストは,別紙映像素材目録記載の映像素材を廃
棄せよ。
3被告有限会社オフィスワイケーは,別紙商品目録記載のDVD商品を製造,
販売してはならない。
4被告有限会社オフィスワイケーは,別紙商品目録記載のDVD商品の在庫
品を廃棄せよ。
5被告らは,原告株式会社東北新社に対し,連帯して,2355万円及びこ
れに対する平成18年3月31日から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
第2事案の概要
本件は,別紙映画目録記載の映画(以下「本件映画」という。)を収録し
た別紙映像素材目録記載の映像素材(以下「本件マスターフィルム」とい
う。)を製造,販売する被告株式会社ブレーントラスト(以下「被告ブレー
ントラスト」という。)の行為及び本件映画を複製した別紙商品目録記載の
DVD商品(以下「本件DVD」という。)を製造,販売する被告有限会社
オフィスワイケー(以下「被告オフィスワイケー」という。)の行為につい
て,本件映画の著作権者であると主張する原告パラマウント・ピクチュアズ
・コーポレーション(以下「原告パラマウント」という。)が,本件映画の
著作権(複製権及び頒布権)を侵害するとして,著作権法112条に基づき,
被告ブレーントラストに対して本件マスターフィルムの販売差止め及び廃棄
を,被告オフィスワイケーに対して本件DVDの製造,販売の差止め及び廃
棄をそれぞれ求め,本件映画に関する日本における恒久的な全メディアの独
占的利用権を有すると主張する原告株式会社東北新社(以下「原告東北新
社」という。)が,同独占的利用権を侵害する共同不法行為であるとして,
民法709条,719条1項に基づき,逸失利益等の損害賠償を求めたのに
対し,被告らが,本件映画の著作権は存続期間の満了により消滅している等
と主張して争っている事案である。
1争いのない事実等(証拠によって認定した事実は末尾に当該証拠番号を表
記した。)
()当事者1
原告パラマウントは,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)に本社
を有する映画製作配給を業とする法人である。
原告東北新社は,映画コンテンツの製作,販売,配給等を主たる目的と
する株式会社である。
被告ブレーントラストは,著作権の存続期間が満了した映画の映像素材
の販売等を主たる目的とする株式会社である。
被告オフィスワイケーは,著作権の存続期間が満了した映画のDVD商
品の製造,販売等を業としている有限会社である。
()本件映画の著作権法による保護2
本件映画の著作者は,米国法人である原告パラマウントであり(甲1,
2,64,弁論の全趣旨),本件映画は原告パラマウントにより米国にお
いて最初に公表されたが,日本及び米国は,文学的及び美術的著作物の保
護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)に加盟しているか
ら,本件映画は日本の著作権法による保護を受け(ベルヌ条約3条(),著1
作権法6条3号),その保護期間については,日本の法律が適用される
(ベルヌ条約7条()本文)。8
()原告東北新社の本件映画に関する権利3
原告パラマウントは,ヴィ・スミス-リデル・リミテッド(以下「スミ
ス社」という。)に対して,本件映画に関する日本における恒久的な全メ
ディアの独占的利用権を与え,原告東北新社は,昭和48年4月26日,
スミス社から,上記権利の譲渡を受けた(甲2,3)。
()被告らの行為4
被告ブレーントラストは,本件マスターフィルムを製造し,これを被告
オフィスワイケーに販売し,被告オフィスワイケーは,本件マスターフィ
ルムを基に,本件DVDを製造し,販売している。
()映画の著作物の著作権の保護期間についての規定5
ア旧著作権法(明治32年法律第39号)における保護期間
旧著作権法22条の3は,「活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製
作シタル著作物・・・ノ保護ノ期間ニ付テハ独創性ヲ有スルモノニ在リ
テハ第三条乃至第六条・・・ノ規定ヲ適用シ」と,同法6条は,「官公
衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シ
タル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」と,そ
れぞれ規定し,独創性のある映画の著作物のうち,団体の著作名義で発
行又は興行した著作物の著作権の保護期間は30年としていた。なお,
旧著作権法下においては,団体名義の映画の著作物の著作権の保護期間
は,2回の暫定的な延長措置(昭和42年法律第87号,昭和44年法
律第82号)により33年に延長されている。
イ昭和45年法律第48号(以下「45年改正法」という。)により改
正され,平成15年法律第85号(以下「本件改正法」という。)によ
る改正前の著作権法(以下「改正前著作権法」又は「現行の著作権法」
という。)における保護期間
旧著作権法は,45年改正法により全部が改正され,現行の著作権法
(昭和45年法律第48号)として,昭和46年1月1日から施行され
た(45年改正法附則1条)。
改正前著作権法54条1項は,「映画の著作物の著作権は,その著作
物の公表後五十年・・・を経過するまでの間,存続する。」と規定し,
映画の著作物の著作権の保護期間を公表後50年とした。
なお,45年改正法附則2条1項は,「改正後の著作権法・・・中著
作権に関する規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法・・・
による著作権の全部が消滅している著作物については,適用しない。」
と規定し,昭和46年1月1日の時点で著作権が消滅していない著作物
について改正前著作権法を適用することとした。
ウ本件改正法により改正された著作権法(以下「改正著作権法」とい
う。)における保護期間
改正著作権法54条1項は,「映画の著作物の著作権は,その著作物
の公表後七十年・・・を経過するまでの間,存続する。」と規定し,映
画の著作物の著作権の保護期間を70年に延長した。
本件改正法は,平成16年1月1日から施行された(同法附則1条)。
そして,同附則2条は「改正後の著作権法・・・第五十四条第一項の規
定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する
映画の著作物について適用し,この法律の施行の際現に改正前の著作権
法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例
による。」と規定し,平成16年1月1日の時点で著作権が消滅してい
ない著作物について改正著作権法を適用することとした。
2争点
()本件映画についての改正著作権法54条1項の適用の有無-本件映画の1
著作権は存続期間満了により消滅しているか。
()被告らの原告東北新社に対する不法行為の成否2
()原告東北新社の損害の発生の有無及びその額3
3争点に対する当事者の主張
()争点()(本件映画についての改正著作権法54条1項の適用の有無-11
本件映画の著作権は存続期間満了により消滅しているか。)について
(原告ら)
ア本件映画は,昭和28年5月27日に米国において公表された。この
ことは,本件映画の著作権登録証には,「1953年5月27日に米国
において公表された」と記載されていることから明らかである。
これに対し,被告ブレーントラストは,原告パラマウントが米国で販
売している本件映画のDVD及びそのパッケージに,「COPYRIG
HT1952,RENEWED1980」及び「1952/COL99
OR/117MIN」という表示があることを根拠として,本件映画が
公表された年は昭和27年であると主張する。
しかしながら,上記表示の「1952」という数字は本件映画の公表
日を示すものではない。すなわち,万国著作権保護条約は,無法式主義
国において発行された著作物について,適切な表示を付すことを条件9
に,方式主義国においても保護することを目的として成立したものであ
り,当時方式主義国であった米国においては,公表された著作物を他国
において保護するために,万国著作権保護条約に基づき表示を付する9
必要はなく,本件映画のDVD及びそのパッケージに付された上記表示
は,1909年米国著作権法10条,19条に基づくものである。そし
て,同法10条は,資格のある者は誰でも同法に基づき要求される著作
権表示を伴った公表をなすことにより,著作権を取得することができる
と規定し,同法19条は,著作権表示の具体的方法について,著作権者
の名前を付した上で「Copyright」,「Copr.」又は
「」を表示することを要求しているが,映画の著作物には公表年の表9
示を要求していないから,本件映画の著作権表示としても,公表年を表
示する法的義務はなく,原告パラマウントは,あくまでも任意に「19
52」の表示を付したのである。
したがって,被告ブレーントラストの上記主張は理由がない。
イ上記アのとおり,本件映画の公表された日は昭和28年5月27日で
あるから,改正前著作権法54条1項における本件映画の保護期間は,
本件映画の公表年の翌年である昭和29年1月1日から起算して,その
後50年間,すなわち,平成15年12月31日午後12時までとなる
(改正前著作権法54条1項,57条)。
ところで,平成15年12月31日午後12時は,本件改正法の施行
日である平成16年1月1日午前零時と同時刻であるから,本件映画の
著作権は本件改正法の施行の際に存していることになり,本件改正法附
則2条により,改正著作権法54条1項が適用される。したがって,本
件映画の著作権の保護期間は,同項により,公表後70年,すなわち,
平成35年12月31日午後12時まで延長された。
ウ上記のとおり,本件映画は,本件改正法附則2条の「この法律の施行
の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」に当た
るが,この点について,以下補足して説明する。
(ア)旧著作権法から現行の著作権法への移行の際における解釈の考慮
a旧著作権法は,制定時は,著作者の生前に公表された実名の著作
物の著作権の保護期間を,その著作者の死後30年間としていたが,
昭和37年に旧著作権法から現行の著作権法への改正作業を開始し
た時点で,梶井基次郎(昭和7年死亡)や宮沢賢治(昭和8年死
亡)などが著作権を有する著作物の著作権の保護期間が満了しかか
っていたため,上記改正作業中に著作権の保護期間が満了する著作
物の著作権者を救済することを目的として,以下のとおり,合計4
回の暫定的な著作権の保護期間の延長措置がとられた。
①第1次暫定延長措置
著作権の保護期間を3年間延長する第1次暫定延長措置が昭和
37年4月5日に施行され,これにより,昭和7年に死亡した作
家(梶井基次郎など)の著作権は,本来であれば,昭和37年1
2月31日で保護期間が満了するところ,昭和40年12月31
日まで保護期間が延長された。
②第2次暫定延長措置
第1次暫定延長措置により保護された著作物の著作権の保護期
間を2年間延長する第2次暫定延長措置が昭和40年5月18日
に施行され,これにより,昭和7年に死亡した作家(梶井基次郎
など)の著作権は,本来であれば,第1次暫定延長措置により昭
和40年12月31日で保護期間が満了するところ,昭和42年
12月31日まで保護期間が延長された。
③第3次暫定延長措置
第2次暫定延長措置により保護された著作物並びに従来暫定延
長措置が採られていなかった団体名義の著作物及び写真の著作物
の著作権の保護期間を2年間延長した第3次暫定延長措置が昭和
42年7月27日に施行され,これにより,昭和7年に死亡した
作家(梶井基次郎など)の著作権は,本来であれば,昭和42年
12月31日で保護期間が満了するところ,昭和44年12月3
1日まで保護期間が延長された。
④第4次暫定延長措置
第3次暫定延長措置により保護された著作物の著作権の保護期
間を1年間延長する第4次暫定延長措置が昭和44年12月8日
に施行され,これにより,昭和7年に死亡した作家(梶井基次郎
など)の著作権は,本来であれば,昭和44年12月31日で保
護期間が満了するところ,昭和45年12月31日まで保護期間
が延長された。
b45年改正法は,昭和46年1月1日から施行されたが,同法附
則2条1項において,「改正後の著作権法中著作権に関する規定は,
この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権の全部が消
滅している著作物については,適用しない。」と規定された。
そして,上記の合計4回の暫定延長措置により著作権保護期間が
随時延長された昭和7年に死亡した作家の著作物の著作権は,その
保護期間が満了する昭和45年12月31日午後12時は,45年
改正法の施行日である昭和46年1月1日午前零時と同時刻である
から,同法の施行の際現に「全部が消滅してい」ないものとみなさ
れ,現行の著作権法により50年の著作権保護期間の適用を受けて,
昭和57年まで保護されることとなった。
なお,このように,旧著作権法における著作権の保護期間が昭和
45年12月31日午後12時までとされていた著作物は,昭和4
5年12月31日午後12時と45年改正法の施行日である昭和4
6年1月1日午前零時とが同時刻であるから,現行の著作権法の適
用を受けるという解釈は,45年改正法制定当時の文部省著作権課
長である佐野文一郎氏や極めて著名な学者が支持している解釈であ
り,これに対して異論を唱える学説等は存在しない。
cところで,本件改正法の施行日は平成16年1月1日午前零時で
あり,昭和28年に公表された本件映画の著作権の旧著作権法にお
ける保護期間は平成15年12月31日午後12時までなのである
から,旧著作権法から現行の著作権法への移行の場合と同様に,本
件映画の著作権の保護期間は,改正著作権法の適用を受けて,平成
35年12月31日まで延長されることとなるのは至極当然の解釈
である。
なぜなら,著作権の保護期間を50年に延長することを主たる改
正の内容の一つとする45年改正法も,映画の著作物の著作権の保
護期間を70年に延長することを主たる改正の内容の一つとする本
件改正法も,いずれも,その改正当時,著作権の保護期間が満了し
そうになる著作物を救済することをその改正の主たる目的としてい
る点で共通しており,本件改正法の解釈が45年改正法の解釈と異
なる必要性はまったく存在しないからである。
また,本件改正法の解釈が45年改正法の解釈と異なるのであれ
ば,著作権法の改正に基づく著作権の保護期間の延長という同一の
法的手続の中で,法的に論理一貫しない解釈が無秩序に混在するこ
とになるとともに,万一,昭和28年に公表された映画の著作物の
著作権の保護期間が平成15年12月31日で満了しているとなる
と,昭和28年に公表された映画の著作物は平成35年12月31
日まで延長されているとの解釈に基づき現在までに行われていたあ
らゆる権利処理等について,極めて重大な影響を及ぼすことになる。
(イ)本件改正法附則2条の文言
本件改正法附則2条は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権
法による著作権が存する映画の著作物」と規定しているが,このよう
に,同附則が,この法律の施行の「日」ではなく,わざわざ「際」と
いう文言を使用したのは,平成15年側から見れば平成15年12月
31日午後12時であり,平成16年側から見れば平成16年1月1
日午前零時であるという,同一時点が法律上の二面性を有していると
いうことを表現するためである。
(ウ)本件改正法の立法者意思
a本件改正法は,関係省庁等との意見調整等を経て,著作権法を所
管する文化庁がその原案を作成し,内閣法制局第2部における審査,
国会提出のための閣議決定及び国会による審議を経て,平成15年
6月12日,成立した。
ところで,文化審議会著作権分科会は,著作権制度に関する重要
事項を調査審議する権限を付された機関であり,その中の法制問題
小委員会は,情報化等に対応した著作者等の権利の在り方及び権利
制限の在り方等について検討する権限を付与された機関であるが,
上記の立法作業中,同法制問題小委員会において,映画の著作物の
著作権保護期間の延長等についての検討がされた。同法制問題小委
員会においては,平成14年7月30日ころ,当時,映画製作者連
盟の事務局長及び常務理事であったA(以下「A委員」という。)
によって作成された「映画著作権の保護期間延長が必要」と題する
書面(以下「本件資料1」という。)が配布されたが,本件資料1
は,小津安二郎監督の「東京物語」を含む日本映画の黄金期の昭和
28年に公表された映画の著作物の著作権保護期間を延長すること
を意図して作成されたものであり,本件資料1には,「2.日本
映画の黄金期の作品の著作権が,消滅しようとしている。→(別紙
資料1.)」と記載され,昭和28年に公表された映画のタイトル
のみをリスト化した別紙資料が添付されている。A委員は,同法制
問題小委員会において,本件資料1を示して,昭和28年に公表さ
れた映画の著作物の著作権保護期間を延長する必要性について説明
し,その後,同法制問題小委員会において議論を重ね,最終的に,
映画の著作物の著作権保護期間を20年間延長するという結論とな
った。
このような経緯からすれば,上記法制問題小委員会が,映画の著
作物の著作権保護期間を20年間延長するという結論に至ったのは,
昭和28年以降に公表された映画の著作物の著作権保護期間を20
年間延長するためであったことは明らかである。
そして,法制問題小委員会の上記結論を受けて,著作権法を所管
する文化庁が本件改正法の原案を作成し,内閣法制局の審査を受け
ることとなったのである。
b平成15年4月に,内閣法制局第2部において,著作権担当の参
事官が担当の部長に,本件改正法における映画の著作物の著作権保
護期間についての経過措置の内容を説明することになっていたが,
文化庁は,その説明のための資料として,「平成15年法改正法制
局第2部長説明資料」と題する書面(以下「本件資料2」とい
う。)を作成し,実際に,内閣法制局第2部では,著作権担当の参
事官が本件資料2を示して担当部長に説明を行った。本件資料2に
は,「第54条の映画の著作物の保護期間延長の規定が来年(20
04年)1月1日に施行される場合,本年(2003年)12月3
1日まで著作権が存続する著作物については,12月31日の午後
12時と1月1日の午前0時は同時と考えられることから,『施行
の際現に改正前の著作権法による著作権が存するもの』として保護
期間が延長されることとなる」と明確に記載されているが,本件資
料2に記載された「映画の著作物の保護期間についての経過措置」
の原案がそのまま第156回国会において「著作権法の一部を改正
する法律案」として提出されていることから,内閣法制局が平成1
5年12月31日の午後12時と平成16年1月1日の午前零時は
同時である,すなわち,昭和28年に公表された映画の著作物は,
改正著作権法の適用を受けると考えていたことは明らかである。
そして,上記「著作権法の一部を改正する法律案」が第156回
国会による審議を経てそのまま成立していることから,立法者であ
る国会も,平成15年12月31日の午後12時と平成16年1月
1日の午前零時は同時である,すなわち,昭和28年に公表された
映画の著作物は,改正著作権法の適用を受けると考えていたことも
明らかである。
(エ)本件改正法制定当時の新聞報道
著作権法を改正して映画の著作物の著作権保護期間を20年間延長
すべきか否かについての議論が,文化審議会著作権分科会法制問題小
委員会においてされていた平成14年11月ころから,既に,新聞等
のマスメディアでは,映画の著作物の著作権保護期間が延長されるか
否かが重要なトピックの一つとして扱われており,日本映画の黄金期
である1950年代の作品の著作権切れが目前に迫っていること,そ
の中でも特に1953年(昭和28年)に公表された小津安二郎監督
の「東京物語」の著作権が消滅する可能性があること,映画の著作物
の著作権保護期間を20年間延長するという意向は,松竹,東宝,東
映をはじめとする映画会社の強い要望であることなどが報じられてい
た。
また,現実に本件改正法が成立した時点においても,映画の著作物
の著作権保護期間が延長される契機となったのは「東京物語」である
こと,したがって,改正著作権法により昭和28年に公表された「東
京物語」の著作権保護期間は20年間延長されることが全国的に大々
的に報じられた。
(オ)現に施行された法律の解釈については,所管官庁の解釈をもって
政府見解とすることとなっており,著作権法についての解釈は,著作
権法についての所管官庁である文化庁著作権課の見解が政府見解とな
るところ,文化庁著作権課は,昭和28年に公表された映画の著作物
にも改正著作権法が適用される旨の見解を採っている。
エ小括
したがって,本件映画には,改正著作権法54条1項が適用され,公
表後70年,すなわち,平成35年12月31日午後12時まで存続す
ることになるから,消滅していない。
(被告ブレーントラスト)
ア本件映画が公表された時期について
原告パラマウントが米国で販売している本件映画のDVDには,「C
OPYRIGHT1952,RENEWED1980」と,また,99
同DVD及びそのパッケージには「1952/COLOR/117MI
N」との表示があるが,本件映画についてこのような表示がされたのは,
万国著作権条約に加盟している米国において,同条約3条が「最初の発
行の年と共にの記号を表示する」,「の記号,著作権者の名及び最99
初の発行の年を適当な場所に掲げなければならない」と規定しているか
らである。そして,上記の「発行」とは,同条約6条において,「読む
こと又は視覚によって認めることができるように著作物を有形的に複製
し及びその複製物を公衆に提供することをいう」と規定していることか
ら,著作権法の公表と同義であると解される。
したがって,本件映画が公表された年は,昭和27年(1952年)
である。
イ仮に,本件映画が昭和28年に公表されたとしても,改正前著作権法
による本件映画の著作権の保護期間は,平成15年12月31日に満了
するのであるから,本件改正法の施行日である平成16年1月1日には
著作権が消滅しており,本件改正法附則2条により,本件映画に対して
改正著作権法は適用されない。したがって,いずれにせよ,本件映画の
著作権は,平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了して
おり,既に消滅している。
ウこの点,原告らは,平成15年12月31日午後12時と平成16年
1月1日午前零時は同時刻であるから,本件改正法の施行の際,本件映
画の著作権は存していた旨主張するが,以下の理由から,原告らの同主
張は明らかに誤っている。
(ア)民法140条は,初日不参入の原則を規定し,端数を切り捨てる
ことを規定しているが,切り捨てる端数のないときは全一日として計
算するものとし,ただし書きにより,「ただし,その期間が午前零時
から始まるときは,この限りでない。」と規定している。これは,民
法が1日は午前零時に始まることを明らかにしたものであると解され
る。
このように,民法は1日の始まりを午前零時としたのであるから,
1日は午前零時を含み,翌日の午前零時,すなわち,当日の午後12
時未満となる。
したがって,12月31日の午後12時は12月31日には含まれ
ず,翌年の1月1日に含まれることになる。
(イ)仮に,12月31日が午後12時,すなわち,翌年の1月1日午
前零時までであるとすると,1月1日午前零時は12月31日でもあ
り,1月1日でもあることになり不合理である。
このように1日に当日でもあり翌日でもあるという時間が存在する
ことは,時間の概念,日の概念に矛盾が生じることとなり,かつ,物
理,数学の公理,定理に反する。
(被告オフィスワイケー)
本件映画が昭和28年5月27日に公表されたことは認める。
しかし,改正著作権法は,本件改正法の施行された日である平成16年
1月1日に著作権が消滅していない著作物に適用されるところ,本件映画
の著作権の保護期間は平成15年12月31日までであり,この12月3
1日と平成16年1月1日が重なることはないから,本件映画の著作権は
本件改正法の施行時には消滅しており,本件映画に対して改正著作権法は
適用されない。
したがって,本件映画の著作権は,既に消滅している。
()争点()(被告らの原告東北新社に対する不法行為の成否)について22
(原告東北新社)
原告パラマウントは,スミス社に対して,本件映画に関する日本におけ
る恒久的な全メディアの独占的利用権を与え,原告東北新社は,昭和48
年4月26日,スミス社から,上記権利の譲渡を受けた。
被告ブレーントラストは,本件マスターフィルムを製作し,被告オフィ
スワイケーに対してこれを販売し,被告オフィスワイケーは,購入した本
件マスターフィルムを利用して本件DVDを製造し,販売しており,原告
東北新社の有する上記独占的利用権を共同で侵害した。
そして,平成15年12月31日に著作権の保護期間が満了する映画の
著作物は,改正著作権法が適用され,平成35年12月31日まで著作権
の保護期間が延長されるということは,本件改正法が施行された当初から
広く認識され,この見解に対する異論も公表されていない。したがって,
被告らは,本件マスターフィルム及び本件DVDの製造,販売を開始した
時点で,本件映画の著作権の保護期間が平成35年12月31日まで延長
されたことは認識していたはずであり,原告東北新社の有する上記独占的
権利を侵害することに故意があった。仮に,被告らに上記の認識がなかっ
たとしても,本件マスターフィルム及び本件DVDの製造,販売をするに
当たって,本件映画がパブリックドメインとなっているか否かについて調
査をしなかったことは重過失となるというべきである。また,仮に,本件
マスターフィルム及び本件DVDの販売を開始した時点では被告らに故意
又は重過失が認められなかったとしても,原告東北新社は,平成17年4
月1日以降,たびたび,本件映画がパブリックドメインとなっていないこ
とを警告していたのであるから,被告らには,遅くとも,上記の日以降は
故意又は重過失があったというべきである。
したがって,被告らが本件マスターフィルム及び本件DVDを製造,販
売した上記行為は,共同不法行為を構成する(民法719条1項)。
(被告ら)
争う。
()争点()(原告東北新社の損害の発生の有無及びその額)について33
(原告東北新社)
ア主位的主張
原告東北新社は,昨今,DVDのパッケージ商品の売れ行きが好調な
ことから,平成17年2月ころ,本件映画のDVDパッケージ商品を少
なくとも1万本を,同年秋ころには製造し,販売することを企画した。
一般に,原告東北新社が,スペシャル版や廉価版を除いたDVDのパ
ッケージ商品を販売する場合の定価は3800円であり,定価の75%
の価格(2850円)で小売店又は卸店等の取引先に納品するため,本
件映画のDVDパッケージ商品1万本を納品した場合の売上は2850
万円となる。そして,本件映画のDVDパッケージ商品の製造原価は合
計795万円であるから,原告東北新社が当初の企画どおり,本件映画
のDVDのパッケージ商品を製造,販売していたならば,少なくとも2
055万円(2850万円-795万円)の利益を得ていたことになる。
ところが,原告東北新社が本件映画のDVDのパッケージ商品を製造,
販売しようとしていた矢先に,被告オフィスワイケーが本件DVDを販
売したため,原告東北新社としては,当初購買層としてターゲットにし
ていた消費者を奪われてしまい,本件映画のDVDパッケージ商品を製
造,販売することを中止せざるを得なくなった。
したがって,被告らが本件マスターフィルムを利用して本件DVDを
製造,販売したことにより,原告東北新社には2055万円の逸失利益
が発生した。
イ予備的主張
原告東北新社は,本件映画に関する日本国内における恒久的な全メデ
ィアの独占的利用権を有しているから,原告東北新社の日本国内におけ
る法的地位は本件映画の著作権者に準じる地位にあるといえる。したが
って,原告東北新社が上記独占的利用権の侵害により被った損害を算定
することが極めて困難な本件においては,著作権法114条1項を類推
する基礎があるものと考えるべきである。
そして,被告オフィスワイケーが製造,販売した本件DVDの本数は
1万本を下らず,前記アで主張したように,原告東北新社が本件映画の
DVDを1万本製造,販売していれば,少なくとも2055万円の利益
を得ることができたのであるから,著作権法114条1項による損害額
は2055万円となる。
ウ弁護士費用
原告東北新社が本件訴訟を遂行するために要する弁護士費用は,30
0万円を下らない。
(被告ブレーントラスト)
ア主位的請求に対して
争う。
本件映画のDVDが定価980円で1万枚売れたはずであるという原
告東北新社の主張は,何ら立証されていない。
なお,原告東北新社は,著作権が消滅していない映画のDVDを定価
1500円で販売しているところ,原告東北新社の主張によれば,原告
東北新社の取引先への納入価格は定価の75%であること,DVD1枚
当たりの製造原価は795円であることからすると,原告東北新社が本
件映画のDVDを販売することにより得られる利益は1枚当たり330
円となる。
イ予備的請求に対して
争う。
なお,原告東北新社は,本件映画のDVDの販売価格を3800円と
しても被告オフィスワイケーが販売した枚数を販売できたかのように主
張するが,販売価格を3800円とすれば,本件映画のDVDの販売枚
数は少なくなる。
(被告オフィスワイケー)
争う。ただし,被告オフィスワイケーが本件DVDを少なくとも1万枚
製造,販売したことは認める(製造した枚数は2万2000枚,販売した
枚数は1万9000枚である。)。
第3当裁判所の判断
1争点()(本件映画についての改正著作権法54条1項の適用の有無-本件1
映画の著作権は存続期間満了により消滅しているか。)について
()本件映画が公表された年について1
米国著作権局作成の本件映画についての著作権登録証明書(甲1,6
4)には,「公表された作品の欄(最初に,発売,販売または公開された
日付)」に「最初に合衆国で公開された」日付として,「1953年5月
27日」と記載されていることから,本件映画は,米国において,昭和2
8年5月27日に公表されたことが認められる。
これに対し,被告ブレーントラストは,原告パラマウントが米国で販売
している本件映画のDVDには,「COPYRIGHT1952,R99
ENEWED1980」と,また,同DVD及びそのパッケージには「1
952/COLOR/117MIN」との表示があり,同表示は,本件映
画が1952年に発行されたことを意味することを根拠として,本件映画
は昭和27年(1952年)に公表された旨主張するので,この点につい
て検討する。
確かに,乙第1号証によれば,原告パラマウントが米国で販売している
本件映画のDVDには,「COPYRIGHT1952,RENEW99
ED1980」と,また,同DVD及びそのパッケージには「1952/
COLOR/117MIN」との表示があることが認められる。
しかしながら,そもそも,上記のDVD及びそのパッケージにおいて,
「1952」との表示が,本件映画が最初に公表された年自体を示す旨の
記載はなく,他にこのことを認めるに足りる明確な証拠もない上,上記の
著作権登録証明書(甲1,64)には,著作権局の注として,「著作権表
示は1952年」と記載されていることからすると,著作権表示は19C
52年とされているものの,本件映画が公表された時期としては,上記の
とおり,1953年5月27日と認定されているということができる。そ
うすると,原告パラマウントが米国内で発売している本件映画のDVDに
おいて上記のとおり表示されているとしても,この表示のみから,上記著
作権登録証明書の記載の信用性を損なわせることはできないというべきで
あり,被告ブレーントラストの上記主張は採用できない。
したがって,本件映画が公表された年は,昭和28年である。
()本件映画の著作権の存続期間(旧著作権法,改正前著作権法)2
本件映画は,上記のとおり,昭和28年に公表されたものであるところ,
前記争いのない事実等⑸記載のとおり,本件映画の公表時に映画の著作物
の著作権の保護期間を定めていた旧著作権法は,独創性のある映画の著作
物のうち,団体の著作名義で発行又は興行した著作物の著作権は,発行又
は興行から30年継続するものと定め(旧著作権法6条,23条の3),
その期間は,著作物を発行又は興行した年の翌年から起算することとして
いる(旧著作権法9条)。その後,旧著作権法下において,団体名義の映
画の著作物の著作権の保護期間は,2回の暫定的な延長措置(昭和42年
法律第87号,昭和44年法律第82号)により33年に延長された。さ
らに,45年改正法が施行され,映画の著作物の著作権は公表後50年を
経過するまでの間存続する旨定められた(改正前著作権法54条1項)。
同法附則2条1項は,同法の施行の際現に旧著作権法による著作権の全部
が消滅している著作物については,改正前著作権法を適用しない旨規定し
ているから,45年改正法が施行された昭和46年1月1日の時点で著作
権が消滅していない著作物については,改正前著作権法を適用することと
された。
そこで,本件映画についてみると,本件映画は,独創性のある映画の著
作物であり,また,原告パラマウントの著作名義で公表された著作物であ
ると認められる(甲1,64,弁論の全趣旨)から,旧著作権法のもとで
は,その発行又は興行のとき,すなわち,本件映画が公表された昭和28
年の翌年である昭和29年から著作権の保護期間が起算され,その後の延
長措置により,著作権の保護期間は昭和29年から33年間となる昭和6
1年12月31日までとされていた。そうすると,本件映画は,45年改
正法施行時にその著作権が消滅していない著作物であり,改正前著作権法
54条1項が適用されることとなるから,本件映画の著作権は,公表の翌
年である昭和29年から起算して(同法57条),50年後の末日である
平成15年12月31日が終了するまでの間存続することとなった(同法
54条1項,民法141条,143条1項)。
⑶改正著作権法54条1項の適用の有無
ところで,前記争いのない事実等で判示したとおり,平成16年1月1
日から本件改正法が施行され,改正著作権法54条1項は,映画の著作物
の著作権の保護期間を公表後70年に延長し,本件改正法附則2条は,
「改正後の著作権法・・・第五十四条第一項の規定は,この法律の施行の
際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用
し,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅してい
る映画の著作物については,なお従前の例による。」と規定しているので,
これにより,平成16年1月1日の時点で著作権が消滅していない著作物
の著作権存続期間は,70年に延長された。
本件映画については,上記のとおり,平成15年12月31日の終了を
もって著作権の存続期間が満了しており,平成16年1月1日の時点で著
作権が消滅しているから,改正著作権法54条1項は適用されないと解さ
れる。
原告らは,改正前著作権法54条1項に基づく本件映画の存続期間の満
了点である平成15年12月31日午後12時は,本件改正法が施行され
た平成16年1月1日午前零時と同時刻であるから,本件映画の著作権は,
本件改正法が施行された際存続しており,改正著作権法54条1項が適用
されて,同著作権は,公表後70年を経過するまでの間,すなわち,平成
35年12月31日まで存続する旨主張するので,以下,この点について
検討する。
ア著作権法における存続期間の解釈
著作権法における映画の著作物の著作権の存続期間は,年によって定
められているから(改正前著作権法54条1項,57条,民法140
条),その期間はその末日の終了により満了し(民法141条),その
期間の認定は日を単位としてされ,一方,改正著作権法の適用の可否の
基準となる本件改正法の施行日も日をもって定められており(本件改正
法附則1条),改正著作権法の適用区分の認定も日を単位としてされる
ところ,このように,日を単位として見れば,平成15年12月31日
と本件改正法の施行日である平成16年1月1日とは異なることになり,
両者に重なりも認められないというべきであるから,本件改正法が施行
された時点では,平成15年12月31日は既に終了しており,この日
に著作権の存続期間が満了する映画の著作物は,既に消滅していると解
するのが相当である。
また,著作権法は,保護の対象とする権利の範囲やその権利を侵害す
ることになる行為の範囲を規定し,その権利を侵害する行為について,
民事上の差止請求や損害賠償請求の対象とするだけでなく,懲役刑や罰
金刑などの刑事上の罰則の対象ともしていることから,著作権法により
保護されている権利の範囲やその権利を侵害することになる行為の範囲
は一義的に明確にされている必要性が高く,その規定が一義的に明確と
いえないような場合は,社会一般人に対して不測の損害を与えることの
ないよう,その解釈も社会一般人が通常読み取ることのできる解釈によ
るべきものといえる。このような観点から本件改正法附則2条の文言に
ついて検討するに,通常,社会一般人が同条項の文言に接した場合,本
件改正法の施行日の前日が存続期間の満了日である映画の著作物に対し
ては同法は適用されないものと解すものと考えられ,原告らの主張する
ように,本件改正法の施行日である平成16年1月1日の前日である平
成15年12月31日の午後12時は平成16年1月1日の午前零時と
同時刻であることから,平成15年12月31日に著作権の存続期間が
満了する映画の著作物の著作権は平成16年1月1日には消滅していな
いとの考えに至り,改正著作権法が適用されると解釈する者を想定する
ことは困難であるから,上記附則2条の解釈としても,本件改正法の施
行日の前日に著作権の存続期間が満了する映画の著作物には,改正著作
権法は適用されないものと解するのが相当である。
イ他の法令における解釈との整合性
そして,他の改正法の経過規定に関する附則においても,例えば,所
得税法等の一部を改正する法律(平成16年法律第14号)附則1条,
17条1項では,同法による改正後の国税通則法70条1項は,平成1
6年4月1日以後に法人税に係る法定申告期限が到来する法人税につい
て適用し,上記の日前にその期限が到来した法人税については,適用し
ない旨規定しており,この附則の解釈としては,法定申告期限を同年3
月31日とする法人税,すなわち,法定申告期限が同日の終了によって
到来する法人税に対しては,上記改正後の国税通則法70条1項は適用
されないと解されるところ,本件改正法附則2条についての原告らの前
記解釈を前提とすると,同年3月31日の午後12時は,同年4月1日
の午前零時と同時刻であるから,同年4月1日の時点では同年3月31
日は終了しておらず,したがって,上記法律の施行日前に上記申告期限
は到来していないとして,上記法人税に対しても改正後の国税通則法7
0条1条が適用されるとする解釈も可能となるが,このような解釈が不
当であることは明らかである。
また,例えば,平成16年法律第84号により行政事件訴訟法が改正
され(施行日は平成17年4月1日),同法附則4条は,「この法律の
施行前にその期間が満了した処分又は裁決に関する訴訟の出訴期間につ
いては,なお従前の例による。」と規定しているが,同附則4条の解釈
としては,平成17年3月31日に上記改正前の行政事件訴訟法14条
1項の規定による出訴期間が満了した取消訴訟等については上記改正後
の行政事件訴訟法14条1項の適用はないと解されるところ,本件改正
法附則2条についての原告らの前記解釈を前提とすると,同年3月31
日の午後12時は,同年4月1日の午前零時と同時刻であるから,同年
4月1日の時点では同年3月31日は終了しておらず,したがって,上
記改正法の施行日前に上記取消訴訟等の出訴期間は満了していないとし
て,同訴訟に対しても上記改正後の行政事件訴訟法14条1項が適用さ
れるとする解釈も可能となるが,このような解釈が不当であることも明
らかである。
このように,他の改正法における経過規定に関する附則の解釈との整
合性の観点からも,原告らの前記解釈は採用できない。
ウ立法者意思
原告らは,立法者意思を根拠として,平成15年12月31日に著作
権の存続期間が満了する本件映画の著作権は,本件改正法が施行された
際存しており,本件映画に対して,改正著作権法が適用される旨主張す
るので,この点について検討する。
(ア)本件改正法の立法過程における検討状況
証拠(甲29,30,44ないし50)及び弁論の全趣旨によれば,
本件改正法の立法過程における検討状況について,以下の各事実が認
められる。
a1950年代に公表された映画の著作物の著作権の存続期間の満
了が眼前となってきた1990年代の末ころ,映画製作者等の映画
産業の関係者の間では,映画の著作物の著作権の保護期間を延長す
べく著作権法を改正する旨の要求が高まっていた。
このような状況の中で,文化庁文化審議会においても,映画の著
作物の著作権の保護期間の延長に関する審議がされるようになり,
平成14年7月30日に開催された文化審議会著作権分科会法制問
題小委員会(第2回)においては,まず,事務局から文化審議会に
おける映画の著作物の著作権の保護期間の延長についてのこれまで
の検討状況の説明がされ,その後,法制問題小委員会の構成員であ
るA委員から,当日の配布資料である同人作成の「映画著作権の保
護期間延長が必要」と題する本件資料1(同委員会では資料11と
して配布された。)を基に,日本映画の黄金時代といわれる昭和2
0年代後半に公表された映画作品の著作権の存続期間が満了しつつ
あること,及び映画の著作物の著作権の保護期間は他の著作物の著
作権の保護期間に比して短く不均衡であることから,映画の著作物
の著作権保護期間を70年に延長すべきであること,並びに映画の
著作物の著作権保護期間を70年に延長すると,映画産業にとって
非常に大きな経済的効果があること等が説明された(甲29)。
b本件資料1には,以下の記載がある(甲29)。
「1.現行法は,映画の著作物の保護期間を,『公表後50年』
(創作後50年以内に公表されないときは,創作後50年)と定め
ているが,改正の必要がある。」
「2.日本映画の黄金期の作品の著作権が,消滅しようとしてい
る。→(別紙資料1.)
※小津安二郎監督作品
・昭和27年までの公開作品(『宗方姉妹』『お茶漬の味』
等)は,今年12月31日で著作権消滅
・昭和28年公開作品(『東京物語』)は,来年12月31日
に著作権消滅」
※溝口健二監督作品
・昭和26年までの公開作品(『武蔵野夫人』等)は,既に著
作権消滅
・昭和27年公開作品(『西鶴一代女』)は,今年12月31
日で著作権消滅
・昭和28年公開作品(『雨月物語』)は,来年12月31日
で著作権消滅」
世界的にも極めて高い評価を得ている昭和20年代後半の映画
の著作権が,続々と消滅しつつある。
→一刻も早く保護期間の延長をはかることが,映画関係者の悲
願」
「3.他の著作物の保護期間との違い映画以外の著作物は,
『創作~著作者の死亡時プラス50年間』の保護を受けているのに,
映画の著作物は『公表後50年間』の保護しかない。」
「以上のことから,映画の著作物と他の著作物とのバランスをと
る必要がある。そこで,公表後50年ではなく,一定期間を追加す
べき。
追加すべき期間は,『公表~著作者の死亡時』までの平均的期間
であるが,アメリカ合衆国法(25年追加)をも参酌しつつ,さし
あたり20年が適切」
「よって,映画の著作物の保護期間は,公表後70年(創作後7
0年以内に公表されなかったときは創作後70年)とするべき。」
「5.商業的利用の継続
・旧作映画は,ビデオ化やテレビ放映などによる経済的利用が活
発に継続されている。
・資産価値を現に有し,経済的利用が行われている作品の著作権
を消滅させるべきでない。
・著作権を消滅させると,かえって円滑な利用が行われなくなる。
・経済的効果の試算(別紙資料2.)映画の保護期間を20年
延長した場合の経済的効果を試算すると,映連加盟社の映画につき,
184億1100万円となる。」
「6主要先進国との比較
●アメリカ合衆国(アメリカ著作権法302条)・・・
●EU指令・・・」
また,本件資料1には,「別紙資料1」と「別紙資料2」の2枚
の資料が別紙として添付されており,そのうちの一つの資料である
「別紙資料1」には,昭和28年に公開された合計26作品の日本
映画の作品名並びにその製作会社名及び監督名が記載されており,
もう一つの資料である「別紙資料2」には,著作権の保護期間を2
0年間延長した場合の昭和28年から昭和52年までに公開された
映画の収入増加予想額について,各年毎の額とその合計額とを算定
した表が記載されている。
cさらに,上記法制問題小委員会において,A委員からの上記説明
の後に,各委員の間で意見交換が行われ,各委員から,以下の①か
ら⑩までのような意見が出され,また,⑪から⑭までの質問がされ
た。
①映画の著作物の著作権の保護期間を延長すべき理由としてA委
員が挙げた,日本の映画の黄金期の作品の著作権の消滅を避ける
という点は,知的財産権の存続期間がその利用価値のあるうちに
満了することは社会全体のウェルフェアが増すという観点からは,
保護期間延長の理由とはならないこと。
②映画の著作物と他の著作物の著作権の保護期間の違いについて
は大いに議論すべきであること。
③日本の著作権法において映画の著作物の著作権の保護期間を5
0年とすると,逆に,欧州の映画の著作物の著作権の保護期間も
日本において50年となり,保護期間を延長しないことが日本に
とって一方的に不利とはいえないのであるから,社会全体にとっ
て何がいいかを検討する必要があること。
④日本の著作権法において映画の著作物の著作権の保護期間を5
0年とすることにより,日本映画の名作が海外に流出することに
よって被る日本の経済的損失も考えるべきであること。
⑤日本における映画の著作物の著作権の保護期間が主要先進国に
比較して短いと国際的な非難を浴びるおそれがあるから,国際的
な基準に合わせるべきであること。
⑥映画の著作物の著作権の保護期間を70年とすることの妥当性
は日本独自に考えるべきであること。
⑦映画作品の配信を行う者として最適なのは,著作権者である映
画製作者なのか,それとも流通市場を担う人たちなのかを検証す
べきであること。
⑧映画の著作物の著作権の保護期間を延長する理由をはっきりし
ないと歯止めがなくなり,いずれ保護期間が70年,100年と
なり,また,映画の著作物以外の著作物の著作権の保護期間にも
波及する懸念があるから,映画の著作物の著作権の保護期間を延
長することの理由を明確にすべきこと。
⑨工業所有権法に関しては,保護期間を延長してほしいとの意見
はそれほどないことにも留意する必要があること。
⑩映画の著作物の定義について更に議論をする必要があること。
⑪映画の著作物の著作権の保護期間を延長することは,パブリッ
クドメインとなった映画を供給するビジネスにいかなる影響を及
ぼすのか。
⑫A委員の要望は,映画の著作物の著作権については,常に映画
以外の著作物より長い保護期間にして欲しいというものなのか。
⑬映画の著作物の著作権の保護期間の終期を著作者の死後70年
という要望が出てこないのはなぜか。
⑭映画の著作物の著作権の保護期間を延長しないことによる国レ
ベルの損失を試算したらどのような数字になるのか。
また,A委員又はB委員からは,他の委員に対して,以下のよう
な説明がされた。
①保護期間の延長の対象となる映画の著作物とは,主として劇場
用映画であること。
②映画作品は,パブリックドメインとなっても売れるものではな
く,著作権者が販売のための努力をしないと売れないものであり,
著作権者のこうした努力が文化の振興につながるので,映画の著
作物の著作権の保護期間の延長を要望すること。
③映画の著作物がパブリックドメインとなって自由に使用できる
ことは一見重要であるが,文化遺産として保護するという観点か
らは一元的な管理が必要であること。
④映画の著作物の著作権の保護期間の延長を要望する理由は,他
の著作物の著作権の保護期間との不均衡を是正して欲しいという
ものであるから,少なくとも現時点では映画の著作物の著作権の
保護期間を他の著作物の著作権の保護期間より長くして欲しいと
いうことは考えていないこと。
⑤映画の著作物の著作権の保護期間の延長の要望は,ハリウッド
映画との戦いという経済的側面があることも理解して欲しいこと。
d平成14年10月7日に開かれた文化審議会著作権分科会法制問
題小委員会(第5回)においては,A委員から,配付資料である
「映画著作権の保護期間の延長について」と題する資料3(以下
「本件資料3」という。)が示され,本件資料3に記載された内容
に沿って,映画の著作物の著作権の保護期間の延長についての説明
がされた。
本件資料3には,以下のような記載がある。
「繰り返し申し上げておりますとおり,今回の改正提案は,死後
50年との実質的不均衡を是正することを目的とするものでありま
す。たまたまEUの原則的保護期間が『死後70年』であり,70
年という数字が一致しておりますが,決してEUに合わせるべきで
あるという趣旨のご提案ではありません。死後50年の場合には,
『創作時から著作者の死亡時』までプラス『死後50年』の保護を
受けており,『公表時から50年』と比べると,『公表時~著作者
の死亡時』までの期間だけ長くなっております。そこで,その平均
的な期間がどれくらいか,ということが問題となります。」
「この調査結果に基づきますと,死後50年との実質的不均衡を
是正するためには,公表時から『78.5年』(参考資料1)の保
護が映画に認められるべきということになりますが,今回の提案は,
多少控えめに,固いところで公表後70年の保護をご提案させてい
ただいております。」
「今回の改正提案は,映画の著作物と他の著作物との間で,保護
期間に実質的な不均衡が生じていることを是正するためのものであ
り,その是正に必要な範囲という限定付きでの保護期間の延長を求
めるものであります。したがって,今回の改正提案は,他の著作物
の保護期間の延長に波及するものではありません。また,もし将来,
著作物の原則的な保護期間を『死後50年』から延長する場合は別
として,そうでない限りは,映画の保護期間のみを公表後80年と
か,95年とかに再延長することは考えられません。」
「映画を良好な状態で保存し,その利用開発を進めるためには,
それなりの経済的投資を必要とします。保護期間の延長により,投
下資本を回収し,今後の映画の再生産,映画の良好な状態での保存
と管理,国民による映画の利用のための開発を行うことによって,
映画文化の発展に努めることが,文化の振興の一端を担う映像コン
テンツ製作者の責務だと考えており,今回の提案に御理解いただき
たいと思います。」
なお,本件資料1とは異なり,日本映画の黄金期の昭和20年代
後半に公表された映画の著作物の著作権が消滅しつつあるから,一
刻も早く著作権の保護期間の延長を図る必要がある旨の記載はない。
A委員からの上記説明の後,上記法制問題小委員会において,各
委員の間で意見交換が行われたが,その中では,映画の著作物と他
の著作物との間には著作権の保護期間の点で不均衡があり,これを
解消するために映画の著作物の著作権の保護期間を20年延長する
ことの要望は合理的であり,したがって,A委員の提案に賛成であ
るという意見が主流であった。
eその後,文化庁において,本件改正法の原案が作成され,同原案
が内閣法制局の審査を受けた。上記原案における附則2条は,本件
改正法附則2条と同一の文言であるところ,内閣法制局において,
著作権担当の参事官が担当部長に対して,同条の文言についての説
明をしたが,その際に上記参事官が使用した説明資料である本件資
料2には,「第54条の映画の著作物の保護期間延長の規定が来年
1月1日に施行される場合,本年12月31日まで著作権が存続す
る著作物については,12月31日の24時と1月1日の0時は同
時と考えられることから,『施行の際現に改正前の著作権法による
著作権が存するもの』として保護期間が延長されることとなる。」
との記載があり,上記説明の内容は,本件資料2に沿ったものであ
った(甲47,49)。
内閣法制局における上記審査の後,本件改正法の法律案が平成1
5年第156回国会に提出され,国会における審議を経た上で,平
成15年6月18日,本件改正法が成立した(甲50)。
上記法律案の提案理由説明書には,映画の著作物の著作権の保護
期間を延長することについての提案理由として,映画の著作物の著
作権の保護期間は一般の著作物の著作権の保護期間と比較すると著
作者の生存期間の分だけ実質的に短いという状況にあり,また,他
の先進諸国においては,公表後50年という条約上の義務を超えて,
より長い保護期間を法定することが一般化しており,このような状
況を踏まえ,内外における我が国の映画の著作物の保護を強化する
ため,映画の著作物の著作権の保護期間を公表後70年に延長する
旨の記載がある。
(イ)検討
以上の事実関係をもとに,検討する。
a前記(ア)のとおり,本件改正法の法律案が国会に提出された際に
示された提案理由のうち,映画の著作物の著作権の保護期間を延長
することについての提案理由は,映画の著作物の著作権の保護期間
が他の著作物の著作権の保護期間より短く,また,他の先進諸国に
おける映画の著作物の著作権の保護期間は一般に日本よりも長いと
いう状況を踏まえて,映画の著作物の著作権の保護期間を延長して
映画の著作物の保護を強化するというものであり,いわゆる日本映
画の黄金期に公表された各作品の著作権の消滅を防ぐという点,さ
らに具体的には,昭和28年に公表された映画の著作権の消滅を防
ぐという点は,提案理由として挙げられていなかったのであるから,
国会における審議において,昭和28年に公表された映画の著作権
の存続期間が満了することを防ぐことの必要性に関する議論はなさ
れていたものとは認められない。
また,文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会での検討
状況については,前記(ア)のとおり,平成14年7月30日に開催
された同委員会では,A委員から,映画の著作物の著作権の保護期
間の延長の提案がされ,その提案理由として,映画の著作物の著作
権の保護期間は他の著作物の著作権の保護期間より短く,この不均
衡を是正する必要があること等の理由とともに,日本映画の黄金期
である昭和20年代後半の作品の著作権が消滅しようとしており,
これを防ぐ必要があることも説明されたが,その後の意見交換にお
いて,各委員から,同提案に対する消極的な意見が少なからず提出
され,その中には,日本映画の黄金期の作品の著作権の消滅を避け
るということは映画の著作物の著作権の保護期間の延長の理由には
ならない,映画の著作物の著作権の保護期間を延長する理由を明確
にしないと,保護期間の更なる延長の要望がされる懸念があるなど
の意見も表明された。同年10月7日に開催された委員会では,映
画の著作物の著作権の保護期間延長の理由が再度説明されたが,そ
こでは,他の著作物の著作権の保護期間との不均衡の是正を図るこ
とが強調され,日本映画の黄金期である昭和20年代後半の作品
(とりわけ昭和28年に公表された作品)の著作権の消滅を防ぐと
いう点は挙げられないまま審議が行われ,最終的に映画の著作物の
著作権の保護期間の延長に対する各委員からの賛同が得られた。
このような経緯からすれば,同小委員会においても,日本映画の
黄金期である昭和20年代後半の作品の著作権の消滅を防ぐという
点は,映画の著作物の著作権の保護期間の延長という法律改正にお
いて,その明確な目的とはされていなかったというべきである。
そして,本件証拠上,前記(ア)で認定したほかに,本件改正法の
立法過程において,昭和28年に公表された映画の著作物の著作権
の消滅を防ぐことの必要性に関する議論がなされたような事情は認
められない。
したがって,本件改正法の制定の際の国会の審議において,昭和
28年に公表された映画の著作物の著作権の存続期間が満了してし
まうという点を考慮して,それを防ぐための必要性が議論されたと
は認められず,その観点から本件改正法附則2条1項の解釈につい
て議論がされたとも認められないから,昭和28年に公表された映
画の著作物の著作権の存続期間が満了するのを防ぐことが本件改正
法の制定時の立法者意思であるという原告らの主張には,理由がな
い。
bなお,前記aのとおり,本件改正法の法律案が国会に提出された
際の提案理由として,昭和28年に公表された映画の著作物の著作
権の消滅を防ぐという点は挙げられていなかったことからすると,
内閣法制局において,著作権担当の参事官から同部長に対して本件
改正法附則2条に係る前記(ア)eのとおりの解釈についての説明が
されたからといって,この点が国会でも議論されたと認めることは
できない。したがって,本件改正法の法律案についての内閣法制局
における審査での上記の説明の存在は,国会における審議状況につ
いての前記aの認定を左右するものではない。
エ45年改正法附則の解釈
また,原告らは,45年改正法附則2条1項の解釈としては,45年
改正法が施行された昭和46年1月1日の前日である昭和45年12月
31日に著作権の存続期間が満了する著作物に対しても改正前著作権法
が適用されるとの解釈が確立されているところ,改正前著作権法54条
1項と改正著作権法54条1項とは,著作権の存続期間が満了しそうに
なっている著作物を救済するという同一の目的で制定ないし改正された
のであるから,45年改正法附則2条1項と本件改正法附則2条とで異
なる解釈をすべきではない旨の主張をする。
しかしながら,45年改正法附則2条1項の解釈としては,前記イで
判示したのと同じ理由から,同法の施行日の前日である昭和45年12
月31日に著作権の存続期間が満了する著作物に対しては,同法は適用
されないと解するのが文理解釈として相当である。
したがって,原告らの上記主張には,理由がない。
この点,原告らは,旧著作権法下における4回にわたる暫定延長措置
と45年改正法制定の経緯を指摘して,昭和45年12月31日に著作
権の存続期間が満了する著作物にも改正前著作権法が適用される旨主張
する。
しかし,旧著作権法下において,昭和37年法律第74号,昭和40
年法律第67号,昭和42年法律第87号,昭和44年法律第82号に
より4回にわたり実施された暫定的な著作権の保護期間の延長措置は,
新たな法律の成立に必要な時間を考慮すると,著作権の存続期間の満了
が間近に迫っている著作物に限定せずに,概ね数年以内に迫っている著
作物について,その存続期間を延長することを目的としたものと解する
のが合理的であり,上記各暫定措置を受けて制定された45年改正法及
び同法附則2条1項も,同趣旨を目的としてたものと解されるから,上
記の延長措置及び改正法制定の経緯が,本件改正法附則2条についての
前記解釈を左右するものではない。
したがって,原告らの上記主張も理由がない。
オ文化庁著作権課の見解等
さらに,原告らは,本件改正法附則2条の解釈についての原告らの主
張の根拠として,著作権行政を所管する文化庁著作権課の見解も原告ら
の主張と同じであることを指摘するが,文化庁著作権課の見解はあくま
でも所管官庁である文化庁における解釈にすぎず,これが直ちに立法者
意思に結び付くものとはいえない。そして,前記ウで判示したとおり,
本件改正法の制定の際の国会の審議において,昭和28年に公表された
映画の著作物の著作権の存続期間が満了してしまうという点を考慮して,
それを防ぐ必要があるという観点から,本件改正法附則2条1項の解釈
が議論されたものとは認められず,また,文化庁著作権課の上記見解が
国会審議において反映されたものとも認められない。したがって,原告
らの上記主張は理由がない。
その他,原告らは,本件改正法附則2条の解釈についての原告らの主
張の根拠として,新聞記事や学説の状況など種々の点を指摘するが,そ
れらの点は,上記検討の結果を左右するものではない。
カまとめ
以上により,本件改正法附則2条の解釈としては,平成15年12月
31日に著作権の存続期間が満了する映画の著作物に対して,改正著作
権法54条1項は適用されないと解するのが相当であるから,改正前著
作権法の規定に従い上記の日に著作権の存続期間が満了する本件映画に
対しては,改正著作権法54条1項は適用されないことになる。
したがって,本件映画の著作権は,既に,平成15年12月31日が
満了した時点で消滅している。
2したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はい
ずれも理由がないことになる。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却す
ることとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官佐野信
別紙映像素材目録
被告株式会社ブレーントラストが頒布用に製造する別紙映画目録記載の映画を
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監督ジョージ・スティーヴンス
制作ジョージ・スティーヴンス
出演アラン・ラッド,ヴァン・ヘフリン,ジーン・アーサー
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