弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人宗宮信次の上告趣意第一点について。
 古物営業法一条二項は「この法律において『古物商』とは古物を売買し、若しく
は交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換することを営業とする者で二条
一項の規定による許可を受けたものをいう。」と定め、同法二条一項は「古物商に
なろうとする者は、……公安委員会の許可を受けなければならない。」と定めてお
り、他方同法六条は「古物商又は市場主でない者は古物を売買し、交換し、若しく
は委託を受けて売買し、交換することを営業とし、又は市場を設けてはならない。」
と定めているのである。即ち古物営業につき許可営業主義を採用し、なお同法二七
条において無許可の営業につき罰則を設けているのである。従つて古物営業におい
ては所定の許可を受けなければその行為をすることができないということが規定さ
れているのであるから、それらの規定が営業の自由を制限するものであることは所
論のとおりである。そして論旨は右の制限をもつて憲法違反であると主張するので
ある。しかし憲法二二条は国民の権利として「職業選択の自由」を保障しているが、
その自由を無制限に亨有させているのではなく「公共の福祉」の要請がある限りそ
れは制限されうることをも認めているのである。従つて古物営業法が許可制度をと
り、無許可営業を処罰することが「公共の福祉」を維持するために必要であるなら
ば、その制限は何等憲法に違反するものではないのである。
 ところで古物営業については、旧古物商取締法時代から許可営業主義をとり、各
人の自由に放任する主義を採用しなかつたのであるが、それは賍物の相当数が古物
商に流される現実の事態に鑑み、その流れを阻止し、又はその発見に努め、被害者
の保護を計ると共に犯罪の予防、鎮圧乃至検挙を容易にするために必要であり、右
は国民生活の安寧を図り、いわゆる「公共の福祉」を維持する所以であるからであ
る。古物営業法は旧法を廃止し新たに立法されたもので幾多の点において新たな規
定を設けているが、許可主義をとつた点においては終始一貫しておるのである。け
だし許可主義をとることが前記の如く公共の福祉の維持に必要であるから新法もま
た旧法の主義を踏襲したのである。ただ旧法においては古物商の免許については何
ら基準を設けず、すべて行政庁の自由裁量に委ねられていたのであるが、新法にお
いては第四条において許可の基準を設け、その許可不許可が行政庁の独断恣意によ
つてなされることのないようにし、特に同条二項において不許可のときは公安委員
会は理由を附した書面をもつて申請者に通知しなければならないと規定し、申請者
がこれに不服あるときは第二六条によつて訴を提起することができるように配慮し
ているのである。
 以上を要するに、古物営業法が許可制度をとり、無許可営業を処罰することは「
公共の福祉」を維持するための必要な制限であるといわねばならないから、何等、
憲法二二条に違反するものではなく従つて論旨は理由がない。
 同第二点についで。
 記録に徴するに被告人は古物営業法違反で昭和二六年三月二日逮捕(六六丁)さ
れ、同月五日同法違反で勾留(六七丁)されたが、起訴は同月二四日古物営業法違
反及び窃盗罪としてなされたのである(一丁)。被告人は逮捕当時から、古物営業
法違反について自白し、公判においても終始自白しているのに反し、窃盗は否認し
ているのである。論旨前段は要するに、窃盗についてこれを自白させるべく被告人
に対し強制拷問が加えられたというに帰着するが、原審は職権により被告人の取調
にあたつた司法警察職員のA、B、C及びDを証人として喚問し、強制拷問の有無
を取調べたのである。原判決はかかる取調の結果に基いて被告人が本件につき取調
を受けたとき強制拷問などにより自白を強要された事実のないことを説示している
のである。そして原審の右判断が違法であるとは認められないのみならず、第一審
判決は窃盗罪の認定について被告人の自白を採用していないのであるから、窃盗罪
について強制拷問が行われたという論旨は判決に影響を及ぼさない主張である。ま
た憲法三五条に違反して令状なくして被告人の住宅、所持品を捜索したとの主張は
控訴趣意として原審に主張せられなかつたのであるから適法な上告理由とならない。
 次に論旨後段は不法勾留の主張であるが、被告人が昭和二六年三月五日勾留せら
れ、同月二四日起訴されたことは所論のとおりである。しかし右勾留期間が刑訴二
〇八条二項の規定により同月二四日まで延長されていることは本件勾留状裏面の記
載により明白である。従つて論旨はその前提を欠くものであつて採るを得ない。
 同第三点について。
 第一審第一乃至第三回公判調書をみると検察官は窃盗の事実(判示第一事実)を
立証すべく証人としてE外二名の喚問を申請し、また古物営業法違反の事実(判示
第二事実)を立証すべくF外四名の司法警察員の供述調書五通及び被告人の司法警
察員に対する弁解録取書、被告人の司法警察員に対する第一回供述調書、被告人の
検察官事務取扱検察事務官に対する第一回供述調書各一通の取調を求め、裁判官は
これを全部採用したので、検察官は右書類を前記の順序に従い朗読し、証拠調をし
たこと、及び第二、三回公判期日に右窃盗の事実に関する証人E等を取調べたこと
は明白である。そして被告人は窃盗については逮捕以来否認しているのであるから
自白調書は存在しないのであり、前記弁解録取書以下の被告人の供述調書はいずれ
も判示第二事実に関する自白調書であつて窃盗の事実に関するものでないことは原
判決説明のとおりである。従つて判示第二事実について補強証拠を取調べた後に前
示自白調書を取調べているのであるから刑訴三〇一条違反の問題は生じないのであ
る。論旨は判例違反を主張するが引用の判例は本件に適切でないから所論は採るを
得ない。
 被告人の上告趣意について。
 論旨は窃盗の事実につき証拠の取捨判断乃至事実の誤認を主張するもので適法の
上告理由とならない。また強制拷問の主張についてはそれが判決に影響を及ぼさな
いものであること弁護人の論旨第二点において説明したとおりである。
 なお記録を調査するも本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められな
い。
 よつて刑訴四〇八条、一八一条により主文のとおり判決する。
 この判決は弁護人宗宮信次の上告趣意第一点に対する栗山裁判官の少数意見を除
き裁判官全員一致の意見である。
 裁判官栗山茂の意見は次の通りである。
 弁護人宗宮信次の上告趣意第一点について。
 私は罰条の違憲性を上告趣意で初めて主張する本論旨は、次の理由で、不適法と
して棄却さるべきものであると思料する。
 起訴状には、訴因を明示して公訴事実を記載し、且つ罰条を示して罪名を記載し
なければならないとされている。(刑訴二五六条)このことは、検察官は、被告人
の行つたところを訴因に明示したような事実として把握し、その事実が立証されれ
ば罰条として示した刑罰法規に該当するから、被告人の行つたところを裁判所に対
し、右罰条にあたる罪として処断を求めるものであることを起訴にあたり明確なら
しめ、被告人をして自己の行つたところの如何なる事実が如何なる罪として起訴さ
れたかを知らしめ、これに対する被告人の防禦権を保護しようとしたものである(
刑訴二五六条四項に罰条の記載の誤は「被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞
がない限り」公訴提起の効力に影響がないとし、又同三一二条四項に訴因又は罰条
の追加又は変更により「被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認める
ときは」被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間、公判手続を停止しな
ければならないとしているのは、このことを示すもので法は訴因又は罰条の明示に
よつて被告人に充分な防禦の手段を講ぜしめようとしていること明らかである。)
それ故、訴因と罰条とは、一応裁判所を拘束し、審理の経過につれて立証されたと
ころと訴因に明示されたところとにくいちがいが生じても、裁判所は原則として、
検察官の請求により又は職権で、訴因又は罰条の追加又は変更を許し若しくは命ず
るのでなければ(刑訴三一二条)、訴因に明示された以外の事実を認定し、又は罰
条に示めされた以外の罰条で処罰することはできないのである。この意味において、
訴因と罰条とは裁判所の審判の対象となるものということができる。そして裁判所
は、職権で訴因又は罰条の追加又は変更を命ずることができることは前記のとおり
であるけれども、それは審判の請求を受けた公訴事実の同一性を害しない限度に止
まるのであり(刑訴三一二条一項)、罰条の追加変更といつても、起訴状記裁の訴
因又は右限度で追加変更された訴因に適用すべき罰条の追加変更を命ずるに過ぎな
い。そして右罰条の追加変更を命ずるためには、裁判所は職権により罰条を調査し
なければならないが、それとても、起訴状に記載された罰条が起訴状の訴因又は右
限度で追加変更された訴因に適応しなくなつたか否かを調査して、これに適応する
罰条を選定するに止まり、その罰条が、憲法に適合するか否を調査するものではな
い。故に罰条の憲法適否は、当事者から違憲の主張のない限りは裁判所の職権調査
の範囲に属しないと解すべきである。又裁判所が犯罪事実を認定し自ら罰条を適用
する場合でも、その罰条が既に最高裁判所で違憲と判断されたものでない限り、当
事者から主張がないのにその罰条の憲法適否を判断すべきものでもない。何となれ
ば、すべての法令は制定と同時に合憲の強い推定を受け、(Bouvierの法律
辞典でも、「法律の合憲性については常に推定か存在する。その反対を主張する当
事者は明に立証しなければならない」と言つているように合憲性の推定はアメリカ
では通説である。)これが訴訟において争われ最高裁判所で違憲と判断されるまで
は、合憲な法令として、行政府並に一般国民のみならず裁判所をも拘束する力を有
し、裁判所も違憲の主張のない限りはこれを合憲のものとして、これに従わなけれ
ばならないのであつて、およそ憲法に適合しているか否かわからないような、あい
まいな法令によつて起訴されたり又は治者も被治者も支配されるというような考え
方は、法の支配の根本精神に反するからである。そして検察官は合憲のものとして
罰条を示し、これによつて処罰を求めているのは当然であるし、被告人も防禦方法
として、その違憲性を争わないのに、職権で罰条の憲法適否を判断するのは、審判
の対象の範囲を逸脱するもので、違憲法令審査権の濫用である。この理は控訴審に
おいても同様である。なる程、控訴裁判所は控訴趣意書に包含されない事項であつ
ても、刑訴三七七条乃至三八三条に規定する事由に関しては、職権で調査すること
ができるけれども(刑訴三九二条二項)、それは第一審裁判所が前記審判の対象の
範囲内でした、第一審判決に関連し、第一審の審判に刑訴三七七条乃至三八三条に
規定する事由があるか否かを調査し判断することができることを示したもので、第
一審で被告人が罰条の違憲性について主張していない以上、右憲法適否の点は第一
審裁判所の審判の対象の範囲外のことであること前記のとおりであつて、右罰条の
憲法適否の判断は、第一審判決には含まれていないのである。故に控訴裁判所は職
権を以つても、右罰条の憲法適否については審判権を及ぼし得ないものといわなけ
ればならない。そこで、罰条に関する法令の適用に誤があつて、その誤が判決に影
響を及ぼすこと明らかであることを理由として、控訴の申立をした場合(刑訴三八
〇条)を考えて見ると、第一審で罰条が違憲であるとの主張がしてない限り、右法
令の適用の誤とは、第一審判決がした右罰条の解釈適用の誤に帰し、その罰条の憲
法適否の判断は含まれていないのである。従つて罰条の合憲か否かは、第一審で当
事者からその違憲性の主張があつて、第一審判決がこの点について判断をした場合
に限り、刑訴三八〇条の控訴申立の理由となるのであるから、第一審判決の適用し
た罰条の違憲性を控訴審で初めて主張することは、刑訴三八〇条にも拘らず不適法
であり、又刑訴三八〇条に規定する事由は職権で調査することができるとしても、
右罰条の合憲か否かは職権でも調査し得ないのである。以上説明したように罰条の
違憲性の主張は、訴訟の早い段階で主張さるべきもので、控訴審で初めてその主張
をするのは時期に遅れたものといわなければならない。しかし控訴審でも訴因又は
罰条の追加又は変更ができるとすれば(刑訴四〇四条)、当事者はその際初めて控
訴審で罰条の違憲性を主張することができると解してもよかろう。しかし本件にお
いては、第一審では勿論、控訴審ですら罰条が違憲であるとの主張はされていない
のである。従つて、原審控訴判決は、当事者の主張によつても又職権によつても、
罰条が憲法に適合するか否かは判断していないのであり、従つて右罰条に関しては
憲法の解釈は何等していないのである。それ故当審で被告人が初めて右罰条が違憲
であると主張しても、それは刑訴四〇五条にいう、高等裁判所がした判決に対し憲
法の解釈に誤があることを主張するものには当らないこと明らであつて、かかる上
告趣意は不適法として排斥さるべきものなのである。(なお刑訴四〇五条に「憲法
の違反があること」とは高等裁判所の審判の手続が憲法に反する場合であつて以上
の説明はこの場合に関するものではない。)
 そもそも、司法権の発動として法律上の争訟を裁判する(裁判所法三条)とは、
審判の対象即ち争訟となつていない事項には審判権を及ぼし得ないということであ
る。つまり司法裁判所は、現実の争となつていない事項について抽象的に判断した
り意見を述べたりできないのである。このことはさきに昭和二七年一〇月七日言渡
した当裁判所昭和二七年(マ)第二三号日本国憲法に違反する行政処分取消請求事
件について当裁判所も「我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を
予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的
な判断を下すごとき権限を行いうるものではない」と判示しているのである。而し
てこの理は事件それ自体が何等具体的争訟を含んでいない場合であると、争訟事件
を処理するに当つて或る事項がその事件の審判の対象たる争訟となつていない場合
とにより変りはないのである。さればもともと合憲として制定された罰条に当事者
から何等違憲の主張もないのに裁判所が職権でその合憲性の調査判断をするのは、
傍論としてはとにかく(しかし本件多数意見は傍論として判断を示しているとはい
えない。傍論は既判力を生じないから傍論としてならば本論旨を不適法として排斥
した上で示すべきであるからである。)争訟がない事項を審判の対象として、それ
に抽象的に判断を加えるということに帰するのであつて、多数意見は前記当裁判所
の判例とも自ら矛盾するものと言わざるをえない。私はさきに同趣旨の意見を大法
廷判決において(昭和二五年(あ)一五四五号同二六年七月一日言渡。判例集五巻
八号一四二一頁以下)述べたのであるが、この問題は違憲法令審査権の根本に通ず
るものであつて且裁判所は軽々に職横で法条が合憲か違憲かなどと調査すべきもの
でないと思うので、この機会に重ねて詳しく述べたのである。
  昭和二八年三月一八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎

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