弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 論旨第三点は、原判決に理由齟齬の違法があると主張するが、原審は、上告人が
被上告人のかねて疑惑不快の念を抱いて居たD(被上告人方の元雇人)と昭和二四
年五月頃以降久しきに亘つてその居を共にし被上告人方に帰来しない所為は、被上
告人に対する関係に於て所謂不貞行為又は悪意の遺棄行為に該当しない場合であつ
ても、少くとも婚姻生活の円満、維持に心すべき妻の所為として甚だ穏当を欠くも
であり、これら上告人の所為は被上告人の所為と共に民法七七〇条一項五号に所謂
婚姻を継続し難い重大な事由のある場合に該るとの趣意を判示して居るのであつて、
所論の点につき所論違法はない。
 その余の論旨は、民法七七〇条一項五号に関する原審の解釈適用を論難するもの
であるが、元来婚姻生活破綻の経緯は概ね極めて微妙複雑であり、故意過失その他
責任の所在を当事者の一方のみに断定し得ない場合等の存することは何人もこれを
否定し得ないところであつて、右七七〇条一項五号に所謂「重大な事由」もこれを
必ずしも当事者双方又は一方の有責事由に限ると解する必要はないのである。そし
て今これを本件について観ると、原審は所論のように婚姻継続を困難乃至不能なら
しめる事由が上告人のみに存する旨を認定判断して居るものではなく、上告人の前
記所為を始め被上告人の所為等に照せばそれが上告人、被上告人の双方に存すると
なして居るものであることを原判決の行文から容易に看取し得られるのみならず、
原審認定に係る事実関係の下に於ては原審の右判断の相当であることを肯認するに
足り、論旨第六点、第八点等掲記の諸事情を斟酌してもこれを条理、公序良俗に違
背するものと為すに足りない。
 論旨はなお、憲法一四条の精神を云々するが、原審は前記のとおり婚姻を継続し
難い重大な事由が上告人、被上告人の双方に存する旨を認定判断して居るものであ
るから、これを上告人のみに存する旨認定判断したものとする所論はその前提に於
て既に失当であり、又論旨第一点掲記の当裁判所昭和二七年六月一七日判決は本件
に適切でなく、その余の主張はすべて原判決に影響を及ぼすことの明かな法令の違
背を主張するものと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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